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2005年9月

2005年9月30日 (金)

交渉とミディエーション―協調的問題解決のためのコミュニケーション

■ 書籍情報

交渉とミディエーション―協調的問題解決のためのコミュニケーション   【交渉とミディエーション―協調的問題解決のためのコミュニケーション】

  鈴木 有香 (著), 八代 京子(監修)
  価格: ¥2,993 (税込)
  三修社(2004/06)

 本書は、様々な異文化コミュニケーションにおいて発生する「コンフリクト(当事者同士の現在の願望が同時には達成されないと思い込むことや利害の相違を感じていること)」を解決するコミュニケーションのとり方と、その技法としての「ミディエーション」について演習を交えて解説したものです。
 まず、コンフリクト解決の米国型基本モデルとして、「(1)回避、(2)交渉、(3)調停、(4)仲裁、(5)訴訟、(6)闘争」の6つのモデルがそれぞれ解説されています。併せて、日本型のコンフリクト解決モデルとして水戸黄門型の解決の形も示されていますが、日本ではコンフリクトと意識されず、当事者の存在や責任の所在が曖昧な「揉め事」として捉えられるという点が印象に残りました。
 また、交渉場面でのコミュニケーション・スタイルを
 ・攻撃する(Attaking)
 ・回避する(Evading)
 ・情報を伝える(Informing)
 ・相手の心を開く(Opening)
 ・共通の基盤を作る(Unitigng)
の5つに分類し、「交渉のAEIOU」と紹介しています。これらは、自分と相手への配慮によって5つの領域に分けることができ、交渉場面のコミュニケーションの方法である「(1)儀礼交換、(2)攻撃、(3)回避、(4)心を開く、(5)情報伝達、(6)共通点の表明、(7)問題の最小転嫁の質問、(8)建設的提案」はこれらの上にプロットすることができます。

     自分への配慮 +
      高い
相  2   ↑ 1,6,7,8 相
手     |     手
へ  A  |  U  へ
の     |     の
配←――― I ―――→配
慮    5,6,8     慮
   E  |  O   
-     |     +
   3   ↓ 4,6
   自分への配慮 -

 この他にも、トレーニングとして、会話文を例に二種類(内容レベル、感情レベル)のパラフレーズの使い方や、相手を否定せずに自分の意見を明確に伝える「わたし文(I Statement)」、問題を相手に伝える「DIEC方法」(Describe:事実描写、Impact:影響、Express:自己表現、Confirm:確認)や「DESO方法」(Describe:事実描写、Express:自己表現、Specify:具体化、Outcome:結果)、そしてタイトルにもなっている「ミディエーション(コンフリクトに直面する当事者が第三者の手助けを借りながら話し合いで問題解決する方法)」などが解説されています。
 交渉に関する理論と実践とのバランスが非常に取れていて、日々職場でのコンフリクトに直面する管理職や、家庭でのコンフリクトに悩まれている方はぜひ読んでみてください。


■ 個人的な視点から

 本書の中で、文化人類学者のエドワード・ホールによる、時間の捉え方の文化的傾向の区分が紹介されました。これは「ポリクロニック・タイム(Polychronic Time)」と「モノクロニック・タイム(Monochronic Time)」の二つの区分です。
 計画やスケジュールを重視する「モノクロニック・タイム」の文化(北欧、ドイツ、米国)が時間通りに物事を一つずつ片付けて行く時間の使い方であるのに対し、「ポリクロニック・タイム」の文化では、その時々の状況を重視する傾向があるそうです。日本は仕事はモノクロニック・タイム的に進行する一方で、島型のオフィスレイアウトなどポリクロニック・タイム的であるそうです。
 こういう視点で、様々な日本企業の風土を分析するのも面白そうです。どんな例があるでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

 ・日々のコンフリクトに頭を痛めている人。


■ 関連しそうな本

 マックス H・ベイザーマン (著), マーガレット A・ニール (著), 奥村 哲史 『マネジャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋』 2005年07月04日
 ウィリアム・L. ユーリ, ステファン・B. ゴールドバーグ, ジーン・M. ブレット (著), 奥村 哲史 (翻訳) 『「話し合い」の技術―交渉と紛争解決のデザイン』 2005年09月15日
 印南 一路 『ビジネス交渉と意思決定―脱"あいまいさ"の戦略思考』 2005年6月28日
 平原 由美, 観音寺 一嵩 『戦略的交渉力―交渉プロフェッショナル養成講座』 2005年09月16日
 八代 京子, 樋口 容視子, コミサロフ 喜美, 荒木 晶子, 山本 志都 (著) 『異文化コミュニケーション・ワークブック』


■ 百夜百マンガ

総務部総務課山口六平太【総務部総務課山口六平太 】

 日本の古き良き(?)企業文化といえばこの作品ですが、どんな問題も同時にこなしてしまう六平太の時間感覚はポリクロニック・タイム的なのでしょうか。

2005年9月29日 (木)

イノベーションへの解―利益ある成長に向けて

■ 書籍情報

イノベーションへの解―利益ある成長に向けて   【イノベーションへの解―利益ある成長に向けて】

  クレイトン・クリステンセン, マイケル・レイナー (著), 玉田 俊平太, 櫻井 祐子 (翻訳)
  価格: ¥2,100 (税込)
  翔泳社(2003/12/13)

 本書は、著者が前著『イノベーションのジレンマ』で打ち出したコンセプトである「破壊的イノベーション」をどのようにマネジメントするか、ということを述べたものです。つまり、成功した優良企業が、後につまづいてリーダーの座を追われる理由は何か、そして、そのような失敗の原因を回避して、利益ある成長を導く手助けとなるべく、本書は執筆されています。
 「破壊的イノベーション」とは、「現在手に入る製品ほどには優れていない製品やサービスを売り出すことで、その軌跡を破壊し、定義し直す」こととされていて、「従来製品よりも優れた性能で要求の厳しいハイエンドの顧客獲得を狙う「持続的イノベーション」と対比して用いられます。一般的には、シンプルで安上がりなローエンド市場において、新しい顧客や要求の厳しくない顧客にアピールします。破壊的イノベーションの具体例としては、
 ・アマゾン・コム:伝統的な書店に対する破壊。
 ・デル・コンピュータ:直販方式と、生産性・資産回転率が高い生産モデル。
 ・Eメール:既存の郵便サービスに対する破壊。
などが挙げられています。
 本書の構成は、本書が取り扱っている幅広い問題を反映して、各章がかなりバラバラな印象を受けます。そのため、関心が沸かない章は飛ばして読んでもあまり支障がないと思います。大雑把には後半部分は、企業がつまづく原因を回避するにはどのような組織であるべきか、どのような投資を行うべきか、という問題解決に該当する部分となっています。
 各章それぞれに読み応えのある内容になっていますので、一気に読み通す時間がない、という忙しい人も、1章ずつ読んでいけるようになっています。組織の成長にまつわる問題の解決策を求めている人にはヒントになるかもしれない一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書のうち、最近の自分の関心に近かったのは、製品アーキテクチャとイノベーションについて解説した「第5章 事業範囲を適切に定める」です。この章では、性能の向上に伴い、当初は顧客ニーズを満たす性能に「十分でない」状態であったものが、性能がニーズを追い越してしまう「オーバーシューティング」(行き過ぎ)という状態になってしまうことを解説しています。そして、「十分でない」状態においては、統合型企業が持つ相互依存的アーキテクチャが、機能性と信頼性で優位に立つこと、そして、「オーバーシューティング」の状態においては、遅れてやって来る非統合型企業のモジュール型アーキテクチャがスピード、応答性、利便性で優位に立つことが述べられています。これらの例として、独自アーキテクチャを持つアップル・コンピュータが、パソコン産業の創世記(つまり性能が「十分でない」頃)に優位性を持っていたのに対し、パソコンの性能が上がるにつれて、オープンなアーキテクチャを持つIBM互換機が郵政インあったことを挙げています。
 本書で解説されている「解」は、こうすれば上手くいく、という明確なものではない(そんなものがあるはずがない)ですが、様々な経営書の中で、当たり前に使われているマーケティングや組織、戦略の重要性を、イノベーションと企業の成長という文脈の中に位置づけたところに価値があるのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・組織の成長のジレンマに悩む経営者。


■ 関連しそうな本

 クレイトン・クリステンセン (著), 玉田 俊平太, 伊豆原 弓(翻訳) 『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』
 クレイトン・M・クリステンセン, スコット・D・アンソニー, エリック・A・ロス (著), 宮本 喜一 (翻訳) 『明日は誰のものか イノベーションの最終解』
 キム・クラーク, カーリス・ボールドウィン (著), 安藤 晴彦 (翻訳) 『デザイン・ルール―モジュール化パワー』
 米倉 誠一郎 『経営革命の構造』 2005年09月09日


■ 百夜百マンガ

ヨシイエ童話【ヨシイエ童話 】

 「世直し源さん」シリーズが大好きでした。ステテコに腹巻、携帯灰皿を持ち歩き常に煙をくゆらせている渋いオッサンが国会議員の性根を叩き直す、というストーリーに胸がすっとなる人も多かったのではないかと思います。

2005年9月28日 (水)

スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法

■ 書籍情報

スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法   【スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法】

  ダンカン ワッツ (著), 辻 竜平, 友知 政樹 (翻訳)
  価格: ¥2,940 (税込)
  阪急コミュニケーションズ(2004/10)

 本書は、「ネットワークの科学」という新しい学問分野について、その理論的背景などの成立過程の解説と、ネットワークシステム(スモールワールド、スケールフリー・ネットワーク)のモデルの解説、そして、病気やコンピュータウイルス、バブル景気や流行など現実社会で起きている現象の解説を行っているものです。
 社会心理学者のスタンリー・ミルグラムが行った実験による「スモールワールド問題」については、ご存知の方も多いかもしれません。これは、世界中どんな人とも、間に6人の人を介すれば到達することができる、というもので、ミルグラムが、任意に選んだ数百人に手紙を送り、知人を介してボストンのある株式仲買人に手紙を送ってほしい、という実験を行った結果、平均6ステップくらいで届いたことから、「世界は6人を介してつながっている」という逸話が有名になりました。実際には、ミルグラムの実験の検証はあまり行われておらず、任意に選んだ郵送先リストにも偏りがあり、特にボストンから遠いネブラスカに送った96人のうち、実際に目標に到達したのは18通しかなかった、ということです。
 本書では、このスモールワールドの問題や、ナプスターなどのインターネット上のピア・トゥ・ピア・ネットワークの成り立ち、コンピュータウイルスの伝播など分析の他、バブル景気がどのようにして生まれ崩壊して行くか、『ハリー・ポッター』などの流行(大域的なカスケード)はどのような条件の下で起こるのか、など、様々な問題をネットワークの科学の観点から分析しています。
 ネットワークで結び付けられた世界を見るための「目」として、本書の視点は今後大変重要になると思います。「ネットワークの科学」に関連する文献も数多くありますが、まずは本書か『ティッピング・ポイント』(読み物としては面白いが「ネットワークの科学」への入り口としてはやや遠回り)から読み始めてはいかがでしょうか。


■ 個人的な視点から

 本書は、スモールワールド問題への入門書として、様々な文献につながるイントロダクションとしてきわめて有用です(それゆえに、訳書に参考文献リストが付いていないことに対する非難がアマゾンの書評に書かれていますが)。バラバシの『新ネットワーク思考』や本書にも共同研究者として何度も名前が登場するストロガッツの『SYNC』など、これから読んでみたくなる本が芋づる式に出てきます。
 本書の中にも触れられていますが、アマゾンの「おすすめ本」リストは大変使いやすく、最近は書籍購入目的以外にも、図書館で借りる本を探すのにも利用しています。アマゾンで購入した本以外にも、図書館で借りて読んだ本を「持っています」で追加して行くとドンドンおすすめの精度が上がります。通常は同じ著者や参考文献のつながりで本を探していくものですが、この方法だと思いがけない本を紹介されることもあるので読書の幅を広げるには最適です。


■ どんな人にオススメ?

・「ネットワークの科学」の入り口を覗いてみたい人。


■ 関連しそうな本

 アルバート・ラズロ・バラバシ (著), 青木 薫 (翻訳) 『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』
 スティーヴン・ストロガッツ (著), 蔵本由紀, 長尾力 (翻訳) 『SYNC』
 安田 雪 『ネットワーク分析―何が行為を決定するか』
 マルコム グラッドウェル (著), 高橋 啓 (翻訳) 『ティッピング・ポイント―いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか』 2005年02月12日
 エベレット・M.ロジャーズ (著), 青池 慎一, 宇野 善康 (翻訳) 『イノベーション普及学』
 ロナルド・H. コース (著), 宮沢 健一, 藤垣 芳文, 後藤 晃 (翻訳) 『企業・市場・法』 2005年04月29日


■ 百夜百マンガ

ふたり鷹【ふたり鷹 】

 同じ産婦人科で同じ日に生まれ、取り違えられた二人の「鷹」が、成長した後にライバルとして対決する、という「世界の狭さ」と運命を描いた作品です。作者のメカ好き、バイク好きが随所ににじみ出ています。娘さんの名前は「まのちゃん」というらしいことが『究極超人あ~る』でネタにされています。

2005年9月27日 (火)

仕事に使えるゲーム理論

■ 書籍情報

仕事に使えるゲーム理論   【仕事に使えるゲーム理論】

  ジェームズ ミラー (著), 金 利光 (翻訳)
  価格: ¥2730 (税込)
  阪急コミュニケーションズ(2004/02)

 本書は、ビジネスの世界で必ず役に立つゲーム理論の考え方を、豊富な実例を用いて紹介しているものです。とにかく数式は全く出てきません。また、マイクロソフトやインテル、e-ベイ、エキサイト、エンロンなど、読者に馴染みのある企業が実名で登場すること、映画「ビューティフル・マインド」について言及していること(映画で用いられている例が不適切であることを指摘していますが)も新しい本の良さかもしれません。
 内容に関しては、比較的オーソドックスな構成になっていますが、目新しいところでは、多くのゲーム理論をベースにした類書では取り上げていない「ネットワーク外部性」や株式市場について章を割いている点が挙げられます。また、章のタイトルも専門用語を単に用いるのではなく、よりビジネス向けに内容が伝わりやすいような工夫がされています。例えば、モラル・ハザードの章は「他人の金を使う」、シグナリングは「限られた情報で生き残る」、エージェンシー問題は「従業員のやる気を引き出す」などです。中でもモラル・ハザードについては、日本では「道徳の欠如」や「倫理の崩壊」と訳す人が多く(国立国語研究所では「倫理崩壊」という言い換え例を提案しています。)、本来の使われ方ではなく道徳の問題にされてしまい、冷静な分析を妨げてしまいがちです。アメリカで「モラル・ハザード」という言葉がどのように受け止められているのかはわかりませんが、「他人の金」という説明はわかりやすいものだと感心しました。
 他のテキストでも見かけるようなオーソドックスな内容もきちんと押さえていて、定番の「囚人のジレンマ」の他、「チキンゲーム」、「放蕩息子(ふしだらな娘)」、(←間違い)「共有地の悲劇」、「チェーンストア・パラドックス」、「第一次大戦での非公式休戦協定」、「勝者の呪い」などが解説されていますので、本書を一通り読めば、よく使われるゲーム理論のビジネスへの応用の話題にはついていけるのではないかと思います。
 願わくば索引・用語一覧がほしかったところですが、一般向けの数学を使わないテキストとしてはかなり充実したものではないでしょうか。


■ 個人的な視点から

 本書の特筆すべき点は、数学がほとんど使われていない点です。しかもほとんどというよりも、練習問題を含めて数式は全く使われていません。そのため、訳書は縦書きで作られています(原書の方は、確認したわけではありませんが、おそらく横書きであったと思われます。)。400ページ近くある分厚い本であるにもかかわらず(数式を使わないから厚くなってしまったと言うこともできますが)、数式が出てこないので、経済学の知識のないビジネスマンでも読むことができる、ということなのかもしれません。
 しかし、本書のような分厚い本を易々と読めるようなビジネスマンにとって、数式が出てくるということがそれほどの障壁になるのでしょうか。しかも、微分積分が出てくるというレベルではなく、四則演算の数式も出てこないのです。
 ふと思ったのは、もしかするとアメリカ人はものすごい天才的な数学者を輩出する一方で、普通の大学レベルの教育を受けた一般的なビジネスマンは数学がとても苦手なのではないか、ということです。数式が難しいかどうか、という問題ではなく、「数式が出てくるだけで見るのも嫌だ」という数学アレルギーの人が多いので、ビジネス向けのこれほど分厚い本に数式が出てこないのかもしれません。
 そして、これは他人事ではなく、日本人の理系離れがこれだけ進んでいる現在、日本でも同じような数学アレルギーが確実に増えているのではないかと思います。必ずしも悪いことではないのかもしれませんが。


■ どんな人にオススメ?

