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2006年1月

2006年1月31日 (火)

リーダーシップ論―いま何をすべきか

■ 書籍情報

リーダーシップ論―いま何をすべきか   【リーダーシップ論―いま何をすべきか】

  ジョン・P. コッター (著), 黒田 由貴子 (翻訳)
  価格: ¥2,520 (税込)
  ダイヤモンド社(1999/12)

 本書は、「組織を動かす仕事」について、「リーダーシップ」と「マネジメント」の違いを明らかにしながら、それらの組合せによる経営について述べているものです。
 著者は、「リーダーシップ」と「マネジメント」は別物であり、その両者を組み合わせることが必要とされているとし、現在のアメリカ企業では、マネジメントの過剰とリーダーシップの不足に陥っていると指摘します。著者はこの両者の違いを、軍隊を例にして説明しています。平時には、階層の上から下までマネジメントが行き届いていれば軍隊は生き残ることができるのに対し、戦時には、マネジメントだけでは状況に対応できず、あらゆる階層でリーダーシップが必要になると述べています。
 本書は、マネジャーの仕事に関して、「分業」と「経営資源の有限性」という2つの課題のために、上司、部下、同僚、仕入先、顧客などに依存する関係があることをしています。そして、この依存関係の中でパワーを確立するための方法として、(1)恩義を感じさせる、(2)専門家としての評判を高める、(3)周囲の人々に一体感を感じさせる、(4)マネジャーに依存していることを自覚させる、の4つを挙げています。
 また、「上司をマネジメントする」というテーマも目を引きます。何やら、野心家の政治的な動きを連想させますが、ここではは、「自分や上司及び会社にとって最善の成果を得るために、頭を使いながら上司と仕事を進めていくプロセス」であるとしています。
 その他、ミンツバーグの『マネジャーの仕事』と近い内容ですが、ゼネラルマネジャーの一日を日記風に追いながら、マネジャーが、不確実な状況の中で大量の情報の中からすべきことを明確にし、数多くの人たちの協力を得ながら仕事を成し遂げていることを指摘しています。


■ 個人的な視点から

 本書には、コッターの読者にはお馴染みの、「企業変革の八段階」も登場します。
 『企業変革力』とは多少表現が異なりますが、繰り返されると伝わりやすく感じます。
 1. 危機意識を高める
 2. 変革推進のための連帯チームを築く
 3. ビジョンと戦略を生みだす
 4. 変革のためのビジョンを周知徹底する
 5. 従業員の自発を促す
 6. 短期的成果を実現する
 7. 成果を活かして、さらなる変革を推進する
 8. 新しい方法を企業文化に定着させる 


■ どんな人にオススメ?

・リーダーシップの不足を痛感している人。


■ 関連しそうな本

 ジョン・P. コッター (著), 梅津 祐良 (翻訳) 『企業変革力』 2005年02月19日
 金井 寿宏 『リーダーシップ入門』 2005年03月31日
 ヘンリー ミンツバーグ (著), 奥村 哲史, 須貝 栄 (翻訳) 『マネジャーの仕事』』


■ 百夜百マンガ

最終兵器彼女【最終兵器彼女 】

 『いいひと。』のドラマ化では原作をボロボロにされたと非常に怒っていた作者ですが、今回の映画化(http://www.saikano.net/)に当たってはさぞかし積極的に関与して行ったのではないかと思います。同時に行われたノベライズの「原作者・高橋しん氏の圧倒的な監修を得て」というところからも想像されます。

2006年1月30日 (月)

民営化の戦略と手法―PFIからPPPへ

■ 書籍情報

民営化の戦略と手法―PFIからPPPへ   【民営化の戦略と手法―PFIからPPPへ】

  野田 由美子
  価格: ¥2,310 (税込)
  日本経済新聞社(2004/08)

 本書は、イギリスの民営化の手法が大きく発達した1990年代にロンドンに滞在し、民営化の最先端分野で多くの実績を持つ著者が、日本における民営化の戦略と手法について、各国の事例や、事業分野ごとの分析を含めて解説しているものです。
 日本における「民営化」という言葉に比べて、英語の「Privatisation」はより広範な意味を持つ概念として使われており、何らかの形態で「Private」が関与するものを指していることが述べられています。本書では、モンタナ州議会の調査報告書からPrivatizationの以下のような定義を引用しています。
・公的部門により供給されてきたサービスや施設の供給を民間に委ねること。
・公的部門により供給されてきた財・サービスを民間による供給に移管すること。
・政府が保有・運営している機能、資産、業務やサービスの提供を民間部門に移すこと。
・政府活動や公共サービスの提供に関して民間部門を活用すること。
・市場メカニズムを通じて公的機関を動機づけることにより効率化の阻害要因を緩和すること。
 著者は、「民営化の4つの視点」として、「所有、経営ノウハウ、資金、競争」を挙げています。
・「所有」の優位性:利益を最大化するという動機の存在。
・「経営ノウハウ」の導入:より効率的な事業運営、利便性の向上、収益の拡大など。
・「資金」の導入:柔軟な資金調達と税金を当てにしたモラル・ハザードの防止。
・「競争」の導入:公共組織体を民間企業との競争にさらす。
 本書では、民営化の主な手法として、「所有移転型」と「PPP型」の2つの大きな流れを挙げています。このうち、所有移転型民営化については、以下の3つの手法、すなわち、IPO、トレードセール、MBOが紹介されています。このうち、IPOはコストがかかる上、ディスカウントされうる傾向があるため、第三者への売却であるトレードセールの方が政府の収入面ではより適していることが述べられています。また、職員のモラル維持や経営の継続性などの観点ではMBOにメリットがあることも併せて解説されています。
 また、「PPP型」民営化手法としては、「政府や自治体などの公共主体が、公共サービスを提供するための運営権を民間に対して委譲し、民間が市場原理の下で公共事業を推進する手法」であるコンセッションや、類似した手法として、公共が施設・設備を整備し、民間がそれをリースして維持管理・運営を行うアフェルマージ、日本でも一般的に行われているアウトソーシング、PFIなどが紹介されています。
 この他、民営化のプロセスとして、集権型と分権型の推進組織が持つメリット・デメリットや主要各国の民営化の動き、各事業分野ごとの分析などが解説されています。
 本書は、市場化テストなどの各論での議論が盛んな現在において、民営化(Privatisation)の全体像をつかんでおくためにはうってつけの一冊となっています。


■ 個人的な視点から

 民間資本による社会インフラ整備というとなにやら新しい手法のようですが、日本でも社会資本の整備が民間資本によって行われてきました。親方日の丸の象徴のように言われている旧国鉄も元をたどれば各地で民間資本によって整備されてきた鉄道を戦前に国有化したものです。また、観光開発に関連して、箱根ターンパイク(東急電鉄の子会社)や熱海ビーチライン(三井観光開発)が整備されてきました。
 また、民営化すると過当競争に陥るという議論がありますが、本書では英国バス事業の民営化の過程で、ライバル会社との競争の中で、バス停までの到着を競ったり、ライバル会社に抜かれたくないために途中での降車を拒否したり、ライバル会社の時刻表にペンキを塗る、ライバル会社を利用する客を脅迫、ルートを変更して先回り、など、過激なライバル妨害の事例が紹介されています。
 さすがにここまで行くのは極端な話しだとは思いますが、笑い話として知っておいて損はないかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・「Privatisation」の全体像をつかみたい人。


■ 関連しそうな本

 八代 尚宏 (編集) 『「官製市場」改革』 2006年01月27日
 市場化テスト研究会 (著), 本間 正明(監修・著) 『概説市場化テスト―官民競争時代の到来』 2005年10月07日
 南 学, 小島 卓弥 編著 『地方自治体の2007年問題-大量退職時代のアウトソーシング・市場化テスト-』 2005年08月22日
 南 学 (編著) 『行政経営革命―「自治体ABC」によるコスト把握』
 大住莊四郎 『ニュ-・パブリック・マネジメント  理念・ビジョン・戦略』 2005年01月23日
 Ewan Ferlie, Lynn Ashburner, Louise Fitzgerald, Andrew Pettigrew 『The New Public Management in Action』


■ 百夜百マンガ

反町くんには彼女がいない【反町くんには彼女がいない 】

 オーソドックスな青春ものな感じの作品です。何気ない高校生の日常を大人も読める作品として描いています。

2006年1月29日 (日)

オープンソースソフトウェア―彼らはいかにしてビジネススタンダードになったのか

■ 書籍情報

オープンソースソフトウェア―彼らはいかにしてビジネススタンダードになったのか   【オープンソースソフトウェア―彼らはいかにしてビジネススタンダードになったのか】

  クリス ディボナ, マーク ストーン, サム オックマン (著), 倉骨 彰 (翻訳)
  価格: ¥1,995 (税込)
  オライリー・ジャパン(1999/07)

 本書は、オープンソース運動の主要人物たちによって書かれた「オープンソースとは何か?」をテーマとしたアンソロジーです。本書の執筆陣はオープンソース運動とGNUシステムの中心人物であるリチャード・ストールマンや『伽藍とバザール』などで知られるエリック・S・レイモンド、Linuxの産みの親リーナス・トーバルズなど多岐に渡ります。オープンソース・ソフトウェアはよく「無料」という意味の「フリー」という意味で受け取られることが多くありますが、本書で使われる「フリー」は「自由」という意味のほうで、「表現するのは自由(フリー)だが、ビールがロハ(フリー)になるわけではない」という区別されています。
 オープンソースの柔軟さを表しているのは、インターネット・エンジニアリング・タスクフォース(IETF)の意思決定の方法です。IETFは、インターネットの標準化を中心に活動しているボランティア団体ですが、そのモットーは、「コンセンサスは大ざっぱに、しかしコードは使えるものに」というものであり、ワーキンググループのメンバー全員の同意が得られなくても提案は採用されるが、「ラストコール」と呼ばれる二週間程度の猶予期間が設けられることが述べられています。
 また、ストールマンは、フリーソフトウェアの条件として以下の4点を示しています。
・いかなる目的のためにも、そのプログラムを自由に使用できる。
・自分の必要に応じて自由にプログラムを(ソースコードレベルで)書き換えることができる(ソースコードなしにプログラムを書き換えるのは至難の業である。それゆえ、この自由を行使するためには、ソースコードに自由にアクセスできなければならない)。
・無料/有料のいかんにかかわりなく、そのプログラムを自由に第三者に再配布できる。
・自分で改良・拡張を施したバージョンを自由に配布し、それによってコミュニティに利益をもたらすことができる。
 同じストールマンの章では、近年使われることの多い「コピーレフト(copyleft)」についても述べられています。コピーレフトとは、著作権法(コピーライト)のrightとleftを裏返しにしたもので、全てのユーザに対し、「プログラムの使用を許可するもの」であり、一方で、「ユーザ自身が制限条項を盛り込むことは認められていない」という制限があります。
 この他本書では、様々なイメージを縦横無尽に発散させるラリー・ウォールの「努力、忍耐、謙遜」や、ハードウェアでもソフトウェアでもない「情報アプリケーション」とでも呼ぶべき「インフォウェア」について述べたティム・オライリー、「プログラマの人数がN倍に増えると、こなせる作業量もN倍になるが、複雑さとバグの発生しやすさはNの2乗になる。」という「ブルックスの法則」をLinuxコミュニティが打ち破ったことを解説したエリック・S・レイモンドの「真のプログラマたちの回帰」等、多くの読み応えのあるエッセイが収められています。


■ 個人的な視点から

 世界的な権威ある大組織や主要企業があるわけでもないオープンソース・ソフトウェアの世界は、なかなかつかみ所がない存在ではないかもしれません。なにやら思想がかった怪しいオタク連中、というイメージを持っている方も少なくないでしょう(当たっているのかも知れませんが・・・)。
 本書はそんなオープンソースの世界を知る上でキーとなるエッセイが集められているので、本書をきっかけにオープンソースの世界に踏み込んでみてはいかがでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・「オープンソース」という言葉になんとなく胡散臭さを感じている人。


■ 関連しそうな本

 エリック・スティーブン レイモンド (著), 山形 浩生 (翻訳) 『伽藍とバザール―オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト』 2005年10月22日
 リチャード・M・ストールマン (著), 長尾 高弘 (翻訳) 『フリーソフトウェアと自由な社会 ―Richard M. Stallmanエッセイ集』
 リーナス トーバルズ, デビッド ダイヤモンド (著), 風見 潤 (翻訳) 『それがぼくには楽しかったから』 2005年11月05日
 ペッカ ヒマネン, リーナス トーバルズ, マニュエル カステル (著), 安原 和見, 山形 浩生 (翻訳)
 『リナックスの革命 ― ハッカー倫理とネット社会の精神』 2005年10月29日
 Jr.,フレデリック・P. ブルックス (著), 滝沢 徹, 富沢 昇, 牧野 祐子 (翻訳) 『人月の神話―狼人間を撃つ銀の弾はない』
 ローレンス レッシグ 『クリエイティブ・コモンズ―デジタル時代の知的財産権』


■ 百夜百音

POP STAR【POP STAR】 平井堅 オリジナル盤発売: 2005

 テレビドラマの主題歌としてヒットしたこの曲ですが、ネット上では「VIP STAR」という替え歌が話題になりました。歌っているのはkobaryu氏というプログラマの方ですが、最近はライブドアの忘年会で「大きく伸びたライブドア」(「大きなのっぽの古時計」の替え歌)を歌っている映像が(探偵ファイル経由で)テレビに流れまくっています。
「ライブドア忘年会熱唱男はネットの人気者」
http://www.nikkansports.com/ns/entertainment/p-et-tp0-060125-0005.html
 この歌の元の替え歌は、耐震偽装問題を歌った「大嘘つきな古狸」という曲でした。
「大嘘つきな古狸」
http://yukawanet.com/sunday/pic/vipstar.html
 今回のライブドアへの強制捜査が耐震偽装問題を隠蔽するためのものであった、という陰謀説が流れていますが、ライブドア忘年会でのkobaryu氏の映像が流れまくっているのは、替え歌の元のバージョン(ややこしい・・・)の存在感を薄くするための陰謀ではなかったのかと穿った見方をしてしまいます。
 今後は、ぜひkobaryu氏には、替え歌路線を突き進んでいただき「日本のアル・ヤンコビック」を目指していただけないかと思うわけです。


『Greatest Hits "Weird Al" Yankovic』Greatest Hits

2006年1月28日 (土)

アンドロイドの脳 人工知能ロボット"ルーシー"を誕生させるまでの簡単な20のステップ

■ 書籍情報

アンドロイドの脳 人工知能ロボット   【アンドロイドの脳 人工知能ロボット"ルーシー"を誕生させるまでの簡単な20のステップ】

  スティーヴ・グランド
  価格: ¥2,310 (税込)
  アスペクト(2005/02/10)

 本書は、人間のように振舞うロボットではなく、人間の「脳」を模倣したアンドロイド(正確には「類人猿ロボット(アンスロポイト)」をたった一人で作ろうとした著者が、初代「ルーシー」をこの世に送り出すまでを綴った日誌です。著者が目指したのは、「みずから考え、そして学び、運命をも決められる意識を持った生物」を作ることで、人間の脳のシステムを模倣し、その働きを理解しようというものです。イントロダクションの「私は、この本を書きはじめる二年ほど前、自分だけで完全な人工生命を作るという、途方もなく楽観的なプロジェクトの礎石を置いた。」という言葉に著者の意気込みが現れています。
 著者は、プログラマーとして人工生命をペットとして飼うコンピュータゲーム『クリーチャーズ』をヒットさせ、その功績によって女王陛下から「大英帝国の四等勲爵士」の勲章を受けたことをきっかけに、自宅でロボットの製作を始めた、という人物です。
 著者は、「脳が根本的に予測する機械であるという仮定」をプロジェクトの核心にすえています。「最終的にルーシーの脳にさせたいことは、世界について<心の中で物語る>ことだ。つまり、今、何が起きていて、次に何が起きるであろうかをたえず新しく説明するのである。」という著者の目的地は、一般にイメージするロボットとは大きく異なるものであることがわかります。ルーシーは、人間の脳と同じように「第一次視覚皮質(V1)」を持ち、外の世界を見せられるという刺激に反応し、与えられた情報を有効に利用することを学びながら、自ら配線してみせます。「知能は生まれ持ったものではなく、私たちが発達させるもの」という著者の主張は、アンドロイドの脳を作ることが、我々自身を知るための道であることを示しています。
 著者は、本書の執筆後、NESTA(英国科学技術芸術基金)からの補助金を受け二代目ルーシーの製作を行っていましたが、本書の日本語版出版時(2005年1月)には補助金も打ち切られ、資金難に陥っているということです。最新のルーシー情報を知りたい方は彼の「サイバーライフ・リサーチ」(http://www.cyberlife-research.com/)を訪れてみてください。


■ 個人的な視点から

 「脳が根本的に予測する機械であるという仮定」は、ロボットではありませんが、人工知能を作り出そうとレッドウッド神経科学研究所を設立したジェフ・ホーキンスが『考える脳 考えるコンピューター』において述べているアプローチに通じるところがあると感じました。
 グランドもホーキンスも、人工知能研究の流れの中では主流から外れた存在であるようですが、自分の人生をかけて夢を追うドン・キホーテが大きな宝を発掘することもあるのではないかと期待しています。


■ どんな人にオススメ?

