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2005年9月 2日 (金)

会社人間、社会に生きる

■ 書籍情報

会社人間、社会に生きる   【会社人間、社会に生きる】

  福原 義春
  価格: ¥693 (税込)
  中央公論新社(2001/02)

 本書は、資生堂名誉会長である著者が、資生堂創業者の家に生まれ、新入社員として現場で汗を流し、その傍らでランの栽培などの文化活動に精を出す二足の草鞋の生活を続けながら、社長として大改革を敢行し、現在の資生堂を築き上げるまでを語ったものです。よくある「社長が自らの反省を語る」タイプのフォーマットではあるのですが、本書の面白さは、著者がタイトルにあるような「会社人間」一辺倒の人間ではなく、花や写真など多彩な趣味人としての顔を併せ持っている、むしろ、文化や芸術に対する情熱があるからこそ、資生堂をつくり上げることができた、とも言うべきところにあります。
 趣味と経営の関係については、株式会社としての資生堂の初代社長である福原信三氏が、美術鑑賞で得た審美眼を、会社のロゴや商品デザインに活かし、「経営者として趣味を持ったというよりも、経営に趣味を生かして成功した珍しい存在」として語られています。また、著者自信についても、資生堂経営改革の柱である「サクセスフル・エイジング」(美しく年を重ねる)というコンセプトは、自身の生物や自然への関心や、写真を通じたジャーナリストたちとの交流から、多くの影響を受けていることを語っています。
 趣味と仕事について著者は、「趣味やボランティア活動は会社の仕事の役に立つためにするものではない。しかしそれは組織の一個の歯車でなく一人の人間としての自己実現につながる。」と述べています。そして、会社全体としても、「B面の充実は人間としての広がりや深さをつくることにつながり、そうした人材の層が厚くなればなるほど会社の力は大きくなるだろう。しかもまた、ときにはそれが直接会社の仕事に役立つ場面がないとは言えない。」として、社員個人の人間の厚みが会社としての力の厚みにつながることを積極的に評価しています。
 もちろん本書では、型破りな新入社員時代や米国型のマーケティング理論との出会い、アメリカ販売会社社長として奮闘する日々や資生堂本体の経営改革など、「会社人間」としての著者の様々な経験も語られ、この辺りは「私の履歴書」的なフォーマットに収まり、読みやすい構成になっています。
 「会社人間と言いながら道楽好きの社長の話じゃないか」と思う人もいるかもしれませんが、ぜひ一度読んでいただくと、仕事と人生とのバランスが以下に重要かが伝わるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書のタイトルだけを見ると、趣味三昧の創業者一族の道楽社長が、メセナとかCSRとかの流行にかこつけて、会社の金で美術品集めたり展覧会開いてるような印象も与えます。しかし、本書で語られていることは、もっと人間としての根幹的な、仕事と生活とのバランスに関することです。著者にとってのランの栽培や写真撮影は、もはや単なる趣味や道楽ではなく、著者という人間を形作る重要な要素の一つになっていて、著者が「B面」と呼ぶこちらの面(おそらく本人にとってはこちらがA面かもしれませんが)がなければ、「A面」に当たるビジネスマンとしての人格も成り立たないのではないかと思われます。さらに言えば、この「B面」こそが、現在の資生堂を特徴付ける大きな要因でもあるのです。
 これは、社長、しかも創業者一族出身者だからそんな悠長なことを言える、というものではありません。ヒラ社員や中間管理職にとっても、人生の「B面」がなくては人間としての深み、ビジネスマンとしての仕事の深みを失ってしまいます。個人にとっても会社にとっても、仕事以外での社会との関わりは不可欠なものであるからです。
 なお、著者の「会社人間」としての奮闘ぶりを見てみると、アメリカでの現地法人経営の経験が、経営者としての著者の原点であり、著者がビジネスマンとして「一皮むける」経験をしていることがわかります。現地社員とのビジネススタイルの違いや本社との軋轢、現地の人たちとの家族ぐるみの付き合いなどが、著者にとっての大きな成長のきっかけであることが、語り口の端々から伝わってきます。「仕事と趣味」の話を大きく取り上げましたが、ビジネスマンの成長の記録としても本書は読み応え十分です。


■ どんな人にオススメ?

・人生の「A面」と「B面」のバランスで苦しんでいる方。


■ 関連しそうな本

 日本経済新聞社 (編) 『働くということ』 2005年02月24日
 佐藤 博樹, 武石 恵美子 『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』 2005年04月07日
 田尾 雅夫 『会社人間はどこへいく―逆風下の日本的経営のなかで』 2005年02月27日
 金井 壽宏 『働くひとのためのキャリア・デザイン』 2005年01月30日


■ 百夜百マンガ

リトル巨人くん【リトル巨人くん 】

 小学生なのにプロ野球のマウンドに立っちゃう主人公、滝巨人(たき・きょと)くんの活躍を描いた作品。往年の名選手がたくさん出てくるので今読むとかなり懐かしいと思います。

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