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2005年6月

2005年6月30日 (木)

楽して、儲ける!―未来工業・山田昭男の型破り経営論!

■ 書籍情報

楽して、儲ける!―発想と差別化でローテクでも勝てる!未来工業・山田昭男の型破り経営論!   【楽して、儲ける!―発想と差別化でローテクでも勝てる!未来工業・山田昭男の型破り経営論!】

  山田 昭男
  価格: ¥1,470 (税込)
  中経出版(2004/03)

 本書は、電設資材の世界で大きなシェアを誇る岐阜県のメーカー「未来工業」を一代で育て上げたカリスマ経営者、山田昭男氏が、そのユニークな持論を語ったものです。
 後発メーカーとして(と言うより、六畳二間の借家の土間にコンクリを打って細々とはじめた零細企業から)、当時圧倒的なシェアを誇っていた「世界のナショナル(松下電工)」に食いついて行くために、山田氏がやったことは、考えて考え抜くことでした。「未来工業は、よそと同じもんはつくらん。」と決めて、ジョイントボックスの木ネジを留める穴に脱落防止用のギザギザをつけたり、仮止め用の穴を開けたり、といった現場で使いやすい一工夫も二工夫も凝らした製品をぶつけていったのです。ほかにも、通常2つしか付いていないスライドボックスのネジ穴を4つに増やしたり、通常より長いビスをつけたり、泥除けと金属探知機用のアルミ箔のテープを張ったりと、現場のお客さんに喜んでもらえるものならばコストをかけてでもたくさん売れる、と「日本ではじめて」を謳い文句にした商品を次々に開発していきました。未来工場の社内のいたるところに貼り出されている「常に考える」を商品で体現していった結果が現在のシェアを支えているのです。
 そして、未来工業のユニークな経営は商品だけではなく、とにかく社員をたくさん休ませる、そして残業させない、という点もユニークです。これも、社員の稼働時間が強さなのではなく、「常に考える」こと、社員のやる気こそが未来工業の強さだからとも言うことができます。「社長の仕事は社員の不満を消すこと」と言って、制服や作業服を廃止し、飛び石連休(木土日・土日火)になるときには間の金や月もあわせて4連休にし、仕事は4時45分で終了、給料は地域で一番の水準、年末年始は19連休にしてしまいました。通常の経営者ならば、「低賃金で長時間働かせた方がトク」と考えがちなところを、社員のやる気(やる木)という未来工業の競争力の源に投資を惜しみません。その結果、休みを増やして残業時間を減らして、同時に増収増益を実現してきました。
 長時間働くことが仕事だと思っている人には、「痛恨の一撃」になる本です。


■ 個人的な視点から

 著者は、多くの企業経営者が「低賃金で長時間働かせた方がトク」と考えていると述べていますが、「長時間働くことが仕事をすること」と考えているのは経営者だけでなく社員の方でもあるのではないのでしょうか。経営者の側から見れば、社員が長時間働くことはコスト以外の何物でもありません。残業や休日出勤をすれば割り増しを払わなければなりませんし、光熱費もかかります。社員の方は長時間仕事をすればするだけ貢献していると思っていますが、職場にいればいるだけコストがかかるのです。
 だから、休日を増やし残業をさせず社員の働く時間を短くするという未来工業のやり方は、社員のやる気を引き出す策であると同時にコスト削減策でもあるのです。
 ただし、働く時間が少なくなったからといって、成果も少なくて良いというものではありません。未来工業では、年末の忙しい時期に全社員が社員旅行で海外旅行に行き、月に16日も休みにとることになったとき、「ピタッと休んで、残りの日でお客さんに迷惑をかけずにすむ方法を考えろ」という難題を社員に考えさせました。通常の会社ならば、交代で留守番をする、という方法をとると思いますが、山田社長がそんな平凡なことを許すはずがありません。そこで社員が考え出した方法が、全てのお客さんに倉庫のカギを預けるという方法でした。
 これは、「16日間休む」という制約にコミットすることができたので生まれたイノベーションです。1日2日休みを増やすだけであれば、これまでの延長線上の改善や運用の工夫で乗り切れますが、月の半分休むことになればシステムを一から全て見直さなければなりません。そして、そこにイノベーションが生まれるのです。
 昨日の『吉野家の経済学』でも、400円の牛丼を280円に値下げするためにシステムを一から見直していましたが、連続的な改善ではなく、不連続なイノベーションを生むためには、休暇の日数や価格など、今のやり方のままでは不可能な数字にコミットすることが必要になります。
 役所でも、総労働時間の削減や、予算の削減、定員の削減などに取り組んでいますが、去年の数字を5%減らす、1割減らす、という漸減的な発想ではイノベーションは生まれません。残業は全くさせない、半分の予算、半分の人員で同じ成果を出す、などのような不連続な数値目標にコミットしないとイノベーションは生まれないのかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・楽して儲けるのが好きな人。
・植木等


■ 関連しそうな本

 安部 修仁, 伊藤 元重 『吉野家の経済学』 2005年06月29日
 C.I.バーナード (著), 山本 安次郎 (翻訳) 『新訳 経営者の役割』 2005年03月29日
 ハーバート・A. サイモン (著), 松田 武彦, 二村 敏子, 高柳 暁 (翻訳) 『経営行動―経営組織における意思決定プロセスの研究』 2005年04月14日
 高橋 伸夫 『経営の再生[新版]―戦略の時代・組織の時代』 2005年06月10日


■ 百夜百マンガ

魁!!クロマティ高校【魁!!クロマティ高校 】

 映画化に当たって、元巨人のクロマティが「勝手に名前を使うな!」と怒っているそうですが、怒るとしたら池上遼一の方ではないかと・・・。なにしろ、出てくるキャラの顔からアングルからポーズまで、池上作品をコラージュして作ったかのような作品です。
 クレームの件についても聞き流すのだと思うのですが、しれっと『魁!!シロマティ高校』かなんかに変更してギャグにしちゃいそうなところも「進ぬ電波少年」みたいでありえない話ではないでしょう。
 クロマティと言えば、15年ほど前のペナントレース優勝のときに、クロマティがベンチから一人外野に走ってきてスタンドと一緒に万歳をしたのが懐かしいです。野球ファンではないのですが、麻雀しながら徹夜で並んでスタンドでビール飲むのがイベントとして楽しかったです。

2005年6月29日 (水)

吉野家の経済学

■ 書籍情報

吉野家の経済学   【吉野家の経済学】

  安部 修仁, 伊藤 元重
  価格: ¥630 (税込)
  日本経済新聞社(2002/01)

 本書は、アルバイトから倒産・再建を潜り抜けて社長になった立志伝中の人、吉野家の安部修仁氏に、「ワールド・ビジネス・サテライト」でお馴染みの経済学者、伊藤元重氏が3日間にわたるインタビューを行い、吉野家を支えるロジスティックスの進化と食材と人材、そして倒産からの軌跡の復活劇について聴き出したものです。
 日本中を驚かせた「250円セール」フィーバーによる破綻と、その教訓を活かした280円という価格設定に向けたロジスティックスから店舗運営までの全面的な見直しのエピソードは興味深いものでした。2001年4月の250円セールで3倍に増えた客数に対応できず、タレが濁り、米もきちんと浸水できず、ロジが破綻して店に食材や弁当の容器が届かず、店を閉めなければならない店舗が出たり、常務までが工場に集まって不眠不休で肉のスライス作業をするという大混乱が起きました。
 しかし、この「敗戦」をきっかけにして、ロジの徹底見直しを行い、配送車への積み込みも変え、それまでの品目別収納からコンビニで行われているような店別収納に変更、店の構造も配送社からラックごと冷蔵庫に収納できるように変更しています。また、マニュアル化の弊害が出ていた店舗の運営も見直し、スキルアップやルーティンワークのスケジュール変更などによって、サービスクオリティを向上させています。
 これによって、人時売上5500円を割り込むという生産性の低下を克服しています。つまり、価格を10円、20円下げるという、既存のシステム上での「改善」によって対応できるものではなく、一気に120円下げることによって、意識から食材から店舗まで全てのシステムを「改革」することに成功しているのです。「値段を変えるというのは、会社を変えることだ」という安部氏の言葉は、「280円体制」を確立することで実証されているのです。


■ 個人的な視点から

 現在、米国産牛肉の輸入停止により、大変なピンチに陥っている吉野家ですが、過去にも同じような「輸入牛肉ショック」を受けて経営危機に立たされたことがあります。1974年から1年間牛肉の輸入がストップし、その後は農林水産省の下部組織である「畜産振興事業団」を通じて、指定団体だけに国産牛を同じ価格水準で放出することになったときです。何やら戦時中や終戦直後の統制経済のようなお話ですが、まだ30年ほど前の話です。
 吉野家の牛丼で扱う牛肉は、「ショート・プレート」というバラ肉の部位で、ほぼ全てをアメリカから輸入していました。吉野家の取扱量が巨大なため、アメリカで「ジャパニーズ・カット」と言えば吉野家スペックを指すほどだそうです。
 吉野家が1980年に一度倒産したときには、上記の牛肉輸入規制をくぐるために、牛肉をフリーズドライに加工して輸入し、タレもコスト削減のために粉末化し、お新香も冷凍、米も一番低スペックのものにしていました。このため明らかに味が落ち、しかも牛肉の価格高騰や金融引き締めのために値上げをしたために一気に客が離れたと言います。現在、吉野家が米国産牛肉が入手できず、牛丼を停止しているのは、他のルートでは吉野家の巨大な牛肉需要をカバーできないという理由がありますが、味に妥協してブランドを傷つけ、一度倒産したという苦い経験が生きているのではないかと思います。
 現在の吉野家は、豚丼などの多数の代替メニューを試行錯誤しながら展開していますが、吉野家の強さの秘密は、一度倒産してから全てを見直して復活したという経験に基づいた組織力の強さにあるのではないかと思います。その意味では、吉野家の組織としてのコアの価値は、牛丼そのものではなく、牛丼を「うまく、安く、早く」提供することができる体制そのものにあるのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・ヨシギュー好きの人。


■ 関連しそうな本

 伊藤 元重 『ビジネス・エコノミクス』 2005年02月18日
 柳井 正 『一勝九敗』 2005年06月06日
 ゲイリー ハメル, C.K. プラハラード (著), 一條 和生 (翻訳) 『コア・コンピタンス経営』 2005年02月09日


■ 百夜百マンガ

和田ラヂヲのここにいます【和田ラヂヲのここにいます 】

 「FAXまんが」というジャンルを確立(?)した記念碑的作品。面白いのか、と訊かれれば、面白くない、としか説明のしようのない作品ですが、スクリーントーンやCGでゴテゴテに装飾し、読むと手が黒くなるようなマンガが多い中、

 W
 X
 Y

 ^_^

等と同じように、「マンガはこういう記号で成り立っているんだ」ということを気づかせてくれる作品です。

2005年6月28日 (火)

ビジネス交渉と意思決定―脱"あいまいさ"の戦略思考

■ 書籍情報

ビジネス交渉と意思決定―脱   【ビジネス交渉と意思決定―脱"あいまいさ"の戦略思考】

  印南 一路
  価格: ¥1,785 (税込)
  日本経済新聞社(2001/03)

 本書は、MBAのカリキュラムでは必須科目となっている「交渉論」について、基本概念から実践的な交渉術まで科学的に解説したビジネス書です。世の中には「交渉術」をうたったハウツー本はたくさん出ていますが、多くが実体験に基づく「術」のレベルの話であるのに対し、本書では、交渉当事者が状況をどのように認識しているかという認知と戦略的な論理展開の観点から交渉問題を扱っています。
 本書では交渉を、
(1)分配型交渉:固定されたパイを分割する交渉。
(2)利益交換型交渉:自分の利益の実現のため、重要でない利益を交換として相手に与えるタイプの交渉。
(3)創造的問題解決:パイ自体を大きくして自分と相手の利益を一気に解決する。
の3つの類型に分類しています。「交渉」という言葉には、固定されたパイを奪い合う(1)のタイプの交渉のイメージが付きまといますが、自らの利益と相手の利益とを正しく認識することができれば、(2)や(3)のタイプの解決方法も見つけることができます。
 著者は、交渉に関する5つの誤解として、
[誤解1]交渉は駆け引きである。
[誤解2]交渉は経験のみで十分学べる。
[誤解3]交渉は術でしかない。
[誤解4]普遍的な交渉戦略が存在する。
[誤解5]生まれつき交渉力に長けた人物がいる。
を本書の冒頭に挙げていますが、逆にこれらの5つの誤解を強調することによって、自らの交渉術を売り物にしたいビジネス本や、「交渉のプロ」としての評判を得ている人がいることも事実ではないかと思います。
 ビジネスの中で、小さなものから大きなものまで毎日様々な交渉が行われますが、本書はそれらの交渉を分析するための理論的なフレームを提供してくれます。営業や労務管理など、交渉を日々の仕事の核にしている人にとっても、自分の行っている仕事を整理して理解する助けになると思います。


■ 個人的な視点から

 本書では交渉の基本概念として、「期待・意欲度」「留保価格」「BATNA」「交渉ゾーン」の4つを解説しています。交渉に当たっては、無意識であってもこれら4つの概念を用いているのですが、意識的に理解することで交渉の状況認識が一気に高まります。
(1)期待・意欲度(Aspiration Level):交渉結果について交渉当事者が持つ期待や意欲の程度。(a)これが高いほど分配型交渉では良い結果が出る。(b)これが高すぎると相手の反発を買う危険が大きい。(c)客観的な交渉結果との比較が交渉成功の自己判断になる。(d)これ自体が認識操作の主たる対象になる。
(2)留保価格(Resaervation/Walk-Away Price):自分が受け入れられる最低レベルの価格。
(3)BATNA(Best Alternative To Non-Agreement):交渉不成立の場合に当初の目的を達成するために用意してある最良の代替手段。
(3)交渉ゾーン(Bargaining Zone):売買当事者の留保価格の差。
 これらの4つの概念を認識していれば、交渉がより合理的なものになります。本書では逆に避けるべき交渉戦術として、「ボルウェア戦術」(初めから落としドコロを提示して一切妥協しない)、「痛み分け戦術」双方が同じように不利益を被る)、「様子見戦術」(とりあえず相手の出方を見る)の3つの戦術を挙げています。
 先にあげた4つの基本概念のうち、本書で繰り返し登場するのが「BATNA」(バトゥナ)です。これは経済学の契約理論でいうところの「威嚇点」に相当するもので、自分と相手のBATNAをいかに正しく認識するかが交渉成功の鍵となります。
 また、本書ではいわゆる「交渉術」のハウツー本に登場するような「きわどい交渉テクニック」についても、上記の基本概念や認知心理学の枠組みを用いて解説しています。
・迎合的関係の形成(お世辞やプレゼント)
・ゲームズマンシップ(イライラ、テンポの変更、自信を失わせる、タフな交渉の予感)
・約束と脅し
・擬似説得的主張(同じ主張の繰り返し、一貫性のある主張、社会的証明原理の応用、個人の信用に訴える)
・感情の人質(情報収集、心理的優位、妥協誘導)
・ローボーリング(見かけ上低い価格の提示)
・ベイト・アンド・スイッチ(釣った魚には餌はやらない)
・最終通告・通牒
・チキン・ゲーム
・蒸し返し
・キッチンシンク(おとり戦術)
・グッドバイ・バッドガイ
・権限のない振り戦術
・交渉者の交代
・アジェンダ・コントロール(複数の交渉問題のうち個別の問題から片付けていこうとする)
・「拒否させて譲歩獲得」戦術(ドア・イン・ザ・フェイス戦術)
・二段階要求戦術(フット・イン・ザ・ドア戦術)
 悪徳商法などが常套手段としている、これらのきわどい戦術から自分を守ることも大切ですが、これらのきわどい戦術は、知らず知らずのうちに自分が相手に対して使っていることもしばしばあります。「交渉論なんて自分には必要ない」と思っている人も、自分が使ってしまうことを避けるためにも一読しておくと良いのではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・「交渉論なんて自分には必要ない」という人。


