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2005年12月

2005年12月31日 (土)

フォークの歯はなぜ四本になったか―実用品の進化論

■ 書籍情報

フォークの歯はなぜ四本になったか―実用品の進化論   【フォークの歯はなぜ四本になったか―実用品の進化論】

  ヘンリー ペトロスキー (著), 忠平 美幸 (翻訳)
  価格: ¥3873 (税込)
  平凡社(1995/11)

 本書は、フォークやゼムクリップなどの日用品のデザインがどのように進化してきたのか、という進化の歴史を解説したものです。生物が進化するように、人工物には人工物の進化があります。そして人工物の進化を推し進める原動力は、そのモノに付随する欠点であることが述べられています。著者は、「完璧なものなど一つもなく、そのうえ完璧さに対するわれわれの観念でさえ定まっていないのだから、ありとあらゆるモノは、時の流れとともに変化を余儀なくされる。」と推論しています。そして、既存のモノの欠点に気づき、それを修正して行くことを発明家の才能であると述べ、多くの発明家を紹介しています。
 本書の原題は、訳書の副題に相当する『The Evolution of Useful Things』となっていますが、訳書のタイトルとなった第1章の「フォークの歯はなぜ四本になったか」はタイトルに持ってくるだけあって非常に引き込まれる内容になっています。それは、単に食器のデザインにとどまらず、どのようにして食事の方法やマナーが進化してきたかを紐解くものであり、また、その進化の仕方には他の生物の進化や歴史と同じような「経路依存性」があることが述べれらているからです。1000年前の人たちはナイフ1本で肉を切り、ナイフの先端を刺して口に運んでいましたが、その後、2本のナイフを使うようになり、左手のナイフで肉を固定し、右手のナイフで切る習慣ができます。しかし、食べ物を押さえるのには適していないというナイフの欠点がフォークの発達を促します。元々のフォークは、台所で肉を切り分ける時に使う2本の歯を持つものでしたが、イタリアでは14世紀頃から食卓用のフォークを使う習慣が始まります(他の国ではまだ肉は手で押さえて切るものだったので、フォークを使う人は「華美で女々しい道具」としてけなされたそうです。)。
 当初は2本だったフォークの歯には、小さな食べ物を拾えなかったり、食べ物が滑りやすいという欠点があるために、3本目、4本目の歯が追加され、現在の形に近いものになります。また、食べ物を突き刺す役割がフォークのものになったために、ナイフの刃先は丸みを帯び、ナイフの面に食べ物を載せる役割を持つようになります。
 この他、本書では、ゼムクリップに代表されるペーパークリップの進化や、ファスナーの誕生、ハンマーや缶切りの形状など、様々な人工物がどのように進化して行ったかを、欠点の発見と改良、受容と拒否などの観点から解説しています。
 完成したように見える身の回りの実用品のデザインが、どのように今の形状に進化してきたのか、思いを馳せるきっかけになる一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 フォークとナイフの使い方に関して、ある程度以上の年齢の方ならば、子供の頃、ライスなどの細かいものはフォークの背に乗せて口に運ぶ、と教えられた経験があるのではないかと思います。この方法は18世紀のヨーロッパで標準的な使い方になっていたもので、フォークの歯をいくらか湾曲させることで、フォークの柄を高く持ち上げなくても食べ物を口に運ぶことができるようになったという歴史を持っています。
 しかし、植民地時代のアメリカではフォークは珍しく、主にナイフとスプーンで食事をとっていたそうです。伏せたスプーンで肉を押さえつけ、ナイフで切るという食べ方をした人もいたということが述べられています。その後、スプーンを右手に持ち替え、すくって口に運ぶという食べ方が一般化します。この食べ方はフォークが一般化した現在でもアメリカ流の食べ方として残った「右往左往(ジグザギング)」という習慣となっています。フォークが一般的でなかったアメリカでは、後から輸入されてきたフォークのことが「先割れスプーン」と呼ばれていたことも、アメリカではヨーロッパとは違った食習慣が定着していたことを物語っています。
 このように、現時点でおかしなマナーとされているものでも、将来にはそちらの方が主流になる可能性があるかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・身の回りの実用品のデザインの由来を知りたい人。


■ 関連しそうな本

 ヘンリー・ペトロスキー (著), 忠平 美幸 (翻訳) 『ゼムクリップから技術の世界が見える-アイデアが形になるまで』
 ヘンリー ペトロスキー (著), 渡辺 潤 (翻訳), 岡田 朋之 (翻訳) 『鉛筆と人間』
 ヘンリー ペトロスキー (著), 池田 栄一 (翻訳) 『本棚の歴史』
 テッド・ヴァンクリーヴ 『馬鹿で間抜けな発明品たち』


■ 百夜百音

イン・コンサート【イン・コンサート】 仙波清彦とはにわオールスターズ オリジナル盤発売: 1991

 昔、J-WAVEで土曜日の夕方にやっていた番組で流れていた味の素のCMの、調理の音をパーカッションに見立てる「キッチンパーカッショニスト」シリーズが好きでした。


『服部』服部

2005年12月30日 (金)

洗脳するマネジメント~企業文化を操作せよ

■ 書籍情報

洗脳するマネジメント~企業文化を操作せよ   【洗脳するマネジメント~企業文化を操作せよ】

  ギデオン・クンダ (著), 金井 壽宏 (監修), 樫村 志保 (翻訳)
  価格: ¥2,310 (税込)
  日経BP社(2005/08/26)

 本書は、今は存在しないハイテク企業に働く人たちと、そこで作り出されている文化を観察した一級の組織民族誌(エスノグラフィー)です。
 著者は、1985年にMITスローン経営大学院の博士論文として本書のもとになった研究を提出しました。著者は、企業組織内において、民族誌的、臨床的な手法を駆使したフィールドワークを行い、この組織エスノグラフィーを完成させました。金井教授による解説には「フィールドワークは冒険で、帰還したエスノグラファーは英雄」という言葉が記されています。読者は本書を読むことで、「組織文化を描く冒険」の旅に気軽に参加することができます。
 フィールドワークの舞台となるのは、「ハイ・テクノロジーズ社」(通称「テック」)と書かれていますが、実際には当時の理工系学生の憧れの的だったDEC社が舞台です。
・われわれはみな一つの家族である。
・社員は創造的で、仕事熱心で、自立心があり、学ぶ力を持つ。
・真実と質の高さは、多角的な見方、自由企業から生まれる。
・・・これらは「テック文化」の前提とされているものです。また、「ハイ・テクノロジーズ・バリュー」の一部として、「正しい行いをする」「個人の自由」「起業家」などの言葉がテック社の文書には頻繁に登場します。
 しかし、エスノグラフィーとしてのおもしろさは、テック社内で使われている「用語」の方です。「打ちのめされる」「燃え尽き」「自分でつくるキャリア」「敗北」などの用語の使われ方はまだ公式な方ですが、「塹壕」(または「塹壕生活」)などの言葉は民族誌的な手法でなければ知ることができない用語ではないかと思います。
 テック社ではさまざまなチャンネルで社員に対するメッセージが伝えられます。それは、幹部からの直接的な講演の形を取ることもあれば、社内でのディスカッションや、新人に対する「ブートキャンプ」(年に数回実施される2日間の研修)という場合もあります。これらの呈示儀礼を通じて、「テックはボトムアップの会社である」、「我々はフットボール・チームのようなものだ」というメッセージが伝えられ、「象徴的権力」(現実を規定する力)が行使されます。著者はテックの儀礼の特徴を、(1)権力の分散化、(2)イデオロギーがオープンで形式ばらないこと、等を挙げています。
 テックでは、正規の従業員と終焉の従業員とでは要求されるメンバーの役割が異なり、後者には組織的イデオロギーの要求が小さいのに対し、前者には広範なメンバーの役割の大きさが大きなジレンマを生み出していることが指摘されています。テックのエンジニアは、テックを「エンジニアリングにとっていい環境」、「カントリークラブ」、「エンジニアの遊び場」と描写しますが、仕事にのめりこむことで、「燃え尽き」の危険に常にさらされます。アルコール依存症、離婚、ノイローゼ、自殺などの「燃え尽き」の症状が公然と話題にされ、これらは見かけ上、自己管理のし損ないと見られますが、一方で、燃え尽きを無事に乗り越え、また脅威を受け入れることにプライドを感じてもいます。
 このような豊かな観察の成果は、組織を対象とした民族誌的手法によるフィールドワークの金字塔として、1992年の原書の発行から10年以上経った今でも新たな発見があります。邦訳が出るまで13年かかっていますが、決して古臭くありません。


■ 個人的な視点から

 本書のあちこちで、「塹壕生活」の悲惨さを表した言葉が出てきます。「自動販売機に頼る生活」というのも分かりやすいですが、一番強烈なのは、「ブートキャンプ」における講師の言葉です。
「『4年間死にものぐるいで働いてから、結婚します』。なんていわないこと。これはある若者から聞いた言葉です。でもいったい誰と結婚するというんですか? 会社に自分を搾り取られないようにしてください。どうせ9時間も10時間も仕事すれば、あとはやってもあんまり身が入らないんですから。」
 この手の「塹壕自慢」(残業自慢)の話はどこの組織にもありますが、単に「オレはこれだけ仕事をやっているんだ」という気持ちだけでなく、「燃え尽き」の脅威に立ち向かいそれを乗り越えてきたことに対するプライドの表れなのかもしれません。こんなことも組織エスノグラフィーから学べることの一つでしょう。


■ どんな人にオススメ?

・組織の現実の姿を見る手法を知りたい人。


■ 関連しそうな本

 佐藤 郁哉 『組織と経営について知るための実践フィールドワーク入門』 2005年11月25日
 Shel Holtz (著), 林 正, 佐桑 徹, 浦中 大我 (翻訳) 『実践戦略的社内コミュニケーション―社員に情報をいかに伝えるか』 2005年10月06日
 出口 将人 『組織文化のマネジメント―行為の共有と分化』
 高橋 伸夫 (編著) 『組織文化の経営学』 2005年08月26日


■ 百夜百マンガ

B・B(バーニングブラッド)【B・B(バーニングブラッド) 】

 主人公が「洗脳」されちゃう作品と言えば、なぜか高校生ボクサーが傭兵になってしまうこの作品。
 「10センチの爆弾」ごっことかした人も少なくないのではないかと思います。

2005年12月29日 (木)

戦後日本の公務員制度史 「キャリア」システムの成立と展開

■ 書籍情報

戦後日本の公務員制度史 「キャリア」システムの成立と展開   【戦後日本の公務員制度史 「キャリア」システムの成立と展開】

  川手 摂
  価格: ¥5,250 (税込)
  岩波書店(2005/11/09)

 本書は、現在の国家公務員の人事・給与制度、特に「キャリア・システム」と「給与法体制」が戦後どのような経緯を経て形作られてきたかを、雑誌記事などを含む当時の資料を掘り起こすことで紐解いていったものです。著者は現在東京市政調査会の研究員をされている方ですが、本書は著者の修士論文をベースにしたものです。
 本書は、中央省庁において強固な身分制度を形成しているキャリア・システムがどのような根拠を持っているのか、という点を出発点に、戦後の公務員制度においてGHQの強固な意志のもとで導入が進められた「職階制」の栄光と挫折、そして戦後の狂乱インフレと過激化する労働運動の中、どのように現在の給与法体制が形成されて行ったかを丹念に追い、キャリア・システムが、複数の人事・給与制度のインフォーマルな運用によって現在の形になったことを明らかにしています。
 まず、職階制については、国家公務員法、人事院とともに、戦前の管理制度の特権性を排除するために、GHQによって強力に導入されようとして持ち込まれました。しかし、いかにGHQと言えど、戦前から強固な基盤を維持し続けてきた高等文官たちの激しい抵抗によって、職階制度は見る見るうちに骨抜きにされていきます。新しく設置された人事院は、GHQの後ろ盾で強引に職階制を中心とした科学的人事行政を進めようとしますが、後述されている「S-1試験(エスワン試験)」の失敗などで各省庁の高文官僚を完全に敵に回し、次第に影響力とともに職階制への意欲も失っていきます。結局職階制は実施に移されぬまま、昭和28年以降は職階制に関する業務らしい業務も無くなり、昭和23年以来筆頭課であった「職階課」は、昭和35年に筆頭課の座から転落し、その後も数十年間仕事のないまま組織が維持され続けた後、平成3年に廃止され、たった一人残った職階制を担当する「職務分類官」というポストも現在では廃止されているという状況であることが述べられています。
 また給与法については、上記の職階制が急速に姿を消していく代わりに、任用制度を掌握する機能を果たす「給与法体制」がどのように生まれ成長して行ったかが述べられています。終戦直後の急激なインフレの中で、戦前の給与制度をベースに「臨時家族手当」や「越冬資金」、「臨時物価手当」などのパッチを当ててしのぎながら、新しい給与制度を模索していますが、この中で「学歴資格別勤続年数別標準号俸」という表が作られています。中でも、同じ大卒の中でも官大と私大卒、そして高等試験に合格したか否かが明確にアルファベットで区分され、「M 官公立大学を卒業して高等試験に合格した者」という区分がある点に著者は着目しています。また、GHQが導入しようとした職階制の代わりに、給与局の当事者自らも「インチキ職階制」と呼ぶ職階給制が導入され、15等級制→8等級制→11等給制と形を変えながら、給与法体制が確立して行く様が述べられています。
 これらの制度の成立過程を踏まえたうえで、現在のキャリア・システムがどのような経緯によって成立してきたのか、という点について、著者は、キャリアのスピード昇進を可能にしている「8割規程」と「6級補佐」という運用慣行を指摘しています。まず、「8割規程」とは、「特に成績が優秀な職員の昇格について、通常定められた年数の8割という短い年数でこれを認める旨の規程」と解説されています。しかしながらこの規程は、実際にはキャリア組に機械的に適用され、インフォーマルな人事慣行としてのスピード昇進を可能にしていることが指摘されています。これでも、先輩に当たる高文組に比べて課長になるまでの年数は国家公務員試験採用組の方が遅く、その中でも国公立大出身者と私立大出身者との間には課長になるまでに2年の差が生じていることが述べられています。また、「6級補佐」とは、給与上の級と任用上のポストを結びつけた「級別標準職務表」をあくまで「標準」的な職務を示したものとして、給与上は係長級のままで、課長補佐として任用することで、前の世代との均衡を保ち、早い段階で責任を持たせて職務能力を高めようとするもので、これもキャリア・システムの形成しているインフォーマルな人事慣行の一つであると述べています(その後、資格基準表の必要年数に達するとポストはそのままで昇格させることを「居ながら昇格」という)。同様の趣旨で、旧通産省では、係長に昇格する1年前に3級のまま係長ポストで働かせる「3級係長」が存在することが述べられています。
 本書は、近年特にその弊害が指摘されることの多い「キャリア・システム」が、複数のインフォーマルな人事運用を組み合わせることによって、高文組に引き続く「特権階級」を生み出す仕組みを作っていることを、戦後の公務員制度成立過程を丹念に追うことで分析しているもので、公務員制度の成り立ちを概観するには便利な一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書の中でも特に目を引くのは、「第4章 給与等級試験」で述べられている「S-1試験」に関する記述です。この「S」とはSuperviser(監督者)を「1」は第1回目であることを示しています。この試験が行われるきっかけは、GHQのフーヴァーが示した国家公務員法案に「時間、長官、次長、局長、局次長、および、(臨時)人事院がそれらと類似すると認め、指定したその他の管理職の地位は、ここに、空位でありその地位に就く者が存在しないことを宣言する。ただし、この法律に定められる、空位を補充するための試験が行われるまでは、現在それらの地位にある者を1947年5月3日以降、臨時的に任用されたものとみなす。(臨時)人事院はこの法律の発効日から2年以内に、それらの空位を補充するための試験を行うことに最大限の努力を傾ける義務を負う。試験は、この法律が規定する採用試験として行われなければならない」という規定があったことです。各省は、この規定の骨抜きを図り、試験の他に「選考」による採用も可能にしようと試みますが、GHQに阻まれます。
 そしてこの試験は、空位官職への公開競争試験として実施され、任用資格認定・筆記試験・身体検査・人物考査の4つの段階が設けられます。人事院は昭和24年11月12日に試験の対象となる2621の官職(本省庁の課長相当以上・地方支分部局の部長相当以上)を指定し、試験が公示され12月24日までが申し込み受付期間とされました。述べ申込者数は1万2206名(重複を除くと8076名)に及び、翌年1月に全国14箇所で1次・2次の筆記試験が行われます。この試験は「実力試験」という趣旨から制限時間や途中での休憩や食事も可能というもので、明治大学の試験会場では深夜0時まで3名が粘ったそうです。
 この試験の結果、官僚の多く(4人に3人)はその地位にとどまる「御墨付き」を得ることができ、民間人が合格しても人事院の担当者からの「辞退工作」が行われたとの噂も立ったそうです。
 そして、この試験によって人事院は各省庁から決定的に恨みを買うことになり、当時の職階制導入をさらに困難にしていったことが述べられています(当時の人事院事務総長は、ある省の人事主任官から「あなたは畳の上では死ねないよ」と吐き捨てられたそうです。)。
 現在の公務員制度に関する議論の中でも、幹部職員の政治任用や民間人からの登用ということが話題に上がりますが、50年以上経った今でも、同じような私怨に近い反感を顕にする人が多数いるのではないかと想像します。


■ どんな人にオススメ?