・最新の実例でゲーム理論を学んでみたい人。


■ 関連しそうな本

 アビナッシュ ディキシット (著), バリー ネイルバフ (著), 菅野 隆 (翻訳), 嶋津 祐一 (翻訳) 『戦略的思考とは何か―エール大学式「ゲーム理論」の発想法』 2005年01月31日
 梶井 厚志 『戦略的思考の技術―ゲーム理論を実践する』 2005年02月20日
 松井 彰彦, 清水 武治 『ゲーム理論―どんなケースでも「最高の選択」ができる"勝つための戦略"』 2005年08月12日
 金子 守 『ゲーム理論と蒟蒻問答』
 中山 幹夫, 船木 由喜彦, 武藤 滋夫 (編集) 『ゲーム理論で解く』
 R. アクセルロッド (著), 松田 裕之 (翻訳) 『つきあい方の科学―バクテリアから国際関係まで』


■ 百夜百マンガ

とどろけ!一番【とどろけ!一番 】

 受験と言えば、「ドラゴン桜」がドラマ、コミックスともに好評ですが、私の世代にとって受験マンガと言えばこの作品に尽きます。両手に握った「四菱ハイユニ」(その芯は居合いの試し斬りに使えるという硬度)で、二科目の試験を同時に解答する「秘技!答案二枚返し」などの数々の必殺技は同時期に連載されていた『ゲームセンターあらし』と並んで子供たちの心を魅了しました。
 ちなみに私が学生時代に試験対策で行っていた一番の勉強法は「カンニングペーパー作り」です。これは、小さな紙に自分が苦手とする部分(年号とか)を書き込んでいくものですが、最初はノート1枚くらいから初めて、重要でない部分や自分が覚えた部分を取り除いて、だんだん小さな紙に書き写していきます。何バージョンか作成して行くと、覚えてしまって必要なくなる、というものです。細かい内容は捨ててしまうので100点が取れる勉強の仕方ではありませんが、赤点を逃れる程度には役に立ちました。

2005年9月26日 (月)

リーン・シンキング

■ 書籍情報

リーン・シンキング   【リーン・シンキング】

  ジェームズ・P. ウォーマック, ダニエル・T. ジョーンズ (著), 稲垣 公夫 (翻訳)
  価格: ¥2,940 (税込)
  日経BP社(2003/01)

 本書は、前著「リーン生産方式が、世界の自動車産業をこう変える」から10年が経ち、日本の自動車産業からスタートした「リーン思考」が脱国籍化し、いかにして世界の様々な生産現場に浸透し始めているか、を紹介したものです。
 リーン思考で重視されるのは「価値の小川」という考え方です。これは、ある製品が、(1)問題解決業務(製品企画、設計、生産立ち上げ)、(2)情報管理業務(受注、詳細スケジューリング、納入)、(3)物理的変換業務(原材料から顧客の手に渡るまで)の3つの業務を通すために必要なアクションの集合と定義づけされています。
 本書では、「脱国籍化」の事例として、アメリカの梱包機器メーカーや配線材メーカー、ジェットエンジンメーカーの他、古典的なドイツ企業として高級スポーツカーを生産しているポルシェ社や、日本国内の非自動車産業、しかも中小企業として昭和鉄工などが紹介されています。
 従来、自動車産業ならではの生産方式と思われがちだった「リーン生産方式」が、「価値の小川」という捉え方をすることによって、様々な製品の製造業や様々な国籍、そして様々な事業規模の企業に浸透していることを、著者自身が企業に何日も滞在して分析しています。
 本書は、「自分の業界は特別だから関係ない」と思っている全ての方に読んでいただきたい良書です。ただし、ちょっと冗長なところがあるので読むのには骨が折れますが。


■ 個人的な視点から

 本書で一番インパクトがあるのが、新技術研究所というトヨタ出身者のコンサルタントである岩田良樹氏らのパワフルさです。自分の工場を見て欲しい、と二日間かけて懇願した結果、2日目の夕食時にやっとOKが出て、すぐに工場に向かい、午後10時から午前2時までかけて工場の配置換えを行ったというエピソードが紹介されています。また、彼らの師匠である大野耐一氏はさらに強烈です。「出会う人間のほとんどを馬鹿者呼ばわり」し、直弟子は、「二十年間師事している間に一度も誉められた覚えがない」というから、その厳しさは半端ではありません。以前、『トヨタウェイ(下)』のときに「大野の円(Ohno Circle)」について書きましたが、その厳しさの猛烈ぶりはどこにでもついて回るようです。
 面白かったのは、このことを一番気にしていたのが当の本人だったようです。彼は、自分がトヨタグループを去った後に、自分の弟子たちが周囲から報復を受けるのではないか、ということを懸念していたことです。欧米人の中には、日本人は本能的にリーン思考を受け入れられる、と思っている人もいるようですが、日本の工場でもリーン生産方式に対する抵抗は激しく、導入者は苛烈なストレスにさらされます。「坊主憎けりゃ袈裟まで」ではないですが、「鬼」と呼ばれる人でも、自分がいなくなることで、弟子たちに支えがなくなることを心配するものなのだと感心しました。と同時に、これほどの厳しさがないとリーン生産方式は導入ができない、ということでもあります。


■ どんな人にオススメ?

・「自分の業界はリーン思考とは無縁だ」と思っている人。


■ 関連しそうな本

 ジェームズ・P. ウォマック, ダニエル・T. ジョーンズ, ダニエル ルース (著), 沢田 博 (翻訳) 『リーン生産方式が、世界の自動車産業をこう変える―最強の日本車メーカーを欧米が追い越す日』
 ジェフリー・K・ライカー (著), 稲垣 公夫 (翻訳) 『ザ・トヨタウェイ(上)』 2005年09月13日
 ジェフリー・K・ライカー (著), 稲垣 公夫 (翻訳) 『ザ・トヨタウェイ(下)』 2005年09月14日
 大野 耐一 『トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして』


■ 百夜百マンガ

凄ノ王伝説【凄ノ王伝説 】

 「鬼と言えば永井豪!」ということで、「サイキック学園」という副題のついたこの作品。超能力、バイオレンス、エロと永井テイスト満載の上、きちんと完結しないところも永井テイストです。

2005年9月25日 (日)

筒井版 悪魔の辞典

■ 書籍情報

筒井版 悪魔の辞典   【筒井版 悪魔の辞典】

  アンブローズ ビアス (著), 筒井 康隆 (翻訳)
  価格: ¥2,100 (税込)
  講談社(2002/10/09)

 本書は、これまでにも何種もの訳が出版されているアンブローズ・ビアスの『The Devil's Dictionary』を小説家(昔はSF作家と書かれることが多かった気がしますが)の筒井康隆氏が9年の歳月をかけて(と言っても間には言葉狩りに抗議する断筆期間の4年を含みますが)翻訳したものです。
 筒井氏が本書の翻訳に取り組んだ出発点は、過去の翻訳が「ビター・ビアス」と呼ばれた風刺が冴え渡る原著の「毒」が、日本語に訳してしまうと上手く伝わらず、単純に笑えるものになっていなかった、というところにあります。これには、日本の文学界で「笑い」と「毒」の微妙なバランスの上で長年活動してきた筒井氏ならではの自負があるのではないかと思います。過去に数々のきわどい作品や表現(昭和40年の「堕地獄仏法」とかその続編とかは今じゃ書けないかもしれないですが)と笑いのバランスの上を歩いてきた筒井氏ならではの切れ味鋭い毒が楽しめる、と期待してはいました。しかし、何しろ元が100年前の風刺ですので、残念ながらダイレクトに笑えるかというと難しいという感じです。
 内容としては、通して読むとコケにされる人や物事のパターンが大体決まっていて、その一つは風刺の定番として権力者をこき下ろすものです。例えば、
・Saint【聖人】名 死後に改訂・編集された罪人。
・Poliyician【政治屋】名 組織化された社会という建物の土台になっている泥の中のウナギ。
・Adherent【支持者】名 期待するだけのものをまだ得ていないので、ついてきている人。
・Metropolis【首都・大都市】名 地方出身者の拠点。
・Income【収入】名 社会的地位を計る、自然で合理的なモノサシ。
・Poverty【貧乏】名 改革ネズミの刃を研ぐためのヤスリ。
などは、社会風刺の典型的なパターンの一つでしょう。
 また、人生に対するシニカルな下記ぶりも多く見られ、
・Birth【誕生】名 生涯に遭遇するあらゆる大惨事のうち、最初で最悪のもの。
・Life【生命・人生】名 肉体が腐らないように保存している精神の漬け汁。
・Zeal【熱心】名 未熟で世間知らずの若者を苦しめる神経症の一種。
など冷笑家ぶりを徹底しています。
 この他、この手のものの定番として女性に対する攻撃も激しく、
・Beauty【美貌】名 恋人を魅惑し夫を不安にさせる力。
・Marriage【結婚】名 主人がひとり、女主人がひとり、奴隷がふたりからなり、それでいて合計ふたりになるという共同体の状態、または境遇。
などの他、【参政権】で女性を皮肉ったりもしています。
 そして、もちろん自らに対する皮肉も忘れていません。
・Cynic【冷笑家】名 目が悪くて、物事を、あるべき姿にではなく、あるがままに見てしまう悪人。
・Mad【狂った】形 高度の知的独立心に冒された。
などの項目では自分自身に対する攻撃(予防線とも言いますが)をかけています。
 他の訳を読んでいないので、筒井氏の訳の良し悪しは判断できませんが、読んでクスリと笑える良書であることには違いないと思います。


■ 個人的な視点から

 本書を読んで感じたのは、100年前の著者が論敵をコケにするやり方に比べて、現代はそれほどの進歩をしていないのではないか、ということです。むしろ、直接的な中傷や人格攻撃などより低俗になっているような気がします。これは、本書の著者が「文筆界の解剖学者」とあだ名されるほどの傑出した毒舌を持っていたということもあるかもしれませんが、当時の論戦が、主に新聞や雑誌などの定期刊行物上で行われ、熟考するだけのタイムラグがあったことも関係すると思います。
 現代の論戦、例えばテレビの討論番組では、相手の論理展開を注意深く噛み砕いてその矛盾を突く、というやり方よりも、リアルタイムで相手の言葉尻を掴まえてやり込める、声の大きい方が強くなってしまっています。
 この点で、現代の日本人の論戦能力を高めるかもしれないのが「2ちゃんねる」です。現在批判を受けることが多い匿名巨大掲示板「2ちゃんねる」では、議論の中心になって投稿している人たちの存在と同時に、数多くの見物人がインターネット中を検索しまくって検証をかけ、ツッコミを入れています。2ちゃんねる上の論戦のあちこちで必ず見かけられる「ソースは?」というツッコミ(たいていの場合、「ブルドック」というボケが付随するのがお約束になっていますが)は、我々に情報源を明らかにしながら議論する習慣をつけさせてくれるかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・100年前の卓越した毒舌を満喫したい人。


■ 関連しそうな本

 アンブローズ ビアス (著), 西川 正身 (翻訳) 『新編 悪魔の辞典』
 筒井 康隆 『東海道戦争』
 筒井 康隆 『笑うな』
 アンブローズ ビアス (著), 郡司 利男 (翻訳) 『悪魔の辞典 対訳篇 (1)』
 アンブローズ ビアス (著), 奥田 俊介 (翻訳) 『新撰・新訳 悪魔の辞典』


■ 百夜百音

TIMERS【TIMERS】 THE TIMERS オリジナル盤発売: 1989

 社会風刺の音楽と言えば、今から16年前、原発批判を歌ったRCのアルバムを放送禁止にしたFM東京を、生番組に出演したタイマーズが「FM東京 腐ったラジオ~ 政治家の手先 何でもかんでも放送禁止さ~」と徹底的にこき下ろした「事件」(放送事故)がありました。


『COVERS』COVERS

2005年9月24日 (土)

ビジネス版 悪魔の辞典

■ 書籍情報

ビジネス版 悪魔の辞典   【ビジネス版 悪魔の辞典】

  山田 英夫
  価格: ¥998 (税込)
  メディアファクトリー(1998/12)

 本書は、日本企業で使われているビジネス用語が現場でどのような意味で使われているかを、アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』の体裁を参考に解説しているものです。本家の『悪魔の辞典』では、正しい定義と風刺・パロディを並べていますが、本書には教科書的な定義は書いてありません。それは、現実の日本企業では「本書の用語説明の方が、教科書の定義よりも正しい」からだそうです。もし仮に、本書を読んだ上で、あえて教科書的な定義を知りたくなった物好きな人がいた場合は、市販されている経営用語辞典や著者が教鞭をとる早稲田のビジネススクールで調べてください。
 また本書は、用語の理解度と笑えるかどうかで読者の会社人間度を測ることにも使うことができます。用語の7割が理解でき、かつ笑えない、というのが立派な大企業病患者ということですが、本書は結構経営用語も多いので、公務員には理解できない用語も多いかもしれません。
 役所にも共通する用語としては、
 【同期】自分の評価・処遇が正当に行われているかを確認するための準拠集団。
 【人事部】人生を決する非常に重要な事を、「ヒトゴト」として扱う部署。
 【残業】日中に処理すべき仕事を、17時以降に着手するだけで手当がもらえる素晴らしい制度。
 【徹夜】肉体的・精神的疲弊と引き換えに、成就感を得る作業。実際は、仕事の段取りが悪く、時間切れを取り繕っただけ。
 【無礼講】「これから人事評価を始めるよ」の合図。
などがそのまま使えるのではないかと思います。特に、「同期」や「残業」については、普通の企業以上に役所の方が強烈かもしれません。
 また、一部を改変すればそのまま役所でも使えそうな用語もたくさんあります。例えば、「企業文化」や「株主総会の役員手持ち資料」はそのまま
 【企業文化】身につけるとようやく庁内で一人前とみなされるが、身につけた頃には、もはや民間企業には転職できなくなっているもの。
 【議会の幹部手持ち資料】「無駄」になればなるほど、「成功」であったもの。
と書き直すことができます。
 この他、「若手」「早期退職制度」「社外活動」「MBA派遣」「人が育っていない」「多数の意見」「マーケ"ッ"ティング」「うれしい悲鳴」「両面コピー」「ペーパーレス」「マックOS」「暗証番号」「マル秘・極秘」「未決箱・既決箱」など、ツボにはまると笑いがこらえきれない、「教科書よりも正しい定義」が満載のこの辞典。決して電車の中など人前では読まないでください。


■ 個人的な視点から

 国家公務員のキャリア官僚が、アメリカの大学院に国費留学し、修了後に退職して民間のコンサルティング会社などに高級で転職することが問題になりましたが、この辺りの事情は民間企業も同様なようで、
 【MBA派遣】(1)他社のために、教育投資をする社会貢献。
      (2)転職していく社員に企業がつける「のし」。
という定義がついています。しかし、実際に留学から帰って元の仕事に戻り、他の企業に転職したくなるのは、給料が安いところに高級でスカウトが来るという理由ではなく、米国で一緒にマネジメントを学んだ同級生が、管理職としてバリバリ働いたり自分で起業したりしているのに比べて、日本に戻った自分は、本書で揶揄されているような日本企業の中でMBAを取得した経験が活かせない仕事をするのに耐えられないからだ、という話を聞いたことがあります。
 その意味では、キャリア官僚の国費留学が、退職時には費用返還を求めるようになることは、道を誤ってキャリア官僚になってしまった優秀な人材に、自分の人生のミッションを気づかせる機会を与え、引け目を感じさせずに実社会に還流させることができるルートを築くことなのかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・教科書には書いていないビジネス用語の本当の定義を知りたい人。


■ 関連しそうな本

 山田 英夫 『ビジネス版 悪魔の辞典 日経ビジネス人文庫』
 アンブローズ ビアス (著), 西川 正身 (翻訳) 『新編 悪魔の辞典』
 平野 喜久 『天使と悪魔のビジネス用語辞典』
 伊藤 惇夫 『永田町「悪魔の辞典」』
 アンブローズ ビアス (著), 筒井 康隆 (翻訳) 『筒井版 悪魔の辞典』


■ 百夜百音

THE END OF THE CENTURY【THE END OF THE CENTURY】 聖飢魔II オリジナル盤発売: 1986

 悪魔と言えばこの人たち。デーモン閣下は私生活もとい人間界での仮の姿の悪魔ぶりも週刊誌で話題になったこともありました(^^;。
 出世作となった本作品にはヒットした「蝋人形の館」が収録されています。
 ということで、関連CDとしてはネタ元のオジーを紹介します。知らない方は2曲目の「Crazy Train」を聴いてみてください。


『Blizzard of Ozz(試聴あり)』Blizzard of Ozz(試聴あり)

2005年9月23日 (金)

県庁の星

■ 書籍情報

県庁の星   【県庁の星】

  桂 望実
  価格: ¥1,365 (税込)
  小学館(2005/09)

 本書は、とある県庁からの民間企業研修生として小さなスーパーに派遣されたエリート職員が、役人生活で培われた四角四面さと持ち前の青臭さで、周囲にあきれられながら、スーパーの危機に立ち向かい、自分を変えていく物語です。
 主人公の「県庁さん」は、庁内では将来を嘱望された若手優良株。しかし、Y県庁初の特別研修民間企業派遣として送り込まれたスーパーでは、お客さんや他の従業員とトラブルを起こす「役立たず」の烙印を押されます。そこに、低迷する店を揺るがす様々な危機が次々に降りかかり・・・というのが本書のあらすじですが、続きはぜひ実際に手にとって読んでみてください。今朝一気に読めてしまったくらいのボリュームと読みやすい文体なので、一度読み始めるとノンストップでエピローグまで到達してしまうでしょう。
 さて、外からやってきた素人がスーパーを改革する、というストーリーは、映画『スーパーの女』やその原作となった『小説スーパーマーケット』が思い出されますが、これらと本書には大きな違いがあります。それは『スーパーの女』の主役は宮本信子扮する花子ではなく、お客様のための店に生まれ変わるスーパー正直屋そのものであるのに対し、本書は主人公の「県庁さん」こと野村聡がスーパーを舞台に生まれ変わることが主題になっていることです。もちろん、正義感の強い「県庁さん」の性格は、元銀行員で不正を許さない『小説スーパーマーケット』の主人公である香嶋良介を彷彿とさせますが、『小説スーパーマーケット』や『スーパーの女』ではスーパーとその従業員たちが生まれ変わる姿が感動を呼ぶのに対して、本書では、スーパーの変革に取り組む中で生まれ変わっていく「県庁さん」自身の姿が読者の心を打ちます。
 そのせいか、スーパーの変革自体の描かれ方は脇役的で詳しくは語られていませんし、「怠け者のダメ従業員」に見えたのが実は・・・という下りはかなりご都合主義的に感じましたが、本書が主人公の生まれ変わる姿を中心に描いているものである限りは、仕方がないのかもしれません。
 本書の中で笑われている「お役人」の描かれ方は、公務員自身の目から見ると「いまどきこんな奴はいない」と思えるかもしれませんが、公務員の方も「大げさに書いてるんだ」とグッとこらえて続きを読んでみてください(実際、こんなもんだと思いますが・・・。)。途中まで読むと止まらなくなると思います。


■ 個人的な視点から

 この本を読んで一番最初に浮かんだのは、雰囲気の悪いスーパーのバックヤードに漂う、ドロっとした停滞感でした。学生時代にスーパーの食肉工場や販促応援のバイトをしていましたが、店やチェーンによって雰囲気はまるで異なっていました。
 特に某D社の食肉工場はきつかったです。大学に入って最初にやったバイトだったのですが、ムダ話ばかりしてサボる社員につき合わされ、外国人のバイトは衛生のためにビニール手袋をした手で床に手洟をかみ(生まれて初めて目の当たりにした手洟技は衝撃でした)、手待ち時間が長く、工場の中に無気力と生産性の低さが立ち込めていました。高校時代にバイトしてた機械工場は、冶具にピンセットで順番どおりに部品を並べてプレス機でカシメる、という単純な仕事一つとっても、製造数や不良率など目に見える数字に向かって従業員が一丸となって(誰か一人作業が遅れると全体の作業が遅れることもあり)、それなりの達成感もあったのですが、この食肉工場には「仕事嫌だな~」という空気が蔓延していて、働いている充実感を感じることができませんでした。慣れない職場での手待ち時間ほど辛いものはないです。
 他には販促応援のバイトで色々なスーパーに行きました。これは、卸が自分のところの商品の店頭セールをやる際に、商品と合わせて人も出させられる、というもので、よくある試食販売(ホットプレートで商品を焼いて小分けするもの)や、商品詰め放題などのキャンペーンの他、目玉商品の品出しもあれば、棚卸要員として「供出」させられることもありました。「乳製品をカゴに詰め放題」のキャンペーンでは、カゴに「詰める」というよりも、壮大なタワーを「積み上げる」お客さんがいて、周りのお客さんは驚嘆の声を上げていました。本人は「どうだ!」という感じだったのですが、運ぼうとしたら崩れてしまったんですけどね。
 バックヤードの雰囲気は店によってまるで違いました。某I社や某Y社のお店の社員さんは、しっかりした人が多く、パートや我々のような出入り業者にも敬語を使い(社会人ですから当たり前ですが)きちんと対応してくれました。一方、某M社に棚卸応援で行った時の社員の態度は、出入り業者に対しての上下関係を顕わにした完全な命令口調で、軍隊的・体育会的な社風を体現したものでした。社員とパートの身分の差も大きく、パートさんや棚卸に来ていた他の業者に陰口を叩かれながら、あちこちで怒鳴り散らしていました。
 雰囲気の悪いスーパーのバックヤードには、ワゴン(と言うか名前忘れちゃったのですが台車に1.8Mくらいの高さの籠がついたもの)が乱雑に置かれ、在庫のダンボールが堆く積み上げられ、照明が遮られるため喩えではなく現実に「暗い」です。本書を読んで、そんなスーパーの暗いバックヤードの光景が蘇りました。


■ どんな人にオススメ?

