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2005年12月 8日 (木)

日本型「成果主義」の可能性

■ 書籍情報

日本型「成果主義」の可能性   【日本型「成果主義」の可能性】

  城 繁幸
  価格: ¥1,575 (税込)
  東洋経済新報社(2005/04/15)

 本書は、ベストセラーとなった前著『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』でのスキャンダラスな内部告発調の成果主義批判を、著者自らが「毒消し」しているものです。こう書くと何やら批判を受けて言い訳をしているようですが、正しく書くならば、「前著で本来書きたかったこと」+「前著に対する批判やその後の学習で理解したこと」をまとめたものではないかと思います。と言うのも、おそらく前著はベストセラーになったものの、著者にとっては満足のいくものではなかったのではないかと思うからです。
 前著を執筆した段階では、「この事実を世間の人々に知ってもらいたい」という思いも強く、また無名の元サラリーマンでしかなかった著者にとっては、出版すること自体が重要であり、出版社・編集者の意向には逆らえず、スキャンダラスな内容にならざるを得なかったのではないかと推測します。何しろ編集者に逆らって出版そのものが没になってしまったら身も蓋もありません。そのため、富士通への悪意に満ちた、怨嗟が渦巻くような内部告発本として仕上がってしまったのではないでしょうか。「売れる本を作る」という観点からは、この路線で編集されたのはしかたなく、ことさらに編集者を責める気はありません。しかし、著者としては、この一冊で「成果主義批判の旗手」のようなレッテルを貼られ、新聞や雑誌でコメントを求められ(しかも都合のよい一部のみが掲載され)、成果主義批判を期待した労組の講演に呼ばれることは辛かったのではないかと想像します。
 本書は、そのような誤解を解き、富士通に象徴される日本のこれまでの「成果主義」の問題点を整理し、「ではどうしたらいいのか」という問いに対する著者としての答えを提示するために書かれたものであると考えられます。前著では、富士通の制度の片棒を担いでいた人間が欠点をあげつらうような書き方が鼻につきましたが、本書ではそのようなタッチの記述は極力抑えられ、富士通(「私の知る企業」のように書かれていますが)に言及する場合も極めて客観的に問題点を指摘していて、著者のクレバーさがにじみ出ています。
 中でも、「目標管理制度の大前提」として挙げている、
(1)目標が数値目標化できる。
(2)目標のハードルが同じ高さ。
(3)常に目標が現状にマッチしている。
(4)評価の際、達成度だけで絶対評価が可能。
の4つの項目は、非常にシンプルでわかりやすく、また、この中のどれが欠けても「制度自体が形骸化してしまう」という言葉には、元人事担当者としての説得力(「形骸化できる自信がある」と言い換えてもいいでしょう。)があります。
 また、前著では恨み辛みの言葉ばかりが目についた(だから売れたのですが)「成果主義」批判も、本書では「成果主義」の問題点を、
・実態として年功序列制を温存した形ばかりの「成果主義」
・評価者としての訓練を受けず、「報酬」としてのポストを得た中高年の管理職
という、きちんと整理された形(前著でも同じ内容を指摘してはいるのですが)で指摘しています。
 著者は、日本企業にとって成果主義の導入自体は避けて通ることができず、おかしな形で捻じ曲げて運用していることに問題があるとして、本来目指すべきだった成果主義の例の一つとして、チョコレートのメリー社の事例を紹介するとともに、制度を捻じ曲げ、成果主義には不可欠な現場マネジャーへの権限移譲を拒んできた「人事部」を批判しています。
 本書だけしか出版していなかったら売れなかったでしょうが、実務と理論のバランスの取れた「成果主義」論を展開している本書は、この手の本を初めて手にする人にとってはお奨めの一冊です。また、前著『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』だけしか読んでいない人は、「毒消し」(解説編)である本書を併せて読まれることをお奨めします。


■ 個人的な視点から

 本書を「解説編」と位置づけたものの、理論的に綿密に書かれているかというと、あくまで現場での問題意識に立脚したものであることに説得力があるのだと考えます。成果主義と現場への権限委譲はセットであるべき、という話も、青木昌彦氏の「A型企業とJ型企業」の比較における「双対性原理」(組織が有効であるためには、情報構造の分権性/集権性は、人事管理の集権性/分権性と対になっていることが必要である。)を引っ張ってきたと言うこともできますが、現実の問題点指摘とセットになっていることで説得力を持ちます。
 著者の主張が、「年功制回帰」ではなく、むしろ「成果主義」の仮面をかぶった「隠れ年功制」の問題点を指摘するものであることに失望する人も多いかもしれません(労組の講演には呼ばれなくなるかも・・・)。あくまで「正しい成果主義」を模索する必要があることを主張していますが、その答え自体が本書に書かれているわけではありません(タイトルも「可能性」です。)。そのことをもって、「答えも持っていないくせに」と批判する人もいるかもしれませんが、大きな目で見ると、著者が批判しているのは、「どこかに正しい答えが用意されていて、金さえ払えば手に入れることができる」という(人事部を含めた)態度そのものなのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・前著しか読んでいない人。
・この手の「成果主義本」を初めて手にする人。


■ 関連しそうな本

 城 繁幸 『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』
 高橋 伸夫 『虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ』 2005年3月30日
 高橋 伸夫 『〈育てる経営〉の戦略―ポスト成果主義への道』 2005年06月16日
 青木 昌彦 (著), 永易 浩一 (翻訳) 『日本経済の制度分析―情報・インセンティブ・交渉ゲーム』 2005年04月01日
 都留 康, 阿部 正浩, 久保 克行 『日本企業の人事改革―人事データによる成果主義の検証』 2005年06月24日
 溝上 憲文 『隣りの成果主義』


■ 百夜百マンガ

ボーダー【ボーダー 】

 「カリブ・マーレイ」というペンネームに、ドレッドヘアの人を想像してしまいますが、大昔に見た雑誌のインタビューでは見た目普通の人でした。他の作品含めてですが、チャランポランっぽく見えるキャラクターが急に目が据わって人生語りだしちゃったりします。

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