・現在の公務員制度、特にキャリア・システムの成立過程を概観したい人。


■ 関連しそうな本

 稲継 裕昭 『日本の官僚人事システム』 2005年02月10日
 稲継 裕昭 『公務員給与序説―給与体系の歴史的変遷』
 西村 健 『霞が関残酷物語―さまよえる官僚たち』
 新しい霞ヶ関を創る若手の会 (編集) 『霞ヶ関構造改革・プロジェクトK』 2005年12月22日


■ 百夜百マンガ

現在官僚系もふ【現在官僚系もふ 】

 財務省だからまだ主人公の名前が「茂夫」でいけると思うですが、農林水産省だと「真夫」?、経済産業省だったら「芽智」とかになるのでしょうか?
 国土交通省とか文部科学省だと想像もつきません・・・。

2005年12月28日 (水)

実用企業小説 プロジェクト・マネジメント

■ 書籍情報

実用企業小説 プロジェクト・マネジメント   【実用企業小説 プロジェクト・マネジメント】

  近藤 哲生
  価格: ¥1680 (税込)
  日本経済新聞社(2004/01/07)

 本書は、「実用企業小説」シリーズの1冊として、実際に日立製作所で数々のプロジェクトに携わってきた「プロジェクトマネジメントの生き証人」である著者が、自身の経験を元に小説形式で、崩壊しかけたプロジェクトが「人を幸福にするプロジェクト」として再生するまでを描いた擬似ノンフィクション小説です。
 倒れた前任のプロジェクトマネジャーから後を引き継いだ主人公は、営業部門と設計部門との連携の悪さから、受注額の倍近いコストが嵩む見込みのプロジェクトを前に、「自分は生贄にされたんじゃないか」と思いながらも、バラバラになったプロジェクトメンバーたちの心を必死に呼び戻します。ギクシャクしていた発注元の病院との関係も、オフサイトミーティングによって、信頼感を醸成し、徐々にいい方向に向かっていきます。
 本書には、大きな柱が二つあります。一つは、プロジェクトマネジャーの心構え的な部分です。「プロジェクトマネジャーはどのような態度であるべきか」、「トラブルに直面した時の心構えは何か」的な記述(太字になっている場合も多い)が多く目立ちます。もう一つの柱は、プロジェクトマネジメントの技術です。各章末に「解説編」的に収められている「プロジェクトノート」のうち、前半4章までの「プロジェクトの実態」、「プロジェクトの成功条件」、「プロジェクトの成功基盤」、「つくる体制とつくる物を明確にする」が前者の心構えや態度などの総論的な部分だとすれば、後半5章からの「PRP(Project Re-Planning)とDPM(Design and Progress Meeting)の考え方」、「プロジェクトの高速回転と成長」、「品質の向上とメンバーのモチベーション」、「強いプロジェクトの証」、「成功の最終条件」、「プロジェクトの成功スパイラル」は、具体的な各論的な内容になっています。
 プロジェクトマネジャー本人はもちろん、プロジェクトで仕事をすることが多い人にもぜひ参考になる一冊だと思います。


■ 個人的な視点から

 本書は、成功するプロジェクトを小説形式で記述したものであるので、主人公の性格や行動に迷いがなく、「そうは言っても」的な感想を持つ人がいるかもしれません。実際には数多くの試行錯誤の中で成功への道が得られているのだと思いますが、本書ではその部分があっさり書かれていて、成功までストレートに突っ走っているように感じられ、安心して読める分、ハラハラするようなものではありません。
 その意味で、この「実用企業小説」シリーズは、純粋に小説として楽しむものではなく、あくまで小説形式のビジネス書だと割り切って読めば楽しめるものだと思います。


■ どんな人にオススメ?

・なぜプロジェクトは失敗するのか、と思う人。


■ 関連しそうな本

 中尾 英司 『あきらめの壁をぶち破った人々―日本発チェンジマネジメントの実際』
 近藤 哲生 『はじめてのプロジェクトマネジメント』
 サニー ベーカー, G.マイケル キャンベル, キム ベーカー (著), 中嶋 秀隆, 香月 秀文 (翻訳) 『世界一わかりやすいプロジェクト・マネジメント』
 長尾 清一 『先制型プロジェクト・マネジメント―なぜ、あなたのプロジェクトは失敗するのか』


■ 百夜百マンガ

おそ松くん【おそ松くん 】

 おでんが恋しい季節になりました。
 子供の頃はチビ太が持っている串に刺さったおでんが妙に食べたかったものです。
 なお、「ためしてガッテン」によれば、あのおでんの具は、
△ こんにゃく
○ がんもどき
□ なると巻き
なのだそうです。

2005年12月27日 (火)

社会シミュレーションの技法

■ 書籍情報

社会シミュレーションの技法   【社会シミュレーションの技法】

  ナイジェル ギルバート, クラウス・G. トロイチュ (著), 井庭 崇, 高部 陽平, 岩村 拓哉 (翻訳)
  価格: ¥2,940 (税込)
  日本評論社(2003/02)

 本書は、社会問題や経済問題をコンピュータ・シミュレーションによって理解するためのガイドブックです。本書の構成は、冒頭の2章で社会科学においてシミュレーションという手法を用いる意味やプロセスについて解説し、残りの7章で、代表的なシミュレーションのモデルについて解説するという構成になっています。各モデルの解説では、実際のプログラムリストもあわせて記述してありますが、プログラミングになじみが無ければ、読み飛ばしても全体的な考え方を理解することができるようになっています。
 本書で取り上げられているモデルは、
・システムダイナミクスと世界モデル
・ミクロシミュレーションモデル
・待ち行列モデル
・マルチレベルシミュレーションモデル
・セル・オートマンモデル
・マルチエージェントモデル
・学習と進化のモデル
の順に解説されており、これは社会シミュレーションの発展の歴史を時系列に追ったものになっているので、実際に使う最近の議論だけを読みたければ後半だけ読むこともできるようになっていて、ガイドブックとしても実用的な造りなのではないかと思います。
 社会科学の分野でのシミュレーションは、古くはローマクラブの「成長の限界」などが知られていますが、パーソナル・コンピュータの性能が上がり、どの学生もコンピュータが扱えるようになった現在では、算盤や暗算が電卓に代わられたように、より身近な手法として定着するのではないかと思います。なお、残念ながら私はプログラムは読み飛ばしました。


■ 個人的な視点から

 プログラムもわからないのに本書を手に取ったきっかけは、アクセルロッドの一連の研究でした。ゲーム理論の入門書では一対一の関係の分析が中心ですが、実際の社会を分析する上では、多数の意志や利害を持った独立したエージェントどうしの関係の分析が必要になります。本書を読んだからといって直ちに複雑な社会が理解できるというものではありませんが、社会現象のシミュレーションの考え方を理解するガイドブックとしては優れたものだと思います。


■ どんな人にオススメ?

・複雑な社会を理解する手助けが欲しい人。


■ 関連しそうな本

 ロバート・アクセルロッド (著), 寺野 隆雄 (翻訳) 『対立と協調の科学-エージェント・ベース・モデルによる複雑系の解明』 2005年11月15日
 増田 直紀, 今野 紀雄 『複雑ネットワークの科学』 2005年11月18日
 山影 進, 服部 正太 (編集) 『コンピュータのなかの人工社会―マルチエージェントシミュレーションモデルと複雑系』
 スティーブン ジョンソン (著), 山形 浩生 (翻訳) 『創発―蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク』
 Joshua M. Epstein, Robert Axtell (著), 服部 正太, 木村 香代子 (翻訳) 『人工社会―複雑系とマルチエージェント・シミュレーション』
 生天目 章 『ゲーム理論と進化ダイナミクス―人間関係に潜む複雑系』


■ 百夜百マンガ

ブルーホール【ブルーホール 】

 元々は1975年の手塚賞出身の少年ジャンプ系の漫画家ですが、宇宙から恐竜から伝奇ものまで大人が読めるSFを描ける作者の一人です。この作品の設定は、掲載誌を換えて後の『ブルーワールド』に受け継がれています。

2005年12月26日 (月)

助成という仕事―社会変革におけるプログラム・オフィサーの役割

■ 書籍情報

助成という仕事―社会変革におけるプログラム・オフィサーの役割   【助成という仕事―社会変革におけるプログラム・オフィサーの役割】

  ジョエル・J. オロズ (著), 長岡 智子, 鈴木 智子, 平岩 あかね, 小林 香織, 高橋 恵里子, 牧田 東一
  価格: ¥3,990 (税込)
  明石書店(2005/03)

 本書は、財団の資金をNPOに助成する担当者である「プログラム・オフィサー」の仕事やその心構えなどについて、自身も米国のケロッグ財団のプログラム・オフィサーであった著者が解説しているものです。
 本書の構成は、大まかには、助成の申請から審査、現地訪問、理事会への推薦理由書の作成とプレゼンテーション、プロジェクトのマネジメントと終了という手続きの流れに沿って構成されています。
 米国のフィランソロピーの原型は、カーネギーとロックフェラーという2人の資本家によって形作られてきました。カーネギーは、「人が裕福なまま死ぬというのは不名誉なことだ」と述べ、自分の子孫ではなくフィランソロピーに財産を使うべきだという言葉を残しています。
 本書では、財団の役割として、次の4点を掲げています。
(1)フィランソロピーに重点を置く
(2)新規開拓に重点を置く
(3)資金獲得の呼び水になることに重点を置く
(4)スタートアップに重点を置く
 中でも、チャリティー(目前のニーズへの対応)とフィランソロピー(根本原因への取り組み)との違いについては混同されやすいものではないかと思います。
 また、著者は、優先助成分野を設定するためのステップとして以下の5点を挙げています。
(1)ニッチを探し出す
(2)文献に当たる
(3)分野を見渡す
(4)最も影響を受ける人たちの意見を聞く
(5)試験的な助成を行う
 本書は、著者と同じ立場となる財団や自治体の助成担当者はもちろん、助成を受ける側のNPOにとってもコミュニケーションのロスを少なくして助成を受けることができる参考書になるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書の中で一番皮肉が利いていて、かつ、プログラム・オフィサーがどれほどの権限を持って普段仕事をしているかを表しているのが、アメリカ合衆国独立宣言を助成申請書に、英国王ジョージ3世をプログラム・オフィサーに見立てた「質問及び疑問点文書(Q&C)」です。「自然の法則と神の法則」とはいかなる法則か、「人類のいろいろな意見」とは誰が行った世論調査の結果を使用しているのか、等、ユーモアを感じさせる中に、プログラム・オフィサーが普段どのような態度をとっているとみられるか、を気づかせてくれるものではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・財団や自治体の助成担当者
・NPO関係者


■ 関連しそうな本

 レスター・M. サラモン (著), 入山 映 (翻訳) 『米国の「非営利セクター」入門』 2005年01月25日
 渡邊 奈々 『チェンジメーカー 社会起業家が世の中を変える』 2005年08月11日
 町田 洋次 『社会起業家―「よい社会」をつくる人たち』 2005年02月16日
 斎藤 槙 『社会起業家―社会責任ビジネスの新しい潮流』 2005年06月01日
 D. ヘントン, K. ウォレシュ, J. メルビル (著), 加藤 敏春 (翻訳) 『市民起業家―新しい経済コミュニティの構築』 2005年03月15日
 谷本 寛治, 田尾 雅夫 (編著) 『NPOと事業』 2005年01月28日


■ 百夜百マンガ

GS(ゴーストスイーパー)美神極楽大作戦【GS(ゴーストスイーパー)美神極楽大作戦 】

 元々は『(有)椎名百貨店』で短いギャグマンが書いてる人かと思ったらストーリーもので大化けしてしまいました。「金に汚い美女」という設定が斬新でした。

2005年12月25日 (日)

眠れぬ夜のグーゴル

■ 書籍情報

眠れぬ夜のグーゴル   【眠れぬ夜のグーゴル】

  A・K・デュードニー (著), 田中 利幸
  価格: ¥2,625 (税込)
  アスキー(1997/04)

 本書は、様々な広告やインチキ療法、圧力団体からの数字テロなど、世間に溢れる怪しげな数字を追跡する「数学探偵」たちからの報告をもとに、実社会に蔓延る「数学の罠」の実例を示し、罠の仕掛け人たちを追い込み、読者に防衛の手段である基本的な数学マインドを与えてくれるものです。
 では、「数学の罠」とはどのようなものでしょうか。本書で取り上げているのは、「消費電力の200パーセント」を節約できるという魔法の電球(100パーセント節約、すなわち消費電力ゼロにしたうえに、同じだけの電力を自ら生み出してしまう?)の例を挙げた「パーセント・ポンピング法」や、「50人の不治の患者」が結果的に「治癒した」という怪しげな民間療法施設(何人来院したうちの50人なのかは明らかにされていない)の例を挙げた「フィルタリング」、パーセンテージの足し算の結果起こる「数のインフレ」等様々な例が紹介されています。
 例えば、「1970年代にはテストの成績が60パーセント低下したが、それから現在までの間に70パーセント以上上昇している。」という文章を読むと、一見1970年代よりも10パーセント以上成績が上がっているように感じますが、実際には1970年代に80点だった成績が32点に低下し、その後盛り返して55点になったというだけで、実際には当初よりも下がっているのです。
 また、グラフのごまかしも手が込んでいて、一番のヒットは「軌道に乗ったウィンターリゾート産業」というグラフですが、折れ線グラフをスキーのジャンプ台に見立て、最近2年間のわずかな数字の増加をさも将来への飛躍があるかのように、ジャンプするスキーヤーまで書き足されて表現しています。
 統計に関するウソでは、都合のよい数字だけをCMに使うことができる「ペプシ・チャレンジ」(コーラの飲み比べてスト)や、一生の間に乳癌にかかる割合をさも現在の危険のように発表する「脱時間」という罪、女性の性生活に関して非常に偏ったサンプル(11万9000通の調査票のうち、回収できたのは7000通のみ)からセンセーショナルな報告を行った『ハイト・レポート』などが、数学探偵の槍玉に挙げられています。
 本書には数多くの例が紹介されていますが、中でも傑作なのはつり銭詐欺の手口です。
・まずは店で1ドルの商品を買い10ドルを渡す。
・商品を持ってお釣り9ドルを受け取り忘れたふりをして出て行ってしまおうとする。
・「ポケットに1ドル見つかったのでさっきの10ドル札を返してくれませんか?」と言って、店員に9ドルを渡して数えてもらい、10ドル札を受け取る。
・「ここに11ドルありますので、あなたが持っている9ドルと合わせて20ドルください。これでチャラですよね。」と言って11ドルを渡して10ドル札2枚を受け取る。
 これでたいていの人が引っかかってしまうというのがおかしいですが、『ドラえもん』の「世の中うそだらけ」の回にも、ジャイアンがのび太から50円をせしめる話が紹介されています。
(参考:<変ドラ第九回「世の中うそだらけ」

 こういう話を、科学や数学の裏づけを持った大学教授やサイエンス・ライターが、面白おかしく一般向けに書いた読み物が、ぜひ日本でも出てきて欲しいものです。


■ 個人的な視点から

 「数学の罠」は必ずしも数学が苦手な人ばかりが陥るとは限りません。本書では、著名な数学者がはまった「数学の罠」が紹介されています。これは、アメリカの有名なテレビ番組である「レッツ・メイク・ア・ディール」という番組に関するものです。これは、3つのドアが用意され、1つのドアには自動車が、残りの2つには山羊がいるうちで、ドアを1つ選んだときに、答えを知っている司会者が別のドア(もちろん山羊)を開きました。最初のドアをスイッチする方が得でしょうか、という問題です。この問題に『パレード』誌でコラムを担当していたサヴァント女史がスイッチすべきと書いたことで、大学教授や物理学者、数学者達から膨大な手紙が寄せられました。彼らの多くは、確率は2つのドアに均等なのでスイッチしても有利にはならない、と女史を非難していました。そしてその中には偉大な数学者であったエルデシュも含まれていたことが彼の伝記に紹介されています。
 しかし、サヴァント女史の説明は極めて単純なもので、仮に100個のドアがあったとして、1つドアを選んだところ、司会者が98の山羊のいるドアを開いたとしたら、残りの1つのドアにスイッチするべきかどうか、というものでした。
 つまり、司会者が必ずドアを開いてスイッチを提案する、という前提に立てば、スイッチした方が得だということです。


■ どんな人にオススメ?

