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2006年2月

2006年2月28日 (火)

社会ネットワーク分析の基礎―社会的関係資本論にむけて

■ 書籍情報

社会ネットワーク分析の基礎―社会的関係資本論にむけて   【社会ネットワーク分析の基礎―社会的関係資本論にむけて】

  金光 淳
  価格: ¥4,935 (税込)
  勁草書房(2003/12)

 本書は、「アクターと呼ばれる行為者としての社会単位が、その意図的・非意図的な相互行為のなかで取り結ぶ社会的諸関係の集合」である「社会ネットワーク」を分析するという、新たな知的航海のための羅針盤・海図として執筆されたものです。しかも、この航海には未航行海域が多く含まれる荒海であると述べられています。
 社会ネットワーク分析は、「社会的なオブジェクト(社会単位)とオブジェクト(社会単位)の間に定義される「関係」から定義される集合、システムとしての社会構造」に注目するものであり、「社会構造」とは、「内的であれ、外的であれ、実質的に関係した社会単位(人間、集団、組織など)の間に定義される社会単位の集合」と定義されます。社会ネットワーク分析は、ミシガン学派のグループ・ダイナミクス研究を直系の先祖に持ち、社会構造をネットワーク的な観点から定式化するという社会人類学の貢献を受けながら、1970年前後の「ハーバード・ブレーク・スルー」と呼ばれる爆発的な業績の集積と知的突破によって、社会学に新たなパラダイム転換をもたらしています。
 社会ネットワーク分析には、もっとも基礎的な数学モデルとして、グラフ理論が要求されます。本書では、グラフ理論の基礎的な概念の解説からスタートし、グループ・ダイナミクス研究に用いられたダイグラフや、グラフの行列表現と演算、今までの解説書では展開されてこなかった重み付きグラフやバイグラフの解説がなされています。
 第2部ではこれらを踏まえ、社会構造概念のモデリング様式として、トップダウン型の社会構造モデリング、ボトムアップ型のモデリング、リンケージ型のモデリング、の3つのタイプを比較しながら解説しています。また、社会構造概念で最も重要な概念である「ポジション」(諸関係のネットワークに類似的に埋め込められたアクターの集合)と「ロール」(アクターあるいは「ポジション」の間に見いだされる関係のパターン)の解説にも1章を割いています。さらに、社会ネットワーク分析の中でもっとも成功した分析体系である中心性分析の解説では、グラフ中心モデル、パワー概念の操作化としての中心性モデル、伝播現象を意識したモデル、の3つのモデルについて解説を行っています。この他本書では、個人と集団の相互依存的な関係をモデル化した「アフェリエーション・ネットワーク」や、統計的社会ネットワーク・モデルについて解説されています。
 本書の第3部では、社会ネットワークが進むべき道として、分析道具としての社会ネットワーク・モデルの厳密さを追求し精度の向上を目指す方向と、組織と個人の、組織と組織の関係を研究する組織論的な方向の2つの道があることが示されます。このうち、後者の方向から、社会ネットワーク分析のコク県がもっとも期待できる領域として、ソーシャル・キャピタル論につながっていきます。ソーシャル・キャピタル(社会的関係資本)とは、「社会的ネットワーク構築の努力を通して獲得され、個人や集団にリターン、ベネフィットをもたらすような創発的な関係資産」と定義されます。このソーシャル・キャピタル論の基本的論理は、社会ネットワーク理論の立場からは、「社会的関係=社会ネットワークへの投資行為による、何らかのリターンの取得という課程」として捉えられます。本書で特徴的な点は、「否定的な」ソーシャルキャピタルの存在にも言及している点です。具体的には、(1)外部者の排除、(2)個人の自由の制限、(3)集団成員の過度の要求、(4)下方平準規範(集団外部の「主流派」への反発・敵対心によって集団内の連携が強化される場合、「上昇」志向により集団から抜け出そうというメンバーに対して、集団に安住させるような「下方」志向の規範が存在するような状況)、の4点を挙げています。
 最後の第10章は文献ガイドとなっており、以下の7つのテーマ分類に従って文献が紹介されています。
(1)社会心理学・コミュニケーション研究───イノベーションの伝播やスモール・ワールド・ネットワークなど
(2)人類学的研究
(3)社会資源論的(ソフトな経済社会学)研究───ソーシャル・キャピタル、転職、移民、
(4)科学社会学的研究
(5)マネジメント・サイエンス(ハードな経済社会学)───組織行動論、経営戦略論、マーケティング、証券・金融論、ナリッジ・マネジメント
(6)政治社会学的研究
(7)歴史社会学的研究
 本書は、ネットワーク理論に関心を持った人が、学術的な文献にアクセスするための入門書的な役割を担うと思いますが、まるっきりの「入門書」としてはかなりハードルが高いのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 数学が苦手な私にとっては本書の第2部は辛い道のりでした。第3部のソーシャル・キャピタルの議論に入ったときには、迷子になっていて、「やっと知ってる場所に出た」時と同じような安堵感を覚えました。
 ネットワーク理論を理解する上では、どうやらグラフ理論をきちんと押さえておく必要がありそうです。


■ どんな人にオススメ?

・社会ネットワーク分析の学術文献にアクセスしたい人。


■ 関連しそうな本

 増田 直紀, 今野 紀雄 『複雑ネットワークの科学』 2005年11月18日
 アルバート・ラズロ・バラバシ (著), 青木 薫 (翻訳) 『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』 2005年10月24日
 ダンカン ワッツ (著), 辻 竜平, 友知 政樹 (翻訳) 『スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法』 2005年09月28日
 ナイジェル ギルバート, クラウス・G. トロイチュ (著), 井庭 崇, 高部 陽平, 岩村 拓哉 (翻訳) 『社会シミュレーションの技法』 2005年12月27日
 今井 賢一, 金子 郁容 『ネットワーク組織論』 2005年03月19日
 ロバート・D. パットナム (著), 河田 潤一 (翻訳) 『哲学する民主主義―伝統と改革の市民的構造』 2005年03月03日


■ 百夜百マンガ

カームブレイカー【カームブレイカー 】

 とても商業誌に掲載されるレベルではない、という気もしますが、ヤッターマンネタなど30代にとってはうれしい懐かしネタが詰まっていてつい読んでしまいます。

2006年2月27日 (月)

企業の社会戦略とNPO―社会的価値創造にむけての協働型パートナーシップ

■ 書籍情報

企業の社会戦略とNPO―社会的価値創造にむけての協働型パートナーシップ   【企業の社会戦略とNPO―社会的価値創造にむけての協働型パートナーシップ】

  横山 恵子
  価格: ¥3,045 (税込)
  白桃書房(2003/12)

