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2005年11月

2005年11月30日 (水)

社会を"モデル"でみる―数理社会学への招待

■ 書籍情報

社会を   【社会を"モデル"でみる―数理社会学への招待】

  土場 学, 佐藤 嘉倫, 三隅 一人, 小林 盾, 数土 直紀, 渡辺 勉, 日本数理社会学会
  価格: ¥2,940 (税込)
  勁草書房(2004/03)

 本書は、「数学的論理を手段として用いることにより、社会現象を記述し説明することを目的」とした「数理社会学」という新しい学問分野を、44の「なぜ」を解説することで紹介する入門書です。
 本書の構成は、扱う社会現象の分析範囲によって、「ミクロ」、「メゾ」、「マクロ」の3部に分かれており、各章ごとに、依拠する枠組みとして「行為のモデル」、「過程のモデル」、「構造のモデル」の3つの枠組みが存在します。
 ミクロ社会を扱った第1部では、「なぜ禁煙に失敗するのか」、「なぜ中古品でトクをすることは難しいのか」、「なぜ自殺するのか」など、個人または数人レベルの行動に関する分析を行っています。経済学者であるベッカーの「依存症モデル」や、「セントペテルスブルクのパラドクス」、アカロフの「レモンの経済学」、「囚人のジレンマ」、アクセルロッドの「しっぺ返し」など、経済学を学んだ人にはなじみの深いモデルの紹介のほか、コールマンの「ミクロ・マクロ図式」や人間関係のバランス/インバランスなど社会学らしいモデルの紹介もあります。
 メゾ社会を扱った第2部では、「なぜ結婚するのか」、「なぜ兄と妹は結婚できないのか」、「なぜカルト教壇は極端な行動に走るのか」、「なぜ差別しなくても外国人居住区ができるのか」など、家族や組織、地域レベルでの分析を行っています。ベッカーの「人的資本モデル」やハーディンの「共有地の悲劇」など経済学でもなじみの深いモデルもあれば、社会現象の閾値モデルやネットワーク分析、スモールワールド・モデル、「弱い紐帯の強さ」、セル・オートマトンモデルなど、多くのモデルが紹介されていて、本書のうちで最も「社会学」らしさを感じる部分ではないかと思います。
 マクロ社会を扱った第3部では、「なぜ恵まれているのに不満を感じるのか」、「なぜ高齢化は進むのか」、「なぜ公共の福祉と個人の自由は対立するのか」など、広く社会全体を扱った分析を行っています。このレベルになると、分析対象やツールが共通する公共選択理論や政治学の一部と完全に重複してしまうモデルが多くなります。ダウンズの投票モデルやシャープレイ・シュービック指数、投票のパラドクス、ナッシュ交渉などは、図書館では社会学の棚を探すよりも経済学や政治学の棚を探した方が見つかります。
 本書は、「Σに出会うと、羆にでも出くわしたかのように恐れおののき、一目散に退散する。」(単に江戸っ子だったとか?)と言われるほど数学嫌いの多い社会学の世界向けに書かれているので、「数理」社会学と言っても数式の使用は最小限に抑えられ、社会学以外にも羆が苦手な人にとってハードルの低いものになっているのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 最近、読む分野が社会学の研究分野にだいぶ近づいてしまっているせいか、最近の本には必ずグラノベッターの「弱い紐帯」の話が出てきてしまいます。どうやらこの辺りが、経済学や経営学、社会学、政治学、心理学、数学が複雑に交じり合う「潮目」になっているんじゃないかと思います。
 ちなみに、「潮目」を辞書で引くと、「異なる二つの潮流の接する海面に現れる帯状の筋。寒流と暖流の出合う付近などに見られ、しばしば好漁場となる。しおのめ。」(大辞林 第二版)となっています。研究者にとってもこの辺りは「好漁場」なのでしょうか。ただし、乱獲はよろしくないとは思いますが。


■ どんな人にオススメ?

・社会現象の分析に関心がある人。


■ 関連しそうな本

 ゲーリー・S. ベッカー, ギティ・N. ベッカー (著), 鞍谷 雅敏, 岡田 滋行 (翻訳) 『ベッカー教授の経済学ではこう考える―教育・結婚から税金・通貨問題まで』
 ロバート・アクセルロッド (著), 寺野 隆雄 (翻訳) 『対立と協調の科学-エージェント・ベース・モデルによる複雑系の解明』 2005年11月15日
 小林 良彰 『公共選択』 2005年04月15日
 ダンカン ワッツ (著), 辻 竜平, 友知 政樹 (翻訳) 『スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法』 2005年09月28日
 梶井 厚志, 松井 彰彦 『ミクロ経済学 戦略的アプローチ』 2005年04月04日
 ロバート ギボンズ (著), 福岡 正夫, 須田 伸一 (翻訳) 『経済学のためのゲーム理論入門』


■ 百夜百マンガ

愛し過ぎてこんな感じ!【愛し過ぎてこんな感じ! 】

 昔の月刊宝島で読者コーナーを担当していた「うのけん」こと「うのせけんいち」。下品なギャグに汚い絵。それでいて谷岡ヤスジような突き抜けた感じではなく、凡人の目線が親しまれていたのですが、やっぱり商業誌では見かけなくなってしまいました。

2005年11月29日 (火)

複雑系組織論

■ 書籍情報

複雑系組織論   【複雑系組織論】

  ロバート・アクセルロッド, マイケル・D・コーエン (著), 高木 晴夫, 寺野 隆雄 (翻訳)
  価格: ¥2,520 (税込)
  ダイヤモンド社(2003/06/06)

 本書は、複雑系として「多様性」「相互作用」「淘汰」という性質を持つ有機的組織を理解し、活用する(原題のharnessは「馬具をつけて馬を御す」の意)ための解説書です。本書自体は、複雑系の理論そのものには踏み込まず、どのように組織を理解し活用するか、という点に重点がおかれているので数式は使われておらず、複雑系に関心を持つ人にとって読みやすいのが特徴です。ただし、より深い理解を求めるのであれば『対立と協調の科学』等に読み進むことをおすすめします。
 本書では、「多様性」の事例として、軍の人事システム(長期的には、その時点で最適な人材を抜擢するよりも将来の利益を生み出す人材を開発する方がふさわしい場合がある)やリナックスの開発(知識利用よりも探査中心のアプローチが有利になる)を、「相互作用」の事例として、パットナムのソーシャルキャピタルの議論やエイズ・ウイルスの感染力との戦いなどを、「淘汰」の事例として、軍事シミュレーションの事例などを紹介しています。
 著者は、複雑適応系のフレームワークとして、「戦略、人工物、エージェント、個体群、システム、型、多様性、相互作用パターン、物理空間、概念空間、淘汰、成功基準」の12を挙げ、本書の中のさまざまな事例分析も、これらの12のフレームワークとの関連で語られています。
 本書は、複雑適応系の「利用」の側面を光を当てているので、「凄い!」と思う反面、「なるほど!」とは簡単には腑に落ちにくい面がありますが、複雑系の組織への利用の入門書としてはちょうど良い一冊なのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 アクセルロッドは、『つきあい方の科学』、『対立と協調の科学』と、たまたま時代順に読み進んできましたが、ゲーム理論や複雑系の世界に馴染みのない人に奨めるのであれば、本書が一番奨めやすいかもしれません。
 一時の「複雑系ブーム」(本書のタイトルもそれに便乗している感がありますが)、も一段落して、もう一度整理して複雑系の問題に取り組むガイドブックとしてもよい一冊なのではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・「組織は複雑だ」ということはわかってもどこから手をつけていいかがわからない人。


■ 関連しそうな本

 ロバート・アクセルロッド (著), 寺野 隆雄 (翻訳) 『対立と協調の科学-エージェント・ベース・モデルによる複雑系の解明』 2005年11月15日
 R. アクセルロッド (著), 松田 裕之 (翻訳) 『つきあい方の科学―バクテリアから国際関係まで』
 ダンカン ワッツ (著), 辻 竜平, 友知 政樹 (翻訳) 『スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法』 2005年09月28日
 リチャード・ドーキンス (著), 日高 敏隆, 岸 由二, 羽田 節子, 垂水 雄二 (翻訳) 『利己的な遺伝子』
 ロバート・D. パットナム (著), 河田 潤一 (翻訳) 『哲学する民主主義―伝統と改革の市民的構造』 2005年03月03日


■ 百夜百マンガ

だめんず・うぉ~か~【だめんず・うぉ~か~ 】

 数々の「ダメ男」たちを見てきた作者による極上の「ダメ男列伝」です。でもむしろ、「ダメ男につい引っかかってしまう女列伝」という趣が強い気がします。
 なぜだが、作者は最近文化人っぽい扱われ方をすることが多いですが。

2005年11月28日 (月)

クチコミはこうしてつくられる―おもしろさが伝染するバズ・マーケティング

■ 書籍情報

クチコミはこうしてつくられる―おもしろさが伝染するバズ・マーケティング   【クチコミはこうしてつくられる―おもしろさが伝染するバズ・マーケティング】

  エマニュエル ローゼン (著), 浜岡 豊 (翻訳)
  価格: ¥1,890 (税込)
  日本経済新聞社(2002/01)

 本書は、感染力のあるおしゃべりである「バズ」を、どのように発生させ、管理するかを、ネットワーク理論とケーススタディによって解説したものです。「バズ」を本書では、「ある時点における、特定の企業や製品に対するコメントの合計。」と定義しています。ちなみに『ニューズウィーク』誌の定義は「感染型のおしゃべり。つまり、ホットな新しい人、場所、物事についての、街角レベルでの本物のエキサイト」となっています。
 本書は3部構成になっていて、第1部は、バズを流通させる人のネットワークに関する理論的な解説、第2部は、バズがネットワーク上で感染する仕組みについての解説、そして第3部は「実践編」として位置づけられる、実際にバズを発生させるアプローチやケーススタディとなっています。
 第1部のネットワーク理論に関する解説は、この手のハウツーもの的な書籍にしてはかなり本格的で、ネットワークの「ノード」と「リンク」、「ハブ」や「クラスター」といった専門用語がわかりやすく解説されています。特に本書で特徴的なのは、「ネットワークのハブ」となる人物を2軸によって4種類に分類している点です。まず1つ目の軸は、リンクの数と方法の違いという「影響力の大きさ」によって、「通常のハブ」と「メガ・ハブ」の2つに分けられます。通常のハブが数人から数十人と双方向に結びつき、情報や影響を与えるのに対し、メガ・ハブは、マスメディアなどを通じて無数の人々に一方的に影響を与えることができます。普通の主婦と「カリスマ主婦」の違いと言ったらいいのでしょうか。もう一つの軸は、「影響力の源」による、「エキスパート・ハブ」と「社会的ハブ」という分け方です。前者は特定の分野における顕著な知識によって、後者はカリスマ性や仲間からの信頼などによって、人々から耳を傾けられます。
 第1部の理論編では、この他にも、ワッツ・ストロガッツの「スモールワールド」やグラノヴェターの「弱い紐帯」、ミルグラムの「6次の隔たり」など、ネットワーク理論に基づいたマーケティングがわかりやすく解説されています。
 第3部の実践編では、どのようにネットワークのハブを見つけ出すか、タネまきキャンペーンの方法、広告とバズのリンクなどの実践的なマーケティング手法の解説に併せて、「パワー・バー」(スポーツ選手向け高エネルギー食品)、「ウーマン・ドット・コム」(女性向けwebサービス)、「ヨメガ」(子供向け玩具)などの製品がどのようにバズを生み出していったかを解説しています。
 本書は、クチコミを理論と実践の両面から理解したい人には最適な一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 「新しい○○マーケティング」と銘打たれたビジネス書の多くは、大抵は中身がなかったり、古いマーケティング理論の焼き直しであったり、単に自分の経験や持論を語るだけのものだったりして、この手の本にはできるだけ関わらないようにしていたのですが、本書は、クチコミがネットワークを広がる経路をきちんと理論的に、しかもわかりやすく解説している点で、稀有なものではないかと思います。
 ちなみに、本書の中の事例の中で、Hotmailの文末につけられたメッセージのことが解説されていますが、あれって日本人向けにローカライズできないのかいつも考えてしまいます。


■ どんな人にオススメ?

・クチコミの理論と実践をマスターしたい人。


■ 関連しそうな本

 マルコム グラッドウェル (著), 高橋 啓 (翻訳) 『ティッピング・ポイント―いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか』 2005年02月12日
 ダンカン ワッツ (著), 辻 竜平, 友知 政樹 (翻訳) 『スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法』 2005年09月28日
 アルバート・ラズロ・バラバシ (著), 青木 薫 (翻訳) 『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』 2005年10月24日


■ 百夜百マンガ

パタリロ!【パタリロ! 】

 常春の国で繰り広げられる倒錯の世界が、20年前には平日7時にお茶の間に流れていたかと思うと恐ろしいものがあります。
 タイトルに「!」があるのは、当時では珍しかったのでしょうか。

2005年11月27日 (日)

しのびよるネオ階級社会―"イギリス化"する日本の格差

■ 書籍情報

しのびよるネオ階級社会―   【しのびよるネオ階級社会―"イギリス化"する日本の格差】

  林 信吾
  価格: ¥777 (税込)
  平凡社(2005/04)

 本書は、日本社会で広がりつつある格差によって、日本にイギリス的な階級社会が形成されつつあることを警告する、というものです。イギリス型階級社会とは、「すでに資産を築いている階級と、一生働いても対したものは手に入らない階級とに分かれていて、中間層がごく薄い」社会であり、これらの格差が、教育システムによって世襲的に受け継がれることが問題だと述べられています。
 イギリスでは、自分の属する階級によって進む学校が異なり、資産を持っている家庭の子弟はパブリック・スクールという学費のバカ高い私立学校で学び、労働者階級の子弟は公立学校で学び、大学入試においても公立学校出身者はよほどいい点数を取らないとならないなど、教育を受ける機会の段階での階級格差が大きいことが述べられています。
 これに対し、日本の学歴社会では、建前上勉強ができれば誰でもエリートになれるが、実際には、東大生の7~8割が専門・管理職の子弟であり、90年代には保護者の平均年収が1000万円を超えていることを指摘しています。また、東大生にエリートとしての責任感や社会奉仕、自己犠牲などの精神を教え込まれることがないことも、日本とイギリスの違いとして述べられています。
 著者は、これまで建前上機会平等である日本社会において、「ゆとり教育」の名の下に、
(1)義務教育段階から私立校に通うエリート層
(2)公立校の、ごく一部の秀才組
(3)公立校の「その他大勢組」
の振り分けが進んでいる点を指摘し、「フリーター階級」が固定され、「中高年フリーター」が増加していると述べています。そして、「非エリート=労働者階級」という位置づけが固定化されることによって、この人たちのモラルが崩壊し、バカバカしくて仕事なんか真面目にやってられない、という社会に向かっている、ということを指摘しています。
 「私の場合、本の内容が素晴らしいだけでなく、書くのも速い」と書かれているのはギャグなのかそうでないのか意図がわかりませんが、ダラダラとした文体で、半分くらいは「振り返るイギリス時代の自分史」なので、パラパラと流し読みするならともかく、じっくり読むと「だから何なんだ」という読後感があるかもしれません。


■ 個人的な視点から

 教育システムを通じた格差の世襲という問題は、『不平等社会日本―さよなら総中流』における分析でも指摘されています。現代日本の「知識エリート層」において、単なる資産や教育費が親から子に受け継がれること以上に、親の世代が情報をどう扱っているか、という「知識や情報のリテラシー」が最も大きな「遺産」であるということです。この意味で、日本社会で階層化が進むという著者の指摘はうなずける点があります。
 しかし、それがイギリス型階級社会かというと、著者が見てきたイギリス社会に似ている、というレベルの話ではないのかと思います。もちろん、10年間のイギリス生活の経験は読む分にはおもしろいですが。


■ どんな人にオススメ?

・日本の社会格差に関心がある人は別の本を読んだ方がいいかもしれません。


■ 関連しそうな本

 佐藤 俊樹 『不平等社会日本―さよなら総中流』 2005年03月22日
 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』
 橘木 俊詔 『日本の経済格差―所得と資産から考える』
 橘木 俊詔, 斎藤 貴男, 苅谷 剛彦, 佐藤 俊樹 『封印される不平等』
 佐藤 俊樹 『00年代の格差ゲーム』


■ 百夜百音

Eat Em & Smile【Eat Em & Smile】 David Lee Roth オリジナル盤発売: 1986

 当時、『ギターマガジン』派の私としては、『ヤングギター』や『バーン』で特集されていた「超絶テクニック特集」とかなんかの見出しに釣られてこのアルバムを聴いてしまいました。
 やはり1曲目の「Yankee Rose」や2曲目の「Shyboy」などのいかにもな曲が印象に残ります。
 ということでヤンキーには東京で対抗。


『Tokyo Rose』Tokyo Rose

2005年11月26日 (土)

自分様と馬の骨―なぜ認められたいか?