■ 関連しそうな本

 マックス H・ベイザーマン (著), マーガレット A・ニール (著), 奥村 哲史 『マネジャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋』
 印南 一路 『すぐれた組織の意思決定―組織をいかす戦略と政策』 2005年03月14日
 印南 一路 『すぐれた意思決定―判断と選択の心理学』
 アーノルド ピコー, エゴン フランク, ヘルムート ディートル (著), 丹沢 安治, 田川 克生, 渡辺 敏雄, 榊原 研互, 小山 明宏, 宮城 徹 (翻訳) 『新制度派経済学による組織入門―市場・組織・組織間関係へのアプローチ』
 ポール・ミルグロム, ジョン・ロバーツ (著), 奥野 正寛, 伊藤 秀史, 今井 晴雄, 八木 甫(翻訳) 『組織の経済学』 2005年01月24日


■ 百夜百マンガ

スカルマン【スカルマン 】

 『炎の転校生』や『逆境ナイン』で有名な作者が、師匠である石ノ森章太郎から指名されて引き継いだという作品です。仮面をつけたヒーローや人間と動物が合成された怪人など、『仮面ライダー』の基本フォーマットが既にできています。

2005年6月27日 (月)

ネットデイで学校革命!―教育改革・次世代社会の切り札

■ 書籍情報

ネットデイで学校革命!―教育改革・次世代社会の切り札   【ネットデイで学校革命!―教育改革・次世代社会の切り札】

  鈴木 敏恵
  価格: ¥2,100 (税込)
  学事出版(2000/02)

 本書は、PTAや地域ボランティアの協力で学校にインターネットをつなげよう、という「ネットデイ」というムーブメントについて、様々な関係者が登場する対談集です。初めて「ネットデイ」という言葉を聞いた人にとっては、「ネットデイって何?」というところを読んでみたいのではないかと思いますが、ネットデイの流れについては「第2章 これがネットデイだ!」で38ページほど写真入で解説されています。残りのほとんどのページは、著者とネットデイ関係者の皆さんとの対談が掲載されています。日本のネットデイ・ムーブメントの草分けの人たちのアットホームな雰囲気の鼎談(写真を見ると飲み会みたいですが)も収められており、ネットデイ関係者には必読書間違い無しです。
 ただし、ネットデイそのものについて関心があるという人、Amazonで「ネットデイ」というキーワードで検索して本書にたどり着き、「学校の情報化、未来化、オープン化の決定打・ネットデイ成功ノウハウや学校の未来化についてまとめる。」というレビューを読んで注文した人にとっては、ノウハウがまとまっているとは言いがたく、対談を読みこなさなければならないので注意が必要です(金返せ、と言うほどではないですが)。
 ネットデイに関する情報が少ない中、対談に含まれる情報も日本では貴重な情報ですが、ぜひ一度書店や図書館で手にとってから注文されることをお奨めします。


■ 個人的な視点から

 一昨年の11月、千葉県館山市の北条小学校でネットデイが行われました。北条小の特徴は、ネットデイが行われた後もアフター・ネットデイとして地域のボランティアの力で企業から寄付を受けた第2パソコン室を作るなどの活動を続けていることです。
 昨年9月には、第2パソコン室でのパソコン教室があるというので、取材を兼ねて私も参加してきました。そのときに感じたことは、学校経営の一環としての校長先生のリーダーシップが重要であること、ネットデイ以前から脈々と築いてきた地域住民との協力関係がベースにある、ということです。

北条小学校「ネットデイ」

館山市立北条小学校の「アフターネットデイ」


■ どんな人にオススメ?

・ネットデイ関係者の人。


■ 関連しそうな本

 Eジャパン協議会 (編集) 『eコミュニティが変える日本の未来―地域活性化とNPO』 2005/05/16
 藤原 和博 『公立校の逆襲 いい学校を作る!』 2005年06月17日
 金子 郁容 (編著), 玉村 雅敏, 久保 裕也, 木幡 敬史(著) 『学校評価―情報共有のデザインとツール』 2005年02月25日


■ 百夜百マンガ

砲神エグザクソン【砲神エグザクソン 】

 この夏、映画「宇宙戦争」のリメークが上映されますが、この作品も宇宙からの侵略者との戦いを描いたものです。
 『空想科学読本』以来、巨大ロボットはありえない、という話が主流になり、実物大スコープドッグ(GWに見に行きたかった・・・。)も良いのですが、重力制御でめちゃくちゃ巨大なエグザクソンもやっぱりカッコいいです。

2005年6月26日 (日)

経済ってそういうことだったのか会議

■ 書籍情報

経済ってそういうことだったのか会議   【経済ってそういうことだったのか会議】

  佐藤 雅彦, 竹中 平蔵
  価格: ¥1,575 (税込)
  日本経済新聞社(2000/04)

 本書は、今や内閣府特命担当大臣になってしまったヤワラちゃんこと竹中平蔵氏に、「だんご3兄弟」で有名なクリエーター佐藤雅彦氏が素朴な質問をする形で進行する経済の解説書です。「経済学」と言うと、何やらお金の計算ばかりしているというイメージを持つ方もいるかもしれませんし、大学で単位をとった人にとっては需要やら供給やらのグラフや数式を思い浮かべるかもしれません。また、「経済学者」というイメージは、まさにそういう分かりにくいことをしている人たちというイメージなのではないでしょうか。
 しかし、本書では、経済学(エコノミクス)をその語源、すなわち「共同体のあり方」という意味である「オイコノミコス」というギリシャ語から説明を始めています。佐藤氏はこの「共同体のあり方」という言葉に深い衝撃を覚え(本人の別の著書から言葉を借りれば「クラクラ」という感覚に陥ったのでしょうか)、経済の仕組みとは、世の中全体がうまくいくように祖先が考え出したものなんだ、と給に経済学に関心を持ち始め、竹中氏に経済に関する素朴な質問をぶつける「会議」を始めます。
 「お金」とは何か、「株」とは何か、「投資と消費」とは何か・・・。テーマだけ挙げると普通の経済学の教科書みたいですが、貨幣は牛乳瓶のフタの話に喩えてみたり、東インド会社の話から株式会社を説明してみたりと、身近ゆえに本質的な解説がされています。要所要所に出てくる佐藤氏手書きの「竹中語録」がポイントです。
 文庫版も出ていますので気楽に読むことができます。


■ 個人的な視点から

 聞きなれた「株式」という言葉が「株」式だということに、言われてみれば!という衝撃を受けました。言ってみれば、「様式」「和式」「アミノ式」「ねじ式」とかと同じような用法での「式」なんですね。
 竹中氏のお話は、今年3月の「スーパー公務員養成塾」で聞く機会がありましたが、柔和な顔に鋭い突っ込み、そして卓越したコミュニケーション能力に感激しました。


■ どんな人にオススメ?

・「共同体のあり方」を一緒に考えたい人。


■ 関連しそうな本

 佐藤 雅彦, 竹中 平蔵 『経済ってそういうことだったのか会議 日経ビジネス人文庫』
 佐藤 雅彦 『佐藤雅彦全仕事』 | 2005年05月07日
 慶応義塾大学佐藤雅彦研究室, 佐藤 雅彦 『日本のスイッチ』
 竹中平蔵 『竹中平蔵の特別授業―きょうからあなたは「経済担当補佐官」』


■ 百夜百音

PSYCHO-DELICIOUS【PSYCHO-DELICIOUS】 PINK オリジナル盤発売: 1987

 伝説のミュージシャン集団「PINK」のアルバムです。それぞれがピンで活躍できる(実際に活躍してます。)個性的なミュージシャンがぶつかり合うサウンドは当時はあまり理解されなかった?
 このアルバムは3枚目ですが、方向性の違いが出始めた頃ではないかと思います。
 ヴィブラトーンズは福岡つながりということで。


『Mid‐night Piani』

2005年6月25日 (土)

書くためのパソコン

■ 書籍情報

書くためのパソコン   【書くためのパソコン】

  中野 明
  価格: ¥693 (税込)
  PHP研究所(2000/05)

 本書は、文章を書くための道具としてのパソコンの使い方、の解説書です。人間との接点であるキーボードへのこだわりから、なんとなく使っている人の多い日本語入力システム(FEP/IME)、エディタやアウトラインプロセッサなどの「通」なソフトの使いこなし方、電子辞書・電子百科事典・インターネットなどでの情報収集方法など、パソコンで文章を書くための基本的な「作法」が、パソコンを使って文章を書く専門家である著者自身のライターとしてのノウハウをベースに語られています。
 キーボードに対するこだわりは、キーのストロークの深さや重さにこだわり、サイズなど様々な条件を比較し、とにかく一度いくつかのキーボードを叩いて比較してみたくなります。
 エディタやアウトラインプロセッサの使い方の説明は、この部分こそがテクニック的な「書くためのパソコン」のコアの部分です。エディタで文章を書き始める人もいれば、アウトラインプロセッサで構想を練りながら文章を組み立てる人もいますが、これらのテクニック(というよりもソフトの存在)を知らずにパソコンで文章を書いている人は、もしかしたら相当のロスをしているかもしれません。「パソコンで文章を書く」と言うと、いきなりMS-Wordなどのワープロソフトを立ち上げて「印刷レイアウト」の画面とにらめっこを始めてしまう人がいます。そういう人に限って、「CPUが遅い」「パソコンが古い」とイライラして文句ばかり言っていたりします。まるで、小論文の試験でいきなり原稿用紙に書き始めるようなものです。一度エディタやアウトラインプロセッサを使ってみると、仕事の能率も上がり、イライラすることも減るのではないでしょうか。
 仕事としてパソコンを使って文章(レポートの作成などを含む)ことで給料をもらっている人は、一度本書を読んでおくと、今までの文章の書き方がいかに無駄だらけだったかに気づくきっかけになると思います。


■ 個人的な視点から

 料理人は包丁にこだわり、小説家は万年筆にこだわる、と言いますが、パソコンを使って文章を作ることを仕事にしている人は何にこだわれば良いのでしょうか。常に最新のパソコンを使うことでしょうか。もちろん、画像処理など、パソコンで行う作業の内容によっては、最新のパソコンを使うことで大きく能率の上がる仕事もありますが、多くの人にとって、最新のパソコンと7~8年前のパソコンとで、仕事の能率は大きく変わらないのではないかと思います。CPUの性能が2倍になったからと言って、2倍の量の文章を書くことはできないのです。
 それよりも大事なのは、人間の肉体とコンピュータとのインターフェースであるキーボードです。キーボードの打ちやすさや形状によって仕事の能率は大きく変わり、疲れ方もまるで違います。私は職場ではノートPCを使っていますが、キーボードは自分の外付けキーボードを使っています。こうすると、モニター画面との距離を1mほどとることができて目が疲れませんし、自然な姿勢で打つことができるので肩も凝りません(一日中ノートパソコンにかじりついてキーボードを打つなんて人間業じゃありません。)。また、私の使っているIBMのスペースセーバーキーボードは、Thinkpadのようにキーボードの中に赤いトラックポイントがマウス代わりについているので、手首の位置を動かさずにカーソルの操作ができるのも楽チンです。職場には他に、ファンクションキーなどの余分なキーを全て省いて小型化した「Happy Hacking Keyboard」という非常に使いやすいキーボードを愛用している人もいます。
 ノートパソコンのキーボードは交換できませんが、外付けキーボードはPCを交換してもなれたものを使い続けることができます。秋葉原にはキーボードの専門店もありますので、一度何十種類ものキーボードを比較してみませんか?

「クレバリー2号店 」


■ どんな人にオススメ?

・仕事でワープロソフトを使っている人。


■ 関連しそうな本

 梅棹 忠夫 (著) 『知的生産の技術』 2005年05月05日
 中野 不二男 『メモの技術―パソコンで「知的生産」』
 川喜田 二郎 『発想法―創造性開発のために』
 板坂 元 『考える技術・書く技術』

■ 関連しそうなキーボード

 Lenovo 『USBスペースセーバーキーボード』
 PFU 『Happy Hacking Keyboard』


■ 百夜百音

ポンキッキーズ・メロディ【ポンキッキーズ・メロディ】 V.A. オリジナル盤発売: 1995

 今では土曜の朝6時からの30分番組になってしまったポンキッキーズですが、一時は平日毎朝1時間放送していました(こんなところにも少子化の影響が・・・?)。当時の勢いをそのまま伝えているのがこのアルバムです。電気グルーヴ、山下達郎、渡辺貞夫、矢野顕子らのビッグネームが集結。「2.歩いて帰ろう(斉藤和義)」は、朝のカーステでかけると元気が出ます(「帰ろう」って歌なんですが。)。
 学生時代は、朝に「ウゴウゴルーガ」と「ポンキッキーズ」を観てから寝る、というのが毎日の生活パターンでしたが、銀行の窓口が開いている時間に起きられないので苦労しました。
 ポンキッキーズの司会を、アムロと蘭々とピエールとMCボーズの4人で交代で担当していたのに、いつのまにか蘭々&ボーズばかりが司会をしていました。


『一寸桃金太郎』一寸桃金太郎

2005年6月24日 (金)

日本企業の人事改革―人事データによる成果主義の検証

■ 書籍情報

日本企業の人事改革―人事データによる成果主義の検証   【日本企業の人事改革―人事データによる成果主義の検証】

  都留 康, 阿部 正浩, 久保 克行
  価格: ¥3,360 (税込)
  東洋経済新報社(2005/03)

 本書は、「人事の経済学」をベースに、
(1)従業員個々人の人事データ
(2)従業員意識調査データ
(3)人事部門への聞き取り調査
の3種類のデータによって1990年代の日本企業における人事制度改革の効果をミクロレベルから検証することを目的としたものです。
 「人事の経済学」とは、「契約理論の理論枠組みや計量経済学の実証手法を用いながら、企業内の人事管理に関する諸問題の分析を行おうとする潮流」と説明されており、代表的な文献としては、ラジアーの『人事と組織の経済学』や樋口美雄の『人事経済学』、ミルグロム=ロバーツの『組織の経済学』などを挙げることができます。
 第1章で人事経済学の先行研究を、第2章で日本企業の人事制度の変遷の概説を行った後、本書の特色である、人事データ、意識データ、ヒアリングの3種のデータの分析に入ります。「第6章 人事制度改革は従業員にどう影響したか」では、『組織の経済学』第7章の確実同値額(不確実な所得と確実の所得ないずれかを選ぶとき、選択する人にとって両者の選択がちょうど無差別になる場合の確実な所得額(訳書p.663))の数式を用いて、従業員意識調査データの検証を行い、インセンティブとリスクのバランスの重要性などを指摘しています。
 本書で採られたようなミクロデータからのアプローチは、今後、様々な研究が世に出てくることが予想されますが、とかく教条的でプリミティブな議論になりがちな日本企業の「成果主義」に関する文献が多い中で、現時点では理論と実証のバランスがよく取れた文献の一つではないかと考えられます。


■ 個人的な視点から

 日本企業の「成果主義」に関する議論は、昨年、『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』と『虚妄の成果主義』の2冊のベストセラーをきっかけに盛り上がりましたが、センセーショナルな報道とあいまって、「成果主義叩き」的な世論が形成されてしまいました。
 一方で、経済財政諮問会議や経団連の報告書で公務員、特に地方公務員の給与水準の高さが指摘されたことがあり、「公務員にも成果主義賃金を適用せよ」という声も大きくなっています。
 しかし、どちらも感情に直接訴えかける部分があり、「All or Not」の教条的な議論になりがちです。本書は、人事制度改革や成果主義に関する冷静な議論の下敷きになりうるのではないかと思いますが、学術書なので予備知識無しではかなり敷居が高いのも事実です。本書を下敷きにした一般書の登場も期待されます。


■ どんな人にオススメ?