・私たちの右耳と左耳の間にある柔らかいものに関心のある人。


■ 関連しそうな本

 ジェフ・ホーキンス, サンドラ・ブレイクスリー (著), 伊藤 文英 (翻訳) 『考える脳 考えるコンピューター』 38703
 前野 隆司 『脳はなぜ「心」を作ったのか―「私」の謎を解く受動意識仮説』
 フィリップ・K・ディック (著), 浅倉 久志 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』
 荒屋 真二 『人工知能概論―コンピュータ知能からWeb知能まで』
 新田 克己 『知識と推論 Information Science & Engineering』
 けいはんな社会的知能発生学研究会 『知能の謎 認知発達ロボティクスの挑戦』


■ 百夜百音

ハッピーソング【ハッピーソング】 シスターラビッツ (試聴あり) オリジナル盤発売: 2005

 先々代はアムロと蘭蘭という伝統を誇るシスターラビッツです。
 タイトル曲以外にも初代ラビッツの「一寸桃金太郎」や森高の名曲「ロックン・オムレツ」がカバーされています。


『ポンキッキーズ30周年記念アルバム ガチャピン&ムックが選ぶポンキッキーズ・ベスト30』ポンキッキーズ30周年記念アルバム ガチャピン&ムックが選ぶポンキッキーズ・ベスト30

2006年1月27日 (金)

「官製市場」改革

■ 書籍情報

「官製市場」改革   【「官製市場」改革】

  八代 尚宏 (編集)
  価格: ¥3,990 (税込)
  日本経済新聞社(2005/06)

 本書は、「政府が独占的に事業を行うか、あるいは公的関与が著しく強い分野」である「官製市場」の改革の必要性を訴えるとともに、各市場分野ごとに具体的な課題の指摘と改革の方向性を論じているものです。わが国の「官製市場」は、日本経済社会活動に大きな比重を占め、新規参入を規制し生活関連サービス産業のダイナミックな発展を阻害していると述べられています。
 本書の構成は、全11章からなる論文集の体裁をとっており、市場化テストについての総論的な解説の他、郵政、高速道路、水道、病院、教育、保育所、職業紹介などの個別の「市場」について論じられています。
 市場化テストを論じた第1章では、今後の課題として、(1)「市場化テスト法(仮称)」の制定、(2)市場化テストの実施を監視する第三者機関の設置、(3)公務員制度改革など行政改革全般との連携、という3点が挙げられています。
 個別分野では、郵政や高速道路など政治的にも大きなトピックと成ったテーマの他、今後大きな市場になりうる分野として、水道、病院、教育など、自治体が行っている分野の市場化について論じられています。水道事業の民営化に関する第4章では、水道事業の有する非効率性として、(1)「お役所仕事」に起因する硬直性(X非効率性)、(2)地方議会による料金審査(前例踏襲的な料金上昇の追認orタイミングのよい料金改定が行われない)、という2点が指摘されていますが、これらは水道事業に限らず民間事業者との競合のない官製市場には共通する問題ではないかと思われます。
 この他、公的病院に関しては、日本の医療全般の特徴として、(1)医療機関の機能分化が不十分、(2)医療内容の標準化が不十分、(3)病床辺りの資源投入量が少なく在院日数が長い、という特徴を指摘したうえで、混合医療の禁止と公的医療保険への過度の依存が、新技術の導入を妨げてきたことが指摘されています。また、公立保育所について論じた第7章では、批判されることの多い公立保育所の高コスト体質に関する定量的な研究の不足が指摘されています。職業紹介に関する第8章では、職安を利用することで転職後の収入が低下する状況が分析されています。
 第9章では、海外での官製市場改革の事例研究を通じて、配慮が必要な点として以下の3点が指摘されています。
(1)モチベーション保持のメカニズム:官民のモチベーションとインセンティブの保持が重要。
(2)行政組織の変革と公務員処遇:単純な公務員削減ではなく、より創造的な人材活用が志向されている。
(3)制度的環境の整備:競争環境を妨げる制度・規制の見直し。
 本書は、官製市場改革に積極的な人だけでなく、市場に信頼を置きすぎる考え方に疑問を持つ人にとっても、議論のうえで必要となる共通の知識を与えてくれるものではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書が出版されたのは昨年の6月ですが、その後の半年間でも市場化テストを巡る制度の整備や世論の醸成はずいぶん進んでいるように思われます。しかし、今後は自らの身分に不安を覚える官側と規制の恩恵を受けてきた業界の反発が大きくなるものと思われます。
 今後必要なものは、単なるゼロサムの交渉ではなく、よりイノベーティブな方向での新しい制度設計にあるのではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・官業開放に積極的な人・消極的な人。


■ 関連しそうな本

 市場化テスト研究会 (著), 本間 正明(監修・著) 『概説市場化テスト―官民競争時代の到来』 2005年10月07日
 南 学, 小島 卓弥 編著 『地方自治体の2007年問題-大量退職時代のアウトソーシング・市場化テスト-』 2005年08月22日
 南 学 (編著) 『行政経営革命―「自治体ABC」によるコスト把握』
 野田 由美子 『民営化の戦略と手法―PFIからPPPへ』
 大住莊四郎 『ニュ-・パブリック・マネジメント  理念・ビジョン・戦略』 2005年01月23日
 Ewan Ferlie, Lynn Ashburner, Louise Fitzgerald, Andrew Pettigrew 『The New Public Management in Action』


■ 百夜百マンガ

男組【男組 】

 原作者の雁屋哲はこの作品で入った金を美食につぎ込んで自らの舌を鍛えまくったそうです。それが『美味しんぼ』のウンチクに結実したという罪深き作品?。

2006年1月26日 (木)

教育委員会廃止論

■ 書籍情報

教育委員会廃止論   【教育委員会廃止論】

  穂坂 邦夫
  価格: ¥1,680 (税込)
  弘文堂(2005/06)

 本書は、全国初の25人程度学級やホームスタディー制度など、積極的な取り組みで知られる埼玉県志木市の前市長である著者が、義務教育の実施主体である市町村の立場から見た「義務教育」と「教育委員会制度」を徹底的に検証し、「現行制度と教育現場の実態との間にどのようなズレや矛盾があり、どんな欠陥があるのか」を世に問うために出版されたものです。
 著者は、教育委員会制度が住民にはほとんど理解されておらず、外部からの目に晒されることなく堅くガードされたまま半世紀が経過していることを指摘し、義務教育の実施主体である市町村や教育現場から遠く離れた国家官僚が「裁量の制度」としている、机上の理想論である義務教育制度、教育委員会制度を、社会環境の変化と現場の課題に即応できるものにすることが不可欠であると主張しています。
 現行の教育委員会は、地方公共団体の長が指名し、議会の議決を得て任命された5人の教育委員から成り、任期4年、教育長は委員の互選で任命されています。この制度は、
(1)首長から独立した合議制の執行機関とすることで「教育行政における中立性、安定性、継続性」を担保。
(2)レイマンコントロールにより「地域住民の多様な意見」を反映。
(3)教育行政の一体的な推進
という理想と目的を持っていますが、著者は、現実には硬直化した創造性のない「学校の監視機関」に変質していると指摘します。
 まず、首長からの独立という建前も、現実には任命権と予算編成権(スタッフの人選含む)を首長が握ってしまっています。また、住民の意思の反映を意図した合議制は前例踏襲的に陥りやすく、その責任も教育長ではなく機関としての委員会にあるため不明確になりやすいと指摘しています。現行制度では、教育行政に求められるレイマンコントロールの機能は形骸化されたまま放置され、市民の前に「専門行政」という壁が立ちはだかっているのです。
 この他、「教員の質の確保」という点で大きな欠陥を持つ県費負担教職員制度について、全国で毎年1兆円近い経費がムダに出費されており、これを子供たちの直接的な指導に当たる教員に振り返れば大きな教育効果を得られると主張しています。
 著者は、現行の市町村教育委員会と校長の権限に関しても、下記の3点にまとめています。
(1)個性のある学校を作るために必要な市町村教育委員会の権限が制度上弱い。
(2)学校づくりのリーダーである校長が転勤族であり、市町村教委にも人事異動の権限がない。
(3)教員の人事異動に関する校長の権限は具申権にとどまる。
 著者は、現行の教育委員会制度では、上部機関に対して「従順」で「もの言わぬ」存在になってしまった「生きた化石」に過ぎず、自立した児童・生徒の育成は期待できないと述べ、市町村教育委員会の裁量を拡大し、自主権を確立する制度改革を主張しています。具体的には、国の関与は教育水準の維持と機会均等に限定し、教職員の任命権は市町村に与え、教職員給与は市町村に義務教育交付金として直接配分、校長の権限の拡大、情報公開と学校運営への住民参加、教育委員会体制の再構築、などです。
 本書は、教育関係者はもちろん、子供たちが受ける教育に関心と責任を持つ保護者や地域住民(誰もがどこかの自治体に住んでいるのですが)にもぜひ読んでいただきたい一冊です。


■ 個人的な視点から

 著者は、教育分野以外にも、市民が自ら行政サービスを担い、市の職員は10分の1に減らす「地方自立計画」や数々の特区構想などで知られています。本書は、著者の語り口そのままに理路整然とわかりやすくまとめられていて、非常に読みやすくなっています。
 本書の内容は、2003年から2004年にかけて、犬山市長らを招いて志木市で開催された「討論:ザ・教育委員会」などでの議論を踏まえたものだと思われますが、この討論会も非常に熱いものでした。


■ どんな人にオススメ?

・地域に根ざした学校に期待する人。


■ 関連しそうな本

 穂坂 邦夫 『どの子も一番になれる―本当の学力とは何か』
 穂坂 邦夫 『市町村崩壊 破壊と再生のシナリオ』
 埼玉新聞社 (編集) 『生き生きまちづくり 埼玉県志木市の挑戦』 2005年04月17日


■ 百夜百マンガ

まいっちんぐマチコ先生【まいっちんぐマチコ先生 】

 知人は小学生時代に「○○クンがエッチな本を持ってきています。」と学級会で女子に糾弾されたことがあるそうです。
ご愁傷様

2006年1月25日 (水)

きめ方の論理―社会的決定理論への招待

■ 書籍情報

きめ方の論理―社会的決定理論への招待   【きめ方の論理―社会的決定理論への招待】

  佐伯 胖
  価格: ¥2,625 (税込)
  東京大学出版会(1980/04)

 本書は、複数の人間が物事を決める時の「社会的決定理論」と呼ばれる分野に関する入門書です。世の中でどこでも問題になるほど一般的な話でありながら、なにやら難しそうな匂いがするので抵抗がある人もいるかもしれませんが、本書の解説は「高校生にもわかる」ことを売りにしているほどですので、特に専門的な事前知識は必要ありません。
 複数の人間が何か物事を決めるには色々な方法があります。すぐに浮かぶのが、投票などによる多数決の方法ですが、本書では、投票の方式によってその結果が異なることが示され、それぞれの投票方式が持つパラドックスを理解していないと、とんでもない結果を押し付けられてしまう危険があることが述べられています。
 また、本書の目玉である「高校生でもわかるアロウの一般可能性定理」の解説では、
「2人以上の構成員からなる社会が3つ以上の選択肢に関して社会的決定を行う場合」、
・公理 I ―――個人選好の無制約性
・公理II ―――市民の主権性・パレート最適性
・公理III―――無関係対象からの独立性
・公理IV ―――非独裁性
の4つの公理を満足させる決定方式は存在しない、ということを解説しています。
 この他、ゲーム理論やロールズの正義論、センの定理など、社会的決定に関する様々な理論が解説され、この分野の入門書としては、出版後四半世紀が経った今でも定番のものではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 世の中で「高校生にもわかる」という言葉を使う時には、高校さえ出ていれば何やら簡単にわかる、という意味かと思われがちですが、実際には高校で教える範囲の知識しか前提に使っていない、ということであって、誰でもわかると言うものではないことが多いです(もちろん本書の解説は非常に分かりやすく丁寧に書かれていますが。)。
 例えば役所の文書は「中学生でもわかる」ように書かなければならないということがよく言われます。しかしながら「中学生で教える範囲」というハードルは結構高いものです。例えば、学校を出て何年も経ってしまった大人が(場合によっては現役の大学生でも)中学校で教える内容をマスターしているかと言えばはなはだ疑問です(個人的には間違いなくギブアップです。)。
 本書が出版された1980年当時には「高校生にもわかる」と言われると大学生はプライドを刺激されて発奮したのかもしれませんが、今の大学生には「サルでもわかる」レベルでないと敬遠してしまうのかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・日々様々な「決定」をしている人。


■ 関連しそうな本

 加藤 寛 『入門公共選択―政治の経済学』 2005年03月13日
 小林 良彰 『公共選択』 2005年04月15日
 佐伯 胖 『「学び」の構造』
 大嶽 秀夫 『政策過程』


■ 百夜百マンガ

ピアノの森【ピアノの森 】

 『花田少年史』よりもさらに泣ける話です。花田人気で光が当たったというところでしょうか。
 昔から古臭い絵柄でアナクロなイメージのある人でしたが、古い絵柄なりの進化をして化けたような感じがします。流行の絵柄一色になるよりもこうやってバリエーションが出てくることはいいことだと思います。

2006年1月24日 (火)

組織文化のマネジメント―行為の共有と分化

■ 書籍情報

組織文化のマネジメント―行為の共有と分化   【組織文化のマネジメント―行為の共有と分化】

  出口 将人
  価格: ¥2,310 (税込)
  白桃書房(2004/03)

 本書は、これまで多くの実務家や研究者がアプローチしてきた「組織文化」に対して、論者ごとに大きく異なる定義や主張を整理し、「組織の現実を反映し、より多くの人々に受け入れられる新しい組織文化の理論を構築」することを目指したものです。
 本書の構成は、大きくは2つに分けることができ、前半では過去の組織文化論の研究成果をレビューし、後半では企業合併を行った2つの企業の比較及び「コープこうべ」への聴き取り調査を行ったケーススタディという構成になっています。
 本書の終章では、著者は従来の伝統的な組織文化理論が軽視または無視していたポイントとして以下の3点を浮き彫りにしたことを述べています。
(1)組織の曖昧さの意義・・・組織文化の構成要素たる普遍的な価値規範が曖昧であることに積極的な機能として、多様な状況に置かれた人々のよりどころとしての意義を有している。
(2)組織文化の行為としての側面の重要性・・・機能主義的な側面(価値規範によって行為が構築される)と解釈主義的な側面(行為を媒介として価値規範が再構築される)がある。
(3)組織文化のルールとしての側面・・・ルールとしての側面は実践的な価値規範に含まれる。
 組織文化に関する多くの文献をわかりやすくまとめている点では、便利な一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書が目指していた「新しい組織文化のマネジメントのあり方を提示」できているかという点については、前半の理論のサーベイと後半のいくつかのケーススタディ、そして終章との関係がわかりにくく、説得力を感じませんでした。
 しかし、 個々のケーススタディで扱われているインタビューは読んでいて面白いものがありました。合併企業の2つのケースで、ゆるやかで自然な融合を目指したA社においては、(1)敵対意識、郷愁などの感情的、社会的な行動、(2)効率性や合理性の無視、(3)「綱引き」に勝つためのシステムや用語の再解釈、等の障害によって融合に20年以上の期間がかかったのに対し、急速に変化する事業環境への対応を優先したB社では、効率化のために、言葉やシステムの急速な統一がトップダウンで進められ、勢力争いなど悠長なことをしている暇もなく数年で誰がどちらの出身者かがわからなくなったということが述べられています。


■ どんな人にオススメ?

・組織文化について各種学説を整理したい人。


■ 関連しそうな本

 高橋 伸夫 (編著) 『組織文化の経営学』 2005年08月26日
 ステファン・P. ロビンス (著), 高木 晴夫, 永井 裕久, 福沢 英弘, 横田 絵理, 渡辺 直登 (翻訳) 『組織行動のマネジメント―入門から実践へ』 2005年02月17日
 金井 寿宏, 高橋 潔 (著) 『組織行動の考え方―ひとを活かし組織力を高める9つのキーコンセプト』 2005年04月27日
 二村 敏子 (編集) 『現代ミクロ組織論―その発展と課題』 2005年03月26日
 ギデオン・クンダ (著), 金井 壽宏 (監修), 樫村 志保 (翻訳) 『洗脳するマネジメント~企業文化を操作せよ』 2005年12月30日
 佐藤 郁哉 『組織と経営について知るための実践フィールドワーク入門』 2005年11月25日


■ 百夜百マンガ

ドロロンえん魔くん【ドロロンえん魔くん 】

 閻魔大王の息子がわざわざ人間の世界で妖怪退治をしている理由って何でしたっけ?
 『るくるく』の場合は、地獄の収容能力がいっぱいになったから、という理由があったように思われます。

2006年1月23日 (月)

いかに「問題社員」を管理するか

■ 書籍情報

いかに「問題社員」を管理するか   【いかに「問題社員」を管理するか】

  DIAMONDハーバードビジネスレビュー編集部 (翻訳)
  価格: ¥1,890 (税込)
  ダイヤモンド社(2005/01)

 本書は、どんな組織も抱えている「問題社員」の管理について、いかにして彼らを見切るのでも孤立させるのでもなく、あきらめずに開発することができるかを論じた論文集です。
 「問題社員」というと単なる怠け者等、いわゆる「ダメ社員」をイメージする人が多いかもしれませんが、本書で扱われている「問題社員」とはむしろ逆のイメージの社員が多いようです。何しろ本書で最初に出てくる「問題社員」はジャック・ウェルチやマイケル・デルなのです。
 第1章では、何らかのプロセスを監督するミドル・マネジャーには向いている「ボスザル男」が、トップレベルに近づくほど、それまで持っていたプラス面が組織に対するマイナス面に転じて行く問題と彼らに対する効果的なコーチングについて述べられています。
 第2章と第3章では、「Cクラス社員」に対する性悪説と性善説の両方のマネジメントが対比されています。性悪説的な第2章では、「ビロードの手袋をはめた鉄の手」が必要であることを述べています。一方、性善説的な第3章では、Cクラス社員の問題を解雇や閑職への左遷によって「臭いものにはフタ」をしてしまうのでなく、問題解決を好む企業文化であることが社員に対するメッセージとして伝わることを述べています。
 第4章では、スターでもダメ社員でもない「Bクラス社員」が持つ存在価値について解説しています。ここではBクラス社員を、(1)元Aクラス社員、(2)率直な人々、(3)最初に相談すべき人々、(4)普通の人々、の4つの類型に分類しています。著者は、Bクラス社員の役割として、「組織の記憶」を実体験することで組織の暴走を防ぐ点を挙げています。
 第5章では、キャリアの高原状態に至ったマネジャーをいかに活性化させるかを、日本企業のミドル・マネジャーのキャリアとの比較によって論じています。「主流の仕事」から外れることについて真実を告げることや、次の世代に何か残すことなどのチャレンジングな仕事を与えることなどが述べられています。
 第6章では、潜在的Aクラス人材である有能な社員が持つ「悪癖」の6つのタイプ、すなわち、「ヒーロー、実力主義者の秀才、ブルドーザー、悲観論者、反逆児、ホームラン・バッター」について論じています。
 第7章では、CEOを取り巻く「悪の腹心」として、
・リフレクター:CEOをそっくり映し出す者たち。
・インシュレーター:CEOを組織から隔絶し、重要な情報の出入りを遮断する。
・ユーサープ:狡猾に取り入ってCEOの権力を奪取しようとする。
の3タイプに分けて論じています。
 最後の第9章では、スター・プレーヤーをよそから雇っても、概して以前のパフォーマンスを発揮できない理由として、スターをスターたらしめている組織の力(経営資源と能力、システムとプロセス、リーダーシップ、社内ネットワーク、トレーニング、チーム)について論じています。


■ 個人的な視点から

 本書を読んで、働き蟻の中から怠け者を取り除く実験を連想しました。働き蟻の中には、一定の割合で「怠け者」の蟻が存在しているそうです。人間の視点から見ると、これらの怠け者は組織のパフォーマンスを下げているように見受けられます。しかし、人為的にこれらの怠け者を取り除くと、残った蟻の中から、またしても一定の割合で「怠け者」が出てきてしまうらしいです。
 人間の世界でも「2:6:2」の原則ということが言われます。この原則によれば、あたかも、下の2割を解雇して、上の2割に当たるスター・プレイヤーをよそから連れてくればうまく行きそうな感じがしますが、本書では、それは机上の空論でしかないことが述べられています。これは働き蟻の群れと似ているようですが、本書では、なぜ、スター・プレイヤーだけ連れてきても高いパフォーマンスを発揮できないのか、なぜ、「怠け者」と見なされるCクラス社員を安易に解雇することが組織のパフォーマンスを下げてしまうことがあるのか、という問いに対して、実証に基づいた回答がなされています。
 近年、「勝ち組・負け組み」の風潮に便乗して、パフォーマンスの低い社員を切り捨てて、スター・プレイヤーだけを集めれば組織全体のパフォーマンスが高まるかのような論調が目につきますが、「生き物」である人間と組織はそんなに単純ではないことを本書は示唆しています。
 「問題社員」というタイトルを見て、「ダメ社員の駆逐の仕方」を期待して本書を手にした人にとっては期待ハズレの内容だったかもしれませんが、そう思っている人自身が組織のパフォーマンスを下げている「ボスザル男」タイプの「問題社員」であることが本書で指摘されているのです。


■ どんな人にオススメ?