■ 書籍情報

自分様と馬の骨―なぜ認められたいか?   【自分様と馬の骨―なぜ認められたいか?】

  勢古 浩爾
  価格: ¥1470 (税込)
  三五館(2002/10)

 本書は、「ただたんに「自分」であるということだけで、認められて当然だ、と考える人間」=「自分様」と、取るに足らないつまらないやつでしかない「馬の骨」=「自己」とのギャップを中心に、なぜ人は他人から認められたいのか、という問題を論じたものです。
 著者によれば、1980年代後半からこの「自分様」が登場してきたと述べています。自分ひとりで生まれ、自分ひとりで成長してきたような、この「自分」は、どんな承認もいらないと言いながら、これほど他者による承認を求めている存在はない、というのです。この「自分」が持っているのは「唯一性と優越性」です。しかしこの唯一性は自分にとっての唯一性でしかないのです。この「自分様」が唯一性と優越性を守るために行き着く先が犯罪だった、ということで、本書では、佐賀バスジャック事件やわいせつ教員の増加、池田小学校での殺人事件などの「自分様の癇癪」とでも呼ぶべき犯罪を読み解いています。
 「勝ったと思う者は「勝った」という心理において勝ち、負けたと思うものは「負けた」という心理において負ける」という言葉は実も蓋もないと言えばそうですが、自己満足と自己承認との違いという著者の主張にはうなずける点があります。


■ 個人的な視点から

 本書では、数多くの犯罪者の心理を論じているのですが、それ以上にインパクトがあるのが引用されている『生きる』(乙川優三郎)という小説です。主君の死に殉じなかったために周囲から蔑まれ息子と妻を失った主人公が、自分に追腹を禁じた家老に対する恨みつらみを書き出したところ、ことごとく自分が力を出せば克服できたはずのものばかりで、「何もせず、ただ恐れ立ち尽くし、嵐が去るのを待っていただけ」であることに気づくところは圧巻です。


■ どんな人にオススメ?

・「認められたい」と思う人。


■ 関連しそうな本

 車谷 長吉 『漂流物』
 乙川 優三郎 『生きる』
 勢古 浩爾 『わたしを認めよ!』
 勢古 浩爾 『なぜ、だれも私を認めないのか』
 勢古 浩爾 『まれに見るバカ』
 太田 肇 『認められたい!―がぜん、人をやる気にさせる承認パワー』 2005年10月25日


■ 百夜百音

留子ちゃんたら【留子ちゃんたら】 ごまのはえ オリジナル盤発売: 1972

 昔、坂本龍一のFM番組でオンエアしたのをエアチェックして、イントロやらギターソロやらを耳コピしたのですが、肝心の曲名やアーティスト名を忘れてしまい、ずっと謎の曲でした。
 最近になってやっと伊藤銀次の曲だとわかったのですが、さすがはgoogle様は偉大だと感じました。
 曲はもちろんいいですが、歌詞がめちゃくちゃでインパクト大です。
 ところで、この当時のレーベル名は「ベルウッド(やっぱり鈴木?)」やら「ナイアガラ(大瀧)」などやたらに名前をもじったようなものが多いように感じるのは気のせいでしょうか。


『NIAGARA TRIANGLE 1』NIAGARA TRIANGLE 1

2005年11月25日 (金)

組織と経営について知るための実践フィールドワーク入門

■ 書籍情報

組織と経営について知るための実践フィールドワーク入門   【組織と経営について知るための実践フィールドワーク入門】

  佐藤 郁哉
  価格: ¥2,520 (税込)
  有斐閣(2002/11)

 本書は、日本では人類学や心理学の世界の技法だと思われがちな「フィールドワーク」という調査方法を、「企業組織や広い実での経営現象」を理解するための豊かな可能性を持つ方法として紹介した入門書です。
 構成は、フィールドワークの「方法」、「発想」、「技法」という3部構成になっていて、それぞれのコンパクトな概説とともに、すぐれたフィールドワーク報告書を「研究事例」として20例読んで行くことを中心に、14の「キーワード」を解説し、また調査に必要となる知識や技術を解説している16冊の「ブックガイド」が収められています。
 本書では、フィールドワークを軽視する日本のアカデミズムに対する反感が至る所に現れています。卒論や修士論文・博士論文の審査での指導教授や副査から浴びせられる辛辣なコメントは、フィールドワークに関心を持った学生を挫けさせるのに十分なインパクトがあります。
 「グラフや表の1つもなきゃ、論文とは言えないよね。」
 「『作文』とか『感想文』じゃあ、卒論にはならないよ。」
 「社会科学っていうのは文学じゃないからねえ。」
 「データはどこにあるんですか? データは? フィールドノートっていっても、日記とどう違うの?」
                   ・・・((((((;゚Д゚))))))ガクガクブルブル
 「定量的調査 対 定性的調査」という二分法を巡る対立ほど不毛なものはない、と著者自身も述べていますが、質的調査を専門とする研究者を「現場派」「調査派」と書き、かたや「統計屋」「サーベイ屋」と「屋」をつけて書いているあたりに、著者の恨みの深さを感じます(「アンケート」という和製仏語がいかにいい加減に使われているかを指摘しているコラムもあります。)。(^^;
 実際には優れた研究においては定性的な要素と定量的な要素とを併用した研究が多く、定性・定量という区分は相対的なものであることを述べています。
 ついつい、「現場派」対「統計屋」のおもしろいバトルの部分に目が行ってしまいましたが、本書で解説されているインタビュー技法や漸次構造化法によるアプローチ、現場調査における注意点(中立的な立場、必要以上の貸し借りを作らない、調査活動そのものが人間関係を損ねる可能性)、「分離エラー」(仮説や理論とデータのかみ合わせの悪さ)など、フィールドワークの心構えや技術が盛りだくさんです。フィールドワークの世界の一部には、マニュアルやハウツーにはできない、「溺れるか泳ぐか(sink or swim)」という安直な「現場至上主義」が蔓延している中で、本書のような体系的なテキストは、フィールドワークの世界に踏み込もうとする学生にとってだけでなく、社会調査全般に対する世の中の理解を深めることになるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 著者は、日本の組織研究においてフィールドワークの手法が一般的でないことを嘆いています。
「残念ながら、さまざまな事情があって日本では組織を対象にしたすぐれた民族誌は、まだきわめて例が少ない。」
 この要因の一つには、「ethnography」が「民族誌」と訳されていることが大きいのではないかという気がします。「民族誌」という言葉からは、探検用の帽子をかぶった人類学者が未開の「民族」を調査に行く、というイメージを抱きやすく、一段高いところから調査対象を見下ろしているような印象を与えてしまうからではないかと思います。
 とは言え、「組織風土記」では何だかその組織の名産品でも出てきてしまいそうですし、上手い言い換えの方法はないものでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・「フィールドワーク」と聞くと文化人類学を思い浮かべてしまう人。


■ 関連しそうな本

 佐藤 郁哉 『フィールドワークの技法―問いを育てる、仮説をきたえる』
 佐藤 郁哉, 山田 真茂留 『制度と文化―組織を動かす見えない力』 2005年09月22日
 小池 和男 『聞きとりの作法』
 大谷 信介, 後藤 範章, 永野 武, 木下 栄二, 小松 洋 『社会調査へのアプローチ―論理と方法』
 ヘンリー ミンツバーグ (著), 奥村 哲史, 須貝 栄 (翻訳) 『マネジャーの仕事』』
 ロザベス・モス カンター (著), 高井 葉子 (翻訳) 『企業のなかの男と女―女性が増えれば職場が変わる』 2005年10月11日
 M グラノヴェター (著), 渡辺 深 (翻訳) 『転職―ネットワークとキャリアの研究』
 谷岡 一郎 『「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ 文春新書』
 加藤 秀俊 『取材学―探求の技法』 2005年10月16日


■ 百夜百マンガ

クルクルくりん【クルクルくりん 】

 ミッキー鳥越、じゃなくて、とり・みきせんせいの出世作です。最近はレポーターとして活躍している「少女人形」の岩井小百合主演で実写ドラマ化されました。

2005年11月24日 (木)

会社の中の権力者、道化師、詐欺師―リーダーシップの精神分析

■ 書籍情報

会社の中の権力者、道化師、詐欺師―リーダーシップの精神分析   【会社の中の権力者、道化師、詐欺師―リーダーシップの精神分析】

  マンフレッド・ケッツ・ド ブリース (著), 金井 壽宏 (翻訳)
  価格: ¥2,100 (税込)
  創元社(1998/10)

 本書は、リーダーとフォロワーとの関係において、お互いがはまりやすい罠や障害物を一つ一つ注意深く分析していったものです。その類型はタイトルにあるように大まかに3つ示されていて、
 一つは、リーダー自身の自己愛や権力の濫用、そして会社の中の失感情症の問題です。自己愛的な人々の多くが、権力や人をひきつける魅力への欲求を抱きながらリーダーの立場に昇り詰めています。このようなリーダーシップ行動がもたらす熱狂と目的がやる気と意気を意を生み出すため、危機下の組織では功を奏するものの、その熱狂が長くは続かないことが指摘されています。また、一種のコミュニケーション障害である失感情症を生み出しやすい組織として、著者は強迫神経症組織と鬱病組織というに類型を挙げています。強迫神経症組織は、内向きな官僚的な組織で硬直的な階層や厳密な規則や手順が特徴です。また、鬱病組織は多くの点でこれに似ていますが、状況はさらに悪く、「極度の保守主義、一連の曖昧な目的、計画の欠如」という特徴を持ち、時代遅れの成熟市場の中で方向感覚もないまま流されるだけのままになっていることが多いことが指摘されています。また、組織の中の失感情症的な行動スタイルとして、「超然とした最高経営責任者」、「システム人」、「社会的センサー人」という3つの行動が述べられています。さらに著者は、権力濫用型のリーダーの例として、政治とビジネスの世界から2人のリーダーの例を挙げています。一人は、サダム・フセイン、もう一人は、通信事業で財を成したロバート・マクスウェルです。
 「権力者」に関する分析は本書の半分以上を占め興味深いものではありますが、本書を特徴付けているのは、「道化師」と「詐欺師」に関する分析ではないかと思います。
 著者は、組織の心理的なバランスを保つ上で、リーダーの権力に「愚かで賢き人」である道化師の愚かさが必要であることを指摘しています。そして、その役割がしばしば社外コンサルタントによって(雇う側も雇われる側も気づかない中で)果たされることがあることが述べられています。著者自身もコンサルタントとしての経験の中で、幹部が気づいていても言い出しづらいメッセージを経営トップに伝えるため、「手短で風刺的な状況の描写」を行うことができる道化師の役割を求められてことがあったことが述べられています。
 また、詐欺師的なリーダーの心理分析を行っている第7章では、「詐欺師」という言葉に含まれる2つの語感として、嘘をつくような人を指す場合と、実際の自分とは異なる偽の人物像を演じるような人を指す場合との2つがあることを指摘しています。そして、フェルディナンド・ウォルドー・デマラやアンソニー・ド・アンジェリスのような有名な詐欺師の例の紹介や、「詐欺師症候群」と呼ばれる3つの症状((1)家族ロマンス、(2)アイデンティティ感覚の障害、(3)超自我の形成不全)を挙げています。中でも産業界の詐欺師的なリーダーの例として、スウェーデンのフェルメンタ社の元会長レファード・エルセイドの分析が読み応えあります。
 組織の中の心理的なバランスを書いた状態に関心のある人にはぜひおすすめしたい一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書の最終章で、著者はフロイトの発言として、バランスの取れた人物の姿として、「lieben und arbeiten」、つまり「愛することと仕事のできる個人」という言葉を引用しています。組織の分析の中では、後者の方はよく使われますが、バランスをとるためには「愛すること」も同じくらいできないといけない、という点が示唆的でした。


■ どんな人にオススメ?

・組織の心理的バランスに関心のある人。


■ 関連しそうな本

 マンフレッド・ケッツ ド・ブリース (著), 金井 壽宏, 岩坂 彰 (翻訳) 『会社の中の「困った人たち」―上司と部下の精神分析』 2005年11月14日
 沼上 幹 『組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために』 2005年02月05日
 金井 壽宏 『組織を動かす最強のマネジメント心理学―組織と働く個人の「心的エナジー」を生かす法』 2005年06月09日
 ステファン・P. ロビンス (著), 高木 晴夫, 永井 裕久, 福沢 英弘, 横田 絵理, 渡辺 直登 (翻訳) 『組織行動のマネジメント―入門から実践へ』 2005年02月17日
 金井 寿宏, 高橋 潔 (著) 『組織行動の考え方―ひとを活かし組織力を高める9つのキーコンセプト』 2005年04月27日
 金井 壽宏 『変革型ミドルの探求―戦略・革新指向の管理者行動』 2005年03月12日


■ 百夜百マンガ

オークションハウス【オークションハウス 】

 詐欺師もののマンガでは騙す側に感情移入してしまう理由は、詐欺師が本来持っている人をひきつける嘘の魅力にあるのではないかと思ってしまいます。
 それにしても、いかにも昔の「劇画!」という絵柄を引き継いでいます。

2005年11月23日 (水)

フラジャイル―弱さからの出発

■ 書籍情報

フラジャイル―弱さからの出発   【フラジャイル―弱さからの出発】

  松岡 正剛
  価格: ¥3360 (税込)
  筑摩書房(1995/07)

 本書は、「弱さ」の中に潜む「フラジャイルな感覚」を、文学の中から、生物科学の中から、世界の英雄伝説に見ることができる「欠けた王」の姿から、探り出していこうとする「知」を編集したものです。
 「弱さ」には、弱点をさらけ出してしまうという「ヴァルネラビリティ」(攻撃誘発性)という言葉がつきまといます。そして、このヴァルネラビリティからは広範囲な社会文化の背景や「はかないもの」への憧れを引き出すことができます。また、著者は、「弱さ」への注目が、社会文化経済のみならず科学の世界にも持ち込まれるべきであると述べています。
 生物科学における「弱さ」の問題について、著者は、(1)迷う進化(進化の矛盾)、(2)我々の体つきの基本的な弱さ、(3)言葉によるコミュニケーション、(4)「生物学的な自己」の危うさ、の4つの点を論じています。また、ネオテニー(幼形成熟)とウイルスのふるまいについてもフラジリティの問題を論じています。ドーキンスで有名になった「利己的な遺伝子」が「強がり遺伝子」であるとすれば、「弱がり遺伝子」もあるはずではないか、そこに種の壁を越えて遺伝子を運ぶウイルスが介在しているのではないか、というのです。著者はこれを「幼なじみの生物学」という言葉を使って表現しています。
 著者の関心は、世界中の古典的な英雄物語の主人公に、弱さや欠けたところがあることに向かいます。このような弱点や不足は何を意味しているのか、そして、場合によっては弱点や不足が転じて「強さ」の契機になるのはなぜか。著者は、これらの弱点や欠陥がより広い範囲で刻印された身体的・社会的なフラジリティの特別な例であるとみなしています。「欠けた王」の物語の例として、『弱法師』やヒルコ伝説・エビス伝説、山田の案山子、達磨伝説からシンデレラまで、「よろめく神」の系譜をたどっています。
 「弱さ」の探求は「強がりの哲学」である「男らしさ」にも及びます。どんな民族の少年も「男らしくあれ」と育てられますが、この男主義は、自分をあまり感じやすくさせないための強制的な方法であると述べられます。著者はこの「感じやすい問題」を少年時代に3人のハンディキャッパーから受けた三つの「事件」によって思い知らされます。著者は、男主義や女主義によっては乗り越えられない「感じやすい問題」をもう一度取り戻すべきであることを主張しています。
 「弱さ」をキーワードに、「知」の世界を縦横無尽に探索する本書は、全体として厚い(重い!)のが難点ですが、各章それぞれのボリュームはそれほど大きくないので、何日かかけて章単位で読んで行く分には楽しく読めるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書の中に、私の地元の風習である集落の境界にぶら下げられた大ワラジのことが触れられていたのが少しうれしかったです。これは悪霊の侵入を防ぐためのものだといわれていて、草鞋以外にも綱を張ったりそこに物をぶら下げたりという風習は各地にあるようです。こうした行事は「辻切り」や「道切り」と呼ばれています。
 ただし本書p.253のキャプションでは「富津」が「高津」に誤植されていたり、他でも「千葉君津袖ケ浦」というわけのわからない地名が紹介されていたり(昔の「千葉県君津郡袖ケ浦町」という意味か?)、地元の人間にとっては少し寂しいミスも見られました。今年文庫版が出たのでそちらだと直っているといいですが。


■ どんな人にオススメ?