・全国の公務員。


■ 関連しそうな本

 安土 敏 『小説スーパーマーケット』 2005年03月08日
 伊丹十三DVDコレクション 『スーパーの女』
 安土 敏 『日本スーパーマーケット原論―本物のスーパーマーケットとは何か』
 中尾 英司 『あきらめの壁をぶち破った人々―日本発チェンジマネジメントの実際』
 ジョン・P. コッター (著), 梅津 祐良 (翻訳) 『企業変革力』 2005年02月19日


■ 百夜百音

らいぶあっとざばーぼんはうす【らいぶあっとざばーぼんはうす】 餃子大王 オリジナル盤発売: 1989

 「県庁の星」ではなく「教師の星」と言えばこのバンド。教育現場の経験を元に歌うロックが話題になりました。
 当時は「~大王」という名前が流行ったのか「バビロン大王」というバンドも同じ時期にありました。


『あらくれ者』あらくれ者

2005年9月22日 (木)

制度と文化―組織を動かす見えない力

■ 書籍情報

制度と文化―組織を動かす見えない力   【制度と文化―組織を動かす見えない力】

  佐藤 郁哉, 山田 真茂留
  価格: ¥1,995 (税込)
  日本経済新聞社(2004/09)

 本書は、組織内外における文化が持つ影響力に着目し、文化や制度という切り口から企業組織に関わる様々な問題を捉えようとしてきた代表的な組織論(企業文化論、組織文化論、組織アイデンティティ論、新制度派組織理論)のエッセンスを紹介し、それらの実践上のインプリケーションを明らかにしているものです。
 1980年代には、『セオリーZ』『エクセレント・カンパニー』『シンボリック・リーダー』の3冊が企業文化論ブームを起こしましたが、これをきっかけに組織の文化的側面の重要性が認識されました。
 本書は、組織文化を「個々の組織における観念的・象徴的な意味のシステム」と定義しています。また、組織文化は、(1)儀礼、(2)遊び、(3)表象、そして(4)共有価値、(5)無自覚的前提という要素を持っています。
 同じような社風を持っている会社がいくつもあるにもかかわらず、社員が「わが社らしさ」を意識し、染まって行くのはなぜか、を明らかにするのが組織アイデンティティ論です。組織のメンバーは、同じ組織の構成員であるという認知と「自分たちの組織は他の組織とは明確に異なるユニークな組織である」という認知を共有します。すなわち、「組織はアイデンティティを有し、独自性を呈する」のです。
 組織文化へのこれら3つのアプローチは、個々の組織の内部で形成され維持される文化的な要素等にアプローチしているのに対し、「組織を取り巻く文化的・制度的な環境条件が組織に対してどのような影響を与えているか」というアプローチを取るのが新制度派組織理論です。
 新制度派組織理論では、組織が組み込まれている社会的文脈における共通の文化的基準と現実認識の枠組みという、組織を取り巻く「制度的環境」を強調し、ある組織群の間にある類似性を制度的環境によって説明しようとしています。本書ではこの例として日本の食品業界におけるHACCPの取得や日本の大学における「電話帳シラバス」、日本企業におけるISO取得などを挙げられます。
 本書は、これらの組織理論を、制度(マクロ)、組織(メゾ)、個人(ミクロ)の三層構造から分析し、それらの理論が持つ視点を社会化過剰または社会化過少の人間観・組織間に基づいていないかを検証しています。
 組織内部からの要因を強調する文化理論が多い中、組織外部の制度的環境を重視する新制度派組織理論を解説し、それらを比較して利点と弱点を分析している本書は、組織で働くビジネスマンにとっても十分読みやすく、また多くの示唆が得られるものではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 「組織は流行(ファッション)に従う」という新制度派組織理論のメッセージは強力です。例えば、ISOやCIの流行や、リエンジニアリング、サプライチェーンマネジメントなどのカタカナ経営用語の氾濫は、これらのコンセプト自体が劣っている、意味がない、というわけではないにしろ、効率性や合理性よりも、制度的環境が組織に与えるプレッシャーによって模倣が繰り返されるという意味で、バズワードといわれても仕方がないと思われます。
 この観点で行政の世界を見ると、お役所ほど制度的環境のプレッシャーに弱い組織はありません。民間企業でカタカナ経営用語のブームが起こると、決まって数年遅れてお役所で流行り始めます。個人的には、コンサルタント会社が企業向けに売れなくなった素材を包装紙だけ取り替えて役所向けに営業し始めるからだとずっと思っていましたが、そんな複雑な理由ではなく、「とりあえずマネをしてみる」という単純な理由で流行り始める、という要素が強いことがわかりました。「○○市で△△システムを取り入れたらしい」というニュースを聞くと、視察と称して押しかけてマニュアル類をゴソっと持って帰り、自分のところでも形だけ導入し、わからないことやトラブルがあると「○○市に聞かないとわからない」と言って自分の頭では考えようとしないお役所の体質を説明するにはもってこいの理論だと思います。この理論も流行ったりするのでしょうか・・・。


■ どんな人にオススメ?

・日本企業や役所の横並び体質の理由を知りたい人。


■ 関連しそうな本

 高橋 伸夫 (編著) 『組織文化の経営学』 2005年08月26日
 ステファン・P. ロビンス (著), 高木 晴夫, 永井 裕久, 福沢 英弘, 横田 絵理, 渡辺 直登 (翻訳) 『組織行動のマネジメント―入門から実践へ』 2005年02月17日
 金井 寿宏, 高橋 潔 (著) 『組織行動の考え方―ひとを活かし組織力を高める9つのキーコンセプト』 2005年04月27日
 二村 敏子 (編集) 『現代ミクロ組織論―その発展と課題』 2005年03月26日
 田尾 雅夫 『組織の心理学』


■ 百夜百マンガ

ラストマン【ラストマン 】

 デビルマンみたいなのを描こうとして風呂敷を広げすぎちゃった、という感じが強い作品です。『BE FREE』が学園ものから脱線していって「ささにしきVSこしひかり」の戦いになっちゃった路線を延長して行くとこういう作品になるのでしょうか。

2005年9月21日 (水)

チャンピオンを探せ!―実力主義時代の成功法則

■ 書籍情報

チャンピオンを探せ!―実力主義時代の成功法則   【チャンピオンを探せ!―実力主義時代の成功法則】

  梅森 浩一
  価格: ¥1,365 (税込)
  講談社(2004/02)

 本書は、終身雇用の慣行が崩れ、手摺もなく足元のぐらぐらし始めた「人生(キャリア)の階段」において、仕事上の「手摺り」となってくれる人たちのことを表す「チャンピオン」を見つけることの重要性について述べたものです。
 チャンピオンとは、簡単に言えば「あなたの仕事を認め、あなたをサポートしてくれる人」と述べられています。著者も、30歳で外資系企業に転職してから、様々なチャンピオンと出会い、支えられてきたと述べています。しかし、チャンピオンを見つけるかどうかは外資系企業に限ったものではなく、「これを知っていると知らないとでは、仕事の効率だけでなく、人生そのものすら大きく変わる可能性がある」ことが強調されています。
 チャンピオンとは、一方的な「庇護者」という存在ではありません。チャンピオンになる側にとっても、(大抵は)部下を正当に評価し、上手に扱って行くことが有益である「ギブ・アンド・テイク」の関係が成り立っていなければなりません。著者はそのために、「たえず相手に自分の価値を認めさせる」ということを大切にしていたことを、具体例を挙げて語っています。
 また、自分自身の能力を評価し、見極めて行くために、著者の人事部長・人事コンサルタントとしての経験を元に、次の「三つの能力(スキル)」が解説されています。
 ・人にモノをわからせる力(Educate)
 ・人を動かす力(Influence)
 ・人を元気付ける力(Energize)
 これらの力は、決してMBAを持っていたり、TOEICで高得点をとれば身につくものではありません。よく「何ができますか?」「部長ができます。」という笑い話がありますが、部長ができるということは、組織を円滑に運営し、部下を管理する「ファンダメンタル(基本的)なスキル」を身につけていることが必要になります。そしてこのファンダメンタルなスキルこそが「三つの能力」に当たるのです。要は、自らの能力を自分自身で正当に評価することが重要だということです。
 「チャンピオン」という聞きなれた言葉の聞きなれない使われ方から、本書のタイトルを見ただけでは、「実力主義時代のチャンピオン(優勝者)?」というイメージを持ちがちですが、内容はかなり具体的で、伝わりやすいものではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書の内容とは直接関係ないのですが、著者が三井デュポン・フロロケミカルに在籍していたときに、千葉県の姉ヶ崎に転勤になり、駅に降り立った娘さんが「パパ、おうちに帰ろう・・・・・・」と叫んだ、という話がショックでした。私もその10年後くらいに姉ヶ崎に住んでいたことがあるのですが、やっぱりまだ物悲しい風景の駅でした。特に、姉ヶ崎の駅から化学工場のある海側を見ると、荒涼とした空き地が広がり、遠くには工場群の煙突が見えます。東京で育った子供にとってはさぞかし衝撃的な風景だったものと想像されます。
 つげ義春という漫画家の作品に姉ヶ崎駅の隣の長浦駅が舞台になったものがあり、1960年代にまだ埋め立てられていなかった頃の海岸が登場するのですが、埋め立てられる前の海岸を知る人にとっては、姉ヶ崎駅からの風景は違った意味で衝撃なのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・チャンピオンを見つけたい人。
・自らチャンピオンになりたい人。


■ 関連しそうな本

 梅森 浩一 『「クビ!」論。』 2005年06月02日
 梅森 浩一 『残業しない技術』 2005年05月15日


■ 百夜百マンガ

紅い花【紅い花 】

 ふらりとやってきた内房線(当時は房総西線でしょうか)の長浦駅に降り立った主人公が、当時まだ埋め立てられていなかった夜の海岸で猫と戯れ、まぶたの上に猫の足を置く「やなぎ屋主人」という作品が収録されています。ちなみに、やなぎ屋のモデルになった店はまだ現存しているようで、たまにファンが訪れるそうですが、どこにあるのかまだ確認していません。

2005年9月20日 (火)

京様式経営 モジュール化戦略―「ネットワーク外部性」活用の革新モデル

■ 書籍情報

京様式経営 モジュール化戦略―「ネットワーク外部性」活用の革新モデル   【京様式経営 モジュール化戦略―「ネットワーク外部性」活用の革新モデル】

  末松 千尋
  価格: ¥2,100 (税込)
  日本経済新聞社(2002/08)

 本書は、売上成長率、利益額、利益率などの面で平均的な日本企業に比べて驚異的な違いを見せる京都の優良企業群である「京様式企業」に共通する戦略、すなわち「ネットワーク外部性」の活用を分析したものです。
 本書の構成は3部に分かれています。
 第1部は、企業間関係がオープンかクローズか、また、分業体制が垂直統合か水平分業か、という二軸で分類したうち、オープンな企業間関係で水平に分業する、というスタイルの強さを分析し、事例としてはマイクロソフトのプラットフォーム戦略などを取り上げています。しかし、前置きとしてはずいぶん長く「京様式、出てこないな?」と感じる人も多いのではないかと思います。
 第2部は、京様式企業を誕生させた京都という環境の分析と、具体的な事例の紹介が行われます。京都の住みにくさを表す言葉として、「ぶぶ漬け」の話や「京都は、京都人がいなければ、最高の場所だ」など色々言われますが、誇り高きアンチ東京意識や自由人にとっての住みやすさが影響しているのではないかと述べられています。
 第3部は、いわゆる「モジュール化」の議論を紹介しながら、ロームやオムロンなどの具体的事例から見出せるモジュール化戦略について述べています。
 全体としての印象は、ネットワーク外部性とモジュール化という二つのコンセプトを紹介するのがメインで、京様式企業とこれらのコンセプトとの結びつきが弱く、それが本書全体として迫力不足になっているのではないかと思います。もちろん個別の読み物としては面白いのですが。


■ 個人的な視点から

 「京阪バレー」という言葉があります。シリコンバレーをもじった「○○バレー」という言葉だと思いますが、京阪って「バレー」つまり「谷」なのでしょうか? 関西の地理には詳しくないのでよく分かりませんが、もしかすると著者はこの辺りに引っかかって、何でも「バレー」ってつければいいってモンじゃないだろ、ということで「京様式企業」という言葉を使ったのかもしれません。「京阪」と言っても登場するのは京都の企業ばかりですし。


■ どんな人にオススメ?

・京都になぜ優良企業が生まれるのかに関心がある人。


■ 関連しそうな本

 キム・クラーク, カーリス・ボールドウィン (著), 安藤 晴彦 (翻訳) 『デザイン・ルール―モジュール化パワー』
 青木 昌彦, 安藤 晴彦 (編著) 『モジュール化―新しい産業アーキテクチャの本質』 2005年04月22日
 安藤 晴彦, 元橋 一之 『日本経済 競争力の構想―スピード時代に挑むモジュール化戦略』 2005年05月17日
 日本経済新聞社 『京阪バレー―日本を変革する新・優良企業たち』


■ 百夜百マンガ

陽炎日記【陽炎日記 】

 京都の大学を舞台にした作品。と言っても、登場する人たちは皆非京都人の下宿生ばかりなのでドロドロの人間関係にぶぶ漬けが絡む、というような展開は残念ながらありません。
 この人は、一貫して大学を舞台にした作品が多いのが特徴で、一人暮らしの自由さと就職の不安というのがどの作品でもキーになっています。

2005年9月19日 (月)

環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態

■ 書籍情報

環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態   【環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態】

  ビョルン・ロンボルグ (著), 山形 浩生 (翻訳)
  価格: ¥4,725 (税込)
  文藝春秋(2003/06/27)

 本書は、私たちが幼少の頃から数々の神話、例えば「あと○年で石油は枯渇する。」とか「地球温暖化で海面が数メートル上昇し世界の主要都市は水没する。」とか「農薬や化学物質・環境ホルモンが原因で我々の子孫は死に絶える。」といった類の「怪談」を聞かされてきたが、それらは本当に現実の話なのか、という問題提起を、レスター・ブラウン(ワールドウォッチ研究所)の『地球白書』や環境保護団体が使っているものと同じ、様々な公式統計を元に、データを再検証することで行っているものです。
 本書は、これまでの「神話」に逆行するような「現実」を私たちの前に提示します。・長期トレンドで見ると、期待寿命は大きく伸び、食糧事情は改善している。
・歴史的には全森林の20%は失われているが、その免責は第二次世界大戦以降あまり変わっていない。
・技術革新によって最重要資源の残存消費可能年数は増えている。
・大気汚染は急激に回復している。西側社会においてこれほど空気がきれいなのは数世紀ぶり。
 これらの統計は、私たちが怯え続けてきた「神話」と真っ向から対立するように思われます。どうしてこのような違いが生じるのでしょうか。著者は、「ファイル棚問題」と「データマッサージ」という二点を挙げます。「ファイル棚問題」とは、調査の結果、重要な関係が全く見つからなかった場合はボツになりファイル棚にしまわれるのに対し、(偶然かもしれない)相関をたまたま見つけた最初の研究が刊行されるという問題です。また、「データマッサージ」とは、手当たり次第に材料を集めれば、一部の数字は偶然にも相関を示す場合がある、つまり、データが何か言うまでイビった結果、面白い相関が刊行されやすくなる、というものです。
 著者が、本書を書いた動機を、「民主主義はみんなができる限り最高の情報にアクセスできるときによく機能する。環境みたいに大事な問題の議論が、真実じゃなくて神話に基づいてなされるなんでいうのは、ぼくたちの社会にとって有益であるわけがない。」と述べています。残念ながら本書は、環境問題を軽視したがっている政治的な「右派」や、環境問題が改善しているというポジティブなメッセージが運動にとって危険(真相を皆が知ってしまうと危機感をなくしてしまう、というエリート主義的な意識)だとする「グリーン」の両方に翻弄されてしまいますが、著者のメッセージは、我々が取り組むべき問題の優先付けは、正しいデータに基づくべきだ、というものです。
 例えば、
・海岸への重油の流出に対する回収作業は合理的なものか(重油自体は蒸発や分解などによって自然に解決されるのに、高圧水で洗浄したために海洋生物が失われかえって復元が遅くなった。)
・農薬を使わないことでガン患者は減るのか(食物の価格が上昇しかえってガン患者が増えるうえに多くの農地化が必要になる。)
・毎年4万種が絶滅すると言う数字の根拠は正しいか(今後25年で100万種が絶滅するという想定からの逆算に過ぎない。)
などです。著者は、「環境規制をして他の分野の規制を減らすコストを無視するということは、現実問題としてぼくたちは統計的な殺人を行っているということ」という強烈な表現でこれらの問題を言い表します。
 世界中で大変な大論争を巻き起こした本書(著者に対する脅迫もあったそうです。)に対しては、感情的な反感を持つ多くの人がいることと思いますが、それでも本書を読む意味は、誰かが恣意的に選び出した一部の数字によるセンセーショナルな「神話」に左右されることなく、より情報のソースにさかのぼって議論することにあると思います。