 本書は、企業が社会的活動を展開する上でのNPOとのパートナーシップのあり方について、先進的なパートなシップの事例分析をもとに論じたものです。扱われている事例は、代々木学園、ザ・ボディショップ、ジオ・サーチの3社が中心となっています。
 著者は、本書のタイトルである「企業社会戦略」を、「企業の社会的活動目的と経済的目的の双方を達成するために、企業の社会的活動を事業活動と連携させる試みや、事業活動を通して社会的活動を実行するもの。また社会的活動の成果を上げるために、社会的活動プロセスに戦略的視点を導入した展開」と定義しています。
 企業のNPOへの協力方法には大きく5つのカテゴリーに分けることができるとされています。
(1)資金的支援:助成・協賛、社内募集、マッチング・ギフト、スポンサーシップ、ライセンス契約
(2)モノの支援:現物供与、寄贈、割引、施設貸与、リユース・プログラム、ボランティア活動支援制度
(3)人的支援:奨学金制度、ボランティア派遣・紹介、ソーシャル・サービス・リーブ、企業ボランティア、出向
(4)情報的支援:WEBサイトでの情報提供、情報提供、代行受発信、アダプション
(5)複合的支援:アダプト・ア・スクール制度、大学・図書館への講座の提供、ジョイント・マーケティング型のキャンペーン活動、技術提供
 著者は、企業の社会戦略を、企業の収益事業上の「戦略的社会責任」、「社会的収益事業化」と、企業の収益事業外の「戦略的フィランソロピー」、「NPO事業化」の4つから構成されるとし、これらの戦略を効果的なものとするために、NPOとのパートナーシップが手段としてあり得るとしています。ここでは、企業とNPOとのパートナーシップの例として、あいおい損害保険のNPO活動総合保険の開発、帝人テクノプロダクツからジャパン・プラットフォーム、ピースウィンズ・ジャパンとの難民用テントの開発、INAX総合サービスの健康増進のための施設CoCoKaの設立、朝日ライフ アセットマネジメントの社会的責任投資ファンドである「あすのはねファンド」の設定の4つの事例が紹介されています。これらの4つの事例から、著者はパートナーシップの特徴を、
(1)戦略の一環として関係構築:あいおい損保、CoCoKa
(2)プロとしてor魅力ある事業として提携:帝人、朝日ライフ
の2つに大別し、これら全体として、パートナーシップに無理が少なく、お互いの強みを活かしあえる関係を構築していることを指摘しています。
 第4章以降では、更に踏み込んだ3つの事例分析を行っています。
 (株)代々木学園と21世紀教育研究所の例では、当初企業の内部の研究所として社会的活動を行う中で、営利性と非営利性とのコンフリクトとして、(1)広範なテーマの社会貢献活動を行う上で必要な多様な外部主体とのネットワーク構築が営利企業の看板のもとでは難しかったこと、(2)研究所の非営利活動が企業活動との間に経済的なコンフリクトを生じていたこと、が存在し、これを解消するためにNPO法人として21世紀教育研究所を設立した例が取り上げられています。著者は、営利性と非営利性の両立と相乗効果のためには、(1)多様なステイクホルダーとのネットワーク構築、(2)イノベーションによる取組、(3)制度化、野3点が必要であるとしています。
 ザ・ボディショップおよび日本でのヘッドフランチャイジーであるイオンフォレストとアムネスティとの例では、両者のコミットメントによって、社会的主張の効果的なアピールに併せ、両者のステイクホルダーの便益を向上させていること、他の企業活動との連携やイノベーションによって経済的阻害要因を克服し促進要因を企業システムに取り込んできたことが述べられています。
 ジオオ・サーチとJAHDS(人道目的の地雷除去支援の会)との例では、地中レーダーを用いた地中探査技術を持っていたジオ・サーチの冨田社長が、国連の地雷除去責任者から技術協力の打診を受けたことをきっかけに、日本IBM、オムロン、来夢との4社によってJAHDSを設立し、地雷探知機マインアイの共同開発を行っています。JAHDSは、「人道目的の地雷除去支援」という明確なミッションを持ち、通常のパートナーシップと異なる特徴として、
(1)企業との非常に深いコミットメント関係
(2)企業ボランティアによる先端技術を持ち寄った共同開発
の2点が挙げられています。著者は、この事例から、企業を巻き込んだNPO活動が、活動目的や方法のデザインが正当であれば広く支援を集めることが可能であること、企業ボランティアだからこそミッションのためのNPOというスタンスを自然に確保できること、の2点を指摘しています。
 これらの3つの事例では、3社とも本業利益へのプラスの影響が出ており、ザ・ボディショップ(利益関連性の高い戦略的フィランソロピー)や代々木学園(事業目的関連性が高い)の例では妥当な形で経済的成果に結びつく影響が出ているとともに、目的・利益関連性の低い無償無欲型のジオ・サーチの例でも予想以上の経済的な影響を享受していることを指摘しています。
 本書は、企業の社会戦略を具体的な事例により体系的に分析したものとして、企業とNPOとのパートナーシップを見極めるための目を養う上で貴重な一冊ではないかと考えられます。


■ 個人的な視点から

 本書は、著者の博士論文をもとに科研費を使って出版したものです。このタイプの本には、行数と業績稼ぎのためにダラダラとまとまりのない文章を載せているものも少なくないのですが、優れたものには他にはないメリットがあります。それは、その分野の先行研究をコンパクトにレビューしているものが多い点です。特に自分が不案内な研究分野の場合に、参考文献リスト付きで要点をまとめた文献レビューは良質なブックガイドとなります。すでに定評のある基本文献ができあがっている分野ではそれほどでもないですが、経済学など専門誌に掲載された論文こそが主要な発表の場となっている分野では、先人の手によって大量の文献を編み上げてある文献レビューは大変貴重です。


■ どんな人にオススメ?

・企業の社会的責任に関心のある人


■ 関連しそうな本

 D.ヘントン (著), J.メルビル (著), K.ウォレシュ (著), 小門 裕幸 (翻訳), 榎並 利博, 今井 路子 『社会変革する地域市民―スチュワードシップとリージョナル・ガバナンス』 2005年10月03日
 D. ヘントン, K. ウォレシュ, J. メルビル (著), 加藤 敏春 (翻訳) 『市民起業家―新しい経済コミュニティの構築』 2005年03月15日
 斎藤 槙 『社会起業家―社会責任ビジネスの新しい潮流』 2005年06月01日
 渡邊 奈々 『チェンジメーカー 社会起業家が世の中を変える』 2005年08月11日
 谷本 寛治, 田尾 雅夫 (編著) 『NPOと事業』 2005年01月28日
 町田 洋次 『社会起業家―「よい社会」をつくる人たち』 2005年02月16日


■ 百夜百マンガ

ああ息子【ああ息子 】

 麻雀マンガ界(というか竹書房)の女王もいつしか子育てマンガの人になってしまいました。
 離婚した元ダンナがちょくちょく出てくるマンガ家というのも珍しいですが。

2006年2月26日 (日)

物のかたちをした知識 実験機器の哲学

■ 書籍情報

物のかたちをした知識 実験機器の哲学   【物のかたちをした知識 実験機器の哲学】

  デービス・ベアード (著), 松浦 俊輔 (翻訳)
  価格: ¥2,940 (税込)
  青土社(2005/08/25)