・「弱さ」が持っている力にひきつけられる人。


■ 関連しそうな本

 松岡 正剛 『知の編集工学』
 金子 郁容, 松岡 正剛, 下河辺 淳 『ボランタリー経済の誕生―自発する経済とコミュニティ』 2005年08月29日


■ 百夜百音

KinKi Single Selection【KinKi Single Selection】 KinKi Kids オリジナル盤発売: 2000

 歌謡曲の中にフラジャイルな感覚が好んで用いられることは、マッチの「愚か者」(作詞 伊達歩(伊集院静))などが紹介されていますが、フラジャイルな感覚自体をテーマにしたのがKinKiの「硝子の少年」です。「ひび割れたビー球の心」という歌詞がフラジリティを表しています。また、光ゲンジの「ガラスの十代」の「壊れそうなものを集める」なんてのもフラジャイル感覚そのものです。
 幼さ、はかなさ、ハイパージェンダー・・・。もしかするとジャニーズのタレントそのものがフラジリティをテーマにしているのかも知れません。


『光GENJI ベスト』光GENJI ベスト

2005年11月22日 (火)

企業福祉の終焉 - 格差の時代にどう対応すべきか

■ 書籍情報

企業福祉の終焉 - 格差の時代にどう対応すべきか   【企業福祉の終焉 - 格差の時代にどう対応すべきか】

  橘木 俊詔
  価格: ¥756 (税込)
  中央公論新社(2005/04/25)

 本書は、退職金、社宅、企業年金、社会保険料負担など、日本企業が提供する様々な福祉について、その成立の過程と歴史的な意義をたどるとともに、今後、企業が福祉から撤退すべき積極的な理由を提示するものです。
 企業は、自社の社員のみがベネフィットを受ける非法定福利(社宅、保養所、病院施設、退職金、企業年金など)と、国民一人一人がベネフィットを受ける法定福利厚生費(公的年金、医療保険などの企業負担)の二つの分野で福祉に貢献しています。本書ではこれらの企業福祉が先進資本主義国で発達してきた歩みを追うとともに、日本における社宅の起源である鉱山の納屋制度や紡績産業での保険事業や住居の整備、教育を受けながら大企業の熟練工になれる養成工制度など、日本の企業福祉の成立過程が解説されます。中でも興味深いのは、敗戦によって住居を失った人たちや、高度成長期に地方から移動してきた大量の労働者にとって、企業による社宅や寮の整備は大きな役割を果たしてきたことです。日本の企業福祉の特徴としては、住宅施設と退職一時金の支払いが中心であり、それが大企業に集中していることが挙げられます。
 本書は、企業福祉の現状として非法定福利厚生に期待されるベネフィットが減少していることを指摘するとともに、社会保険給付の財源調達は保険料方式から税方式に転換することが望ましいとして、歴史的意義を終えた企業福祉からの撤退を主張しています。
 福利厚生の担当者のみならず、企業で働く多くの人にとって、今後の企業福祉のあり方を考える上では、必読書になる一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 よく「会社人間」という言葉が使われます。多くの場合は会社にべったりで自律性のない人間、という意味で使われることが多いですが、本書を読むと、企業で働く人間が給与だけでなく様々な福利厚生制度で守られていて、逆に抜け出ようとするには大変がんじがらめな制約になることが伝わってきます。
 キャリアの流動化に関して必ず話題になるのが企業年金の取り扱いですが、年金に限らず様々な非法定福利のあり方を含めて議論する必要があると思います。


■ どんな人にオススメ?

・企業の福利厚生制度を利用している人。


■ 関連しそうな本

 田尾 雅夫 『会社人間はどこへいく―逆風下の日本的経営のなかで』 2005年02月27日
 日本経済新聞社 (編) 『働くということ』 2005年02月24日
 八代 尚宏 『日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済』 2005年03月23日
 金井 壽宏 『働くひとのためのキャリア・デザイン』 2005年01月30日


■ 百夜百マンガ

ギャラリーフェイク【ギャラリーフェイク 】

 美術界の裏世界を描いた作品といえば『オークションハウス』が有名ですが、軽みがあって楽しく読めるのはこちらです。
 少年誌から大人向けの作品に上手く移行できた作家の一人だと思います。

2005年11月21日 (月)

インターネットは民主主義の敵か

■ 書籍情報

インターネットは民主主義の敵か   【インターネットは民主主義の敵か】

  キャス サンスティーン (著), 石川 幸憲 (翻訳)
  価格: ¥2000 (税込)
  毎日新聞社(2003/11)

 本書は、インターネットによる社会変化を素材にして、民主主義、特に「討議型民主主義(deliverative democracy)」について論じたものです。著者は完全にパーソナライズされたニュース情報だけが満載された「デイリーミー」をという概念を使い、民主的自己統治の前提条件としての民主的な討議や言論の自由の意味を議論しています。
 著者は、消費者主権の究極の姿の一つである「デイリーミー」によって民主主義に深刻な問題が発生し、共有体験の減少と個人向けフィルタリングによって、広範囲の人たちから数多くの意見を聞く機会を失ってしまうことを指摘しています。そして、この問題に対するアプローチとして、「公開フォーラム」と討議方民主主義の二つを取り上げています。
 インターネットは、同じような考え方の人間が集まった「エンクレーブ(閉じ込められた土地)型討議」によって集団分極化(グループで議論をすれば、メンバーは元々の方向の延長線上にある極端な立場へとシフトする)を招きやすい傾向があることが指摘されています。ネット上のヘイトグループや過激組織(「未組織民兵」というグループもある。)で議論することで、メンバーが元々持っていた意見の方向に沿ってより過激な方向にシフトすることが知られています。そして、これらの減少は社会的カスケードと呼ばれる現象と密接に関連しています。
 本書はこの他、言論の自由、特にサイバースペースにおける規制の問題に関して、ネット上における所有権や契約に関する議論等を行っています。
 気鋭の憲法学者が、インターネットによる社会の変化を取り上げることで、民主主義に正面から迫った本書は、インターネットそのものよりも民主主義に関心のある方に読んで欲しい一冊です。


■ 個人的な視点から

 インターネット上の様々な過激なグループの問題は、これまで社会心理学などの観点から分析されることが多く、サイバー・カスケードや集団分極化などの問題が、民主主義にどのような影響を与えるか、という本書のアプローチは大変刺激的でした。
 eデモクラシーについて論じた文献の多くが、掲示板やメーリングリスト等の討議の場そのものからスタートして民主主義について論じているのに対し、社会心理学的なフィルターをかますことで、情報の受け止め方というより広い観点から民主主義にアプローチしている点が特色ではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・ネット上で交わされる過激な政治的発言に危機感を感じている人。


■ 関連しそうな本

 ローレンス レッシグ (著), 山形 浩生 (翻訳), 柏木 亮二 (翻訳) 『CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー』 38384
 エリック・スティーブン レイモンド (著), 山形 浩生 (翻訳) 『伽藍とバザール―オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト』 2005年10月22日
 金子 郁容, 藤沢市市民電子会議室運営委員会 『eデモクラシーへの挑戦―藤沢市市民電子会議室の歩み』 2005年10月21日
 川上 善郎 (編集), 高木 修 『情報行動の社会心理学―送受する人間のこころと行動』 2005年11月19日
 パトリシア ウォレス (著), 川浦 康至, 貝塚 泉 (翻訳) 『インターネットの心理学』 2005年10月15日
 岩崎 正洋(編著) 『eデモクラシー』 2005年05月02日


■ 百夜百マンガ

雷火【雷火 】

 1987年にスタートした息の長い作品です。2001年に完結ということは14年!の大河ものになってしまっていました。古代社会の描写が新鮮です。

2005年11月20日 (日)

異端の数ゼロ―数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念

■ 書籍情報

異端の数ゼロ―数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念   【異端の数ゼロ―数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念】

  チャールズ サイフェ (著), 林 大 (翻訳)
  価格: ¥2,415 (税込)
  早川書房(2003/10)

 本書は、歴史を通じて忌み嫌われてきた「史上最も危険な概念」である「ゼロ」が歩んできた数奇な運命を描いた物語です。無限との双子の兄弟でありゆえに持つその強力な力により、ゼロは忌み嫌われ、ある時にはゼロを語る者は火あぶりにされることさえあったことが述べられています。
 本書は、数のあけぼのである石器時代にまでさかのぼります。その当時にはゼロの概念はなく、幾何学に優れた後のエジプト人やギリシア人にもゼロの概念を用いたものは見受けられません。ゼロが地上に現れるのは、今のイラクに当たる東洋の肥沃な三日月地帯、バビロニアの記数法でした(なお、「計算する」を意味するcalcuateは、計算盤で用いる小石を意味するラテン語のcalculusから来ているそうです。)。
 ゼロは西洋で拒絶され続けます。現在に残る「黄金比」などの数の比率を重視するギリシアの数哲学においてゼロの概念は受け入れがたく、西洋世界に長く君臨したアリストテレス哲学と衝突する「無」と「無限」の概念は有害であったのです。
 一方、東洋、インドとアラブの世界ではゼロは歓迎されます。「無」はヒンドゥー教で重要な位置を占めており、インドでは無や無限に対する恐れはありませんでした。そして、イスラム社会の広がりによって、世界中にアラビア数字とともにゼロがもたらされます(「アルゴリズム」という言葉は、9世紀のバグダッドの数学者アルフワリズムの名が崩れたものです。)。
 ゼロと無限は中世ヨーロッパの教会の土台をなすアリストテレス哲学を破壊し、科学革命に道を開きます。コペルニクスの地動説もデカルト座標(デカルト本人は無は存在しないと言い続けますが)もアリストテレス哲学を揺るがしていきました。そしていよいよゼロと密接な関係を持つ微積分がニュートンやライプニッツによってもたらされます。ゼロと無限大が不可分であることがわかると、数学者はこれらと付き合っていくしかなくなりました。
 そして、ゼロや無限大とは相容れない自然界の営みを扱う物理学者にとっても、ゼロは無視できないものになっていきます。絶対零度や一般相対性理論におけるブラックホール、そして量子力学においてはゼロ点エネルギーが現れます。現代物理学は量子力学と相対性理論とが衝突する場所において、ゼロと付き合っていかなければならなくなっています。
 本書は、数学と物理学の発展の歴史に常に謎を投げかけてきた「ゼロ」を追うことで、現代の我々が立っている「位置」を認識することができる良質の科学書ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 教会の権威を守るために、ゼロを口にするものは火あぶりにされ、ゼロの概念が出てくる書物は禁書目録に掲載される―――現代に暮らす東洋人の私にとっては、ゼロがこれほどまで忌み嫌われてきたことに現実感がなく「キョトン」という感じでしたが、本書を理解する上では、西洋の思想の根底にある聖書やアリストテレス哲学などの理解が本来は不可欠なのではないかと感じました。


■ どんな人にオススメ?

・普段何気なく「ゼロ」を使っている人。


■ 関連しそうな本

 グレゴリー・J・チャイティン (著), 黒川 利明 (翻訳) 『セクシーな数学-ゲーデルから芸術・科学まで-』 2005年11月03日
 ブライアン バターワース (著), 藤井 留美 (翻訳) 『なぜ数学が「得意な人」と「苦手な人」がいるのか』
 E.T. ベル (著), 田中 勇 (翻訳), 銀林 浩 (翻訳) 『数学をつくった人びと』
 E・T・ベル (著), 河野 繁雄 (翻訳) 『数学は科学の女王にして奴隷』
 E. ナーゲル (著), J.R. ニューマン (著), 林 一 (翻訳) 『ゲーデルは何を証明したか―数学から超数学へ』
 キース・デブリン (著), 山下 純一 (翻訳) 『興奮する数学 ―世界を沸かせる7つの未解決問題―』


■ 百夜百音

ZEROSPECTRE ~EARLY YEARS【ZEROSPECTRE ~EARLY YEARS】 ZEROSPECTRE オリジナル盤発売: 2005

 単に「ゼロ」がつくバンドということだけですが・・・。
 昔、フールズメイトとかに元ルースターズの人たちが「ソロ出した」、「新バンド結成」とかの記事がよく載ってました。


『THE ROOSTERS』THE ROOSTERS

2005年11月19日 (土)

情報行動の社会心理学―送受する人間のこころと行動

■ 書籍情報

情報行動の社会心理学―送受する人間のこころと行動   【情報行動の社会心理学―送受する人間のこころと行動】

  川上 善郎 (編集), 高木 修
  価格: ¥2,625 (税込)
  北大路書房(2001/06)

 本書は、社会心理学の様々な視点から、「私たち」と「社会」を結びつける行動である情報行動を論じたものです。11人の執筆者がそれぞれの専門分野から情報行動にアプローチしていますが、本書はこれらを大きく4つに分けた4部構成としています。
 第1部「社会に『開く』」では、自分自身をいかに社会に開くかといったといった行動について、自己呈示や自己表現の問題を扱っています。自己呈示の方法として紹介されているのは、(1)取り入り、(2)威嚇、(3)自己宣伝、(4)示範、(5)哀願の5つの方法です。また自己呈示に関しておもしろかったのは、自分が否定的な印象を抱かれる危険に対して、事後的には「弁解と正当化」を、事前的には「セルフ・ハンディキャッピング」(遂行に不利な条件を自ら作り出す行為。試験や試合前に深酒をしたり、努力・練習を行わないことで失敗した時の弁解の材料にする。)という行動をとることが知られていることです。また、第1部では、インターネット社会における集団力学についても解説されています。
 第2部「社会を『知る』」では、これまでマスメディアを通して多くの情報を得ていた私たちの情報環境が、インターネットによってどのように変化するか、マスメディアの役割はどう変質するか等が論じられています。インターネットによる情報交換が、グラノベッターの「弱い紐帯」を結びつける機能を発揮することで、多様性を持った情報をもたらしてくれる可能性についての考察が興味深いものでした。
 第3部「社会に『つながる』」では、携帯電話によってネットワークがどのように変容するか、またネットワークの脆弱性の影響などについて論じられています。携帯電話による社会生活の影響として、スケジュールの不確定性の減少や、その影響によるスケジュールの緊密化、物理的には遠いが親しい人との相互作用の増加などが説明され、また職業生活に関しては、生産性の向上や仕事と遊びの融合、個人事業者の参入障壁減少、労働者に対するコントロールの変化、等が挙げられています。また、携帯電話によって子どもを管理する「リモート・マザリング」という言葉があることをあることを初めて知りました。
 第4章「社会を『動かす』」では、口コミなどのパーソナル・コミュニケーションの重要性とともに、実際に個人の発言が社会を動かした事例を紹介しています。印象形成研究における「ネガティビティ・バイアス」(悪印象は覆しにくく、持続しやすい)の問題に関しては、インターネット上の悪い口コミの例として東芝サポートセンター事件が紹介されています。
 本書は、社会心理学からのアプローチについて、多様な執筆者が様々なアプローチを紹介しているため、どうしても寄せ集め的な印象は否めませんが、それぞれ参考文献も紹介されているため、インターネット社会における心理について関心のある人にはよい入門書になるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 最近でこそ「情報」という言葉は当たり前のように使われていますが、昭和40年代くらいまでは「情報」というとスパイ活動などが想像される暗いイメージ(明治時代には純粋な軍事用語でした)を持っていて、本書のタイトルも当時ならば「スパイ活動の社会心理学」と理解されただろう、ということです。
 そういえば昔は、「社会」という言葉が「社会主義」に通じるからということで使うのを嫌った人もいたらしいということを思い出しました。


■ どんな人にオススメ?