・「ボスザル男」に代表される問題社員に悩んでいる人。


■ 関連しそうな本

 ステファン・P. ロビンス (著), 高木 晴夫, 永井 裕久, 福沢 英弘, 横田 絵理, 渡辺 直登 (翻訳) 『組織行動のマネジメント―入門から実践へ』 2005年02月17日
 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』 2005年04月05日
 八代 尚宏 『日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済』 2005年03月23日
 樋口 美雄 『人事経済学』 
 玄田 有史 『ジョブ・クリエイション』 2005年11月09日


■ 百夜百マンガ

超・学校法人スタア学園【超・学校法人スタア学園 】

 「芸能人が通う学校」って子供の頃には覗いてみたかったです。昔は、堀○学園とかにアイドルがたくさん通ってました。
 同じマガジン系統での芸能人の学園モノには「キラキラ」なんかもあります。

2006年1月22日 (日)

仕事と人生に効く100冊の本

■ 書籍情報

仕事と人生に効く100冊の本   【仕事と人生に効く100冊の本】

  松山 真之助
  価格: ¥1,575 (税込)
  秀和システム(2005/12/15)

 本書は、1997年から現在まで書評メルマガ「Webook of the Day」を発行し続けている「本の達人」である著者が、これまでメルマガで紹介し続けてきた書籍の中から100冊(実は101冊)を厳選した「よりぬきWebook」とも言えるものです。
 本書の構成は、成長の過程と活躍の場によって、
・ブランド・パーソン(54冊):個人としてキラキラ光りながら生きる
・ビジネス・パーソン(39冊):組織人(企業人)として生きる
・ソーシャル・パーソン(8冊):「よのなか」のお役に立てる
の3章からなりますが、半数以上がブランド・パーソンというところに著者の関心の強さが現れているように感じます。
 著者はどのようにしてこれらの「良い本」を見つけ出しているのでしょうか。本書では、哲学者の森信三の言葉をもじって、
「読むべき本は、常にその人の成長にしたがって必ず目の前に現れる。しかも、一瞬遅からず早からず」
と述べています。そして、そのためには自分にレセプター(受容体)が必要であり、尊敬する人に「成長のためにお勧めの本」を聞いてみることを奨めています。
 また著者は、良い本の読み方として、
(1)メモや記録を残すこと。
(2)読んだら仲間に知らせてあげること。
の2点を挙げています。「本は人が書き、人に読まれ、人に紹介されるもの」を、まさに本書や著者のメルマガが体現しているのではないでしょうか。
 本編で紹介されている101冊の中には、自分でも読んだ本、しかもWebookをきっかけに読んだ本が何冊か紹介されていました。また、本書を読んでこれから読みたくなった本もありました。
 『出口汪の頭がよくなるスーパー読書術』の紹介では、「早く読もうなんて思う前に、読んで感じて考えたことをいかに『出すか』に気を使いたい。」という著者の「出せば成る」の精神が反映された言葉が語られています。また、『考具』の紹介での、「アイデアは特殊な能力とかではなく、ちょっとした練習と道具で誰でも引っ張り出せるんです」という引用も同様に感じました。この辺りにブランド・パーソンへの足がかりがあるのかもしれません。
 ビジネス・パーソンの章には、自分が既に読んだ本やこれから読んでみたいと思う本が多くありました。『FISH』の「気持ちや態度は自分で決められる」はとても端的に内容を要約していますし、会議室のテーブルが黒板になっているという『不思議な会社』はぜひとも読んでみたいという気になりました。また、章末に追加されたトリンプの吉越社長の「トップダウンが大事ですが、トップが山のうえに登ってしまってはいけない」は、『早朝会議革命』等を読んだ人にはナルホドとうなづけるものではないかと思います。
 ソーシャル・パーソンの章は、8冊しかなくて、何だかオマケみたいな印象を与えますが、これは、3つの章の内容が重複しているせいで、例えば、社会起業家について書かれている『これから働き方はどう変わるのか』(第1章)や、『「経済」で考える力がつく本』(第2章)などは第3章に入っていてもおかしくない内容です。
 本書は、普段は雑誌や新聞程度で本はめったに読まないという人には最適のブックガイドに、また、本を読むのが好き、という人にとっても人生を見つめる視点を得るためのガイドとしてお奨めできる一冊です。


■ 個人的な視点から

 昨年の1月21日にこの「行政経営百夜百冊」を開始して以来(※注)、おかげさまで1周年を迎えることができました。当初はタイトルに「百冊」とあるので、「とりあえず100日がんばってみよう」というつもりで始めましたが、いざ始めてしまうと途中でやめるのはもったいなくなるものです。当初は、既に読んだ手持ちの本の中から紹介していましたが、夏頃からは図書館で1週間分借りて、通勤電車の中と朝の時間で1日1冊読むペースも作ることができました。
 そもそも自分がメルマガを始めたきっかけは、昨年のお正月に読んだ松山さんの『早朝起業』でした。早速その月からブログとメルマガを始め、2月には松山さんの『マインドマップ読書術』出版記念セミナーにも参加し、ご本人にお会いすることもできました。
 「出せば成る」は松山さんの言葉ですが、出してしまうと何とかなるものだということを実感しています。
(注)昨日、「明日でいよいよ1周年です。」と書いてしまいましたが、実は第1号は昨年の1月21日発行でした。ゴメンナサイ。


■ どんな人にオススメ?

・成長のためのブックガイドを探している人。


■ 関連しそうな本

 松山 真之助 『マインドマップ読書術―自分ブランドを高め、人生の可能性を広げるノウハウ』 2005年05月01日
 松山 真之助 『早朝起業―「朝5時から9時まで」の黄金時間を自分のために使う方法』
 トニー・ブザン (著), 神田 昌典 (翻訳), バリー・ブザン 『ザ・マインドマップ』
 出口 汪 『出口汪の頭がよくなるスーパー読書術―論理力、考える力、発想力が誰でも身につく!』
 スティーブン・C. ランディン, ジョン クリステンセン, ハリー ポール (著), 相原 真理子 (翻訳) 『フィッシュ!―鮮度100%ぴちぴちオフィスのつくり方』
 大久保 隆弘 『早朝会議革命~元気企業トリンプの「即断即決」経営』 2005/08/31


■ 百夜百音

Couples【Couples】 Pizzicato Five(試聴あり) オリジナル盤発売: 1987

 1周年!ということで(本当は昨日でしたが)、自分の「原点」的なアルバムを紹介します。
 テイチクからソニーに移籍して、それまでの細野的なテクノポップ色(DX-7のプリセット音を意図的に使っていたらしいです。)を排したサウンドは今聴くと素晴らしい、と思う人も多いでしょうが、当時はぜんぜん売れませんでした。
 このアルバムの後、ネオGSブームの一角に居た「レッドカーテン」から「オリジナル・ラヴ」にグループ名を変更したばかりの無名のボーカリストであった田島貴男を迎えて名作『ベリッシマ』をレコーディングするのですが、バランスの危うさや未完成さという意味ではこちらのアルバムが好きです。


『ピチカートマニア!』ピチカートマニア!

2006年1月21日 (土)

きわどい科学―ウソとマコトの境域を探る

■ 書籍情報

きわどい科学―ウソとマコトの境域を探る   【きわどい科学―ウソとマコトの境域を探る】

  マイケル・W. フリードランダー (著), 田中 嘉津夫 (翻訳), 久保田 裕 (翻訳)
  価格: ¥2,940 (税込)
  白揚社(1997/04)

 本書は、「少なくとも発見者や素人目には科学的に見える観察や理論」である「疑似科学」と正統科学との境界を調べることで、単に疑似科学の事例を紹介するだけでなく、科学の分野における不正や、政治的理由による疑似科学の支持など、疑似科学が生まれる背景について踏み込んで分析を行っているものです。
 1950年に発売されたヴェルコフスキーの『衝突する宇宙』は、世界中の民族に残った伝説の類似点から、全世界を覆うような洪水は本当に起こった事実であるとし、驚くべき天文学的な事件が全地球で目撃されたのだと主張しました。このシナリオや理論には、物理学や天文学上の問題点とともに神話や伝説の引用・翻訳における欠陥や資料の恣意的な引用などのさらに質の悪い問題がありましたが、この本は、科学畑の研究者の徹底的な批判と、それに対する人文・社会畑の支持者との間での大論争を巻き起こしました。著者は、ヴェルコフスキーに対する一般の読者からの根強い支持の背景には、聖書の記述を裏付けているものであるという要素とともに、更に深い理由として、科学に対する根強い敵意が存在することを述べています。
 著者は、科学の方法について、クーンの『科学革命の構造』を引用しながら、「通常科学」における科学者の多くが、広く認められている学説から直接導かれる問題について研究するという構造である「パラダイム」に立脚していることを述べます。そして、あるパラダイムのもとでは説明が付きそうにない、予測しなかった結果である「アノマリー(異常)」が蓄積されることで、理論は挑戦を受けることになります。このことによって、新たなパラダイムの採用を避けられない団塊に到達し、別の通常科学の時期を迎えることになります。
 本書では、科学を支える仕組みとして、専門学術誌、会議、専門家で構成された社会の役割について論じています。もっとも重要な情報回路である専門学術誌を支えているのは、匿名のレフェリーによって審査されるピアレビュー(研究仲間による査読システム)であり、このことが掲載論運の質を維持していることが述べられています。ただし、査読は全く間違っていないことを意味するわけではなく、時には誤った方向に導かれてしまうこともあることが述べられています。この具体例として、本書では、「ポリウォーター」や「ホメオパシー」の例が挙げられています。
 本書の後半では、世間を騒がした疑似科学の例として、1990年にミズーリ州で巨大地震が発生するという予知が引き起こした混乱や、ユリ・ゲラーの透視能力に関するテストの論文が、査読制度のある科学雑誌『ネイチャー』に掲載された例などが紹介されています。
 また、政治によって疑似科学が指示される例として、「植物や動物がその生涯に獲得した形質を次世代へと伝えていける」という理論を主張するルイセンコがスターリンによって賞賛され、彼の主張に異議を唱えたヴァヴィロフはイギリスのスパイとして有罪にされ獄死したが紹介されています。また、ナチス時代のドイツでは、相対性理論と量子理論は「ユダヤ物理学」というレッテルを貼られて弾圧されています。政治による疑似科学への支持は、決して大昔の話ではなく、現代のアメリカでは、進化論を学校から排除しようとする創造科学の運動が盛んになっていることが紹介されています。
 本書は、疑似科学がどのようにして生まれ、どのようにして支持されていくかをに切り込み、我々が疑似科学とそうでないものとを見極めるための手がかりを与えてくれます。


■ 個人的な視点から

 日本にも疑似科学をネタにした商売が山のように存在してます。単に読み物として読むだけでは害は少ないかもしれませんが、多くの疑似科学にはそれに付随する利権が食いついています。オウム真理教がオカルトを入り口にして信者を集め、また脅迫する手段としていたことは有名ですが、現代の新興宗教の多くは信者への理不尽な教義を裏付けるものとして疑似科学を活用しています。また、みのもんたや堺正章に代表される民間療法の裏には、通常の医療に幻滅した患者を食い物にするインチキ療法が大きな口を開けて待っています。
 日本の疑似科学ネタで大きなトピックはマイナスイオンではないかと思います。今ではトルマリンゴにだまされる人は減ってきましたが、多くの家電メーカーがマイナスイオン関連の商品を出しています。本書から学べることは、疑似科学を主張する人たちは、純粋な無知や科学への反感だけでなく、金銭的な意図や宗教的な信念に基づいているということです。


■ どんな人にオススメ?

・疑似科学を通じて科学の仕組みを理解したい人。


■ 関連しそうな本

 マーティン・ガードナー 『インチキ科学の解読法 ついつい信じてしまうトンデモ学説』
 マーティン ガードナー (著), 市場 泰男 (翻訳) 『奇妙な論理〈1〉―だまされやすさの研究』
 マーティン ガードナー (著), 市場 泰男 (翻訳) 『奇妙な論理〈2〉なぜニセ科学に惹かれるのか』
 A・K・デュードニー (著), 田中 利幸 『眠れぬ夜のグーゴル』 2005年12月25日
 ジョエル ベスト (著), 林 大 (翻訳) 『統計はこうしてウソをつく―だまされないための統計学入門』 38725
 伊勢田 哲治 『疑似科学と科学の哲学』


■ 百夜百音

Greatest Hits of Brasil '66【Greatest Hits of Brasil '66】 Sergio Mendes & Brasil '66 オリジナル盤発売: 1990

 最近にもカバーされている名曲「Mais Que Nada」ですが、日本ではクレイジーキャッツが「アッと驚く為五郎」で取り入れてます。
 ゲバゲバと言えば、子供の頃実家の近所でロケをやっていました。「老人たちが青春を謳歌する村」みたいな話だったように記憶しています。いつも遊んでいる近所の風景がテレビに流れているのが不思議でした。


『結成50周年 クレイジーキャッツ コンプリートシングルス HARAHORO盤』結成50周年 クレイジーキャッツ コンプリートシングルス HARAHORO盤


※今日は365号目、明日でいよいよ1周年です。

2006年1月20日 (金)

隣りの成果主義

■ 書籍情報

隣りの成果主義   【隣りの成果主義】

  溝上 憲文
  価格: ¥1,000 (税込)
  光文社(2004/11/19)

 本書は、是非はともかく割合としては日本企業にすっかり導入された「成果主義」についての100社を超える取材を元に、「日本企業の成果主義の今」を明暗の両面から紹介しているものです。
 著者は冒頭で、「いったん導入された以上、成果主義が日本企業から消え去る日は絶対に来ない」と断言し(と言っても、いったん導入した成果主義を撤退させる企業がない、という意味ではなく、全ての日本企業から成果主義が消え去ることはない、という意味の極端な話だと思いますが)、「あなたがどんなに成果主義反対を叫んでも、こうした"時代の波"に抗うことは決してできない」と脅しをかけます。そして、「社内貧民層の仲間入り」というフレーズで読者の危機感を煽ります。
 では、本書の内容は、このような派手なキャッチフレーズに見合うようなものでしょうか。残念ながら「成果主義に関して取材した結果」は載っていますが、それを寄せ集めた結果が「日本企業の成果主義の今」かというと甚だ心もとない感じがします。もちろん、著者が100社を超える上場企業を取材した結果は貴重な資料ではありますが、その結果を単著の一冊の本として纏め上げているかというと、著者の存在感はどこにもなく、それらしい内容が書かれた「Chapter 9 「成果主義」と共存するか、戦うか」にはオマケみたいなことしか書いてありません。あれほど冒頭で派手なフレーズを使いながら、本文では「日本企業というシステムにしみこんだこの制度は、たちの悪いソフトがパソコンから完全にアンインストールできないのと同じようなものだ。」と述べていて何が言いたいのか全く伝わってきません。イメージとしては、「一人で書いた別冊宝島」みたいな感じでしょうか。
 価格もそれほど高いものではありませんから、色々な雑誌の「成果主義特集」をスクラップするよりは便利ですが、予め、その程度のものだと思って読まないと落胆も大きいでしょう。


■ 個人的な視点から

 本書の内容で一番有用な点は、成果主義とは人件費削減のツールとして経営者が導入したもの、ということをはっきり言っていることでしょう。巷で問題になっている「成果主義の弊害」と言われている様々な点は、ここをスタートに考えると非常に整理しやすくなります。
 例えば、米国の人事マニュアルを直訳しただけの「成果主義システム」の導入で現場が大混乱する「人事コンサルバブル」は、人事コンサルがトップに人件費削減を謳ってセールスした結果、本音ベースでは成果主義を入れたくない人事部(何しろ米国の人事システムは権限を現場に分権化して初めて機能するものなので、既得権益を奪われることになる)が、やる気なく導入したためであることがわかります。また、権限は人事部に抱え込んだままで「成果主義システム」を構築しても富士通の失敗例のように機能しません。
 そして、本書で取りあげられている「成果主義の弊害」の多くは、成果主義そのものに起因すると言うよりもマネジメント自体の問題であることが少なくありません。本書で取り上げられている「理論先行のMBAホルダーの上司」の例などは、成果主義に関係なく失敗する例ではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・成果主義に関連する雑誌記事を集めるのが面倒な人。


■ 関連しそうな本

 城 繁幸 『日本型「成果主義」の可能性』 2005年12月08日
 城 繁幸 『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』
 高橋 伸夫 『虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ』 2005年3月30日
 高橋 伸夫 『〈育てる経営〉の戦略―ポスト成果主義への道』 2005年06月16日
 都留 康, 阿部 正浩, 久保 克行 『日本企業の人事改革―人事データによる成果主義の検証』 2005年06月24日


■ 百夜百マンガ

少年雀鬼東【少年雀鬼東 】

 少年誌(週刊少年サンデー)に掲載された異色麻雀マンガです。
 子供が主な読者なだけに麻雀漫画で使われる勝負の駆け引きや男の生き様ネタは使いにくいためか、麻雀自体を茶化したネタが目立ちました。

2006年1月19日 (木)

江戸の市場経済―歴史制度分析からみた株仲間

■ 書籍情報

江戸の市場経済―歴史制度分析からみた株仲間   【江戸の市場経済―歴史制度分析からみた株仲間】

  岡崎 哲二
  価格: ¥1,680 (税込)
  講談社(1999/04)

 本書は、経済史研究の新しい流れである「歴史制度分析(Histrical Institutional Analysis, HIA)」という視点から日本の近世経済史を見直した一冊です。歴史制度分析は、「ゲーム理論の応用によって、制度の役割、その存在の根拠、その生成と変化のメカニズムなどの経済史上の重要な諸問題の理論的・実証的な分析を行う研究アプローチ」と説明されています。また、日本では、経済史研究において、マルクス経済学的な見方から研究を行う研究者が多数派であることがアメリカと異なる点であると述べられています。
 本書は主に江戸期の「株仲間」を分析の対象としています。株仲間とは「株を有する者が相寄り相集まって結成する集団」を差し、「株」とは公権力によって認められた営業特権を意味しています。徳川幕府からは当初禁止政策が採られていた株仲間ですが、享保年間には物価抑制政策の手段として積極的に結成が進められます。近年再評価が進んでいる革新的な経済政策を行った田沼時代には、物価の監視・抑制手段として株仲間結成が促進され、運上金・冥加金が新しい財政収入源として、また、商品流通機構の一環として位置づけられていきます。
 天保改革時には株仲間停止令が出されますが、著者はこれを経済史の視点からは格好の「実験」であると捉えています。つまり、実験が難しい社会科学の分野において、停止前と停止後を比較することで株仲間の役割を推論することができるからです。まず、株仲間の停止は流通機構の混乱を招きます。灯油は高騰し、ついには供給が途絶えます。この他、海産物、錫・鉛、蠣殻灰・石灰、つき米、桶、海運、材木などの流通機構も大きく混乱し、財・サービスの供給不足をもたらしています。数量データを用いた分析によっても、株仲間の停止によって日本経済のパフォーマンスが大きく低下し、市場機構の機能低下が生じたことが述べられています。これらのことは、株仲間が市場機構の機能を支える役割を果たしていたことを伺わせます。
 株仲間がなぜこのような機能を果たすことができたのか。著者は、中世地中海における「マグリビ」と呼ばれるユダヤ人商人集団の研究を挙げ、そこでは海外での代理人契約に当たり商人相互間の「結託(coalition)」が大きな役割を果たしていることが述べられています。不正を働いた経歴を持つ在外代理人は他の商人からも雇用されません。このことが将来失う大きな損失となるために、現時点での不正を働くインセンティブが小さくなるのです。同じように、株仲間と生産者の間にもコミットメント問題と、それに対する結託に基づく多角的懲罰戦略が存在したことが述べられています。生産者が問屋仲間の一軒に対して不正を働いた場合には仲間全員からの懲罰が課せられます。同様に、使用人の規律づけに関しても、不正を働いた使用人は仲間全員に回状が回り、いっさい雇用されないという多角的懲罰戦略が採られています。
 本書は、歴史制度分析によって日本の近世経済史に新しい視点を与えた研究を一般向けにわかりやすく解説しているものですが、専門用語は少なく、事前に経済史やゲーム理論に関する詳しい知識を持っていなくても簡単に読めますので、「○○史観」などによって書かれた歴史物に辟易している人にもお奨めできる一冊です。


■ 個人的な視点から

 日本では、明治維新以前の社会は封建的な前近代社会として300年の間進歩の無かったように教えられることが少なくありません。日本で主流を占めてきたマルクス経済学の観点からは忌み嫌われるべき武家社会は、暗黒の社会であるからなのかもしれませんが、、当時の江戸は世界最大級の都市であり、その経済システムも公権力による制度設計以外の面から自律的に発達してきたことが本書から伺えます。
 本書で取り上げられる株仲間も、悪徳商人たちが結託して価格をつり上げ利益をむさぼる存在であるかのように歴史の授業で教えられてきましたが、市場機構そのものを担ってきたことが解説されています。
 戦後の私たちが受けてきた教育、特に社会科に関するものは、日教組の「赤い」教育がされてきた、と主張する一部の人間もいますが、重要なことは、社会的な経験がない児童・生徒に対する社会観についての教育は、無批判に受け入れられ、社会人になってからの社会観の形成に大きな影響を及ぼすことです。特に政治や経済はリアルタイムに考える機会が豊富ですが、歴史に関しては教科書の知識が与える影響が大きいので、社会人自身がきちんと歴史を見つめ直す機会を持つことが重要になると考えられます。


■ どんな人にオススメ?