 本書は、あまり知られていない、「物理学の歴史が、ほとんど機器とその賢い使い方の歴史であること」に着目し、 言語中心の知識理解に相当した「物による理解」の側から、「機器使用のための実物論的(マテリアリスト)認識論」を立てることで、技術と科学の物質的な産物を理解するための技法を提供することを目的としたものです。副題に「実験機器の哲学」とあるように、物理の発達の歴史には欠くことのできない、実験機器や模型の発達と試行錯誤の歴史を振り返りながら、理論による知識とは別に立てられる、物の形をした「物知識(Thing Knowledge)」とは何かを論じています。著者は、物と理論の発達を同列に見ながら、危機を知識の担い手として認めることで、価値ある概念空間がもたらされると述べています。
 本書で紹介されている機器は多岐に渡ります。模型については、太陽系儀(オーラリー)、水車模型、DNA分子模型が取り上げられています。著者は、「物によるモデルを手で操作する能力が大事なのは、それによって、われわれの認知装置(アパレイタス)に異なるとっかかりを与えるからだ。」と述べています。また、動作知識に関しては、「パルス・グラス」、空気ポンプ、サイクロトロンが紹介されています。著者は、動作知識を作る上で関わる活動を、(1)実験のアイデア、(2)理論的テスト、(3)経験的テスト、(4)機能的性能、(5)直感と試行錯誤、(6)補正、(7)他の機器で使われる装置の流用、(8)装置が動作していると言える時期を知る、の8つに特定しています。
 本書は、物による創造物が知識を担うと主張し、理論とは独立し、または理論が間違っていても、物でできた装置である「物知識」が理論を先導する場合があることが述べられています。とかく理論的な話になりがちな物理学の世界ですが、実験機器が体現している知識に着目することで、教科書の世界でない物理の側面を見せてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 もうだいぶ長い間子供たちの「理系離れ」が指摘されています。小学校の理科の時間から高校の物理や化学に至るまで、学校教育における実験の位置づけは、まさに「添え物」的な存在であり、教科書に書かれていることを実際にやってみる、という以上のものではなかったように思います。言ってみれば、料理のレシピ本のようなもので、教科書に書いてあることが再現できれば「実験成功」であり、失敗したとしても「なぜ失敗したのか」を追求することはなく、「本当ならこうなるはずです。」と言って教科書に戻ってしまいます。これでは、理科教育の本来の目的である「科学的に考える力」はつくはずが無く、受験対策のための「暗記科目」に貶められているのです。
 オウム真理教の例に漏れず、多くの「優秀」な大学生が、いとも簡単にカルトや疑似科学の怪しげな商品に引っかかってしまうのは、知識としては知っていても、科学的に物を考える力が身に付いていないからではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・理論だけでない科学の知識に関心がある人。


■ 関連しそうな本

 増田 直紀, 今野 紀雄 『複雑ネットワークの科学』 2005年11月18日
 ベルトラン・ジル (著), 山田 慶皃 (編集) 『ルネサンスの工学者たち レオナルド・ダ・ヴィンチの方法試論』 


■ 百夜百音

GOLDEN☆BEST/THE東南西北-Ever Lasting Blue【GOLDEN☆BEST/THE東南西北-Ever Lasting Blue】 THE 東南西北 オリジナル盤発売: 2003

 尾道から甘い高音ボーカルでデビューし、三叉路で見つめ合って動けなくなったり、胸がきしんで痛かったり、板張り廊下だったりと、青春を歌い続けた挙句、微熱少年にも出てしまったりと、「青春」という言葉が似合いすぎるバンドです。


『微熱少年』微熱少年

2006年2月25日 (土)

創発―蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク

■ 書籍情報

創発―蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク   【創発―蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク】

  スティーブン ジョンソン (著), 山形 浩生 (翻訳)
  価格: ¥1890 (税込)
  ソフトバンククリエイティブ(2004/03)

 本書は、粘菌や蟻、都市の成長など、中央でコントロールする頭脳が無いにもかかわらずあたかも全体として知能を持っているかのように振舞う「自己組織システム」について解説したものです。
 本書で解説されているのは、巨大な蟻のコロニーがあたかも都市計画を持っているかのように成長する様や、産業革命後の混沌を極めた都市であるマンチェスターが事前の意図的な計画無しに複雑な組織構造を発達させている例など、ボトムアップ式の知性とでも言うべきものたちです。
 また、中世にヨーロッパのあちこちで同時多発的に「都市」が生まれ、成長して行く様子を引き合いに、新たな技術革命としてのインターネットによる社会変革を解説しています。この中では、スラッシュドットの「値付け」のシステムが、フィードバックの分かりやすい例として紹介されています。
 本書は、「自己組織化」に関する様々なエピソードの紹介によって、知的興奮とこの分野への入門書として機能するものではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書は思いもよらないエピソード同士、例えば粘菌とエンゲルスのような普通はすぐには結びつかない組合せを自由自在に飛び回ることができ、知的興奮を与えてくれる読み物としては大変秀逸なものではないかと思います。
 ただし、本書の残念な点は、一気に早口にまくし立てたかのような、全体としてのまとまりの無さが、読みにくさになっている点です。推理小説のように、スリリングにどんどん読み進んでいくことはできるのですが、特にクライマックスも無く、落ちも無いので、本書全体として結局著者は何を言いたかったのか、というのが伝わりにくいのが難点ではないかと思います。
 イメージとしては、あちこちにどんどん飛び火して行く感覚は松岡正剛氏の評論に近い感じなのですが、「そろそろまとめに入るかな?」と思ったところで、プツンと切れてしまったような印象を受けました。


■ どんな人にオススメ?

・自己組織化の神秘の世界の入り口を覗いてみたい人


■ 関連しそうな本

 マーク・ブキャナン (著), 阪本 芳久 (翻訳) 『複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線』 2005年12月21日
 増田 直紀, 今野 紀雄 『複雑ネットワークの科学』 2005年11月18日
 アルバート・ラズロ・バラバシ (著), 青木 薫 (翻訳) 『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』 2005年10月24日
 ダンカン ワッツ (著), 辻 竜平, 友知 政樹 (翻訳) 『スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法』 2005年09月28日
 マルコム グラッドウェル (著), 高橋 啓 (翻訳) 『ティッピング・ポイント―いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか』 2005年02月12日
 スティーヴン・ストロガッツ (著), 蔵本由紀, 長尾力 (翻訳) 『SYNC』


■ 百夜百音

IV~Maybe Tomorrow【IV~Maybe Tomorrow】 レベッカ オリジナル盤発売: 1985

 高校の文化祭では、男はBoowyかブルーハーツ、女はプリプリかレベッカが定番でした。
 ひどい時には対バン同士で持ち歌がかぶることもあったりして。
 フレンズの古賀森男(フェビアン)のギターソロはかっこいいので今でもたまに弾いてます。
 「Moon」に自殺した少女の「・・・先輩・・・」という声が入る、という噂が流れましたが、あれはわざと入れたのでしょうか。


『The Best of Dreams』The Best of Dreams

2006年2月24日 (金)

ゲームとしての官僚制

■ 書籍情報

ゲームとしての官僚制   【ゲームとしての官僚制】

  曽我 謙悟
  価格: ¥7,560 (税込)
  東京大学出版会(2005/03)