・インターネット社会についての理解を深めたい人。


■ 関連しそうな本

 パトリシア ウォレス (著), 川浦 康至, 貝塚 泉 (翻訳) 『インターネットの心理学』 2005年10月15日
 アダム N.ジョインソン (著), 三浦 麻子, 畦地 真太郎, 田中 敦 (翻訳) 『インターネットにおける行動と心理―バーチャルと現実のはざまで』
 金子 郁容, VCOM編集チーム 『「つながり」の大研究―電子ネットワーカーたちの阪神淡路大震災』
 池田 謙一 『ネットワーキング・コミュニティ』
 川上 善郎 『おしゃべりで世界が変わる』 2005年03月06日


■ 百夜百音

ファイト!ファイト!ちば!【ファイト!ファイト!ちば!】 ジャガー オリジナル盤発売: 2005

 ネイティブ千葉県民なら誰でも知っている(はず)の伝説のロッカーです。月曜日の夜7時前の5分間、千葉テレビの放送枠を買い取った大金持ちの会社社長。ライブハウス「ジャガーカフェ」も持ってました。元々は「キース・ジャガー」と名乗っていたことから、目指している音楽性は伝わるものの、洋裁学校時代を歌った「破れたジーパン」など、フォークな感性がそこかしこに光っています。パオパオチャンネルでとげとげのブーツをはいて悪者をやっつけていたことでも有名です。
 しばらく活動を休止していて、久しぶりに千葉テレビに戻ってきましたが、テロップによれば「タイムマシーンで数日間の旅行の後、地球に帰ってきたのであった。」とのことです。


『TIME MACHINE』TIME MACHINE

2005年11月18日 (金)

複雑ネットワークの科学

■ 書籍情報

複雑ネットワークの科学   【複雑ネットワークの科学】

  増田 直紀, 今野 紀雄
  価格: ¥2,520 (税込)
  産業図書(2005/02)

 本書は、バラバシの『新ネットワーク思考』やワッツの『スモールワールド・ネットワーク』を読んで、複雑ネットワーク理論に関心を持った人向けに、基礎知識から最先端の応用研究まで押さえることができる、日本語で入手できる良質な解説書です。前掲の2書では、経済、マーケティング、社会的流行、疫病の流行、生態系、遺伝子などの様々な社会的事象にネットワークが関わっていることを解説していますが、その「ネットワーク」とはどのような性質を持ったものなのか、を数理解析の結果を踏まえて基礎から解説しています。
 本書は、複雑ネットワークの理解に不可欠なグラフ理論の入門的解説からスタートし、完全グラフ、格子、サイクル、木などの基本的なグラフの解説から、エルデシュとレイニーによって導入されたランダム・グラフの解説までがなされています(エルデシュは、世界の研究者のネットワーク研究の対象となる「エルデシュ数」の起点となっている数学者です。その個性的な人生と温かい人柄は『放浪の天才数学者エルデシュ』をご覧ください。)。
 続いて、いよいよ複雑ネットワークの各モデルの解説に入ります。まずは、「スモールワールド・ネットワーク」のモデルである「WS(ワッツ=ストロガッツ)モデル」です。このモデルは、パラメータの少ない単純なモデルでありながら、現実の複雑ネットワークの本質を捉えたものとして、数多くの研究分野の論文で引用されています。例えば、新しい枝のランダムなつなぎ変えによってできる「ショートカット」は、社会ネットワークの理論で、グラノベッターが提唱した「弱い紐帯」に対応したものと捉えることができます。
 バラバシとアルバートによって提唱された「BAモデル」(優先的選択型成長モデル)は、時間とともに頂点が次々に追加される「成長」と、新しく追加された頂点は既にたくさんの枝を持っている頂点を選択して選択するという「優先的選択」(金持ちはより金持ちに、モテる男はよりモテる)という2つのアイデアを持ち、次数分布のベキ則を導出することができます。このモデルは典型的な「スケールフリー・ネットワーク」として扱われていて、本書ではこの他、「階層的モデル」や「閾値モデル」という2つのスケールフリー・ネットワークのモデルを解説しています。
 本書には、モデルの解説などのために数式も数多く使われていますが、複雑ネットワークへの関心が数学以外にも物理学、社会学、生物学など数多くの分野に広がっていることを踏まえ、大半のエッセンスは数式を飛ばして読んでも理解できるように書かれている(「理数系に関心があれば高校生くらいでも読み通せるかもしれない」とのことです。)うえ、数式が苦手な人は読み飛ばせるように「ここから」「ここまで」の2つのドクロマークが随所に示されています。
 バラバシやワッツを読んで、複雑ネットワークの世界に関心を持った方は、数式があるからと食わず嫌いをせずぜひ読んでいただきたい一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書の巻末の「参考図書」のページを見ると、もちろん大半は英語で書かれた数学や物理学の専門論文なのですが、本書の性質上、邦訳もされた一般書もずいぶん紹介されています。アクセルロッドの『つきあい方の科学』やエルデシュの伝記にもちろん、ワッツやバラバシなどです。
 これまで自分が関心を持って読んできたネットワーク理論やゲーム理論(特に進化ゲーム関係)関連の本をつなぐ「ハブ」になるような位置づけにある本ではないかと感じました。この方向で行くとグラフ理論の本も読まなければならなくなりそうです。


■ どんな人にオススメ?

・バラバシやワッツを読んで複雑ネットワークに関心を持った方。


■ 関連しそうな本

 アルバート・ラズロ・バラバシ (著), 青木 薫 (翻訳) 『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』 2005年10月24日
 ダンカン ワッツ (著), 辻 竜平, 友知 政樹 (翻訳) 『スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法』 2005年09月28日
 マルコム グラッドウェル (著), 高橋 啓 (翻訳) 『ティッピング・ポイント―いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか』 2005年02月12日
 スティーヴン・ストロガッツ (著), 蔵本由紀, 長尾力 (翻訳) 『SYNC』 
 ポール ホフマン (著), 平石 律子 (翻訳) 『放浪の天才数学者エルデシュ』 2005年11月06日
 安田 雪 『実践ネットワーク分析―関係を解く理論と技法』 2005年10月04日


■ 百夜百マンガ

算数がメチャとくいになれる本―秋山仁のおもしろ授業【算数がメチャとくいになれる本―秋山仁のおもしろ授業 】

 昔から学習マンガはたくさんありましたが、最近は算数の本も増えているみたいで、微積分の学習マンガもあるようです。微積分のマンガは誰が読むのでしょうか?

2005年11月17日 (木)

入門ミュージアムの評価と改善―行政評価や来館者調査を戦略的に活かす

■ 書籍情報

入門ミュージアムの評価と改善―行政評価や来館者調査を戦略的に活かす   【入門ミュージアムの評価と改善―行政評価や来館者調査を戦略的に活かす】

  村井 良子, 上山 信一, 三木 美裕, 佐々木 秀彦, 平田 穣, 川嶋-ベルトラン 敦子
  価格: ¥1,890 (税込)
  アム・プロモーション(2002/02)

 本書は、近年日本でも話題になっている博物館の評価について、学芸員自身や社会調査や経営改革の専門家など様々な視点からアプローチしたものです。元々は、2001年に東京と江戸東京博物館で行われた「博物館における評価と改善スキルアップ講座」のセミナーの内容を元に編集されました。
 本書の構成は、読み物としてもおもしろい「実践編」である第1部と、博物館の評価や来館者調査の手法の詳細を解説した第2部の「基礎編」との2部構成になっています。
 著者の一人、上山信一氏は、「博物館経営の4つの心得」として以下の4点を挙げています。
(1)博物館はもっと自由闊達に経営すべきである・・・現場で工夫すれば現状より必ずよくなる。
(2)稼げるのであれば稼いだ方がいい・・・お金を稼ぐ経験が組織風土を革新的にする。
(3)経済的に自立しようとは絶対思うな・・・最初から儲けるつもりで建てていないものに急に儲けろと言う方が間違っている。
(4)パーソナルな色彩をもっと出しましょう・・・定評のあるサービス業は結局は誰か個人に支えられている。
 そして、まずはお客様の生の声を聴くことからはじめ、現場の職員がおかしいと思っていることをしっかり集めることが重要であると述べています。
 また、大阪の水族館「海遊館」のオープニングからの10年間の経営に携わった平田穣氏が自ら語るマーケティング・リサーチは、手探りでとにかくお客様の声を聴こうとしている姿に臨場感があります。お客様の一番の反応を聞くことができるのは、リラックスできるトイレだ、ということで、トイレでの会話から入館料の手ごたえ(2000円は「ええ値とりよるな。そやけど金かけとるな」。)をつかむ辺りの話からは、著者のガッツポーズが目に浮かぶようでした。
 第2部の「基礎編」は、博物館評価や社会調査の基本的な手法や課題が押さえられ、この分野に関心を持つきっかけになるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 行政の中では、博物館は「ハコモノ」と捉えられることが多く、作りさえすれば後は中の学芸員が適当に運営してくれる、という程度の関心しかもたれていないことが多いのではないかと思います。川崎市の市民ミュージアムでは、現場のスタッフが必死で改善の努力をしても、経営の構造自体が抱える問題が大きすぎ、「親」(川崎市)による「子」(市民ミュージアム)に対する「ネグレクト虐待」、作ったまま世話をしない、という話さえ出ています。
 本書のような出版物が多く出回ることによって、ミュージアムに対する市民の関心が高まれば作りっ放し、ということも減ってくるんじゃないかと期待するのですが。


■ どんな人にオススメ?

・ミュージアムに評価は適さない、と思ってしまう人。


■ 関連しそうな本

 上山 信一, 稲葉 郁子 『ミュージアムが都市を再生する』
 三木 美裕 『キュレイターからの手紙―アメリカ・ミュージアム事情』
 上山 信一 『「行政評価」の時代―経営と顧客の視点から』 2005年01月21日
 上山 信一, 玉村 雅敏, 伊関 友伸 (編) 『実践・行政評価―事例、解説、そしてQ&A』
 デビッド ディーン (著), 北里 桂一, 山地 有喜子 , 山地 秀俊 (翻訳) 『美術館・博物館の展示―理論から実践まで』
 P・H・マン (著), 中野 正大 『社会調査を学ぶ人のために』


■ 百夜百マンガ

国立博物館物語【国立博物館物語 】

 『アフター0』や『緑の黙示録』にしても科学ネタとストーリーとの噛み合わせがよいのがこの作者の特徴です。「極限状態の人間の目」が怖い部分は、藤子・F・不二雄のSF(少し不思議)作品にも共通しています。

2005年11月16日 (水)

ここからはじまる人材育成―ワークプレイスラーニング・デザイン入門【300回記念号】

 おかげさまで、1月21日にスタートして今回で300回を迎えることができました。

■ 書籍情報

ここからはじまる人材育成―ワークプレイスラーニング・デザイン入門   【ここからはじまる人材育成―ワークプレイスラーニング・デザイン入門】

  北村 士朗, 中原 淳 (編さん), 荒木 淳子, 松田 岳士, 浦嶋 憲明, 小松 秀圀
  価格: ¥2,520 (税込)
  中央経済社(2004/07)

 本書は、企業の人材育成担当者が学びの場を作り出そうとするときに参考にできる情報として、富士ゼロックス、オートバックスセブン、東京海上火災保険、マイクロソフト、富士通、デンソーなどの企業における「最新の人材育成事例」を紹介し、その中から「人材育成をしていくにあたり頻出する基礎知識・キーワード」を押さえようというものです。
 各事例に共通したポイントとして、本書は、以下の5つの点を挙げています。
(1)「課題」を把握し、「そうした課題を解決できる人材像」を想定する。
(2)学習者を知ること。
(3)学習者の声を活かす
(4)学習の軌跡を考慮する
(5)学び手としての人材育成担当者
 この中で、(2)の学習者の想定としてオートバックスセブンに勤務する若者のイメージ図(オレンジのつなぎを着て、茶髪に長髪、少しひげを生やした若者)とともに、「車は大好きだけれど勉強は嫌い。ゲームやテレビは好きで、読書は大嫌い。」という想定が紹介されていますが、確かにカー用品店にはこんな感じの人がいます。この具体的なイメージが重要であることが述べられています。
 本書の事例は、どれもeラーニングが取り入れられています。eラーニングに対するイメージは「相手の顔が見えなくて無機質」というものであるのに対し、東京海上火災の担当者は「eラーニングでは学習者が寄ってくるのが見える」と述べています。また、オートバックスセブンでは、eラーニングの学習者の想定とコンセプトづくりに一番の労力をつぎ込み、コダワリが随所に込められています。マイクロソフトでは、グローバルな教育システムの中で、アジアとアメリカの学習スタイルに違いがあり、オンディマンドのビデオを見るときに、アメリカでは個人のデスクトップで一人で見るのに対して、アジア地域では、部署の仲間と一緒に見るという違いがあるそうです。
 人材育成のキーワードという点では、デンソーの『人材育成心得帖』に収められた職場における人材育成のポイントである「七つの心得」が参考になりそうです。
・心得一 異論こそ創造、ぶつかり合いは進歩
・心得二 一つひとつの段階を、確実に
・心得三 指導は場づくりはメンバーの指導を始める前の心構え
・心得四 説得して、納得させる
・心得五 意識して「ほめる」、意識して「しかる」
・心得六 「聞く」な、「聴け」
・心得七 変えようとするな、わかろうとせよ
 本書の構成は、事例紹介の合間に、著者らによる2ページ程度の短いコラムが数多く収められていて、ミニ知識的に役立つものが数多くあります。「社会人の5つの学習ニーズ」(トレーニング、資格、ネットワークづくり、特定集団への帰属、勉強を楽しみたい)や、短期間で効率的、効果的な教育コースづくりを行う手法である「インストラクショナル・デザイン」、「コミュニティ・オブ・プラクティス」(実践コミュニティ)など人材育成担当者の関心が向きそうなものばかりです。
 人材育成を担当する方にはぜひ読んでいただきたい一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書の内容は「最新の事例」と「基礎知識・キーワード」、と言葉にしてしまうと実も蓋もないようですが、人材育成の情報が企業の壁を超えることが少ない中で、実際に企業の人材育成担当者が直面しているのはこういった基礎的な問題なのかもしれません。
 いくつかの企業の人材育成担当者が、大学の組織論の教授と一緒に、ケースを分析したり人を読んで話をしたり、ときには合宿をしたりする勉強会に参加したことがありますが、社内に同業者がいない人材育成の担当者が、いかに横のつながりを求めているかということを感じました。


■ どんな人にオススメ?

・企業や自治体の人材育成担当者


■ 関連しそうな本

 金井 寿宏, 守島 基博(編著), 原井 新介, 須東 朋広, 出馬 幹也(著) 『CHO―最高人事責任者が会社を変える』 2005年08月23日
 原井 新介 『キャリア・コンピテンシー・マネジメント―どうすれば人材のミスマッチは防げるのか』
 ウィリアム パウンドストーン (著), 松浦 俊輔 (翻訳) 『ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?』 2005年11月11日
 ウォルター ディック, ジェームス・O. ケアリー, ルー ケアリー (著), 角 行之 (翻訳) 『はじめてのインストラクショナルデザイン』
 小池 和男 『日本企業の人材形成―不確実性に対処するためのノウハウ』
 エティエンヌ・ウェンガー, リチャード・マクダーモット, ウィリアム・M・スナイダー, 櫻井 祐子 (翻訳), 野中 郁次郎(解説), 野村 恭彦 (監修) 『コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践』 2005年08月25日


■ 百夜百マンガ

やさぐれぱんだ【やさぐれぱんだ 】

 「癒し系」なのか・・・?
 ネットで読める大人気四コマの書籍化ということらしいです。「たれぱんだ」や「りらっくま」が好きな人におすすめできるかどうかわかりません。
「山賊UNDERGROUND」
http://szug.biz/

2005年11月15日 (火)

対立と協調の科学-エージェント・ベース・モデルによる複雑系の解明

■ 書籍情報

対立と協調の科学-エージェント・ベース・モデルによる複雑系の解明   【対立と協調の科学-エージェント・ベース・モデルによる複雑系の解明】

  ロバート・アクセルロッド (著), 寺野 隆雄 (翻訳)
  価格: ¥3,990 (税込)
  ダイヤモンド社(2003/06/06)

 本書は、「繰り返し囚人のジレンマゲーム」で超有名な『つきあい方の科学』の続編にあたるものです。本書は、『つきあい方の科学』で主に分析対象としていた2人プレイヤーのモデルを拡張し、「シミュレーションを用いる分析手法によって複雑な社会システムの特性を理解」するために「エージェント・ベース・モデリング」という手法を用いた分析を行っています。
 エージェント・ベース・モデリングは、実験データの中からパターンを発見する帰納法や、一定の公理を用いてその前提から導かれる結果を証明する演繹法に続く、第3の科学的アプローチであると解説されています。このモデルは、明白な一連の前提からスタートし、シミュレーション結果のデータを帰納的に分析することで、直感を助けることができるものです。
 本書は、7章と2つの付録からなり、囚人のジレンマゲームの発展である第1章、第2章と、規範の促進、味方の選択、標準の設定といったn人のプレイヤの下での協調が生まれるメカニズムを分析した第3章~第5章、新しい政治的アクターの出現を扱った第6章、文化の広がりと分極化などを扱った第7章という構成になっています。
 第1章、第2章では、囚人のジレンマゲームの分析に遺伝的アルゴリズムの手法を用い、生態学的シミュレーションの下での「しっぺ返し」戦略や互恵主義的な戦略の進化等を分析しています。
 第3章「規範の促進」では、規範が生まれて、それが安定するために必要な「メタ規範」の必要性を分析しています。これは、規範に違反したものだけでなく、違反者を罰しないものにも罰を与えるというもので、旧共産主義社会での弾劾の方法や、昔のアメリカ南部での白人によるリンチの慣習などが紹介されています。
 この他、新しい政治アクターの出現や文化の流布(著者が「伝播」という表現を用いない理由についても述べられています。)など、結論だけ見ると当たり前(中には直感に反するものもあります。)のシミュレーションの結果が導き出されるプロセスを追っていく知的興奮を味わうことができます。


■ 個人的な視点から

 数年前に『つきあい方の科学』を読んだ時には、2人のプレイヤーによる囚人のジレンマゲームという状況での比較的分かりやすいテーマで、他のゲーム論の入門書や一般書の内容と重複するものが多かったという印象を持ちました。これに対し、本書は、シミュレーションをさらに拡張し、社会そのものの分析になっているので、結論はごく当たり前っぽい話ではあるのですが、なんとなく世界の秘密を覗いているような面白さがあります。


■ どんな人にオススメ?