・『組織の経済学』を事前に読んでいると理解しやすいと思います。


■ 関連しそうな本

 ポール・ミルグロム, ジョン・ロバーツ (著), 奥野 正寛, 伊藤 秀史, 今井 晴雄, 八木 甫(翻訳) 『組織の経済学』 2005年01月24日
 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』 2005年04月05日
 八代 尚宏 『日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済』 2005年03月23日
 樋口 美雄 『人事経済学』
 城 繁幸 『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』


■ 百夜百マンガ

ドラえもん (15)【ドラえもん (15) 】

 名作「どくさいスイッチ」が収録されています。自分以外の全ての人間を「消して」しまった世界でお店から好きなものを集めてくるのび太の姿は、SF短編の「流血鬼」を思い出させます。
 第24巻の「めだちライトで人気者」で再会することになるアイドルの星野スミレ(パー子)と初めて会うのが「オールマイティーパス」です。また、第12巻の「タマシイム・マシン」と基本的に同じアイデアの「人生やりなおし機」ですが、こちらの方が辛らつな内容になっています。
 「ネコが会社を作ったよ」では、弱者をドラえもんが助けてあげるのでなく、それぞれの能力を活かして生きて行くことの手助けをする、という感じで良い読後感が残ります。他にも、「階級ワッペン」や「ポータブル国会」など社会派の作品が多いのが特徴です。
 巻末の「あやとり世界」は筒井康隆的なパラレルワールド感と落語テイストな落ちが楽しめます。

2005年6月23日 (木)

情報と政治

■ 書籍情報

情報と政治   【情報と政治】

  高瀬 淳一
  価格: ¥2,940 (税込)
  新評論(1999/06)

 本書は、米国の事例、特に大統領選挙に関する研究を中心に、政治に対するマスメディアによる報道の影響を解説した「テレビ・デモクラシー」研究の概説書です。
 「メディア・イベント」として選挙を捉えたときに、重要となるのは「競技」「制覇」「戴冠」の3つの構成要素です。そして、日本における近年の選挙報道は、候補者個人に関するもののが減少した代わりに、政党のリーダーの発言・動静がクローズアップされるようになっています。また、開票情報はニュース・ショー化が著しくなっていて、「ニュース・ショー」の文化特性としては、(1)映像化、(2)即時化、(3)人物化があることが述べています。
 また、マスメディアの長期的影響としてのシニシズムの蔓延に関しては、マスメディアはプロの政治家を「党利党略や私利私欲のためならば公約破りの嘘までつく存在」としてイメージ化する傾向があり、米国では政治報道における過剰な「ゲーム・スキーマ」がこの傾向を後押ししています。「冷笑の螺旋」理論によれば、戦略的対決というニュースのフレームが否定的な性格付けを招き、シニシズムと政治不信につながる、という説明がされています。
 政治運営の手段としての情報提供に関しては、議会対策としての世論の動員という手法が一般化し、「サウンドバイト政治」と呼ばれるテレビニュースに取り上げられやすい短いセリフを多用した政治手法が解説されています。
 私たちが政治に関する情報を最も多く入手するソースがマスメディアです。本書は、メディアを通じた政治情報の噛みこなすためのメディアリテラシーを身につける上で、有用な参考書になると考えられます。


■ 個人的な視点から

 「メディア・リテラシー」や「有権者教育」と言うと、情報の受け手である消費者や有権者がどのように情報を受け取るべきか、という受動的なイメージや啓蒙主義的なイメージがありますが、本書のような「情報の送り手側が何を考えているか」を学ぶことがメディア・リテラシーを身につける近道なのではないかと思います。
 テレビニュースでキャッチフレーズとして面白おかしく取り上げられる政治家の一言一言が、どのような計算や意図に基づいているのか、また意図していない受け止められ方をしているのか、ということを考えながらテレビニュースや新聞を読むと面白いのではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・メディア・リテラシーを身につけたい人。
・キャッチフレーズを多用した「サウンド・バイト政治」には踊らされたくない人。


■ 関連しそうな本

 横江 公美 『判断力はどうすれば身につくのか―アメリカの有権者教育レポート』
 横江 公美 『Eポリティックス』 2005年02月11日
 岩崎 正洋 (編) 『サイバーポリティクス―IT社会の政治学』 2005年04月09日
 岩崎正洋(編) 『eデモクラシー』 2005年05月02日


■ 百夜百マンガ

ドラえもん (14)【ドラえもん (14) 】

 「からだの皮をはぐ話」ではF先生の得意な同アングル一人芝居を7コマ続けてジャイアンが好演しています。落語を観ているようなジャイアンの喜怒哀楽の七変化は必見です。
 「人食いハウス」はSF(少し不思議)テイスト溢れる作品で、炎天下の「シ~ン」には乾いた冷たさがあります。
 10年の時を描いた「無人島へ家出」では、のび太は成人してしまうわけですが、タイムふろしきで10歳の体に戻ったとは言え、人間的な成長は無かったのでしょうか。
 「ラジコン大海戦」に登場するいとこの大学生「スネ吉にいさん」はワンポイントキャラなのですがいい味を出しています。

2005年6月22日 (水)

ハーバード・ケネディスクールでは、何をどう教えているか

■ 書籍情報

ハーバード・ケネディスクールでは、何をどう教えているか   【ハーバード・ケネディスクールでは、何をどう教えているか】

  杉村 太郎, 細田 健一, 丸田 昭輝
  価格: ¥1,680 (税込)
  英治出版(2004/12)

 本書は、リーダー養成機関としては世界最高峰のプロフェッショナルスクールであるハーバード大のケネディスクールにおける講義及びそこでの生活から学べるもの全てを、同校の卒業生である執筆者自身の経験に基づいて紹介しているものです。ケネディスクールは、ハーバード大にあるいくつかのプロフェッショナルスクール(専門職業人養成大学院)の一つとして、MPA(Master in Public Administration)という学位を与えている公共政策大学院です。
 同校が単なる教育機関と異なる点は、
・パブリックセクターにおけるリーダーシップ育成(パブリックセクターで新たな価値を生み出す)
・学際性(ビジネススクールに近い幅広い知見)
・理論と実践の融合(教員・学生らの意図的なインタラクションと最新のケース・実務経験のある教員)
の3点を特に強調している点です。なお、ここで言う「リーダー」とは、政治家や公務員だけではなく非営利セクターの職員やコンサルタントなど公共政策に関わるあらゆる分野のリーダーが含まれていて、本書の執筆者も公務員からビジネスマンや政治家の秘書など様々なバックボーンを持っています。
 ケネディスクールでは、次世代の公共部門のリーダーに必要な能力として、
(1)人間集団を引っ張る能力
(2)組織管理運営能力
(3)分析能力
の3つの能力に整理し、コースの体系もそれに従ったものになっています。すなわち、
(1)人間集団を引っ張る能力:リーダーシップ論、コミュニケーション論、交渉術など
(2)組織管理運営能力:戦略的行政経営論、人的資源管理損、ソーシャルマーケティング論など
(3)分析能力:数的分析論、経済分析論など
という体系です。
 本書の構成は、2003年前後に同校を卒業した15人の執筆者が、
・交渉力
・リーダーシップ力
・マネジメント力
・分析力
・政策企画力
のそれぞれの分野に関して、代表的な科目を紹介しています。紹介される内容は、講義の概観や背景などを客観的に説明しているものもあれば、膨大な課題に忙殺された経験やディスカッションでコテンパンにされた経験などかなり主観的な、そしてリアリティのある伝え方をしているものもありますが、ケネディスクールにおける講義の魅力をできるだけ伝えようとする執筆者の熱意が感じられるものです。
 また、各講義を担当された教員へのインタビューが併せて掲載されていることも本書の魅力です。政治学や経済学の世界でのトップ研究者の生の声が聴けるのは貴重です。
 本書は、これからケネディスクールをはじめとする公共政策大学院に進学したいと考えている人はもちろん、パブリックセクターにおけるリーダーのあり方や、パブリックな問題への関わり方を考えている多くの人にとっても有用なものではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書では、ケネディスクールにおける300を超える講義のうち、17の代表的な講義について紹介されていますが、個人的に受けてみたいと思ったのは、マンデル教授の「ネゴシエーション」、ハイフェッツ教授の「リーダーシップ」、ウィンストン教授の「公共の倫理」、フェルチャー教授の「公的組織のためのマーケティング」、ポーター教授の「競争力のミクロ経済学」、そしてアリソン教授の「国内・外交問題の意思決定分析」です。
 ネゴシエーションに関しては、経済学の交渉理論の分野でも理論的な分析を行っていますが、本書で紹介されている実践的な交渉術のポイントは、
・最も望ましい結果と交渉を打ち切るポイントを明確にする。
・分配されるパイの総量の最大化を考える。
・複数交渉の場合、同盟関係の構築が重要
という3点です。交渉理論では、第1点目は自分と相手の双方の「威嚇点(Threat Point)」と呼んでいます。双方にお互いの威嚇点が明らかになっている場合には、最終的に合意に至るのはその中間地点(ナッシュ交渉解)ということになるのですが、現実の交渉ではお互いに自分が交渉を打ち切る点、威嚇点をできるだけ高く見せようとします。つまりハッタリをかますわけです。
 また、相手からいかに多く獲得するか、という勝ち負けの問題ではなく、交渉の結果得ることのできる利得を最大化するために、パイそのものの最大化を図るという考え方も交渉理論と整合的です。
 本書で紹介されている「実践的な」交渉術が理論と整合性を持っていることに、「理論と実践の融合」という同校の特徴がお題目ではないことを実感しました。


■ どんな人にオススメ?

・MPAに関心がある人。
・パブリックセクターのあり方に関心のある人。


■ 関連しそうな本

 上山 信一, 梅村 雅司 『行政人材革命―"プロ"を育てる研修・大学院の戦略』 2005年04月16日
 Abhinay Muthoo 『Bargaining Theory with Applications』
 柳川 範之 『契約と組織の経済学』 2005年02月22日


■ 百夜百マンガ

ドラえもん (13)【ドラえもん (13) 】

 第13巻は、何でも大げさにみえる「オーバーオーバー」で幕を開けます。この作品中、ジャイアンがオーバーにみえて「海賊がおそってきた」と描かれている場面があるのですが、元は「土人」と描かれていたものを差し替えたものです。
 子供の頃読んだマンガや小説を今の版で読み返してみると他にも色々な発見があります。
(参考)「石ころぼうし」
http://www.fujiko-f-fujio.com/isi/isi08.html

 食人ネタつながりだと、「ジャイアンシチュー」の最後のコマで誤って「味のもとのもと」を頭からかぶってしまったジャイアンを食べたがるのび太たちの目が怖いです。
 他にも、のび太の背後の影が怖い「悪魔のパスポート」や、リメークされた映画「宇宙戦争」の立場を逆転させた「ハロー宇宙人」(SF短編集には帝国軍の一兵隊の目から描いた「スターウォーズ」もあります。)等も傑作です。

2005年6月21日 (火)

改革断行―三重県知事北川正恭の挑戦

■ 書籍情報

改革断行―三重県知事北川正恭の挑戦   【改革断行―三重県知事北川正恭の挑戦】

  ばば こういち
  価格: ¥1,575 (税込)
  ゼスト(1999/10)

 本書は、前三重県知事(現早稲田大学大学院教授)である北川正恭氏の1期目の改革について、県職員を含めた「人」に着目してドキュメンタリータッチで描いたものです。北川県政における三重県庁の改革については、すでに様々な本が出版され、論文も数多く発表されていますが、本書の特徴は、北川氏本人だけでなく、出丸NPO室長や梅田地域振興部長、大蔵省から出向していた村尾総務部長(いずれも当時)やNPO「評価みえ」の粉川氏のような個人の行動や心の動きにフォーカスしている点です。単に制度の導入などの改革実施事項についての分析になりがちな研究報告と異なり、「宇宙人」と呼ばれた新しい知事がやって来たことで、三重県庁の職員の心にどのような衝撃があり、困惑があり、そして自信を獲得することができたのか、という人間ドラマの集合体として本書を読むことができます。
 今でも三重県は自治体改革のモデルとして、様々な場面で引き合いに出されることが多くありますが、重要なことは、何をやったか、何をやればいいか、という「正答」を知ろうとすることではなく、どんな気持ちでやったか、どうやって考えたか、というそこに至るまでのプロセスではないかと思います。北川氏をはじめ、梅田氏や村尾氏は現在各地で精力的に講演されていますので、一度「改革断行」の当事者の生の声を聴く機会を持ってみてはいかがでしょうか。


■ 個人的な視点から

 先日、行政経営フォーラムの例会で北川教授に講演をいただきました。「改革に必要なものはしつこさだ」ということで、「北京の蝶々」の話は以前と変わらず冒頭にお話されていましたが、ローカルマニフェスト絡みの話題が中心で、英国と日本の選挙制度の比較やマニフェストとローカルパーティの誕生など、北川教授が日本の政治の仕組みをどう変えて行きたいのか、ということを話されていました。
 本書で扱われている三重県庁の改革も、ローカルマニフェスト活動を通じた日本社会の変革に連なる話であるとともに、ミクロの視点では、日本社会を変革するには民主主義を支えるのは国民一人ひとりの民度の問題、つまり(棄権という行為を含めて)今の政治家を選んだ有権者の責任でもある、ということを話されていました。日本社会の変革というと何か途方もない大きな問題で、想像が付きにくいのですが、本書が取っているような一人ひとりの心の動きの積み重ねでもあるのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・「県庁改革」という(当事者にとっては)大きなドラマの登場人物の心の動きを知りたい人。