・江戸時代の日本経済に対する自分なりの視点を持ちたい人。


■ 関連しそうな本

 岡崎 哲二, 奥野 正寛 (編集) 『現代日本経済システムの源流』
 青木 昌彦 (著), 永易 浩一 (翻訳) 『日本経済の制度分析―情報・インセンティブ・交渉ゲーム』 2005年04月01日
 小林 英夫, 米倉 誠一郎, 岡崎 哲二, NHK取材班 (著) 『「日本株式会社」の昭和史―官僚支配の構造』
 ダグラスC. ノース (著), 竹下 公視 (翻訳) 『制度・制度変化・経済成果』


■ 百夜百マンガ

ガンバFly high【ガンバFly high 】

 オリンピック金メダリストが原作ということで話題になった作品です。
 ストーリー的にはオーソドックス、というか、無難な感じだったようで印象は薄いです。

2006年1月18日 (水)

自律と協働、はたらきがいをもとめて―大阪市現業労働者の60年

■ 書籍情報

自律と協働、はたらきがいをもとめて―大阪市現業労働者の60年   【自律と協働、はたらきがいをもとめて―大阪市現業労働者の60年】

  鎌田 慧
  価格: ¥1,890 (税込)
  七つ森書館(2005/12)

 本書は、「カラ残業」や「ヤミ手当」などの問題で世間から袋叩きにあっている大阪市役所職員が、どのようにして現在の「厚遇」を獲得してきたかを、差別のない人間らしい待遇を求めた現業職員の60年間の組合活動の歴史をたどることで振り返るルポルタージュです。著者は、自身がトヨタの季節工として働いた経験を元にした『自動車絶望工場』で知られるフリーライターです。
 本書はまず冒頭の第1章から第2章にかけて、戦前~終戦後の組合結成の歴史を振り返ります。1945年12月に、終戦から4ヶ月で「大阪市従業員労働組合」が結成されています。この短い期間で労働組合が結成されたのは、戦前の運動が下敷きになっていることが語られます。1929年(昭和4年)に、東京から5年遅れ、全国3番目の自治体の労組として「大阪市清掃労働組合」が結成され、「大阪市港湾部従業員労働組合」、「大阪市渡船部従業員組合」が次々と結成されています。これらの運動は、1932年に「大阪市従業員組合」として合同し、盛り上がりを見せますが、戦時下には「官憲の弾圧」によって解体を余儀なくされたと述べられています。
 戦前に現業に従事していた労働者は、「職員」という身分ではなく、日給制の「雇員」と「庸員」や、「人足」「人夫」と呼ばれる日雇い労働者でした。給与は特権階級である「勅任官」と雇員、庸員との間には10倍以上の賃金格差があったことが述べられています。当時は、「給料」名目で基本給をもらっている人はごくわずかで、多くを占める臨時職員の人件費は、工事の「材料費」名目で調達されていて、1949年まで現場では材料費で人が雇われていたことが述べられています。戦後になって、組合は完全雇用を目指し、臨時職員の本務化交渉を行い、3~5年間の臨時期間を短縮し、1963年には1ヶ月程度の「調査期間」を経て本務として採用されることになり、1991年には臨時期間が完全に撤廃されています。
 第3章ではOBから、昔の現業の待遇の悪さと現在に至る闘争の歴史を聞き出しています。OBから聞いた昭和30年代の話には、日給で240円だったこと、一斗缶の殺虫剤を買う名目で予算を取って人件費に充てられていたこと、DDTを散布して回ったこと等が語られています。現在問題になっている自動車運転に関する手当などの優遇措置が、運転免許所持者が希少だった当時では、免許持っている人は「有技能」として合理的だったことが伺われます。
 第4章以降は、渡船、清掃、下水道、保健所、病院などの職場で働く現役とOBから話を聞いています。
 第4章では、川底に地下道が造られ渡船が廃止された「安治川隧道」でエレベーターを操作する「昇降機手」が朝夕のラッシュをさばき、合理化政策としての「無人化」がされたら収拾がつかなくなると述べられています。また、20年くらい前までは、船の機関長になることは、現業(二号職員)から市職(一号職員)になることになり、給料が足踏みになってしまうことを意味していましたが、それでも「もうおれらは現業じゃない」という出世した意識を持つという面があったそうです。これはその後、船長や機関長を現業がやるように変えてきたことが語られています。
 第5章では、昔の清掃の現場がいかに劣悪な環境にあったかが語られています。大八車で人力でゴミを集め、船に積み替え、焼却場に入るまで2,3日かかるためにうじゃうじゃ湧いたウジ虫が体中にはい上がってきたり、ゴミが群れて発熱するために火傷をすることもあったことが語られています。大阪港外への海洋投棄作業は命がけで、海に落ちても誰も助ける余裕はなく自分で上がってくるしかないので、そのまま亡くなった方もいるそうです。市民からは「ごみ屋は乞食だ」と差別され、現在では小学生向けに『ごみと社会』という副読本が発行されています。このような環境の中で、組合の活動として、作業服や作業靴を要求することになったことが触れられています。
 第6章では、現業労働者のあり方について語られる中で、現場での差別について、新人が「おまえら事務所くんの10年はやい」と言われたことや、船のブリッジに上がったら「なんでブリッジ上がってくるんや、ブリッジは幹部のいるところや」と言われたことなどが語られています。
 第7章では、親子二代で下水道の仕事に就いた話として、自宅がポンプ場だったので家族ぐるみでポンプの操作をしていた話や、ガス事業者の工事を監督しても監督権は「一号職員」にあるため自分の名前は確認書の欄外に書かれてしまう話などが語られています。
 第8章では、野犬の捕獲や防虫のための薬剤の散布、病院でのヘルパーの仕事などが語られていますが、ここで面白いのは、著者の誘導質問に対しても、取材に答えている現場の人の考え方が実にまともなことです。例えば、野犬の増加を防ぐために飼い方の指導や譲渡会をやっていることに対して、著者は「捕獲するひとと指導するひとがおなじだったら、捕獲の仕事がどんどん減っていくことになりますね。つまり一生懸命犬の育て方を指導すると、野犬がすくなくなって捕獲する仕事がなくなってくる。すると自分の仕事の自己否定になるんじゃないですか。」というトンチンカンな質問をするのですが、それに対する返事は、「社会的いうんかね、その意味で、そういった放浪犬、野犬がいないというのは安全でしょう。」と至極まっとうな考えを述べています。同じように、第9章では、保育所の調理師がアトピーの子供に対応して、手作りのおやつを作るようになったことに関して、著者は、「やはり、仕事量がふえて、たいへんでしょう。」と質問していますが、自分ができることを色々取り入れていきたい、子供においしかったと言われることが何よりうれしい、という仕事に対する誇りが語られています。また、第10章では、国民健康保険の徴収に関して、「収納率あげるためには情け無用で、サラ金のようになる?」という質問に対して、自分たちは借金取りではないから払えない原因をしっかり聞いている、と答えています。
 本書は、それまで実態を知られることが少なく、マスコミで報道される「ヤミ○○」と「カラ○○」などの常識はずれの厚遇ばかりのイメージが定着してしまった大阪市の現場の実態を知る上で、貴重な一冊であることは間違いありません。

■ 個人的な視点から

 本書の大半はインタビューが占めていますが、著者が主張したい小泉政権への反発や世論への反論が、随所に著者の言葉としてちりばめられています。インタビューの合間に著者の「演説」が挿入されていたり、著者が主張したい内容の発言を引き出す誘導的な質問がいくつか目に付きます。前述した犬の育て方の指導や保育所でのアトピー食、国民健康保険の徴収などは、質問の意図に反して現場の当たり前の考え方が語られていますが、あちこちで著者が演説を始めてしまって話が噛み合わなくなるところが見られます。
 59ページでは、
「大阪市の労働者は、いま、「改革」という名の「破壊」の集中攻撃をあびて、いままで積み上げてきた権利を剥ぎとられています。たしかに、時代にあわなくなった条件もあったでしょうが、労使で解決すべきものが、「世論」という曖昧なものによって攻撃され、「民営化」という「下請け化」あるいは「フリーター化」によって、不安定な雇用者に代えられようとしています。」
と、現在受けている厚遇に対する集中攻撃に反論しています。350ページの「おわりに」でも、
「「大阪オリンピック」にあてこんだ、過剰な投資の失敗は、第三セクターの危機にたいする市民の怒りが、職員への感情的な攻撃となっている。その批判が、かつての差別労働から脱却するために積み上げ、いまでは時代に合わなくなった、"厚遇"に向けられたのだ。それらは、冷静な議論によって、改訂できるはずだった。すでに市従労組は、市職労や交通、水道労組などとともに、「既得権」のほとんどを、すでに身ぐるみ剥がされたそれでも、なおかけられている追い打ちは、採用凍結、人員削減、民間委託化などである。」
と同様の反論を繰り返しています。
 民営化に対する批判としては、110ページで、「民営化と人員削減で、サービスが向上するわけがない。」、「人手を削減することばかりかんがえるのではなく、市のなかに蓄積されている技術を、どう有効につかうのか、それが本当の意味での「行政改革」というものだ。」、「人間を削るのは、もっとも安易で、もっともの非人間的なやり方である。」とも主張しています。同様に、278ページでは、自身の著書『自動車絶望工場』にも関連した記述として、「儲けるための分業は、人間を押し込め、人間的な連帯を破壊する。」と述べた上で、「民営化とは、サービスが低下したとしても、サービスを提供している業者が儲かることであり、儲けのためにサービスが低下することであり、患者が利益の手段にされることである。」と民営化に対する批判を行っています。
 また、本書では、戦前の「大阪市従業員組合」が、「選挙違反」の廉で行われた官憲の弾圧によって解体させられたこと述べられています。組合の幹部が大量に検挙されたのは、「当局がさ細な違反を大事件に仕立て上げ官業労働運動弾圧を図ったもの」であるとのことですが、市の労組がその組織力を背景に政治的活動に手を染め、時の権力がそれを潰しにかかるという構造自体は、何やら現在の状況に似ているように感じます。今に始まったことではないようです。
 本書では、大阪市の現場労働者には2代目が多く、差別されてきた仕事で引き受け手がいなかったことの反映だと語られています。不景気で民間企業の雇用が不安定になった現在では、相対的に公務員の待遇が高まっていますが、昭和30年代くらいまでの厳しい労働環境や低賃金を考えると、わざわざ民間企業の半分以下の給料しかもらえない公務員になる人は少なかったことは想像に難くありません。
 本書を読んだ大阪の市民がどのように感じるかは、色々な反応があるかと思いますが、現在の厚遇が昔の差別的な労働条件を改善してきたという経緯の上にあることを知ること、そして、今後どうあるべきかという議論の材料にはなることだと思います。


■ どんな人にオススメ?

・大阪市職員の厚遇問題の根っこにアプローチしたい人。


■ 関連しそうな本

 吉富 有治 『大阪破産』
 斐昭 『不滅の「役人天国」』
 稲継 裕昭 『人事・給与と地方自治』 2005年12月09日
 稲継 裕昭 『公務員給与序説―給与体系の歴史的変遷』
 中野 雅至 『はめられた公務員』 2005年05月26日
 鎌田 慧 『自動車絶望工場―ある季節工の手記』


■ 百夜百マンガ

男どアホウ甲子園【男どアホウ甲子園 】

 主人公の名前が「藤村甲子園」というのも直球過ぎるネーミングですが、本人も直球勝負のようです。ちなみにドカベンの明訓高校は神奈川だったような気がします。

2006年1月17日 (火)

ゲームとしての交渉

■ 書籍情報

ゲームとしての交渉   【ゲームとしての交渉】

  草野 耕一
  価格: ¥693 (税込)
  丸善(1994/07)

 本書は、現役弁護士である著者が、国際取引や企業買収の経験をベースに語った、実践の緊張感が伝わる交渉理論です。交渉理論の本には、過去の研究を背景にした学術的な交渉理論と、主に自らの経験を背景とした「持論」的な交渉理論のパターンがありますが、本書の特徴は、理論の骨格は学術的な交渉理論でありながら、自らの豊富な経験を事例として用いることで、交渉場面の緊張感を伝えてくれる点です。
 本書の構成にも、著者の実戦経験が反映されています。お互いの取り分を増やすことを目指す1章の「協調的交渉」では、共通の利益の第一に「とにかく交渉を成立させること」を挙げていますが、これは、交渉が破綻することでお互いに失ったものが大きいことをよく知っている著者ならではの重みがあります。また、2章の「戦略的交渉」では、交渉理論では定番の「BATNA(Best Alternative to Negotiated Agreement)」が紹介されていますが、合わせて主観的な「ボトムライン」を設定してしまう問題点も紹介している点が、単なる理論書ではないところです。
 さらに、本書の実戦性を際立たせているのが、「強者必勝型交渉」や「ブラックメール(脅迫状)型交渉」のような、実際の交渉の場ではよく使われる手法をきちんと紹介している点です。単なる理論ではなく、交渉における「駆け引き」の部分もきちんと理論を織り込んで解説している点が、本書と単なる理論書を大きく引き離す点ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書の中で印象に残ったのは、日米企業間の業務提携契約の交渉にまつわる「最後のわら(Last Straw)」というエピソードです。これは、米国企業側の交渉担当者が米国流の「1ヤードでもゲインを得ようとするアメフト流の交渉スタイル」によって、交渉を有利に進めてきた結果、契約調印直前に出した最後の条件が「最後のわら」(駱駝に背負わせる、わら1本1本は軽いものでも、どんどん積み上げていけばどこかで駱駝は倒れてしまう、という諺)になって交渉を決裂させてしまった、というものです。
 この交渉決裂の背景には、日本企業側の内部での「国際派vs国内派」の主導権争いがあったそうですが、結果的には、米国企業側は好条件を得て行くことで、国内派に付け入る口実をどんどん与えてしまったことになります。
 この辺りのバランス感覚を含めて、交渉人のセンスが問われるところなのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・交渉の実務と理論の関係に関心がある人。


■ 関連しそうな本

 マックス H・ベイザーマン (著), マーガレット A・ニール (著), 奥村 哲史 『マネジャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋』 2005年07月04日
 ウィリアム・L. ユーリ, ステファン・B. ゴールドバーグ, ジーン・M. ブレット (著), 奥村 哲史 (翻訳) 『「話し合い」の技術―交渉と紛争解決のデザイン』 2005年09月15日
 印南 一路 『ビジネス交渉と意思決定―脱"あいまいさ"の戦略思考』 2005年6月28日
 平原 由美, 観音寺 一嵩 『戦略的交渉力―交渉プロフェッショナル養成講座』 2005年09月16日
 鈴木 有香 (著), 八代 京子(監修) 『交渉とミディエーション―協調的問題解決のためのコミュニケーション』 2005年09月30日


■ 百夜百マンガ

いまどきのこども【いまどきのこども 】

 「こども」と言ってもタクミくんのイメージはちょっと抜けてる小賢しさが擬人化(擬大人化?)した子供みたいな感じです。『バケツでゴハン』で子供を動物に置き換えても似たような作風でしたし。

2006年1月16日 (月)

戦略計画 創造的破壊の時代

■ 書籍情報

戦略計画 創造的破壊の時代   【戦略計画 創造的破壊の時代】

  ヘンリー ミンツバーグ (著), 中村 元一 , 黒田 哲彦, 崔 大龍, 小高 照男 (翻訳)
  価格: ¥3,990 (税込)
  産能大学出版部(1997/07)

 本書は、著者が「デザイン学派」及び「計画作成学派」と呼ぶアンゾフらハーバード・ビジネス・スクールの経営学者たちの「戦略計画」を徹底的に批判し、90年代前半に「ミンツバーグ旋風」と呼ばれる大論争を巻き起こした「問題書」です。
 著者は、戦略には3つのタイプがあると前置きします。1つは、当初に意図した戦略が完全に実現した<熟考型>戦略、2つ目は全く実現しない<非実現型>戦略、3つ目は、文献には識別されていないが、当初には明確に意図しなかった戦略が実現した<創発型>戦略です。現実には、完全な熟考型も純粋な創発型も存在せず、こうした戦略のパターンが混在しているにも拘らず、計画作成に関する文書は、自然発生の要素を実質的に除外して、完全に熟考型のプロセスであるかのように見なしていることを指摘しています。
 著者は、戦略計画作成の代表的アプローチとして、(1)社員の動機づけとコントロールを志向する計数ゲーム、(2)意思決定を通じた資本支出のコントロール(資本予算)、(3)この両者の中間、の3点を挙げ、計画作成学派は、これらのアプローチの分離を重視しすぎてきた点を指摘しています。
 計画作成を巡っては、(1)トップ・マネジメントの支持、(2)計画作成としっくりいく組織、という落とし穴があることが指摘されていますが、著者はこれらの主張に対し、真の落とし穴は、(1)社員の全力投球をしばしば侵食し政治力学を呼び起こす「客観的な」分離、(2)コントロールの妄想及び保守主義、(3)短期志向型・現状延長型の平凡な改良が社内で好まれる、という3点であると主張しています。
 戦略計画の背後に存在する基本的な前提として、著者は以下の点を上げています。
(1)公式化の前提―――戦略作成プロセスはシステムを活用することによってプログラム化できる。
(2)分離の前提―――思考と行動の分離、戦略と日常業務の分離、みせかけの考案者と実際の実行者の分離の3点を必要とする。
(3)定量化の前提―――戦略作成プロセスは、自社と環境に関する詳細な「事実」を定量的に集計した「ハード・データ」によって運用されている。
(4)事前決定の有効性の前提―――戦略作成の背景にある状況は安定的であり、また少なくとも予測可能なので、その結果(戦略)だけでなく、プロセスそれ自体は事前に決定できる。
 これら4つの前提に対して著者は、以下のように「誤り」を指摘しています。
(1)事前決定の誤り―――非連続な環境変化を予測することは不可能であり、アンゾフのいう「弱い信号」を探知するシステムに期待することはできない。
(2)分離の誤り―――「戦略と日常業務の分離」には大きな誤解が存在する。ハード・データには、「重要な非定量的なデータが取り込まれず、集約されすぎていて、入手のタイミングも遅く、信頼性に欠ける」という限界があるので、効果的な戦略家は、「森と木の両方を見る」必要がある。
(3)公式化の誤り―――公式的なシステムは、少なくともハード・データを処理することができるようになったが、その情報を<内面化><包括化><総合化>したわけではない。
 では、組織はなぜ公式的な計画作成を行うのか? 著者は、計画作成の役割、計画書の役割、計画担当者の役割を以下のように述べています。
○計画作成の役割
 「組織は戦略を創造するためではなく、すでに持っている戦略をプログラム化するために、公式的な計画作成を行う。すなわち、戦略の結果を公式的に精緻化し、操作化するために公式的な計画作成を行うのである。」
○計画書の役割
(1)コミュニケーション・メディアとしての役割
(2)コントロールの手段
○計画担当者の役割
(1)戦略の発見者
(2)分析者
(3)触媒
 これらをまとめて、「組織はなぜ戦略との関連で計画作成に従事するのか」という問題の答えを以下の7点に要約しています。
(1)戦略をプログラム化するため
(2)コミュニケーションという目的のため
(3)コントロールという目的のため
(4)戦略の発見を支援するため
(5)データと分析を戦略形成プロセスに送り込むため
(6)そのプロセスから生まれた戦略を精査するため
(7)他の社員が戦略的に考えるように刺激を与え、戦略形成プロセス全般についてもっと理解を深めさせるため
 著者は、「本書の結論」として、「戦略計画」は機能せず、形式も機能に一致しない、としながらも、戦略的プログラミングとしては役に立つこともある、と述べています。


■ 個人的な視点から

 本書の特徴は、その徹底した「戦略計画」への批判です。そして、本書が「ミンツバーグ旋風」を巻き起こしたのは、上記のような徹底した分析的な批判とともに、随所に見られる、戦略計画の大家たちに対する冷笑的な記述の数々ではないかと思われます。
 例えば、著者は本書の中で、計画作成学派が好んで用いる「大変だ。現代は乱気流が渦巻いている!」という空騒ぎを、乱気流を制御することができると信じ込んでいるか、そのように特徴づけることによって自身を美化するためではないかという非常にシニカルな批判を行っています。また、計画作成発表が事実より遅れるという非機能的な例まで挙げています。
 非連続な環境変化の予測不可能性に関する記述では、
「五歳の子供なら誰でも簡単に乗れる自転車の乗り方に関して、数学者が複雑な公式を使って記しているようなものだ。『いや全くごくろうさま』といってあげたい。」
とおちょくっています。
 フィナンシャル・タイムスの「最高のビジネス書50冊」に選ばれた名著と聞くと身構えてしまいますが、所々に現れる「口の悪さ」にニヤリとしながら読むのも面白いでしょう。


■ どんな人にオススメ?