・「数学の罠」に陥りたくないと思う人。


■ 関連しそうな本

 谷岡 一郎 『「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ』 2005年12月13日
 ダレル・ハフ (著), 高木 秀玄 (翻訳) 『統計でウソをつく法―数式を使わない統計学入門』
 デービット・カラハン (著), 小林 由香利 (翻訳) 『「うそつき病」がはびこるアメリカ』
 ポール ホフマン (著), 平石 律子 (翻訳) 『放浪の天才数学者エルデシュ』 2005年11月06日


■ 百夜百音

Selected Ambient Works 85-92【Selected Ambient Works 85-92】 Aphex Twin オリジナル盤発売: 1993

 子供の頃から録りためた音をセレクションしたものですが、安い音なのにとても気持ちよいです。
 アンビエント系の音は、作りながら何時間もはまってしまうのではないかと想像します。

『Selected Ambient Works, Vol. 2』Selected Ambient Works, Vol. 2

2005年12月24日 (土)

ピノッキオの冒険

■ 書籍情報

ピノッキオの冒険   【ピノッキオの冒険】

  カルロ コッローディ (著), 杉浦 明平 (翻訳)
  価格: ¥756 (税込)
  岩波書店新版 版 (2000/12)

 今日は、クリスマスイヴということで、世界中の子供たちに愛されている120年前の名作をご紹介します。
 ピノッキオというと、日本ではディズニーの映画や、タツノコプロ製作の『樫の木モック』などが有名で、嘘をつくと鼻が伸びる人形のお話、という設定の印象が強いかもしれません。本物の子供になりたいピノッキオが数々の誘惑に何度も負けてしまい、それでも最後は「良い子」になるというお話、というストーリーを漠然としか知らない場合が多いのではないでしょうか。
 有名なディズニー版に比べて、この原作ではピノッキオはかなり「やんちゃ」です。ディズニー版のかわいらしい雰囲気はなく、「悪童」という言葉がピッタリです。この点は、50歳の禿げかかったオッサンが演じるベニーニ版の方が原作のイメージを壊していません。
 巻末の訳者の解説によると、この作品は、イタリアの「子ども新聞」に連載されたもので、当初は、おじいさんの言いつけを守らないピノッキオが追いはぎ(狐と猫)に殺されて樫の木に吊るされてしまうところで連載が終了しました。ところが、続きを読みたいという子どもたちの声に押されて「実はピノッキオは生きていた」ということで再開されます(まるで『魁 男塾』の「王大人死亡確認」のような展開です。)。この段階では、ピノッキオが本物の子どもになりたいなんて話はぜんぜん出てきません。
 この後、大蛇に会ったり牢屋に入れられたり番犬になったりした後、瑠璃色の髪の仙女に再会し、良い子になり人間の子どもになれることになったところで第2部が終了します。第2部は無理に話を続けたためか、話の展開が場当たり的でダレた感じがします。「ピノキオが悪い子なので仙女は死にました」というお墓が登場するかと思えば、次に会うときには母親の姿になっていたり(最後にはヤギになってしまうのですが)、大蛇の回などはよほど連載が苦しかったのか「大蛇は笑いすぎて血管が破裂して死にました」という投げやりな展開です(ドラえもんに出てくる漫画家の「フニャコフニャオ」や永井豪並の行き当たりばったりさです。)。
 ピノキオが良い子になって人間の子どもになったところで、もう終わりかと思いきや、新しいキャラクターの悪餓鬼の「トウシン小僧」が登場し、ピノッキオを「おもちゃの国」に誘います。結果的には、この第3部がピノッキオの冒険のクライマックスとなり、おもちゃの国での乱痴気騒ぎ(ディズニー版では葉巻を吸い酒を飲んだり、思いっきり殴り合いができる出し物や何でも壊し放題の家など、むやみに暴力的な描写が目につき、この部分だけは不健全さが突出しています。)や、巨大なフカ(ディズニー版では鯨)の腹の中でのジェペットじいさんとの再会と脱出など、お馴染みのエピソードが詰まっています(ディズニー版ではひたすら「食料」として人格を与えられていないマグロが、原作では重要な役割を与えられています。)。しかし、ロバとしてサーカスに売られて足を折り、太鼓の皮にされそうになるところや、弱りきったジェペットじいさんを養うために日の出前から夜中まで農園で働く生活を何ヶ月も続けるところはディズニー版では省略されています。解説の中でも触れられていますが、当時のイタリアの世相を反映して、原作では随所に「説教臭さ」がにじみ出ています。親の言いつけを守らないピノッキオが吊るされたり、悪い子どもがロバにされたり、何ヶ月も農場でロバのように働かなければならなかったり(死んでしまったロバにされたトウシン小僧がやっていた仕事をやるわけですが。)と、これでもかと畳み掛けます。ディズニー版は、この説教臭さとピノキオの悪童さを和らげていますが、世界中の子どもたちを魅了したのは、悪いことはしてはいけないと言われても、つい誘惑に負けてしまうピノッキオの人間臭さなのかもしれません。
 読者の要望で延々と話を伸ばすところ(一度死んだ人間を復活させたり)や説教臭いところは、どこか『ドラゴンボール』にも通じるところがありますが、本作品をやたらと「子どもにお奨めの心温まる名作」にしてしまわずに、子どもが夢中になるマンガだと思って読んだほうが素直に楽しめるのではないかと思います。『ドラえもん』も『ドラゴンボール』も毒が混ざっているから子どもが夢中になれるのです。

■ 個人的な視点から

 私たちは子供の頃から「ピノキオ」と聞けばあの人形を連想してしまいますが、イタリア語の「pino」が英語の「pine」であることを考えると、日本語に訳すのであれば、『樫の木モック』ではなく、「松太郎」や「松男」、「松っちゃん」になっていてもおかしくありません。ブルーナの「ナインチェ(小さなウサギ)」を「うさこちゃん」訳したことや、ハイジが「楓」に訳されていたことを考えれば『松っちゃんの冒険』と訳されていたのかもしれません。それにしても「樫の木」は原作の中ではピノッキオが追いはぎにつかまって縛り首にされて吊るされてしまう木です。なんとも不吉な木を選んだものです。
 ピノッキオが吊るされたり、ピノッキオが追いはぎに化けたネコの手首を噛み切ったり、こおろぎを木槌で殺してしまったり、ロバになったピノッキオの皮を剥ぐために重石をつけて沈められたりと、残酷な描写が多い本書の中でも、最も運命の残酷さを思い知らされるのはロバになってしまった親友のトウシン小僧が飢えと過労のために息を引き取るシーンです。「遊んでばかりいるとロバになって働かされて死んでしまう。」という説教臭い話ではありますが、子供の心に与えるインパクトは大きなものがあると思います。
Pinocchio ちなみに、この「トウシン小僧」ですが、「こがらで、やせて、ほそく、ひょろひょろして、まるで夜ともすあかりの新しい灯心みたい」なのでこのあだ名がついていますが、原作に忠実と言われるベニーニの実写版では「ルシーニョロ(Lucignolo)」という名前がついています。これはイタリア語で「灯心」を表す言葉です。ちなみに手元のディズニー版をもとにした絵本では「Lampwick」(日本語吹き替え版では「ランピー」)という名前になっています。


■ どんな人にオススメ?

・ディズニー版の「ピノキオ」しか知らない人。


■ 関連しそうな本

 Walt Disney 『ピノキオ』
 ロベルト・ベニーニ 『ピノッキオ』
 ディズニー・ゴールデン・コレクション 『ピノキオ』
 鳥山 明 『ドラゴンボール』
 ヨハンナ=スピリ, 国松 孝二, 鈴木 武樹 『アルプスの少女ハイジ』


■ 百夜百音

Pinocchio【Pinocchio】 Nicola Piovani オリジナル盤発売: 0

 ピノキオと言えば「星に願いを」を思い浮かべる人が多いですが、あれを歌っているのはジミニー・クリケットだということを初めて知りました。


『マイ・ファースト・ディズニー』マイ・ファースト・ディズニー

2005年12月23日 (金)

社長失格―ぼくの会社がつぶれた理由

■ 書籍情報

社長失格―ぼくの会社がつぶれた理由   【社長失格―ぼくの会社がつぶれた理由】

  板倉 雄一郎
  価格: ¥1,680 (税込)
  日経BP社(1998/11)

 本書は、32歳の若いベンチャー起業家が経験した、猛スピードの上り坂と下り坂がある「ジェットコースター体験」の記録です。
 19歳の時にゲームソフト会社を起こして以来、ダイヤルQ2を使った複数人の会話サービス「ボイスリンク」等の事業を経て、(株)ハイパーネットを設立し、電話を使ったマーケティングサービス「IMS (Interactive Marketing Service)」で会社を成長させた後に、顧客データベースと広告を結びつけた無料インターネット・プロバイダー「ハイパーシステム」を考案した著者は、このシステムによって脚光を浴び、事業を加速度的に拡大します。第3次ベンチャーブームの波に乗り、ニュービジネス大賞を受賞し、アメリカや韓国に事業を拡大する一方で、ベンチャー融資熱という金融界のブームの中で銀行からの融資も加速度的に拡大します。ここで著者の人生もぐんぐんとジェットコースターの上り坂を駆け上がり、白金の邸宅に住み、フェラーリを乗り回す生活を手にしたのも束の間、BIS規制への対応のための貸し渋り(と言うか貸し剥がし)によって一気に奈落の底に突き落とされます。
 一緒に会社を大きくしてきた仲間が会社を離れ、起業以来相談に乗ってもらっていた取引先のキーパーソンは退社してしまい、話のわかる「友達」感覚でいたメインバンクの支店長は事業に見込みがないとわかるとビジネスの顔で資金を引き上げていきます。それまで何度も経営危機を自分のアイデアと人脈と運で乗り切ってきた著者は、自分が頼りにしていたものが根拠のない慢心であったことに気づきます。
 本書のクライマックスであり、著者が経験するジェットコースターのクライマックスの地点で、ビル・ゲイツが著者に会ってハイパーシステムの話を聞きたいと言ってきます。このことが、著者を「天下のビル・ゲイツの方から俺に会いたいと言ってきた。次は米ナスダック上場だ!」と有頂天にさせる一方で、あの貪欲なマイクロソフトがこのビジネスモデルに触手を伸ばそうとしないことが「このビジネスには見込みがない」というシグナルを金融機関に発信することになってしまいます。
 負債総額37億円で会社を破産させた1年後には本書を出版するという行動に感情的・道義的な非難もありますが、本書で語られている「敗戦」の経験は、起業を志す後進にとっては最高のテキストになるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書の中で一番ワクワクするエピソードは、著者がハイパーシステムのアイデアを思いついたときの細やかな記述です。酒が軽く回り、ベッドの中でまどろんでいる時に突如アイデアが閃きます。著者はこの瞬間を、
「脳みその裏でちりちりと蠢いていたさまざまな思考がだらしなく底へ沈み、あまい眠気が襲ってきたそのとき。何かが目玉の奥の方で光った。」
と書いています。
 著者はこのアイデアを思い出そうとしながら眠ってしまい、目が覚めたときにパッとクリアなパソコン画面の映像とともに蘇ります。
 この「閃き」の瞬間、または閃きを取り戻そうとしながら忘れてしまう経験は誰にでもあるものと思いますが、本書の記述からは著者の高揚感が手に取るように伝わってきます。


■ どんな人にオススメ?

・企業経営のジェットコースターを追体験したい人。


■ 関連しそうな本

 ジェリー カプラン (著), Jerry Kaplan (原著), 仁平 和夫 (翻訳) 『シリコンバレー・アドベンチャー―ペン・コンピュータに賭けたぼくたちの会社創造ゲーム』
 岡本 呻也 『ネット起業!あのバカにやらせてみよう』 2005年07月18日
 田尾 雅夫 『成功の技法―起業家の組織心理学』 2005年04月23日
 太田 肇 『ベンチャー企業の「仕事」―脱日本的雇用の理想と現実』 2005年07月22日


■ 百夜百音

1984【1984】 Van Halen オリジナル盤発売: 1984

 『社長失格』の中で、深夜の首都高をヴァン・ヘイレンの『5150』をかけてフェラーリで爆走するエピソードが出てきますが、学生時代にやってたバンドっていうのはHR/HM系だったのでしょうか。
 エディに憧れてギター改造したり自分でスプレーしたり、ライトハンド奏法の練習したり、シンセで「JUMP」のイントロを弾いてみたりっていうのは当時のバンド少年なら一度は経験のあることではないでしょうか。

『Van Halen』Van Halen

2005年12月22日 (木)

霞ヶ関構造改革・プロジェクトK

■ 書籍情報

霞ヶ関構造改革・プロジェクトK   【霞ヶ関構造改革・プロジェクトK】

  新しい霞ヶ関を創る若手の会 (編集)
  価格: ¥1,785 (税込)
  東洋経済新報社(2005/11)

 本書は、霞ヶ関の入省9年目の若手官僚たちが、所属する省庁の枠を超えて、「国民全体のための公務員」という基本に立ち返り、質の高い政策立案を行える霞ヶ関を創り出すための改革案をまとめたものです。「プロジェクトK」という言葉には、「霞ヶ関」「公務員」「改革」などの意味が込められているそうです。
 本書の構成は、まず霞ヶ関の問題点として、総合判断を下すべき部署が欠如している点、各省庁縦割りの硬直的な人事制度、前例・横並びで非効率かつ不透明な仕事のやり方などを指摘した上で、目指すべき次世代の国家像として、
・「協創国家」―――一方的な「官から民へ」ではなく、外部との情報と知恵の共有により理想的な公共サービスのあり方と担い手の策定を行う。
・「小強国家」―――大胆な行政の効率化・スリム化と国家主導の戦略的なルール設定を行う。
・「真豊国家」―――消費者の選択肢の多様化に着目した改革。
という3つの国家像を提示しています。
 本書で主張されている改革案は、
(1)総合戦略本部の設置
(2)人事制度の刷新
(3)業務の効率化・透明化
の3つからなり、それぞれに検討部会を設けて検討しています。
 霞ヶ関の現役官僚が、実名で前向きな提言をしているという点ではインパクトはありますが、内容的にはその分だけ保守的な印象も受けます。それでも、霞ヶ関を離れた官僚が恨み節的に問題点をあげつらう言いっ放しの無責任な「改革案」に比べれば大きな進歩ではないかと考えます。


■ 個人的な視点から

 霞ヶ関のキャリア官僚が実名で自らが将来担って行く意志を持って提言しているという点で、本書のインパクトは大きいと思います。ただし、本書の提言の内容自体にはそれほどのインパクトはないように感じます。
 本書の提言は、(1)総合戦略本部、(2)人事制度改革、(3)業務の効率化の3つに分かれていますが、これらは1から3の順にマクロ~メゾ~ミクロのそれぞれのレベルの改革を意図しているものと考えられます。これらの共通するのは、よく言えば「官僚の責任感」でもあるのですが、若干「内輪主義的」な発想が感じられる点です。
 特に、総合戦略本部の発想は、省庁の縦割りの弊害への問題意識を強く反映しているものだと思いますが、彼らのテクノクラートとしての自負を強く感じるとともに、大きな政治不信を反映しているものではないかと思います。どこか満州国の理想に燃えた戦前の「革新官僚」の匂いを感じてしまうのは私だけでしょうか。
 また、人事制度改革にしても、主眼は官僚の中での年功序列や横並び主義の弊害排除であり、現状をスタート地点にした改革案という印象を受けます。若手官僚の発想としては、凡庸な印象を持つ人もいるでしょうが、その分現実に受け入れられやすいかもしれません。個人的には、経済界からの人材受け入れや政治任用など、人材流動化を打ち出しても良かったのではないかと感じます。
 実は最も効果があるのは、最後の業務の効率化・透明化の部分かもしれません。ただし、この分野においては地方自治体の改革の方が実験が多いという点で一日の長があり、内容的には今更感のあるものもありますが、おそらくこの部分が一番効果を発揮し、成功体験を得やすい部分なのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・若手官僚のチャレンジに期待したい人。


■ 関連しそうな本

 行財政構造改革フォーラム (著), 上山 信一, 樫谷 隆夫, 若松 謙維 『新・行財政構造改革工程表―「霞が関」の三位一体改革』
 西村 健 『霞が関残酷物語―さまよえる官僚たち』
 稲継 裕昭 『日本の官僚人事システム』 2005年02月10日