■ 個人的な視点から

 現在、30代前後の人にとって、「20世紀末には石油が枯渇する!」という物語は、「1999年7の月に恐怖の大王が降りてくる」という予言と並んで、将来に対する不安の代表的なものでした。中には、どうせ1999年で世界が終わるなら、先のことなど考えずに楽しく暮らそう、という刹那的な考えの人もいましたが、恐怖の大王の到着予定から数年が経ち、その人たちは今どうやって暮らしているのでしょうか。
 さて、本書の重要なメッセージは、政府であれ環境保護団体であれ、メディアに登場する数字やキャンペーンを鵜呑みにしてはならない、ということに尽きると思います。タバコ会社が有害であることを知りながら「タバコを吸うのはカッコいい」というイメージを莫大な広告によって人々に植え付けてきたのと同じように、環境問題に関する「神話」も我々に植え付けられているのかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・環境問題の「現実」を見通したいと思う人。


■ 関連しそうな本

 横江 公美 『判断力はどうすれば身につくのか―アメリカの有権者教育レポート』
 菅谷 明子 『メディア・リテラシー―世界の現場から』 2005年09月07日
 高瀬 淳一 『情報と政治』 2005年06月23日


■ 百夜百音

CATALOGUE 1987-1995【CATALOGUE 1987-1995】 BUCK-TICK オリジナル盤発売: 1995

 最近では「オゾン」と言えば「まいあひ~」を指しますが、昔はオゾン層破壊の二大バンドと言えば、バクチクとエックスでした。
 当時販売されていた「ダイエースプレー」はその強力さで愛用されていましたが、他社が次々に代用ガスに変わっていく中、ひっそりと無くなってしまいましたとさ。


『X JAPAN BEST~FAN'S SELECTION』X JAPAN BEST~FAN'S SELECTION

2005年9月18日 (日)

告げる日―お父さんは、なんで死んじゃったの

■ 書籍情報

告げる日―お父さんは、なんで死んじゃったの   【告げる日―お父さんは、なんで死んじゃったの】

  丸の内 くるみ
  価格: ¥1,050 (税込)
  碧天舎(2005/03)

 本書は、激動の昭和を3人の子供を抱えて生き抜いた、一人の女性の半生を綴った自叙伝です。多感な少女時代、故郷を遠く離れた孤独を感じベトナム反戦運動に身を投じた学生時代、そして学生運動の同志との結婚と、これまで粒子の粗いニュース映像でしか見たことのなかった昭和の時代の熱が伝わってきます。結婚後、3人の子宝に恵まれる一方、あさま山荘事件が起き学生運動の熱気が急速に冷める中、オイルショックや大学との対立によって夫の就職先が見つからず精神的に追い詰められていきます。
 夫の死後、3人の息子を育てるために保育所を開き、その後市役所に勤め始めた著者は、多感な時期の3人の子育てに悩みながら、仕事に打ち込んでいきます。おかしいと思ったことはすぐその場で言う、という著者は周囲との軋轢を生みながらも、次々と新しい仕事を成し遂げていきます。その一方で、母として子供たちの成長に全身全霊でぶつかり、そして子供たちは次々に一人立ちしていきます。
 この子供たちが家を離れる日こそ、本書のタイトルである「告げる日」なのです。それまで真実を聞かされていなかった子供たちの反応は様々ですが、皆正面から真実を受け止めます。


■ 個人的な視点から

 本書を読んで感じたのは、戦前を引きずった古い昭和と、戦後の新しい昭和との軋轢です。大学、反戦運動、学生結婚という新しい時代の自由さを謳歌する反面、就職先が見つからない姿を親には見せられないという恥の意識や自殺した息子の遺族に対する双方の親の冷たい態度などの古い時代の家のしがらみとが、この時代に生きた若者の中に同居していることを感じました。
 また、偶然なのですが、私の母と著者と年齢も近く、ちょうど3人のお子さんは私の兄弟と3人とも同じ学年です。そのため、本書の後半部分、荒れる学校やバンドブームに乗って東京でバイトしながらミュージシャンを目指す辺りは非常に同時代を感じます。


■ どんな人にオススメ?

・昭和の時代の熱を感じたい人。


■ 関連しそうな本

 秋田の高齢社会をよくするフォーラム編集委員会 『年をとってなぜ悪い―わたしの本音・あなたの本音』
 子育て体験出版委員会 『ストップ・ザ・少子化 : 27人の子育て体験』


■ 百夜百音

たま ナゴムコレクション【たま ナゴムコレクション】 たま オリジナル盤発売: 2005

 イカ天ブームで全く無名のバンドが出てくることも多かったのですが、それまでインディーズで有名だったり、知る人ぞ知るというベテランバンドが出てくることもありました。「たま」や「突然ダンボール」なんてのがテレビに出てるのが驚きでした。突然ダンボールをネタ元にした「突撃ダンスホール」なんてのもいましたが、本家が出てきた理由はこんなところにもあるのでしょうか。

『成り立つかな?』成り立つかな?

2005年9月17日 (土)

ネットワーク社会の神話と現実―情報は自由を求めている

■ 書籍情報

ネットワーク社会の神話と現実―情報は自由を求めている   【ネットワーク社会の神話と現実―情報は自由を求めている】

  池田 信夫
  価格: ¥1,890 (税込)
  東洋経済新報社(2003/05)

 本書は、インターネットが社会をどのように変えていくか、を中心に、日本経済の構造改革や記者クラブ問題、地上波デジタル放送など、一見何の結びつきもなさそうな問題について、経済学の視点と辛辣な語り口でメッタ斬りにしたものです。これらの問題を結び付けているのは、東大の社研(2年間で4人の部員が内ゲバで殺された)を経て、NHKで経済番組などを担当した後、39歳で自主的に失業、GLOCOM教授を経て、経済産業研究所上席研究員(出版当時)という経歴です。
 過度の個人情報保護の問題を指摘する第1章では、映画『1984』に登場する「ビッグ・ブラザー」に象徴される監視社会への恐怖を訴える通俗的なイメージを振りかざす市民団体が、より詳細でセンシティブな個人情報を大量に保有する金融機関のオンライン接続に対してではなく、わずかな4情報(住所・氏名・生年月日・性別)のみをやり取りする住基ネットに対して執拗な反対運動を行っていることを批判しています。そして返す刀で、たかだかノートパソコン1台ほどの情報量もない住基の情報をやり取りするために莫大な費用(400億円の設備費と毎年200億円の運営費)をかけてネットワークを構築し、しかも大して役に立たない住基ネットを作り上げた総務省を批判しています。
 また、日本における電波帯域の非効率な利用とその改善を妨げるテレビ局などの「電波利権」の問題では、携帯電話の利用者一人一人の負担によって、「昭和の三大バカ査定」にも劣らない地上波デジタル化への無謀な政策が推進されていることを批判し、周波数オークションによる資源割り当てやその先の電波利用の「コモンズ」化へと進んでいる米国と比較して「二週遅れ」と評しています。
 この他、一時ブームになった「ユビキタス」やIPv6などの官民プロジェクトの失敗や、金融行政における「ソフトな予算制約」の問題から環境問題、国際政策まで、前書きで断りのあるとおり、一冊の本にまとめる内容としては結構無理のある内容になっていますが、著者の舌鋒の鋭さと語られているテーマのタイムリーさを楽しむのであればちょうどいいかもしれません。


■ 個人的な視点から

 著者が本書の出版当時に在籍していた経済産業研究所で運営されていたメーリングリストがあり、通信行政や著作権、ローエコ、モジュール化などのテーマが議論され、非常に面白いものだったのでした。他のメーリングリストに比べると、長文の投稿が多く、読み応えがある反面、物怖じしてしまって、うかつに投稿しづらい雰囲気もありましたが、大変勉強になったのを覚えています。
 残念ながら、個人情報保護法に反対するアピールの賛同者を募ったということで、著者が処分を受けるなど、物議をかもしたりもしましたが、著者が研究所を去り、無くなってしまうと非常にもったいないと感じています。


■ どんな人にオススメ?

・IT関連のメッタ斬りの批評を読みたい人。


■ 関連しそうな本

 ローレンス・レッシグ (著), 山形 浩生 (翻訳) 『コモンズ』
 ローレンス レッシグ (著), 山形 浩生 (翻訳), 柏木 亮二 (翻訳) 『CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー』 2005/02/01
 ポール・ミルグロム, ジョン・ロバーツ (著), 奥野 正寛, 伊藤 秀史, 今井 晴雄, 八木 甫(翻訳) 『組織の経済学』 2005年01月24日
 キム・クラーク, カーリス・ボールドウィン (著), 安藤 晴彦 (翻訳) 『デザイン・ルール―モジュール化パワー』
 ビョルン・ロンボルグ (著), 山形 浩生 (翻訳) 『環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態』
 Jean-Jacques Laffont, Jean Tirole 『Competition in Telecommunications』


■ 百夜百音

MY FIRST KARIE【MY FIRST KARIE】 カヒミ・カリィ オリジナル盤発売: 1995

 とにかく謎っぽいキャラクターを前面に出ていた人ですが、根強いファンがいるアーティストです。
 シェリル・クロウとか色々ぱくってるとかそういうこと抜きに、聴いていて気持ちのいい音楽です。

『The Very Best of Sheryl Crow(試聴あり)』The Very Best of Sheryl Crow(試聴あり)

2005年9月16日 (金)

戦略的交渉力―交渉プロフェッショナル養成講座

■ 書籍情報

戦略的交渉力―交渉プロフェッショナル養成講座   【戦略的交渉力―交渉プロフェッショナル養成講座】

  平原 由美, 観音寺 一嵩
  価格: ¥2,310 (税込)
  東洋経済新報社(2002/10)

 本書は、イギリスのPMMSコンサルティング・グループのトム・ビーザー氏が開発した戦略的交渉術「5・6・7理論」をベースに、演習を含め、実践的な交渉力を身につけることを目的として書かれたものです。実践的なテキストを思考しているため、「5・6・7理論とは何か」のような理論編があるわけではなく、ひたすら具体的なケースに対して何度も何度も考えさせる、という構成になっていて、イメージとしては、「戦略的交渉力養成セミナー」の内容を追体験しているような感じではないかと思います。
 本書で取り上げる『交渉』の基本的なアプローチは「Warm&Tough」です。一般的に、売る側(セラー)のアプローチが人間的には「温かく」ビジネスとしては「容易」な「Warm&Easy」に、買う側(バイヤー)のアプローチが人間的には「冷たく」ビジネス的には「タフ」な「Cool&Tough」になりがちなのに対し、相手の話を聞き、相手の立場を理解する人間的な温かさをもちがながらも、利益や価値の譲渡にはタフな交渉の重要性を述べています。

    Tough(ビジネスに対し)
バイヤー的↑理想的
     |アプローチ
Cool←――+――→Warm(人間的に)
     |
     ↓セラー的
    Easy

 また、取引先を契約に失敗した場合のリスクと取引金額の二軸によって4つに分類する「取引先重視度分析」の表は、交渉に要するコストも織り込み、どの交渉に重点をおくか、という点で実効性の高い分析方法と考えられます。

     <契約に失敗した
      場合のリスク>
        高い
        ↑
  関係重視型 | 戦略的関係構築型
        |
小さい←――――+――――→大きい<取引金額>
        |
  自動契約型 | 利益重視型
        ↓
        低い

 そして、実践的な技術としては、交渉の出発点としての「BATNA(交渉が成立しない場合の最善の代替案)」概念(言葉としては出ませんが)や、「感情、論理、威嚇、駆引き、妥協」という5つの基本説得テクニックを事例を交えながら紹介しています。本書後半のプロセス編や応用編では臨場感のある具体的なビジネスの交渉シーンを事例にしているのに対し、最初に概念を紹介する段階では、父と娘、夫と妻など、家族間の交渉(スーパーでぬいぐるみを買う、など)を事例にして説明しているのは、「交渉」という言葉に対する過度の緊張を和らげる目的なのではないかと考えられます(もちろん、世の中には妻との交渉が一番緊張する、という人も多数いますが・・・。)。
 本書は何よりも演習問題がふんだんに使われていて、難しい交渉理論そのものよりも、明日からすぐ実践で役立てたい、という方にはちょうどいい一冊なのではないでしょうか。


■ 個人的な視点から

 2日連続で交渉の本を紹介しましたが、両方に共通するのは、ビジネス交渉の基本を説明するには家庭内の交渉がいい事例になる、ということです。2者間の交渉は夫と妻、子供と親という関係で表現することができ、また多数主体間の交渉も夫と妻と子供の3者の利害の違いという形で表現できます。
 具体的なビジネスの事例を扱うと、どうしても読者自身の実際の立場というバイアスが大きくかかるのに対し、家庭内の構成員という例を使うと、(ステロタイプ的ではありますが)それぞれがどう考え、どう感じているかを、その人の立場で考えやすいからではないかと思います。
 夫婦間の交渉というと、離婚の際の親権を巡る交渉など感情がこじれてタフなものもありますが、晩御飯のおかずは何にするか、子供におもちゃを買うかどうか、などの日々の暮らしの中の出来事も、交渉のフレームを使って考えると、結構交渉の基本形の中に収まるものが多くあることに気づかされます。


■ どんな人にオススメ?

・実践的な交渉力を身につけたい人。


■ 関連しそうな本

 ウィリアム・L. ユーリ, ステファン・B. ゴールドバーグ, ジーン・M. ブレット (著), 奥村 哲史 (翻訳) 『「話し合い」の技術―交渉と紛争解決のデザイン』 2005年09月15日
 マックス H・ベイザーマン (著), マーガレット A・ニール (著), 奥村 哲史 『マネジャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋』 2005年07月04日
 印南 一路 『ビジネス交渉と意思決定―脱"あいまいさ"の戦略思考』 2005年6月28日
 ウィリアム・L. ユーリー (著), 斎藤 精一郎 (翻訳) 『決定版 ハーバード流"NO"と言わせない交渉術』 
 ロジャー フィッシャー, ブルース パットン, ウィリアム ユーリー (著), 金山 宣夫 (翻訳), 浅井 和子 (翻訳) 『ハーバード流交渉術』 
  『』 


■ 百夜百マンガ

家栽の人【家栽の人 】

 テレビドラマにもなった人気作品。人を育てる「家「栽」の人」であることがポイント。引越しの多い判事の生活なんかも書かれていますが、裁判所事務官には司法試験からの転向組も多いようです。

2005年9月15日 (木)

「話し合い」の技術―交渉と紛争解決のデザイン

■ 書籍情報

「話し合い」の技術―交渉と紛争解決のデザイン   【「話し合い」の技術―交渉と紛争解決のデザイン】

  ウィリアム・L. ユーリ, ステファン・B. ゴールドバーグ, ジーン・M. ブレット (著), 奥村 哲史 (翻訳)
  価格: ¥2,625 (税込)
  白桃書房(2002/06)

 本書は、石炭産業における労使紛争解決の経験を背景に、より低コストの紛争解決のための制度設計について解説したものです。特に、後半の「第2部 紛争解決制度の構築 石炭産業の事例」は、著者らが実際に炭鉱における紛争解決に携わった経験が生々しく描かれていて、経営学のテキストにあるようなケーススタディにはないリアリティに溢れています。
 紛争の解決には次の3つの方法があります。
1.利益(Interest):自分たちの主張の背景にある問題点から解決策を交渉すること。
2.権利(Right):契約事項の解釈を基準に誰に権利が有るかを決めること。
3.権力(Power):強制されなければやらないことをさせる能力(破壊行為やスト)。
 著者は、これら3つのアプローチを利益を中心に、権利、権力が外側に描かれる同心円状に描いています。そして、どのアプローチを取るべきか、次の4つの基準を設けています。
 ・取引コスト:紛争に関連する諸費用(ストによって失われる経済的な費用の他、時間や心理的エネルギーを含む)
 ・結果に対する満足度:結果に対する当事者各々の満足度。
 ・関係への影響:当事者間の関係への長期的な影響。
 ・再発可能性:特定のアプローチが持続可能な解決をもたらすかどうか。
 著者は、これらの4つの基準を合わせたものを紛争のコストとし、3つのアプローチのうち、利益型が最もコストが低く、次が権利型、最も高コストなのが権力型であるとしています。ただし、この前提はどの方法をとることがベストだとは必ずしも述べていないことに注意する必要があります。
 本書が目的としているのは、利害調整の方法がベストだと言うことではなく、現状の制度では、最後の手段であるべき多大なコストがかかる権力による解決が多すぎるので、より低コストの利益型で多くの紛争を解決できる紛争解決制度を構築すること、そして、利益型では解決しない(すべきでない)紛争のための低コストで権利や権力を決定する方法を提供すること、の2点です。
 本書では、効果的な紛争解決制度の設計の6原則として、
(1)利益を中心にする
(2)交渉への「ループバック(戻り道)」を整備する
(3)低コストの権利型、権力型の予備手段(バックアップ)を準備する
(4)事前協議(コンサルテーション)、事後フィードバックを組み込む
(5)諸手続を低コストから高コストの順に配置する
(6)必要な動機付け、技術、資源を提供する
を挙げています。個々の項目の解説は省きますが、この6原則は、現在の様々な紛争解決手段を診断するチェックポイントとしても有効です。
 後半の第2部は、著者の石炭産業における紛争解決の経験として、「レッド・アロー炭鉱」という仮名の炭鉱を舞台にした山猫ストの研究分析や、ケンタッキー州のクリーク炭鉱における労使紛争の解決制度構築の経験が生々しく(著者自身が炭鉱夫独特の通過儀礼である「ヘアリング(陰毛刈り)」を受ける話まで)語られています。
 本書は、様々な紛争を解決したいと思っている当事者にとって、経験豊かな実務者自身によって語られた「生きた技術」を伝えてくれる示唆に富んだ内容ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書は、生業として紛争解決に携わっている専門家だけのためのものではなく、顧客対応の担当者や経営者なども対象にしていますが、実は多くの個人にとっても大変ためになるないようではないかと思います。
 具体的には、多くの人が悩まされている夫婦げんかなどにも応用が利く内容です。さすがに調停会議を開催するほど大げさにする必要はないかもしれませんが、本書の6原則にあるような、利益を中心に考える、戻り道を用意するなどはすぐにでも応用可能です。特に印象に残ったのは、戻り道の具体例として、戯曲『プライベート・ライフ』に登場するカップルが口論がエスカレートしたときにどちらかが「ソロモン・アイザック」と叫べば必ず5分間会話を中断するルールを決めている、という話です。これなどはすぐにでも実行できそうです。


■ どんな人にオススメ?