・社会の仕組みの元になっているメカニズムを理解したい人。


■ 関連しそうな本

 R. アクセルロッド (著), 松田 裕之 (翻訳) 『つきあい方の科学―バクテリアから国際関係まで』
 ロバート・アクセルロッド, マイケル・D・コーエン (著), 高木 晴夫, 寺野 隆雄 (翻訳) 『複雑系組織論』
 山影 進, 服部 正太 (編集) 『コンピュータのなかの人工社会―マルチエージェントシミュレーションモデルと複雑系』
 ロバート・D. パットナム (著), 河田 潤一 (翻訳) 『哲学する民主主義―伝統と改革の市民的構造』 2005年03月03日


■ 百夜百マンガ

俺と悪魔のブルーズ【俺と悪魔のブルーズ 】

 「悪魔に魂を売った」ブルーズマンのお話です。夜のシーンなど、読んでいると手が黒くなるような迫力のある「黒」は他にありません。

2005年11月14日 (月)

会社の中の「困った人たち」―上司と部下の精神分析

■ 書籍情報

会社の中の「困った人たち」―上司と部下の精神分析   【会社の中の「困った人たち」―上司と部下の精神分析】

  マンフレッド・ケッツ ド・ブリース (著), 金井 壽宏, 岩坂 彰 (翻訳)
  価格: ¥2415 (税込)
  創元社(1998/03)

 本書は、「憂うつな科学」(ケインズ)と「ありえざる職業」(フロイト)を結び付けて、組織に関する分析を行ったものです。
 本書の構成は、組織内における「困った人たち」を扱った第1部の「「困った人たち」は変化を求めない」と、「困った人たち」の内面に目を向けた第2部の「「困った人たち」のジレンマ」との2部構成になっています。本書の副題である「上司と部下の精神分析」に惹かれて手にした人にとっては、第2部こそが精神分析的な内容で、第1部は他の経営学の文献でも目にするような組織行動論的なアプローチなのではないかと思います。
 第1部で取り扱っているのは、外から来た経営者が直面する問題(「行為への逃亡」など)や、合併時に問題になる組織文化(著者の定義では「組織内で共有され、その組織の成員が内外からの圧力に対処するために採用する信念や価値観や特徴的な行動パターンとして表される、世界についての基本的仮定の寄せ集め」)の軋轢、それぞれの会社独自の「神話」、その集団で話されている独特の「言葉」(用語だけでなく動作や情緒、時間など)です。
 第2部では、「困った人たち」の心の内面を明らかにします。女性差別の奥底に潜む「母親からの逃避」や、創造力を発揮するために必要な「過渡的空間」(日常の世界と内的な世界とをつなぐ空想と幻想の空間)の重要性、ワーカホリックが持つ「シーシュポス・コンプレックス」(何をしても完全にやり遂げたという感覚をもてない)、ジンギス・カンのような粗暴な上司のために依存的に働いてしまう部下の「精神感染」などが分析されています。


■ 個人的な視点から

 本書の中で、「あったらいいな」と思ったのは、ワーカホリックのための相互支援グループです。アルコール依存症者自主治療協会のようなグループで自分たちが抱えている悩みや問題点に気づく機会を持つことができれば、カウンセリングだけよりも効果があるのではないかと思ったからです。


■ どんな人にオススメ?

・「困った人たち」に悩まされている人。


■ 関連しそうな本

 沼上 幹 『組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために』 2005年02月05日
 高橋 伸夫 『ぬるま湯的経営の研究―人と組織の変化性向』 2005年03月16日
 金井 壽宏 『組織を動かす最強のマネジメント心理学―組織と働く個人の「心的エナジー」を生かす法』 2005年06月09日
 ステファン・P. ロビンス (著), 高木 晴夫, 永井 裕久, 福沢 英弘, 横田 絵理, 渡辺 直登 (翻訳) 『組織行動のマネジメント―入門から実践へ』 2005年02月17日
 金井 寿宏, 高橋 潔 (著) 『組織行動の考え方―ひとを活かし組織力を高める9つのキーコンセプト』 2005年04月27日


■ 百夜百マンガ

【アレルゲン 】

 日常生活の中に入り込んだ「困った人々」を描いた作品。
 独特な濃すぎる絵は、初めての人は拒否反応を起こすかもしれません。

2005年11月13日 (日)

なぜ数学が「得意な人」と「苦手な人」がいるのか

■ 書籍情報

なぜ数学が「得意な人」と「苦手な人」がいるのか   【なぜ数学が「得意な人」と「苦手な人」がいるのか】

  ブライアン バターワース (著), 藤井 留美 (翻訳)
  価格: ¥2,100 (税込)
  主婦の友社(2001/11)

 本書は、人間の脳における数の認知の仕方という観点から、脳が持っている「数のモジュール」とでも呼べる部分の役割を解説したものです。
 著者は、人間は、小さい数の多少を判別する専用回路(数のモジュール)を生まれながらにして持っていて、この回路を土台にして、社会や文化から学んだより高度な能力を積み上げていく、と述べています。このことを立証するため、著者は紀元前3000年頃のシュメール人やバビロニア人の使っていた数の概念や、一万二千年前の氷河期、ネアンデルタール人にまでさかのぼります。また、世界中の様々な民族が使っている体を使った数の数え方(パプア・ニューギニアのユプノ族は、左手→右手→左足→右足→左耳→右耳→左目→右目→鼻→左の小鼻→右の小鼻→左胸→右胸→へそ→左の睾丸→右の睾丸→ペニスまでを使って33まで数を数える)や、様々な「基数」(古代マヤ族では20を基数に、バビロニアでは60を基数としていた)について解説しています。また、数の体系が構築される段階を、
・第1段階――しるしをつける
・第2段階――集まりをつくる(またの名を「ポーカーチップ方式」)
・第3段階――足し算で数を作る(またの名を「加法合成」)
・第4段階――集合の集合
・第5段階――基数の登場
・第6段階――循環
・第7段階――位取り
 数が人類に認識されてきた段階を歴史をたどった追った後、著者は人間が成長とともに数を認識する過程を追います。赤ん坊には、生まれながらにして数の多少を識別する能力があることが分かっています。そして、「数のモジュール」は、脳の左頭頂葉に存在することが、脳の一部を損傷した患者の症状の分析から明らかになります。数の認識が頭頂葉で行われるのは、この部位が、指や手の形を描き出すものであるからだと述べられます。また、「ゲルストマン症候群」と呼ばれる症状、すなわち、(1)手指失認、(2)失計算、(3)左右の失見識、(4)失書という4つの症状が同時に現れる理由としても、手指の認識と数の概念を扱う場所が接近していることが挙げられています。
 これらのように、数の認識を脳の働きで分析すると、数学の得手不得手は生まれつきのものだ、と考える人も多いのではないかと思いますが、本書で扱われているのは、10以上の数字が認識できないなどの特殊な例であり、単なる数字嫌いとはレベルが異なります。著者は、天才には熱意が必要であること、「多大な勉励を続ける適切な活力」が必要であることを述べ、悲劇の若き天才数学者、ラヌマジャンの伝説を紹介しています。そして、計算の達人と呼ばれる人たちが、イディオ・サヴァン(知恵遅れの天才)を含めて、知識や技術を学ぶことに大変な時間を割いていると語っています。
 数学は昔から嫌いで数字のことなんか考えたくない、という人にも読みやすい内容になっていると思います。


■ 個人的な視点から

 本書の多くの部分は、脳による数の認知の解説に当てられていますが、後半部分(最終章は日本向けに追加されています)は、数学教育に関連する内容となっています。著者は、数学を「知識、手順、理解」の3つの柱が支えていると述べています。そして、最初の2つは、先祖代々受け継がれ、学校や家庭などで身に着けられるものであるのに対し、この2つを正しく結びつけるためには、最後の「理解」が重要であるとしています。理解は自信につながり、理解が足りないと、不安感から数学を避けて通りたくなる悪循環に引きずり込まれてしまうのです。暗記と演習より、理解重視の学習が効果的な理由はここにあります。
 暗算名人として知られるハンス・エーベルスタルクは、計算が得意なことで、「友達ができる、お金が儲かる、自慢できる、みんなに喜んでもらえる」という良かったことを上げた上で、それ以上に、内面的な利点である「精通、確かさ、変換、洞察」の方が大きいことを述べています。数学を学ぶことの目的は、単に計算ができるようになることではなく、自分が主導権を持ち「制御できる」感覚を持つことにあるのではないか、という点には激しく同意します。


■ どんな人にオススメ?

・数学なんか人生の役に立たない、と言っている人。


■ 関連しそうな本

 グレゴリー・J・チャイティン (著), 黒川 利明 (翻訳) 『セクシーな数学-ゲーデルから芸術・科学まで-』 2005年11月03日
 ポール ホフマン (著), 平石 律子 (翻訳) 『放浪の天才数学者エルデシュ』 2005年11月06日
 E.T. ベル (著), 田中 勇 (翻訳), 銀林 浩 (翻訳) 『数学をつくった人びと』
 E・T・ベル (著), 河野 繁雄 (翻訳) 『数学は科学の女王にして奴隷』
 E. ナーゲル (著), J.R. ニューマン (著), 林 一 (翻訳) 『ゲーデルは何を証明したか―数学から超数学へ』


■ 百夜百音

ビー・マイ・ベイビー【ビー・マイ・ベイビー】 ヴァネッサ・パラディ オリジナル盤発売: 1992

 学生時代にタイトル曲をカバーしたことがあります。当時でも古臭い音作りでしたが、今聴いてもカッコイイです。
 レニクラは、このサウンドを出すために昔の真空管アンプやオープンリールを買い漁っていたという話を聴いたことがあります。


『Let Love Rule』Let Love Rule

2005年11月12日 (土)

うなずく人ほど、うわの空―しぐさで本音があばかれる

■ 書籍情報

うなずく人ほど、うわの空―しぐさで本音があばかれる   【うなずく人ほど、うわの空―しぐさで本音があばかれる】

  ピーター コレット (著), 古川 奈々子 (翻訳)
  価格: ¥1575 (税込)
  ソニーマガジンズ(2004/08)

 本書は、ほんの些細なしぐさに、相手のどんな本音が現われているか、を解説したものです。動揺している、落ち着いている、などの一般的な心理状態のほか、支持率を大きく上下させる政治家のしぐさや、男女の駆け引き、嘘をついている時のしぐさなど、しぐさに現る様々な本音が解説されています。
 ポーカーの達人は、相手のそぶりや気配から、相手の手の内を探ります。このことを「テル」と呼びますが、達人は相手の「テル」を必死に探るとともに、自分の感情や手の内を隠します。また、早いうなずきには2種類あり、「全面的に賛成です。」を表すうなずきと、「いいから早く私にもしゃべらせてください。」という意味のうなずきとがあるということです。
 本書で大きなボリュームをとっているのは、政治家のしぐさから読み取れる彼らの本音や政治家同士の力関係です。よく選挙の時期になると、政治家が赤ん坊を抱いた写真を見かけますが、この写真には、子ども好きをアピールする意図の裏に、攻撃から身を守る手段として赤ん坊を抱いているのだということです(ヒヒも他のヒヒから身を守る手段として赤ちゃんヒヒを盾にするそうで、赤ちゃんを傷つけてはいけないという本能を利用しているのだそうです。)。また嫌な質問をするインタビュアーと政治家との抗争も熾烈で、政治家はそれぞれ「必殺技」を持っていて、ジョージ・W・ブッシュは、「この問題についてこれ以上言うことはない」という意味の「かすかなうなずき」を、マーガレット・サッチャーは一瞬目を大きく見開く「目をきらりとを光らせる」を使うです。
 嘘をついている人は、言葉では本心を隠せてもしぐさを隠すことはできません。嘘をついている人は、口元を隠すためにしきりに鼻を触ったり口を覆ったりするそうです。本書では、ビル・クリントンの虚偽証言の場面を引用しています。また会話の中身も、回りくどくなったり、大雑把な描写しかできない、声の調子が上ずったりします。
 本書は、人のしぐさから本音を探るという点でも、自分が口をつぐんでいても「テル」を発信していないか、という点でも参考になると思います。読んだら何とかなるというものではありませんが。


■ 個人的な視点から

 「言葉よりもしぐさに本音が現れる」とは言え、よく研修の講師が使う「Verbal(言語情報):Vocal(聴覚情報):Visual(視覚情報)」の影響力の比率は「7:38:55」になるという「メラビアンの法則」というものは、何だか胡散臭そうです。先日受けた研修の講師がこの話を使っていて可笑しくなってしまいました。

「天使と悪魔のビジネス用語辞典」

 それでも、本書でも触れられているように、話しているのがイタリア人ならば、身振りの大きさでなんとなく内容は伝わりそうですね。


■ どんな人にオススメ?

・つい顔に出てしまう人。


■ 関連しそうな本

 ピーター コレット (著), 高橋 健次 (翻訳) 『ヨーロッパ人の奇妙なしぐさ』
 ピーター コレット , エイドリアン ファーンハム (編集), 長田 雅喜, 平林 進 (翻訳) 『仕事の社会心理学』
 平野 喜久 『天使と悪魔のビジネス用語辞典』
 マックス H・ベイザーマン (著), マーガレット A・ニール (著), 奥村 哲史 『マネジャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋』 2005年07月04日


■ 百夜百音

フュージティヴ(逃亡者)【フュージティヴ(逃亡者)】 アースシェイカー オリジナル盤発売: 1984

 高校時代は、アースシェイカーの「MORE」は定番の曲だったのでメタルやってない人もお付き合い程度には弾く人が多かったです。
 数年後、河口湖のキャメロットで合宿したときに、アースシェイカーの「ファンの集い」がやってました。


『ミッドナイト・フライト』ミッドナイト・フライト

2005年11月11日 (金)

ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?