 本書は、官僚制の中で、様々な選択が行われる理由、「なぜある政策が成立し、なぜある政策は成立しないのか」の理由を、官僚制と議会、官僚制の内部、官僚制と市民など、様々なプレイヤー間の関係をゲーム理論によって分析したものです。著者は、「官僚制をプレイヤーのひとつとして含む政策選択ゲームの帰結がいかなるものになるかを、ゲーム理論を用いながらフォーマルに(数理的に)定式化する」と述べています。
 著者は、本書で用いる方法として、
(1)合理的選択仮説:人間がある選択を行う理由は、その人間が何らかの目標を持っており、その目標を達成する上でその選択が最適であると考えたからだと想定する仮定。
(2)ゲーム理論:複数のプレイヤーが相互作用を持っている状況をゲームとして捉え、そのゲームの帰結がどのようなものに、なぜなるのかを明らかにする方法。
(3)フォーマルモデル:仮定を明確におき、その仮定だけを使って演繹的に命題を導出すること。
の3つの方法を挙げ、これらを用いる理由として、「なぜある政策が成立したのかという問いを明らかにする上で、合理的選択仮説とゲーム理論が、ともにプロセスではなく結果に注目する視座を持つがゆえに有効であり、この2つの組合せから、一般性の高い命題を論理的に導出する上で、フォーマルなモデルを用いることが有効である」ためであるとしています。
 本書は、官僚制と他の政治的プレイヤーの間のゲームを各章において分析しています。
 第2章では、官僚制と議会とのゲームに焦点を当て、「プレイヤーが権限や情報以外に他者にたいするどのような働きかけの方法を持つのか」を論じています。議会による官庁のコントロールを、「ゲームの構造として所与として扱ってきたものへの働きかけを通じ、政策帰結を自分に有利なものにしようとする試み」と位置づけ、(a)ゲームの参加者の変更(第三者の導入)、(b)官庁の選択肢の変更(権限委譲の程度の操作)、(c)官庁の帰結関数の変更(賞罰を与える)、(d)官庁の選好の操作、の4つのコントロールの手段を挙げた分析などを行っています。
 第3章では、官僚制内部における政策決定を、官僚制内部の組織編制レベルと、上司と部下などより個人レベルの官僚間の関係に着目して分析しています。官僚制内部を対象とした先行研究としては、
(1)社会選択論の応用として、組織構造の違いが帰結としての政策を変えることを明らかにしたハモンドらの一連の研究
(2)プレイヤーの合理的選択の結果として制度を捉える合理的選択新制度論の立場から、行政組織の形態が政治的選択の結果であることを示す議論
(3)プリンシパル・エージェント間で、どのように職員のインセンティブ構造を設計するかという新しい制度経済学の視点を行政組織に援用した議論
の3つが挙げられています。
 第4章では、官僚制と市民との間のゲームを、
(1)政策形成ゲームにおける市民の参加:政府内部のプレイヤーによる選択された政策を、自分の望むものに近づけるべく市民が働きかけを行う。
(2)ルールの被規制者としての市民:ルールがいかなる場合に市民の遵守を得られるのか。
(3)政府活動の市民社会に与える効果:市民の権利の確立に不可欠な政府が、市民の権利を侵害しうるというディレンマ。
の3つの問題に関して分析しています。
 本書は、数学的なフォーマルモデルを用いることにより、政治学による官僚制研究の成果を経済学などの隣接分野と共有するための橋渡しの役になるものではないかと考えられます。


■ 個人的な視点から

 本書の第4章では、官僚と市民との関係の文脈の中で、メリットシステムやプロフェッショナリズムなど公務員制度について、政府におけるコミットメント問題の解決策の一部として紹介されています。これらの問題は、行政学でも大きなテーマとなっていただけに、既存の行政学に慣れ親しんできた実務家にとってはこのあたりが取っ掛かりになるのではないかと思います。
 また、同じく第4章では、官僚制のモラルハザードの絡みでNPM(New Public Management)についても言及されていますので、このあたりを取っ掛かりにする方法もありそうです。


■ どんな人にオススメ?

・政治学や行政学をその他の分野の社会学と連結したい人。


■ 関連しそうな本

 James Q. Wilson 『Bureaucracy: What Government Agencies Do and Why They Do It』
 アビナッシュ・K. ディキシット (著), 北村 行伸 (翻訳) 『経済政策の政治経済学―取引費用政治学アプローチ』 2005年02月06日
 Andrei Shleifer, Robert W. Vishny 『The Grabbing Hand: Government Pathologies and Their Cures』
 Jean-Jacques Laffont 『Incentives and Political Economy』
 梶井 厚志, 松井 彰彦 『ミクロ経済学 戦略的アプローチ』 2005年04月04日
 Jean-Jacques Laffont, Jean Tirole 『A Theory of Incentives in Procurement and Regulation』


■ 百夜百マンガ

よろしくメカドック【よろしくメカドック 】

 氣志團の小ネタのネタ元はこんなところにあるのですが、地元千葉をはじめ全国に「メカドック」と名づけた車屋さんがあることを考えると、マンガが人生に与える影響の大きさを考えざるを得ません。

2006年2月23日 (木)

説得と影響―交渉のための社会心理学

■ 書籍情報

説得と影響―交渉のための社会心理学   【説得と影響―交渉のための社会心理学】

  榊 博文
  価格: ¥7,140 (税込)
  ブレーン出版(2002/05)

 本書は、社会心理学における「説得」と「影響」に関する実験例や理論を元に、日常の事例をふんだんに紹介することで、実際の生活における「説得」や「交渉」の基礎的・実践的知識を得ることができるものです。
 本書はまず、「態度」に関して、認知的成分、感情的成分、行動的成分のの3つの成分があることを述べ、態度が「判断のための枠組みであり、情報処理を簡素化する、サングラスもしくはフィルターのこと」であるとしています。また、「説得」を、「人もしくは集団が、他者・集団等を対象とし、コミュニケーションを通して、相手の自由意志を尊重しつつ、相手の態度・規範を変えるという意図を実現しようとする試み」とし、「影響」を、「他者・集団等の態度、価値、規範を変えるためのあらゆる試み」と定義しています。
 本書の中心は、説得そのものにありますが、まずは説得によらない影響力として、規範的影響と情報的影響という2つの集団への同調や、ミルグラムの実験例を引いた「代理状態」、ロジャーズの来談者中心療法、オーバーハード・コミュニケーションの例としての豊川信用金庫の取り付け騒ぎ、宗教カルトや悪徳商法が用いる「赤頭巾テクニック」「撒き餌一本釣りテクニック」「撒き餌大量テクニック」などを紹介しています。
 本書の核である、説得のテクニックに関しては、定番の「ハロー効果」などのほか、「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」(FITD、人は一度小さな要請に応じれば、次のより大きな要請に対しても応じやすくなる)、「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」(DITF、人は譲歩した相手に対しては自分も譲歩する)などが紹介されています。これらの比較として、公共の利益を訴えるような「順社会的行動」を要請するときは、自分は社会のために良いことをするタイプの人間であるという自己近くが成り立ちやすいFIDDが有効なのに対し、借金や保険の勧誘のような自己の利益につながる要請のときは、DITFが有効であるとしています。この他、バナナの叩き売りなどの「ザッツ・ノット・オール・テクニック」(相手の拒否の返事を待たずに養成水準を下げるか、相手にプラスになるものをつけていく)、「ロー・ボール・テクニック」(相手にとりやすいボールをまず取らせてしまい、後から条件を下げる)などの販売テクニックや、都合の良い面だけを強調する「一面呈示」と都合の悪い面をも述べる「両面呈示」のそれぞれが有効なケースについて解説されています。さらに、「結論明示と結論保留」、「親近効果と初頭効果」、「ソーシアル・ラベリング・テクニック」、「恐怖説得」などの様々な説得のテクニックが解説されています。
 本書には、著者独自に命名したテクニックとして、「ブーメラン・テクニック」が解説されています。これは、「相手と同じ立場の意見を主張すると相手は当初の立場と逆の方向に意見が変わっていくという現象を利用し、相手の立場と同じ立場を意図的に主張し、相手にブーメラン効果(説得方向とは逆方向への意見変化)を起こさせる説得法」としています。具体例としては、結婚に反対すると思った親が積極的になると娘の腰が引けてしまう例や、強盗に対して「これでやっと天国にいける、さあ、殺せ」と促す例などが紹介されています。
 本書は、説得されやすい人々がいるとして、その「説得されやすさ」を、「特殊的被説得性」と「一般的被説得性」の2つに分類しています。前者は、ある種の説得の仕方/問題/説得者には非常に影響を受けるが、その他の説得の仕方/問題/説得者には影響を受けない、というものであるのに対し、降車は、いかなる説得方法、説得場所、説得内容、説得者であっても影響されやすい、としています。
 本書はこの他、異文化やイノベーションの普及、マスコミ報道の影響による自殺や模倣犯罪などを取り上げています。中でも、模倣犯罪を引き起こす3要素として、(1)実行可能性が高い場合、(2)犯人の匿名性が高い場合、(3)模倣の報酬が高い場合、を挙げています。
 本書は、セールスや交渉を生業とする人はもちろん、社会的な行動の変化を読み解くための情報リテラシーとして、誰もが身につけておいて損はないことが書かれています。