・様々な紛争を抱えている人。


■ 関連しそうな本

 マックス H・ベイザーマン (著), マーガレット A・ニール (著), 奥村 哲史 『マネジャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋』 2005年07月04日
 印南 一路 『ビジネス交渉と意思決定―脱"あいまいさ"の戦略思考』 2005年6月28日


■ 百夜百マンガ

勇午【勇午 】

 交渉人といえばこの作品。粘り強い交渉や駆け引きは大変面白いのですが、インド、中国、ロシアなど行く先々で拷問に遭うのがお約束になっています。初期の頃の駆け引き中心の話のほうが好きですね。だんだん拷問がエスカレートしているような気もするのですが・・・。

2005年9月14日 (水)

ザ・トヨタウェイ(下)

■ 書籍情報

ザ・トヨタウェイ(下)   【ザ・トヨタウェイ(下)】

  ジェフリー・K・ライカー (著), 稲垣 公夫 (翻訳)
  価格: ¥2,310 (税込)
  日経BP社(2004/07/22)

 本書は、著者が20年の間、米国と日本のトヨタの工場を訪問し、取材した中から見出した「トヨタウェイ」の14の原則について解説した、上下巻で計582ページにわたる大著の下巻です。上巻が、トヨタウェイの総論的な「4つのP(Philosophy, Process, People ane Partners, Problem」や「TPSの家」図の解説と、14原則の1~6までを説明するものであったのを受け、下巻では、原則7から14の説明に加え、どのようにトヨタウェイを読者の会社に適用するか、という内容になっています。
 原著は、350ページのペーパーバック1冊であるものを翻訳して上下巻に分けたので、変なところで分かれていますが、大抵の人は上下セットで読み、下巻だけ購入する人はいないであろうことや、日本のビジネス書の多くが通勤電車の中で読むことを考慮したB6サイズであることを考えると600ページ近いビジネス書は持ち運びに大変苦労することを考えると、この分け方も致し方ない、というところでしょうか。
 ということで、下巻は「セクション2 正しいプロセスが正しい結果を生む」の途中から始まり、
 ・原則7 すべての問題を顕在化させるために目で見る管理を使う。
 ・原則8 技術を使うなら、実績があり、枯れた、人や工程に役立つ技術だけを利用する。
の2つが紹介されています。原則7の目で見る管理については、工具のあるべき場所をわかりやすく示し、異常がすぐに明らかになるように、工具を置く盤の上に工具のシルエットを色を変えて描いておく、等の実践的な手法の他、「5S活動」というムダ取りの活動が紹介されています。面白いのは、日本では「整理、整頓、清掃、清潔、しつけ」の5つであるのに対し、米国では「整理(Sort)、整頓(Straighten)、清掃(Shine)、標準化(Standardize)、規律の維持(Sustain)」と5Sが当てられてるということです。これを元もとの5Sが進化したものと見るか、米国の文化に適合させたものと見るか、どちらとも見ることができるのではないかと思います。
 「セクション3 人とパートナー企業を育成して会社の価値を高める」では、
 ・原則9 仕事をよく理解し、思想を実行し、他人に教えるリーダーを育成する。
 ・原則10 会社の考え方に従う卓越した人とチームを育成する。
 ・原則11 パートナーや部品メーカーの社外ネットワークを尊重し、改善するのを助ける。
の3つの原則について解説し、「主査」制度やチームリーダー、グループリーダーの役割や育成というトヨタ内部のリーダーシップ育成の問題から、パートナー企業とのネットワーク組織の構築までが述べられています。特に、トヨタのリーダーシップモデルの解説として、「ボトムアップ(育成)← →トップダウン(指示)」と「一般的な管理能力← →業務の詳細な実務知識」の二軸によって分析し、トヨタのリーダーは4象限全ての要素を持つが、特に「ボトムアップ・実務知識」のウェイトが大きいことが述べられています。
 「セクション4 継続して根本問題に取り組んで組織的学習を行う」では、
 ・原則12 現地現物を徹底的に理解するように自分の目で確かめる。
 ・原則13 意思決定はじっくりコンセンサスを得ながら、あらゆる選択肢を十分に検討するが、実行は素早く行う(根回し)。
 ・原則14 執拗な反省と絶え間ない改善により学習する組織になる。
の3原則について解説され、中でもトヨタの現地現物主義は有名です。TPSの産みの親である大野耐一氏には、「大野の円(Ohno Circle)」と呼ばれる有名な教育の逸話が残っていて、工場の床に円を描かせ、「その中に立ち、工程を観察し、自分で考えなさい」と言って8時間そこに立たせ、自分で観察し考えることをさせたそうです。また、日本の「反省」をどのように米国に導入するか、という点に関してトヨタは頭を悩まし、reflection(内省)という言葉に翻訳して導入したそうですが、「深くお詫びして恥を感じる」という日本のハンセイは、異質な文化にはそのまま導入せず、より優しいバージョンで導入したそうです。
 ここまで読んだ多く方は、「自分の会社にもトヨタウェイを導入したい」と思うのではないでしょうか。少なくとも、トヨタウェイに学ぶべき点が多くあることを感じているのではないかと思います。しかし、トヨタウェイは、特定のツールだけをつまみ食い的に持ってこれるものではなく、生齧りで導入するとかえって痛手が大きいことを警告しているのが「第三部 トヨタウェイをあなたの会社に適用する」です。ここではカナダ郵政公社におけるTPSの応用の例や改善ワークショップの解説という前向きな内容の一方で、トップのコミットメントがなければ「リーン化の旅」の出発点にも立てないことが二つの事例とともに述べられています。
 トヨタのやり方が、必ずしも全ての企業にとって上手くいく方法ではなく、少なくとも表面的なツールだけ真似しても仕方がないと思いますが、トヨタの生産性の高さを支える様々な哲学や文化は、多くの組織にとって学ぶべき点が多いのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 近年、「トヨタに学べ」の掛け声の下、多くの組織、特に公的な組織において活発になっています。中部国際空港(セントレア)は、別名「トヨタ空港」とも呼ばれ、トヨタ出身の社長による初の「民営空港」として、成田空港などと比較され、トヨタ生産方式の公的部門適用の成功事例として知られています。また、郵政公社や岩手県庁などでもトヨタからコンサルタントを招いて、付加価値を生む工程は何か、キッチリ分析を行い始めたことが新聞などで報じられています。そういった関心から本書を読まれた方も多いのではないかと思います。
 その点において、本書は大変有用なのではないかと思われます。本書は、米国においてどのようにトヨタウェイを確立していったか、という点に重きが置かれているため、日本の工場で長年仕事をしている人にとっては当たり前であったり物足りなかったりする点があるのかもしれません。しかし、文化の違う国や組織に、トヨタウェイを持ち込む、という点においては、暗黙の共通認識を前提に国内で築き上げてきたトヨタ本体での経験よりも、文化の違いと衝突しながら明示的にトヨタウェイを輸出していった米国での経験の方が役に立つのではないかと考えます。


■ どんな人にオススメ?

・ぜひトヨタウェイを我が社も学びたい、と思っている人。


■ 関連しそうな本

 ジェフリー・K・ライカー (著), 稲垣 公夫 (翻訳) 『ザ・トヨタウェイ(上)』 2005年09月13日
 大野 耐一 『トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして』
 Jeffrey K. Liker 『Toyota Way: 14 Management Principles from the World's Greatest Manufacturer』
 ジェームズ・P. ウォマック, ダニエル・T. ジョーンズ, ダニエル ルース (著), 沢田 博 (翻訳) 『リーン生産方式が、世界の自動車産業をこう変える―最強の日本車メーカーを欧米が追い越す日』


■ 百夜百マンガ

Gtroman完全版【Gtroman完全版 】

 マンガとして面白いかどうかは怪しいのですが、車に対する愛情だけは目一杯伝わってくる作品です。古いクルマ好きの親父が登場しますが、今ブームの「旧車会」とは傾向が違うようです。そっちは湘爆とか拓とか読んでろって感じですね。

2005年9月13日 (火)

ザ・トヨタウェイ(上)

■ 書籍情報

ザ・トヨタウェイ(上)   【ザ・トヨタウェイ(上)】

  ジェフリー・K・ライカー (著), 稲垣 公夫 (翻訳)
  価格: ¥2,310 (税込)
  日経BP社(2004/07/22)

 本書は、著者が20年の間、米国と日本のトヨタの工場を訪問し、取材した中から見出した「トヨタウェイ」の14の原則について解説した、上下巻で計582ページにわたる大著の上巻です。
 トヨタウェイの14原則は、「P」から始まる4つのセクション、すなわち「Philosophy(長期的考え方)」、「Process(正しいプロセスが正しい結果を生む)」、「People ane Partners(人とパートナー企業を育成して会社の価値を高める)」、「Problem(継続して根本問題に取り組んで組織的学習を行う)」に分かれています。本書の構成は、トヨタウェイの総論として、トヨタ生産システム(TPS)が誕生した背景や、価値の体系としての「TPSの家」図の解説、トヨタウェイの14原則の概説、トヨタウェイの実践例としてレクサスとプリウスの立ち上げ過程を紹介した後に、14原則について個々に解説する、というものです(「TPSの家」図とは、土台の上に日本の柱が立ち屋根を支えている構造物の形をしていて、土台は、トヨタウェイの思想、目で見る管理、安定して標準化された工程、平準化の4層からなり、その上にジャストインタイムと(ニンベンがついた)自働化の日本の柱が立ち、「最高品質・最小のコスト・最短のリードタイム、最も安全・最高の勤労意欲」という屋根を支え、家の内部にはムダ取りと従業員・チームワークが継続的改善に向かっている、という図です。)。上巻では、14原則のうち原則6までが紹介され、下巻では原則7~14までが紹介されるという構成です。
 まず、「セクション1 長期的考え方」では、
 ・原則1 短期的財務目標を犠牲にしても長期的な考え方で経営判断する。
に関して、ここではフォードやクライスラーの例を引き合いに、トヨタのミッションが紹介されています。
 「セクション2 正しいプロセスが正しい結果を生む」では、
 ・原則2 淀みのない流れをつくって、問題を表面化させる。
 ・原則3 プルシステムを利用して、つくり過ぎのムダを防ぐ。
 ・原則4 生産量を平準化する(ウサギではなく、亀のペースで仕事をする)。
 ・原則5 問題を解決するためにラインを止め、品質を最初からつくり込むカルチャーを定着させる。
 ・原則6 標準化作業が絶え間ない改善と従業員の自主活動の土台となる。
までが紹介されています。なお、セクション2に含まれる原則7と8については下巻で解説されています。このセクションは、不要な在庫を持たないリーン生産に関連するトヨタの特徴が解説され、特に、大量生産システムの原則にどっぷり漬かった米国の生産思想との対比が際立っています。本書が元々米国向けに書かれていることもあり、この部分は日本の読者、特に実際に日本の工場で働いた経験のある人にとっては「今さら何を言っているのか」ということで退屈に感じるかもしれませんが、この日本と米国のカルチャーの違いを前提において読むと、トヨタが米国に工場を作り、トヨタウェイを伝えてきた上でどんな苦労をしたのかが想像できるのではないでしょうか。
 本書は、米国のビジネス書の例に漏れず、重複する部分も多く冗長な印象を持たれる方もいるかもしれませんが、慣れてくると読むスピードが上がってきます。上巻を読み終えることができれば、下巻は下り坂を駆け下りるように一気に読めるのではないかと予想されます(希望的観測ですが・・・)。


■ 個人的な視点から

 本書の中で一番印象に残ったのは、工程を細かく分解し、付加価値を生む工程と付加価値を生まない工程に分け、付加価値を生まない工程を徹底的に取り除く「ムダ取り」と、亀のペースで安定的に生産を継続する「平準化」の二つの思想です。言葉にしてしまえば「ムダ、ムリ、ムラ」という言葉にまとめられるのですが、実際に工程を価値システムの図に表すと、非付加価値時間(ムダ)がいかに多いか、ということに衝撃を受けます。また、常に全力で走り続けようとすることがいかにムラを作り出し、生産性を下げているか、ということも平準化の生産モデルから伝わってきます。
 一方、この視点で役所を見ると、時間の使い方として付加価値を生まない時間がどれほど多いか、ということを考えると目眩がしそうです。本書の中で紹介されている鋼鉄ナット工場の付加価値時間の割合が、0.008%からせいぜい2~3%という実例がありますが、直感的には、役所の中の付加価値時間の割合は1%を大幅に下回るのではないか、と考えられます。しかも、サボっているわけではなく、本人は全力でやっている場合であってもです(全力だからかもしれません)。また、平準化という点でも、常にウサギのペースが奨励され、「全力でやった結果がこれです。」というアリバイ的な理屈がまかり通っています。もしかすると、個々人の働き方でなく、役所そのものの性質なのかもしれませんが。


■ どんな人にオススメ?

・自分が一日にどれだけ付加価値を生み出しているか、に不安を持っている人。


■ 関連しそうな本

 ジェフリー・K・ライカー (著), 稲垣 公夫 (翻訳) 『ザ・トヨタウェイ(下)』
 大野 耐一 『トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして』
 中沢 孝夫, 赤池 学 『トヨタを知るということ』 2005年08月05日
 浅沼 万里 (著), 菊谷 達弥 (編集) 『日本の企業組織 革新的適応のメカニズム―長期取引関係の構造と機能』
 米倉 誠一郎 『経営革命の構造』 2005年09月09日
 柴田 昌治, 金田 秀治 『トヨタ式最強の経営―なぜトヨタは変わり続けるのか』 2005年07月28日


■ 百夜百マンガ

ラブリン・モンロー【ラブリン・モンロー 】

 大人にとってジョージ秋山と言えば「浮浪雲」が安定した人気を持っていますが、子供にとってはトラウマ系の作品が多いことで知られています。この作品も登場人物は豚とか狼なんですが、人間で描いていたらさぞかし暗い(って既に十分暗い)作品になっていただろうと思います。当時のヤンマガは『さくらの唄』とか気が滅入る系の作品も多かったですし。

2005年9月12日 (月)

企業テレワーク入門

■ 書籍情報

企業テレワーク入門   【企業テレワーク入門】

  小豆川 裕子, W.A. スピンクス
  価格: ¥903 (税込)
  日本経済新聞社(1999/07)

 本書は、企業におけるテレワークのあり方について、主にマネジメントに関する視点から述べたものです。出版は、現在から6年前の1999年ということもあり、当時は家庭ではアナログモデムかISDNの通信環境の時代でしたが、ブロードバンド等の家庭における通信インフラが整備されたとしても、マネジメント面では変わらぬ問題点を企業は抱えており、日本企業の働き方が変わらない限り、本書が指摘している点は古びていません。
 「テレワーク」とは、"Tele"(離れて)-"Work"(働く)という言葉で示されるように、在宅ワークに限定されるものではなく、「情報通信技術を活用して、本来勤務すべき場所以外の場所(オルタナティブ・オフィス)で仕事をするスタイルや概念」と紹介されています。テレワークには、(1)被雇用者のテレコミューティング(通信勤務)、(2)自営業者のSOHO(Small Office Home Office)、(3)請負の在宅ワークなど、様々なスタイルがあります。また、仕事のする場所では、(1)ホームオフィス、(2)サテライトオフィス、(3)モバイルワークなどに分類することもできます。
 テレワークの効果としては、個人にとっては、セルフマネジメントの向上が要求されると同時に、削減された通勤時間を家庭や地域活動などに充てることができます。また、出産・育児期の女性にとっては、継続的な就労によってキャリアの維持・開発を容易にすることもできます。一方、企業にとっては、電話などによる仕事の寸断がなくなることによる集中力の向上など、生産性・効率性の向上があります。また、フリーアドレスの同時導入によるオフィスコストの削減も併せて期待できます。
 テレワークによって大きく期待されるのは、人物中心から仕事中心にマネジメントが変わらざるを得ない点、そして、机に座っている時間ではなく仕事の成果による評価が不可欠になるなど、マネジメントスタイルの変化です。見張っていないとすぐにサボる労働者に仕事をさせるために監視を続ける監督者としてのマネージャーではなく、一人ひとりの社員が力を発揮し、チームとして高い成果を出すためにリーダーシップを発揮するマネージャーが必要になるのです。
 このように、テレワークは、通勤をしたくない社員に対する福利厚生ではなく、企業として競争力を維持し続けるための戦略の一つとして位置づけられます。これまで、子育てや介護で通勤できない人のための制度だと思っていた方は、一度本書をご覧になってみてください。