■ 関連しそうな本

 北川 正恭 『生活者起点の「行政革命」』 2005年03月07日
 中村 征之 『三重が、燃えている』
 村尾 信尚 『「行政」を変える!』


■ 百夜百マンガ

ドラえもん (12)【ドラえもん (12) 】

 第12巻は相当脂が乗っている感じで、ハズレがありません。
 「ベロ相うらない大当たり!」に登場する売れない青年作家の姿には、同じく人気商売の漫画家の悲壮感が漂っています。たった4ページの短編「わすれ鳥」では、和服姿の休日パパが大活躍です。落語のような展開はF先生の本領発揮というところでしょう。「正義のみかたセルフ仮面」では、ヒーローもののテレビ番組に大興奮しているのび太とだんだんと背を向けていくドラえもんの白けぶりが縦5コマにわたって展開されます。床でも地面でもどこでも潜れる「ドンブラ粉」や、「狼なんて怖くない」の替え歌をジャイアンが歌う「大男がでたぞ」、ドラえもんアニメ化時のパイロットフィルムに使われた「勉強べやの釣り堀」など、小粒ながら名作が目白押しです。
 巻末は、ドイツの古城で幽霊とご対面する30ページを超える長編「ゆうれい城へ引っこし」です。

2005年6月20日 (月)

地方自治体のためのファイリングシステム―正しい実践とやさしい導入手法

■ 書籍情報

地方自治体のためのファイリングシステム―正しい実践とやさしい導入手法   【地方自治体のためのファイリングシステム―正しい実践とやさしい導入手法】

  岩谷 伸二
  価格: ¥1,680 (税込)
  小学館(1997/04)

 本書は、元区役所職員でもある著者が、自らの長年の経験を元に、自治体へのファイリングシステム導入手法について図解入りのマニュアルとして記したものです。
 ファイリングシステムとは、「組織体の維持発展のために必要な文書を、その組織体のものとして、必要に応じ即座に利用しうるように組織的に整理保管し、ついには廃棄するに至る一連の制度のことである」という定義が紹介されていますが、自治体においてファイリングシステムという言葉を使う場合は、昔ながらの綴じ紐整理ではなく、キャビネットを使用したフォルダー整理のことを指すのが一般的と思われます。
 本書では、綴じ紐整理をしている自治体を対象に、フォルダー整理に移行するファイリングシステム導入の手引書として、個別フォルダーや懸案フォルダー(持ち出しフォルダー)の使途や文書分類の方法といった基礎編から、具体的な導入計画の策定まで、図や写真を交えて解説しています。
 未だに綴じ紐整理をしている自治体も多くあります。そういうところでは、職員になって以来、そのやり方でしか文書を綴じたことがない人だらけですので、「役所の文書はこうやって整理するものだ」というがっちりとした固定観念が出来上がっています。一度、他のやり方もあるのだ、ということを知る意味でも本書を読んでみてはいかがでしょうか。


■ 個人的な視点から

 こういう本を紹介していますが、実を言うと私自身もファイリングシステムを使っていません。職場がファイリングシステムを導入していないので、こればかりは自分一人ではできません。
 ただし、本書で解説されている文書分類の考え方は色々なところで役に立っています。一つには、PCのフォルダの作り方があります。職場・自宅ともに、フォルダの設定の仕方によって作業効率が大きく異なります。中には「マイドキュメント」に全部そのまま放り込んでいるような人や、デスクトップ上にずらりとワードやエクセルのファイルが並んでいるような人もいます。
 PCの場合は、本物のフォルダと異なり、他のフォルダのショートカットが自由におけるところが便利なところです。昔、B-Right/VやTipoを使っていたときには「実身/仮身」システムが大変便利でしたが、フォルダ単位であれば、Windowsでもショートカットを上手く使えるのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・古い書類を何時間も捜した経験のある人。


■ 関連しそうな本

 広田 伝一郎 『文書管理システム論』
 野口 靖夫 『見ただけでコツがつかめるファイリングの技術』
 野口 靖夫 『ファイリングの進め方』
 梅棹 忠夫 『知的生産の技術』 2005年05月05日
 鹿嶋 育朗 『WindowsユーザーのためのB‐right/V入門』


■ 百夜百マンガ

ドラえもん (11)【ドラえもん (11) 】

 第11巻には、巻末に「ドラえもん大事典」が付いています。これは、コロコロコミックなどで活躍されていた片倉陽二先生(「のんきくん」など)が書かれていた、という話を聞いたことがあります。
 さて、ここにも大人にならないと分からないギャグがたくさんありました。特に、「Yロウ作戦」は当時のロッキード疑惑を分からないと何のことやら分からないはずです。子供の頃は読んでも何のことだか分かりませんでした。

2005年6月19日 (日)

好き?好き?大好き?(Do You Love Me?)―対話と詩のあそび

■ 書籍情報

好き?好き?大好き?(Do You Love Me?)―対話と詩のあそび   【好き?好き?大好き?(Do You Love Me?)―対話と詩のあそび】

  R.D.レイン (著), 村上 光彦 (翻訳)
  価格: ¥2,415 (税込)
  みすず書房(1978/02)

 本書は、精神分析医でもある著者が書いた戯曲形式のような対話を中心にした詩集です。登場人物の多くは、会話する「彼」と「彼女」か、医者と患者です。
 彼と彼女の会話ものの代表的な作品は、表題作でもある「64 好き? 好き? 大好き?」です。しつこいくらいに繰り返される彼女の「好き?」に病的なものを感じる人もいるでしょう。このパターンの最も極端なものは「27 どうにもしかたがない」です。約20ページにわたって展開される読んでるだけでくたびれてしまう会話は、よくある男女の会話の体裁をとりながら、医者が患者の話を聞いているような感じでもあります。
 医者と患者との会話ものの代表的な作品は、気管切開した患者に医師が筆談で話しかける「5 つんぼではありません」です。この作品に代表されるような、患者自身の人格、患者の目線を無視した医者の尊大な態度こそが、本書を通じて著者が批判しているものです。「彼と彼女の会話」も医師と患者の会話として読むことができます。
 30年近く昔の作品(原著は1976年)ですが、今読んでも古さを感じさせません。


■ 個人的な視点から

 この本は、今から20年前、1985年に、生まれて初めて書店で注文して買った本です。当時、中学3年生だった私は、深夜の伊武雅刀のラジオ番組で本書の中の何作かを朗読していたのを聴き、ショックを受けて週末に電車で30分の木更津の本屋に駆け込みました。今考えれば当たり前なのですが、「みすず書房? うちにはまず置いてませんね。」という店員さんの反応でした(みすず書房は学術書を多く扱っている出版社です。)。
 最近では、エヴァの第25話のサブタイトルに使われたために、再注目されたことがあったようです。ちなみに、第26話は「世界の中心でアイを叫んだケモノ」です。私の世代には同世代感のある(というかサブカル臭い)タイトル付けるなあ、くらいにしか思わなかったのですが、若い世代には新鮮だったようです。岡崎今日子や戸川純や「月刊」宝島が好きだった人には懐かしいのではなないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・十代の頃にサブカル好きだった人。


■ 関連しそうな本

 レイン (著), 阪本 健二, 志貴 春彦 (翻訳) 『ひき裂かれた自己―分裂病と分裂病質の実存的研究』
 R.D. レイン (著), 村上 光彦 (翻訳) 『結ぼれ』
 ハーラン・エリスン (著), 浅倉 久志, 伊藤 典夫 (翻訳) 『世界の中心で愛を叫んだけもの』


■ 百夜百音

好き好き大好き【好き好き大好き】 戸川純 オリジナル盤発売: 1985

 タイトルつながりで戸川純のソロアルバムを紹介します。
 ゲルニカやヤプーズの活動で知られていますが、シングルにもなったゲンズブールのカバーや「愛してるって言わなきゃ殺す」タイトル曲、テクノポップからアイドルまで何でも歌ってしまうソロアルバムも強力です。
 同時期には、「私は子供が嫌いだ!」で有名な伊武雅刀の「子供達を責めないで」がヒットしてました。


『Mon‐Jah』Mon‐Jah

2005年6月18日 (土)

「誰でも社会」へ―デジタル時代のユニバーサルデザイン

■ 書籍情報

「誰でも社会」へ―デジタル時代のユニバーサルデザイン   【「誰でも社会」へ―デジタル時代のユニバーサルデザイン】

  関根 千佳
  価格: ¥1,890 (税込)
  岩波書店(2002/11)

 本書は、高齢者にも障害者にも誰にでも使いやすいITのユニバーサルデザインについて、日本の最前線を走り続ける著者の体験を元に書かれたものです。
 各章はいくつかの雑誌に書いたものを元に編集しているので、どこから読んでもかまいません。情報のユニバーサルデザイン自体に関心があるのならば、「第3章 ユニバーサルデザインという考え方」や「第4章 ユニバーサルデザインを創り出す」から読むのもいいですが、お時間がある方は、第1章から読まれると、著者がどのようにしてユニバーサルデザインに出会ったのか、なぜ「ユーディット」という会社を起業したのか、という著者の問題意識そのものに触れることができるのではないかと思います。
 企業や自治体のホームページを担当している方はもちろん、いつかは年老いて行く我々誰もが避けて通れない問題として、ぜひ一度手に取られることをお奨めします。
 
ユーディット(情報のユニバーサルデザイン研究所)
http://www.udit-jp.com/


■ 個人的な視点から

 ユニバーサルデザイン以外の話題になるのですが、著者はこの分野で草分けである関係上、いくつかの省庁の委員を引き受けていらっしゃいます。その経験から感じたいくつかの疑問を、本書の中でも「これでいいんかい、国の委員会」と題して紹介していますが、日経のwebサイトに掲載されている「ネット時評」に現在までPart5まで続編が書かれています。
 これが非常に面白いんです。事務局を担当する官僚の意にそぐわない発言は議事録に載らない、メールを使えない委員がいるのでメーリングリストを立ち上げられない、フロッピーを宅配してくる事務局(これがITの委員会でいいのか?)、摩訶不思議な旅費規程など、ベンチャー社長とお役人という異人種の出会い、文化摩擦に抱腹絶倒まちがいなしです。
 
「ネット時評」
http://it.nikkei.co.jp/it/column/prof.cfm?i=sekine


■ どんな人にオススメ?

・高齢者または将来高齢者になる予定の人。


■ 関連しそうな本

 ゲーリー モールトン, ジャニス ハーツ, ラディアナ ハイラー, マーク レベンソン (著), ユーディット (翻訳) 『アクセシブルテクノロジ―ITと障害者が変えるビジネスシーン』
 アクセシビリティ研究会 (著), C&C振興財団 (編集) 『情報アクセシビリティとユニバーサルデザイン―誰もが情報にアクセスできる社会をめざして』
 マイケル・G. パチェロ (著), ソシオメディア (翻訳) 『ウェブ・アクセシビリティ―すべての人に優しいウェブ・デザイン』


■ 百夜百音

ベリー・ベスト・オブ・マーティン・デニー【ベリー・ベスト・オブ・マーティン・デニー】 MARTIN DENNY オリジナル盤発売: 1996

 「エキゾチック・サウンド+テクノ」というYMOのコンセプトのベースになった異色の音楽家マーティン・デニーのベスト版。「15.サケ・ロック」と「16.ファイアー・クラッカー」を併せて聴き比べるのも面白いです。
 WATER MELON GROUPがカバーしている「2.クワイエット・ヴィレッジ」も良いです。米国版では試聴もできます。


『Exotica 1 / Exotica 2 (視聴あり)』Exotica 1 / Exotica 2 (視聴あり)

2005年6月17日 (金)

公立校の逆襲 いい学校を作る!

■ 書籍情報

公立校の逆襲 いい学校を作る!   【公立校の逆襲 いい学校を作る!】

  藤原 和博
  価格: ¥1,470 (税込)
  朝日新聞社(2004/09/17)

 本書は、都内初の民間人校長(この呼び方も何だか変ですが)として、杉並区立和田中学校の校長になった元リクルート・フェローの著者が、教育現場に来て感じたこと、行ってきたこと、行っていることをまとめたものです。元々、朝日新聞と週刊朝日に連載されていたものを加筆修正したものなので、1つのトピックが約3ページに収まっていて読みやすい構成になっています。
 著者はリクルートでビジネスマンとしてのキャリアを積んできた方ですが、足立十一中との協働から生まれた『よのなか』科の授業、「1個のハンバーガーから世界が見える」のように、身近な教材から社会の仕組みを探求する授業によった注目され、2003年から「民間人」として和田中の校長に就任されました(「非民間人」というと軍人か何かのようですが、この場合の「民間人」は、非公務員、非教員としてキャリアを積まれてきた方、という意味だと思われます。)。
 著者が取り組んできた数々の取り組みに対して、ビジネス界での長い経験があるからできるんだ、ということを言う人もいるそうですが、著者は3人の子の父親としての視点で校長の仕事を見つめ、「前例主義」を廃することに取り組んできたと言います。
 その意味では、本書を読んで「こんな校長がいればいいな」と思うよりも、「一人の親として自分にできることは何だろう」と考えることの方が、著者の考えに近いような気がします。


■ 個人的な視点から

 「民間人校長」というと、広島の高校で自殺してしまった事件がまず浮かぶように、教職員との軋轢が大きいのではないかという心配をしてしまいます。何しろ、相手は小学校入学以来ずっと学校の中だけで生きてきた人たちです。そんな中に一人で放り込まれたとしたら、いくら民間企業でのマネジメント経験のある人でも、多勢に無勢では歯が立ちません。
 そこで著者がとった作戦は、多勢には多勢、つまり、ステークホルダーである地域の親やPTAのOB・OGを見方につけることでした。著者は、自らが進めてきた「前例主義を廃する仕組み」を、校長としての任期が切れ、学校を去った後も残して行くために、地域主導の「地域本部」を作り、土曜寺子屋、略して「ドテラ」や図書室の運営、「和田中i-キッズ計画」や「和田中グリーンキーパーズ」など、後戻りしないためのクサビを打っています。
 改革者が去った後の組織で揺り戻しが起こるのは、学校だけでなく企業や自治体でも同じですが、ステークホルダーを巻き込む仕組みを作ってクサビにしてしまうという方法は、1期で引退を表明した志木市の穂坂市長の手法に通じるものがあります。


■ どんな人にオススメ?