■ 書籍情報

ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?   【ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?】

  ウィリアム パウンドストーン (著), 松浦 俊輔 (翻訳)
  価格: ¥2,310 (税込)
  青土社(2003/06)

 本書は、マイクロソフト社の入社試験で出題されるパズル式面接、例えば、「時計の長針と短針は、1日に何回重なるか?」などの問題をキーとして、そういったパズル式面接が持っている長い歴史を解説し、この方式の面接が機能しているかどうかの分析を行う、採用と知能テストに関する解説書であるとともに、純粋にパズル本として、自分がもしマイクロソフト社を受けるとしたらどんな問題に当たるだろうか、を想像して楽しむこともできます。
 パズル式面接の「先祖」を辿ると、知能を定義し、IQの概念を広め、古典的な知能検査を生み出した、スタンフォード大学の心理学者であるルイス・ターマンに行き着きます。IQテスト自体は、文化的な偏向や人種差別の問題などを抱え、万能薬ではないことが明らかになっていきますが、マイクロソフト社などで使用されるレドモンド式面接は、少なくとも形式的にはIQテストの流れを汲んだものになっています。
 では、この面接のやり方はうまく行っているのでしょうか。この方式の面接の狙いは、「間違った不採用はよくないが、それで会社にダメージがあるわけではない。間違った採用は会社にダメージになり、それを除去するには時間がかかる」ため、ふさわしくない「害のある」人を採用することを避けることにあります。この面接方式は、
・テクノロジーが日々変化し、特定の技能がすぐ陳腐化する環境では、一般的な問題解決能力を重視する。
・悪い採用による損害は、いい判断から受ける利益を上回る。
という2つの現実を認めることになります。つまり、「面接パズルは、下手な採用を防ぐためのフィルター」なのです。
 本書は、レドモンド式面接の切り抜け方を以下に引用する9つのポイントにまとめています。
(1)まず、どういう答えが期待されているか、はっきりさせる(頭の中で、あるいは対話で)
(2)最初に考えたことは、どれも間違っている。
(3)習った微積分は忘れよう。
(4)大きくて複雑な問題には、ふつう単純な答えがある。
(5)単純な問題は、複雑な答えを求めていることが多い。
(6)「完全に論理的な」存在は、普通の人間とは違う。
(7)壁にぶつかったら、自分の立てている前提を列挙しよう。その前提ひとつひとつについて、それを捨てればどうなるか、順に考えること。
(8)論理パズルで決定的な情報が欠けているときは、可能性のある筋書きを展開しよう。きっと問題を解くには欠落した情報は不要であることが分かる。
(9)可能なときは、相手が聞いたことのない、いい答えを出すこと。
 これらのポイントは、日常生活や仕事の中の「パズル」に行き詰った時にも解決のヒントを与えてくれるものかもしれません。
 パズル本としての本書にチャレンジしてみようと考えている方、またはマイクロソフト社に入社したいと考えている方は、この9点を先に読んでから本書を開いた方が良いでしょう。


■ 個人的な視点から

 本書では、パズルを使ったレドモンド式面接の他に、東部の投資銀行界で用いられる「ストレス面接」(面接担当者が10分間何も話さない、窓の開かない部屋で窓を開けるように求める(43階の窓を椅子を投げつけて「開けた」志望者もいる)、椅子がぐらぐらするように椅子の足を二本切っておく、など)や、人為的な完結した環境に人を放り込んで様子を見る「研修面接」、レゴ・ブロックを与えられて5分で何か作りそれを説明させる「不条理面接」などが紹介されています。
 また、マイクロソフト文化の紹介の中で、『イノベーションのジレンマ』がマイクロソフトが気にしていることをずばり指摘し、著者のクリステンセンが「ロックのスター並みの存在」であると紹介されていることが愉快でした。まさにマイクロソフトは「破壊的イノベーション」で現在の地位に躍り上がり、そして新たな破壊的イノベーションに怯えているというものです。


■ どんな人にオススメ?

・マイクロソフト社を志望している人


■ 関連しそうな本

 クレイトン・クリステンセン (著), 玉田 俊平太, 伊豆原 弓(翻訳) 『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』 2005年10月17日
 ビル ゲイツ 『思考スピードの経営 - デジタル経営教本』
 DOTリストラ総合研究会, 秋月 めぐる, 清野 耕平 『面接Q―人事コンサルタントが教える最強の面接攻略法!!』
 コモエスタ坂本 『ビル・Gからの手紙』


■ 百夜百マンガ

名探偵コナン【名探偵コナン 】

 昔の子どもは、コナン・ドイルの推理小説を一生懸命読んだものですが、コナンが好きな今時の子どもたちは、シャーロック・ホームズを読んだりするのでしょうか。

2005年11月10日 (木)

オープン・アーキテクチャ戦略―ネットワーク時代の協働モデル

■ 書籍情報

オープン・アーキテクチャ戦略―ネットワーク時代の協働モデル   【オープン・アーキテクチャ戦略―ネットワーク時代の協働モデル】

  国領 二郎
  価格: ¥2,310 (税込)
  ダイヤモンド社(1999/11)

 本書は、「自社の持つ情報をより積極的に公開、発信し、他社の多様な情報と結合させることによって、情報価値の自己増殖現象を発生させ、その価値を自社の利益として取り込んでいく戦略」である「オープン・アーキテクチャ戦略」について解説されたものです。
 オープン・アーキテクチャ戦略が拡大する理由として、著者は以下の3点を指摘しています。
(1)機械系システムの能力向上と人間の認知限界・・・稀少な人間の認知能力資源を節約するため、知をモジュール化して結合する戦略が優位になる。
(2)情報の非対称性の逆転と顧客の発信する情報をビジネス化するモデル・・・より消費者に近い立場で顧客情報を持つことが優位になる。
(3)情報の非物財的な特性の表面化・・・情報を複製するコストは限りなくゼロに近いため、情報を公開し他社の情報と結合させることが優位になる。
 本書は、オープン・アーキテクチャ戦略の具体的なビジネスモデルとして、「自社が関わる商品のサプライチェーンにおいて、市場に提供する分野を絞る一方で、自社がコミットする分野についてはより多くの地域で高いシェアをとろうとする経営方式」である「水平展開型ビジネスモデル」を紹介しています。このモデルと対照的なのが、「垂直囲い込み型ビジネスモデル」、すなわち、「サプライチェーンを市場ごとに囲い込む」経営方式です。垂直囲い込み型の戦略の例として、IBMや日本の大手コンピュータメーカーがとってきた戦略が紹介され、水平展開型の典型例としては、CPUに特化したインテルの例が紹介されています。
 本書はこの他、顧客参加型ビジネスモデルやプラットフォーム・ビジネスモデルなど、オープン・アーキテクチャ戦略に基づいた経営方式が紹介されています。今から6年前の1999年に出版された本書は、今やこの分野の古典とも呼べる「枯れた」内容になっており、最新の経済や技術の動向(さすがにちょっと古い)を押さえるという目的でなければ、安心して読める理論書の一つになっています。


■ 個人的な視点から

 本書が書かれたときには、後のモジュール化の基本書となる『デザイン・ルール―モジュール化パワー』(原著:Design Rules: The Power of Modularity, 2000)はまだ出版されておらず、モジュール化に関してこれだけコンパクトにキッチリまとまった本は他になかったのではないかと思います。
 もちろん、最新の文献の方が、用語の使われ方や事例など、標準的な知識を得やすいことは確かですが、アーキテクチャという観点からアプローチした本書には、モジュール化の考え方まで到達する過程が理解しやすいという利点があります。
 本書の第6章では、「信頼」を形成する方法として、(1)技術による解決、(2)法的な秩序による解決、(3)コミュニティ内における評判形成による解決、(4)プラットフォーム・ビジネスの仲介による解決、という4つの解決方法が示されていますが、これは、レッシグ教授の『CODE』で紹介されていた、他人の行動を「規制」するには4つの方法、「法、社会の規範、市場、アーキテクチャ」に対応すると考えられます。この4つの視点は、色々なところで使いやすいので、覚えておくと便利だと思います。


■ どんな人にオススメ?

・モジュール化の考え方のベースを理解したい人。


■ 関連しそうな本

 キム・クラーク, カーリス・ボールドウィン (著), 安藤 晴彦 (翻訳) 『デザイン・ルール―モジュール化パワー』
 青木 昌彦, 安藤 晴彦 (編著) 『モジュール化―新しい産業アーキテクチャの本質』 2005年04月22日
 安藤 晴彦, 元橋 一之 『日本経済 競争力の構想―スピード時代に挑むモジュール化戦略』 2005年05月17日
 ローレンス レッシグ (著), 山形 浩生 (翻訳), 柏木 亮二 (翻訳) 『CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー』 38384
 藤本 隆宏, 青島 矢一, 武石 彰 (編集) 『ビジネス・アーキテクチャ―製品・組織・プロセスの戦略的設計』


■ 百夜百マンガ

みすてないでデイジー【みすてないでデイジー 】

 アニメ化もされたのにやっぱりマイナーなこの作品。「歩野(てくの)」と読ませるのも強引ですが、一番の人気キャラはICBMのミミちゃんではなかろうかと思うです。

2005年11月 9日 (水)

ジョブ・クリエイション

■ 書籍情報

ジョブ・クリエイション   【ジョブ・クリエイション】

  玄田 有史
  価格: ¥3,780 (税込)
  日本経済新聞社(2004/03/16)

 本書は、1990年代の日本の雇用を巡る諸問題を、著者の言葉によれば、「1990年代に失われた就業機会の全体像を、自分なりにできるだけ正確に記録しておきたい」という意図の下で、各種労働統計、経済統計を丹念に扱ってまとめたものです。不良債権やデフレなどのマクロ的な現象によって語られることが多い労働市場の問題について、よりマイクロな統計データを元に、より具体的な雇用消失・創出のメカニズムを追っています。
 本書の構成は、全部で15章からなり、著者の他の一般向けの著書と内容的に重複する部分もあるものの、各章のまとめ方の統一による読みやすさを考えると、後から調べたり引用したりするには本書の方が扱いやすいものになっています。ただし、一般向けに比べて読みやすさという点ではハードルは高くなります。
 本書で主に扱っているテーマとしては、近年、著者が精力的に研究とPRを行っている若年者の雇用問題にどうしても目が行ってしまいます。中高年の失業に社会的な注目が集まり、若年者の失業は本人の就業意識の低さや定着率の低さの問題として語られることが多かったのに対し、中高年の雇用維持のための若年雇用抑制という構造的な問題であることを指摘しています。同様に、中高年サラリーマンの所得の伸び悩み以上に、若年者や自営業者の所得環境の悪化の方が深刻な問題であることが指摘されています。また、パートタイム労働者の増加によってフルタイムの雇用が減少した、という考えが、事業所レベルの実態とはかけ離れていることを指摘しています。
 元々は著者が2001年に提出した博士論文をベースにしているとこともあり、各章単位でも論文として独立して読むこともできます。全体で350ページを超える大著でもあるので、「高齢化と若年者の失業」、「中小企業や起業による雇用創出」、「中高年の転職」など、自分が関心を持っている分野に関連した何章かを読む、という読み方ができるのではないでしょうか。


■ 個人的な視点から

 本書の第12章から14章の辺りでは、中高年、特にリストラで離職した中高年の転職の問題を扱っています。この中では、リストラされた中高年の再就職には前の会社の斡旋や紹介が有効である点、再就職を支援するアウトプレイスメント会社を巡る課題、中高年の転職においてはスキル以上に本人の仕事の中で具体的に現れたやる気と人柄が重要である点、社会学で指摘される「ウィークタイズ(弱い紐帯)」と呼ばれる人的ネットワークが重要である点、などが指摘されています。
 90年代後半に雇用対策の仕事に携わり、職安の説明会で厳しい質問を受けたりすることもありましたが、その当時に本書を読んでいれば、もっと頭の中が整理できたのに、と感じました(もちろん、後から振り返ったからこそ分析が可能ではあるのですが)。


■ どんな人にオススメ?

・1990年代の雇用消失のメカニズムを知りたい人。


■ 関連しそうな本

 玄田 有史 『仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在 中公文庫』 2005年07月20日
 ダニエル ピンク (著), 池村 千秋 (翻訳), 玄田 有史 『フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか』 2005年02月02日
 玄田 有史, 曲沼 美恵 『ニート―フリーターでもなく失業者でもなく』
 宮本 みち子 『若者が『社会的弱者』に転落する』 2005年05月04日
 大久保 幸夫 『新卒無業。―なぜ、彼らは就職しないのか』
 八代 尚宏 『日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済』 2005年03月23日


■ 百夜百マンガ

東京プー【東京プー 】

 本書の出版は1993年。この当時には「プー」という言葉にはそれほどの悲壮感もなく、少しお気楽な感じもあったような気がします。
 そんな当時の世相と、人情味溢れる商店街のどちらもが懐かしい作品です。

2005年11月 8日 (火)

報酬主義をこえて

■ 書籍情報

報酬主義をこえて   【報酬主義をこえて】

  アルフィ コーン (著), 田中 英史 (翻訳)
  価格: ¥6,090 (税込)
  法政大学出版局(2001/02)

 本書は、報酬によって行動をコントロールしようとする「行動主義」に基づいた通俗的な報酬の考え方、すなわち「これをすればあれをあげるよ」という考え方と、この報酬主義に基づいた経営論、教育論、育児論を、主に心理学の立場から徹底的に批判したものです。
 本書は、「馬ニンジン」的な報酬の問題点として次の5点をあげています。
(1)報酬は罰になる・・・報酬と罰は同じコインの裏表に過ぎない。
(2)報酬は人間関係を破壊する・・・報酬を受ける側の協力や仲間意識にとっても、報酬を与える側との関係にとっても悪影響を与える。
(3)報酬は理由を無視する・・・報酬は間に合わせであり、真の問題を隠す。
(4)報酬は冒険に水をさす・・・報酬目当てに働くときは、報酬を得るのにちょうど必要なだけの仕事をやり、それ以上はやらない。
(5)興味を損なう・・・外発的報酬は内発的動機づけを減退させる。
 また、仮に報酬を与えるとしても、その害を最小限に抑えるため、著者は次の6点を提案しています。
・報酬を見えないようにせよ
・報酬は事後に、思わざる贈物として出せ
・報酬をめざすことを競争に変えるな
・報酬をできるだけ課題に似たものにせよ
・報酬の出し方について、もらう方が選択できる余地をできるだけ残せ
・報酬が動機づけを殺す効果に対して各人に免疫性を持たせるようにせよ
 本書は、お金やキャンディーのような目に見えやすいニンジンだけではなく、通常「馬ニンジン」を嫌う人にも奨励されている「賞賛」の問題点についても指摘しています。他の報酬と同様に、褒めることが、それを受ける側よりも与える側の利益になるような場合、すなわち、誉めることによって人をコントロールしようとする場合に問題があることを指摘しています。
 著者は、賞賛を行う基準として、誉められる側の自己決定と内発的動機づけの2点をガイドラインとすることを提案しています。そして、誉めることの害を小さくするために以下の4点を提案しています。
・人間を誉めずに行為だけを誉めよ
・できるだけ特定した誉め方をせよ
・まやかしの誉め方を避けよ
・競争をあおるような誉め方は避けよ
 本書は、企業における業績給、学習への動機づけ、そして子供のしつけの3つの分野で、報酬の具体的な問題を指摘しています。業績給に関しては、その誘因プランが上手くいかない理由として、以下の14点を指摘しています。
(1)必要性がないこと
(2)秘密性
(3)給料と働きがぴったり連動しない
(4)経費
(5)大きすぎ 対 小さすぎ
(6)短期的 対 長期的
(7)客観的 対 主観的
(8)「業績の査定は不毛な仕事だ」
(9)「給料は動機づけ要因にあらず」
(10)報酬は罰になる
(11)報酬は関係を壊す
(12)報酬は理由を無視する
(13)報酬は冒険に水をさす
(14)報酬は興味をそぐ
 著者は、真の動機付けへの条件作りとして、企業でも、教室でも、育児でも「3C」が重要であると述べています。それは、「協力(collaboration)」、「内容(content)」、「選択(choice)」の3つです。本書では、経営、教育、育児のそれぞれに1章ずつ割き、この3つのCを具体的に解説しています。
 本書は、『虚妄の成果主義』などを読んで「内発的動機づけ」に関心を持った人が、直接、心理学の理論書に立ち向かう前段のガイドライン的な役割を果たせるものではないでしょうか。「馬ニンジン」的な考え方が、どうも自分の働き方にしっくりこないと思っている方は、本書を読むことがその違和感の解決につながるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書を読んで感じることは、本書が扱っている経営と教育と育児の3つの分野は、それぞれバラバラなのではなく、特に内発的動機づけや報酬の問題点においては、同じことが繰り返し述べられているということです。特に「3C」に関する解説の部分では、教育や育児について述べられていることは、ほとんど企業でも当てはまることが多く、気づきが多かったと感じています。おそらく、企業の分野での解説にはどうしても仕事上の先入観が入ってしまうのに対し、教育や育児では素直に読むことができるからではないかと思います(おそらく、教師が読む場合は、企業に関して述べている章からの気づきが多いのではないかと想像します。)。
 業績給に関しては、それが盛んに取り入れられている米国と、そうでない国として日本やドイツが対比されています。また、公務員に対する業績給の適用についても少々触れられています(そして、有意の違いが現れないことが紹介されています。)。日本企業で業績給が「成果主義」という名目と主に人件費削減の目的で導入されたこと、そして、日本の公務員に業績給が取り入れられようとしている点についての著者のコメントが聞きたいところです。


■ どんな人にオススメ?