■ 個人的な視点から

 上司が見ていないところで勝手に仕事をさせたらサボるんじゃないか、という部分でテレワークに対して懐疑的な人は少なくないのではないかと思います。確かに、在宅で仕事をするというと、休日に持ち帰った仕事をテレビでも見ながらダラダラ行っている姿を想像してしまうのかもしれません。また、仕事の成果で管理するといっても今までやったこともありません。
 しかし、実際にはアメリカで問題になっているのは、仕事と家庭との時間の区切りがはっきりつかないことによって、四六時中仕事のことが頭を離れなかったり、逆に、アルコールや薬物の中毒になる場合の方が多いそうです。
 また、在宅勤務と言っても週に1~2日程度であれば、これまでも社員一人でも残業していることはあるのですから、在宅でどんな仕事をしたかの管理はそれほど難しくはないのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・テレワークのイメージをつかみたい人。


■ 関連しそうな本

 ウェンディ・A スピンクス 『テレワーク世紀―働き方革命』


■ 百夜百マンガ

ぞうさん家族【ぞうさん家族 】

 ヤンマガに連載していたときには『パパと踊ろう』と並んでブラックなギャグを撒き散らしていました。
 個人的には、家族が増えまくって「増産家族」というネタが好きでした。

2005年9月11日 (日)

誰かに教えたくなる社名の由来〈Part2〉

■ 書籍情報

誰かに教えたくなる社名の由来〈Part2〉   【誰かに教えたくなる社名の由来〈Part2〉】

  本間 之英
  価格: ¥1,680 (税込)
  講談社(2003/10)

 本書は、『誰かに教えたくなる社名の由来』の続編として、Part-1の1年半後に出版され、二冊合わせて546社もの社名の由来が紹介されています。Part-1と比べると、最近の合併によって誕生した企業やソフトバンク(株)のような新興のIT企業(と言っても古株ですが)も登場し、幅が広くなっている反面、不勉強ながら(商品は知っていても)初めて聞くような企業もたくさん紹介されています。「誰かに教える」という目的ならば、「それ知ってるよ」と言われかねないメジャー志向のPart-1よりもネタ元としては使いやすいかもしれません。
 創業者の姓名をベースにした社名としては、ガス器具で有名なリンナイ(株)が創業者の姓である「林」と「内藤」を合わせたものであったり、チノン(株)が創業者の「茅野」にカメラブランド名として流行っていた語尾の「N」を付けたものであったり、ロックペイント(株)の社名が創業者の名である「巌」にちなんだものであったりと、「へぇ~」な由来がたくさん収録されています。また、もはや地名も有名になってしまっていますが、小岩井乳業(株)の「小岩井」は小野義慎(日本鉄道会社副社長)、岩崎弥之助(三菱社社長)、井上勝(鉄道庁長官)の3人の姓から1文字ずつ取ったものであることも紹介されています。
 地名に関したものでは、釣具で有名な(株)がまかつが、創業の地である兵庫県西脇市蒲江と創業者の名である「繁克」を組み合わせた「蒲克」であること、青汁で有名なキューサイ(株)の旧社名が「九州自然野菜組合」すなわち「九菜」の意であること(カタカナにすることで「健康の"救済"」とも受け止められるそうです。)などが紹介されています。また、変わったところでは、チョーヤ梅酒(株)が元々「蝶矢」の字を当てているのは、創業地の大阪府羽曳野市が、万葉の時代から蝶の生息地として知られ、石器時代から人が住み矢尻の石を産していたことにちなむそうです。
 商品名が社名になったものとしては、(株)千趣会が元々頒布商品としてこけしを扱っていたときに、創業者の兄が経営していた「こけし千体趣味収集の会」から仕入れをしていたために千趣会と命名したそうです。また、(株)雪国まいたけの「雪国」という言葉には暗いイメージがあるので社名から外すように創業時にも株式公開時にも周囲から反対されたそうですが、新潟出身の創業者にとって温かい故郷である「雪国」は絶対に外さなかったそうです。
 俗説が出回っているものとしては、アンテナ最大手のマスプロ電工が「mass poduction(大量生産)」ととられることが多いが、実は「master(覇者)」の意味であったり、タカラスタンダード(株)が「並」の製品しか作れない、と言われる(本来はホーローの世界基準を目指すと言うもの)ことなどが紹介されています。
 Part-1と合わせて読むことをお奨めします。


■ 個人的な視点から

 社名には関係ないところで引っかかってしまったのですが、育児用品で有名なピジョン(株)の創業間もない昭和30年代、同社の社長は週刊誌に「オッパイ社長奮闘す」と紹介されていたそうです。その「奮闘」の内容は・・・?
 なんと、出産経験のある水商売の女性に「ピジョン哺乳器本舗 代表取締役 仲田祐一」と書かれた名刺を差し出した上で、謝礼を渡してオッパイを吸わせてもらう、という自ら"オッパイ行脚"と呼んだ仕事を6年間続け、千近いオッパイを吸わせてもらったそうです。
 当時の哺乳器はガラス瓶にゴム製の乳首をつけただけのもので、乳首の質が悪く、不衛生であったために使う人は稀でした。ピジョンは社長のオッパイ行脚の経験を生かして、持ちやすく、限りなく本物に近い高性能の哺乳器を開発したそうです。
 「商売の基本は顧客の声を聴くこと」とは言いますが、週刊誌でイロモノ扱いされた「奇行」がこうして実を結んだことで、子育ての負担を減らすことができたわけです。


■ どんな人にオススメ?

・もっと社名の由来を知りたい人。


■ 関連しそうな本

 本間 之英 『誰かに教えたくなる社名の由来』 2005年09月10日
 田中 ひろみ 『思わず話したくなる社名&商品名の謎―なぜか気になる社名・商品名の由来760』
 荒俣 宏 『広告図像の伝説』


■ 百夜百音

FLOWER【FLOWER】 MUTE BEAT オリジナル盤発売: 1987

 航空会社のCMなどで使われることはあっても、一部のマニア向け扱いされていたダブバンドです。後のスカパラとかスリルに比べると一般受けしにくいことは否めないですが、日本の音楽シーンに、直接(プロデュースなど)、間接に大きな影響を与えたバンドです。今の人の方が違和感がないのかも知れません。


『LOVER'S ROCK』LOVER'S ROCK

2005年9月10日 (土)

誰かに教えたくなる社名の由来

■ 書籍情報

誰かに教えたくなる社名の由来   【誰かに教えたくなる社名の由来】

  本間 之英
  価格: ¥1,680 (税込)
  講談社(2002/04)

 本書は、誰でも一度は聞いたことがある日本企業309社の、社名の由来やロゴマークの由来を紹介したものです。
 社名の由来にはいくつかのパターンがあって、創業者の姓や屋号・地名を元にしたものや、主力商品名・事業名に合わせたもの、合併前の企業名を元にしたもの、そして創業者の理念・信条を表したものなどです。
 創業者の姓を元にしたものとしては、本田技研工業(株)などのわかりやすいものもあれば、姓名を縮めた(株)加ト吉や、外国企業という意味の中国語「洋行(ヤンハン)」を付けた(株)内田洋行などがあります。
 地名に関したもので面白いものとしては、創業地のひばりが丘団地にちなんだ(株)すかいらーくや、分離独立前の「呉羽紡績」の工場があった富山県婦負郡西呉羽村にちなんだ呉羽化学工業(株)、変わったところでは、京都の仁和寺が「御室(おむろ)」と呼ばれることにちなんだオムロン(株)があります。
 屋号などにちなんだものとしては、全身である薬問屋「小西屋六兵衛店」にちなんだコニカ(株)や、名古屋城の金の鯱をあしらった旗の図柄のスタンプ台を「鯱旗印」で売り出したシャチハタ(株)などがあります。
 商品名や主力ブランドが社名になった企業は多くありますが、面白いのは、象印マホービン(株)、タイガー魔法瓶(株)という二つの魔法瓶メーカーが、どちらも東南アジアの輸出向けに現地で神聖視されている象と虎をシンボルマークにしていることです。他には、主力商品の「衛生材料」の略であるエーザイ(株)や、北海道に蒸留所を設けてウイスキー造りを始めたが、ウイスキーが熟成するまでの6年間、「大日本果汁」という社名でりんごジュースなどを造っていたというニッカウヰスキー(株)、つまり「日果ウヰスキー」などがあります。
 合併に関したものは、近ツリのようなわかりやすいものもあれば、「ユ(ナイテッド)」+「ニチ(ボー、ニチレ)」+「カ(イシャ)」でユニチカ(株)や、古河電気工業とドイツのシーメンス社の社名を組み合わせた子会社の富士通(富士電機製造から通信部門が独立)などがあります。
 また、理念・信条は、かなり創業者の思い入れが入る分野なので、イマジネーション豊かな、産みの苦しみの混じったものも多くあります。(株)小僧寿し本部は、「社員の全てがお客様に奉じる"小僧"であってほしい」という理念の現れ、(株)キングジムは「事務の王様」、アヲハタ(株)は、創業者がイギリスで見たケンブリッジとオックスフォードの大学対抗ボートレースのフェアプレー精神を忘れないために、両校の応援旗にちなんで、など様々です。
 俗説が数多く現れるのも社名の面白いところです。(株)サンリオは、スペイン語の「サン」(聖なる)+「リオ」(河)を合わせた合成語ですが、創業者の山梨県をもじった(創業時の社名は「山梨シルクセンター」)、"山梨王"ではないかと言われた、という話があります。また、(株)ポッカコーポレーションは、「ぽっかぽかのコーヒー」が語源と言われますすが、元々は創業当初に製造した人工レモン果汁を扱ってくれたニッカバーに恩を感じて「ニッカレモン」という社名にするも、ニッカ以外にも普及したために社名を変更することになり、当時流行していた「ニッカーボッカー」から「ボッカ」をひらめき、響きを良くして「ポッカレモン」を社名にした、という由来があります。
 このように、社名には創業者の思いや歴史が詰まっていて、聞きなれていて違和感を感じない社名も、由来をたどると感動的なドラマがあります。


■ 個人的な視点から

 本書で紹介されている企業は、今では大企業ばかりですが、多くの企業は創業時には零細企業である場合がほとんどです。特に主力商品一本で急成長したような場合には、社名やブランド名に格別の思い入れがあることが多く、ドラマを感じます。
 例えば、スポーツシューズのチャンピオンやパンサーを製造している世界長(株)は、大阪で足袋を製造している中小企業が集まり、「力を結集して世界のリーダーを目指す」ということで名づけられました。また、カメラで知られるミノルタ(株)は、創業者が母から諭された「稔るほど頭(こうべ)をたれる稲穂」から、「稔る田」と名づけられています。(株)ドトールは、創業者が自分自身の存在価値を見極めるために単身ブラジルに渡り、サンパウロのコーヒー園で2年間コーヒー修行をしたときに暮らしていたアパートの住所にちなみ、常に初心を忘れない思いが込められています。
 最近のベンチャー企業は、カッコいい横文字が並び、適当に語感のいい言葉をつけただけじゃないか、と思うこともありますが、実は創業者の深い思いが込められているのかもしれません。いつか聞いてみたいものです。


■ どんな人にオススメ?

・知り合いの会社の社名の由来を調べてみたい人。


■ 関連しそうな本

 本間 之英 『誰かに教えたくなる社名の由来〈Part2〉』
 田中 ひろみ 『思わず話したくなる社名&商品名の謎―なぜか気になる社名・商品名の由来760』
 湯元 俊紀 『語源ブログ ネットで探るコトバの由来』


■ 百夜百音

LET'S KNIFE【LET'S KNIFE】 少年ナイフ オリジナル盤発売: 1992

 高校時代にフールズメイトかなにかでグループ名だけ見たことはありましたが、実際に音を聴くまではもっとドロドロ系の暗い音楽を想像してました。
 スタンフォード日本センター研究所長の中村伊知哉氏が京都大学時代に携わっていたバンドとしても知られてます。


『Pretty Little Baka Guy』Pretty Little Baka Guy(試聴あり)

2005年9月 9日 (金)

経営革命の構造

■ 書籍情報

経営革命の構造   【経営革命の構造】

  米倉 誠一郎
  価格: ¥819 (税込)
  岩波書店(1999/11)

 本書は、イギリス、アメリカそして日本を中心に、企業経営に革命を起こしてきた企業家たちを紹介することで、イノベーションがどのような市場や技術において起こされてきたのかを解説する「経営の歴史書」です。
 「第1章 イギリス産業革命の技術と企業家」では、ワットの蒸気機関発明以前の靴下編み機や生糸撚糸機等の発明や、初期紡績機を発展させた悲劇の企業家であるワイアットとポール、ジェニー紡績機を発明したハーグリーブズ、水力紡績機を発明したアークライト、ミュール紡績機(「ミュール」とはロバと馬を掛け合わせた「ラバ」の意味)を発明したクロムプトン、力織機のカートライトなど、企業家と発明が一体だった頃の次々に起こる(と言っても長い期間かけてですが)イノベーションが紹介されています。また蒸気機関についても、ワット以前のセイヴェリーの真空ポンプやニューコメンの蒸気ポンプなどの発明や、発明家としてのワットと二人三脚で市場に打って出たロウバックやボウルトンといった起業家たちが紹介されています。そして、これらの技術的イノベーションをベースに、企業としてのイノベーションによって大繊維企業を築き上げたマコウネルとケネディを中心に、産業革命期のイギリスの起業家像を描いています。
 「第2章 アメリカにおける経営革命」及び「第3章 ビッグ・ビジネスの組織革新」では、鉄道や鉄鋼、化学、自動車など、それまでの企業とは全く違う巨大な企業の誕生を描いています。チャンドラーは、これら「現代企業(modern corporation)」の特徴として、
(1)市場メカニズムに変わる内部取引の実現
(2)その内部取引を効率的に達成するための複数職能をもった組織の完成
(3)職能別組織を流れる内部取引や経営資源を管理調整する経営階層や本社機能の出現
という3点を挙げています。
 現代企業のベースとなった組織形態をつくり上げたのは、ペンシルバニア鉄道のエドガー・トムソンらがつくり上げた「ライン=スタッフ組織」です。これは、
(1)責任と権限のラインと範囲の明確化
(2)現業部門と本社部門の分離
(3)社内情報の経営管理手段としての認識
という特徴を持っていました。
 この鉄道会社における組織革新を製造業に持ち込んだのが製鉄王カーネギーです。彼は鉄道業に身を置き、近代的な組織運営を体得する傍ら、投資によって財をなし、その資本を元手に鉄道のレールとして莫大な需要が見込まれる製鉄業を興します。鉄道業で習得した「コスト、規模そして迅速性」の原則を製鉄業で実現し、アメリカで生産される製鉄の4分の1を占める世界最大の製鉄会社をつくり上げ、「規模の経済」を体現します。
 この他、第2章では、トラスト組織をつくり上げた製油王ロックフェラー(友人潰し(Wreck a fellow)というあだ名がついていたそうです。)のスタンダード・オイルが紹介されています。
 第3章では、デュポン社の垂直統合戦略と複数職能別組織、そしてそれら現業部門を統括するミドル・マネジメントの確立と専門経営者としてのトップ・マネジメントの確立など、企業のマネジメントにおけるイノベーションが紹介されています。また、フォードとGMという自動車産業をつくり上げたヘンリー・フォードとウィリアム・デュラント、アルフレッド・スローンなどの企業家の姿や事業部制の確立などが描かれています。
 「第4章 日本型組織革命の進展」では、国家のクライシス・マネジメントとしての「傾斜生産方式」を提唱した東京大学の有沢広巳教授(「マルクス主義者で、なお現実主義者」と評される)や、戦後の困窮期にあって世界に類を見ない最新の銑鋼一貫製鉄所の建設を押し切った技術者経営者である川崎製鉄の西山弥太郎、多品種少量生産・開発リードタイムの圧縮・中間組織という特色を持つジャスト・イン・タイム方式を確立したトヨタ自動車の大野耐一など、戦後日本の成長に大きな役割を果たした人たちを紹介しています。
 経営学の教科書では、技術革新や組織改革等のイノベーションと個人名をただ羅列して暗記科目のように教えてしまいがちですが、産業革命以来の長い歴史の中でイノベーションを起こしてきた企業家たちの個人としての生涯に光を当てることで、イノベーションの間のつながりや歴史の流れを教えてくれる良書です。


■ 個人的な視点から

 本書の中で気に入っているフレーズは、「頭の中に鳥を飼っている」という言葉です。これは、フォード社を不当に解雇され(フォードは自身が内職(エジソン電灯会社では内燃機関を、フォード社では資本家の目を盗んでレーシングカーを)好きな癖があるせいか、従業員には際限のない不信感を持っていた)たにもかかわらず、フォードに好意を持っている元従業員が、ヘンリー・フォードを評した言葉です。
 この言葉は素晴らしい。イノベーターを表す言葉としてこれほど最適な言葉はないと著者も述べていますが大変同感です。本書はものづくりを中心とする企業家たちを紹介していますが、社会起業家と呼ばれる人たちを表す言葉としても「頭の中に鳥」という言葉はぴったりです。
 先月末に、アメリカから、アショカとREDFという社会起業家を支援する組織を招いてフォーラムと会議が開催されましたが、日本に来てくれたビル・カーター(アショカ)とシンシア・ゲアー(REDF)のお二人は、まさに「頭の中に鳥を飼っている」という表現がぴったり来る素敵な方でした。


■ どんな人にオススメ?