・「いい学校」に通いたかった人。
・「いい学校」で子供に学ばせたい人。
・「いい学校」を作りたい人。


■ 関連しそうな本

 金子 郁容 (編著), 玉村 雅敏, 久保 裕也, 木幡 敬史(著) 『学校評価―情報共有のデザインとツール』 2005年02月25日
 小塩 隆士 『教育を経済学で考える』 2005年02月13日
 藤原 和博 『世界でいちばん受けたい授業―足立十一中『よのなか』科』
 藤原 和博, 天野 一哉 『民間校長、中学改革に挑む』
 埼玉新聞社 (編集) 『生き生きまちづくり 埼玉県志木市の挑戦』 2005/04/17


■ 百夜百マンガ

ああ播磨灘【ああ播磨灘 】

 今話題の相撲業界ですが、ちょうど若貴ブームの頃に大相撲をおちょくりまくった2つの作品がありました。1つの土俵の外の戦いを描いた『両国花錦闘士(りょうごくおしゃれりきし)』、もう1つは「負けたら即引退」を宣言した天下無双の横綱を描いた『ああ播磨灘』です。
 仮面をつけた土俵入りや土俵外での傍若無人な振る舞いなどはあっても、土俵の上の緊張感はピカ一だった播磨灘ですが、現実の相撲界は両国花錦闘士の登場人物の方に近かったようです。
 テレビに出てくる「兄弟」も、本人たちは『播磨灘』系の登場人物のつもりかもしれませんが、『花錦闘士』の登場人物に見えてしまい、面白くて仕方ありません。

2005年6月16日 (木)

〈育てる経営〉の戦略―ポスト成果主義への道

■ 書籍情報

〈育てる経営〉の戦略―ポスト成果主義への道   【〈育てる経営〉の戦略―ポスト成果主義への道】

  高橋 伸夫
  価格: ¥1,575 (税込)
  講談社(2005/04)

 本書は、ベストセラーとなった『虚妄の成果主義』を踏襲する形で、「では何が必要なのか」という問いに答えているものです。前著では、日本企業で使われている「成果主義」「客観的な評価」「成果に報酬で報いる」という考え方が、いかに社員のモチベーションを下げ、根拠の無い考え方であるかを、経営学の理論的立場から徹底的に批判したものでした。本書では、第1章から第3章で、前著の論理構成を整理し直したうえで、「第4章 目的はモチベーション」と「第5章 人的資源は買えない」で、モチベーションを引き出すにはお金そのものよりも次の仕事が適していること、人材の育成には階層構造が重要であることを述べています。
 第6章以降は、直接的には『虚妄の成果主義』に対応するものではありませんが、発表済みの論文などをベースに、「育てる経営」の重要性を述べています。
 『虚妄の成果主義』を既に読んだ方にとっては、前著の内容を整理し直す助けになると思います。『虚妄の~』は講演録などを編集したものなので、読みやすいかわりに教科書的には理解しにくいところがありましたので、本書を併せて読む価値はあると思います。


■ 個人的な視点から

 前著に引き続き、著者は「日本型年功制」のメリットを強調していますが、重要な点は、「日本型年功制」と年功序列とは大きく異なるということです。ではどこが違うのでしょうか。
 本書の中では言及されていませんが、人事の経済学の分野ではラジアーらが展開した「ランク・オーダー・トーナメント」という考え方を指しているのではないかと思われます。これは、テニスのトーナメントのように、同期入社の社員の間での比較・選抜を繰り返し、能力を見極めていく、という方法です。社員の能力や成果を絶対値的に比較することは困難でも、同期の社員の間で相対的に順位を付けることはそれほど困難ではありません。また、トーナメントですので、1回の対戦で終わるわけではなく、何度も比較が繰り返される中で選抜が行われます。
 この選抜のプロセスで大きな役割を果たしているのが、本書で取り上げられている「やり過ごし」と「尻ぬぐい」です。これらは30代前後に行われ、給与面では大きな差は出ませんが、仕事の内容で差が付きます。そして、40代以降で給与や役職面で大きな差が付きます。
 これらを単なる「年功序列」と呼べるのでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・『虚妄の成果主義』を読んだ人。


■ 関連しそうな本

 高橋 伸夫 『虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ』 2005年3月30日
 城 繁幸 『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』
 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』 2005年04月05日
 高橋 伸夫 『経営の再生[新版]―戦略の時代・組織の時代』 2005年06月10日
 高橋 伸夫 『できる社員は「やり過ごす」―尻ぬぐい・やり過ごしの凄い働きを発見した』
 高橋 伸夫 『日本企業の意思決定原理』


■ 百夜百マンガ

ラブロマ【ラブロマ 】

 いまどき珍しいくらいのラブコメなのに未だかつて読んだことの無いキャラクターです。
 確か記憶では、読み切りからスタートしたんじゃないかと思います。
 主人公の星野君のキャラで一発芸的に終わるかと思ったら、脇役の同級生のキャラが立ってきたので結構続いています。

2005年6月15日 (水)

雇用と失業の経済学

■ 書籍情報

雇用と失業の経済学   【雇用と失業の経済学】

  樋口 美雄
  価格: ¥2,520 (税込)
  日本経済新聞社(2001/11)

 本書は、大きく変化していると言われている日本の雇用と失業の現状について、利用できるあらゆるデータに基づいて分析して労働市場の実態を把握し、必要とされる雇用政策を検討したものです。
 本書の構成は、第1章から第8章までの8つの問題意識に関する分析と求められる雇用政策(第9章)によって構成されています。8つの問題意識は以下のとおりです。

1. だれがどうして失業者になったのか―日本の失業者の特徴とその変化
2. 企業の雇用調整は速まっているのか―企業リストラの進展とその影響
3. 日本の雇用はどこで創られ、どこで失われているか―雇用創出・雇用喪失の変化と日本の特徴
4. 家計は企業リストラにどう対応しようとしているのか―所得格差・消費行動・就業行動・能力開発の変化
5. だれの転職コストが高く、だれの転職コストが低いのか
6. 経済のグローバル化は雇用をどう変えるか
7. 情報通信技術の発展は雇用をどう変えるか
8. 少子高齢化の進展は労働市場をどう変えるか

 どの問題も、日本の雇用問題を語る様々な論者が自説の中で取り上げることが多くあるようなものです。例えば、「経済のグローバル化によって国内の生産拠点が海外に移され、国内産業が空洞化したので失業が増えた。」という話は、それなりの説得力を伴って語られていますが、本当に企業の海外進出は国内の雇用を減らすのでしょうか。本書の分析によれば、海外に自社工場や事務所を増設した企業では、技能職の雇用が減る一方、海外における生産増加に伴って事務・営業・技術職の雇用が逆に増えることで相殺され、全体の雇用量としては海外に進出している企業のほうが国内雇用を大きく削減させるということは起こっていない、とされています。
 このように、「海外に生産拠点が移れば国内産業が空洞化して失業率が上がる。」という「風が吹けば桶屋が儲かる」的な論理展開に、我々は乗せられてしまいがちですが、統計データを元にした議論をすることで、現実を直視した冷静な議論の土台が与えられるのです。


■ 個人的な視点から

 本書の著者は、『人事経済学』や『人事と組織の経済学』など、経済理論を元に人事制度を分析する人事制度の経済分析の国内第一人者でもあるのですが、一方で本書のような統計データの分析に関しても知られています。
 統計データの基づいた議論と言えば、今やニート問題の第一人者となった玄田有史氏も、「働く意欲が無いからフリーターになるのだ」という新聞報道等を元にした感情的な議論に対して、中高年の雇用を守るために若年層の雇用が失われているという統計データに基づく分析によって、若年失業問題に光を当てました。
 これは、労働法学者と労働経済学者とのスタンスの違いとしても表れるものですが、労働法学者が個別のケース、極端なケースを扱った議論をする傾向があるのに対し、労働経済学者は平均値を元にした議論をする傾向があるそうです。どちらが優れているというものではないですが、新聞報道などは、極端なケースを取り上げることが多いため、特定のケースが全体のイメージを形作ってしまうことがあります。例えば、中高年失業者の悲劇が数多く報道されることで、その影にある若年層の失業問題は軽微な問題、個人のパーソナリティの問題として受け止められがちです。
 今話題に上っている公務員の給与や雇用の問題についても、多いほうにも少ないほうにも極端な個別ケースを持ち出した議論が見受けられますが、統計データに基づいた冷静な議論が求められます。


■ どんな人にオススメ?

・雇用問題を議論するベースが欲しい人。


■ 関連しそうな本

 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』 2005年04月05日
 樋口 美雄 『人事経済学』
 八代 尚宏 『日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済』 2005年03月23日
 梅森 浩一 『「クビ!」論。』 2005年06月02日
 玄田 有史 『仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在』


■ 百夜百マンガ

五年生【五年生 】

 今や『げんしけん』がアニメ化され、萌える人たちを扱った漫画家として知られている作者ですが、もともとはドロドロのリアル系青春物を得意としていました(『げんしけん』もその流れではあるのですが。)。
 木更津にある大学の法学部を舞台にしていて、設定では主人公の実家は佐倉になっていました。

2005年6月14日 (火)

NPOと法・行政

■ 書籍情報

NPOと法・行政   【NPOと法・行政】

  山本 啓, 新川 達郎, 雨宮 孝子
  価格: ¥2,940 (税込)
  ミネルヴァ書房(2002/09)

 本書は、タイトルに「法・行政」と書かれているように、NPOと法システム(第1部)、NPOと行政システム(第2部)について解説されているものです。ただし、法と行政の両システムは相互に深い関連があるために、第1部と第2部とで内容的に重複する部分があり、すっきりとは分けられないところがありました。通して読んでいると、色々な人が色々な文脈の中で同じようなことを少しずつ違ったニュアンスで述べているので、教科書のように端からスムースに頭に入ってくるという内容のものではなく、学会・カンファレンスに寄せられた論文集のような趣です。
 第1部の「NPOと法システム」では、NPO法成立の経緯や市民立法の可能性、法の視点から見たNPOと行政の協働について述べられています。また、第2部の「NPOと行政システム」では、NPOと行政の関係について、市民社会からの視点、アウトソーシング、自治体のNPO政策などからそれぞれ述べられています。
 「NPOとの協働」という言葉が行政のあらゆる分野で使われるようになりましたが、中には計画書などに書いてしまってから「さあどうしよう」とNPO政策担当課に相談に来るところもあるのではないでしょうか。まずは本書をよく読んでみると、NPOに対する見方が変わってくるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書は、3人の編著者によって都合8人の執筆者の論文がまとめられています。そのため、内容的に重複する部分や温度差が感じられる部分が生じています。
 しかし、この辺りは分担執筆形式の長所と短所であり、次のように考えられます。
○長所
・早く出版できる:社会的に関心が高い問題について早い時期に出版可能。
・専門的な掘り下げ:各トピックについて得意な人が執筆。
・多様性:一つの問題について複眼的に検討が可能。
○短所
・不統一:各執筆者間で主張に齟齬が生じる場合がある。
 特に本書のように、編者が複数になる場合は、ときには編者の間でも見解の相違が生じる可能性があります。編者の間でそれぞれの主張についての綱引きが生じるようになっていると、読んでいる方が混乱してしまう場合があります。
 ただし、本書のように、新しい分野を解説しようとするときには、統一的な見解などを待っていては10年経っても出版できません。意見の対立や温度差がある部分についても、多様な意見をそのまま掲載することが価値を高めることもあります。
 その場合に大事になるのは編者の力量です。多様な意見を噛み砕き、きちんと位置付けと交通整理がしてあれば読むほうも安心して読むことができます。その点では、一人の編者によって独裁的に編集されたものの方が、(学者の世界での)「公平性」では劣るかもしれませんが、読みやすいものになるように思われます。


■ どんな人にオススメ?

・「協働」という言葉を使ったことのある人。または関心のある人。


■ 関連しそうな本

 谷本 寛治, 田尾 雅夫 (編著) 『NPOと事業』 2005年01月28日
 上山 信一 『「政策連携」の時代―地域・自治体・NPOのパートナーシップ』 2005年03月28日
 沢 昭裕, 経済産業研究所『公を担う主体としての民』研究グループ (編集) 『民意民力―公を担う主体としてのNPO/NGO』 2005年05月18日


■ 百夜百マンガ

Dr.スランプ【Dr.スランプ 】

 1980年から連載された鳥山明の出世作です。かすかな記憶なんですが、初回は2話同時掲載で、巻頭カラーだったような気がします。当時はジャンプは読んでなかったのですが、よく行く歯医者の待合室でまとめて何作か続けて読んだんじゃないかと思います。
 『天才バカボン』と同様、タイトルから考えても主人公はセンベイなんですが、いきなりサブキャラに主役乗っ取られています。
 連載の直前に書かれた「ギャル刑事トマト」も鳥山テイスト全開です。初期ドラゴンボールが好きな人はこちらもどうぞ。

2005年6月13日 (月)

第五の権力 アメリカのシンクタンク

■ 書籍情報

第五の権力 アメリカのシンクタンク   【第五の権力 アメリカのシンクタンク】

  横江 公美
  価格: ¥735 (税込)
  文藝春秋(2004/08/21)

 本書は、米国の政権交代を施策と人材の両面から支えている数々のシンクタンクについて紹介しているものです。著者は、松下政経塾からワシントンDCにおける議員事務所での経験を経て、「シンクタンク・ジャンキー」(ワシントンDCで数々のシンクタンクが開催するシンポジウムへの出席中毒)が高じて、ついには自ら「PACIFIC21」というシンクタンクを作ってしまったという方です。
 本書の構成は、
・第1章 シンクタンクとは何か:米国におけるシンクタンク位置付け・役割の解説(日本のシンクタンクのような行政や企業から受託した報告書を作るところではない!)。
・第2章 「大統領誕生」と「回転扉」:米国の政権交代をを支える人材供給源としてのシンクタンクの役割の解説。
・第3章 六大シンクタンク創世記:様々なルーツを持つシンクタンクをその風土と絡めながら解説。
・第4章 時代はビジネス:シンクタンクの金銭面におけるビジネスモデルの解説。
・第5章 二十一世紀の政策プロデューサー:9.11後のアメリカにおけるシンクタンクの役割の変化などを解説。
という構成になっています。
 本書に登場するシンクタンクの名前は、発表されている数多くのレポートを通じてよく知られていますが、そのシンクタンクの成り立ちや役割、どうやって運営されているかについては、わが国ではあまり知られていません。ワシントンDCに精通した著者だからこそ書ける米国シンクタンク事情。日本では断片的な情報しか得ることができず、類書の少ない、しかしアメリカの大統領選挙や政治システムを理解する上では価格ことのできない知識を、新書サイズではありますがふんだんに盛り込んだ本書は、このテーマにおける必読書になると思います。


■ 個人的な視点から

 公務員の政治任用との絡みでよく紹介されるシンクタンクですが、日本におけるイメージは、政権を追われた政策スタッフが、「浪人」として拾われて研究をしている、というものが多いのではないかと思います(私が勝手に曲解しているだけかもしれませんが・・・。)。しかし、本書を読めば分かるとおり、収入面でも研究面でもシンクタンクに在籍している間の方が華やかであり、決して「浪人」のような裏寂れた雰囲気はありません。そして、政府の高級政策スタッフになるためにはシンクタンクに入るのが本流であり、政権交代とシンクタンクとがガッチリと組み合わされたシステムになっているのです。
 「鶏と卵」の議論ではありますが、公務員の政治任用それ自体だけの是非を論じていても米国の「回転扉(リボルディング・ドア)」は理解できません。選挙制度など、政権交代が可能な政治システム全体の一部分として論じる必要があると思います。


■ どんな人にオススメ?