■ 個人的な視点から

 本書に関心を持つ方の中には、セールスや交渉の仕事をしている人が多いのではないかと思われますが、消火器商法のセールスマンが、「書留です。」と言ってドアをあけさせた後、「書留という名のものです。消防署の方から来ました」と言って上がりこむテクニックは、さすがと思いました。
 また、政治家や官僚の接待に料亭が使われるのは、単なる贅沢好みなのではなく「ランチョン・テクニック」というテクニックとして理論的な研究がなされているそうです。


■ どんな人にオススメ?

・自分は人に言いくるめられやすいと思っている人。
・人を言いくるめてやろうと思っている人。


■ 関連しそうな本

 ロバート・B・チャルディーニ (著), 社会行動研究会 『影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか』 2006年02月16日
 マックス H・ベイザーマン (著), マーガレット A・ニール (著), 奥村 哲史 『マネジャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋』 2005年07月04日
 ウィリアム・L. ユーリ, ステファン・B. ゴールドバーグ, ジーン・M. ブレット (著), 奥村 哲史 (翻訳) 『「話し合い」の技術―交渉と紛争解決のデザイン』 2005年09月15日
 印南 一路 『ビジネス交渉と意思決定―脱"あいまいさ"の戦略思考』 2005年6月28日
 鈴木 有香 (著), 八代 京子(監修) 『交渉とミディエーション―協調的問題解決のためのコミュニケーション』 2005年09月30日
 パトリシア ウォレス (著), 川浦 康至, 貝塚 泉 (翻訳) 『インターネットの心理学』 38640


■ 百夜百マンガ

プラレス3四郎【プラレス3四郎 】

 「天才モデラー」って言ってもこれは作れないだろう、と思うものの、人工知能搭載のプラモデルたちのバトルに熱くなった20年前の作品。
 工業高校や高専のロボット相撲の原点はこういうところにあるのでしょうか。

2006年2月22日 (水)

公共事業を、内側から変えてみた

■ 書籍情報

公共事業を、内側から変えてみた   【公共事業を、内側から変えてみた】

  桑原 耕司
  価格: ¥1,470 (税込)
  日経BP社(2004/12/09)

 本書は、談合が蔓延る公共事業の世界に、「良い建築を安く」の理念の下、著者が経営する希望社独自の建築生産システムである日本型コンストラクション・マネジメント(JCM)によって、第三者の立場から切り込んでいったノンフィクションです。
 岐阜県内に事務所を構える希望社は、岐阜県の公共事業の指名を受けた際に、談合への誘いを断ったことからその後指名を受けることが無くなり、公共事業に対する大きな不信感を抱いていました。
 しかし、2003年の4月に著者が2001年に出版した『「良い建築を安く」は実現できる!」を読んだ佐賀市の木下市長(当時)からの一本の電話をきっかけに、佐賀市の小学校建設事業にJCMで取り組むことになります。
 JCMの特徴は、
(1)建築費の内容を透明にし、すべて建築主に開示する。
(2)建築費を競争的なプロセスで決定する。
(3)建築の目的を明確にし、それを実現するための「品質」「機能」「コスト」を整合させる。
の3点に集約され、建築主のためになっていなかった従来の建築生産システムを否定することに+J270端を発しています。
 当初、それまでの経験から、JCMは公共事業からは拒否反応を受ける、と考えていた著者は、木下市長の依頼は43歳という若さゆえの勇み足ではないかと考えましたが、改革を進める職員だけを連れてきた市長の意気込みに、「もしかしたら、いけるかもしれない」という思いを抱き、引き受けることになります。
 JCMで中心的な役割を担うのは、建築プロジェクトを統括・運営するCMr(コンストラクションマネジャー)です。本書の中核は、このCMrと従来からの談合システムを維持しようとするゼネコンや、サブコンと呼ばれる専門工事会社との丁々発止のやり取りの部分です。ゼネコンの購買部や調達部や現場の所長を、ゴルフに接待し肉を食わせなければ受注できない、というこれまでの専門工事業とゼネコンとの「特殊な関係」にメスを入れ、発注者の利益のために競争原理によって工事費を安くするというJCMは、サブコンにとっては受注機会の拡大になるからです。
 しかし、専門工事会社には、地元ゼネコンに対する不信感があり、元請け会社によっては、現場代理人の能力・資質の問題や元請け会社が倒産するリスクがあることで、一緒に仕事をしたくないところが出てきます。一方でゼネコンにとっても、リスク管理の技術を持たない発注者に代わり、工程・品質・安全・原価の4つの管理に磨きをかけることが生き残りをかけた道になると述べられています。
 このような最初の仕掛けにもかかわらず、10月29日に行われた見積り開封の結果は、佐賀市の職員を落胆させるに十分なものでした。その結果からは談合の形跡が伺われ、従来どおりの入札ならば100%に近い落札率を示したものになってしまいます。しかし、著者は、JCM発注方式の真価が問われるのはここからだと言います。
 ゼネコンの協力会社としてしがらみにとらわれている専門工事会社を解き放てば、本当の実力を示すことができることを、著者らは、見積り提出以降の折衝によって明らかにしていきます。著者らが全国の工事で得ている情報を元に、提出された見積りを徹底的に精査し、専門工事会社どうしを競争させていきます。中でも最も手強かったのは、メーカーが価格決定権を持つエレベータ工事でした。代理店は文字通り、メーカーの代理店でしかないのですが、それでも妥協せず、全国の情報を元に折衝を重ねていきます。
 この工事は、以前から地元ゼネコンであるA建設が本命であるという噂が流れていましたが、A建設とは組みたくない、という専門工事会社の抵抗に遭い、本命は敗れることになります。著者は、この逆転劇を、「元請け・下請け関係の常識を覆す日本建設業史に残るエポックメーキングな出来事」と評しています。
 最終的に、その年の12月議会に提出された金額は、7億1581万円の設計金額に対し、6億973万円となり、1億608万円のコストダウンを達成することができました。また、その後、本命視されていたA建設は多額の負債を抱え倒産します。今回の件を受注しても焼け石に水であったことが、専門工事会社が組みたくない、と不安視していた理由であったことが明らかになります。
 著者は、佐賀市の工事でJCMが受け入れられた理由を、木下前市長の存在にあるとしています。地元行政の最高権力者である自治体首長が、「天の声」を言わず、JCMの仕組みを受け入れたことが大きかったと言います。著者は、起業後の15年間の経験の中で味わった公共事業への不信感を払拭してくれたのは、紛れも無く「人」であり、人の信念であったと語っています。
 本書は、いつまでも止むことの無い公共事業に絡む談合システムに投じられた一石でしかないかもしれませんが、変えようと思えば変えることができる、ということを実証している点で、私たちに勇気を与えてくれる一冊だと思います。


■ 個人的な視点から

 マンションの耐震偽装問題が国中を揺るがしている今のご時世では、建設コストを下げる手法は、「安かろう悪かろう」という強度偽装や手抜き工事と同一視する人がいるかもしれません。
 しかし、耐震偽装も公共事業の談合も根は同じなのです。それは、買い手である発注者側が、建築物の品質や価格についての情報を持っておらず、売り手である建設会社の言い値で買わされるという「情報の非対称性」が問題だからです。
 この情報の非対称性を放置したまま、高い金額を支払ったとしても、買い手である発注者に建築物の品質を見極める力がないままであれば、品質の悪い建築物(レモン)を高値でつかまされることさえあるのです。
 建築工事の透明性を高め、ゼネコンの管理能力とサブコンの専門能力を追求するCM方式は、手抜き工事を防ぐ効果こそあれ、「安かろう悪かろう」との批判は当たらないと考えられます。むしろ、従来の丸投げ方式の方が「高かろう悪かろう」になる可能性が高いと考えられるのです。


■ どんな人にオススメ?