・頭の中に鳥を飼っている人たちを見てみたい人。


■ 関連しそうな本

 アルフレッド・D・チャンドラー・ジュニア (著), 三菱経済研究所 『経営戦略と組織―米国企業の事業部制成立史』
 伊丹 敬之, 伊藤 元重, 加護野 忠男 (編集) 『組織と戦略 リーディングス 日本の企業システム』
 大野 耐一 『トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして』
 野中 郁次郎 『知識創造の経営―日本企業のエピステモロジー』 2005年03月02日
 ゲイリー ハメル, C.K. プラハラード (著), 一條 和生 (翻訳) 『コア・コンピタンス経営』 2005年02月09日


■ 百夜百マンガ

北斗の拳【北斗の拳 】

 最近はパチンコ屋さんのポスターで目にすることが多くなったケンシロウですが、実は、雑魚キャラが断末魔に叫ぶ「ひでぶ」や「あべし」にも意味があるそうです。
 詳しくは「語源ブログ」をご覧ください。

2005年9月 8日 (木)

男女共同参画と女性労働―新しい働き方の実現をめざして

■ 書籍情報

男女共同参画と女性労働―新しい働き方の実現をめざして   【男女共同参画と女性労働―新しい働き方の実現をめざして】

  赤岡 功, 長坂 寛, 渡辺 峻, 筒井 清子, 山岡 煕子
  価格: ¥2,730 (税込)
  ミネルヴァ書房(2000/11)

 本書は、企業における女性労働の問題について、主として経営学の立場からの分析を行うことによって、男女共同参画社会のあり方を模索したものです。5人の著者により、女性労働の問題点が、人的資源管理の研究成果をベースに指摘しています。
 本書の構成は、まず女性労働に関する世界と国内の動きとして、国連やILOなどの取り組みと男女雇用機会均等法など国内の法制度の環境整備について、基礎知識的に紹介した後、日本型の雇用管理、パートタイム労働、雇用管理の複線化、賃金格差、組織風土の問題など、女性が企業や労働市場の中で置かれている状況について解説を行っています。制度などに関して、人的資源管理の専門用語が多用されていますが、企業の人事担当者にとっては比較的馴染みのある用語が使われているので、特にこの分野に関心がある、というわけではなくても読めるのではないかと思います。
 新しい日本型雇用管理については、男女雇用機会均等法と雇用に関する規制緩和を受け、女性が正社員として活躍する機会を得ることは簡単ではないことが述べられています。パートタイム労働については、日本におけるパートタイム労働の歴史を概説し、長期間働いているにもかかわらず、反復更新によって不安定な身分に立たされている問題が指摘されます。雇用管理の複線化については、一般職と総合職というこれまでのコース別管理が、女性の勤続期間の長期化や男性中高年の処遇の問題と絡んで変容して行くことが述べられています。賃金格差については、男女の賃金格差が生じる理論的背景を紹介し、メンターの存在の重要性などが述べられています。組織風土については、日本企業が持つ「社会的家父長制」の特徴を指摘し、OJTの機会の平等や情意考課の問題点などを指摘しています。
 女性労働の問題に関して、一通りの基礎知識を持つ目的であれば一冊を巻頭から一通り、特定の問題に関心があるのであれば該当する章を読むという二種類の読み方ができます。


■ 個人的な視点から

 通して読んだ感想としては、女性労働の問題を通して男女共同参画を語るという本書の趣旨と同時に、女性労働の問題を切り口にして日本企業の人的資源管理の問題点が浮き彫りにされている、ということがあります。本書で紹介されている女性の人的資源管理の問題点は、程度の差はありますが、男性にとっても同じ問題点が存在します。現在、契約社員やパートタイム労働の男性も多くなっています。また人事管理の複線化については、男性中高年社員がポスト不足によるプラトー現象でだぶついている中では切実な問題です。賃金格差の問題も男女間だけではなく、男性同士の間でも大きな賃金格差が存在します。
 つまり、単純に「男性社員と女性社員の間の格差」の問題だけではなく、「コア社員とノンコア社員の間の格差」の問題も同時に孕んでいるということです。この二つの問題を混同して議論すると混乱するのではないかと思います。

   ノンコア社員
     ↑
     |
男性←――+――→女性
     |
     ↓
   コア社員

 5人の著者の間でアプローチに相違点があると思われる点としては、人的資源管理の立場、経営学の研究者の立場から女性労働の問題点を指摘しようというアプローチの章と、女性の地位向上を訴える立場から情緒的な表現が多用されている章が混在している点です。この辺りは共同執筆の難しい点ではあります。学術書の場合は、個々の研究者の研究内容を尊重して、各章間の調整は大まかにしかとらないケースが多いようですが、ある程度は本全体の方向性に関する意思統一を図ってもらった方が、本全体としてのメッセージが強まるのではないかと思います。本書の場合は、編著者も立てず、5人の共同執筆の形になっているため、その傾向が顕著なのかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・企業の人事担当者。


■ 関連しそうな本

 八代 尚宏 『日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済』 2005年03月23日
 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』 2005年04月05日
 玄田 有史 『仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在 中公文庫』 2005年07月20日


■ 百夜百マンガ

この女(ひと)に賭けろ―Hiromi,a long tall lady【この女(ひと)に賭けろ―Hiromi,a long tall lady 】

 「切れ者女性銀行員」として、連載開始当初は「過酷な銀行業界で活躍する女性」という点が強調されていましたが、この作品の面白さはストーリーそのものにあり、単なるキャラクターの一特徴に過ぎない感じです。先入観無しで面白く読めます。

2005年9月 7日 (水)

メディア・リテラシー―世界の現場から

■ 書籍情報

メディア・リテラシー―世界の現場から   【メディア・リテラシー―世界の現場から】

  菅谷 明子
  価格: ¥819 (税込)
  岩波書店(2000/08)

 本書は、テレビや新聞、ウェブなどの様々なメディアを読み解く能力である「メディア・リテラシー」を子供たちにどう身につけさせるか、という世界の教育現場をレポートしたものです。「メディア・リテラシー」の定義について本書では、1992年にアスペン研究所が主催した「メディア・リテラシー全米指導者会議」において定義された「多様な形態のコミュニケーションにアクセスし、分析し、評価し、発信する能力」という定義を紹介しています。そして、世界中の教育の現場、中には小学校のうちから行われている、テレビニュースや広告、映画を「批判的(クリティカル)」に読み解くための教育について、イギリス、カナダ、アメリカを中心に多数のインタビューを交えて構成されています(なお、「批判的」とは、否定的に批判するという意味ではなく、「適切な基準や根拠に基づく、論理的で偏りのない思考」を意味します。)。
 メディア教育の研究や実践の「発祥の地」であるイギリスでは、小学校4年生に相当する年齢の「国語」の授業風景が取り上げられています。授業の中では、
・コンピュータ・ゲームのコマーシャルには男の子しか出てこない。
・食べ物のコマーシャルには黒人が出てこない。
・コマーシャルに出てくる家族は必ず両親がそろっている。
などの意見が子供たちから出され、メディアの「現実」と自分たちの「現実」の比較により、「メディア」という装置の姿を捉えようとしています。
 カナダ・オンタリオ州では、1987年に世界で初めて、メディア・リテラシーをカリキュラムに取り入ることが制度化されました。中学高校の「国語」の少なくない時間をメディアの学習にあてられています。この制度化には、78年に設立された、教師を中心とする草の根市民団体であるメディア・リテラシー協会(AML)が大きな役割を果たしています。本書では、カナダの高校で行われたセクシーなインスタントコーヒーのコマーシャルを題材にした授業や、ハローウィーンに関連したメディアの演出などのポップカルチャーを分析する7年生の授業を紹介しています。
 アメリカでは、子供の視点から見たニュースを発信し続ける「チルドレンズ・エクスプレス」(CE)の活動が紹介されています。メディアの民主化の実現に向けた実践として、CEのようなNPOを中心とするメディア団体が成果を挙げています。社会的弱者である子供の視点を重要視したCEが設立されたのは1975年にさかのぼります。CEの小さな記者は、固定観念に縛られないストレートな質問によってパワフルなコメントを引き出すことができ、大統領選挙の報道でピーボディ賞を受賞するなど、アメリカの報道関連の賞を総なめにしています。
 このほか、インターネット上の情報の読み書きを学ぶ「ウェブ・リテラシー」の習得の支援を進めているカナダの「メディア・アウェアネス・ネットワーク」や英国映画協会(BFI)の活動も新しいテーマとして取り上げられています。コンピュータ自体を技術的に使いこなす「コンピュータ・リテラシー」とは別に、インターネットにおけるメディア・リテラシーの重要性が説かれています。
 本書は、膨大な取材を背景とした、世界の教育現場のレポートが中心となっているため、メディア・リテラシーの体系的な理解には向かないかもしれませんが、ふんだんにインタビューが盛り込まれ、メディア・リテラシーの重要性を体感するには適しているのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 面白かったのは、イギリスでもカナダでもメディア・リテラシーは「国語」(この場合は英語)の授業の中で取り入れられている、ということです。私は、学生時代は国語の授業が大の苦手でした。漢字の書き取りや教科書の「全文書き取り」などは、何のためにやるのか、教師の手抜きじゃないかと疑問に思っていました。国語が面白くなったのは、大学受験で出題される「百字以内で述べよ」というタイプの問題を解くために、長い文章を編集して百字に切り詰める作業をやったときくらいです。
 本書を読むまでは気にもしていませんでしたが、私たちが授業を受けていた「国語」も実はメディア・リテラシーを身につけることが目的だったのではないか、ということに気づきました。つまり、新聞や小説、マニュアルなどを「メディア」を「分析し、評価し、発信する能力」を学んできたということです。もちろん、テレビや映画や広告は題材になりませんでしたし、インターネットなどは存在もしていませんでした。また、広告の背後の商業主義や、メディアの政治的な偏りなどについては言及されませんでしたが、発信者の意図しているものは何か、というメディア・リテラシーの基礎的な訓練を行ってきたのではないかと思います。
 この考えに従えば、政治的に先鋭的なメディア教育は難しいかもしれませんが、英語の授業でヒアリングをしたり形容詞の用法の違いを学ぶように、国語の授業でビデオや広告の表現方法による伝わり方の違いを学ぶことをカリキュラムに取り入れることは可能ではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・メディアを読み解く力の重要性を知りたい人。


■ 関連しそうな本

 横江 公美 『判断力はどうすれば身につくのか―アメリカの有権者教育レポート』 2005年07月13日
 菅谷 明子 『未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告―』
 高瀬 淳一 『情報と政治』 2005年06月23日


■ 百夜百マンガ

お天気お姉さん【お天気お姉さん 】

 「暴走するメディア」を体現した極端なキャラクターと言えばこの作品です。単なる暴れ者ではなく、子供の頃おとなしかった人が急にはじけたような、作者特有の「吹っ切れたナイーブさ」が前面に出ています。

2005年9月 6日 (火)

社長!それは「法律」問題です―知らないではすまないビジネスのルール

■ 書籍情報

社長!それは「法律」問題です―知らないではすまないビジネスのルール   【社長!それは「法律」問題です―知らないではすまないビジネスのルール】

  中島 茂, 秋山 進
  価格: ¥1,575 (税込)
  日本経済新聞社(2002/06)

 本諸は、企業の存亡自体をも左右しかねない、それでいて日本のビジネス社会ではなあなあで済まされる(済まないんですけど)ことが多い「法律」問題を、リクルート出身でいくつもの企業と契約する「インディペンとコントラクター」である秋山氏が、企業法務の専門家である中島弁護士にインタビューする形で、様々な事例を織り交ぜながら解説しているものです。
 取り扱われているのは、法人制度からはじまり、株主代表訴訟、知的財産権、独禁法、ディスクロージャー、リスクマネジメントなど多岐にわたりますが、共通しているのは、日本のビジネス慣行上はなあなあで済まされてきた、むしろ、法律のグレーな部分(本書で取り上げられてるのはかなり黒いですが)をうまく処理できる社員が総務部長や役員に出世してきたこれまでのやり方に対して、「今までどおりのやり方をしていると何十億円という損害賠償責任を個人で負うことになりますよ」とか、「みんなで渡れば怖くない、と思ってたら今日にも手錠につながれますよ」とかの警告(半分はあきれながら、という感じですが)を発しているところです。
 いくつもの生臭い企業法務の世界を生きてきた中島弁護士と、リクルートという新しい社風の企業を出発点に新旧様々な企業で仕事をしてきた秋山氏との絶妙な掛け合いは、植木等が出るような古いサラリーマン映画を見ながら、「いまどきこんなことしてる会社はないよな」と大笑いしているかのような痛快さがあります。
 本書は、法律をメインの素材に取り上げていますが、法律違反の部分はむしろ切り口の一つで、批判されている真のターゲットは日本企業の古い風土や商習慣などではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 生臭い部分、法律的にグレーな部分をうまく処理できる人が重用される、というのは企業の世界でも役所の世界でも変わらないところがあるようです。外務省のロジ担として国際会議の裏と表の全てを仕切ってきた外国訪問支援室長が逮捕された事件は記憶に新しいところですが、外務省ほどキャリアとノンキャリの線引きが厳格なところはないそうです。
 他の省庁ではキャリアもある程度予算の事務に携わりますが、外務省ではキャリアは予算の執行には一切タッチせず、完全にノンキャリの徒弟制の世界の元でお金が扱われるので、「ノンキャリの星」の犯罪には誰も口出しができなかったそうです。
 ところで、本書で面白かったのは、総会屋が元々は暴力団とは別の世界の人間で、司法試験にあと一歩くらいの法律の秀才たちが、株主総会で企業の使い走りをしていたのが起源だ、ということです。なんだか某大国とテロリストみたいな話です。


■ どんな人にオススメ?

・「法律問題」は他人事、と思っている人。


■ 関連しそうな本

 秋山 進, 山田 久 『インディペンデント・コントラクター 社員でも起業でもない「第3の働き方」』 2005年02月02日
 西村 健 『霞が関残酷物語―さまよえる官僚たち』


■ 百夜百マンガ

俗物王が手に入らなかったのでロビン西つながりということで【俗物王 】

 総会屋者といえばインパクトがあるのはこの作品。企業小説的な原作にインパクトのある汚い画を合わせたのは『ナニワ金融道』の二匹目の土壌狙いなのでしょうか。
 「端株」を見せてびびらすとか、株知らないとよく分かりません。

2005年9月 5日 (月)

デルの革命 - 「ダイレクト」戦略で産業を変える

■ 書籍情報

デルの革命 - 「ダイレクト」戦略で産業を変える   【デルの革命 - 「ダイレクト」戦略で産業を変える】

  マイケル デル
  価格: ¥840 (税込)
  日本経済新聞社(2000/11/07)

 本書は、顧客との「ダイレクト」な関係にこだわり続けることで、大学の相部屋の寮からスタートして全米第1位のPCメーカーに成長したデルコンピュータの15年の歴史とその強みについて創業者である著者自身が語ったものです。
 デルのビジネスモデルの特徴は、徹底的にセグメンテーションした顧客とダイレクトな関係を築き、不必要なステップを省略することです。そしてそれはデルコンピュータ創業以前の著者の経験に象徴的に現れています。9年間の学生生活という「不必要なステップ」を省略するために8歳の時に高卒資格試験の受験を申し込み、12歳の時には切手収集家にカタログを直送することで2000ドルを稼ぎ出し、高校時代には新婚家庭や新たに住宅ローンを組んだ人に新聞勧誘をするというセグメンテーション戦略によって年間1万8000ドルを稼ぎ出します。これらの経験がマイケル・デル青年に自信を与え、1年で大学生活に見切りをつけてビジネスの世界に身を投じさせます。
 本書は大きくは二部構成になっていて、第1部は、デルコンピュータの誕生から現在までの成長が描かれています。大学の寮から始めたビジネスがドンドン急成長し、数ヶ月単位でオフィスが手狭になっていくなかで、著者自身が自らの役割をセグメンテーションし、何でも自分でやる代わりに他人の能力を活用することを学んで行きます。ビジネスもデル自体はうまくいっても、企業の成長に企業自身がついていけずに破綻してしまうベンチャーが多い中で、著者は市場だけ出なく、組織内においてもセグメンテーションという考え方を徹底することで、次々と成長に見合った経験を持つ経営者や財務担当者を迎え、部下に権限を委譲し、自身はデル社のビジネスモデルを磨き上げることにフォーカスし続けることで急成長による踏み外しを避けることができました。
 もちろん、著者が自らを「とても効率的な人間」と呼んでいるように、デル社は何度も大きな失敗と学習を繰り返しています。急成長の狭間で、「顧客の求めるものをダイレクトに提供する」というコア・コンピタンスから足を踏み外し、膨大なパーツの在庫を抱えたり、店舗による間接販売を始めたり、顧客にとってオーバースペックな製品のフルラインナップを揃えようとするなど、数々の大きな失敗を経験し、そしてそのことから学習することで、デル社はそのビジネスモデルを磨き上げ、資源を集中していきます。この、失敗から学んだ先には大きな学習がある、ということを企業全体で体現していることが組織としてのデル社の強みなのかもしれません。
 デルのコンピュータを使ったことのある人も、そうでない人も、自らの強みに集中することの大切さを学びたい人はぜひ本書を手にとってみてください。


■ 個人的な視点から

 個人的には、デルのコンピュータを持っていたのは相当昔で、中古の486のデスクトップを1台買ったことがあるような気がします。当時コンピュータをばらしては組み立てて遊んでいた中で、デルのコンピュータはパーツ構成がオーソドックスで(別の言い方をすれば標準的なパーツの寄せ集め)、改造するには素直で扱いやすかったことが印象に残っています。逆にコンパック、特にコンパックのノートは独自仕様の部分が多く、様々なドライバをwebサイトからダウンロードする必要があって面倒でした。
 本書は、コンピュータメーカーに関するものですが、強みのあるビジネスモデルにセグメンテーションする、という考え方自体は他の業種にももちろん応用が利きます。本書から何が学び取れるかは人それぞれですが、自分のビジネスに当てはめて考え、「自分がマイケル・デルだったらどんな判断をしているだろうか?」と考えることで、大きなヒントが見つかるのではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・ビジネスモデルを見直したい人。