・日本の「シンクタンク・ジャンキー」の人。
・公務員の政治任用に関心のある人。


■ 関連しそうな本

 ジェームズ・A. スミス (著), 長谷川 文雄, 石田 肇, ボストン・フューチャー・グループ (翻訳) 『アメリカのシンクタンク―大統領と政策エリートの世界』
 横江 公美 『Eポリティックス』 2005年02月11日
 横江 公美 『判断力はどうすれば身につくのか―アメリカの有権者教育レポート』


■ 百夜百マンガ

地雷震 1【地雷震 1 】

 「アフタヌーン」連載時は、「読むと指が黒くなる」と言われるほど真っ黒におどろおどろしく塗りつぶされた作風は、『スカイハイ』や『爆音列島』などでもお馴染みですが、初期の頃の作風は高口里純のような少女漫画っぽい線の細さも感じます。

2005年6月12日 (日)

父生術

■ 書籍情報

父生術   【父生術】

  藤原 和博
  価格: ¥1,365 (税込)
  日本経済新聞社(1998/06)

 本書は、元リクルートのフェロー、現在杉並区立和田中学校長の藤原和博氏が、リクルート時代に4歳の息子と身重の奥さんを連れてイギリスに渡り、長男の小学校探し(イギリスは4歳児から小学校に通います。)に走り回り、慣れない外国での学校生活への適応に悩む中で、自分自身がはめ込まれていた「枠」の存在に気づき、父親として息子と正面から向き合うようになるまでを日記風に記したものです。
 「早く」「ちゃんとできる」「いい子に」という日本の高度成長を支えた教育が自分に染み付いていることが、息子が公園で遊ぶことよりも息子を公園に連れて行くこと自体を、早くお弁当を食べ終わって友達と遊びたい息子の気持ちよりもきっちり詰め込んだお弁当をよく噛んで食べること自体を、息子に押し付けてしまっていたことに著者は気づきます。
 子供に接している自分を鏡で見たときに、自分の顔に自分の父親の顔が見える、というような話はよく聞きますが、著者自身も両親の期待に応える「いい子」であったと述べられています。そして、積極的にお風呂に入れたりオムツを換えたりする「普通のビジネスマンよりもよくやってる父親」と思っていた自分が、実は「父親としてのいい子」になろうとしていただけで、本当の意味での「父」として子供に向き合っていなかったことに気づきます。
 子育て中の方はもちろんですが、普段は気づくきっかけの少ない自分の中に作られた「枠」を知る、という意味で、より多くの皆さんにお奨めします。


■ 個人的な視点から

 よく「子育ては個育て」とか「親育て」ということが言われますが、より一般的に、人に何かを教えたり、育てるということは、子供や生徒、後輩から教えられ、学ばされることの方が多いと言えるのかも知れません。
 最近では、企業が学生をインターンシップとして受け入れることが多く行われていますが、インターンに学生に色々教えたり受け入れの準備をするには結構な労力がかかり、単純に労働力として考えれば普通にアルバイトを雇ったり外注した方が安上がりになることも考えられます。それでは、企業にとってインターンの学生を受け入れることにはどんなメリットがあるのでしょう。
 一つには、若手社員の育成という意味があります。社会人にとってまだ日が浅い新人社員をインターンの指導担当につけることによって、社会人としての自覚を促すとともに、仕事の優先順位の見極めや人に仕事を発注するコツを身に付けさせるというものです。
 昔であれば、入社3年目くらいの若手社員にも後輩の指導が任され、数年で係長になって、仕事をマネージしながら部下を育成する機会がありましたが、中高年社員の雇用を守るために採用を抑制している企業が多い現在では、入社以来10年間ずっと一番下っ端というケースも少なくありません。
 このような状況の中で、インターンの学生を指導する機会は若手社員の成長を促す格好の機会ということができます。


■ どんな人にオススメ?

・子育て中のお父さん。


■ 関連しそうな本

 藤原 和博 『公立校の逆襲 いい学校を作る!』
 藤原 和博 『世界でいちばん受けたい授業―足立十一中『よのなか』科』
 金井 寿宏 『ハッピー社員―仕事の世界の幸福論 解決!組織で働く悩み』 2005年05月09日
 玄田 有史 『仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在』


■ 百夜百音

ローザ・ルクセンブルグII【ローザ・ルクセンブルグII】 ローザ・ルクセンブルグ オリジナル盤発売: 1986

 5年前に37歳の若さで夭逝したボーカリスト「どんと」が音楽シーンに登場したときのバンドです。ローザと言えば京都のライブハウス「磔磔(たくたく)」出身として知られていますが、私の高校時代のバンドのベースが大学時代は磔磔のそばのアパートに住んでいて、京都に行ったときに概観だけ見てきたことがあります。
 ローザのコピーバンドをやっていたときには、主にこのアルバムから選曲していて、オープニングは「さいあいあい」、「フォークの神様」とか「さわるだけのおっぱい」とか演奏してました。
 歌ものとしてはこの2枚目が良いですが、玉城宏志のリフが冴えまくる1stの『ぷりぷり』も高校時代にコピーしまくりました。


『ぷりぷり』ぷりぷり

2005年6月11日 (土)

廃墟の歩き方 探索篇

■ 書籍情報

廃墟の歩き方 探索篇   【廃墟の歩き方 探索篇】

  栗原 亨
  価格: ¥1,575 (税込)
  イーストプレス(2002/05)

 本書は、鉱山跡や廃ホテルなど全国の廃墟をその由来とともに紹介しているものです。現在でこそ、テレビ番組や映画などで廃墟を扱った映像を見る機会が増えましたが、本書の著者が廃墟の魅力に目覚めた1980年代当時は、廃墟に関する情報も無く、心霊スポットとして様々な因縁話が語られていたそうです(80年代というと芥川賞作家のINUのボーカルの人が主演の映画が撮影された頃ですね。ツルツル。)。著者は、全国の廃墟を巡り、その物件にまつわる由来を調べ、「殺人事件があった」等の因縁話のほとんどが都市伝説の類であることを知ります。本書に収められている写真の多くはモノクロですが、特に鉱山跡や廃工場などの産業遺跡の美しさは絶品です。
 本書でも触れられているように、廃墟に無断で侵入することは違法な行為であることには違いありませんが、一方で、日本の近代化・工業化の生き証人である全国の産業遺跡をきちんと記録しておく必要性も感じます。


■ 個人的な視点から

 本書で紹介されているのは建築物が中心ですが、「廃墟」は何も建物ばかりを指すのではないのではないかと思います。廃墟となった建築物の多くは、産業構造の変化や事業の失敗、所有権管理のずさんさ等が原因で、廃墟になってしまったと考えられますが、建築物などの「ハード的廃墟」以外にも、
・既にその使命を終え、存在する必要のなくなった『廃墟組織』
・顧客の変化に全く対応できず櫛の歯が抜けるようにシャッターが次々と閉まる『廃墟商店街』
・会話と思いやりの全く無い『廃墟家庭』
など、「ソフト的廃墟」とも呼ぶべき打ち捨てられた人間関係が、あちこちにたくさん見受けられます。
 人のいなくなった「ハード的廃墟」には、時の流れを感じさせる幻想的な美しさがありますが、「ソフト的廃墟」には人間の欲の生臭さと悲しい隙間風が漂い、美しさから程遠い存在です。
【停電ショック!】
 今朝5時11分頃、この原稿を書いている途中で、私の住んでいる地域一体が停電しました。突然PCの電源を含めて全ての明かりが落ち、あわてて外を見ると交差点の信号も消えていて「何事が起きたのか」と思いましたが、30秒~1分程度で復旧しました。書きかけの原稿は復旧しませんでしたが(T_T)


■ どんな人にオススメ?

・写真から遠い過去に思いをはせることが好きな人。(自分で行こうとは思わない方がいいです。)


■ 関連しそうな本

 栗原 亨 『廃墟の歩き方〈2〉潜入篇』
 三五 繭夢, 栗原 亨 『廃墟ノスタルジア』
 堀 淳一 『歴史廃墟を歩く旅と地図―水路・古道・産業遺跡・廃線路』
 堀 淳一 『忘れられた道―旧道の静寂・廃道の幽愁 風土と歴史をあるく』
 丸田 祥三 『鉄道廃墟』


■ 百夜百音

CROSSOVER【CROSSOVER】 砂原良徳 オリジナル盤発売: 1995

 元電気GROOVEの「まりん」こと砂原良徳の初ソロアルバムです。とにかく気持ちよく聞くことができます。全編インストで「砂原色」全開の雰囲気が漂います。
 CMJK脱退後、まりんが電気に持ち込んだ要素を抜き出して聴くことができる1枚です。


『フラッシュ・パパ・メンソール』フラッシュ・パパ・メンソール

2005年6月10日 (金)

経営の再生[新版]―戦略の時代・組織の時代

■ 書籍情報

経営の再生[新版]―戦略の時代・組織の時代   【経営の再生[新版]―戦略の時代・組織の時代】

  高橋 伸夫
  価格: ¥2,625 (税込)
  有斐閣(2003/04)

 本書は、「経営するって何だろうか」という観点から経営学の教科書に書かれている戦略論や組織論を再検証したものです。経営学の世界は、時代時代の経営におけるブームの盛衰を反映して互いに相矛盾する様々な学説や理論が入り乱れ、どれが正しい・正しくないということを決定することも難しいため、経営学の教科書はさながら世界史の教科書のように、様々な学説の栄枯盛衰を淡々と記述したものになりやすい、という問題があります。そこで本書では、これまで提唱されてきた様々な学説を、事実とデータに基づいて再検証しながら、「経営するとは何か」という問いに愚直なまでに答えようとしています。
 特に厳しい批判にさらされているのが、一世を風靡した多角化戦略やPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)など、MBAホルダーの経営者やコンサルティング・ファームが多用してきた理論です。その頃盛んに唱えられてきた「経験曲線」というものが、いかに根拠と意味の無いものだったか、市場成長率と市場シェアによる経営や多角化戦略が、いかに企業の価値を食い潰し米国企業の競争力を奪って行ったか、ということを、データを下に検証しています。そして、「経営すること」は個室にこもって財務とマーケティングのデータを元に証券の束の組合せを考えるようなものではなく、経営者というものは現場と関わり人と関わらなければならない、と主張しています。
 経営学の教科書を一通り読んで、その無味乾燥さにうんざりした方は、ぜひ続けて本書を読んでいただくとすっきりするのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 著者は、『虚妄の成果主義』や『〈育てる経営〉の戦略―ポスト成果主義への道』などで、日本の成果主義ブームに警鐘を鳴らしています。本書では、過去の多角化戦略やPPMなどをデータを用いて検証していますが、将来データが揃うことになれば「成果主義ブームは何だったのか」についても同じように検証されるかもしれません。
 本書で批判されている、コンサルティングファームやMBAによる経営と、著者が現在進行形の成果主義ブームとを批判する根底に共通するものは何でしょうか。それは、「経営する」ということは、経営者が全身全霊で現場と向き合って行うもので、あたかも証券の束を所有したり投資したりするものではない、ということです。多角化戦略やPPMが短期間の成果を重視し、企業が持っている価値を現金化して将来の成長と競争力の源泉を失ってしまったのと同じように、現在の「成果主義」が長期での成長と競争力を犠牲にしていることは、対象が事業から人材に変わっただけではないかとも思われます。
 ブームとコンサルタントの口車に乗って、データを集めて指標を管理することが「経営すること」ではない、ということを著者は主張しているはないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・一通り経営学の教科書は読んだけれどピンと来なかった人。


■ 関連しそうな本

 C.I.バーナード (著), 山本 安次郎 (翻訳) 『新訳 経営者の役割』 2005年03月29日
 ハーバート・A. サイモン (著), 松田 武彦, 二村 敏子, 高柳 暁 (翻訳) 『経営行動―経営組織における意思決定プロセスの研究』』 2005年04月14日
 ヘンリー ミンツバーグ, ジョセフ ランペル, ブルース アルストランド (著), 斎藤 嘉則, 奥沢 朋美, 木村 充, 山口 あけも(翻訳) 『戦略サファリ―戦略マネジメント・ガイドブック』 2005年02月15日
 高橋 伸夫 『組織の中の決定理論』
 高橋伸夫 『虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ』 2005年03月30日
 高橋 伸夫 『〈育てる経営〉の戦略―ポスト成果主義への道』


■ 百夜百マンガ

ドラえもん (10)【ドラえもん (10) 】

 「人間切断機」で下半身が上半身に反旗を翻すエピソードは、影や鏡像が本体を乗っ取ろうとする話と同じカテゴリーにあるようです。
 第10巻の目玉は長編映画第1弾のベースになった「のび太の恐竜」です。のび太が集めた恐竜の本の中に『回虫のおろし方』が混じってたり、ドラえもんが生暖かい目で見ていたり、成長したピー助が押入れの中でクビだけ水のバケツに突っ込んでいたりと、笑いどころもたくさんありますが、ピー助を白亜紀に連れて帰ろうと決断するシーンだけはのび太がかっこよく見えます。

2005年6月 9日 (木)

組織を動かす最強のマネジメント心理学―組織と働く個人の「心的エナジー」を生かす法

■ 書籍情報

組織を動かす最強のマネジメント心理学―組織と働く個人の「心的エナジー」を生かす法   【組織を動かす最強のマネジメント心理学―組織と働く個人の「心的エナジー」を生かす法】

  金井 壽宏
  価格: ¥1,470 (税込)
  中経出版(2002/04)

 本書は、「心的エナジー」をキーワードに、組織とそこで働く個人とが何とか元気を取り戻すためのヒント、きっかけを語ったものです。
 内容としては、心理学者であるチクセントミハイのフロー経験の話から、変革へのエナジーの獲得、茹でガエルからの脱出、という個人ベースの第1章から、仕事における感情の問題を扱う第2章くらいまでが、タイトルの「マネジメント心理学」をメインに扱った部分と言うことができます。第3章~第5章は、リーダーシップやコンピテンシーなど、同じ著者による『組織行動の考え方―ひとを活かし組織力を高める9つのキーコンセプト』と重複するような内容を語っているような内容になっています。
 短いエピソードの積み重ねで構成されているので、通勤電車の中で読むには適していますし、読み始めたら一気に全部読まないとならないものでもありませんので、鞄の中に入れておいて空き時間に読むのも良いでしょう。


■ 個人的な視点から

 タイトルには「心理学」という言葉が入っていますが、切り口はそれほど堅苦しいものではなく、講演録を再編集したものや口述筆記で起こしたもののような体裁になっています。そのため、新しい知見を詰め込んだと言うよりも、著者の他の著書にも出てくるようなエピソード(おそらく講演のときの材料(持ちネタ)から引っ張ってきているのではないかと想像します。)を寄せ集めたような感じです。
 個人的には、本書をきっかけにチクセントミハイに関心を持って、『楽しみの社会学』を探してしまいました。
 「組織を動かす」「最強」「マネジメント」「心理学」というタイトルの言葉だけ並べると、上司が部下を意のままに操るための洗脳の秘策が書いてあるような印象を与えますが(上司がこんなタイトルの本を持っているのを見かけたら部下は震え上がってしまうかもしれません。くれぐれも外ではカバー(^^;をつけましょう。)、内容的にはむしろ仕事の過負荷に苦しんでいる30代のサラリーマンにこそ読んでもらいたいようなものになっています。


■ どんな人にオススメ?