■ 百夜百マンガ

青春くん【青春くん 】

 とりあえずなにはなくとも女に縁がない主人公という設定は『ラブやん』に通じるものがありますが、トホホ感に関してはまったくこちらが上手です。

2005年12月21日 (水)

複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線

■ 書籍情報

複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線   【複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線】

  マーク・ブキャナン (著), 阪本 芳久 (翻訳)
  価格: ¥2,310 (税込)
  草思社(2005/02/25)

 本書は、複雑ネットワーク理論をベースにして一般向けに書かれた「大人向け科学読み物」です。表紙に使われている無数の点を線で結んだグラフは、ビール酵母の一種のタンパク質間の相互作用を表した図ですが、本書で扱われている分野は幅広く、ハリウッド俳優や数学者のネットワークから、転職、闇夜に明滅するホタル、電力系統ネットワーク、脳のニューロンネットワーク、生態系、感染症、経済活動、そしてインターネットまで、あらゆる分野をつなぐキーコンセプトが「ネットワーク」です。
 大雑把に言ってしまうと、最初の3分の1くらい(第1章~第4章)がワッツとストロガッツの「スモールワールド・ネットワーク」を中心にして、ミルグラムの行った実験から導かれた「6次の隔たり」や「ケヴィン・ベーコン・ゲーム」、数学者の共著関係の狭さを表す「エルデシュ数」、グラノヴェターの「弱い紐帯」、ストロガッツのホタルのシンクロなどを解説しています。次の3分の1(第5章~第9章)くらいがバラバシとアルバートの「スケールフリー・ネットワーク」をベースにして色々なネットワークの中から導き出される「べき乗則」を紹介しています。インターネットの地図や、熱した鍋に突然現れる六角形のパターン、河川の流域面積など「金持ちはより金持ちに、長い腕はより長く」なる現象を次々と紹介しています。最後の3分の1(第10章~第13章)では、グラッドウェルの「ティッピング・ポイント」と言えるような流行のきっかけとなるポイント等を紹介しています。
 複雑ネットワークに関する学術的な研究成果は、個別には一般としても紹介されていますし、複雑ネットワーク理論に関する学術書も出ていますが、この分野を俯瞰した一般書として、一流のサイエンスライターである著者の腕が光る一冊となっています。


■ 個人的な視点から

 本書で紹介されている複雑ネットワークの理論は、数学や物理学、生物学などの理系っぽい分野の他、社会学が関連する領域となっていますが、経済学の分野でグラフ理論などを用いたネットワーク分析とかしてる研究はあるのでしょうか?
 ゲーム理論の辺りではありそうな感じですが、結構経済学で扱っている様々な現象を表記する方法になりそうな気がします。具体的にはまだ全然イメージがつかないのですが。


■ どんな人にオススメ?

・複雑ネットワークの世界を俯瞰したい人。


■ 関連しそうな本

 マーク ブキャナン (著), 水谷 淳 (翻訳) 『歴史の方程式―科学は大事件を予知できるか』 2005年12月15日
 増田 直紀, 今野 紀雄 『複雑ネットワークの科学』 2005年11月18日
 アルバート・ラズロ・バラバシ (著), 青木 薫 (翻訳) 『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』 2005年10月24日
 ダンカン ワッツ (著), 辻 竜平, 友知 政樹 (翻訳) 『スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法』 2005年09月28日
 マルコム グラッドウェル (著), 高橋 啓 (翻訳) 『ティッピング・ポイント―いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか』 2005年02月12日
 スティーヴン・ストロガッツ (著), 蔵本由紀, 長尾力 (翻訳) 『SYNC』


■ 百夜百マンガ

のぞき屋【のぞき屋 】

 いったん『のぞき屋』の連載が終わったあと、しばらくしてから『新 のぞき屋』として再開したものです。
 ちょっと設定が変わっていますが、極端な設定を使ったキャラの立たせ方は『殺し屋1』に引き継がれていきます。

2005年12月20日 (火)

つきあい方の科学―バクテリアから国際関係まで

■ 書籍情報

つきあい方の科学―バクテリアから国際関係まで   【つきあい方の科学―バクテリアから国際関係まで】

  R. アクセルロッド (著), 松田 裕之 (翻訳)
  価格: ¥2,730 (税込)
  ミネルヴァ書房〔新装版〕 版 (1998/05)

 本書は、戦場で退治する敵国同士から自然界の生物の間など、様々な利害対立の中で、どのように協調関係が生まれてくるかを、コンピュータによる「繰り返し囚人のジレンマゲーム」のシミュレーションから得られた分析結果を中心に解説したものです。
 著者は、コンピュータプログラムによる選手権を開催し、5つの専門分野(心理学、経済学、政治学、数学、社会学)から14名の参加者を得て、それぞれのプログラムを計12万回対戦させます。その結果、成績上位の8つのプログラムには、「自分からは決して裏切らない」という「上品さ(nice)」という共通点があることがわかりました。この中には、決して自分の方から裏切ることはないが、相手が一回でも裏切ると最後まで報復し続けるという「フリードマン」や、相手の行動をじっくりと観察し、長期的に最善の得点を稼ぐことを意図した「ダウニング」などがありましたが、最も高い得点を挙げたのは、参加したプログラムの中で最も短い「しっぺ返し」というプログラムでした。これは、相手が前の回にとったものと同じ行為を選ぶというもので、相手が裏切った後でも再び協調することができる「心の広さ」が高得点の鍵となっていました。
 本書には、このシミュレーションで得られた含意が、現実の世界でも起こりうる例として、第一次大戦中の西部戦線におけるイギリス軍とドイツ軍とが長期間対峙する塹壕戦の中で生まれた奇妙な協調関係を紹介しています。ここでは、お互いに定期的に同じ場所を正確に狙撃することで、自らの報復能力を示威しながら、相手が裏切らなければこちらからは裏切らない、という協調関係が生まれました。多くのゲーム理論のテキストに引用されている有名な逸話ですが、ある時お茶の時間にイギリス側に一発の砲弾が打ち込まれ、被害はなかったがお互いの緊張が高まった時に、勇敢なドイツ兵が塹壕の上に上がり、「申し訳ない。怪我はなかったか。これはバカなプロシア砲兵隊のせいで俺たちのミスじゃない。」と叫んだ、というものがあります。
 この他、ドーキンスの『利己的な遺伝子』を引用しながら、生物界における協調関係の進化などについて言及しています。
 本書は、複雑系やゲーム理論の研究者はもちろん、一般向けにも、世の中との「つきあい方」を考える上でも大変おもしろく、平易な文章で書かれています。


■ 個人的な視点から

 本書の邦題は、「つきあい方の科学」となっていますが、後の『複雑系組織論』にしても、タイトルのつけ方で真意が上手く伝わりにくい人なのかも知れません。ぜひ、タイトルだけ眺めて食わず嫌いせずに前書きだけでも読んでみてください。
 タイトルにあるような政治学や生物学だけでなく、社会学や経済学、経営学など社会科学分野の人にもぜひ読んでもらいたい必読書ではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・協調関係なんて幻想だ、と思っている人。


■ 関連しそうな本

 リチャード・ドーキンス (著), 日高 敏隆, 岸 由二, 羽田 節子, 垂水 雄二 (翻訳) 『利己的な遺伝子』
 ロバート・アクセルロッド (著), 寺野 隆雄 (翻訳) 『対立と協調の科学-エージェント・ベース・モデルによる複雑系の解明』 2005年11月15日
 ロバート・アクセルロッド, マイケル・D・コーエン (著), 高木 晴夫, 寺野 隆雄 (翻訳) 『複雑系組織論』 2005年11月29日
 土場 学, 佐藤 嘉倫, 三隅 一人, 小林 盾, 数土 直紀, 渡辺 勉, 日本数理社会学会 『社会を"モデル"でみる―数理社会学への招待』 2005年11月30日
 梶井 厚志, 松井 彰彦 『ミクロ経済学 戦略的アプローチ』 2005年04月04日
 アビナッシュ ディキシット (著), バリー ネイルバフ (著), 菅野 隆 (翻訳), 嶋津 祐一 (翻訳) 『戦略的思考とは何か―エール大学式「ゲーム理論」の発想法』 2005年01月31日


■ 百夜百マンガ

万歳ハイウェイ【万歳ハイウェイ 】

 バイク乗りの青春を描いた昔のモーニングらしい作品。原作のオサム氏はタレントの大竹まことの兄としても有名。写真見てみたいです。

2005年12月19日 (月)

人と人の「つながり」に投資する企業―ソーシャル・キャピタルが信頼を育む

■ 書籍情報

人と人の「つながり」に投資する企業―ソーシャル・キャピタルが信頼を育む   【人と人の「つながり」に投資する企業―ソーシャル・キャピタルが信頼を育む】

  ドン コーエン (著), ローレンス プルサック (著), 沢崎 冬日 (翻訳)
  価格: ¥2100 (税込)
  ダイヤモンド社(2003/11)

 本書は、パットナムが南北イタリアの地域社会の観察に見出した「ソーシャル・キャピタル」が企業の中でどのような役割を果たしているか、そして、ソーシャル・キャピタルを蓄積している企業では何が行われているかを分析したものです。
 著者は前書きで、「ある企業のソーシャル・キャピタルが豊かか貧しいかは、その企業の「雰囲気」によってかなりの程度つかめる。」と述べていますが、ソーシャルキャピタル蓄積の具体的なメリットとして著者は次の4点を挙げています。
・知識の共有が改善される。
・(企業内や他の企業、顧客との)取引コストが低下する。
・離職率が低下し、採用・研修費用を抑え、組織的知識が維持できる。
・組織の安定と共通理解により、行動の一貫性が向上する。
 著者は、ITの発達によって、旧態依然とした固定された机のオフィスや高い移動コストをかけて行う会議がなくなり、ナレッジはデータベースに格納され、電子ネットワークを通じて仕事が行われるようになる、という一昔前に流行ったIT革命後の仕事のやり方が実際には上手くいかないことを指摘しています。そして、企業内における「社交ネットワーク(通常の市場取引に必要な範囲を超えた非公式な規範もしくは価値観を共有する、個人エージェントからなる集団)」や「コミュニティ(それぞれの交渉を通じて決められた意味を持つ行動に、相互に関与しあう人々によるグループ)」が重要であることを述べています。
 本書は、ソーシャル・キャピタルの蓄積には、「つながり」のための空間と時間が必要であることと、長期勤続が重要な役割を果たすことを指摘しています。一つの例として、UPS(米国の運送会社)のドライバーが昼食時に同じ公園に集まってサンドウィッチを食べながら、仕事上の情報やノウハウを共有し、仕事の一部を融通しあっている光景を紹介しています。そして、組織が「会話」を支援するためには、
・人々がお互いに出会うような交流のために空間を提供する。
・会話のための時間を認める。
・直接顔をつき合わせての会話を優遇する。
・「有益な会話」の定義を、おしゃべりにまで拡大する。
等が必要であると述べています。
 現実に高い業績を上げている企業では、どのようにソーシャル・キャピタルが蓄積されているかを分析した本書は、とかく個人主義に陥りがちな最近の傾向に逆行していますが、私たちはどちらに進むべきなのかを考えるヒントを与えてくれます。


■ 個人的な視点から

 本書では、企業内外での「おしゃべり」の効用が述べられています。実際にオフサイト・ミーティングなどをやってみると、自己紹介の最初の5分までは、事前に考えてきた「心の中の読み原稿」で対応できるのですが、5分を超えるとアドリブで話をしなければならなくなります。このことが、話す人の心を開き、信頼関係を生み出しやすくする仕掛けなのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・企業の中に蓄積されるものに関心がある人。


■ 関連しそうな本

 エティエンヌ・ウェンガー, リチャード・マクダーモット, ウィリアム・M・スナイダー, 櫻井 祐子 (翻訳), 野中 郁次郎(解説), 野村 恭彦 (監修) 『コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践』 2005年08月25日
 ロバート・D. パットナム (著), 河田 潤一 (翻訳) 『哲学する民主主義―伝統と改革の市民的構造』 2005年03月03日
 マルコム グラッドウェル (著), 高橋 啓 (翻訳) 『ティッピング・ポイント―いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか』 2005年02月12日
 チャールズ オライリー , ジェフリー フェファー (著), 広田 里子, 有賀 裕子 (翻訳), 長谷川 喜一郎 『隠れた人材価値―高業績を続ける組織の秘密』 2005年02月03日
 ジョン・シーリー ブラウン , ポール ドゥグッド (著), 宮本 喜一 (翻訳) 『なぜITは社会を変えないのか』


■ 百夜百マンガ

バクネヤング【バクネヤング 】

 何だか凄く怖い顔のオッサンがたくさん出てくる作品です。
 そんなオッサンが束になったよりも怖いのが、何考えているかわからない主人公。中断していたと思っていたらいつのまにか完結してました。

2005年12月18日 (日)

いかにして問題をとくか

■ 書籍情報

いかにして問題をとくか   【いかにして問題をとくか】

  G. ポリア (著), 柿内 賢信 (翻訳)
  価格: ¥1,575 (税込)
  丸善第11版 版 (1999/07)

 本書は、数学の教師が学生に対してどのように数学的にものを考えさせるか、また、学生はどのように数学の問題を考えるべきか、を主な目的として書かれたものですが、数学に限らず、「新しいことを見つけ出すことに興味を持つ人達ならば誰にでも役に立つ」ものです。
 本書は、問題を解くためには、
「未知のものは何か、与えられているものは何か、条件は何か。」
をまず初めに考えさせます。そして、本書の見返しの次のようなチャートにまとめられています。

2005年12月17日 (土)

考える脳 考えるコンピューター

■ 書籍情報

考える脳 考えるコンピューター   【考える脳 考えるコンピューター】

  ジェフ・ホーキンス, サンドラ・ブレイクスリー (著), 伊藤 文英 (翻訳)
  価格: ¥1,995 (税込)
  ランダムハウス講談社(2005/03/24)

 本書は、ハンドヘルドコンピュータ「Palm」の産みの親であり、シリコンバレーの有名な成功者である著者が、「知能」について真正面から解説したものです。著者はIT業界に長年身を置きながら、知能の研究に関心を持ち続け、一度はカリフォルニア大学バークリー校で生物物理学を専攻し、2002年には記憶と認知を研究するレッドウッド神経科学研究所を設立します。
 著者がシリコンバレーの人間ということで、コンピュータや「人工知能」について書かれた本という印象を受けますが、本書の関心は「知能」そのものに向いていて、大半が人間の脳がどのように働いているのか、の解説が中心です。
 著者の関心は脳のうちでも厚さわずか2ミリほどの「新皮質」に集中して向けられています。新皮質は、コンピュータと頃なり、
・パターンのシーケンスを記憶する。
・パターンを自己連想的に呼び戻す。
・パターンを普遍の表現で記憶する。
・パターンを階層的に記憶する。
という4つの特徴を持っていることが述べられています。
 著者は、知能を解明する鍵として「予測」に着目します。そして、「記憶による予測の枠組み」を提唱し、「記憶」と「予測」、「シーケンス」、「感覚」、「行動」などの連動によって人間の「知能」が形作られていることが解説されています。
 本書をきっかけに、普段は意識をしない「知能」とは何だろう、ということを考えてみるのもいいかもしれません。


■ 個人的な視点から

 本書で述べられている脳の働き、「知能」そのものに関する解説ももちろん読み応えがありますが、印象に残るのは、第1章から第2章を中心に述べられている「知能」に対する著者の傾倒ぶりです。大学卒業後インテル社に就職した著者が、脳の働きを研究したい、とゴードン・ムーア会長に手紙を書き、専門の研究グループの設置を提案し、それが却下された後、カリフォルニアのベンチャー企業に転職し、そこでの業績を挙げたにもかかわらず、通信教育で人間生理学を学び、カリフォルニア大学バークリー校の大学院に無収入で飛び込んでいってしまいます。
 結局、著者は大学から再びIT業界に戻り、パームコンピューティング社やハンドスプリング社を設立し、シリコンバレーの成功者となるのですが、これによって得た資金をもとにレッドウッド神経科学研究所を設立してしまいます。
 どこか、ホメロスの詩に心を奪われたシュリーマンを思い出させる逸話ですが、こういう人によって、まだまだ未開の領域の多い「脳」という分野から大きな発見があるのかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・「知能」とは何か、という問いの答えを一緒に考えたい人。


■ 関連しそうな本

 前野 隆司 『脳はなぜ「心」を作ったのか―「私」の謎を解く受動意識仮説』
 スティーヴ・グランド 『アンドロイドの脳 人工知能ロボット"ルーシー"を誕生させるまでの簡単な20のステップ』
 フィリップ・K・ディック (著), 浅倉 久志 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』


■ 百夜百音

CYBER【CYBER】 PINK オリジナル盤発売: 0

 一時期の「サイバー・パンク」ブームの時だったせいでしょうか。PINKの音楽性もサイバーというイメージに合ってました。岡野ハジメが自分で作ったという「イカベース」が欲しかったです。こんなところも「サイバー」と言っていいのかどうか?