■ 関連しそうな本

 ゲイリー ハメル, C.K. プラハラード (著), 一條 和生 (翻訳) 『コア・コンピタンス経営』 2005年02月09日
 安部 修仁, 伊藤 元重 『吉野家の経済学』 2005年06月29日
 伊藤 元重 『ビジネス・エコノミクス』 2005年02月18日


■ 百夜百マンガ

ツルモク独身寮【ツルモク独身寮 】

 家具メーカーの独身寮を舞台にした青春ものです。バブル時代のテレビや雑誌で紹介される「トレンディ」な生活と等身大の生活とのギャップに時代を感じます。基本的には主人公以外のキャラクターの面白さで持っているようなところがあって、最強キャラの白鳥沢麗子は覚えている方も多いのではないでしょうか。やたらとジーザス・ジョーンズに肩入れしていました。

2005年9月 4日 (日)

日本社会の歴史〈上〉

■ 書籍情報

日本社会の歴史〈上〉   【日本社会の歴史〈上〉】

  網野 善彦
  価格: ¥735 (税込)
  岩波書店(1997/04)

 本書は、日本「社会」に焦点を当てて、古代から現代に至る歴史を編み直した三巻もののうちの上巻で、日本列島の形成から平安初期までをカバーしています。昨年亡くなられた本書の著者である網野善彦氏は、映画「もののけ姫」にモチーフを与えた存在としても知られています。
 現代の多くの日本人は、中学や高校の授業の中で「日本史」について学んだ中で、稲作の伝来によって縄文時代が終わり弥生時代になり、国家が誕生し、奈良時代、平安時代を迎えた、という歴史の流れを、教科書の目次のとおりに、「第1章」が終われば次のページからは「第2章」が始まるような理解の仕方をしていましたが、本書が気づきを与えてくれる点は、現実の社会は、教科書のページをめくるようには、かっちりと切り替わっていくものではないということです。
 喩えるならば、「単旋律」の歴史観から「複旋律」の歴史観へ、ということでしょうか。最低限の知識を効率よく学習させるためには、「単旋律」の方が知識を詰め込みやすいというメリットがあります。一直線の年表の上で、上から順番に年号を覚えていく学習法(鳴くよ鶯平安京、とか、良い国作ろう鎌倉幕府、とか)には適しています。しかし、現実の歴史は複数の旋律が時には不協和音を奏でながら同時進行していくものであることを本書は教えてくれます。


■ 個人的な視点から

 本書は3年ほど前にブックオフで3巻まとめて買ってそのまま積んでおいたものなのですが、先週『ボラ経』を紹介したことがきっかけで急に読んでみたくなりました。それまで日本史にはあまり関心がなかったので、もたもたと時間かかりながら読んでいます。それまで単一の年表を暗記してきた日本史が、平民を含む様々な勢力の栄枯盛衰が折り重なったような姿、ちょうど世界史で学んだヨーロッパや中東の王権の興亡を見ているように見ることができ、非常に目から鱗です。
 本書を読むきっかけは先述したとおり『ボラ経』でしたが、先月紹介した『渋沢家三代』の三代目に当たる渋沢敬三氏の「アチック・ミューゼアム」に出入りしていた人文学者のリストの中にも網野氏の名前を見ることができます(そういえば先週から今週にかけてソーシャル・インパクト関係の会議で渋沢健さんともご一緒させていただきました。)。
 何やらシンクロインシティというか因縁めいたものを感じますが、本と本とを関連付けて行くことの面白さはこんなところにあるのかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・「単旋律」の日本史に慣れ親しんだ人。


■ 関連しそうな本

 網野 善彦 『日本社会の歴史〈中〉』
 網野 善彦 『日本社会の歴史〈下〉』
 金子 郁容, 松岡 正剛, 下河辺 淳 『ボランタリー経済の誕生―自発する経済とコミュニティ』 2005年08月29日
 佐野 真一 『渋沢家三代』 2005年08月06日


■ 百夜百音

I Want Candy【I Want Candy】 Bow Wow Wow オリジナル盤発売: 2003

 本来はファーストを紹介したかったのですが、ベスト版しかなかったのでこちらを。でもジャケット写真は一緒です。1stアルバムのタイトルは『ジャングルでファン・ファン・ファン』、完全にイロモノ的に扱われてきたグループですが、ポップなジャングルビート(数年前に流行った倍速のブレイクビートを編集するのではないやつ)はもう一回聴いてみたいです。LPレコードしか持っていないですが。
 たしか、レピッシュのギターの人が薦めていたので聴いたような気がします。


『LA-PPISCH』LA-PPISCH

2005年9月 3日 (土)

藩と日本人―現代に生きる"お国柄"

■ 書籍情報

藩と日本人―現代に生きる   【藩と日本人―現代に生きる"お国柄"】

  武光 誠
  価格: ¥690 (税込)
  PHP研究所(1999/09)

 本書は、現在でも県民性を紹介するときに使われる「藩」について、その成り立ちから廃藩までの経緯を紹介するとともに、藩ごとの成立の事情がその地域に住む住民の気質、いわゆる「お国柄」に与える影響を論じています。
 取り上げられているのは、甲斐や盛岡、秋田、米沢、山形、天童等の東北諸藩、百万石の加賀藩、岡山藩、庄内藩、薩摩、津軽、松前などです。それぞれの地域によって藩の成り立ちがどのようなもので、領主の人柄や家風、政策の違いや地理的要因によって、現在の「お国柄」と言われる住民気質が作られてきたのかが語られます。
 残念ながら、本書はお国柄を科学的に分析したようなものではないので、著者による分析は、歴史の薀蓄とステレオタイプな「お国柄」とをこじつけたような印象も与えます。この辺りは血液型占いみたいな部分もあり、「そう言われてみればそんな気もする」という程度のものなので、真面目に反論するのも野暮なのではないかと思います。
 その土地に出かける機会があるのであれば、ちょっとした話の種として読む分には、それなりに面白い薀蓄が載っているのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 個人的には、個々のお国柄云々の部分よりも、「藩」がどのように成立したのか、そして、江戸~明治とどのように住民に意識されてきたのか、という点です。千葉県は残念ながら「藩」として一体ではなかったので、強烈なお国柄というのはないのですが、基本的に先祖代々その地域で暮らしてきた江戸時代の人たちにとって、「藩」や「お国」がどのように意識され、どのように住民気質をつくり上げたのか、という点は興味深いところでした。
 まずショックだったのは「藩」という言葉自体が、「江戸幕府の崩壊の後に通用するようになったもの」という点です。つまり、もし私がタイムマシンに乗って江戸初期のどこかの土地に降り立ったとして、「ここは何藩か?」と訊ねても全く通じないということでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・よその土地での話しのネタがほしい人(ただし全国網羅してません)。


■ 関連しそうな本

 八幡 和郎 『47都道府県うんちく事典―県の由来からお国自慢まで』
 毎日新聞社 『「県民性」こだわり比較事典―お国自慢からウワサの真相まで、気になる話題を徹底調査』
 お国自慢友の会 『県民性がズバリ!わかる本―なんたってオラが郷土が最高ッ!』


■ 百夜百音

ウルトラ パウダー【ウルトラ パウダー】 エレキブラン オリジナル盤発売: 1994

 ギターの音が気持ちよい3ピースのバンドです。昔「Melt」とか「スープ」とかをコピーしてました。やっぱりストラトでジャカジャカかき鳴らすのが一番です。アンプも真空管、少なくともジャズコーラスでないと高音がしょぼしょぼです。間違ってもギブソン系の野太い音で弾いてはいけません。


『メルヘン殺我』メルヘン殺我

2005年9月 2日 (金)

会社人間、社会に生きる

■ 書籍情報

会社人間、社会に生きる   【会社人間、社会に生きる】

  福原 義春
  価格: ¥693 (税込)
  中央公論新社(2001/02)

 本書は、資生堂名誉会長である著者が、資生堂創業者の家に生まれ、新入社員として現場で汗を流し、その傍らでランの栽培などの文化活動に精を出す二足の草鞋の生活を続けながら、社長として大改革を敢行し、現在の資生堂を築き上げるまでを語ったものです。よくある「社長が自らの反省を語る」タイプのフォーマットではあるのですが、本書の面白さは、著者がタイトルにあるような「会社人間」一辺倒の人間ではなく、花や写真など多彩な趣味人としての顔を併せ持っている、むしろ、文化や芸術に対する情熱があるからこそ、資生堂をつくり上げることができた、とも言うべきところにあります。
 趣味と経営の関係については、株式会社としての資生堂の初代社長である福原信三氏が、美術鑑賞で得た審美眼を、会社のロゴや商品デザインに活かし、「経営者として趣味を持ったというよりも、経営に趣味を生かして成功した珍しい存在」として語られています。また、著者自信についても、資生堂経営改革の柱である「サクセスフル・エイジング」(美しく年を重ねる)というコンセプトは、自身の生物や自然への関心や、写真を通じたジャーナリストたちとの交流から、多くの影響を受けていることを語っています。
 趣味と仕事について著者は、「趣味やボランティア活動は会社の仕事の役に立つためにするものではない。しかしそれは組織の一個の歯車でなく一人の人間としての自己実現につながる。」と述べています。そして、会社全体としても、「B面の充実は人間としての広がりや深さをつくることにつながり、そうした人材の層が厚くなればなるほど会社の力は大きくなるだろう。しかもまた、ときにはそれが直接会社の仕事に役立つ場面がないとは言えない。」として、社員個人の人間の厚みが会社としての力の厚みにつながることを積極的に評価しています。
 もちろん本書では、型破りな新入社員時代や米国型のマーケティング理論との出会い、アメリカ販売会社社長として奮闘する日々や資生堂本体の経営改革など、「会社人間」としての著者の様々な経験も語られ、この辺りは「私の履歴書」的なフォーマットに収まり、読みやすい構成になっています。
 「会社人間と言いながら道楽好きの社長の話じゃないか」と思う人もいるかもしれませんが、ぜひ一度読んでいただくと、仕事と人生とのバランスが以下に重要かが伝わるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書のタイトルだけを見ると、趣味三昧の創業者一族の道楽社長が、メセナとかCSRとかの流行にかこつけて、会社の金で美術品集めたり展覧会開いてるような印象も与えます。しかし、本書で語られていることは、もっと人間としての根幹的な、仕事と生活とのバランスに関することです。著者にとってのランの栽培や写真撮影は、もはや単なる趣味や道楽ではなく、著者という人間を形作る重要な要素の一つになっていて、著者が「B面」と呼ぶこちらの面(おそらく本人にとってはこちらがA面かもしれませんが)がなければ、「A面」に当たるビジネスマンとしての人格も成り立たないのではないかと思われます。さらに言えば、この「B面」こそが、現在の資生堂を特徴付ける大きな要因でもあるのです。
 これは、社長、しかも創業者一族出身者だからそんな悠長なことを言える、というものではありません。ヒラ社員や中間管理職にとっても、人生の「B面」がなくては人間としての深み、ビジネスマンとしての仕事の深みを失ってしまいます。個人にとっても会社にとっても、仕事以外での社会との関わりは不可欠なものであるからです。
 なお、著者の「会社人間」としての奮闘ぶりを見てみると、アメリカでの現地法人経営の経験が、経営者としての著者の原点であり、著者がビジネスマンとして「一皮むける」経験をしていることがわかります。現地社員とのビジネススタイルの違いや本社との軋轢、現地の人たちとの家族ぐるみの付き合いなどが、著者にとっての大きな成長のきっかけであることが、語り口の端々から伝わってきます。「仕事と趣味」の話を大きく取り上げましたが、ビジネスマンの成長の記録としても本書は読み応え十分です。


■ どんな人にオススメ?

・人生の「A面」と「B面」のバランスで苦しんでいる方。


■ 関連しそうな本

 日本経済新聞社 (編) 『働くということ』 2005年02月24日
 佐藤 博樹, 武石 恵美子 『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』 2005年04月07日
 田尾 雅夫 『会社人間はどこへいく―逆風下の日本的経営のなかで』 2005年02月27日
 金井 壽宏 『働くひとのためのキャリア・デザイン』 2005年01月30日


■ 百夜百マンガ

リトル巨人くん【リトル巨人くん 】

 小学生なのにプロ野球のマウンドに立っちゃう主人公、滝巨人(たき・きょと)くんの活躍を描いた作品。往年の名選手がたくさん出てくるので今読むとかなり懐かしいと思います。

2005年9月 1日 (木)

昇進の研究―キャリア・プラトー現象の観点から

■ 書籍情報

昇進の研究―キャリア・プラトー現象の観点から   【昇進の研究―キャリア・プラトー現象の観点から】

  山本 寛
  価格: ¥3,360 (税込)
  創成社三訂版 版 (2003/05)

 本書は、昇進の階段が頭打ちになり、同じ職位に長いあいだとどまる「キャリア・プラトー(plateau:高原、台地)」現象について、日本企業を中心に実証研究を行ったものです。プラトー現象は、「現在の職位以上の職階上の昇進の可能性が非常に低いキャリア上の地位」と定義され、縦軸に職位の高さを、横軸に年数を置いたグラフを書いたときに、上り坂を描いてきたキャリアが同じ高さで高原状に横ばいになることから名づけられたものと考えられます。
 組織の業績が悪いから昇進ポストが頭打ちになる、という感覚がありますが、本書によれば、組織業績などのマクロ要因とプラトー現象の間には明確な関係を見ることができず、多くの組織で類似して見られる現象だということです。「高原」という言葉のイメージから、プラトー化は職位の高いところで発生するもののようですが、多数の職位を多数の候補者で争う低いポストの方がプラトー現象が顕著だということです。
 プラトー化には、客観的なものと主観的なものとがあり、それらは必ずしも一致していない場合が多くあります。将来の昇進目標は主観的なプラトー現象に影響し、昇進目標が高いほど、昇進目標に対する受容性が高いほど、また途中段階の目標を設定しているほど、主観的なプラトー現象が起こりにくいことが述べられています。
 本書の研究から導かれる人的資源管理への提言としては、以下の点が述べられています。
(1)プラトー現象を認識し、短期では解消困難なことを前提にすること。また、プラトー現象のマイナス面を極力解消するよう努めること。
(2)低い職位の従業員、中途採用者、女性のプラトー化を考慮することや、早期退職優遇制や昇進・昇格試験の長所である手続き上の公正性を活かすようにすること、昇進目標の設定を行うこと。
(3)専門職制度などの複線型人事管理システムの構築や、人的資源管理システムの公正性の評価を高めること、ジョブ・ローテーションや職種転換のマイナス効果に留意すること。
 また、組織内キャリア発達の観点からは、以下の提言が述べられています。
(1)職位、職務ともにノン・プラトーの「二筋道志向」型従業員には、「双方向キャリア開発」型の人的資源管理施策(管理職研修と専門別研修)。
(2)職位上プラトーで職務上ノン・プラトーの「職務志向」型従業員には、「専門キャリア開発」型施策(主に専門別研修、関連会社への出向など)。
(3)職位上ノン・プラトーで職務上プラトーの「管理志向」型従業員には、「管理職キャリア開発」型施策(管理職研修やジョブ・ローテーション)。
(4)職位、職務ともにプラトーである「キャリア変更志向」型従業員には、「変更キャリア開発」型施策(ジョブ・ローテーションや関連会社への出向など)

        キャリア・プラトー
   「職務志向」型  ↑ 「キャリア変更志向」型
   (専門キャリア ―|→(変更キャリア
    開発型施策)  |  開発型施策) 
職務    ↑     |    ↑
ノン・←――――――――+――――――――――→職務プラトー
プラトー  |     | |
   「二筋道志向」型 | 「管理志向」型
   (双方向キャリア―|→(管理職キャリア
    開発型施策)  ↓  開発型施策) 
        キャリア・ノン・プラトー

 本書は、人事担当者にぜひ読んでもらいたいのはもちろん、ポストが頭打ちで昇進の遅れを感じている本人にとっても、客観的に自分を見る参考になるのではないかと思います。ただし、真面目に読むとそれだけで辛くなりますので、第1部(第1章~3章)と、第2部の終章だけでも読んでみたらいかがでしょうか。


■ 個人的な視点から

 「昇進の遅れ」という言葉をよく聞きます。「組織の業績が悪いから昇進の遅れが発生するんだ」という人もいれば、「昇進の遅れは人事当局の責任だ。何とかしろ!」ということを仰る方もいます。しかし、本書を読むと、洋の東西を問わず、また、組織の業績に関わらず、プラトー現象というものが発生していることがわかります。
 高度成長期の日本を知っている人、特に団塊の世代やその直後くらいの人にとっては、一定の速度でぐんぐん昇進して行く上の世代と比較して、自分たちは不当に昇進で割を食っている、という意識があるのかもしれませんが、本書を読めば、高度成長期の日本の組織の方が異常であったことが理解できるのではないかと思います。つまり、戦争で上の世代の人材が、人数で見ても教育訓練の質で見ても稀少であったために、大卒のエリートはものすごいスピードで昇進し、高卒や中卒でも本人の努力次第でかなり上まで昇進できたのに対し、人口が増え、進学率が上昇するに連れ、昇進のスピードは遅くなり、同じ職位に長く滞留するようになったのです。
 本書が示唆しているのは、社会が安定している状況下では、キャリア・プラトー現象は避けがたいものであり、組織の側も従業員の側も、プラトー現象が発生することを前提にしたキャリア設計をする必要がある、ということではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・人事担当者。
・昇進の遅れを感じている人。


■ 関連しそうな本

 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』 2005年04月05日
 八代 尚宏 『日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済』 2005年03月23日
 樋口 美雄 『人事経済学』
 伊丹 敬之, 伊藤 元重, 加護野 忠男 (編集) 『人的資源 リーディングス 日本の企業システム』 2005年05月20日
 稲継 裕昭 『日本の官僚人事システム』 2005年02月10日


■ 百夜百マンガ

GUNSMITH CATS【GUNSMITH CATS 】

 ガンアクションものではやはりこの人。ガンマニアぶりが画面の隅々ににじみ出ています。最近連載再開しました。

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