・自分が「馬ニンジン」的に動機付けられている、という考え方に違和感を持つ人。


■ 関連しそうな本

 ペッカ ヒマネン, リーナス トーバルズ, マニュエル カステル (著), 安原 和見, 山形 浩生 (翻訳) 『リナックスの革命 ― ハッカー倫理とネット社会の精神』 2005年10月29日
 エドワード L.デシ (著), 安藤 延男, 石田 梅男 (翻訳) 『内発的動機づけ―実験社会心理学的アプローチ』
 M. チクセントミハイ (著), 今村 浩明 (翻訳) 『楽しみの社会学』 2005年02月08日
 エーリッヒ・フロム (著), 日高 六郎 (翻訳) 『自由からの逃走』 2005年11月07日
 高橋 伸夫 『虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ』 2005年3月30日
 金井 壽宏 『組織を動かす最強のマネジメント心理学―組織と働く個人の「心的エナジー」を生かす法』 2005年06月09日


■ 百夜百マンガ

ドラゴン桜【ドラゴン桜 】

 「モチベーションと教育」というテーマであればこの本を無視するわけにはいきません。「東大合格」や受験テクニックばかりが強調されて取り上げられていますが、生徒の気持ちの変化こそが重要なテーマなのかと思います。

2005年11月 7日 (月)

自由からの逃走

■ 書籍情報

自由からの逃走   【自由からの逃走】

  エーリッヒ・フロム (著), 日高 六郎 (翻訳)
  価格: ¥1,785 (税込)
  東京創元社(1965/12)

 本書は、第二次世界大戦のさなか、「自由」に正面から向き合ったものです。近代人が、伝統的権威から解き放たれた「個人」となったことと同時に、孤独で無力なものとなり、新しい束縛(本書ではファッシズム)へ進んで服従するようにしたこと、逆に、積極的な自由は「能動的自発的に生きる能力をふくめて、個人の諸能力の十分な実現と一致する」ことを示しています。
 著者はこれらの二つの自由を消極的な意味での「~からの自由」と、積極的な意味での「~への自由」と述べています。そして、人は「~からの自由」の重みに耐え切れず、自由から逃れようと、当時の社会的逃避経路は、ファシスト国家の指導者への隷属であり、民主主義国家における強制的な画一化であるとしています。
 著者は「逃避のメカニズム」として、失われた「第一次的な絆」(中世において個人と社会階級を結び付けていたもの)の代わりに、個人的自我の独立を捨てて、外側の何ものかと、自らを融合させようとする傾向、すなわち「第二次的な絆」を求めようとすることを述べています。
 また、逃避のメカニズムとしては、個人が自分自身であることをやめる「機械的画一性」というメカニズムを紹介しています。これは、文化的な鋳型を受け入れることで、「私」と外界との矛盾を消失させ、孤独や無力を恐れる意識を消失させる方法です。
 著者は、ナチズムのような社会現象を、単に経済的な社会運動とだけ見るのでも、全くの心理学によって説明しようとするのではなく、心理学的な問題と社会経済的要因との両方によってナチズムが形成されていることを強調しています。
 原書が出版されたのは1941年、すなわち今から60年以上昔のものですが、現代においても全く輝きを失っていません。


■ 個人的な視点から

 私たちは普段「自由」という言葉を使っていますが、「自由を、「~への自由」という積極的な自由と「~からの自由」という消極的な自由とに分けた著者の分け方は、大変示唆に富むものでした。
 この考え方で、普段われわれが使う「自由」を分類してみるとおもしろいかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・「自由」とは何か、を考えたい人。


■ 関連しそうな本

 エーリッヒ・フロム (著), 佐野 哲郎 (翻訳) 『生きるということ』
 エーリッヒ・フロム (著), 鈴木 重吉 (翻訳) 『悪について』
 マックス ヴェーバー (著), 大塚 久雄 (翻訳) 『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』


■ 百夜百マンガ

夜逃げ屋本舗【夜逃げ屋本舗 】

 現代社会において、社会的に逃走することには結構技術がいるはずです。特に、家族で逃げるとなるとプロの手助けがないと難しいのではないかと思うのです。

2005年11月 6日 (日)

放浪の天才数学者エルデシュ

■ 書籍情報

放浪の天才数学者エルデシュ   【放浪の天才数学者エルデシュ】

  ポール ホフマン (著), 平石 律子 (翻訳)
  価格: ¥1,890 (税込)
  草思社(2000/03)

 本書は、1996年に83歳で亡くなるまで、ブリーフケース一つで世界中を放浪し、知人の数学者の家を突然(時には早朝に)訪ねては、「わしの頭は営業中だ」と告げ、一日19時間も数学の問題を解き続け、ホストが疲れきってしまうころに、また次の土地に旅立っていってしまうという、伝説の数学者ポール・エルデシュの伝記です。
 生涯に1500本もの論文を発表し、500人もの共著者とともに数学の世界を発見し続けたこの数学者は、財産を持たず、講演料や論文の賞金はわずかな額だけを手元に困った人や数学者の卵に惜しげもなく上げてしまい(昔借りたお金を返しに来た数学者に「あなたがされたことを他の人にしてあげなさい」と言って受け取らなかった)、多くの支援者に愛され、食事の時も美しい証明を追い続けます。
 彼はが使う言葉は、彼独特の不思議な言い回しが多用され、さらに彼のハンガリー訛りのきつさのため、テレビでは英語の字幕がついたそうです。彼は、「SF(至上のファシスト)」が独り占めしている、美しい証明が詰まった「ザ・ブック」から、この世界に一つでも美しい証明を紹介するために数多くの数学者たちに適切な問題を与え、ともに考え、知識を分け合います(他の数学者に手柄を取られないために7年間もこっそりとフェルマーの最終定理を研究し続けたワイルズの態度は、エルデシュには許しがたかったようです。)。エルデシュと共著論文を持つ数学者には、「エルデシュ数」として1が与えられ、数学者達は自分がどれだけ小さなエルデシュ数を持っているかを自慢しあうようになります(同様のものとしては、ハリウッド俳優の「ベーコン数」などがあります。)。他にも彼独特の言い回しとしては、子どもを表す「エプシロン」や「ボス(女性)」、「奴隷(男性)」、「捕獲された(結婚した)」、「雑音(音楽)」、「毒(アルコール)」、「説教する(講義する)」などがあります。
 数々の奇行とその愛すべき人柄、そして数学への莫大な貢献によって、数学者の間では伝説となったエルデシュの魅力は、数学に関心がない人でも楽しめると思います。


■ 個人的な視点から

 エルデシュは、単に頭が切れる孤独な数学者(世間一般の天才数学者のイメージ)ではなく、数多くの数学者を助けることで数多くの美しい証明を世に送り出します(彼流に言えば「ザ・ブックを覗いてきた」ということになるでしょうか。)。彼には、その数学者の能力を鋭く見抜き、少し努力すれば手が届く程度の適切な問題を出題するという能力を持っていました。だから彼が突然戸口に訪れ「君の頭は営業中かね?」と質問して滞在することを、数学者たちは困惑しながらも名誉であり、成長の機会と捉えて歓迎していたのです。
 また、彼は大変なエプシロン(子ども)好きでもありました。自分がそうだったように(というより多くの数学者が幼い頃に見出されます)、数学の素養のある子どもの噂を聞きつけると、子どもたちに適切な出題をし、世に送り出してきました(中には、途中で数学をやめてしまう(エルデシュ語で「死んだ」)子どももたくさんいたようですが。)。
 彼は、本書の著者がエルデシュについて歩いた旅行記の記事を読んで、一箇所だけ問題があることを指摘します。それは、彼がベンゼドリンという薬物を常用していたことについての内容で、「数学を目指す子供たちに、成功するためには薬物を飲まなければならないと思わせたくないからな」と語っています。こんなところにも、彼の人柄が表れています。


■ どんな人にオススメ?

・本物の天才の姿を見てみたい人。


■ 関連しそうな本

 グレゴリー・J・チャイティン (著), 黒川 利明 (翻訳) 『セクシーな数学-ゲーデルから芸術・科学まで-』 2005年11月03日
 アルバート・ラズロ・バラバシ (著), 青木 薫 (翻訳) 『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』 2005年10月24日
 E.T. ベル (著), 田中 勇 (翻訳), 銀林 浩 (翻訳) 『数学をつくった人びと』
 E・T・ベル (著), 河野 繁雄 (翻訳) 『数学は科学の女王にして奴隷』
 E. ナーゲル (著), J.R. ニューマン (著), 林 一 (翻訳) 『ゲーデルは何を証明したか―数学から超数学へ』
 ダンカン ワッツ (著), 辻 竜平, 友知 政樹 (翻訳) 『スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法』 2005年09月28日


■ 百夜百音

HOT!MENU【HOT!MENU】 サディスティック・ミカ・バンド オリジナル盤発売: 1975

 数と言えば「イチロク、ザンニ、ロクヨン・・・」が専門、という方もいらっしゃいますが、そんな方におすすめなのがM8の「ファンキーMAHJANG」です。竹中直人も歌っていることは今日まで知りませんでした。
 全くの余談ですが、千葉の九十九里には世界で唯一の「麻雀博物館」http://museum.takeshobo.co.jp/があります(アドレス見ると麻雀雑誌でお馴染みの竹書房ですね。「麻雀界に恩返しをしたい」とのことです。)。


『イエローマジック歌謡曲』イエローマジック歌謡曲

2005年11月 5日 (土)

それがぼくには楽しかったから

■ 書籍情報

それがぼくには楽しかったから   【それがぼくには楽しかったから】

  リーナス トーバルズ, デビッド ダイヤモンド (著), 風見 潤 (翻訳)
  価格: ¥1,890 (税込)
  小学館プロダクション(2001/05/10)

 本書は、LINUXの生みの親であるリーナス・トーバルズ氏本人が語るLINUX誕生の秘話、そして当事者の目から見た「LINUX革命」の姿です。
 本書は、リーナス自らの口から語られる生い立ちから現在彼の目から見える世界の姿までと、その間に挿入される、インタビュアーのデイビッド・ダイヤモンド氏から見たリーナスの飾らない人柄の叙述とによって構成されています。リーナスの口から語られる生い立ちは、まさに「オタクの王様」が出来上がるまでの姿に他なりません。
 11歳でヘルシンキ大の統計学の教授である祖父のコモドールVIC20でベーシックによるプログラミングに出会った著者は、マニュアルや雑誌を見ながら次々にプログラムを書き、他の子どもたちがサッカーをしている時期に、コンピュータに夢中になってしまいます。その後、高校、大学とコンピュータとともに過ごした著者は、人生を変える一冊の本、『オペレーティングシステム―設計と理論及びMINIXによる実装』に出会います(後に著者はMINIXのニュースグループでこの本を書いたタネンバウム教授と激しい応酬をすることになります。)。
 その後、著者は自宅から大学のコンピュータにアクセスする機能でMINIXに不満を持ち、ゼロからターミナル・エミュレータをプログラミングします。これが、後に世界を席巻するLINUXの第一歩だったのです。最初は、メールを読んだりするだけの単純な機能しかなかったものに、ダウンロードしたファイルをディスクに保存するための機能が追加するのですが、このために「プログラム――寝る――プログラム――寝る――プログラム――食べる(プレッツェル)――プログラム――寝る――プログラム――シャワー(短時間)――プログラム・・・」という生活を送ることになります。
 一人のオタクがこのターミナル・エミュレータを新しいOSに育てようとしていることが、世間(と言ってもMINIXのニュースグループという狭い世界ですが)に明らかになるのには時間がかかりませんでした。ちょっとした質問から多くの人が著者の企てを見抜き、UNIXの仕様書を送ってくれたり、大学のサイトを提供してくれ、世界中のオタクの共同作業によって新しいOSが歩き出します。
 この後のLINUXの作業そのものについては、『伽藍とバザール―オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト』などに詳しく書かれていますのでそちらを読んでもらえればと思いますが、本書のおもしろいところは、共同作業以前の著者の生い立ちや作業が語られている点、そして、それ以上に著者のキャラクターが非常に魅力的な点です。
 OSやオープンソースに関心がある人のみならず、社会起業家的な新しい時代の仕事観として読んでもおもしろい一冊です。


■ 個人的な視点から

 リーナスのオタクの生い立ちは、コンピュータの世界にのめりこんだ変人の生活だとの非難を受けることが多いのではないかと思います。はまった時期には、ほとんど表に出ず、コークとジャンクフードという「オタクの健康食」を常食する「ハッカー」達の生活は、世の常識人にとっては常人にはなかなか理解しがたい「非社会的」な生活スタイルです。自分の子供には「ああはなっては欲しくない」姿ではないかと思います。
 しかし、私達が子供のころ親に奨められて読んだ多くの偉人の伝記、特に科学者や学者の伝記で語られる姿は、親にほめられるタイプというよりも、むしろリーナスの生活に近い方ではないかと思います。学校に行かず母親に自宅で勉強を教わったエジソンや、何日も研究室にこもりきりになるキュリー婦人をはじめとする多くの科学者の生活は、子供のワクワクを多いにひきつけたものです。
 親に読まされる偉人の伝記と、親から生活習慣のことで言われる数々の小言、学校に遅刻してはいけません、時間になったら読みかけの本を置いてご飯を食べなさい、夜更かししないで早く寝なさい、などとの間のギャップに子供たちは板ばさみになり、「それは特別な偉い人たちの話なの」と言われて、自分は凡人なんだ、ということを思い知らされることは、子供の成長にとって望ましいことではないのではないかと思います。まあ、偉人の伝記の陰には、「変人」のままで一生を終えた何万もの人々がいて、親の小言くらいを乗り越えられなければ偉人にはなれないのでしょうが・・・。

■ どんな人にオススメ?

・新しい時代の仕事観に関心がある人。


■ 関連しそうな本

 エリック・スティーブン レイモンド (著), 山形 浩生 (翻訳) 『伽藍とバザール―オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト』 2005年10月22日
 リチャード・M・ストールマン (著), 長尾 高弘 (翻訳) 『フリーソフトウェアと自由な社会 ―Richard M. Stallmanエッセイ集』
 ペッカ ヒマネン, リーナス トーバルズ, マニュエル カステル (著), 安原 和見, 山形 浩生 (翻訳) 『リナックスの革命 ― ハッカー倫理とネット社会の精神』 2005年10月29日
 金子 郁容, 松岡 正剛, 下河辺 淳 『ボランタリー経済の誕生―自発する経済とコミュニティ』 2005年08月29日
 渡邊 奈々 『チェンジメーカー 社会起業家が世の中を変える』 2005年08月11日
 A.S. タネンバウム, A.S. ウットハル (著), 千輝 順子 (翻訳), 今泉 貴史 『オペレーティングシステム―設計と理論およびMINIXによる実装』


■ 百夜百音

サンデー・モーニング【サンデー・モーニング】 ジェイク・シマブクロ オリジナル盤発売: 2002

 井上陽水との対談の中で、自分は日本人の性格を持っているから感情や情熱を内に内にこもらせてしまう、それを表現する方法がウクレレなんだ、と語っていました。
 ケイン・コスギの番組「からだであそぼ」で子どもたちが踊っている曲を作曲したのもこの人です。頭に残ってぐるぐる回ってしまって仕方ありません。


『アイーダ アイダ』

2005年11月 4日 (金)

ホワイトカラーの人材形成―日米英独の比較

■ 書籍情報

ホワイトカラーの人材形成―日米英独の比較   【ホワイトカラーの人材形成―日米英独の比較】

  小池 和男, 猪木 武徳 (編著)
  価格: ¥3,780 (税込)
  東洋経済新報社(2002/01)

 本書は、巷間に出回っている「米国企業の管理職は企業間を渡り歩くスペシャリストで、日本企業の管理職は新卒から社内を歩いてきたジェネラリスト」という社会通念論に対して、日米英独の4カ国におけるアンケートとヒアリングによって、ホワイトカラーの人材開発がどのように行われているかを検証しているものです。
 まず、各国に共通するのは、技量形成の核心、経験の幅において、「幅広い1職能型」及び「主と副型」が優位であった点です。本書では、その理由として、標準化できない問題の処理、すなわち不確実性をこなすノウハウを挙げています。また、他社経験の有無という観点では、日本では他社経験のある幹部が圧倒的に少ないものの、全くの部課長への外部優先は、米企業の4分の1、独企業の5分の1に過ぎず、実際には初期他社経験者採用タイプが多く、部課長への昇進にはそれ以降の内部経験がものを言うという点では日本に共通しています。
 また、人事部門の機能比較という点では、一般に思われている日本の大企業は人事部主導の下で定期的なローテーションというのは、都市銀行などの一部の業種に限られ、本書でヒアリングしている日本企業では、事業本部内の人事異動は事業本部内で、事業本部間の異動は本社で決めていると言うことが述べられています。一方、英国企業における人事部門の機能は、「人材紹介機能」(適当な経験を持った人材の紹介)、「検索機能」(一定期間同じ仕事に配置されている人のリストアップ)、「採用面接」に限定されていることが紹介されています。
 この他、本書は、幹部の早期選抜など、各国企業の間で異なる点、共通点を丹念な調査によって明らかにしています。社会通念を鵜呑みにしないためにもこのような研究は重要であると考えます。


■ 個人的な視点から

 本書では、年功的な賃金制度と「成果給」・「能力給」との対比の例として、米国の法律事務所の事例が紹介されています。アメリカの法律事務所では70年代初頭までは年功ベースで給与が配分されていたのに対し、訴訟件数の増加により有能なパートナーの引き抜き合戦が始まり、給与の高さにより人を引き止めるために「成果給」・「能力給」が導入されました。
 しかし、「成果に応じて」の定義を厳密に行うことができないため、「有能」と評価されるために「割のよいケース」の奪い合いが生じた、というものです。結果、法律事務所全体としての品質が低下し、80年代にはその反省から、従来からの年功制を維持していた事務所は、若いアソシエートの人数を増やし競争を激化させることで、有能なパートナーの給与を引き上げたり、パフォーマンス・ベースにシフトしたところは年功給に戻したりしたそうです。
 米国の法律事務所というと、生き馬の目を抜く世界という印象を(ドラマや映画で)持ちがちですが、むしろ、だからこそ年功制が用いられているというのが興味深い点です。


■ どんな人にオススメ?