・組織を動かす立場にある人。
・元気をなくしているサラリーマン。


■ 関連しそうな本

 M. チクセントミハイ (著), 今村 浩明 (翻訳) 『楽しみの社会学』 2005年02月08日
 田尾 雅夫 『組織の心理学』
 二村 敏子 (編集) 『現代ミクロ組織論―その発展と課題』 2005年03月26日
 ステファン・P. ロビンス (著), 髙木 晴夫, 永井 裕久, 福沢 英弘, 横田 絵理, 渡辺 直登 (翻訳) 『組織行動のマネジメント―入門から実践へ』 2005年02月17日
 金井 寿宏, 高橋 潔 (著) 『組織行動の考え方―ひとを活かし組織力を高める9つのキーコンセプト』 2005年04月27日
 金井 壽宏 『ニューウェーブ・マネジメント―思索する経営』


■ 百夜百マンガ

ドラえもん (9)【ドラえもん (9) 】

 第9巻は、「わすれろ草」や「世の中うそだらけ」といった知的ギャグ、落語系のギャグが光っています。「わすれろ草」はドラえもんがポケットから出したとたんに名前を忘れちゃうし、ジャイアンとドラえもんたちの掛け合いは落語そのものです。「世の中ウソだらけ」は道具の名前が「ギシンアンキ」と「スナオン」。子供には分かりません。ジャイアンの「初めに払った50円と今渡した50円のアイス、合わせて100円」というロジックの凄さも大人になってから読むと実感できます。
 巻末の山場は、バケルくんとのコラボレーションの「ぼく、桃太郎のなんなのさ」です。3部構成からなる複雑な構成、600年のときをまたぐミステリー、ドラえもんの作品の中でも異彩を放っています。それにしても、滝があったり無人島があったりと、600年前とは言え、東京とは思えない地形です。

2005年6月 8日 (水)

住民サービスここが一番―全国都市番付

■ 書籍情報

住民サービスここが一番―全国都市番付   【住民サービスここが一番―全国都市番付】

  日本経済新聞社, 日経産業消費研究所 (編集)
  価格: ¥1,575 (税込)
  日本経済新聞社(1999/03)

 本書は、日本経済新聞と日経産業消費研究所が1998年に実施した全国670市・東京23区を対象とした調査を基に作成した「自治体版ミシュラン」の第1段です。調査項目は、「公共料金」「教育」「福祉・医療」「住宅など暮らしのインフラ」のサービスの内容4項目と、「透明性」「住民参加」「効率・活性化」「利便性」の行政システム化改善度合い4項目の計8項目です。
 各項目を1章ずつ解説したあと、第9章では調査の結果を横軸に「サービス水準」、縦軸に「財政度」を置いたポートフォリオにプロットし、「高サービス・低コスト型」の自治体から「低サービス・高コスト型」の自治体までレビューしています。
 単なる味気ないランキングではなく、新聞社らしい取材記事の形での解説が掲載されているので読み物としても十分読める構成になっています。
 なお、この「自治体版ミシュラン」作成はこの後も続けられ、2年ごとに続編が出版されています。調査項目の拡充はありますが、基本的には過去の調査を踏襲しているので時系列での変化も追えるはずです。


■ 個人的な視点から

 この手のランキングを発表されることに関しては、自治体関係者の中には苦々しく思っている人も少なくありません。特に首長にとっては低位にランキングされることは致命的です。旧経済企画庁が発表していた新国民生活指標(豊かさ指標、PLI:People's Life Indicators)もその一つで、最下位が定位置になってしまった某県の知事は激怒して自分の県でオリジナルの指標を立ててランキングを作成したほどです。この指標は、住民一人当たりのインフラの充実度を高く評価してしまうため、人口が少ないのに所得再分配としての公共事業をバンバンつぎ込む過疎地域ほど高く評価され(熊1頭あたりの高速道路延長など)、都市部住民の利便性などの主観的な満足度は反映されず、過疎県が軒並み上位にランキングされ、都市近郊の人口密度の高い県は低位にランクされる結果になりました。この豊かさ指標は、平成10年版までで廃止されましたが、上位にランキングされていた県の中には、まだ未練がましく独自に試算している県もあります。
 本書に掲載されているランキングの特徴は、豊かさ指標のように1位から47位までを直線的にランキングするのではなく、多元的な個性を持つ自治体を多元的な指標のままランキングしていることです。住民それぞれが全ての指標に関心があるわけではありません。子供が生まれて引越しをしようと思っている人にとっては保育園や教育が引越し先を選ぶ上での重要な指標になり、年老いた両親を心配する人にとっては住所地の高齢者福祉の水準が重要になります。このように、どの指標が重要であるかは人それぞれなので、総合ランキングそのものは個々の住民にはそれほど重要ではないのです。
 本書のような調査が定期的に、しかもいくつかの「流派」から発表されることは、長期的に見た「足による投票」を促すことにもなり、大変重要だと考えます。


■ どんな人にオススメ?

・近々引越しを予定している人。
・自治体関係者(特に首長、議員)。


■ 関連しそうな本

 日本経済新聞社, 日経産業消費研究所 (編集) 『全国優良都市ランキング―サービス度・革新度で測る自治体の経営力 (2005-06)』
 日本経済新聞社, 日経産業消費研究所 (編集) 『全国住民サービス番付〈2003‐04〉』
 日本経済新聞社, 日経産業消費研究所 (編集) 『全国住民サービス番付』
 行政経営フォーラム海外調査会 (翻訳) 『行政評価による地域経営戦略―ムルトマ郡におけるコミュニティ・ベンチマーキング』


■ 百夜百マンガ

ドラえもん (8)【ドラえもん (8) 】

 第8巻は、特にこれと言った感動巨編は無いのですが、台本を入れて火をつけると台本どおりに進行する「シナリオライター」や「人間製造機」でのび太がしずちゃんに引っかかれるくだりなど、大人になってから読むとクスリと笑ってしまう小ネタが充実しています。
 なお、手元の昭和59年9月発行の第65刷ではマッドウォッチは「狂時機」になっていますが、現在は「驚時機」に改変されているようです。

2005年6月 7日 (火)

法と経済学―新しい知的テリトリー

■ 書籍情報

法と経済学―新しい知的テリトリー   【法と経済学―新しい知的テリトリー】

  林田 清明
  価格: ¥2,940 (税込)
  信山社出版(1998/01)

 本書は、ミクロ経済学やゲーム理論の考え方によって法律を説明する「法と経済学」に関する概説書です。著者は法学部の教授であり、本書も「法学の泉」シリーズの一冊なので、主に法学部の学生やその出身者を対称に書かれています。
 副題に「新しい知的テリトリー」とあるとおり、本書の元になった『法学セミナー』の連載当時(1993年)には、「法と経済学」は日本の法学会では異端的な存在でした。しかし、国際的な法制度の変革の影響を受けやすい会社法の分野を中心に、日本の法制度自体が「法と経済学」の考え方抜きには考えられなくなり、現在では会社法のスタンダードな教科書は「法と経済学」をベースにしたものになり、2003年には「法と経済学会」も設立されるなど、国内でも一定の認知を得たものになっています。
「法と経済学会」
http://www.jlea.jp/


■ 個人的な視点から

 私自身は元々法学部の人間だったのですが、大学卒業後、働き出してみると経済学の勉強の必要性を感じ、現在は読む本もほとんど経済・経営学関係になってしまいました。両方の立場にいた人間の目から見ると、本書で解説されている「法と経済学」は法律学の考え方を否定するというものではなく、解釈中心の法学の世界では見えにくくなっている豊かなロジックに光を当てている、という感じを受けます。特に、民法の分野、所有権については、経済学の分野でも「契約理論」として研究が進んでいる分野ですので、今後の法改正などの政策立案に与える影響は大きくなるでしょう。
 また、PFIや市場化テストなどの民営化に伴う諸問題を考える上でも、「法と経済学」の考え方は有効になります。主にツールばかりが紹介される新しい政策手法を理解するための切り口として、「法と経済学」の考え方を身につけておくことは、今後ますます重要になると思います。


■ どんな人にオススメ?

・解釈学に物足らない法学部生・OB。
・新しい政策手法の理解の糸口を探している人。


■ 関連しそうな本

 ロバート・D. クーター (著), トーマス・S. ユーレン (著), 太田 勝造 (翻訳) 『法と経済学』
 ロナルド・H. コース (著), 宮沢 健一, 藤垣 芳文, 後藤 晃 (翻訳) 『企業・市場・法』 2005年04月29日
 柳川 範之 『契約と組織の経済学』 2005年02月22日
 三輪 芳朗, 柳川 範之, 神田 秀樹 (編集) 『会社法の経済学』
 神田 秀樹 『会社法』


■ 百夜百マンガ

ドラえもん (7)【ドラえもん (7) 】

 前巻で未来に帰ってしまったドラえもんが、のび太の元に戻ってきます。その原因になったのはドラえもんが残していった「ウソ800(エイトオーオー)」という道具(薬)です。子供の頃は分からなかったネーミングがしびれます。
 寝ている間に仕事をしてくれる「小人ロボット」には憧れます。私が仕事をしているときにも夜中に「小人さん」が現れて仕事をしてくれることがあるのですが、残念ながら私のところの「小人さん」は計算やパソコンが苦手なようで、気がつくと出鱈目な文字がモニターに並んでいたりします。(^^;

2005年6月 6日 (月)

一勝九敗

■ 書籍情報

一勝九敗   【一勝九敗】

  柳井 正
  価格: ¥1,029 (税込)
  新潮社(2003/11/15)

 本書は、カジュアルウェアの世界に革命を起こした「ユニクロ」を作り上げた(株)ファーストリテイリングのCEO、柳井正氏が語るユニクロの歴史と経営哲学です。
 ユニクロ創業からサプライチェーンを組み上げて行くまでの過程は、タイトルどおり失敗の連続であったことが分かります。だからこそ、会社の急成長の様子をワクワクハラハラしながら読むことができます。
 巻末の「経営理念の解説」と「起業家十戒」「経営者十戒」は、時間がなければここだけでも読んでもらいたいほどコンパクトにまとまっています。23条まである経営理念は、当初7つくらいだったものを順次拡張して行ったものだそうです。


■ 個人的な視点から

 個人的な印象として、ユニクロの服は吉野家の牛丼に通じるイメージがあります。それは「旨い、早い、安い」の三拍子がそろっていると言う点でもあり、定番の商品なので悩まずに買える、という点でもあります。
 「旨い」は品質の良さに、「早い」は他のアパレルチェーンのように大規模なバーゲンセールを行わなくてもすむ商品の回転の速さに相当し、「安い」はバーゲンを待たなくても買える値段に相当します。他のお店のバーゲンでの投売りに比べれば高いのですが、いちいち服を買うのにお店の都合なんかに合わせるのもばかばかしく、欲しいと思ったときに事前に考えていたものがリーズナブルな価格で買えることが、吉野家に通じるユニクロの強さではないかと思います。
 どちらも、強力なサプライチェーンをきちんと構築していることが強さの秘密なんですが、BSEショックのような環境の大きな変化にさらされたときに、ユニクロがどう対応するのかが楽しみです。


■ どんな人にオススメ?

・最近のユニクロしか知らない人。


■ 関連しそうな本

 金井 寿宏 『リーダーシップ入門』 2005年03月31日
 ジョン・P. コッター (著), 梅津 祐良 (翻訳) 『企業変革力』 2005年02月19日
 ヘンリー ミンツバーグ (著), 奥村 哲史, 須貝 栄 (翻訳) 『マネジャーの仕事』』
 C.I.バーナード (著), 山本 安次郎 (翻訳) 『新訳 経営者の役割』 2005年03月29日


■ 百夜百マンガ

ドラえもん (6)【ドラえもん (6) 】

 子供の頃は「流行性ネコシャクシビールス」や「ダイリガム」、「ジキルハイド」などの道具のネーミングの意味が分かりませんでしたが、大人になってから読むともう一度楽しめます。
 第6巻は「のび太のおよめさん」と「さようなら、ドラえもん」の2大感動作品が収録されていることにも注目です。「さようなら、ドラえもん」は原稿が無くなって雑誌からトレースし直したらしく絵が汚いのが残念ですが。

2005年6月 5日 (日)

週末起業

■ 書籍情報

週末起業   【週末起業】

  藤井 孝一
  価格: ¥714 (税込)
  筑摩書房(2003/08/06)

 本書は、サラリーマンが仕事を続けながら、週末や夜間・早朝の時間を使っての起業を奨めているものです。雑誌などでは、「一国一城の主」などの言葉で起業を煽るものが少なくありませんが、現実には起業には大きなリスクが伴い、特にスタートアップ時は現金収入がガクンと減り、起業したのにアルバイトのような仕事ばかりしている、ということも少なくありません。そこで、スタート時には、サラリーマンとして生計の基本的な部分は維持しながら、週末・夜間に起業家としての仕事をすることで、スタートアップ時のリスクを低く抑えながら起業しよう、というのが本書のメッセージです。
 しかし、夜間や週末だけで仕事になるのでしょうか。それを可能にしたのがインターネットです(サラリーマンの副業と言うと「ネットワーク・ビジネス」という名前のネズミ講に引っかかる人もいますが・・・。)。webサイトやメルマガを使った通信販売やコンサルティングの仕事ならばメールを中心にした連絡手段でも行うことができます。その代わり、家族と過ごす時間が少なくなるので、著者は家族ときちんとコミュニケーションをとり、上手く巻き込むことも重要だと述べています。
 とかく大げさになりやすい「起業」という言葉のハードルを下げてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 「週末起業」という言葉と相性がよさそうな言葉に「社会起業家」という言葉があります。「社会起業家」とはビジネスの手法を使って社会的な問題を解決する人々のことです。ただし、ビジネスになりにくい分野を対象としているので、通常の起業以上にお金になりにくいという問題があります。
 そこで、平日の昼間は、サラリーマンとして働きながら、週末や夜間を社会的な問題解決のための起業に当てる「週末社会起業家」という働き方が考えられます。
 現状でも、社会的な問題を解決するために市民運動やNPO活動を行っている人の多くは、別に本業を持ちながら、週末を市民運動に当てている人がほとんどです(「プロ市民」という言葉がありますが、別に彼らも市民運動でお金をもらっているわけではありません。)。このような時間の使い方と「週末起業」という考え方は大変相性がよいのではないかと思います。
 「週末社会起業家」がたくさん生まれるようになると、社会の風通しがもっとよくなるのではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・起業を考えているサラリーマン。
・社会起業家になりたいけど金銭面でのリスクを心配している人。