・日本の公共事業は談合まみれだと感じている人。


■ 関連しそうな本

 桑原 耕司 『「良い建築を安く」は実現できる!―建築コストを20%も削減するCM方式』
 桑原 耕司 『建設業のコンストラクションマネジメント』
 加藤 正夫 『談合しました―談合大国ニッポンの裏側』
 鬼島 紘一 『「談合業務課」 現場から見た官民癒着』
 〈横浜改革〉特別取材班, 相川 俊英 『横浜改革中田市長1000日の闘い』 2005年10月19日
 田中 成之 『"改革"の技術―鳥取県知事・片山善博の挑戦』 38769


■ 百夜百マンガ

BE-BOP-HIGHSCHOOL【BE-BOP-HIGHSCHOOL 】

 ツッパリマンガ全盛の時代の不良のバイブル。映画化もされましたが、中山美穂が主題歌を歌っていたことは今や公然の秘密です。

2006年2月21日 (火)

"改革"の技術―鳥取県知事・片山善博の挑戦

■ 書籍情報

   【"改革"の技術―鳥取県知事・片山善博の挑戦】

  田中 成之
  価格: ¥1,890 (税込)
  岩波書店(2004/11)

 本書は、1999年の知事就任以来、「全国一の改革」を行っているとの評判も高い鳥取県の片山善博知事の手腕を分析したものです。鳥取県は全国最小の61万4650人(2003年度末)の人口規模と、4163億円(2003年度決算)の歳出規模を持つ小さな県ですが、この県で着々と進んでいる改革が全国に片山知事の評判をとどろかせています。この手腕の高さは、2003年の2期目の知事選挙に当たり、対立候補の出ない無投票当選が全国で21年ぶりに起こったことでも伺えます。
 片山県政を支えているのは、何よりも徹底した情報公開です。「厳しいようでも、私自身の経験では公務員にとっては一番楽なことです。何より嘘をつかなくていい。このことはわれわれの精神衛生上、一番良いことであります。」と知事就任あいさつで述べた知事は、この言葉を徹底的に実現して行きます。
 まず、議会との関係においては、県議会への提案前に予め行われていた有力議員への「根回し」を廃止します。さらには、従前の県議会でのやり取りを「学芸会」と痛烈に批判し、「ガチンコ」のやり取りが行われる場に変質させてしまいます。議会と対立した「群民会議条例」を巡っては自民党から出された対案を「鶏ガラ」と批判して強い反発を受けています。また、全国に先駆けた「議員口利きの文書化」を巡っては、議会に何の相談もなかったことを巡った、知事と県議との感情をむき出しにしたやり取りが紹介されています。一方で、「学芸会」ではなくなった議会では、その真剣なやり取りゆえに知事が時折交える皮肉や冗談に対する笑いが起きるようにもなっています。
 また、対県庁に対しては、徹底した「予算原理主義」の態度をとっています。そのため鳥取県は全国の都道府県で唯一行政評価を導入していません。その代わり、財政課による査定は現場主義を徹底し、課長級で100ヶ所、主計員レベルで200ヶ所の現場を毎年自分の目でチェックしています。ただでさえ忙しい財政課がこれではパンクしてしまうのではないかと考えがちですが、それまでは年度の後半は徹夜が続く一方で、年明けから夏にかけては暇にしていたのを、国庫補助事業の現場視察を5月から6月に前倒して行うことで、年間の業務量の標準化もあわせて図っているそうです。ある幹部は、「財政課の深夜勤務にしても、眠気眼で頭がぼーっとしている中で予算の査定をすること自体がおかしい。『毎晩徹夜でもちゃんとやってるぞ』と反論される方がいれば、その方は早く病院に行って一度ゆっくり診てもらった方がいい」と述べています。
 鳥取県の改革は、都市部の市役所レベルの小さな県だからできた、という見方もありますが、規模の違う都道府県や市町村にとっても参考になる点はいくらでもあると思います。


■ 個人的な視点から

 片山知事は、本書からは厳しい指導者の面ばかりが伝わってきますが、一方で子沢山のよき父親としても知られています。「子供を風呂に入れるのが日本一上手な知事」と自認する知事の下で、子育てしやすい地域と、仕事と家庭生活を両立しやすい県庁が作られることが期待されます。


■ どんな人にオススメ?

・日本一の知事(子育て?)の手腕を目にしたい方。


■ 関連しそうな本

 ばば こういち 『改革断行―三重県知事北川正恭の挑戦』 2005年06月21日
 北川 正恭 『生活者起点の「行政革命」』 2005年03月07日
 中村 征之 『三重が、燃えている』
 逢坂誠二 『町長室日記―逢坂誠二の眼』 2005年05月27日
 浅野 史郎, 北川 正恭, 橋本 大二郎 『知事が日本を変える』 2005年04月02日


■ 百夜百マンガ

ハトのおよめさん【ハトのおよめさん 】

 ほのぼのしたタイトルの動物マンガなのに刺々しいキャラクターたちの会話が心にグサグサと突き刺さります。「ブッコ」がいつまでも赤ちゃんなのもポイントです。

2006年2月20日 (月)

民主主義対民主主義―多数決型とコンセンサス型の36ヶ国比較研究

■ 書籍情報

民主主義対民主主義―多数決型とコンセンサス型の36ヶ国比較研究   【民主主義対民主主義―多数決型とコンセンサス型の36ヶ国比較研究】

  アレンド レイプハルト (著), 粕谷 祐子 (翻訳)
  価格: ¥3,990 (税込)
  勁草書房(2005/06)