・「アメリカでは~」という社会通念に踊らされたくない人。


■ 関連しそうな本

 八代 尚宏 『日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済』 2005年03月23日
 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』 2005年04月05日
 小池 和男 『日本企業の人材形成―不確実性に対処するためのノウハウ』
 梅森 浩一 『「クビ!」論。』 2005年06月02日


■ 百夜百マンガ

三丁目の夕日【三丁目の夕日 】

 今でこそ昭和30年代というと相当昔ですが、連載が開始された1973年時点では、本の一昔、二昔、つまり読者層である20~30代のサラリーマンにとって子供の頃の話だったのですが、連載自体の長さによって大昔の話になってしまいました。
 まさに、「時間の流れが止まった感覚」というところでしょうか。

2005年11月 3日 (木)

セクシーな数学-ゲーデルから芸術・科学まで-

■ 書籍情報

セクシーな数学-ゲーデルから芸術・科学まで-   【セクシーな数学-ゲーデルから芸術・科学まで-】

  グレゴリー・J・チャイティン (著), 黒川 利明 (翻訳)
  価格: ¥2,625 (税込)
  岩波書店(2003/07/30)

 本書は、「オメガ数(「数学的に完璧に定義されているのに、その具体的な桁の数字が絶対に分からない」数。)」の発見者として知られる数学者である著者が、雑誌のインタビューや講演での一般聴衆向けの発言を収録したものです。
 著者は、ゲーテルの不完全性定理、チューリングの停止定理を引き継ぎ、数学の世界にランダム性の定義を持ち込み、数学の限界を示し、新分野を開拓した数学者です。その著者が、数学者と芸術家の共通点として語っているのは、ともに、深いレベルでは芸術的な創造性に非常に近いものがあるということです。情熱と直感、霊感が必要な非常に非合理的なものであると述べています。新しいアイデアが浮かぶ瞬間は、机の前ではなく、泳いでいる時などだとも語っています。その幸福の瞬間は一生に何度もあるものではなく、ノーベル物理学賞を受賞したファインマン教授は、そんな高揚した活動をした時期は「人生で5回」、その期間は「たぶん、二、三週間」だと述べていますが、まさに芸術家と同じような強烈な創造的活動を数学者も行っているのです。
 また、著者は数学は音楽のようなもの、とも語っています。誰にでも聴き取れるものではないというその調べを、聴くことができる耳を持つ者こそが数学者なのです。そして、ボルヘスの小説やマグリットやエッシャーの絵の中からも数学的な美しさを感じ取ることができると語っています。
 「数学」という無機質に見える世界の中から、数学者が見出した情熱的な美しさを語っている本書は、いわゆる「文系」の人間にとっても多くの示唆と知的興奮を与えてくれます。


■ 個人的な視点から

 本書の中で、著者は、「科学の理解が一歩ずつ前進していくという美しいユートピア的な概念」に対して、実際の歴史ははるかに劇的であることを述べています。それは不遇な生涯を終えた後になってから有名になる芸術家と同じような生活を、重大な前進を成し遂げた科学者が送ることがあることを語っています。科学の歴史を書く人は、これらのドラマを捨象し、さも新しいアイデアが諸手を挙げて受け入れられたかのような書き方をすることがあるということです。
 このような事実を表す言葉として、著者は量子論の発明者の一人であるマックス・プランクの、「新しい科学理論は反対者を説得して勝利するものでは決してない」、「反対者が死に絶え」、新しいアイデアを自然に受け入れられる「新しい世代に取って代わられる」のだという言葉を引用しています。
 やや気の長い話とも感じますが、日々の自分たちの仕事の中でも、新しいアイデアが受け入れられず、壁にぶつかることは間々あります。そんな時に、上司が変わるのを待ったりということは、実際によくやっていることを考えると、新しいアイデアの「伝播」の仕方というのは、結構同じようなものなのだと感じました。


■ どんな人にオススメ?

・数学は無機質だから苦手だ、と思っている人。


■ 関連しそうな本

 G.J.チャイティン (著), 黒川 利明 『知の限界』
 グレゴリー チャイティン (著), その他 『数学の限界』
 E.T. ベル (著), 田中 勇 (翻訳), 銀林 浩 (翻訳) 『数学をつくった人びと』
 E・T・ベル (著), 河野 繁雄 (翻訳) 『数学は科学の女王にして奴隷』
 E. ナーゲル (著), J.R. ニューマン (著), 林 一 (翻訳) 『ゲーデルは何を証明したか―数学から超数学へ』
 ポール ホフマン (著), 平石 律子 (翻訳) 『放浪の天才数学者エルデシュ』


■ 百夜百音

逃避行【逃避行】 麻生よう子 オリジナル盤発売: 2002

 幼い頃に聴いたことがあるのに、曲名や歌手名が分からないということはよくあることです。この「逃避行」も先日たまたまナツメロ的に紹介されているのを聞いて初めて知りました。
 森田公一の「愛する人に歌わせないで」もそんな曲でした。ざわわ


『森田公一とトップギャラン』森田公一とトップギャラン

2005年11月 2日 (水)

だから、改革は成功する

■ 書籍情報

だから、改革は成功する   【だから、改革は成功する】

  上山 信一
  価格: ¥1,680 (税込)
  ランダムハウス講談社(2005/10/29)

 本書は、企業や官公庁の改革を数多く手がけた「改革のプロ」が、自らが学んできた改革プロジェクトを成功させる秘訣を、シンプルに分かりやすく解説したコラムです。
 著者は元々運輸省の官僚でしたが、マッキンゼーのコンサルタントに転職し、多くの企業改革プロジェクトを手がけた後、ボランティアで官公庁の改革に助言をするようになり、現在では官民問わず改革をプロデュースする「改革屋」として活躍している人です。最近では、大阪市役所の改革を手がけ、一時期は毎週マスコミに登場していたので、"眼鏡をかけた丸顔のオッサン"的な風貌に見覚えのある人も多いのではないかと思います。
 本書は、NHKの大ヒット番組である『プロジェクトX』的な改革に疑問を投げかけるところから始まります。場当たり的で休日返上、徹夜の作業で何とかこなすプロジェクトマネジメントの欠如、滅私奉公的な改革の陰の家族の負担、社運を賭けた逆転ホームラン狙いのリスクマネジメントの欠如、そして根拠のない精神主義。ドラマとしては大変感動的だけれども、プロジェクトXの陰には玉砕していった無数のプロジェクトがあることに気づかされます。そして、ノウハウの塊としての「改革のサイエンス」の重要性を提起しています。
 本書で最も紙幅を割いて力説しているのは、改革プロジェクトである「ドリームチーム」をいかに編成し動かして行くか、という第3章「本物の改革はこうしてつくられる――ドリームチームのつくり方」です。ここでは著者が尊敬する経営者の言葉として「経営者としての真の試練は、"現場の普通の人たち"に本人も気づいていなかったパワーを発揮させることだ」というドリームチームの本質を紹介しています。また、ドリームチームの「成功の条件」として挙げられている10点は目から鱗です。
 そして、ドリームチームの改革のモデルとして、前三重県知事の北川正恭氏が繰り返し述べている「北京の蝶々」というモデルを紹介しています。これは、一箇所で始まった小さな動きが次々と共鳴を呼び、大きな改革のうねりになるという分散多発型の新しいモデルです。「ドリームチーム」という言葉にはそんな思いが込められています。
 そのため、現場レベルの改善活動を重視し、まず動くこと、理解はそのあと、ということを強調しています。ここで紹介されているのは、横浜市役所の写真入の名札や民営化直後のJRの挨拶の運動など小さなことですが、具体的に「明日から何をすればいいか」を伝え、とにかく実際にやってみること、まず体を動かすことが大事だと述べられています。
 今週の日経夕刊には、4回連続もので著者のインタビューが掲載されていますので、まずはそちらを読まれてみるのはいかがでしょうか。


■ 個人的な視点から

 本書の中で、著者は自らを改革好きな変わり者と称していますが、著者を改革に向かわせる動機の一つに、人の成長を見ること、があるのではないかと思います。ドリームチームの章を含め、本書の多くは、現場の普通の人の中から「小さな改革屋」をどんどん発掘して育てたい、という思いが込められているように感じます。きっと北川氏ならば「蝶々が飛び立った」という言葉を使うでしょう。
 著者は、「改革が人を育てる理由」として、出来上がった秩序の上で営まれている日常を理不尽にこわす力量が問われる点、そして、非日常的なあらゆる問題が絡まりあった複雑な連立方程式を解かなければならない点を挙げています。
 著者が代表を務める行政経営フォーラムでは、年数回の例会を開催し、事例の分析や改革のキーパーソンの講演を行っていますが、その例会を運営する運営委員はフォーラム会員の有志が担当しています。自治体の職員がこの運営委員を担当すると、お役所生活で染み付いた意思決定の遅さや形式主義的な考え方を思い知らされることになりますが、「上山さんに叱られるのが運営委員の特権」といって成長のチャンスと捉えている人もいます。


■ どんな人にオススメ?

・改革屋を目指している人。


■ 関連しそうな本

 若松 茂美, 織山 和久, 上山 信一 『変革のマネジメント―明るい「リストラ」を考える』 2005年08月10日
 上山 信一 『「行政評価」の時代―経営と顧客の視点から』 2005年01月21日
 上山 信一, 玉村 雅敏, 伊関 友伸 (編) 『実践・行政評価―事例、解説、そしてQ&A』
 上山 信一, 伊関 友伸 『自治体再生戦略―行政評価と経営改革』 2005/04/30
 南 学, 上山 信一 『横浜市改革エンジン フル稼動 中田市政の戦略と発想』 2005年04月13日


■ 百夜百マンガ

笑ゥせぇるすまん【笑ゥせぇるすまん 】

 「改革屋」は日常の営みの中においては"異分子"ということですが、こんな顔の異分子に侵入されたら怖いですね。オーホッホッホ(こんな笑い方でしたっけ?)

2005年11月 1日 (火)

自治体バランス・スコアカード

■ 書籍情報

自治体バランス・スコアカード   【自治体バランス・スコアカード】

  石原 俊彦, INPMバランススコアカード研究会
  価格: ¥3,150 (税込)
  東洋経済新報社(2004/07)

 本書は、企業経営の世界でも一部で取り入れられている「バランス・スコアカード(Balanced Scorecard)」の自治体経営への導入について、主に政令市の事例を中心に紹介しながら論じているものです。紹介されているのは、福岡市、札幌市、名古屋市、神戸市の4政令市と、尼崎市、八尾市、そして海外の事例としてイギリスのサリー県などです。
 各章は、本書の母体である「バランス・スコアカード・コンソーシアム」での研究活動をベースに、各自治体でBSCの導入に携わっている職員によって担当されていて、単なる事例紹介にとどまらず、BSCを導入する背景にあった数々の課題や、BSCに託された思いが込められています。
 例えばイギリスのサリー県では、BSCの考え方をベースに、1つの円を「私たちの資源」「私たちの顧客」「私たちの業務」「私たちの職員と議員」というエリア4分割したものを車輪に見立てた「パフォーマンス・ホイール」という図を使ってBSCの考え方を分かりやすく示しています。また、札幌市では、BSCの4つの視点(財務、顧客、内部プロセス、学習と成長)に「協働」と「環境」という2つの視点を加えた6つの視点でBSCを捉えています。
 まだ全国でもBSCの取り組みは緒についたばかりですが、BSCという考え方そのものに触れる入門書として、そして、全国の自治体の工夫に触れるためにも読んでおいて損はない一冊です。


■ 個人的な視点から

 BSCの基本的なモデルである4つの視点、財務の視点、顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と成長の視点、をバランスさせるという考え方は、企業活動が財務の視点に過度に傾斜してきたことに対する反省が込められていますが、元々、財務の視点のみに集中する傾向が小さい行政の活動にとっては、BSCの考え方は馴染みやすいのではないかと思います。むしろ、複式簿記や管理会計の考え方が欠落している点では、自治体の財務の視点は「大福帳」的な帳尻合わせに終始してきたとも言うことができます。
 一方で、顧客の視点や学習と成長の視点をきちんと意識してきたか、また、内部プロセスの視点は単なる手続き論や「筋論」にとどまっていたのではないか、ということを考えると、BSCの考え方は自治体の経営に大きな気づきを与えてくれるものではないかと思います。
 しかし、企業がBSCを導入する場合と比較して、自治体BSCの障害になる点が二つあるのではないかと考えます。1つは、会計上のインフラが未整備なことです。単年度ごとのお金の出入りだけを「お小遣い帳」的に把握しただけの自治体の貧弱な会計制度(もちろん議会によるコントロールをしやすくするためという目的もあるのですが)の元で、4つの視点をバランスさせるのは困難です。また、政策が複数の目的を持つという自治体の多元的な性格をバランスさせることは、4つの視点の関係が複雑になる要因になります。業績評価するにあたってかなり大胆な割り切りをすることも求められます。
 ノースカロライナ州シャーロット市の事例のように、もともと行政とは馴染みの良いはずのBSCですが、シャーロット市も業績評価に対する長い蓄積があった上でこそBSCが機能したことを考えると、BSCによってまずあぶりだされるのは会計や業績評価の未整備の部分ではないかと考えられます。


■ どんな人にオススメ?

・BSCについて調べた自治体関係者。


■ 関連しそうな本

 松山 真之助 『会社を戦略通りに運営する バランススコアカードの使い方がよくわかる本』
 ロバート・S. キャプラン, デビッド・P. ノートン (著), 吉川 武男 (翻訳) 『バランス・スコアカード―新しい経営指標による企業変革』
 ロバート・S・キャプラン, デビッド・P・ノートン (著), 櫻井 通晴 (翻訳) 『キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード』
 柴山 慎一, 森沢 徹, 正岡 幸伸, 藤中 英雄 (著) 『実践バランススコアカード―ケースでわかる日本企業の戦略推進ツール』


■ 百夜百マンガ

バランサー【バランサー】

 この人の代表作といえば「エリア88」となるのでしょうが、ジェットコースターのような場当たり的な展開は、先が読めない、という点で魅力でもあります。
 永井豪なんかも先がぜんぜん読めなくて、この先どうする気なのかハラハラしてしまいます。

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