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2005年12月29日 (木)

戦後日本の公務員制度史 「キャリア」システムの成立と展開

■ 書籍情報

戦後日本の公務員制度史 「キャリア」システムの成立と展開   【戦後日本の公務員制度史 「キャリア」システムの成立と展開】

  川手 摂
  価格: ¥5,250 (税込)
  岩波書店(2005/11/09)

 本書は、現在の国家公務員の人事・給与制度、特に「キャリア・システム」と「給与法体制」が戦後どのような経緯を経て形作られてきたかを、雑誌記事などを含む当時の資料を掘り起こすことで紐解いていったものです。著者は現在東京市政調査会の研究員をされている方ですが、本書は著者の修士論文をベースにしたものです。
 本書は、中央省庁において強固な身分制度を形成しているキャリア・システムがどのような根拠を持っているのか、という点を出発点に、戦後の公務員制度においてGHQの強固な意志のもとで導入が進められた「職階制」の栄光と挫折、そして戦後の狂乱インフレと過激化する労働運動の中、どのように現在の給与法体制が形成されて行ったかを丹念に追い、キャリア・システムが、複数の人事・給与制度のインフォーマルな運用によって現在の形になったことを明らかにしています。
 まず、職階制については、国家公務員法、人事院とともに、戦前の管理制度の特権性を排除するために、GHQによって強力に導入されようとして持ち込まれました。しかし、いかにGHQと言えど、戦前から強固な基盤を維持し続けてきた高等文官たちの激しい抵抗によって、職階制度は見る見るうちに骨抜きにされていきます。新しく設置された人事院は、GHQの後ろ盾で強引に職階制を中心とした科学的人事行政を進めようとしますが、後述されている「S-1試験(エスワン試験)」の失敗などで各省庁の高文官僚を完全に敵に回し、次第に影響力とともに職階制への意欲も失っていきます。結局職階制は実施に移されぬまま、昭和28年以降は職階制に関する業務らしい業務も無くなり、昭和23年以来筆頭課であった「職階課」は、昭和35年に筆頭課の座から転落し、その後も数十年間仕事のないまま組織が維持され続けた後、平成3年に廃止され、たった一人残った職階制を担当する「職務分類官」というポストも現在では廃止されているという状況であることが述べられています。
 また給与法については、上記の職階制が急速に姿を消していく代わりに、任用制度を掌握する機能を果たす「給与法体制」がどのように生まれ成長して行ったかが述べられています。終戦直後の急激なインフレの中で、戦前の給与制度をベースに「臨時家族手当」や「越冬資金」、「臨時物価手当」などのパッチを当ててしのぎながら、新しい給与制度を模索していますが、この中で「学歴資格別勤続年数別標準号俸」という表が作られています。中でも、同じ大卒の中でも官大と私大卒、そして高等試験に合格したか否かが明確にアルファベットで区分され、「M 官公立大学を卒業して高等試験に合格した者」という区分がある点に著者は着目しています。また、GHQが導入しようとした職階制の代わりに、給与局の当事者自らも「インチキ職階制」と呼ぶ職階給制が導入され、15等級制→8等級制→11等給制と形を変えながら、給与法体制が確立して行く様が述べられています。
 これらの制度の成立過程を踏まえたうえで、現在のキャリア・システムがどのような経緯によって成立してきたのか、という点について、著者は、キャリアのスピード昇進を可能にしている「8割規程」と「6級補佐」という運用慣行を指摘しています。まず、「8割規程」とは、「特に成績が優秀な職員の昇格について、通常定められた年数の8割という短い年数でこれを認める旨の規程」と解説されています。しかしながらこの規程は、実際にはキャリア組に機械的に適用され、インフォーマルな人事慣行としてのスピード昇進を可能にしていることが指摘されています。これでも、先輩に当たる高文組に比べて課長になるまでの年数は国家公務員試験採用組の方が遅く、その中でも国公立大出身者と私立大出身者との間には課長になるまでに2年の差が生じていることが述べられています。また、「6級補佐」とは、給与上の級と任用上のポストを結びつけた「級別標準職務表」をあくまで「標準」的な職務を示したものとして、給与上は係長級のままで、課長補佐として任用することで、前の世代との均衡を保ち、早い段階で責任を持たせて職務能力を高めようとするもので、これもキャリア・システムの形成しているインフォーマルな人事慣行の一つであると述べています(その後、資格基準表の必要年数に達するとポストはそのままで昇格させることを「居ながら昇格」という)。同様の趣旨で、旧通産省では、係長に昇格する1年前に3級のまま係長ポストで働かせる「3級係長」が存在することが述べられています。