 本書は、36の国の民主主義の体制を、10の変数によって比較分析し、その結果を2次元の表にプロットすることで、「多数決型民主主義」と「コンセンサス型民主主義(交渉型民主主義)」の2つの類型の間に、様々な形の民主主義が世界中に存在し、純粋な多数決型民主主義は一部の国だけに見られる稀な存在であることを明らかにしているものです。
 本書はまず、多数決型民主主義である「ウェストミンスターモデル」の典型としてイギリス、ニュージーランド、バルバドス(旧イギリス領)を、コンセンサス型民主主義の典型としてスイス、ベルギー、欧州連合を、それぞれ分析した上で、36カ国の多様な民主主義体制を次の2つの次元のそれぞれ5つ、計10の変数によって分析しています。
<政府・政党次元における5変数>
1.単独過半数内閣への執行権の集中 対 広範な多党連立内閣による執行権の共有
2.執行府首長が圧倒的権力を持つ執行府・議会関係 対 均衡した執行府・議会関係
3.二大政党制 対 多党制
4.単純多数制 対 比例代表制
5.集団間の自由な競争に基づく多元主義的利益媒介システム 対 妥協と強調を目指した「コーポラティズム」的利益媒介システム
<連邦制次元の5変数>
1.単一で中央集権的な政府 対 連邦制・地方分権的政府
2.一院制議会への立法権の集中 対 異なる選挙基盤から選出される二院制議会への立法権の分割
3.相対多数による改正が可能な軟性憲法 対 特別多数によってのみ改正できる硬性憲法
4.立法活動に関し議会が最終権限をもつシステム 対 立法の合憲性に関し最高裁または憲法裁判所の違憲審査に最終権限があるシステム
5.政府に依存した中央銀行 対 政府から独立した中央銀行
 これらの10変数の分析をもとに、本書では民主主義体制を二次元のパターンに落とし込んでいます。
○民主主義の2次元概念図
○民主主義の2次元概念図
 本書は、これらの分析をもとに、次の2点の結論を導いています。
(1)現実の多様な民主主義体制は、政府・政党次元と連邦制次元の二次元パターンに単純化できる。
(2)政府の政策パフォーマンス(マクロ経済運営及び暴力抑制)に関しては、コンセンサス型民主主義の方がわずかに優れている。一方で、民主主義の質や政策の「寛容さ」においては明らかにコンセンサス型民主主義は明らかに優れている。
 著者は、これらの分析結果にもとづき、「コンセンサス型民主主義の全体的なパフォーマンスは多数決型よりも明らかに優れているので、現在、新しい憲法を制定しようとしている国や、政治改革を実行しようとしている国にとって、コンセンサス型民主主義の諸制度はより魅力的な選択肢であるといえる。」という政策提言を行っています。


■ 個人的な視点から

 最近の日本の政治改革の議論では、マニフェストやNPMなど、多数決型民主主義である「ウェストミンスターモデル」の国々に範をとった政治改革を志向する目立っているのですが、コンセンサス型民主主義の方が政府のパフォーマンスとしては高くなるという本書の結論は、これらとは反対の方向を志向しているのでしょうか。
 元々の改革前のスタート地点など、現在に至る経路が異なるので単純に比較できませんが、単純に、「ウェストミンスターモデルの改革を真似るべきだ」という問題ではないということではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・他の国の民主制度について関心のある人。


■ 関連しそうな本

 佐々木 毅 『政治学講義』 2005年03月11日
 加藤 寛 『入門公共選択―政治の経済学』 2005年03月13日
 小林 良彰 『公共選択』 2005年04月15日
 丸楠 恭一, 坂田 顕一, 山下 利恵子 『若者たちの"政治革命"―組織からネットワークへ』 2005年05月11日


■ 百夜百マンガ

いなかっぺ大将【いなかっぺ大将 】

 振り子のような涙や「ニャンパラリン」など、現代の文化に多大なる影響を残したこの作品ですが、田舎と都会の対比が正面切ってギャグになっていたほど、当時は格差のある時代だったということができるでしょう。

2006年2月19日 (日)

未来をつくった人々―ゼロックス・パロアルト研究所とコンピュータエイジの黎明

■ 書籍情報

未来をつくった人々―ゼロックス・パロアルト研究所とコンピュータエイジの黎明   【未来をつくった人々―ゼロックス・パロアルト研究所とコンピュータエイジの黎明】

  マイケル ヒルツィック (著), 鴨澤 眞夫, エ・ビスコム・テック・ラボ (翻訳)
  価格: ¥2,940 (税込)
  毎日コミュニケーションズ(2001/09)

 本書は、現在のコンピュータで当たり前に使われている様々な技術、マウスやアイコン、ウインドウなどのグラフィカル・ユーザー・インターフェイス(GUI)やイーサネット、レーザープリンタ、ノート型コンピュータ(ダイナブック)、画面上のイメージがそのまま印刷されるWYSIWYG、オブジェクト指向プログラミングなどの技術を生み出した伝説の研究所、ゼロックス・パロアルト研究所(PARC)の歴史を人々のインタビューで綴ったオーラル・ヒストリーです。
 本書の構成は、26章、575ページにわたっていて、巻頭には、数十人の登場人物リストのほか、1969年から1984年までの年表が掲げられています。
 しかし、本書の主役は彼ら登場人物ではなく、世界初の「パーソナル・コンピュータ」であった「アルト」かもしれません。コンピュータといえば大きなものであった当時にあって、アルトは机の下に入る大きさで、パンチカードやテレタイプではなく、テレビスクリーンのインターフェイスを持っていました。パロアルトの研究者たちは「アルトはタイムマシン」と表現しています。
 PARCは「歴史上最も非凡で多産的だった研究施設」と紹介されていますが、著者はこの理由を、(1)コピー機の準独占状態から得たゼロックスの資金、(2)ベトナム戦争の影響で政府研究助成資金が削減され高い能力を持った研究人材が買い手市場だったこと、(3)歴史的な曲がり角に来ていたコンピュータ技術の情勢、(4)「最高の研究者を雇い、彼らを命令、教育義務、締め切りといったものから自由にしておくこと」という思想から来る自由な管理体制、の4点としています。
 本書には、コンピュータの歴史上の偉人たち、アラン・ケイ、ダグ・エンゲルバート、シーモア・パパート、スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツらが次々と登場します。コンピュータの歴史がこの研究所を舞台に大きく進んだということが、本書に登場する顔ぶれを見ただけでも伝わってきます。
 本書のクライマックスは、アップル社のスティーブ・ジョブズらによるPARC訪問です。この「襲撃」はコンピュータ界の創世伝説の一つとして様々に語られていますが、本書はこの訪問を詳細に描いています。ジョブズたちが一度目の訪問では満足せず、二日後に再び訪れて機密となっていたスモールトークなどのデモを受けていることなどが語られています。その様子は、「質問が全部的確で、こっちの考えを全部理解してるんですよ。我々の持つものをゼロックスよりはるかによく理解していることは明らかでした」と語られています。
 そして、PARCは1980年代には、それまでの生産的な雰囲気を失い、「スタッフ会議の議論は必ず、権力の掌握と資源に関する論議に終始してしまう」という状態になってしまいます。
 ついに、1983年9月19日、PARCを長年率いていたボブ・テイラーの辞職に伴い、次々とPARCを支えていた最高のエンジニアや科学者たちが辞職し、PARCは元の非凡な生産性の場としての姿を失いました。
 本書は、一研究所の歴史でありながら、コンピュータ・サイエンスのある時期の歴史を語ってしまうことができるので、分厚いですが一気に読めるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書のもう一つのクライマックスは、PARCが開発したアルトIIIの製品化のために、ゼロックスの幹部に向けて行われた盛大な「フューチャーズ・デイ・プレゼンテーション」です。このプレゼンには、ハリウッドから演出家が雇われ、莫大な予算が組まれますが、ゼロックス最高幹部たちの反応は思わしくありません。なぜなら、彼らはコピー機のセールスマンであり、リースされたコピー機からの流れ込んでくる莫大なリース料こそが彼らのビジネスモデルの基本だったからです。
 プレゼンを見た幹部は、「コピーされる紙がないなら、『カチッ』はどこに行っちゃうんだ?」というような反応でした。つまり、どうやって稼ぐかが想像出来なかったのです。
 本書のエピローグは、「ゼロックスがふいにしたもの」と題されています。確かにPARCは、今日のパーソナル・コンピュータの原型を生み出しましたが、これを商品化するのは、ゼロックスでなくとも難しかったのではないかと思います。つまり、既存のビジネスモデルにないイノベーションをビジネスに仕上げていくのは、既存のビジネスモデルを持った大企業や、個々のベンチャーには難しいということです。無数ののベンチャーが生まれては消える「生命のスープ」のようなシリコンバレーなくしては、現在のパーソナル・コンピュータは生まれてこなかったのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・自分が今使っているPCのルーツを知りたい人。