2005年12月16日 (金)

リーダーシップ

■ 書籍情報

リーダーシップ   【リーダーシップ】

  Harvard Business Review (編集), DIAMONDハーバードビジネスレビュー編集部 (翻訳)
  価格: ¥2,310 (税込)
  ダイヤモンド社(2002/04)

 本書は、ハーバード・ビジネス・レビュー誌に掲載されたリーダーシップに関する8つの論文を収めた「ベスト盤」(『よりぬきサザエさん』みたいなもの)です。
 ミンツバーグの「マネジャーの職務:その神話と事実との隔たり」では、マネジャーの仕事としてファヨール以来信じられてきた「計画、組織化、調整、管理」という4つの役目は現実的ではない、ということをダイヤリー・メソッドによって調査し、マネジャーが常に細切れで行動していること、無数の日常的業務の遂行も行っていること、電話と会議という口頭のメディアを重視していること、時間配分や情報処理、意思決定などは頭脳の奥深くにしまいこまれたままであること、等を指摘しています。
 また、コッターの「リーダーとマネジャーの違い」では、その役割の違いを理解することで優れたリーダー兼マネジャーを育成することができることが述べられています。同様のテーマを扱ったザレズニックの「マネジャーとリーダー:似て非なる役割と成長条件」では、マネジャーとリーダーの性格の問題に踏み込み、マネジャーが「一回だけの人生」を生きる性格であるのに対し、リーダーは「二回生きる人生」、つまり「自分を取り巻く環境から分離独立していると考える人間になろうとする傾向」があることを述べています。
 ファーカスとウェットローファーの「高業績CEOが実践する五つの経営スタイル」では、160人のCEOに対する面接調査に基づき、次の5つの際立ったアプローチを見出しています。
(1)戦略型アプローチ:戦略を開発し、試験し、実施に向けた準備を整える。
(2)人材型アプローチ:社員個々の成長と開発を綿密に管理することにより、一定の価値観と行動、姿勢を社内に植え付ける。
(3)専門知識型アプローチ:自社の競争優位の根源となる専門知識を特定し、これを社内に普及させる。
(4)ボックス型アプローチ:社内の財務と文化の一方あるいは双方に、明解なコントロール手段を置き、これを周知させ、監視する。
(5)変革型アプローチ:たえず再生が行われる環境を創り出す。
 この他を含め、本書に収められている8つの論文は、どれもリーダーシップ論のエッセンスを詰め込んだものであり、それぞれの単著にあたるまえの足がかりとしても最適なものです。


■ 個人的な視点から

 本書で印象に残ったのは、第4章のバダラッコJr.の「リーダーとして成長するために」で解説されている「ディファイニング・モーメント」という言葉です。リーダーが板ばさみの問題に悩まされ、その決断が積み重ねられることで、その人の人格が形成される、というものです。ここで紹介されている3つのディファイニング・モーメントに関する「抜け目なさと実利追求」という考え方は、「何をすべきか」とは異なるリーダーの成長に欠かせないものであることを考えさせられます。
 そして、この決断の積み重ねが、リーダーとしてと言うよりも、人間として成長するために欠かせないものではないかと考えます。


■ どんな人にオススメ?

・リーダーシップ論のエッセンスをつかみたい人。


■ 関連しそうな本

 金井 寿宏 『リーダーシップ入門』 2005年03月31日
 ジョン・P. コッター (著), 梅津 祐良 (翻訳) 『企業変革力』 2005年02月19日
 ヘンリー ミンツバーグ (著), 奥村 哲史, 須貝 栄 (翻訳) 『マネジャーの仕事』
 C.I.バーナード (著), 山本 安次郎 (翻訳) 『新訳 経営者の役割』 2005年03月29日


■ 百夜百マンガ

青空しょって【青空しょって 】

 スポーツマンガで「父と子」と言えば「父ちゃんは日本一の日雇いモゴモゴ」という問題発言で有名なあの作品が思い浮かびますが、この作品ではその関係は逆転している?
 ゴルフというスポーツはマンガと相性がいいような気がします。

2005年12月15日 (木)

歴史の方程式―科学は大事件を予知できるか

■ 書籍情報

歴史の方程式―科学は大事件を予知できるか   【歴史の方程式―科学は大事件を予知できるか】

  マーク ブキャナン (著), 水谷 淳 (翻訳)
  価格: ¥2,415 (税込)
  早川書房(2003/11)

 本書は、地震や森林火災、生物の絶滅、株価の変動、都市の大きさ、学術論文の引用、戦争による死者数など、一見何の脈絡もないような物事から共通して導き出される法則である「ベキ乗則」を、『ネイチャー』や『ニュー・サイエンティスト』で活躍したサイエンス・ライターである著者の手によって一般向けに解説したものです。邦題や表紙のデザインは何だかイロモノっぽい感じですが、原題が『Ubiquity(偏在性)』であることをチェックしてから読むとわかりやすいと思います。
 同じ場所に砂粒を落としていくと、それはだんだん高く積み上がり、山が大きくなるに連れて斜面は急になり、ある一粒をきっかけに雪崩が起き、山はまた低くなり、再び高くなっては雪崩を起こすことを繰り返します。この雪崩の大きさをコンピュータでシミュレーションしたところ、なだれの大きさには「典型的な」大きさなどなく、一粒の場合もあれば、何百万という大きな雪崩になることもあることがわかりました。同じように、地震の大きさを横軸に、頻度を縦軸にとると、「典型的な」大きさの地震というものはなく、そのグラフから「ベキ乗則」という関係が現れます。
 この「ベキ乗則」の関係の他、「臨界状態」、「スケール不変性」などの性質が、地震以外にも、森林火災の大きさや生命の大絶滅、株価の変動などから次々と現れるところでの知的興奮は、上質の推理小説を読んでいるような感じです。
 本書の残念な点は、邦題のつけ方くらいです。胡散臭げな表紙を勇気を持ってめくることができれば、後は最後まで休むことなく引き込まれてしまうことでしょう。


■ 個人的な視点から

 本書で中心に扱われている「ベキ乗則」は、著者の次の著作である『複雑な世界、単純な法則』での複雑ネットワーク理論の話に引き続いていきます。本書の方が、まだサイエンス雑誌的な硬さがありますが、十分読みやすい文章になっています。
 印象に残ったのは、人間が自然に干渉することで更に大きな災害を起こしてしまう例です。ある生物を増やすために、その捕食者を人為的に減らすと狙い通りにはならず、増やそうとしていた生物が結局減ってしまうという話はよく聞きますが、森林火災を徹底的に防ぐために、どんな小さな山火事も消していったことが、かえって立ち枯れた木や倒木などの可燃物を過剰に森に溜め込ませ、「超臨界状態」を作り出してしまい、超巨大森林火災を引き起こしたことは初耳でした。


■ どんな人にオススメ?

・「恐竜、戦争、地震、株価」に関連するキーワードを知りたい人。


■ 関連しそうな本

 マーク・ブキャナン (著), 阪本 芳久 (翻訳) 『複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線』
 増田 直紀, 今野 紀雄 『複雑ネットワークの科学』 2005年11月18日
 アルバート・ラズロ・バラバシ (著), 青木 薫 (翻訳) 『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』 2005年10月24日
 ダンカン ワッツ (著), 辻 竜平, 友知 政樹 (翻訳) 『スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法』 2005年09月28日
 マルコム グラッドウェル (著), 高橋 啓 (翻訳) 『ティッピング・ポイント―いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか』 2005年02月12日
 スティーヴン・ストロガッツ (著), 蔵本由紀, 長尾力 (翻訳) 『SYNC』


■ 百夜百マンガ

拡散【拡散 】

 フランスなど外国でも評価の高い作品らしいです。世界中の行く先々で呼び寄せているものは何なのか、考えさせられる作品です。

2005年12月14日 (水)

政策形成の日米比較―官民の人材交流をどう進めるか

■ 書籍情報

政策形成の日米比較―官民の人材交流をどう進めるか   【政策形成の日米比較―官民の人材交流をどう進めるか】

  小池 洋次
  価格: ¥693 (税込)
  中央公論新社(1999/11)

 本書は、米国の政策形成における「リボルビング・ドア」(回転ドア)と呼ばれる政治任命制度の役割の大きさを中心に、日米の政策形成過程を比較し、日本においても民間の優秀な人材を政策形成に登用すべきことを主張しているものです。
 本書は、米国の高官たちとのインタビューを中心に日米の政策形成過程のギャップを明らかにします。特に当時のクリントン政権では「アウトサイド・ベルトウェイ(ワシントンの政府、議会とは無縁の人々)」の人々を要職につけていたので、そのギャップはより大きなものになっていると考えられます。著者は、トルーマン政権以来の財政黒字を数年で実現できた原動力は、ワシントンとは無縁の民間人、学者だからこそできたのだと述べます。
 一方で、彼ら被政治任命者たちの「寿命」は2、3年程度であり、激務で薄給のこの仕事を彼らが引き受けるのは、自分のキャリアに「はく」をつけるためであり、政権を離れた後により良いポストと高級を得ることができるためです。学者は経験を研究に活かし、影響力を大きくすることができ、ビジネスマンはより高いポストを得、弁護士は手に余るほどの仕事を抱えることができます。
 著者は、米国の政治任命制度のめりとデメリットを次のように整理しています。
◆メリット
(1)民間の頭脳や識見、経験を活用できる。
(2)政策の変更が容易になる。
(3)政策決定のスピードが増す。
(4)民間が政策形成についてより現実的な提言をできるようになる。
(5)政策決定に幅広い層が関与し、国民の政治参加意識も高まる。
(6)政策決定の透明性が高まり、腐敗も起こりにくくなる。
(7)学界の知的活動もより実践的になる。
(8)政策形成の国際競争力が高まる。
◆デメリット
(1)政策の継続性が失われやすい。
(2)猟官運動の激化。
(3)秘密の漏洩。
(4)特定のグループの思惑によって政策が形成・決定される可能性がある。
 これらのメリット、デメリットを考慮したうえで、日本では、政策に関する情報収集・分析、その形成、立案を官僚が独占し、立法権を持つ国会議員にはその能力不足のために官僚に依存せざるをえなかったと分析し、米国の制度から学ぶべきものがあることを主張しています。そして、米国の「回転ドア」的行動様式や政治任命に基づく人材の移動は、米国社会の人材流動性の高さが反映されたものであり、その根底には個の確立と普遍的な価値基準が存在している点を指摘しています。


■ 個人的な視点から

 本書の中で、リボルビング・ドアの向こう側の「受け皿」として機能しているのがワシントンに星の数ほど存在するシンクタンクであることが述べられています。ワシントンではシンクタンク主催のセミナーやシンポジウムが数多く開催され、どれも魅力的なものばかりなので、横江公美氏は「シンクタンク・ジャンキー」という言葉があることを紹介しています。
 日本でもシンクタンク(というか総研)主催のセミナーやシンポジウムは多数ありますが、どれも似たような学者や政治家の組合せを変えたようなものが多いことが目立ちます。前三重県知事の北川正恭早大教授は「役人に負けないためには同じことを何度でも繰り返すしつこさが必要だ。」と述べていますが、この話自体も色々な場でしつこく聞いてしまったために、「なるほど」と思うようになりました。
 現在、政党が自前のシンクタンクの設立に力を入れていますが、これによって総研主催の同じようなセミナー・シンポジウムばかりでなく、より主義・主張が前面に出たシンポジウムが増えてくることを楽しみにしています。


■ どんな人にオススメ?

・日本の官僚主導の政策形成にもどかしさを感じている人。


■ 関連しそうな本

 横江 公美 『第五の権力 アメリカのシンクタンク』 2005年06月13日
 ジェームズ・A. スミス (著), 長谷川 文雄, 石田 肇, ボストン・フューチャー・グループ (翻訳) 『アメリカのシンクタンク―大統領と政策エリートの世界』


■ 百夜百マンガ

行け!!南国アイスホッケー部【行け!!南国アイスホッケー部 】

 毎年この時期になると、出会い頭に三択クイズを出し、解けないとコテンパンにされる怪人「三択老師」を思い出します。もちろん年が明ければ「正月仮面」がやってくることはお約束です。
 どこぞの工業高校のバレー部と同じくらい部活には関係ありません。

2005年12月13日 (火)

「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ

■ 書籍情報

「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ   【「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ】

  谷岡 一郎
  価格: ¥725 (税込)
  文藝春秋(2000/06)

 本書は、研究者や公的機関が垂れ流す「社会調査」という名の「ゴミ」の害悪を指摘し、「リサーチ・リテラシー」教育の必要性を主張しているものです。本書が指摘する「ゴミ」にはいくつかのバリエーションがあり、さらにそのゴミを素にして見出しの操作などで意図的にゴミを再生産するマスコミの弊害が併せて糾弾されています。
 例えば、「畳の枚数が多いほど子供の数が増加する」という平成5年版の厚生白書は、よく考えれば、都市部に比べて過疎地域は文化的な理由などで元々子沢山が多いとか、子供が多くなったから広い家に引っ越した、など「隠れた変数」が介在する「スプリアス効果」と呼ばれる効果(子供の非行とファストフードの関係など)や、「逆の因果関係」(肥満とダイエット食品の摂取量など)が指摘されています。
 また、マスコミが生み出す「ゴミ」の例としては、街頭インタビューや「街の声」という名目でマスコミが訴えたい政策を代弁させる手法に対する批判が展開されています。そういう目で見ると、最近のテレビ番組を見ていると、必ず「一応は逆の意見」と言えなくもないような発言も言い訳程度に入っていることに気づかされます。さらに深刻な例として、選挙時の当落予想のアナウンス効果の問題点を、当落予想では必ず引っ張り出されるH大学のF教授が、問題を自覚しながら発言している張本人として非難されています。
 この他にも、「歴代アメリカ大統領で一番人気のあるのはカーター大統領」という調査に関する「forced choice」の問題点や、日本の大新聞社が「自衛隊」や「憲法改正」の世論調査で駆使している「キャリーオーバー効果」という質問手法、
 著者は、こういった「ゴミ」が社会に蔓延することを防ぐために、リサーチ・リテラシー教育が必要であることを主張しています。マスコミにとっては不都合な教育かもしれないですね。


■ 個人的な視点から

 著者は「ゴミ」と断定する「社会調査」からの反論を歓迎すると言っていますが、どれほどの反論があったのかもぜひ知りたいところです。この本の趣旨からすれば、反論すればするほど術中にはまるということになるのでしょうが。
 暴力的なテレビ番組と子供の暴力性に関する調査については、最近の残虐なテレビゲームやエロゲーと性犯罪の問題などにも応用できそうです。情報を読み解く力はここでも必要になってきます。


■ どんな人にオススメ?