・ミンツバーグとの論争に参戦してみたい人。


■ 関連しそうな本

 ヘンリー ミンツバーグ, ジョセフ ランペル, ブルース アルストランド (著), 斎藤 嘉則, 奥沢 朋美, 木村 充, 山口 あけも(翻訳) 『戦略サファリ―戦略マネジメント・ガイドブック』 2005年02月15日
 ヘンリー ミンツバーグ (著), 奥村 哲史, 須貝 栄 (翻訳) 『マネジャーの仕事』
 H.イゴール アンゾフ , 中村 元一 『戦略経営』
 M.E. ポーター (著), 土岐 坤, 服部 照夫 , 中辻 万治 (翻訳) 『競争の戦略』
 トム ピーターズ (著), 平野 勇夫 (翻訳) 『トム・ピーターズの経営創造』


■ 百夜百マンガ

はいすくーる仁義【はいすくーる仁義 】

 当初は高校教師になったヤクザが巻き起こすドタバタコメディでしたが、途中から格闘マンガになってしまいました。
 少年ジャンプではよくあるパターンですが、ヤンジャンでは『押忍空手部』なんかがあります。

2006年1月15日 (日)

あなたもいままでの10倍速く本が読める

■ 書籍情報

あなたもいままでの10倍速く本が読める   【あなたもいままでの10倍速く本が読める】

  ポール・R・シーリィ (著), 神田 昌典 (翻訳)
  価格: ¥1,365 (税込)
  フォレスト出版(2001/09/19)

 本書は、「全脳(ホール・マインド)」を使って驚異的なスピードで本を読むことができるという「フォトリーディング」のテクニックを紹介するガイドブックです。「毎秒1ページを超える速度」でフォトリーディングすることによって、「現存する、最速の情報処理マシーン」である脳を活用することができるというのが謳い文句になっています。
 フォトリーディングは、「人間の脳には、無意識のうちに視覚情報を処理する能力があること」を活かして、印刷されたページを「頭の中に写し取る」方法であると述べられています。著者は、「一字一字、ていねいに読む」という基本原則、私たちが小学校で教え込まれた「『読む』とは、こういうものだ」という古い習慣にとらわれ、脳ができることに限界を設けている、と述べています。しかし、1分間に60ページというのは信じられないスピードです。著者は、「意識上で」そんなに速く読める人はいない、「批判的、論理的、分析的な脳の働きを一時的に迂回」して、「無意識レベルでも文字情報を処理することは可能だ」という事実を受け入れることで従来の読書では使われない右脳の潜在能力を引き出すことができると述べています。
 このフォトリーディング・ホール・マインド・システムは、「準備」「プレビュー」「フォトリーディング」「アクティベーション」「高速リーディング」という5つのステップを持っています。
・ステップ1───準備:明確な目的を持ち「集中学習モード」(「フロー状態」と呼ばれる没頭状態に導く「ミカン集中法」もその一つ)に入る。
・ステップ2───プレビュー:文書の全体的な構造を把握し、キーワードをリストアップする。
・ステップ3───フォトリーディング:視線を「フォトフォーカス」(視線をぼかしページ全体を視野に入れる「ソフト・アイ」で見る)の状態にして右脳に視覚情報を送り込む。
・ステップ4───テキストの中で興味を引かれるページにもう一度目を通す「スーパーリーディング」や「ディッピング(拾い読み)」等を行う。さらに「マインド・マップ」で活性化した情報をまとめる。
・ステップ5───高速リーディング:文書の始めから終わりまで一気に目を通す、従来の読書や速読法に近いやり方。必ず必要なものではない。
 これらの方法は、一冊の本を読むための効率的な方法ですが、これをさらに進めると、同一トピックの何冊もの本をまとめて読む「シントピック・リーディング」に発展させることができることが述べられています。
 「10倍のスピードで本が読める」というタイトル自体は怪しげな感じがしますが、とかく「フォトリーディング」ばかりが話題になりやすいのに対して、いくつかの読書法を組み合わせることで効率的に情報処理を行う、という本書の内容自体は腑に落ちやすいものではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書を読んで、自分の普段の読み方は、本書でいう「スーパーリーディング」という読み方に近いことがわかりました。テキストを大きな固まりごとにざっと見ていき、行の中心部分に目を置きながら、縦書きならば右から左へ、横書きならば上から下に直線に目を動かしていくやり方です。すると、重要な部分が直感的に分かります。本書の中では、次のように述べられています。
「文章の中央部に沿って目を動かしていくと、その中のある部分が、急にあなたの注意を引きます。それは「ここが重要だよ」とあなたに教える直感的なサインです。」
 実際に自分の場合は、その1~2行くらいが少し明るく光って見えるような感じがして目が止まります。おそらく無意識のうちに、「しかし」や「つまり」等のキーワードに引っかかっているのではないかと思いますが、きちんと書かれた文章であれば、重要なセンテンスにはページ全体から流れが集まってきているように図形的にも見える気がするのです。
 残念ながら本書を読んだだけでは、毎秒1ページずつのフォトリーディングはできるようにはなりませんでしたが、いくつかの読書法を組み合わせて一冊の本の中を濃淡を付けて読む、という自分の本の読み方を肯定してもらえた一冊でした。


■ どんな人にオススメ?

・本書を読んだからといって「10倍速く読める」訳ではないことが理解できる人。


■ 関連しそうな本

 トニー・ブザン (著), 神田 昌典 (翻訳), バリー・ブザン 『ザ・マインドマップ』
 松山 真之助 『マインドマップ読書術―自分ブランドを高め、人生の可能性を広げるノウハウ』 2005年05月01日
 ウィン・ウェンガー , リチャード・ポー (著), 田中 孝顕 『頭脳の果て』
 トニー ブザン (著), 田中 孝顕 (翻訳) 『人生に奇跡を起こすノート術―マインド・マップ放射思考』


■ 百夜百音

Best Selection【Best Selection】 荻野目洋子 オリジナル盤発売: 2005

 「ダンシング・ヒーロー」でブレイクした80年代アイドルですが、最近ネスカフェのCMなんかで元ネタが流れてます。→「Killing Me Softly With His Song」
 歌手デビュー前にアニメ「みゆき」の声優をやっていたときは、佐倉に住んでるらしいと聞いて千葉県民としてなぜかうれしかったです。


『Killing Me Softly』Killing Me Softly

2006年1月14日 (土)

数字に弱いあなたの驚くほど危険な生活―病院や裁判で統計にだまされないために

■ 書籍情報

数字に弱いあなたの驚くほど危険な生活―病院や裁判で統計にだまされないために   【数字に弱いあなたの驚くほど危険な生活―病院や裁判で統計にだまされないために】

  ゲルト ギーゲレンツァー (著), 吉田 利子 (翻訳)
  価格: ¥1995 (税込)
  早川書房(2003/09)

 本書は、統計数字に囲まれた現代社会に生きる上で、自分の身に何かが起こる「リスク」は何か、それが起こったときの「コスト」は何かを理解するために必要になる統計センスを磨く本です。「死と税金のほかには、確実なものなど何もない」(ベンジャミン・フランクリン)という言葉を常に意識し、統計センスを磨いていないと、誤解を招くように歪められた統計や確率の伝え方によって、必要のない投薬や手術を受けさせられたり、裁判で不利な立場に追い込まれる危険があることが多くの実例とともに述べられています。
 著者がもっとも多くの紙幅を割いているのが、医師と患者とのコミュニケーションにおける数字の重要性です。インフォームド・コンセントが重視される現代において、医師自身の統計センスの不足や自分の専門を重視する思惑によって、患者にきちんとリスクとコストが伝えられないまま施術に同意させられていることが述べられています。2種類の検査(ELISA法とウェスタン・プロット法)を併せて行うHIVウイルスの血液検査や乳がんの乳房X線検査によって「陽性」と出る確率の意味を、医師自身がきちんと理解していないために、そして患者にきちんと伝えていないために起こる悲劇が幾つも繰り返し紹介されています。HIV検査に「陽性」と出てしまったために自暴自棄になってしまったり自殺を図る人、乳がんの疑いで乳房を切除してから擬陽性であったことが判明した人など、「リスク」と「コスト」がきちんと理解されていない悲劇が述べられています。
 同じように、裁判における数字も悲劇を招きます。妻への虐待と配偶者殺しとの関連や、被告が証拠の特徴と一致する確率と被告が有罪でなくて証拠の特徴を一致する確率を混同する「訴追者の誤謬」など、法廷における「数学オンチ」の例が幾つも紹介されています。有名なO.J.シンプソン事件もDNA鑑定や妻への暴力との関連で俎上に挙げられています。
 著者は、数学オンチを解消するために、一般市民や専門家に対しての教育キャンペーンが必要であることを主張しています。それは以下の3つのステップからなります。
・第1ステップ:フランクリンの法則───どんなタイプの不確実性なのかを見抜くことを教える。
・第2ステップ:リスクに対する無知を克服する───不確実性をリスクに転換する。
・第3ステップ:コミュニケーションと合理的な考え方───リスクの説明についての実験をさせ、透明性のあるやり方でリスクを伝え、判断する方法を学ばせる。
 本書は、単なる数学オンチを笑ったり糾弾するだけでなく、リスクやコストに対する理解がないことで、どれほど実害があるかを強調しているので、他人事ではない人も数多くいるのではないでしょうか。


■ 個人的な視点から

 この手の「統計数字のワナ」的な本には大体同じような統計的トリックやミスが紹介されていますが、著者の意図によって、それらのうちどの部分を強調しているかが異なるようです。『眠れぬ夜のグーゴル』では、主に企業広告や政府発表における事実を糊塗するためのおかしな数字を主に扱っているのに対し、『統計はこうしてウソをつく』の主なターゲットは、「社会活動家」が自ら強い関心を持っている「事実」に多くの人の目を向けさせるために、広い定義や当て推量、解釈の捻じ曲げによって、大げさな数字をでっち上げることをメインに取り上げています。本書の場合は、読者が直面する「リスク」と「コスト」を取り上げている点に特色があります。
 また、統計読み物によく引用される「モンティ・ホール・プロブレム」という人気テレビ番組「レッツ・メイク・ア・ディール」の中のゲームを取り扱った問題について、本書は分かりやすい解説を載せています。このバリエーションとして、「三人の死刑囚」という問題も紹介しています。


■ どんな人にオススメ?

・必要のない治療を受けたくない人。
・裁判で煙にまかれたくない人。


■ 関連しそうな本

 A・K・デュードニー (著), 田中 利幸 『眠れぬ夜のグーゴル』 2005年12月25日
 ジョエル ベスト (著), 林 大 (翻訳) 『統計はこうしてウソをつく―だまされないための統計学入門』 38725
 谷岡 一郎 『「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ』 2005年12月13日
 ダレル・ハフ (著), 高木 秀玄 (翻訳) 『統計でウソをつく法―数式を使わない統計学入門』
 ビョルン・ロンボルグ (著), 山形 浩生 (翻訳) 『環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態』 2005年09月19日
 ポール ホフマン (著), 平石 律子 (翻訳) 『放浪の天才数学者エルデシュ』 2005年11月06日


■ 百夜百音

サヨナラ模様【サヨナラ模様】 伊藤敏博 オリジナル盤発売: 2001

 歌う国鉄職員としてポプコンからデビューした「一発屋」さんです。今思えばポプコンはプロを目指す若者たちに夢を与えた反面、大量の一発屋を生みました。楽器メーカーがコンテストを行うのは、末永く活動するアーティストを発見・育成することではなく、「俺もミュージシャンになりたい!」と若者に憧れを植え付けて楽器を買わせるという思惑があるので仕方ないところですが、多くの若者の人生を狂わせた(それが本人にとって幸せなのかもしれませんが)という一面は無視できません。


『因幡晃 ベスト』因幡晃 ベスト

2006年1月13日 (金)

キメラ―満洲国の肖像

■ 書籍情報

キメラ―満洲国の肖像   【キメラ―満洲国の肖像】

  山室 信一
  価格: ¥1,008 (税込)
  中央公論新社増補版 版 (2004/07)

 本書は、1932年に中国東北地方に出現した「満州国」(本書中では「満洲国」と表記)の、歴史的な意義は何か、そこには近代日本の国家観、民族観、アジア観がどのように現れたのかを、建国の背景や国家理念、統治機構などから明らかにしているものです。著者は、満州国の研究の道に入った動機を「増補版のためのあとがき」の中で、1963年に書かれた「満州国研究の意義」(竹内好)の「日本国家は満州国の葬式を出していない。口のぬぐって知らん顔をしている。これは歴史および理性に対する背信行為だ。」、「どんなに主観的に嫌悪を伴おうとも、目をつむって責任を回避するわけにはいかぬ」、「満州国とは何であったか。日本人はいつか、この問いに答えねばならない」という文章に出会ったことだったと述べています。本書は、この「問い」に対する著者からの回答であると言うことができます。
 本書のタイトルとなっている「キメラ」とは、ギリシア神話に出てくる想像上の怪物で、頭が獅子、胴が羊、尾が龍でできていて、「口から炎を吐き、大地を荒らし、家畜を略奪して去っていく」と説明されていますが、著者は、獅子を関東軍に、羊を天皇制国家に、龍を中国皇帝・近代中国にそれぞれなぞらえています。
 本書の本編は4つの章から構成されています。第1章「日本の活くる唯一の途―関東軍・満蒙領有論の射程」では、満州の地政学的な位置づけや満蒙領有論の背景にあった石原莞爾の「世界最終戦論」など、当時の関東軍の中国認識を中心に展開されています。第2章「在満蒙各民族の楽土たらしむ―新国家建設工作と建国理念の模索」では、満蒙領有論から独立国家建設案への急転回によって、猛スピードで建国の準備がなされている半年間、「兵站基地国家建設という軍事的リアリズムと民族協和の王道楽土建設というアイデアリズムという二つの極の間」で、関東軍の石原莞爾や「保境安民・不養兵主義」の干沖漢、「民族協和」を掲げる満洲青年連盟、大雄峯会、橘樸らの様々な思惑が交錯するさまを描いています。第3章「世界政治の模範となさんとす―道義立国の大旆と満洲国政治の形成」では、「順天安民、民本主義、民族協和、王道楽土」などの建国理念の背景にある政治的な思惑や、「ラスト・エンペラー」溥儀の期待と落胆、中華民国との法制の比較、満洲国政治の実態を解く「日満定位、日満比率、総務庁中心主義、内面指導」の4つの鍵概念等が述べられています。第4章「経邦の長策は常に日本帝国と協力同心―王道楽土の蹉跌と日満一体化の道程」では、国家と個人との係わり合いを中心に、東京帝国大学植民地政策学教授の矢内原忠雄が見た満洲国の現実、満洲国統治の姿勢を一変させた1932年8月の関東軍の人事異動、「洋奴漢奸」を汚名を雪ぐことができなかった国務総理大臣の鄭孝胥らの姿が描かれるとともに、「二キ三スケ」(星野直樹、東條英機、岸信介、鮎川義介、松岡洋右))らによる統制国家の実験場としての満洲国の変貌などが解説されています。
 本書は、13年間という歴史の一瞬の間に産まれ消えていった実験国家を知るには、新書サイズで読みやすく、しかし内容は決してお手軽ではない充実した一冊です。


■ 個人的な視点から

 「キメラ」という言葉は、ギリシア神話を元に、現在では一個体に別個体の組織が存在する現象として、接木した植物や胚を融合させた動物などのことを指すのに使われています。著者は本書のタイトルを、関東軍、天皇制国家、中国皇帝・中華民国が同居する国家として使っているようですが、実験的に作られた「人造国家」または「人工国家」としての意味合いも込められているのではないかと感じました。
 満州国で行われた様々な国家的実験を目にすると、満州国は1945年8月に消滅したのではなく、「1940年体制」と呼ばれる戦時中~終戦後~現在までの日本に実験の本拠地を移したといえるのではないかと思われるほどです。遠い過去の歴史の一エピソードとしてではなく、現在の日本の様々な制度とその間の補完性を考える上で、満州国の成り立ちやそこで行われた実験を押さえておく必要があるのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・現在の日本の各種制度の成り立ちを知りたい人。


■ 関連しそうな本

 草柳 大蔵 『実録満鉄調査部』
 小林 英夫 『満鉄―「知の集団」の誕生と死』
 小林 英夫, 米倉 誠一郎, 岡崎 哲二, NHK取材班 (著) 『「日本株式会社」の昭和史―官僚支配の構造』
 小林 英夫 『「日本株式会社」を創った男―宮崎正義の生涯』 2006年01月02日
 岡崎 哲二, 奥野 正寛 (編集) 『現代日本経済システムの源流』
 野口 悠紀雄 『1940年体制―さらば戦時経済』


■ 百夜百マンガ

バタアシ金魚【バタアシ金魚 】

 『ドラゴンヘッド』や『座敷女』などの設定が理不尽な作品に対して、主人公のキャラクターの理不尽さで当たった出世作です。
 映画にもなりましたが、高岡早紀も筒井道隆も浅野忠信も今やすっかり立派な役者さんになってます。

2006年1月12日 (木)

超企業・組織論―企業を超える組織のダイナミズム

■ 書籍情報

超企業・組織論―企業を超える組織のダイナミズム   【超企業・組織論―企業を超える組織のダイナミズム】

  高橋 伸夫 (編集)
  価格: ¥2310 (税込)
  有斐閣(2000/10)

 本書は、「システムとしての組織・境界としての企業」という編者のアイデアをベースに、月刊誌に連載された「超企業組織論入門」という解説論文に書き下ろしを加えてまとめられたものです。編者を除く10人の著者は、連載執筆当時東大の院生だった研究者のタマゴたちです(単行本化に当たってインテグリティーを高めるために徹底的に書き直しをさせたそうですが)。
 実態として機能しているネットワークやシステムの概念である「組織」と、制度であり境界・仕切の概念である「企業」を違う概念であると切り離して捉えることによって、企業の境界を超えた活動や企業間のネットワークなどを、組織としてのパフォーマンスという関心から見ることができます。本書で扱われている20のトピックは、単なるキーワードの解説ではなく、組織を企業の境界を超えたところにあるものと捉える視点からの解説となっています。
 編者自身も学部ゼミのテキストにも使いやすかったと述べているとおり、企業の境界と組織の関係を、単なる概念としてではなく、20の具体的なキーワードを使って解説している本書は、抽象的な概念よりも具体的な実例の方が取っつきやすい社会人にとってもお奨めの企業論のテキストなのではないでしょうか。


■ 個人的な視点から

 本書は、元が雑誌の記事だっただけに、一つのトピックが10ページに簡潔にまとめられていて、どこから読むこともできるようになっています。しかも、書いたのが研究者のタマゴということもあり、基本を押さえた解説の中にも、どうやって自分の個性を出そうか、という若者の野心のようなものが活きのいいトピックや参考文献の選び方のセンスに現れているようで、思わずニヤリとしてしまいます。
 学会誌ではなく一般企業人が読む雑誌なだけに、あまりマニアックになりすぎてもいけませんし、かといって凡庸なことしか書けないと注目を集めることができません。
 執筆者のうちの何人かはすでに研究者として一人立ちしているそうですが、この辺りの研究者のタマゴたちの競争は、センター試験の問題漏洩事件で話題を集めた(そして閉鎖された)「研究する人生」という2ちゃんねる形式の掲示板によく書かれていました。ディーゼルのローカル線に乗った「ドナ子牛」や「子牛になりたいよう」(唯野教授)などのアカポスへの熱い思いは、中年フリーター博士の恐怖が迫った彼らの切実さが現れていました。


■ どんな人にオススメ?