 本書は、近年特にその弊害が指摘されることの多い「キャリア・システム」が、複数のインフォーマルな人事運用を組み合わせることによって、高文組に引き続く「特権階級」を生み出す仕組みを作っていることを、戦後の公務員制度成立過程を丹念に追うことで分析しているもので、公務員制度の成り立ちを概観するには便利な一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書の中でも特に目を引くのは、「第4章 給与等級試験」で述べられている「S-1試験」に関する記述です。この「S」とはSuperviser(監督者)を「1」は第1回目であることを示しています。この試験が行われるきっかけは、GHQのフーヴァーが示した国家公務員法案に「時間、長官、次長、局長、局次長、および、(臨時)人事院がそれらと類似すると認め、指定したその他の管理職の地位は、ここに、空位でありその地位に就く者が存在しないことを宣言する。ただし、この法律に定められる、空位を補充するための試験が行われるまでは、現在それらの地位にある者を1947年5月3日以降、臨時的に任用されたものとみなす。(臨時)人事院はこの法律の発効日から2年以内に、それらの空位を補充するための試験を行うことに最大限の努力を傾ける義務を負う。試験は、この法律が規定する採用試験として行われなければならない」という規定があったことです。各省は、この規定の骨抜きを図り、試験の他に「選考」による採用も可能にしようと試みますが、GHQに阻まれます。
 そしてこの試験は、空位官職への公開競争試験として実施され、任用資格認定・筆記試験・身体検査・人物考査の4つの段階が設けられます。人事院は昭和24年11月12日に試験の対象となる2621の官職(本省庁の課長相当以上・地方支分部局の部長相当以上)を指定し、試験が公示され12月24日までが申し込み受付期間とされました。述べ申込者数は1万2206名(重複を除くと8076名)に及び、翌年1月に全国14箇所で1次・2次の筆記試験が行われます。この試験は「実力試験」という趣旨から制限時間や途中での休憩や食事も可能というもので、明治大学の試験会場では深夜0時まで3名が粘ったそうです。
 この試験の結果、官僚の多く(4人に3人)はその地位にとどまる「御墨付き」を得ることができ、民間人が合格しても人事院の担当者からの「辞退工作」が行われたとの噂も立ったそうです。
 そして、この試験によって人事院は各省庁から決定的に恨みを買うことになり、当時の職階制導入をさらに困難にしていったことが述べられています(当時の人事院事務総長は、ある省の人事主任官から「あなたは畳の上では死ねないよ」と吐き捨てられたそうです。)。
 現在の公務員制度に関する議論の中でも、幹部職員の政治任用や民間人からの登用ということが話題に上がりますが、50年以上経った今でも、同じような私怨に近い反感を顕にする人が多数いるのではないかと想像します。


■ どんな人にオススメ?

・現在の公務員制度、特にキャリア・システムの成立過程を概観したい人。


■ 関連しそうな本

 稲継 裕昭 『日本の官僚人事システム』 2005年02月10日
 稲継 裕昭 『公務員給与序説―給与体系の歴史的変遷』
 西村 健 『霞が関残酷物語―さまよえる官僚たち』
 新しい霞ヶ関を創る若手の会 (編集) 『霞ヶ関構造改革・プロジェクトK』 2005年12月22日


■ 百夜百マンガ

現在官僚系もふ【現在官僚系もふ 】

 財務省だからまだ主人公の名前が「茂夫」でいけると思うですが、農林水産省だと「真夫」?、経済産業省だったら「芽智」とかになるのでしょうか?
 国土交通省とか文部科学省だと想像もつきません・・・。

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