・「リサーチ・リテラシー」を身につけたい人


■ 関連しそうな本

 ダレル・ハフ (著), 高木 秀玄 (翻訳) 『統計でウソをつく法―数式を使わない統計学入門』
 福岡 政行 『日本の選挙』
 筒井 康隆 『文学部唯野教授』


■ 百夜百マンガ

いっしょけんめいハジメくん【いっしょけんめいハジメくん 】

 入社式とか就職の面接とか大事な商談に行く途中に、困っているお年寄りを助けて遅刻してしまい、ピンチ!と思いきや助けたお年寄りが相手の会社の重役だったり大株主だったり、というコテコテの人情話は『なぜか笑介』や『いいひと。』、『サラリーマン金太郎』などのサラリーマンマンガでは定番ですが、ハジメくんではそんな泣かせる話が数多く(というかそればかり)詰まった古典です。
 大手商社マンだったハジメくんがリストラされて再起をかけて奮起する続編は、ある種の「二世モノ」ブームの変形と言えるでしょうか。

2005年12月12日 (月)

役人学三則

■ 書籍情報

役人学三則   【役人学三則】

  末弘 厳太郎 (著), 佐高 信 (編集)
  価格: ¥840 (税込)
  岩波書店(2000/02)

 本書は、昭和6年に雑誌に掲載されたエッセイ「役人学三則」をはじめとする、東京大学教授、中央労働委員会会長であった著者の辛口のエッセイが収められたものです。構成は大きく3部構成になっていて、第1部では、表題作である「役人学三則」と「役人の頭」という、役人の杓子定規さの理由とその批判を展開しています。特に、「役人の頭」では、「法律の世界」と「人間の世界」とを結ぶ役人の役割に言及し、「役人たる前にまず人間たることを心がけねばならぬ」という前向きな戒めになっているのに対し、「役人学三則」は、これから官僚になろうとする若者に対する心がけという形で、次の3条を示しています。
・第一条 およそ役人たらんとするものは、万事につきなるべく広くかつ浅き理解を得ることに努むべく、狭隘なる特殊の事柄に特別の興味をいだきてこれに注意を集中するがごときことなきを要す。
・第二条 およそ役人たらんとする者は法規を盾にとりて形式的理屈をいう技術を習得することを要す。
・第三条 およそ役人たらんとする者は平素より縄張り根性の涵養に努むることを要す。
 どれも戦前の官僚に対する批判でありながら、現代においても全く古びていないのは、本質をズバリと衝いた指摘であるからということができます。
 この他、第2部では、大岡越前守が法律の解釈のほうを曲げずに、事実の解釈をコントロールすることで名判決を出すことができたとことを賞賛する「嘘の効用」や、「小知恵にとらわれた現代の法律学」において、公平への要求と杓子定規への批判を両立すべく、「判例法主義」を主張し、法学教育におけるケース・メソッドの重要性を説いています。
 第3部は、法律の初学者向けの「新たに法学部に入学された諸君へ」と「法学とは何か――特に入門者のために」という2つの文章が収録されています。中でも「法学部で学んだことは実社会で役に立たない」という批判をする者は法学部で学ぶ本質を見失っており、重要なことは個々の法律の知識ではなく「法律的に物事を考える」ことであり、実務を積むことでその力を身につけてしまった人にとって当たり前であるからこそ、自分では特にそれを持っていると意識しなくなる、というものです。
 本書に書かれている文章は、新しいものでも昭和26年ですから、相当古いことは間違いありませんが、決して現代に生きる人間にとっても見逃せるものではありません。


■ 個人的な視点から

 本書が古びていない理由の一つに、役人の置かれている役割や思考回路に対して、一から考察を行っている点にあるのではないかと思います。現代の役人批判の文章の多くが、既にコンセンサスとなっている「官僚主義の弊害」の受け売りの思考回路の上に個別のトピックを飾りつけただけのものに過ぎないのに対し、本書の官僚批判は、法学者としての「法律の世界」と「人間の世界」のギャップの認識を根底に、一から考察を積み上げた展開をされています。
 本書に書かれているような「役人学」は、最近の新聞を一月分でもスクラップしておけば、10条くらいすぐ作れそうですが、単なる皮肉・批評の類ではなく、本質的な官僚制の問題点を指摘する文章は、やはり深い思索の上に成り立っているのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・役人の思考回路を理解したい人。


■ 関連しそうな本

 城山 三郎 『官僚たちの夏』
 西村 健 『霞が関残酷物語―さまよえる官僚たち』


■ 百夜百マンガ

じゃりん子チエ【じゃりん子チエ 】

 漫画アクションの後ろの方にいつも載ってました。途中から読んでも人間関係が複雑でよく分からないのが難点。
 この作品に出てくる「カルメ焼き」って凄く美味しそうでしたが、関東の人間なので実物は未だに見たことがありません。

2005年12月11日 (日)

となり町戦争

■ 書籍情報

となり町戦争   【となり町戦争】

  三崎 亜記
  価格: ¥1,470 (税込)
  集英社(2004/12)

 本書は、ある日突然(少なくとも主人公にとっては)始まった隣町との戦争に「戦時特別偵察業務従事者」(後に「戦時拠点特別偵察業務従事者」に任命換えされますが)として任命された普通のサラリーマンが、敵地(といっても通勤途中に通過する隣町)のアパートに偽装結婚をして潜入し、月二回発行される町の広報紙の「戦死者」欄以外には、普段どおりの日常生活と何も変わらない「見えない戦争」に巻き込まれていく物語です。著者自身が地方自治体の職員ということもあり、舞台となる「舞坂町総務課となり町戦争係」の公文書や偵察に関する報告書の様式、そして戦闘が行われる地域で事前に行われる「地元説明会」の様子など、お役所仕事を皮肉ったディテールが「公共事業としての隣町との戦争」という虚構感を高めています。
 この「見えない戦争」へのもどかしさがこの作品のメインであるだけに、読んでいても戦争らしい描写はぜんぜん出てきません。通勤途中で戦闘による渋滞にぶつかることもなければ、営業先で白兵戦に巻き込まれて死体を踏み越えて逃げ回ったりすることもありません。9月1日の開戦から翌年3月31日の終戦まで「何かが失われる」という戦争のリアリティを主人公自身も感じられないままで、血が流されるのも藪の中で転んで擦り剥いたくらいです(それでも弾の下をくぐった人間にはわかる「血の匂い」を帯びる経験はするのですが・・・。)。唯一血なまぐさいリアルな戦闘に携わる「戦士」が持っている「命を奪うこと」への感覚は、おそらく読者に戦争のリアルさを伝えるものにはならないような気がします。
 感情を押し殺した「お役所仕事としての戦争」と日常生活の範囲である「となり町」とを結びつけることで、「リアリティのない戦争」を描いたこの作品は、銃弾が飛び交い手足や首が飛び散る「リアルな」戦争映画以上に、「これが、戦争なんですよ。」と言っているような気がします。


■ 個人的な視点から

 「隣町との戦争」という本書の紹介を見て、多くの人が連想するのが筒井康隆の「東海道戦争」ではないかと思います。確かに日常生活が崩れ、民間人である主人公が戦争に巻き込まれていくという筋書きは似ているかもしれません(もしかすると、身近な日常の中の殺し合いということで『バトル・ロワイヤル』的な展開を期待する人もいたかもしれませんが。)。しかし、本当に似ている点は、なんでこんな戦争が起こったのかよく分からずリアリティを感じないままに巻き込まれていく、という部分かもしれません。どこか、「これは夢かもしれない。」と思いながら見ている夢、という感じに近いのではないでしょうか。
 日常と入り混じった戦争という点では、同じ筒井作品の「通いの軍隊」(『おれに関する噂』に収録)の方が本書のテイストに近いかもしれません。通勤定期で通って、有給休暇あり、妻がお弁当を届けに来るとことなんかは、まさにそんな感じです。また、巻き込まれ型小説としては、表題作の「おれに関する噂」の白昼夢的なテイストにも共通したものを感じます。
 また、自分の勝手な思い込みではあるのですが、本書で唯一戦闘員らしい「血の匂い」を持っている「主任さん」の風貌を、勝手に漫画家のカラスヤサトシの自画像にダブらせてしまいました。


■ どんな人にオススメ?

・「戦争」にリアリティを感じない人。


■ 関連しそうな本

 筒井 康隆 『おれに関する噂』
 筒井 康隆 『東海道戦争』
 高見 広春 『バトル・ロワイアル』
 片岡 聡 『石喰う男』


■ 百夜百音

CITY【CITY】 はっぴいえんど オリジナル盤発売: 2000

 もう師走も半ばになろうとしています。実家に帰れない年末のわびしさを歌ったM10の「春よこい」が良いです。「来年こそはチャンスをつかんでやる」という熱意を奮い起こすにはピッタリ?の曲です。「こたつを囲んでみかんを食べる」という和風な感覚は、同じ「春よこい」でもユーミンとは相当差があります。


『春よこい 松任谷由実・荒井由実』春よこい 松任谷由実・荒井由実

2005年12月10日 (土)

人類の起源論争―アクア説はなぜ異端なのか?

■ 書籍情報

人類の起源論争―アクア説はなぜ異端なのか?   【人類の起源論争―アクア説はなぜ異端なのか?】

  エレイン モーガン (著), 望月 弘子 (翻訳)
  価格: ¥2,310 (税込)
  どうぶつ社(1999/12)

 本書は、1982年の『人は海辺で進化した』から15年を経て、著者が主張する「人類アクア説」に対する批判やその後の研究の展開を踏まえ、再度、人類の起源に関する様々な学説を整理しなおしたものです。
 「人類アクア説」とは、二本足で直立歩行し、体毛を持たないと人間の特質を、人類の祖先がある時期を水辺で過ごしたために得られたものだと主張するもので、人と猿との共通の祖先から現在の人類の祖先が枝分かれした部分に当たる「ミッシング・リンク」を説明する説の一つですが、多くの研究者から黙殺されてきた「異端」の学説とされてきました。著者が「サバンナ説」と呼ぶ従来の学説では、気候の変化に伴ってサバンナが広がってきたために、人の祖先が樹上から降り、諸々の理由(遠くを警戒するため、木の実を取るため、獲物を追いかけるため・逃げるため、強い日差しを避けるため、etc.)により二足歩行を始め、諸々の理由(体温調節のため、寄生虫にたかられにくいため、etc.)により体毛を失ったとされています。これに対し「アクア説」では、浅瀬を溺れずに移動するために二足歩行を始め(浮力のためにバランスも取りやすい)、水に浸かった生活に対応するために体毛を失い、代わりに皮下脂肪を得るようになった、という説明をしています。
 一方で著者は、前著で主張した内容のうち、人類が大量に流す汗や涙を、塩分を体外に排出するために発達したものではないか、という仮説に関しては、誤りを認めています。
 その上で、まだ解決を見ていない課題として、(1)性、(2)皮膚、(3)体毛、(4)耳、(5)鼻、(6)血液、(7)水産物食、(8)ヒヒ抗体、(9)アファール三角地帯、の9点を挙げています。
 本書は、著者の「人類アクア説」に関する集大成であり、『人は海辺で進化した』を初めて読んだ時の知的興奮はやや欠けるものの、よく整理された内容はぜひ併せて読んでもらいたいものになっています。


■ 個人的な視点から

 本書の面白いところは、副題である「アクア説はなぜ異端なのか?」にも現れていますが、様々な「主流」の研究者たちが、アクア説に対してとってきた態度(黙殺であったり、宗教的ともいえる感情的な反感であったりするのですが)の方ではないかと思います。
 著者は、厳密な検討がなされればアクア説の筋書きも結局は捨てざるを得なくなるかもしれない、としていますが、人類学の専門家たちが根拠をはっきり述べないままこの説を黙殺しようとしていることが研究者として正当な態度ではない、という点を批判しています。中には、人類の祖先が水辺で暮らしていたとするならば、彼らは皆ワニに喰われて絶滅してしまっていただろう、という反論を持ち出す者もあり、こんな暴論がまかり通るならば、サバンナで暮らしていた人類の祖先もライオンに喰い尽されているはずだ、と、およそ研究者らしくない反論を非難しています。
 著者自身も、アクア説を正面から厳密に徹底的に批判する研究を待っているのだと思いますが、私もぜひ読んでみたいです。


■ どんな人にオススメ?

・「人類アクア説」という言葉をはじめて聞いた人。


■ 関連しそうな本

 エレイン モーガン (著), 望月 弘子 (翻訳) 『人は海辺で進化した―人類進化の新理論』 2005年05月08日
 エレイン モーガン (著), 望月 弘子 (翻訳) 『進化の傷あと―身体が語る人類の起源』


■ 百夜百音

超時空コロダスタン旅行記【超時空コロダスタン旅行記】 アポジー&ペリジー オリジナル盤発売: 1984

 3年ほど前にしし座流星群を見に行ったのですが、そのときに「月世界旅行」がFMで流れてました。確かに「星が降る」です。
 夜中に道の真ん中で鹿に出会って怖かったです。向こうも怖かったと思いますが。


『陽気な若き水族館員たち』陽気な若き水族館員たち

2005年12月 9日 (金)

人事・給与と地方自治

■ 書籍情報

人事・給与と地方自治   【人事・給与と地方自治】

  稲継 裕昭
  価格: ¥3,570 (税込)
  東洋経済新報社(2000/12)

 本書は、地方公務員の人事制度・給与制度について、国(旧自治省)から都道府県への人事交流である「出向官僚」の研究と、日本と英国の地方公務員給与制度の比較研究の2つの切り口から解説したものです。この手の専門書の作られ方としてよくある方法ですが、いくつかの論文をまとめて本にするために、本書の場合でも第1部と第2部は別のものとして読んでもいいでしょう。とは言え、本書は前半後半がスパッときれいに切れているために、枚数不足で無理やり押し込んだ「はぐれ猿」のような章はありませんし、よほどピンポイントに関心があるのでなければ、1冊通して読んでも違和感はないでしょう。
 第1部の「『出向官僚』再考」では、戦前から戦後にかけての、現在の地方公務員制度の原型が形作られて行く過程を、主に、増大する行政需要に対応するための都道府県の人材確保に光を当てながら検証しています。明治期においては、当初は藩閥の影響が濃かった府県庁の幹部が、徐々に内務省の高等文官に置き換わって行く過程や、戦後の地方行政における人材確保の面で国との人事交流が重要な課題であった点、そして、戦後の公選知事の体制の下においても、まだプロパー職員の人材的成長が未熟であったために、密度の濃いOJTを受けてきた中央の人材に頼らざるを得なかった点などが述べられています。都道府県間の人事交流は、1987年秋の地方の時代シンポジウムで何人かの知事が話しをしたのがきっかけで始まったという話も興味深いものでした。
 第2部の「『地方公務員給与』再考」では、自治省による自治体の給料表のコントロールや、英国の地方公務員制度、NPMムーブメントの元での短期的業績給(PRP)について解説されています。「町長―助役―係員」という超フラットな体制を27年間も採用していた埼玉県宮代町の話や、国の官僚が地方に出向してきた時に対応する給料表の等級の差の根拠を「市の部長は国の課長補佐又は県の課長と同一の社会的評価を受けるのが普通」だからとしている自治省の「解説」などのトリビア的な話も面白かったです。また、英国のロンドン近郊の自治体等が、全国的に合意された給与体系では人材確保が困難なため、独自の給与体系を採用するという「オプト・アウト」の話も新鮮でした。
 また、NPMと短期的業績給(PRP: Performance Related Pay)に関しては、サッチャー政権下で改革を担当したレイナー卿が、改革は内から生まれるもの、という信念の元で効率化を進めていたこと(さすが「スーパーの男」です)や、欧米諸国でのPRP導入についても、十分な研究があったわけでなく、「民間で効果をあげている(だろう)という思い込み」での「衝動買い」という批判がある点について触れられています。


■ 個人的な視点から

 「国の省庁による地方コントロール」と批判されることが多く、「天下り官僚」等と言われることさえある地方への出向官僚ですが、若いうちから次々に激務と責任のある仕事を経験し、幹部としての訓練を受けてきた人材の価値は、現在でも相当高いものであることは間違いありません。国からの過度のコントロールを排除するために、ポストを独占している出向官僚を追い返して、プロパー職員の「純血主義による王国」を作ることが地方の自立かといえば、そうではないでしょう。過度のコントロールを配しつつも、優位な人材を確保することが重要ではないかと思います。
 例えば、現在は国から地方に来た官僚は、また国に戻り官僚としての身分を取り戻すことになりますが、国に戻ることを前提とせず、求めに応じて地方自治体の幹部を渡り歩くような人材が出てきてもいいのではないかと思います。最近では、30代で地方自治体の首長の座に就く官僚出身者が数多くいますが、1期か2期経験してもまだ40代です。この人たちの経験を、他の自治体で活かしてもらう方法もあるのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・地方自治体、特に都道府県の人事や給与の制度に関心のある人。


■ 関連しそうな本

 稲継 裕昭 『日本の官僚人事システム』 2005年02月10日
 稲継 裕昭 『公務員給与序説―給与体系の歴史的変遷』
 村松 岐夫, 稲継 裕昭 (編著) 『包括的地方自治ガバナンス改革』 2005年03月17日
 塩沢 茂 『地方官僚 その虚像と実像』 2005年08月01日


■ 百夜百マンガ

山田タコ丸くん【山田タコ丸くん 】

 不条理系4コマブームの中でも笑えない得意な作風が光っていた人。吉田戦車と一緒に事務所を構えていたらしいです。

2005年12月 8日 (木)

日本型「成果主義」の可能性

■ 書籍情報

日本型「成果主義」の可能性   【日本型「成果主義」の可能性】

  城 繁幸
  価格: ¥1,575 (税込)
  東洋経済新報社(2005/04/15)