・経営用語を「企業」と「組織」の観点から整理したい人。


■ 関連しそうな本

 高橋 伸夫 『経営の再生[新版]―戦略の時代・組織の時代』 2005年06月10日
 高橋 伸夫 (編著) 『組織文化の経営学』 2005年08月26日
 クレイトン・クリステンセン (著), 玉田 俊平太, 伊豆原 弓(翻訳) 『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』 2005年10月17日
 筒井 康隆 『文学部唯野教授』


■ 百夜百マンガ

最終フェイス【最終フェイス 】

 大女優の娘かれんの持つ「究極の美」を巡るコメディのはず・・・。
 『おぼっちゃまくん』で大当たりした小林よしのりが青年誌で説教臭くなった作品。この当時のは肩書き漫画家でした。

2006年1月11日 (水)

希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く

■ 書籍情報

希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く   【希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く】

  山田 昌弘
  価格: ¥1995 (税込)
  筑摩書房(2004/11)

 本書は、かつて多くの若者が「豊かな家庭生活を築く」という将来の夢を到達可能なものと感じていた日本社会が、「将来に希望がもてる人と将来に絶望している人に分裂していくプロセス」に入っているのではないか、ということを述べ、著者が「希望格差社会」と名付けた事態が起きた原因、将来の見込みと対策を論じているものです。
 著者は、高度成長期には様々な規制によってローリスクの選択肢が用意され、高望みさえしなければ「人並みの生活」を送ることができる「予測可能性が高い」社会であったのに対し、現代の日本社会は、「リスクの普遍化」という性格変化と、「リスクの個人化(自己責任の強調)」という対処方法の変化が生じていると指摘しています。「リスクの普遍化」とは、リスクを予め避ける道が閉ざされた「リスクを取ることを強制される社会」を指し、本書では貯金や犯罪、職業や家族の例が挙げられています。「リスクの個人化」とは、それまで個人と国民社会の間に存在し、リスクの現実化や起こった後のケアが期待されていた様々な「中間集団」(家族、企業、業界団体など)が、個人を守りきれなくなるとともに、企業自体の倒産やDV・児童虐待など中間集団自体がリスクになっていることが述べられています。
 また、リスクとともに本書の中心的なコンセプトである「二極化」については、「勝ち組・負け組」という救いようのない「組分け」が進行する日本社会の実態として、職業能力の質的格差の格差や家族の利用可能性(共働き・親子)による階層格差の拡大を指摘しています。そして、これらの格差が相乗効果を持っていることも併せて指摘されています。
 本書では、まず、戦後の高度成長期に「安心社会」が形成されてきた過程を概観し、企業におけるOJTや昇進可能性、「サラリーマン-主婦型家族」の形成、受験競争によって将来の職業の目安があらかじめつく「パイプラインとしての学校教育制度」などの安定システムを解説します。その後に、具体的な例証として、職業、家族、教育の3つの分野について考察を行っています。
 職業については、産業構造の転換によって、「専門的な中核労働者」として企業社会の中で生き残っていくために求められる能力が大きく変化していることが、労働力の二極化現象を生じさせていることを指摘しています。これにより、雇用は、クリエイティブな能力、専門的知識を持った労働者と、単純労働者とに二極化し、一度ついてしまった専門能力格差は努力で埋めることはできない「裂け目」になることが述べられています。このことが、「夢見る使い捨て労働者」としての大量の不安定な若者層を生み、教育の格差が「就職プリズム」によって正社員とフリーターという雇用格差に拡大する「プリズム屈折」が起きることを指摘しています。
 家族については、「家族関係」と「「夫の収入」がリスク化することで、「サラリーマン-主婦型家族」が機能しなくなり、家族の絆と家族生活がリスク化することが指摘されています。家族関係のうち、結婚に関しては、経済的理由や配偶者を巡る自由競争の拡大によって未婚化が進行するとともに、配偶者に対する期待水準の上昇や「恋愛市場競争状態」、夫の収入の不安定化によって離婚が増大していることが述べられています。また、親子関係に関しては、親が要介護状態になるリスクや子供を育てることも生活リスクになりつつあります。著者は、これらのリスク化によって、日本の家族が「自ら好きなライフスタイルを選べる人」と「強いられたライフスタイルを強制される人」とに二極化していると述べています。このことが、リスク先送りによる少子化や、生活困難な家族の増大を招いていることが指摘されています。
 教育については、戦後日本のパイプライン・システムが、個人と職業との間を介在する職業リスク低減装置や階層上昇の手段として機能していたこと述べた上で、現在ではパイプラインが傷み始め、そこから「漏れ」が生じていることが指摘されています。この「漏れ」の受け皿となっているのが「フリーター」というカテゴリーであるというのです。この「漏れ」は高校や大学に限らず、大学院充実政策によって大量に誕生している「博士」からもオーバー・ドクターという形で「漏れ」が生じ、著者は20年後には中年のフリーター博士が10万人を超えるのではないかと予想しています。このパイプラインのリスク化と教育システムの二極化によって、
(1)学歴に見合った職に就けなくなるリスクの増大・・・「不安感の広がり」
(2)あきらめる機会が無くなる・・・「過大な期待の広がり」
(3)「勉強して上の学校に行くことが将来の豊かな生活をもたらす」という期待が失われる
という3つの状態がもたらされるのではないかと著者は述べています。
 本書は、現代の日本社会が直面している数々の問題、例えば少子化や虐待などの表面的な症状を引き起こしている原因である「希望格差」を理解する上で非常に良くまとまった一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書を読んでいると、「昔はよかった」的な気持ちにさせられる事例が数多く紹介されています。年功序列的な終身雇用のサラリーマンは安定していたし、家族は心と収入の安定をもたらし、受験競争を勝ち抜きさえすれば先の見通しが立ちました。
 しかし、これらは、長い間打破すべき「因習」のように扱われてきたものであることを忘れてはいけません。年功序列によって無能な中高年社員がポストを独占して高い給料をもらっていることに若い社員たちはずっと不満を持っていました。親が結婚に反対したり見合いをさせられたりすることは、「前近代的な悪習」として映画やドラマの中で必ず悪役扱いされ忌み嫌われてきました。受験競争は子供たちを歪めると言われ、学園ドラマでは偏差値や進学率にこだわる教師は、子供たちの個性を大事にする熱血先生の敵役として登場してきました。
 こうして今や、皆が待ち望んだ自由な社会が到来しました。会社では年齢や学歴ではなく「実力」や「成果」によって待遇が決まります。親に縛られず自由に恋愛し、結婚することも許される社会にもなりました(妊娠をきっかけにした「できちゃった婚」も社会に許容されました)。子供たちの「個性」を大事にし、「夢を持って自分らしく生きる」ことが奨励されるコンセンサスもできました。
 しかし、この社会の実態は冷酷なものでした。「勝ち組」は、高い収入を得て、収入も容姿も優れた配偶者に恵まれ、高い教育を受けることができます。一方で、「負け組」は、不安定で低収入な職に甘んじ、結婚して家庭を持つこともできず、「自分らしく生きるために」夢を抱いて学校教育からドロップアウトしていきます。
 おそらく我々に突きつけられているのは、どちらが良いか、という二者択一の問題ではなく、このどちらでもない次の選択肢を模索していくことにあるのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・日本社会の様々な問題の底流の一つを探りたい人。


■ 関連しそうな本

 佐藤 俊樹 『不平等社会日本―さよなら総中流』 2005年03月22日
 小塩 隆士 『教育を経済学で考える』 2005年02月13日
 林 信吾 『しのびよるネオ階級社会―"イギリス化"する日本の格差』 2005年11月27日
 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』
 橘木 俊詔 『日本の経済格差―所得と資産から考える』
 橘木 俊詔, 斎藤 貴男, 苅谷 剛彦, 佐藤 俊樹 『封印される不平等』


■ 百夜百マンガ

てんとう虫の歌【てんとう虫の歌 】

 大邸宅に住む一人暮らしのおじいさんとボロ家に住む7人兄弟の大家族、親に反対される結婚など、社会の不平等さを思い知らされる作品でしたが、家族の絆の温かさと大切さが感じさせられる作品でした。
 金持ちの年寄りと貧乏な孫たちの対比は現代の状況を予言していたのかもしれません。

2006年1月10日 (火)

人事の経済分析―人事制度改革と人材マネジメント

■ 書籍情報

人事の経済分析―人事制度改革と人材マネジメント   【人事の経済分析―人事制度改革と人材マネジメント】

  松繁 寿和, 中嶋 哲夫, 梅崎 修
  価格: ¥3,675 (税込)
  ミネルヴァ書房(2005/04)

 本書は、日本企業の多くで取り組まれている人事制度改革の背景となる人事の仕組みを分析することで、日本の人事制度の構造を明らかにする事を意図したものです。
 本書の構成は2部構成になっていて、第1部は人事制度の改革過程として、人事制度がどのように導入されるのか、人事制度改革はどのようなプロセスで行われるか等を、医薬品産業などの事例分析を中心に行っています。また第2部は人材マネジメントの経済分析として、生産性と賃金の関係の事例分析や、早期選抜における仕事序列競争の実態、仕事配分における管理職の手腕の発揮など、具体的な人材マネジメントの事例の分析を行っています。
 「人事の経済分析」というタイトルから学術書的な印象を強く持つ人が多くいるのではないかと想像されますが、本書の内容は実務の分析を中心にしているため、経済理論的な解説は少なく、実務家が読んでも違和感無く読めるのではないかと思います。第1部では、「成果主義」を含む人事制度改革がどのように行われ、どのように従業員に受容されているか等が取り上げられていますし、第2部では、生産性と賃金の関係をテレビの視聴率とプロデューサーの賃金との関係から分析したり、ジェンダーと昇進の分析では一般的に問題視されるタテのキャリアだけでなくヨコのキャリア(業務経験の幅や支店間異動)の重要性を分析しています。
 本書は、ぜひ実務家の皆さんにもタイトルにひるまずに読んでいただきたい一冊です。各章ごとに内容は独立しているので関心のある章だけ読んでも良いかもしれません。


■ 個人的な視点から

 本書は、「経済分析」」と銘打っていますが、事例分析のアプローチ方法においては、一般的な経営学の人材マネジメントのテキストとそう大きくは変わらないという印象を受けました。ただし、仮説の組立ではいわゆる「人事の経済学」を理論的な立脚点にしており、その意味では「人事経済学の実証分析」という位置づけなのだと思います。
 人事の分野に関しては、経営学と経済学、特にミクロ経済学をベースとした研究は非常に入り組んでいるところなので、実証分析をやろうとすると似通ったアプローチになってしまうのかもしれません。この分野での経営学と経済学の研究成果の相互乗り入れが進むことはもちろん望ましいと思いますが、「人事の経済分析」というタイトルにふさわしいアプローチとして、「経済学」にこだわった分析の手法もあっても良いかと思いました。


■ どんな人にオススメ?

・「人事の経済学」の実証分析編を読みたい人。


■ 関連しそうな本

 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』 2005年04月05日
 八代 尚宏 『日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済』 2005年03月23日
 樋口 美雄 『人事経済学』
 玄田 有史 『ジョブ・クリエイション』 2005年11月09日
 ポール・ミルグロム, ジョン・ロバーツ (著), 奥野 正寛, 伊藤 秀史, 今井 晴雄, 八木 甫(翻訳) 『組織の経済学』 2005年01月24日


■ 百夜百マンガ

東京物語【東京物語 】

 バブル期の浮かれた雰囲気の中、「プレイボーイ」誌で若者の妄想を刺激しまくった作品。トントン拍子でなぜかもてちゃうコマちゃんを見て、マスコミ業界に憧れた人も少なくないでのは。

2006年1月 9日 (月)

ノイマンの夢・近代の欲望―情報化社会を解体する

■ 書籍情報

ノイマンの夢・近代の欲望―情報化社会を解体する   【ノイマンの夢・近代の欲望―情報化社会を解体する】

  佐藤 俊樹
  価格: ¥1785 (税込)
  講談社(1996/09)

 本書は、様々な文脈の中で繰り返し使われる「情報化社会」という神話の正体を明らかにし、技術の発展と社会変化に関する誤解を解きほぐすことで、私たちが生きている近代産業社会の夢の正体を探ろうというものです。
 著者は、世間に蔓延する「情報化社会」という言葉や「情報技術が社会の仕組みを大きく変える」というフレーズが、1960年代末から30年間の間に、何度かのブームを伴いながら繰り返し使われていることを明らかにします。1971年に書かれた『講座情報社会科学8 情報化社会論1 情報化社会の産業システム』という本には、「工業化の文明社会から脱工業化の文明後社会への転換」が唄われ、「情報化社会」がすぐにでも到来するもののように書かれています。次の情報化社会論ブームである1984年に出版された『ハイテクノロジーと未来社会』という本には、マイクロエレクトロニクスの進歩が産業構造だけでなく社会構造を大きく変える「情報革命」「新産業革命」「第三の波」という呼ばれる、という言葉が書かれています。そして、1994年の『テクノカルチャー・マトリクス』という本にも、「情報社会のテクノメディアは、世界の中で世界に向けてわれわれが行動する際に避けて通ることのできない歴史的アプリオリとなっている。」などが書かれています。著者は、30年もの間、ずっと「情報化によって社会が大転換する」ということが言われ続けていることを指摘しています。そして、「情報化社会」という言葉には2系統の使われ方があり、近代産業社会の先にある「ポスト近代社会」を意味するものと、近代産業社会のヴァリエーションの一つである「ハイパー産業社会」を意味するものとがあり、なおかつこの二つの情報化社会論が混在したまま使われ続けていたことを指摘しています。著者はこの理由を「情報化社会」という言葉には実体が存在しない空虚な記号だからだと述べています。
 著者は、「情報化社会」とは、「技術予測の名を借りた未来社会への願望に他ならない。情報化社会論は30年間、そうした願望を語ってきた」と指摘し、この願望をあたかも技術の必然であるかのように語られていることを問題視しています。技術によって社会が変化するのではなく、社会の仕組みが変化するのは我々がその方向を選択しているからであり、その責任を技術のせいにする責任回避の姿勢が問題であるとしています。
 著者は、「情報化社会論」が以上のような問題点を抱えながら30年間続いてきて、すでに一つの立派な産業になっていることを指摘しています。情報技術の展開と未来社会イメージの変遷を組み合わせたモデルチェンジをうまく使うことで、情報化社会論は永遠の若さを手に入れた「生きている死体(リヴィングデッド)」となりえたと述べています。
 「自分が聞かされている話は30年前の焼き直しではないか?」・・・・・・情報化と社会変化の関係に関心がある方には、ぜひ一度読んでいただきたい1冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書では、古くから行われている技術予測について、過去の文献にさかのぼって述べているので、タイトルにあるフォン・ノイマンやアラン・ケイなど、現代のコンピュータの原型を作ってきた思想家たちについて要所要所で触れられているのですが、あまり文脈上必要のない写真や画像も多く、印象を操作するために使われているようにも思われました。この辺りは著者の責任というよりも、編集者のセンスなのかもしれません。松岡正剛が編集したような感じとも言えないこともないのですが・・・。
 また、本書は内容的には面白かったのですが、社会学の人の文章というのは冗長で読みにくい傾向があるように感じました。「社会学者というのは疑り深くないといけない職業」と著者自身が述べているので、あまりサクサクとした簡潔な文章は苦手なのかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・「情報化社会論」のマンネリ商法に踊らされたくない人。


■ 関連しそうな本

 佐藤 俊樹 『不平等社会日本―さよなら総中流』 2005年03月22日
 奥野 正寛, 池田 信夫 『情報化と経済システムの転換』
 佐藤 俊樹 『00年代の格差ゲーム』
 坂村 健 『痛快!コンピュータ学』 2005年07月02日
 見田 宗介 『現代社会の理論―情報化・消費化社会の現在と未来』


■ 百夜百音

AXS SINGLE TRACKS【AXS SINGLE TRACKS】 access オリジナル盤発売: 2002

 レイザーラモンHGのネタ元がVillage Peopleだとすると、Accessのネタ元はErasureあたりでしょうか。デジタル音とアナログ音の違いはあるのですが、男性デュオがメロディアスなサウンドに載せて同性愛ネタを歌うというコンセプト的にかぶるような気がします。


『Who Needs Love (Like That)』Who Needs Love (Like That)

2006年1月 8日 (日)

統計はこうしてウソをつく―だまされないための統計学入門

■ 書籍情報

統計はこうしてウソをつく―だまされないための統計学入門   【統計はこうしてウソをつく―だまされないための統計学入門】

  ジョエル ベスト (著), 林 大 (翻訳)
  価格: ¥2730 (税込)
  白揚社(2002/11)