■ 関連しそうな本

 松山 真之助 『早朝起業―「朝5時から9時まで」の黄金時間を自分のために使う方法』
 行本 明説, 日本タイムマネジメント普及協会 『図解・仕事術 最強の時間力―タイムマネジメントの法則60』
 藤井 孝一 『週末起業チュートリアル』
 町田 洋次 『社会起業家―「よい社会」をつくる人たち』 2005年02月16日


■ 百夜百音

はらいそ【はらいそ】 細野晴臣&イエロー・マジック・バンド オリジナル盤発売: 1978

 YMO前夜のジャパニーズポップスの傑作として名高い作品です。
 「ジャパニーズ・ルンバ」とか「フジヤマ・ママ」みたいな変な曲もたくさん入っているんですが、どの曲もハズレがありません。
 このアルバムにたくさんリスペクトしまくっているのが、ピチカートの『月面軟着陸』です。「アロハ・オエ・ブルース」では「ジャパニーズ・ルンバ」の「チョトマテクダサイ」がこっそり入ってるし、アルバムのエンディングには「この次はモア・ベターよ」だし・・・。


『月面軟着陸』月面軟着陸

2005年6月 4日 (土)

ヒット商品の企画書が見たい!―本物満載!ひと目でわかるプロのマル秘企画術

■ 書籍情報

ヒット商品の企画書が見たい!―本物満載!ひと目でわかるプロのマル秘企画術   【ヒット商品の企画書が見たい!―本物満載!ひと目でわかるプロのマル秘企画術】

  戸田 覚
  価格: ¥1,680 (税込)
  ダイヤモンド社(1998/08)

 本書は、「カルピス・ウォーター」や「熱さまシート」、「通勤快足」などのヒット商品の企画書を、ほぼそのまま紹介したものです。もちろん、社外秘の細かい数字などは黒塗りされていますが、重点の置き方、無駄な情報の切り捨て、イラストの使い方など、優れものの企画書そのものを、企画した本人のインタビューと合わせて読むことができます。ヒット商品を生んだ企画会議のプレゼンの場に、自分が居合わせているような臨場感溢れる企画書が22本、一気に読ませる内容です。


■ 個人的な視点から

 本書が出版されたのは今から7年前ですが、企画書が製品化されヒット商品になるまで数年を要するので、収録されている企画書の中には1980年代のものも少なくありません。そのため、多くは「ワープロ専用機のプリントアウト+手書きイラスト」の企画書で、パワーポイントにクリップアートをちりばめた現在のプレゼンシートと比べると見た目的に見劣りしてしまいます。
 しかし、大事なことは、ワープロ専用機や手書きの企画書でも伝えたい重要なメッセージだけに絞り込まれた企画書がすばらしい企画書だということです。本書に紹介されている珠玉の企画書に比べると、現在あちこちに氾濫しているパワーポイントのスライドは、思いついたこと、読み原稿、調べたデータを全部放り込んだだけのものがいかに多いかを思い知らされます。
 また、雑誌の特集やビジネス書で「必勝!プレゼンテクニック」「図解のテクニック」のような記事をよく見かけますが、本書とあわせて読むとより理解が深まると思います。


■ どんな人にオススメ?

・いつもぱっとしない企画書しか作れない人(・・・自分だ!)


■ 関連しそうな本

 加藤 昌治 『考具―考えるための道具、持っていますか?』
 川喜田 二郎 『発想法―創造性開発のために』
 梅棹 忠夫 『知的生産の技術』 2005年05月05日


■ 百夜百音

A LONG VACATION【A LONG VACATION】 大滝詠一 オリジナル盤発売: 1981

 日本ポップス会の重鎮であり、「うなづきマーチ」の作曲者としても知られている大瀧詠一氏の代表作です。宅録マニアには涎の出るようなテープコンプ感たっぷりのポップなサウンドは、やっぱりカーステで聴くのにぴったりです。
 最近の若い人は、宅録始めたときからHDレコーダーやPCに録音している、という人が少なくありませんが、私が宅録を始めたときは、ミニコンポのダブルデッキにマイクミキシング機能を使ってピンポンで多重録音していました。最初に録音するリズムマシンやベースの音が劣化するのは仕方ないのですが、左右のカセットデッキのピッチが狂っていて、ピンポン録音を繰り返すうちに少しずつ楽器のチューニングを上げていかなければならず苦労しました。その後はスティーヴ・ヴァイも愛用していた名機「R8」をミキサーとセットで30万で入手(しかも雑誌の売ります買います欄)し、大学時代はずっと使っていました。HDレコーダー(VS-880)を買うまで使っていましたが、楽器の音がなじみやすいアナログオープンリールは未だに捨てられません。


『大瀧詠一 SONGBOOK2(「うなづきマーチ」収録)』大瀧詠一 SONGBOOK2(「うなづきマーチ」収録)

2005年6月 3日 (金)

ある理論経済学者のお話の本

■ 書籍情報

ある理論経済学者のお話の本   【ある理論経済学者のお話の本】

  ジョージ・A. アカロフ (著), 幸村 千佳良, 井上 桃子 (翻訳)
  価格: ¥2,940 (税込)
  ハーベスト社(1995/03)

 本書は、1970年に発表された論文"The Market for Lemons: Quality Uncertainty and the Market Mechanism"を含む8本の論文を収めた論文集です。「レモン」とは、質の悪い中古車のことを言います。アメリカでは、中古車の取引は専門業者を通さずに個人取引で行われることが多く(少なくとも当時は)、また、中古車の整備状況は外見からは見分けがつきにくいために、見た目は良いのに質の悪い車(=レモン)を掴まされることが多いそうです。そのため、レモンを掴まされるのを恐れて、成立するはずの取引が行われなかったり、本当に整備状況の良い車(「マロン」と言うらしいです。)が本来の価値よりも安い値段でした取引されない、ということが起きてしまいます。つまり、売主が持っている自動車に関する情報の量に比べ、買主が入手できる情報の量が少ないために、取引が阻害されているのです。
 著者はこの「情報の非対称性の問題」を上記の短い論文にまとめ、その後の情報の経済学や契約理論の発展に大きく寄与しました。本書に収められた論文は、中古車以外にもカースト制や「ラット・レース」(過酷な労働競争)など、それまでの経済学では分析の対象とされて来なかった非市場的な社会現象を経済学で分析する道を切り拓きました。本書は、経済学の可能性を大きく広げた記念碑的な一冊と言うことができます。


■ 個人的な視点から

 今ではミクロ経済学の教科書でも「レモン」の例がよく使われるようになりましたが、ところで、質の悪い中古車を「レモン」と呼ぶのはなぜでしょうか。本書の訳注によると、「アメリカ人の酸っぱいものを嫌う思考を反映している」のだそうです。著者本人にも確認したというこの訳注は本書の一つの見所となっていて、著者本人が日本語版の序文の中で言及しています。16ページの本文に対して訳注が10ページもあるのも異例ですが。
 ちなみに、質の良い中古車を「マロン」と呼ぶのは、「レモン」に対する韻も踏んでいるのかな、と思います。
 なお、情報の非対称性の問題への対策としてはどのようなものがあるのでしょうか。本書では、保証をつけること、ブランド、免許などに言及されています。現在の日本では、Yahoo!オークションやAmazonのマーケットプレイスが中古品に関する個人取引の市場として機能していますが、ここでは取引相手による評価が表示されるようになっています。このような評判のメカニズムも「ブランド」の一変形と言うことができるかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・ヤフオクで期待はずれのものをつかまされた経験のある人。


■ 関連しそうな本

 伊藤 秀史, 小佐野 広 『インセンティブ設計の経済学―契約理論の応用分析』 2005年02月26日
 神戸 伸輔 『入門 ゲーム理論と情報の経済学』
 ポール・ミルグロム, ジョン・ロバーツ (著), 奥野 正寛, 伊藤 秀史, 今井 晴雄, 八木 甫(翻訳) 『組織の経済学』 2005年01月24日
 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』 2005年04月05日
 伊藤 秀史 『契約の経済理論』


■ 百夜百マンガ

土曜ワイド殺人事件【土曜ワイド殺人事件 】

 「天才×天才」というと大げさですが、ボケるときの間の取り方が近い二人が競演しているのがとても楽しそうです。
 「脚本家や映画監督が、他の人の作品に俳優として参加してアドリブを飛ばしまくる」というような姿を連想してしまいました。

2005年6月 2日 (木)

「クビ!」論。

■ 書籍情報

「クビ!」論。   【「クビ!」論。】

  梅森 浩一
  価格: ¥1,260 (税込)
  朝日新聞社(2003/06)

 本書は、いくつかの外資系企業で人事部長を務め、1000人からのクビを斬った著者が語る「プロフェッショナル論」です。
 著者は、20代の間を日本企業と外資系企業との合弁会社で働き、チェース・マンハッタン銀行で人事の仕事についてから約5年、34歳でケミカル銀行東京支店の人事部長に就き、その後も、チェース・マンハッタン銀行、ソシエテ・ジェネラル証券東京支店で人事部長として「クビキラー」の異名をとる活躍をした方です。
 本書で主に語られているのが、クビ斬りのリアル現場、ということもあり、多くの人は怖いもの見たさ、物珍しさで読んだ人も多いのではないかと思いますが、著者が一番語りたい点は「プロになれ」ということではないかと思います。
 一方で、日本企業で行われているような「リストラ」を「目の粗い網を投げるようなもの」として、何のためにクビを切るのかが分かっていない、首切りをして企業の競争力、活力を下げていては意味がないと痛烈に批判しています。
 自分のクビが心配な人も安泰だと思っている人もぜひ読んでみてください。


■ 個人的な視点から

 自らの仕事に誇りを持ち、「就社」ではなく「就職」という言葉にふさわしいプロの世界で繰り広げられる、すさまじいクビ斬りの様に最初は衝撃を受けますが、よく読んでいくと、著者は一番わかりやすい退職の部分を切り口にしただけであり、採用から仕事のやり方、そして退職までが同じ行動原理で動いていることに気づかされます。それは常に成果と報酬がセットになっているということです。
 本書の中で、外資系企業の社員を、現場から現場を渡り歩く職人の姿に喩えています。日本企業のサラリーマンはクビを斬られると「これで俺もおしまいだ」と考えてしまうのに対し、外資系企業の社員はクビを斬られても、その現場で自分の役割がなくなっただけ、また次の現場に移ればいい、という感覚で再就職先を探し、どこの企業でクビになったかが評価される対象にすらなるそうです。
 腕一本で現場を渡り歩く職人が1日(または短期間)の成果に対して報酬を受けとっているのに対して、外資系企業の社員は1月や1年の成果に対して報酬を受け取っているという感覚なのかもしれません。では日本のサラリーマンや公務員はどうなるでしょうか。無理やりこじつければ40年間単位の成果に対して報酬を受け取っているという感覚なのかもしれません。志木市の穂坂市長が、50代の公務員の給料が高いと言われるが、彼らが若い頃の給料は本当に安く、公務員になるなんて馬鹿のすることだ、と言われていた、と自らの体験(市長自身も元町・県の職員)を元に語られていました。これは、40年近くかけて成果と報酬をバランスする感覚がベースになっているのかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・クビ斬りの現場を覗いてみたい人。
・外資系企業のプロフェッショナル論を聞きたい人。


■ 関連しそうな本

 キャメルヤマモト 『稼ぐ人、安い人、余る人―仕事で幸せになる』 2005年05月24日
 高橋 伸夫 『虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ』 2005年03月30日
 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』 2005年04月05日
 樋口 美雄 『雇用と失業の経済学』 
 八代 尚宏 『日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済』 2005年03月23日
  『』 


■ 百夜百マンガ

はじめの一歩―The fighting!【はじめの一歩―The fighting! 】

 『少年マガジン』誌の黄金時代を代表する作品です。ってまだやってたのか・・・。最初は主人公の成長物語が中心でしたが、だんだんとサイドストーリーが広がってきて大長編になってしまいました。15年の間、緊張感を保ち続ける方法としては上手い方法だと思います。
 (画像のファイル名で遊んでしまいました。)

2005年6月 1日 (水)

社会起業家―社会責任ビジネスの新しい潮流

■ 書籍情報

社会起業家―社会責任ビジネスの新しい潮流   【社会起業家―社会責任ビジネスの新しい潮流】

  斎藤 槙
  価格: ¥819 (税込)
  岩波書店(2004/07)

 本書は、主に米国の事例を中心に活躍する「社会起業家」、ビジネスの手段を使って社会的な問題を解決する起業家たち取材し、社会にどのようなインパクトがあるのかを探ろうというものです。
 前半では、社会起業家とは何か、どのような社会の潮流の中で生まれてきたのか、社会起業家を生み出す基盤になったものは何か、などの総論的な内容を、ベン&ジェリー・アイスクリームやコモングラウンドなどの取材を交えながら展開しています。
 後半では、日米の社会起業家の紹介ということで、米国からはパタゴニア、CEP(経済優先順位研究所)・SAI(ソーシャル・アカウンタビリティ・インターナショナル)、ホワイト・ドッグ・カフェを、日本からはムパタ・サファリ・クラブ&『ソトコト』、(財)共用品推進機構、アースデーマネーを紹介しています。
 多くの「社会起業家」のメッセージから元気をもらうことができる一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書と同じタイトルの新書(町田 洋次著『社会起業家―「よい社会」をつくる人たち』)が4年ほど先に出版されていますが、4年前の時点には「社会起業家」というコンセプトを紹介することに大きなポイントが置かれているのに対し、本書では実際の社会起業家の生の声を伝えることに多くの紙幅が当てられています。また、町田氏の著書がイギリスのデモスというシンクタンク(小さいがブレア政権にも影響力がある)のレポートを中心に置いているのに対して、本書はアメリカの事例やデューク大のグレゴリー・ディーズ教授の論文から解説を始めている点などが異なります。
 ブレア首相の演説にも登場するなどイギリスでも認知度の高い言葉ではありますが、事例や研究の蓄積ではアメリカの方が量的には勝っているようです。アメリカの社会起業家の活動を知るイントロダクションとしては本書が適しているのではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・社会企業家の活動から元気をもらいたい人。


■ 関連しそうな本

 斎藤 槙 『企業評価の新しいモノサシ―社会責任からみた格付基準』
 町田 洋次 『社会起業家―「よい社会」をつくる人たち』 2005年02月16日
 D. ヘントン, K. ウォレシュ, J. メルビル (著), 加藤 敏春 (翻訳) 『市民起業家―新しい経済コミュニティの構築』 2005年03月15日
 レスター・M. サラモン (著), 入山 映 (翻訳) 『米国の「非営利セクター」入門』 2005年01月25日
 上山 信一 『「政策連携」の時代―地域・自治体・NPOのパートナーシップ』 2005年03月28日
 谷本 寛治, 田尾 雅夫 (編著) 『NPOと事業』 2005年01月28日


■ 百夜百マンガ

茄子 (3)【茄子 (3) 】

 最終巻である3巻の一番の山場は、冒頭の作品である「2026年、富士山中腹に現れた**の恐怖」ではないかと思います。一大スペクタクル、でも麻雀。
 お見舞いに来る熊やインドの「有野」、数が苦手な自転車レーサー、どれも味がありますが、最終回はやはり世捨て人のおっさんが〆てくれます。

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