 本書は、ベストセラーとなった前著『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』でのスキャンダラスな内部告発調の成果主義批判を、著者自らが「毒消し」しているものです。こう書くと何やら批判を受けて言い訳をしているようですが、正しく書くならば、「前著で本来書きたかったこと」+「前著に対する批判やその後の学習で理解したこと」をまとめたものではないかと思います。と言うのも、おそらく前著はベストセラーになったものの、著者にとっては満足のいくものではなかったのではないかと思うからです。
 前著を執筆した段階では、「この事実を世間の人々に知ってもらいたい」という思いも強く、また無名の元サラリーマンでしかなかった著者にとっては、出版すること自体が重要であり、出版社・編集者の意向には逆らえず、スキャンダラスな内容にならざるを得なかったのではないかと推測します。何しろ編集者に逆らって出版そのものが没になってしまったら身も蓋もありません。そのため、富士通への悪意に満ちた、怨嗟が渦巻くような内部告発本として仕上がってしまったのではないでしょうか。「売れる本を作る」という観点からは、この路線で編集されたのはしかたなく、ことさらに編集者を責める気はありません。しかし、著者としては、この一冊で「成果主義批判の旗手」のようなレッテルを貼られ、新聞や雑誌でコメントを求められ(しかも都合のよい一部のみが掲載され)、成果主義批判を期待した労組の講演に呼ばれることは辛かったのではないかと想像します。
 本書は、そのような誤解を解き、富士通に象徴される日本のこれまでの「成果主義」の問題点を整理し、「ではどうしたらいいのか」という問いに対する著者としての答えを提示するために書かれたものであると考えられます。前著では、富士通の制度の片棒を担いでいた人間が欠点をあげつらうような書き方が鼻につきましたが、本書ではそのようなタッチの記述は極力抑えられ、富士通(「私の知る企業」のように書かれていますが)に言及する場合も極めて客観的に問題点を指摘していて、著者のクレバーさがにじみ出ています。
 中でも、「目標管理制度の大前提」として挙げている、
(1)目標が数値目標化できる。
(2)目標のハードルが同じ高さ。
(3)常に目標が現状にマッチしている。
(4)評価の際、達成度だけで絶対評価が可能。
の4つの項目は、非常にシンプルでわかりやすく、また、この中のどれが欠けても「制度自体が形骸化してしまう」という言葉には、元人事担当者としての説得力(「形骸化できる自信がある」と言い換えてもいいでしょう。)があります。
 また、前著では恨み辛みの言葉ばかりが目についた(だから売れたのですが)「成果主義」批判も、本書では「成果主義」の問題点を、
・実態として年功序列制を温存した形ばかりの「成果主義」
・評価者としての訓練を受けず、「報酬」としてのポストを得た中高年の管理職
という、きちんと整理された形(前著でも同じ内容を指摘してはいるのですが)で指摘しています。
 著者は、日本企業にとって成果主義の導入自体は避けて通ることができず、おかしな形で捻じ曲げて運用していることに問題があるとして、本来目指すべきだった成果主義の例の一つとして、チョコレートのメリー社の事例を紹介するとともに、制度を捻じ曲げ、成果主義には不可欠な現場マネジャーへの権限移譲を拒んできた「人事部」を批判しています。
 本書だけしか出版していなかったら売れなかったでしょうが、実務と理論のバランスの取れた「成果主義」論を展開している本書は、この手の本を初めて手にする人にとってはお奨めの一冊です。また、前著『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』だけしか読んでいない人は、「毒消し」(解説編)である本書を併せて読まれることをお奨めします。


■ 個人的な視点から

 本書を「解説編」と位置づけたものの、理論的に綿密に書かれているかというと、あくまで現場での問題意識に立脚したものであることに説得力があるのだと考えます。成果主義と現場への権限委譲はセットであるべき、という話も、青木昌彦氏の「A型企業とJ型企業」の比較における「双対性原理」(組織が有効であるためには、情報構造の分権性/集権性は、人事管理の集権性/分権性と対になっていることが必要である。)を引っ張ってきたと言うこともできますが、現実の問題点指摘とセットになっていることで説得力を持ちます。
 著者の主張が、「年功制回帰」ではなく、むしろ「成果主義」の仮面をかぶった「隠れ年功制」の問題点を指摘するものであることに失望する人も多いかもしれません(労組の講演には呼ばれなくなるかも・・・)。あくまで「正しい成果主義」を模索する必要があることを主張していますが、その答え自体が本書に書かれているわけではありません(タイトルも「可能性」です。)。そのことをもって、「答えも持っていないくせに」と批判する人もいるかもしれませんが、大きな目で見ると、著者が批判しているのは、「どこかに正しい答えが用意されていて、金さえ払えば手に入れることができる」という(人事部を含めた)態度そのものなのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・前著しか読んでいない人。
・この手の「成果主義本」を初めて手にする人。


■ 関連しそうな本

 城 繁幸 『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』
 高橋 伸夫 『虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ』 2005年3月30日
 高橋 伸夫 『〈育てる経営〉の戦略―ポスト成果主義への道』 2005年06月16日
 青木 昌彦 (著), 永易 浩一 (翻訳) 『日本経済の制度分析―情報・インセンティブ・交渉ゲーム』 2005年04月01日
 都留 康, 阿部 正浩, 久保 克行 『日本企業の人事改革―人事データによる成果主義の検証』 2005年06月24日
 溝上 憲文 『隣りの成果主義』


■ 百夜百マンガ

ボーダー【ボーダー 】

 「カリブ・マーレイ」というペンネームに、ドレッドヘアの人を想像してしまいますが、大昔に見た雑誌のインタビューでは見た目普通の人でした。他の作品含めてですが、チャランポランっぽく見えるキャラクターが急に目が据わって人生語りだしちゃったりします。

2005年12月 7日 (水)

新版 コミュニティ・ソリューション―ボランタリーな問題解決に向けて

■ 書籍情報

新版 コミュニティ・ソリューション―ボランタリーな問題解決に向けて   【新版 コミュニティ・ソリューション―ボランタリーな問題解決に向けて】

  金子 郁容
  価格: ¥2,415 (税込)
  岩波書店(2002/04)

 本書は、ヒエラルキーでもマーケットでもない、第三の社会的選択としての「コミュニティ・ソリューション」について解説したものです。同じ著者による『ボランタリー経済の誕生』の内容を簡単に紹介する啓発本的な位置づけも持っています(何しろ『ボラ経』は厚くて「重い」(物理的にも)ですから)。
 本書は、2つの「コモンズ」(共有地)の紹介から始まっています。1つは、指揮者のいないオーケストラである「オルフェウス室内管弦楽団」であり、もう1つは無償のアイデアと情報と技術力が持ち寄られたOSである「リナックス」です。著者はこれらのボランタリーなコモンズにおける「ルール」(自生した規則性)、「ロール」(自発的に割り振られた役割性)、「ツール」(コミュニケーションのための道具性)に着目しています。また、これらのコモンズが持つ「弱さの強さ」、すなわち存在のフラジャイルさをコミュニティが共有していることによる強さについて言及し、コミュニティにおける「相互編集プロセスと編集者」の重要性について指摘しています。
 第2章では、インターネット社会における2つの軸、すなわち、
・G(global)軸・・・世界が平準化しグローバル・スタンダードが支配的になる
・C(community)軸・・・文化的・経済的多様性と分散化が進む
という一見相反する2つの方向性について、阪神大震災時のボランティア・グループ「被災地の人々を応援する市民の会」の活動や、シェアウエア作者とユーザーズ・グループの関係を例に挙げて解説しています。
 第3章以降では、ケアセンター成瀬や環境保全型農産物生産加工流通認証協議会の事例やコミュニティ・スクールのコンセプトなどを紹介しながら、ボランタリーなコモンズを形成するために必要なソーシャル・キャピタルの蓄積等について解説しています。
 本書は、近年色々なところで使われる「コミュニティ」や「ボランタリー」という言葉に関心を持つ人にとって、その裏側を解きほぐしてくれる一冊ではないでしょうか。


■ 個人的な視点から

 最近は、役所が使う言葉の中に「新しい公共」だとか「公(おおやけ)」などのキーワードを見かけるようになりました。また、「協働」という言葉もよく使われます。
 ただ、役所がこれらの言葉を使う裏側には、「金がないからサービス水準は下げるけど、後は住民の『自己責任』でよろしくね!」という意図が透けて見えるものが少なくありません。「コミュニティ・ビジネス」等の言葉も、「あると皆が助かるから誰かやってください。」という感じで推奨されています。
 しかし、コミュニティによる解決が期待される問題というのは、本書の中でも解説されている「共有地の悲劇」になりかねないために誰も手を出さない分野であって、単に住民の「自己責任」に押し戻しただけ解決される問題ではありません。オルフェウスやリナックスのように成功するコミュニティはごく一部で、多くのコミュニティは「悲劇」の方に進む可能性を持っています。
 それでも、行政による問題解決が期待できない、ということがドライブになって、やむにやまれずコミュニティによる解決が図られるかもしれません。この辺りの議論は「鶏と卵」的な要素があるので難しいです。


■ どんな人にオススメ?

・「コミュニティ」や「協働」という言葉の裏側のメカニズムを知りたい人。


■ 関連しそうな本

 金子 郁容, 松岡 正剛, 下河辺 淳 『ボランタリー経済の誕生―自発する経済とコミュニティ』 2005年08月29日
 金子 郁容 (編著), 玉村 雅敏, 久保 裕也, 木幡 敬史(著) 『学校評価―情報共有のデザインとツール』 2005年02月25日
 ロバート・D. パットナム (著), 河田 潤一 (翻訳) 『哲学する民主主義―伝統と改革の市民的構造』 2005年03月03日
 松岡 正剛 『フラジャイル―弱さからの出発』 2005年11月23日
 エリック・スティーブン レイモンド (著), 山形 浩生 (翻訳) 『伽藍とバザール―オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト』 2005年10月22日
 金子 郁容, VCOM編集チーム 『「つながり」の大研究―電子ネットワーカーたちの阪神淡路大震災』


■ 百夜百マンガ

リトル・フォレスト【リトル・フォレスト 】

 「小森」(リトル・フォレスト)で繰り広げられる田舎の生活。毎回紹介される食材や料理(大抵は自分で作るか山から採ってくるか人にもらったもの)が美味しそうで、幼い頃に食べた庭の木でなった果物(柿、梅、桑、ざくろなど)を思い出します。

2005年12月 6日 (火)

ジェンダー・マネジメント―21世紀型男女共創企業に向けて

■ 書籍情報

ジェンダー・マネジメント―21世紀型男女共創企業に向けて   【ジェンダー・マネジメント―21世紀型男女共創企業に向けて】

  佐野 陽子, 志野 澄人, 嶋根 政充 (編著)
  価格: ¥3,360 (税込)
  東洋経済新報社(2001/04)

 本書は、「社会的に固定化された男女差」を意味する「ジェンダー」を企業としてどのようにマネジメントするか、という問題について、経営学や社会学、特に人的資源管理や労働経済学を専門とする執筆陣が、企業経営の多様な側面から分析を行っているものです。
 本書の特徴は、企業における実例をふんだんに取り入れていること、そして、「ジェンダー=女性の問題」と受け取られがちなこの分野において、男性のジェンダーにも着目した分析を行っていることです。構成は大まかに2部に分かれていて、「第1部 ジェンダー企業の現在」では、リクルートやジャスコ、日本IBMなどジェンダー・マネジメントに積極的に取り組んでいる企業や就職活動におけるセクハラや圧迫面接の実例を中心に、日本企業での取り組みの現状を紹介しています。「第2部 現代経営と女性のキャリア形成」では、学生の就業意識や女性企業家、コース別人事など個別のテーマについて踏み込んだ分析を行っています。
 本書の分析は、ジェンダーについての問題意識からではなく、企業としてのマネジメントの視点を出発点にしていますので、よくある教条的なフェミニズム本には馴染めない、という人でもすんなり読めるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書で印象に残ったのは、就職活動におけるセクハラとパワハラ(圧迫面接)について述べている「第2章 男女の就職と初期キャリアの形成」です。ここでは、女子学生が資料請求や説明会で不利な扱いを受けた例や、言動によるセクハラ(「男と遊び放題だね」や「周りの男がほっとかないでしょう」など)の例、そして、圧迫面接に関する予備知識を持たなかった女子学生が、徹底否定と人格攻撃を受け、深い自己嫌悪に陥り、パニックのまま帰途に着き、踏み切りで飛び込もうと電車を待っているところで我に返り、その後も10週間近い不眠と食欲不振に陥った、という例です。最後の例は必ずしも女性に限らない話ではありますが、圧迫面接の後には面接の意図を説明する「ディフリージング」(種明かしをして心理的負担を取り除くこと)を行わなうべきである、という著者の意見には同感です。


■ どんな人にオススメ?

・ジェンダーにまつわる問題で途方にくれている人。


■ 関連しそうな本

 赤岡 功, 長坂 寛, 渡辺 峻, 筒井 清子, 山岡 煕子 『男女共同参画と女性労働―新しい働き方の実現をめざして』 2005年09月08日
 ロザベス・モス カンター (著), 高井 葉子 (翻訳) 『企業のなかの男と女―女性が増えれば職場が変わる』 2005年10月11日
 八代 尚宏 『日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済』 2005年03月23日
 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』 2005年04月05日


■ 百夜百マンガ

あたしンち【あたしンち 】

 新聞マンガと言えば、「コボちゃん」や「ののちゃん」などがアニメ化されていますが、日曜版からアニメ化された例は少ないのではないかと思います。

2005年12月 5日 (月)

ビジネス・アーキテクチャ―製品・組織・プロセスの戦略的設計

■ 書籍情報

ビジネス・アーキテクチャ―製品・組織・プロセスの戦略的設計   【ビジネス・アーキテクチャ―製品・組織・プロセスの戦略的設計】

  藤本 隆宏, 青島 矢一, 武石 彰 (編集)
  価格: ¥3,045 (税込)
  有斐閣(2001/04)

 本書は、「全体をどのように切り分け、部分をどのように関係づけるか」を意味する「アーキテクチャ」という概念によって、企業行動に対する理解を深め、今まで見えなかったものを見えたり明瞭にしようとするものです。モジュール化やオープン化といった概念を用いることで、様々な企業行動のよりクリアに見ようとしています。
 本書は、研究者だけでなく、企業経営者などの実務家を交え、アーキテクチャという概念そのものについて論じるとともに、半導体産業、自動車産業、金融業、海運業、ソフトウエア開発、携帯電話端末開発、工作機械などの様々な実証研究をベースに、アーキテクチャやモジュール化、オープン化などの概念を用いて分析を行っています。また、同じ自動車部品であっても「擦り合せ型(インテグラル型)」と「組み合わせ型(モジュール型)」の二つのタイプが部品によって使い分けられていることや、同じ製品であってもインテグラル型とモジュール型の二つの製品アーキテクチャが反復して使われるなど、アーキテクチャの使い分けに関する議論も進められています。
 本書は総勢17名の執筆者による論文集であるために、お目当ての論文に当たるかどうかは運次第ですが、本書をカタログ的に読んでみて、関心が一致する論文があればその執筆者の他の論文に当たってみるという読み方もできるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 アーキテクチャに関しては、各構成部品間の擦り合せを念入りに行う自動車産業がインテグラル型で、インターフェースが共通化され、各構成部品間の干渉が少ないパソコン産業がモジュール型、という典型例で語られる機会が多くあります。また、日本が得意とするのは部門間の調整を要するインテグラル型という話もよく聞きます。しかし、本書をそれをさらに進め、インテグラル型とモジュール型との境界は絶対的なものではなく、製品開発の進化の段階などによって、相互に揺れ動くものであることを示しています。
 このことによって「擦り合せ型のものづくりは日本のお家芸」という単純化された議論から抜け出すことができれば、本書の意義は大きいのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・モジュール化やオープン化などの概念を理解したい人。


■ 関連しそうな本

 キム・クラーク, カーリス・ボールドウィン (著), 安藤 晴彦 (翻訳) 『デザイン・ルール―モジュール化パワー』
 青木 昌彦, 安藤 晴彦 (編著) 『モジュール化―新しい産業アーキテクチャの本質』 2005年04月22日
 安藤 晴彦, 元橋 一之 『日本経済 競争力の構想―スピード時代に挑むモジュール化戦略』 2005年05月17日
 浅沼 万里 (著), 菊谷 達弥 (編集) 『日本の企業組織 革新的適応のメカニズム―長期取引関係の構造と機能』
 オリヴァー・E.ウィリアムソン 『市場と企業組織』 2005年04月19日


■ 百夜百マンガ

陸軍中野予備校【陸軍中野予備校 】

 本書の第6巻はなかなか出版されなかったことで有名で、作者自身が他の作品(○○ハンター)の中でもネタにしていたくらいでした。
 先日、古本屋で見かけて喜んで買ってみたら5巻でした。ショックです。

2005年12月 4日 (日)

サクラ、サク

■ 書籍情報

サクラ、サク   【サクラ、サク】

  藤原 和博
  価格: ¥1,260 (税込)
  幻冬舎(2005/04)