 本書は、「おかしい統計がどこから生まれ、なぜなかなか消え去らないのかについて」を、様々な政府の公式文書や学術調査報告書、そして「社会活動家」たちの主張の根拠とする数字の中から取り上げ、これらの社会統計の用いられ方に対する理解を深め、判断を下す力を高めることを目的としたものです。世間の多くの人々は統計数字に出会ったときに「疑いもせずに統計を受け入れる」と著者は述べています。しかし、著者が「突然変異統計」とよぶおかしな統計、数字の意味が理解できなかったり、問題を宣伝する熱意が強いあまりに、統計を劇的で関心を引く数字に「改良」し、「嘘も方便」的態度によって恋に情報をゆがめた結果などによって生まれます。
 著者は、統計に出会ったときに次の3つの問いかけをすべきと述べます。
(1)誰がこの統計をつくったのか。
(2)この統計はなぜつくられたのか。
(3)この統計はどのようにつくられたのか。
 社会問題の定義に関して、ケースを問題に含めるかどうかによって、「正への誤分類」(広すぎる定義)と「負への誤分類」(狭すぎる定義)の2つがあり、「新たな社会問題をつくりだそうとする活動家は、正への誤分類より負への誤分類を困ったことを見な」します。世間で広く認識されていない問題は、狭すぎる定義では問題の全容を捉え損ねてしまうので、活動家は負への誤分類が起こらないような広い定義を主張する傾向があると著者は述べています。
 また、母集団を代表しない標本を元にした「便宜的標本抽出」も社会問題を宣伝したい活動家にとってはよく使われる手法です。著者は「社会問題についての統計は普通、無作為標本とはほど遠い標本に基づいている。」と述べています。
 また「当て推量」も、社会活動家がよく使う手口です。活動家は統計に現れない「暗数」(警察に通報されない犯罪件数など)を多めに見積もる傾向があると述べられています。1980年代のホームレス支援活動家のミッチ・スナイダーは、ホームレスが2、300万人いるという見積もりを主張していましたが、テレビ番組でその根拠を尋ねられ、根拠がなかったことを認めています。
 これらの問題点を指摘した上で、著者はよい統計の特徴として、
(1)よい統計は当て推量以上のものに基づいている。
(2)よい統計ははっきりした妥当な定義に基づいている。
(3)よい統計ははっきりした妥当な計測方法に基づいている。
(4)よい統計はよい標本に基づいている。
という4つの点を挙げています。
 逆に悪い統計の代表的なものとして、著者は「突然変異統計」の問題点を挙げています。突然変異統計は、一度マスコミに登場すると、数字が一人歩きし、いつまでも蔓延し生きながらえる可能性が十分あると著者は述べています。著者は、突然変異統計を生み出す誤りとして以下の4点を挙げています。
(1)不適切な一般化・・・いくつかの事例から(証拠で裏付けられない)一般的状況を推測する。
(2)変換・・・数字の意味を変えてしまう(例:拒食症の人15万人→拒食症による死亡15万件)。
(3)混乱・・・複雑な統計がねじ曲げられる(例:純付加、オッズ比などの込み入った統計的概念)。
(4)複合的な誤り・・・おかしな統計が一人歩きし、何度も繰り返される。
 本書は、衝撃的な社会問題を告発する数字に出会ったときに、ぜひ一度思い出して欲しい一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書で指摘しているような「活動家によってねじ曲げられたおかしな統計」を徹底的に調べ直し、批判しているのがロンボルグによる『環境危機をあおってはいけない』です。環境問題ほど、「暗数」の部分が大きく、不適切な一般化や当て推量がまかり通っている世界はないことが指摘されています。特に、感情を直撃するような映像、例えば油を浴びた海鳥や砂漠化した森などの映像とともに、ごく単純化したグラフや、「このペースでは百年後には××になります。」というメッセージが添えられていると人間はコロリと信じてしまうものです。
 同じようなことが、経済の世界でも多くまかり通っています。例えば国家財政を家計簿のアナロジーで説明することは、わかりやすさという利点がある反面、大きな誤解を招くおそれがあります。このような場面でおかしな統計を使いたいという動機は、政府にとっても、社会問題を提起したい活動家にとっても、両方が持っているものです。
 私たちは、統計に代表される衝撃的な数字を伴った主張に出会ったときは、常に「誰が、なぜ、どのように」その数字を作ったのかを再確認する習慣を持つ必要があります。


■ どんな人にオススメ?

・数字を示されるとコロリと信じてしまう人。


■ 関連しそうな本

 ビョルン・ロンボルグ (著), 山形 浩生 (翻訳) 『環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態』 2005年09月19日
 A・K・デュードニー (著), 田中 利幸 『眠れぬ夜のグーゴル』 2005年12月25日
 谷岡 一郎 『「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ』 2005年12月13日
 ダレル・ハフ (著), 高木 秀玄 (翻訳) 『統計でウソをつく法―数式を使わない統計学入門』


■ 百夜百音

GOLDEN☆BEST【GOLDEN☆BEST】 西城秀樹 オリジナル盤発売: 2004

 レイザーラモンHGが「YOUNG MAN」をカバーする、ということで話題になっていますが、決して西城秀樹のカバーではないです。自らの「芸」のコンセプトに忠実に、と言うよりネタ元に忠実に「一人Village People」をやるということでしょうか。


『ベスト・オブ・ヴィレッジ・ピープル』ベスト・オブ・ヴィレッジ・ピープル

2006年1月 7日 (土)

思考のための道具―異端の天才たちはコンピュータに何を求めたか?

■ 書籍情報

思考のための道具―異端の天才たちはコンピュータに何を求めたか?   【思考のための道具―異端の天才たちはコンピュータに何を求めたか?】

  ハワード ラインゴールド (著), 青木 真美, 栗田 昭平 (翻訳)
  価格: ¥1,890 (税込)
  パーソナルメディア(1987/12)

 本書は、「数値の計算に用いられる神秘的な装置」から、情報を知識へ変形するのを助ける思考支援の装置へと、コンピュータの可能性を発展させた人物たちの思想と功績、そしてその人物像について述べているものです。本書ではこのような人たちを以下のように呼んでいます。
・「開祖(partiarchs)」:一世紀以上あるいは数十年前のコンピュータ史上の重要な人物
・「パイオニア(pioneers」:PC技術の共同創造者であり、現在も人間の心とマシンのインターフェイスの探求に携わる人々
・「インフォノウト(infonauts)」:もっとも若く、認知科学の領域を探求する人々
 世界初のコンピュータであるENIACの一世紀も前に、もっとも古い 「開祖」であるチャールズ・ベバッジとラブレイス夫人エイダは、「解析機関(Analytical Engine)」の完成まで後一歩のところに近づきます。この英国の2人の奇人が設計した解析機関は、現代の計算機に大変類似した機能を備えたもので、「ミル」と呼ばれる計算機関を中心に持ち、「ストア」と呼ばれる記憶装置にその計算結果を蓄え、穿孔カード読取装置による入力が可能で、さらに計算結果を示すための自動植字機も設計されていました。エイダは世界初のプログラマであり、現代のコンピュータ言語の重要なアイデアである「サブルーチン(繰り返し使用される計算手順をライブラリに記憶し、必要に応じて呼び出す)」、「ループ」、「ジャンプ(もしある条件が満たされるならば別のカードにジャンプする)」を考え出しました。
 本書では、この他の「開祖」として、「記号論理学」を発明したジョージ・ブールや、数学と論理学を機械の形に統合したアラン・チューリング、現在のコンピュータのアーキテクチャを発明し「本当の人間ではなく、他のことすべてがうまいのと同じように、人間のふりをする技にたけている何か別の生物である」と言われたジョン・フォン・ノイマン、動物・人間・機械の制御と通信システムの特性に関する「サイバネティックス」の概念を生み出したノーバート・ウィーナー、情報理論の数学的基礎を築いたクロード・シャノン他が紹介されています。
 また「パイオニア」としては、対話型コンピュータを作ったJ・C・R・リックライダー、人間の知性の増幅に取り組んだダグ・エンゲルバート、ARPAnetを構築したロバート・テイラー、最初の本当の意味でのパーソナルコンピュータであるAlto計画のソフトウェアに携わったアラン・ケイらが紹介されています。
 本書は単なる計算機としてのコンピュータの歴史書ではなく、「思考のための道具」を夢見て作り上げてきた異端の天才たちの列伝として非常に読み応えのあるものとなっています。


■ 個人的な視点から

 本書の多くの章は、「開祖」「パイオニア」「インフォノウト」の誰か一人に焦点を当てていますが。第8章の「ソフトウェア史の証人:MAC計画のマスコット」では、デビッド・ロッドマンを中心に置きながらも、この章の主人公は、青白い顔に落ち窪んだ目をして、自分たちにしかわからないような隠語を使いながら熱狂的にまくしたて」、「スペースウォー」ゲームに熱中する「ハッカー」たちの最初の世代です。「自動販売機から買えるものしか食べず、ここ三年間は肌に蛍光灯の光以外のものを浴びていない、ペプシをがぶ飲みして、眠れない一途なプログラム中毒者」という描写は、その後「ハッカー」という言葉の使われ方は変わっても、生活スタイルそのものは変わらないのだと感じました。
 本書の原書は1985年に出版されたものですが、PARCに関する章では、PARCを卒業したチャールズ・シモニーが手を組んだ相手として次の世代の天才少年ビル・ゲイツが紹介されています。「マイクロソフト社は現在では世界第二のマイクロコンピュータのソフトウェア会社である。」という記述に時代を感じてしまいます。


■ どんな人にオススメ?

・「コンピュータ様」に使われるのではなく、自分が考える道具として使いたい人。


■ 関連しそうな本

 西垣 通, フィリップ ケオー, A.M. チューリング, ダグラス・C. エンゲルバート, テリー ウィノグラード, ヴァネヴァー ブッシュ, J.C.R. リックライダー, テッド ネルソン 『思想としてのパソコン』 
 アラン・C. ケイ (著), 鶴岡 雄二 (翻訳) 『アラン・ケイ』 
 ペッカ ヒマネン, リーナス トーバルズ, マニュエル カステル (著), 安原 和見, 山形 浩生 (翻訳) 『リナックスの革命 ― ハッカー倫理とネット社会の精神』 2005年10月29日
 坂村 健 『痛快!コンピュータ学』 2005年07月02日
 山形 浩生 『コンピュータのきもち 新教養としてのパソコン入門』 2005年07月23日
 佐藤 俊樹 『ノイマンの夢・近代の欲望―情報化社会を解体する』 


■ 百夜百音

オックス VINTAGE COLLECTION【オックス VINTAGE COLLECTION】 オックス オリジナル盤発売: 2005

 オックスといえば「スワンの涙」が有名ですが、学生時代に「ダンシング・セブンティーン」はいい曲でした。「眼鏡が好き」という歌詞はけして「眼鏡っ娘萌え」という意味ではないと思うです。


『恋する眼鏡』恋する眼鏡

2006年1月 6日 (金)

経営革命大全

■ 書籍情報

経営革命大全   【経営革命大全】

  ジョセフ・H. ボイエット, ジミー・T. ボイエット (著), 金井 壽宏, 大川 修二 (翻訳)
  価格: ¥1995 (税込)
  日本経済新聞社(1999/02)

 本書は、1990年代を代表するビジネス思想の「権威(グル)」たちの理論やコンセプトを一冊の本に凝縮したものです。本書では、数多くのグルたちを、リーダーシップ、変革のマネジメント、学習、チーム制、戦略、モチベーション、未来の組織設計の7つの分野に分け、それぞれのコンセプトの成立過程や長所、短所を評価しています。
 第1章の「リーダーシップ」は、グルたちにとって非常に儲かる分野であり、アドバイス料だけで月に50万ドル以上を稼ぐ者もいることが述べられています。コンセプトは論者ごとに異なっていますが、「自然法則」として以下の3点に要約されています。
・自然法則1:リーダーには喜んで従う部下がいる。
・自然法則2:リーダーシップは相互作用の場である。
・自然法則3:リーダーシップは1つの出来事である。
 第2章の「変革をマネジメントする」では、「変革のための方程式」が紹介されています。
    C=A×B×D>X
C=変革が成功する見込み
A=現状に対する不満度
B=変革達成後の望ましい状態の明治
D=目的に向けての具体的な第一歩
X=変革に要するコスト
 第3章の「学習する組織」では、組織の学習不足を診断し治療する方法として、
(1)内省とコミュニケーションを学ぶ
(2)システム思考を学ぶ
(3)学習する文化を作る
の3つのアプローチが紹介されています。
 第4章の「チームワークを活用した高業績組織の創造」では、グルたちが好んでとりあげる以下の8つの助言が紹介されています。
・助言1:作業を再設計せよ。ただ単にチームを作るな。
・助言2:給与体系を再設計せよ。
・助言3:情報システムを再設計せよ。
・助言4:個人の業績評価を変更/撤廃せよ。
・助言5:明確で、しかも達成するのに努力を要する、チームの業績目標を定めよ。
・助言6:チームは小さく。
・助言7:適切な作業環境を整えよ。
 第5章の「マーケット・リーダーシップの追求」では、「金のなる木」や「負け犬」などで有名なボスコンの「成長率/市場占有率マトリックス」から、ポーターの競争戦略とそれに対するミンツバーグの批判、ハメルとプラハラードの「コア・コンピタンス」、トレーシーとウィアマーセの「価値法則」、ブランデンバーガーとネイルバフの「コーペティション」まで、競争戦略のグルたちの栄枯盛衰が、さながら歴史物語のように描かれています。
 第6章の「人材の管理とモティベーション」では、つぶれかけた工場をオープンブック(会計帳簿の開示)・マネジメントで再生させたジャック・スタックの「ビッグ・ゲーム」を数多くのエピソードを交えて紹介するとともに、バランス・スコアカードやインセンティブ給システムなどを解説しています。
 第7章の「ビジネス、労働、社会」では、ドラッカーが唱える「ポスト資本主義社会」(産業革命→生産性革命→経営革命)や、ハンディが提唱する「シャムロック型組織」等が解説されています。
 本書の巻末には、グルたちに(高い報酬を払うために)連絡を取る上で便利なアドレス帳もついていますが、日本の読者にとっては、これまで色々な流行に乗ってバラバラに読んできた本やコンセプトを整理し、今後どんな「グル」たちの教えを読むべきかを示唆する優良な読書ガイドとして機能するものです。


■ 個人的な視点から

 よく大学で使われる「経営学」のテキストが、歴史を追ってテイラーやバーナードを紹介している「縦の人名図鑑」だとすると、本書は1980年代から1990年代にかけての「グル」たちを電話帳的に整理した(実際に電話帳もついてますが)「横の人名図鑑」という趣があります。経営学の歴史を学ぶこと自体にももちろん価値がありますが、学生以外の多くのビジネスマンが知りたいと思っているのは、街の本屋に山ほど並んでいる「グル」たちの教えをどのように整理するか、という現時点を整理する本書の方ではないかと思います。
 タイトルが『経営革命大全』という大げさなモノだったので初めは読むのをためらいましたが、原題の『The Guru Guide: The Best Ideas of the Top Management Thinkers』からイメージされる内容にはぴったりでした。
 せっかくですから日本の「グルガイド」も誰か作ってくれないでしょうか。ネタ元が誰なのかが分かると多くの日本の「グル」の主張もわかりやすくなる(実も蓋もないですが)ように思われます。


■ どんな人にオススメ?

・「グル」たちの教えを整理したい人。


■ 関連しそうな本

 ジョセフ・H. ボイエット, ジミー・T. ボイエット (著), 金井 壽宏, 大川 修二 (翻訳) 『経営革命大全―世界をリードする79人のビジネス思想 日経ビジネス人文庫』
 スチュアート・クレイナー (著), 梶川 達也 (翻訳) 『マネジャーのための経営思想ハンドブック ― 経営学ロジックの歴史をじっくりと確実に学びたい方のために』
 スチュアート クレイナー (著), 嶋口 充輝 , 黒岩 健一郎 , 岸本 義之 (翻訳) 『マネジメントの世紀1901~2000』
 別冊宝島編集部(編) 『わかりたいあなたのための経営学・入門』 2005年01月26日
 ヘンリー ミンツバーグ, ジョセフ ランペル, ブルース アルストランド (著), 斎藤 嘉則, 奥沢 朋美, 木村 充, 山口 あけも(翻訳) 『戦略サファリ―戦略マネジメント・ガイドブック』 2005年02月15日
 ヘンリー ミンツバーグ (著), 中村 元一 , 黒田 哲彦, 崔 大龍, 小高 照男 (翻訳) 『戦略計画 創造的破壊の時代』


■ 百夜百マンガ

毎日かあさん カニ母編【毎日かあさん カニ母編 】

 ほのぼの家庭マンガなのにリアルタイムで離婚しちゃうって言うのも、健康食品のCMに出た人が闘病記書いてるようなもんですが、それを自然に読ませてしまうのがサイバラらしさなのでしょうか。
 お正月の毎日新聞にアンパンマンのやなせたかし氏との対談が載ってました。
 
<「夢の新春対談:アンパンマンと毎日かあさん」

2006年1月 5日 (木)

行政の経営改革―管理から経営へ

■ 書籍情報

行政の経営改革―管理から経営へ   【行政の経営改革―管理から経営へ】

  上山 信一
  価格: ¥2,520 (税込)
  第一法規出版(2002/05/24)

 本書は、「管理」が考え方の基本になっている行政を、「経営」という考え方から改革する方法を、大企業や官庁、博物館などの改革に携わる「改革のプロ」である著者の「経験工学」をまとめたものです。
 本書の構成は、大きく3部構成になっていて、第1部では1990年代の行政改革を概観し、改革の要点が「制度改革」ではなく「運営改革」にあることを喝破しています。海外の行革や民間企業の改革から学ぶべき点や、日本の「行革」がうまく行かない点を次のような潮流を元に読み解いています。
・官 → 民
・国 →地方
・中央→現場
・制度→運営
 第2部では、国内の自治体の改革事例として、三重県庁と福岡市役所のケースを現場の分析を中心に紹介しています。特に福岡市の事例には著者本人が外部有識者として経営管理委員会のメンバーとして参画した経験を元に、臨場感あふれる改革の現場のダイナミクスを伝えています。これらの事例を紹介する根底には、今や多くの自治体で「行革」がルーティンワーク化されている現状に対する著者の問題意識がベースになっています。
 第3部では、「経営改革」という視点から、行政評価ブームや市町村合併などの時事ネタに切り込んでいます。本書の各章自体が、元々色々な場に発表してきた文章を再編集したものなので、この第3部はやや「その他」色が強くなりますが、第1部や第2部の分析をベースに、さらに各論に踏み込んだ議論は小気味よく読んでいくことができます。特に著者自身が仕掛け人でもあった行政評価ブームを総括した第7章は、ノウハウだけを目当てに本書を手にした自治体関係者には耳が痛い内容になっているのではないかと思います。
 本書は、分析対象としては自治体の事例が多く扱われていますが、その切り込み方は著者がマッキンゼー時代から多く手がけてきた大企業の改革をベースにしており、行政関係者だけではなく、民間企業の改革を考える上でも多くのヒントを与えてくれるものではないかと考えます。


■ 個人的な視点から

 本書は、今から約4年前に出版されたものですが、当時個人的に仕事が立て込んでいたので読んでいませんでした。その後、行政評価ブームも一段落し、本書で扱われている三重県庁では改革の原動力(一部の人にとっては元凶?)であった北川前知事が退任した現在、一歩時間的に距離を置いたところから本書を読むと、その内容は陳腐化しているというよりも、かえって時代の流れの中で読むことができ、その時代認識の的確さに驚きました。改革の現場にリアルタイムに身を投じながら、的確に時代の潮流をつかむ力は、たとえれば荒れ狂う海に浮かんだ船の上から、灯台や星を目印に現在位置を割り出す技術のようなもので、これこそが長く大企業の改革に携わってきたコンサルタントの力なのかと感心しました。
 個人的にうれしかったのは、第5章で三重県庁の現場の担当者からヒアリングした内容が紹介されていますが、このベースになった行政経営フォーラムの記録を当時自分が担当していたことです。もちろん、自分は単に記録していただけなので、その中身は発言者のものですが、自分が聞き取ってPCに入力したテキストが、出版物の一部になったということがなんだかうれしくなってしまいます。


■ どんな人にオススメ?