 本書は、13歳にして「初の中学生校長」になってしまった主人公サクラの目を通した「中学校のカイゼン」の物語であり、「もっともやさしい経営(マネジメント)の教科書」です。本書に登場するエピソード(校長室開放、校庭の芝生化、図書室改造など)は、民間人出身の校長である著者自身の杉並区立和田中学校での経験がベースになっているそうです。
 13歳の中学生が校長先生、という設定は、先入観なしで子供の視点で中学校の「しきたり」を見直すという面ではいい設定だと感じます。表紙や挿絵を中学生によく読まれている『バッテリー』等で知られる佐藤真紀子氏が担当しているので、中学生自身が読んでも抵抗なく読めるんじゃないかと思います。
 ただし、自分で何かを決めようとしても、そのための知識や経験はありません。あるのは、生徒たちと同じ目線から見て感じた「なぜ?」だけです。だからサクラは色々な人に相談しながら考えます。先生たちや生徒たち、用務のオジサンやPTAや町会長さんや近所の住民、そして自分の「お父さん」から話を聴き、相談しながら物事を決めていきます。これは、全くの畑違いの分野から教育の世界に飛び込んだ著者自身がやってきたことだと考えられます。
 もしかすると、著者が中学生を主人公に設定した意図は、ビジネスマンとしての経験や知識、人脈があるから中学校の改革ができるのではなく、中学生でもできるような当たり前のことをやって当たり前に考えただけですよ、民間企業での経験の有無なんかは改革をやらない言い訳にはできませんからね、というところにあるのかもしれないと感じました。


■ 個人的な視点から

 本書の要所要所に出てくるサクラの「お父さん」ですが、これはおそらく著者自身ではないかと思います。つまり、「仮に自分の息子が自分の代わりに校長先生をやったとして、欠けている所は何だろう?」ということで、ビジネスの知識の部分をフォローしてあげている感じです。
 こういう設定の仕方だと、校長先生以外にも色々考えられそうです。例えば、「自分の代わりに大学生の娘が課長になったとしたら欠けている所は何だろう?」とかです。・・・困らなかったりして? もちろん、社内の人脈とかしきたりに関する知識は欠けているかもしれませんが、その分謙虚に人に相談できたり教えてもらったりすることで、かえってうまく行くかもしれない。そうなったら、自分にしかない価値や築き上げてきたものは何か、という問いに正面から向き合わなければならなくなります。
 よく、他の人の立場になって考える、ということは言われますが、「他の人が自分の立場になったらどう考えるか?」という実験はおもしろそうです。特に、自分より値が張る人(尊敬する偉人や上司、先輩など)がもし自分の立場ならどうするか、ということは考えても、部下・後輩や子供が自分の立場ならどうするか、ということを考える機会は少ないと思います。


■ どんな人にオススメ?

・自分の仕事を客観的に見てみたい人。


■ 関連しそうな本

 藤原 和博 『公立校の逆襲 いい学校を作る!』 2005年06月17日
 藤原 和博 『世界でいちばん受けたい授業―足立十一中『よのなか』科』
 あさの あつこ 『バッテリー』
 藤原 和博 『世界でいちばん受けたい授業―足立十一中『よのなか』科』
 藤原 和博, 天野 一哉 『民間校長、中学改革に挑む』
 藤原 和博 『父生術』 2005年06月12日


■ 百夜百音

Make Me Happy【Make Me Happy】 MOMO オリジナル盤発売: 2000

 ポストペット昔使ってましたが、やっぱりメーラとしての機能は期待できず、メインはEudoraに乗り換え、だんだん使わなくなってしまいました。ちなみに今はBecky!愛用者です。現在のメールの量をポストペットでやり取りすると考えたら恐ろしいです。
 モモのCDも大好きだったのですが、娘にも気に入られてしまったために、ひどい状態になってます。縁とか割れてるし・・・。


『ジェリー・トーンズ』ジェリー・トーンズ

2005年12月 3日 (土)

メリーゴーランド

■ 書籍情報

メリーゴーランド   【メリーゴーランド】

  荻原 浩
  価格: ¥1,785 (税込)
  新潮社(2004/07/01)

 本書は、過疎の町の寂れたテーマパーク「アテネ村」のリニューアルのために、三セクに出向になった市役所職員の悲しくもハチャメチャな奮闘を描いた小説です。東京のメーカーで過労死と隣り合わせの毎日を送っていた主人公の遠野は、同僚の自殺(遺書には仕事の引継ぎが書かれていた)をきっかけに故郷の市役所にUターン就職し、妻と2人の子どもに囲まれ、明るいうちからリビングでビールを飲む生活に落ち着きます。その遠野の新しい仕事は、市長の公約であるテーマパーク再建に取り組んでいるポーズのための「案山子」でした。
 市役所のOBや地域の有力者たちが寄り集まった出向先「ペガサスリゾート開発」の、全ての価値観が明後日の方向を向いた「逆さまの世界」に放り込まれた遠野の頭の中で、忘れかけていたゴングの音とロッキーのテーマが蘇ります。そして、遠野が藁にもすがる思いで(本物の藁の方がましだったかも)ダイヤルした先は・・・。というのがあらすじです。
 お役所を舞台にした小説(「県庁の星」とか)ではお約束の、戯画化した「お役所仕事」の描写もありますが、本書ではオマケ程度で、遠野の前に立ちふさがるのは、田舎のしがらみを煎じ詰めたようなペガサスリゾート開発の役員達です。彼らを前にした遠野の頭の中で、「カン」とゴングが鳴り、8年間の市役所生活で忘れていた闘争心を剥き出すシーンは個人的に本書で一番好きな場面です。
 しかし、肝心のアテネ村リニューアル自体は、遠野の努力とアイデアが図に当たってお客が増えただけという感じなのが残念でした。遠野とチームを組む「アテネ村リニューアル促進室」じゃなくて「推進室」のメンバーもアテネ村のスタッフも、そしてハチャメチャな「ふたこぶらくだ」の面々も単なる舞台装置に過ぎず、アテネ村の再建には一人一人の成長や気づきはありません(脱皮というか弾けちゃったオタク青年クリエイターの沢村を除けば)。また、浮世離れしたキャラクターがドタバタの乱痴気騒ぎを繰り広げても意外性がなく、目玉のシーンが安易な造りに感じました。
 そして、本書は舞台こそ過疎が迫る田舎ですが、都会の人間(=遠野)から見た表面的な田舎でしかないように感じます。描かれている「田舎のしがらみ」も、仕事や政治など男の目から見たしがらみでしかなく、人間関係そのものは舞台を都会に移しても違和感はなさそうです。
 とは言いながらも、読み始めたら止まらないテンポとストーリーに引き込まれ、つい夜更かしをして一気に読んでしまいました。


■ 個人的な視点から

 本書のなかでもリアリティがあるのは、ペガサスリゾート開発で、地元の小さなイベント企画会社がプレゼンをする場面です。これは、作者の広告会社勤務の経験をデフォルメしたものではないかと思いますが、あながち笑えないです。私自身は、イベント会社の側とプレゼンを聞く側の両方の経験がありますが、D通やH報堂の名刺を持っていても実際には下請けの小さなイベント会社やデザイン事務所であることがほとんどです。
 本書では三セクテーマパークのルーズな運営が笑いの種の一つですが、元々「興行」系の仕事は大雑把な点は民間企業が経営するテーマパークでもあまり変わりません。昔、イベント会社で子供ショーをやっていたときには、「おはようございます。H報堂です。」と名乗ってましたし、遠隔地に出向く屋外のイベントでは、現地に着いてしまえば雨天中止になってもギャラが出るので、天候が崩れるとニコニコしながら「残念ですねぇ」と言って帰ってきてました。その代わり舞台の運営には厳しく、「着ぐるみに入ったら中腰が基本、膝を伸ばしてはいけない。」、「裏方は客に見られていることを意識して行動するな。」、「着ぐるみには必ず1人以上サポートがつき、子供に中の人を見られてはならない。」など、色々と叱られました。
 その後、今の仕事ではイベントやポスターを発注する側になり、副業で劇団をやっている企画会社(本人にとってはこっちが副業か?)の人とイベントをやったり、CMやポスター作ったりしましたが、本書の中でも出てくるような「この文字の大きさがおかしい」とか「色合いがイメージと違う」等は現実にありました。また、地元ローカルテレビの情報番組に着ぐるみを着て出演したり、ニュース番組やミニFM局に出演したりと、本書と似たような経験もしたので親近感が湧きます。


■ どんな人にオススメ?

・長いことゴングの音を聞いていない人。


■ 関連しそうな本

 桂 望実 『県庁の星』 2005年09月23日
 三崎 亜記 『となり町戦争』
 重松 清 『いとしのヒナゴン』
 斐昭 『不滅の「役人天国」』
 末弘 厳太郎 (著), 佐高 信 (編集) 『役人学三則』


■ 百夜百音

ロッキー【ロッキー】 サントラ オリジナル盤発売: 1995

 闘争心のテーマ曲がロッキーというのも何だか安易な感じがしますが、「やめんかお前らロッキーか?」の方を思い出してしまって闘争心どころじゃなくなってしまう人もいるわけですよ。


『ゲームボーイズ』ゲームボーイズ

2005年12月 2日 (金)

ネットワーキング・コミュニティ

■ 書籍情報

ネットワーキング・コミュニティ   【ネットワーキング・コミュニティ】

  池田 謙一
  価格: ¥3,570 (税込)
  東京大学出版会(1997/10)

 本書は、インターネットやパソコン通信という電子コミュニケーションの手段によって、どのようなコミュニティが生まれるのか、そこでの人間の行動はどのようになるのか、ということを、社会心理学の理論と調査手法によって分析したものです。
 本書の出版は1997年であり、当時爆発的に利用者を増やしていたインターネットに関する記述も見られるものの、まだ研究は蓄積されておらず、インターネット利用者の属性(第8章)やペンティアムの浮動小数点演算ユニットの欠陥事件(第9章)などはアメリカの事例に負うところが大きく、日本国内の分析は主にパソコン通信、特に本書の元になった「ネットワーク・コミュニティ研究会」に協力したニフティサーブでの調査を中心に行われています。ネットの世界は、その匿名性の高さや、本人が積極的でないと参加できないというハードルの高さ(特に当時は)のために、その参加者の属性をつかむことは困難ですが、本書は(株)ニフティの協力を得ることで、ニフティサーブ・ユーザの無作為抽出により、100万人の会員中からランダムサンプリングで郵送法により調査し、2264(回収率45%)のデータを得るなど、ネットと実社会を上手く使い分けてた調査を行っています。これも、パソコン通信を調査対象とした利点ではないかと思います(2ちゃんねるユーザの属性調査とかやろうとしても難しそうです。)。
 本書で最も重点が置かれているのは、「第2部 パソコン通信世界の展開」です。ここでは、ネットワーク参入のストレスとして、
・メッセージ・ストレス:自分にとって理解不可能・常識が異なるメッセージ。
・対人ストレス:ぎすぎすしたメッセージや馴染みにくい参加者等。
・情報のオーバーロード:どのメッセージが信用できるかが判断できない。
・匿名性のストレス:制度レベルのリアリティの欠如と匿名他社との親和感・信頼感の難しさ。
の4点を挙げています。これらは、現在のインターネット上でもそのまま当てはまりそうです。
 また、電子会議室の分析では、参加者のタイプを「ROM型」(6割)、質問型(2割)、積極型(2割)に分類した上で、会議室の規模が大きすぎることによる情報オーバーロード・ストレスが、ROM型は規模の拡大によって高まりやすい一方で、質問型と積極型は逆に低下することを分析しています。
 ネットを通じて、実社会とは別の「情報縁」という関わりを持つ人が多くなった現在、本書の研究成果を発展させ活用する機会はますます増えているのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 以前、私が参加しているメーリングリストの発言数の偏りを調べてみた(と言ってもBecky!にプラグインを入れただけですが)ことがあるのですが、例えば「行政経営フォーラム」のMLでは、発言の80%は参加者の1割である54人によって発言されていることが分かりました。一方1年間全く発言しなかった参加者は約6割で、本書での電子会議室の分析に近い傾向が出ています。また、規模の異なる「自治体職員有志の会」のMLでも、やはり発言の8割は参加者の1割である20人によって発言されていました。参加者数がある程度少なくなると、発言者の偏りは和らぎ、参加者70名のMLでは発言の8割が参加者の3割からとなっています。
 このときには、ROMが多いのは選挙における投票率の低さと同じように、参加者の関心の低さを表しているものだと思っていましたが、最近様々な本を読むと、ROMであっても自分の関心のある議論や情報をきちんと丹念に読んでいる人が多い、ということが書かれていて、一定割合のROMがいることはMLとしてむしろ当たり前のことだと思うようになりました。
 ということは、選挙の投票率が低いこと自体は、必ずしも政治への関心の低さを意味しない、ということもありえるのでしょうか。この点については意見の分かれるところだと思います。


■ どんな人にオススメ?

・ネット上の社会の成り立ちを知りたい人。


■ 関連しそうな本

 パトリシア ウォレス (著), 川浦 康至, 貝塚 泉 (翻訳) 『インターネットの心理学』 2005年10月15日
 安田 雪 『ネットワーク分析―何が行為を決定するか』 2005年10月13日
 アダム N.ジョインソン (著), 三浦 麻子, 畦地 真太郎, 田中 敦 (翻訳) 『インターネットにおける行動と心理―バーチャルと現実のはざまで』
 金子 郁容, VCOM編集チーム 『「つながり」の大研究―電子ネットワーカーたちの阪神淡路大震災』
 川上 善郎, 高木 修 『情報行動の社会心理学―送受する人間のこころと行動』 2005年11月19日


■ 百夜百マンガ

のんのんばあとオレ【のんのんばあとオレ 】

 NHKかなにかでドラマになった作品じゃなかったかと思います。
 今の日本人の多くが、子供の頃から水木しげるの書く妖怪図鑑で妖怪のイメージを作ってきたのではないかと思います。

2005年12月 1日 (木)

仕事の社会学―変貌する働き方

■ 書籍情報

仕事の社会学―変貌する働き方   【仕事の社会学―変貌する働き方】

  佐藤 博樹, 佐藤 厚 (編集)
  価格: ¥2,100 (税込)
  有斐閣(2004/12)

 本書は、就業者の85%が雇用者が占める「雇用社会」である日本社会を分析対象とした社会学のテキストです。主に学生を対象に、基本となる先行研究から最新の研究成果までをカバーしています。
 本書の内容は、キャリアデザインから技術革新、職場における性別、就業意識、非典型雇用などの企業内部のテーマの他に、入り口と出口に相当する「就社」、失業と転職、引退など企業組織と外部との接点、そして、生活と仕事の時間配分や「会社人間」の問題という仕事と生活のバランスの問題まで、多岐にわたっています。
 全11章のそれぞれについて、15ページ程度の概要の説明とともに、ゼミで議論するための論点の提示、基本文献案内がそれぞれまとめられており、大学での講義やゼミで扱いやすいものになっているのではないかと思います。
 また、社会人にとっても、仕事や働き方に関する基本的な論点がコンパクトにまとめられた一冊として便利なのではないでしょうか。


■ 個人的な視点から

 本書は、「仕事の社会学」というタイトルがついていますが、内容的にも、また執筆陣の顔ぶれからも、人事管理の経営学や労働経済学のテキストと言っても差し支えないようなものではないかと思います。ただし、よくある経営学のテキストに比べると、雇用者自身に焦点を当てた書かれ方をしているので、キャリアデザインやワークライフバランスに関心がある人は、このテキストから読んだ方が馴染みやすいのではないかと思います。
 社会学的なアプローチに入る前段階としての基礎知識、といった趣で、社会学らしさが出るのは紹介されている基本文献からではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・「社会学」というタイトルに食わず嫌いをしてしまう人。


■ 関連しそうな本

 小池 和男 『仕事の経済学』
 小池 和男, 猪木 武徳 (編著) 『ホワイトカラーの人材形成―日米英独の比較』 2005年11月04日
 ロザベス・モス カンター (著), 高井 葉子 (翻訳) 『企業のなかの男と女―女性が増えれば職場が変わる』 2005年10月11日
 M グラノヴェター (著), 渡辺 深 (翻訳) 『転職―ネットワークとキャリアの研究』
 田尾 雅夫 『会社人間はどこへいく―逆風下の日本的経営のなかで』 2005年02月27日
 玄田 有史 『仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在 中公文庫』 2005年07月20日


■ 百夜百マンガ

六三四の剣【六三四の剣 】

 東北弁の台詞がいい感じです。連載当時は、剣道部やスポーツ少年団に入る人が増えたような気がします。
 剣道部の人に防具を着けさせてもらうと手が臭くなるのが難点です。

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