・なかなか「管理」の発想から抜け出せない人。


■ 関連しそうな本

 上山 信一 『だから、改革は成功する』 38658
 上山 信一 『「行政評価」の時代―経営と顧客の視点から』 2005年01月21日
 上山 信一, 玉村 雅敏, 伊関 友伸 (編) 『実践・行政評価―事例、解説、そしてQ&A』
 上山 信一, 伊関 友伸 『自治体再生戦略―行政評価と経営改革』 38472
 若松 茂美, 織山 和久, 上山 信一 『変革のマネジメント―明るい「リストラ」を考える』 2005年08月10日
 石井 幸孝, 上山 信一 『自治体DNA革命―日本型組織を超えて』


■ 百夜百マンガ

野球狂の詩【野球狂の詩 】

 子供の頃、アニメしか見ていなかった私はこの作品には「ドリームボール」の水原勇気のイメージしか持っていなかったのですが、元々は「東京メッツ」のメンバーを描いた群像モノだったのです。

2006年1月 4日 (水)

選別主義を超えて―「個の時代」への組織革命

■ 書籍情報

選別主義を超えて―「個の時代」への組織革命   【選別主義を超えて―「個の時代」への組織革命】

  太田 肇
  価格: ¥819 (税込)
  中央公論新社(2003/09)

 本書は、「学歴や年齢などの序列を重視するいっぽう、同じ学歴や年齢層の中では平等を維持しようと」する「序列主義」から、「組織主導のもとで人為的に勝ち組と負け組みを区別し、あるいは格差を意図的に広げて」いる「選別主義」への社会の流れを、企業における「閉ざされた能力主義」の拡大による賃金格差の広がりや、エリートの早期選抜、教育における選別の進行などを例に論じたうえで、選別主義の限界を指摘し、序列主義でも選別主義でもない「適応主義」の時代の到来を主張したものです。
 著者は、序列主義も選別主義も個人ではなく組織の論理に基づくものだとした上で、選別主義は、(1)選別の妥当性、(2)選別の包括性、(3)選別が正当性を持つこと、という3つの条件を満たさなければ有効には機能しないと指摘し、選別主義が「選別のための選別」という「手段の目的化」に陥っていると主張します。そして、組織から距離を置く「新しい日本人」の増加とともに、「組織人から仕事人(しごとじん)」への流れが拡大していると分析します。
 「組織から個人へ」の流れは、「組織が個人を評価・選別し、それによって地位や賃金などの処遇が決まるのではなく、環境に対する個人の適応の度合いによって個人の評価、収入、地位などが決まるシステム、ならびにそれを尊重する考え方」としての「適応主義」の時代の到来をもたらすとしています。序列主義や選別主義が「組織の論理」のパラダイムに基づいているのに対し、適応主義は「市場・社会の論理」に基づいており、ここにパラダイムの変化があるということです。
 本書は、企業における成果主義や教育における格差の問題を、「年功制」対「成果主義」のような「組織か市場か」の二極の問題として捉えるのではなく、「選別主義」を本格的な個人ベースの社会に移行する中間段階的に位置づけているのが特徴です。


■ 個人的な視点から

 著者は選別主義を、「組織の論理」のパラダイムに基づいたものだと指摘しています。イメージとしては、「組織の論理」のOSの上に、「市場・社会の論理」のアプリケーション・ソフトが載った感じなのでしょうか。そういわれれば企業における「成果主義」の考え方は、中途半端に市場の考え方を取り入れつつも、本来は市場で流通すべき「品質」や「価格」の情報を中央集権的に独占してしまうことによって、かえって機能不全を起こしてしまう、という面があるように感じます。


■ どんな人にオススメ?

・中途半端な「選別主義」に閉塞感を感じている人。


■ 関連しそうな本

 アルフィ コーン (著), 田中 英史 (翻訳) 『報酬主義をこえて』 2005年11月08日
 アルフィ コーン (著), 山本 啓 (翻訳), 真水 康樹 (翻訳) 『競争社会をこえて―ノー・コンテストの時代』
 ダニエル ピンク (著), 池村 千秋 (翻訳), 玄田 有史 『フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか』 2005年02月02日
 太田 肇 『ベンチャー企業の「仕事」―脱日本的雇用の理想と現実』 2005年07月22日
 玄田 有史 『仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在 中公文庫』 2005年07月20日
 今井賢一, 伊丹敬之, 小池和男 『内部組織の経済学』


■ 百夜百マンガ

パッパカパー【パッパカパー 】

 主人公のツキの無さ具合は『スーパーヅガン』の比ではない位のどん底ぶり。こういう作品と『北斗の拳』を同じ人が書いてるかと思うと不思議ですが、主人公に降りかかる畳み掛けるような不幸は同じなのかも。

2006年1月 3日 (火)

日本企業の人材形成―不確実性に対処するためのノウハウ

■ 書籍情報

日本企業の人材形成―不確実性に対処するためのノウハウ   【日本企業の人材形成―不確実性に対処するためのノウハウ】

  小池 和男
  価格: ¥693 (税込)
  中央公論新社(1997/08)

 本書は、日本の職場、特に工場におけるOJTによる知的熟練について、不確実性への対応を鍵として分析して以降というものです。前半部分では、わが国の知的熟練を支えるOJTと研修などのOffJT、そして公共訓練機関などの政府が果たす役割について分析し、これらの中で特にOJTが幅広い技能の習得に大きな貢献をしていることを明らかにします。後半部分では、わが国における幅広いOJTがどのように形成されてきたのか、そして戦前戦後を支えた「養成工」制度が果たしてきた役割などを、丹念な事例研究をベースに解説しています。
 特に本書で(というよりも著者の研究において)大きなウエイトを占めているのは、「不確実性」への対応です。不確実性とは具体的には職場で発生する「ふだんと違った作業」を指します。これには二種類あり、一つは不良品の発生などの「問題への対処」(原因推理、原因の直し、検査)です。もう一つは、生産量や品種、生産方法、人員構成などの「変化への対処」です。
 はばの広いOJTには次の3つの特徴があります。
(1)広がりは主に一職場内で、短期の応援などによって隣の職場に広がる。
(2)ローテーションが定期的かどうかよりも、長期に経験の幅を広げることが重要。
(3)職場内の異動は多くは職場の慣行に基づくもの。
 前半部分では、この他、ホワイトカラーのOJTやOffJTとしての研修、公共訓練や技能検定などの政府の役割について言及しています。
 後半部分は、このような現在のOJTが形成されるまでの歴史を掘り起こします。1950年代から70年代にかけての鉄鋼や化学、機械工場における仕事序列制から定期ローテーションへの出現などの現象を、少ない人数で製品需要の変動をこなすための「応援」によって幅広いOJTが生まれ、このことによって個々の職場におけるローテーションが始まっていった、と、詳細な事例分析により説明しています。
 本書のタイトルは「人材形成」となっていますが、より端的には「日本のOJT」などのタイトルでもよかったのではないかと思われます。


■ 個人的な視点から

 本書に限りませんが、この著者の文章は、構成にやや癖があり、なれないと読みにくいのが特徴です。パパっと要点を説明し、その後内容を述べていく、というタイプの文章ではないので、注意していないと、今何の話をしているのかが、わからなくなることがあります。特に電車の中などで断片的に読むのには適していません。
 また、他の著書と合わせて読むと理解が深まる、という点が顕著でもあります。裏返すと、一冊読んだだけでは敷居が高いということでもあります。文章や用語自体が難しいというわけではありませんが、何冊か読むとそれらが縦糸と横糸のように絡み合って、著者の述べたいことが立体化してくるという感じです。ぜひ、続けて関連書籍も読んでみてください。


■ どんな人にオススメ?

・なぜ日本で幅広いOJTが定着したのかを知りたい人。


■ 関連しそうな本

 小池 和男 『日本の雇用システム―その普遍性と強み』 2005年04月06日
 小池 和男 『仕事の経済学』
 小林 英夫 『「日本株式会社」を創った男―宮崎正義の生涯』 2006年01月02日
 青木 昌彦 (著), 永易 浩一 (翻訳) 『日本経済の制度分析―情報・インセンティブ・交渉ゲーム』 2005年04月01日
 佐藤 博樹, 佐藤 厚 (編集) 『仕事の社会学―変貌する働き方』 2005年12月01日
 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』 2005年04月05日


■ 百夜百マンガ

花男【花男 】

 「長嶋茂雄が大好きなお父さん」のイメージは、新橋駅前で酔っ払ったサラリーマンのような感じがあるのですが、そんなベタな設定を使って夢のある御伽噺を作ってしまうところが素晴らしいです。

2006年1月 2日 (月)

「日本株式会社」を創った男―宮崎正義の生涯

■ 書籍情報

「日本株式会社」を創った男―宮崎正義の生涯   【「日本株式会社」を創った男―宮崎正義の生涯】

  小林 英夫
  価格: ¥2,345 (税込)
  小学館(1995/11)

 本書は、「日本株式会社」とも揶揄される、戦後復興と高度成長を支えた日本の経済システムの原案を作成した人物の記録です。彼は、急激な経済成長を達成したソヴィエトを手本に、以下のような特徴を備えた「日本株式会社」の特徴となる官僚による経済統制システムの構築を目指します。
(1)産業統制政策の展開と企業の国家目的への従属→「資本と経営の分離」
 ・・・株式の配当などの目先の利益にとらわれた資本家を排除し、国家目的を理解し実践する有用な人材を登用する。
(2)金融機関の統制の強化と貿易・為替統制の強化、物価統制の実施
 ・・・産業融資を効率的に行うため日銀中心に金融機関を再編成、輸出促進、輸入抑制を図るために貿易、為替、物価を統制する。
(3)熟練工の養成と職業紹介の促進
 ・・・労働者や農民を大切にしない限り産業の振興はありえないとして、熟練工養成所の新設拡張、職業紹介機能の強化、下請け業者の素質・能力向上、農村新興、国民労働力の培養と産業平和の維持、過激労働の緩和と傷病者保護などの勤労者福祉の増進。
(4)総務庁の設置と大臣ポストの統廃合
 ・・・国務院に直属する「総務庁」を儲け、総務庁の企画局が政策を立案する体制を構築。
 戦後の高度成長を支えた日本型経営システムの特徴を持つこれらの案は、宮崎(敬称略)らが1937年(昭和12年)に作成した「重要産業五カ年計画要綱実施に関する政策大綱案」に収められたものです。この案はどのように作成され、またどのように具体化されたのでしょうか。
 宮崎は、金沢市に生まれ、中学卒業後、石川県の官費ロシア語留学生として、中国のハルビンとモスクワに派遣された後、満鉄のロシア留学生としてペテルブルグ大学に派遣されます。この地で彼はロシア革命を体験することになり、著者はこの体験が宮崎に、国家というものは変わりうるものという実体験を与え、後に日本の国家改造に駆り立てたのではないかと推測しています。
 宮崎は、帰国後は満鉄調査課のロシア・ウォッチャーとして頭角を現し、盟友石原莞爾らを得て、1932年に関東軍のシンクタンクとしての役割を持つ「満鉄経済調査会」を立ち上げます。宮崎はここでソ連の五カ年計画の調査に没頭し、その成果は同年6月に作成された『満鉄経済統制策』に結実します。この後、東京勤務となった宮崎は、1936年に「日満財政経済研究会」を発足させ、20代後半を中心とした英才を結集し、各国の統制経済を調査し、その成果が日本と満州の両国における産業政策の立案につながっていきます。まずは、満州が先行して「満州産業開発五カ年計画」が作成され、岸信介ら満州国の「革新官僚」によって宮崎の構想が実現されます。革新官僚らは満州国における統制経済の実験を着々と実施し、「蚕が糸を吐くように」法律を整備していきます。
 しかし、宮崎が構想した経済統制のアイデアは、日中戦争の拡大と石原莞爾の退場によって、平和時の生産力拡充の計画から戦時の物資動員計画へと大きく変容することになります。「臨時資金調整法」、「輸出入品等臨時措置法」、「国家総動員法」の戦時統制三法が制定され、革新官僚らによって日本の経済統制は強化され、宮崎が構想した金融統制、貿易統制などが実現し、宮崎プランでは「経済参謀本部」たる「総務庁企画局」に該当する企画院が官僚統制の要として新設されることになります。
 その後、終戦を経て、宮崎のアイデアは戦後の経済復興に活かされることになります。戦時の統制経済の手法が経済安定本部(安本)の「傾斜生産方式」などの経済復興計画に応用されることになったのです。「資本と経営の分離」は、戦時統制と戦後の「財閥解体」によって急速に実質化し、戦前の産業報国会組織を引きずった企業別組合が形成されることになります。著者は、宮崎を今日まで続く官僚統制の経済システムの創設者であるとし、この「日本株式会社」は岸に代表される革新官僚によって完成されたと述べています。


■ 個人的な視点から

 戦後の日本型経済システムの源流が満州国における革新官僚の実験にあるという話は、『1940年体制』やそのベースとなった『現代日本経済システムの源流』などに詳しく解説されていますが、本書は、そのアイデアを作った「黒子」である宮崎正義氏を「発掘」したものです。タイトルの仰々しさに比べて、宮崎氏は歴史の表舞台に姿を現すことはなく、地味と言えばこれ以上ないくらいに地味な存在です。しかし、官僚主導のシステムを、帝大卒でも官僚でもない、ロシア通の満鉄の調査員が構想したということに痛快さを覚えました。むしろ自身が官僚ではなかったことで、省庁の利益ではなく、国家の長期的な目的を達成するために官僚を「道具」としてシステムを構想することができたのではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・「日本株式会社」の制度疲労の問題を感じている人。


■ 関連しそうな本

 小林 英夫, 米倉 誠一郎, 岡崎 哲二, NHK取材班 (著) 『「日本株式会社」の昭和史―官僚支配の構造』
 岡崎 哲二, 奥野 正寛 (編集) 『現代日本経済システムの源流』
 野口 悠紀雄 『1940年体制―さらば戦時経済』
 小林 英夫 『満鉄―「知の集団」の誕生と死』
 山室 信一 『キメラ―満洲国の肖像』
 新しい霞ヶ関を創る若手の会 (編集) 『霞ヶ関構造改革・プロジェクトK』 2005年12月22日


■ 百夜百マンガ

The かぼちゃワイン【The かぼちゃワイン 】

 思春期男子の身長コンプレックスに正面から挑んだ(というか設定一発という感じでもありますが)ラブコメの名作です。この他に身長差ラブコメと言えば『南くんの恋人』くらいでしょうか?

2006年1月 1日 (日)

日本人はなぜ戦争をしたか―昭和16年夏の敗戦

あけましておめでとうございます。
昨年1月22日にスタートしたこのblogも今日で346回目になりました。
本年も引き続きご贔屓賜りますようお願い申し上げます。


■ 書籍情報

日本人はなぜ戦争をしたか―昭和16年夏の敗戦   【日本人はなぜ戦争をしたか―昭和16年夏の敗戦】

  猪瀬 直樹
  価格: ¥1,260 (税込)
  小学館(2002/07)

 本書は、太平洋戦争の開戦直前に、陸海軍や官僚、民間企業の中から「最良にして最も聡明な逸材」(BEST&BRIGHTEST)を召集して設立された「総力戦研究所」と、その若き研究生たちが行った<模擬内閣>による総力戦シミュレーションを半世紀近い歴史の中から掘り起こした記録です。
 米国からの禁輸措置によって資源が窮乏し、開戦への圧力が高まる中、30~35歳を中心とした若き将校や高級官僚たちが緊急に召集されます。彼らは、首相官邸近くに建てられたバラックづくり二階建ての「総力戦研究所」で、体操を含めた各種講義を受ける日々を送ります。そして、昭和16年の夏、彼らは一人一人が模擬内閣の閣僚に扮し、彼らの出身母体の数字を持ち寄って、日本が米国と開戦した場合のシミュレーションを行います。昭和16年8月27日、総理官邸大広間で行われた演習報告の日、彼らが行ったシミュレーションの結論は、曖昧な表現にぼかされてはいたが、日本必敗を十分に予測したものでした。この報告を聞いていた、後に総理大臣となり、開戦の決断を迫られる東條陸相は、蒼ざめ、狼狽しながら、「あくまで机上の演習である。決して口外してはならぬ。」と念を押します。
 本書では、この総力戦研究所のシミュレーションと並行して、開戦回避に向けた動きとしての東條内閣成立の過程などが紐解かれています。日本人がなぜ戦争に突入していってしまったのかを、総力戦研究所の若き研究員たちの目線に重ねた本書は、理屈の上ではわかっていても止められない政治のダイナミクスを存分に伝えてくれます。


■ 個人的な視点から

 各出身母体のエリートであった総力戦研究所の研究員たちも、最も重要な資源である「石油」の保有量に関しては全く手が出ませんでした。本書の中でも陸海軍のそれぞれの燃料担当者たちが、お互いの手の内を探りあいながら、情報を小出しにしつつ、結局、戦争を行えるという「答え」の数字は決まっていて、この数字に向けた辻褄合わせの数字を作ることになっていたことが述べられています。この辻褄合わせの数字を達成するために、国内では製造技術の確立していない人造石油の数字が10倍近く過大に見積もられていた話などが紹介されています。
 この辺りは、現在の役所の予算を立てるときの出鱈目の積算(「昭和の三大バカ査定」等)に通じるものがあり、半世紀以上たっても変わらぬもののようです。
 本書の救いは、総力戦研究所に集められたBEST&BRIGHTEST達が、戦後、それぞれの道で名を成していったことではないかと思います。しかし、政治のダイナミズムを目の当たりにしたためか、誰も政治家になるものはいなかったそうです。


■ どんな人にオススメ?

・国家レベルの「わかっちゃいるけどやめられない」を追体験してみたい人。


■ 関連しそうな本

 小林 英夫 『「日本株式会社」を創った男―宮崎正義の生涯』
 岡崎 哲二, 奥野 正寛 (編集) 『現代日本経済システムの源流』
 野口 悠紀雄 『1940年体制―さらば戦時経済』
 猪瀬 直樹 『ミカドの肖像』


■ 百夜百音

-40周年記念特別愛蔵版-笑点 大博覧会【-40周年記念特別愛蔵版-笑点 大博覧会】 三波伸介, その他 オリジナル盤発売: 2005

 お正月と言えば1年間あまり耳にしなかったベテラン芸人さんの話術を久しぶりに聴く機会に恵まれる時期ですが、「笑点」の特番で芸能人大喜利をやったりしていました。
 笑点の座布団運びと言えば、最近の人にとっては山田隆夫が浮かぶと思いますが、「手を挙げて横断歩道を渡りましょう」の松崎真を思い出してしまう人は結構なオジサンだと思います。


『キクラクゴ』キクラクゴ

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