■ 関連しそうな本

 ハワード ラインゴールド (著), 青木 真美, 栗田 昭平 (翻訳) 『思考のための道具―異端の天才たちはコンピュータに何を求めたか?』 2006年01月07日
 アラン・C. ケイ (著), 鶴岡 雄二 (翻訳) 『アラン・ケイ』
 西垣 通, フィリップ ケオー, A.M. チューリング, ダグラス・C. エンゲルバート, テリー ウィノグラード, ヴァネヴァー ブッシュ, J.C.R. リックライダー, テッド ネルソン 『思想としてのパソコン』
 佐藤 俊樹 『ノイマンの夢・近代の欲望―情報化社会を解体する』 2006年01月09日
 ニール ガーシェンフェルド (著), 中俣 真知子 (翻訳) 『考える「もの」たち―MITメディア・ラボが描く未来』
 ケイティ ハフナー, マシュー ライアン (著), 加地 永都子, 道田 豪 (翻訳) 『インターネットの起源』


■ 百夜百音

ソテジ・ワ・アイドル【ソテジ・ワ・アイドル】 ソテジワアイドル オリジナル盤発売: 1993

 93年当時、韓国に旅行した知人が向こうのCDショップでかかりまくっていたのを聴いて「このCDをくれ!」と言って買って来たのがこのCD。
 M-2の「ハヨガ」もかっこよいですが、早すぎた韓流ブームは日本では火がつかなかったようです。
 でも当時はアジア音楽ブームの走りで、当時対バンしたナツコアッパークラストの成田光三郎氏はアジアバグースで「ショッピングアディクション」歌ってました。


『ハイパーリッチクロニクル』ハイパーリッチクロニクル

2006年2月18日 (土)

ヤクザ・リセッション さらに失われる10年

■ 書籍情報

ヤクザ・リセッション さらに失われる10年   【ヤクザ・リセッション さらに失われる10年】

  ベンジャミン・フルフォード
  価格: ¥1,000 (税込)
  光文社(2003/10/04)

 本書は、『フォーブス』のアジア太平洋支局長である著者の目から見た、日本の大不況の現況である「政・官・業・ヤクザ」の「鉄の四角形」の癒着を描いたものです。著者は、日本経済を、3割のゾンビ企業が7割の優良企業の足を引っ張る「負け犬天国」の状態にあるとし、その背後にヤクザの存在があるとしています。
 高度成長期の日本を世界第2位の経済大国に押し上げた「政・官・業」の「鉄の三角形」は、1980年代後半のバブル期にヤクザが加わって「鉄の四角形」となったとしています。そして、この後の不況期には、数多くの金融機関が絶望的な不良債権を抱えましたが、この中に裏社会との不法な取引関係が多く隠されていると指摘し、数多くの官僚や銀行家が闇の勢力によって命を失ったと述べています。そして、このようなケースでよく現場で見つかる「遺書らしきメモ」とは、「拳銃などで脅かされて書かされた走り書き」であると付け加えられています。
 また、官僚に対する巧妙な利益供与の手口として、バブル期に用いられた「絵画」の「取引」が紹介されています。これは、贈賄業者が官僚にそれほど市場価値のない「絵画」を贈り、しばらく経ってからグルになった美術商がその何十倍もの価格で買い戻すことで、取引を装って、贈賄業者から現金を官僚に渡すことができる、というものです。
 さらに、現在経済的にも政治的にも大きなイシューとなっているヤクザとベンチャー・ビジネスの関係についても言及し、「有名な旅行会社やIT業界の有名なベンチャー企業は、創業時に糸山の助けを借りるか、ヤクザが関わった」と述べられています。
 著者は、日本では憲法で定められた「法の下の平等」が機能していない例として、「日本では問題が起こると、裁判所に頼む代わりに、政治家やヤクザ、官僚に処理を頼むことが一般化しているのです。そういう貸し借りの中で、物事が決められていくシステムができあがっているのです。」という中坊公平氏の言葉を引用しています。
 この日本経済を再生するために、著者は「バンクホリデー」を紹介しています。これは「銀行が休みの日」、すなわち「政府による金融機関の強制休業のことで、政府はこの間に不良債権処理を一気に進め、ダメな金融機関を潰す」ことだとしています。
 この他、本書には、アメリカ嫌いのカナダ人の著者によるアメリカ批判なども収められています。
 センセーショナルな本を売りにしている光文社ペーパーバックスだけに、内容の信憑性はともかく、スパっと日本経済を斬る著者の視点は読む価値があると思います。


■ 個人的な視点から

 本書で、目に留まってしまったのが、旧大蔵省に出入りしていた生保レディを使った生保の接待戦略です。美人の良家の子女を、大蔵省の若手エリートの周りに次々と送り込み、脈がありそうだ、と彼女たちから感触を得た生保の「MOF担」は早速お見合いや合コンをセットし、これで誕生したカップルが少なからずあるそうです。
 これは当事者達にとっては良いことずくめのように見えます。大蔵官僚は、出会いの少ない(らしい)生活の中で、美人の家柄の良い伴侶を得ることができました。生保レディは、将来の事務次官候補となる超エリートをつかまえることができます。生保のMOF担は「嫁さんの世話をしてやった恩人」となることができました。しかも、表向きは「自由恋愛」の結果であってやましいところはありません。
 しかし、この人たちの幸せのツケを払わされるのは、生保との癒着によって規制に温存された中の保険商品しか選ぶことができない国民だということを忘れてはいけません。それにしても羨まし・・・くないです。
 本書の終わりの方には、瀕死の日本経済を象徴するものとして、日本有数の「シャッター通り」である木更津駅前と旧木更津そごうビルが紹介されています。ゴースト・ビルという触れ込みですが、営業していないフロアをいくつも通過するエスカレーターには確かになかなかお目にかかれません。


■ どんな人にオススメ?

・大不況の原因が何だったのかに関心がある人。


■ 関連しそうな本

 ベンジャミン フルフォード 『日本がアルゼンチン・タンゴを踊る日』
 広瀬 隆 『私物国家―日本の黒幕の系図』
 ベンジャミン フルフォード, 早見 恵 (著), 土井 洸介 『ペテン師の国 ヤクザの帝国 国家破産へのスロープ編―政・官・財・ヤクザが日本を吸い尽く』
 門倉 貴史 『日本アングラマネーの全貌―地下経済の隠し総資産』
 中丸 薫, ベンジャミン・フルフォード 『泥棒国家日本と闇の権力構造』


■ 百夜百音

死無愚流 呼麗苦衝音【死無愚流 呼麗苦衝音】 氣志團 オリジナル盤発売: 2004

 「木更津の寂れた感じがいい」というような感じのことをインタビューで答えていた人がいましたが、薬師丸ひろ子が木更津市長選に出る事務所開きのロケを見て、秘書課に「御注進」してしまったうっかりものの職員もいたそうです。ダメだこりゃって感じでフィクションよりも現実の方がトホホ感が強いですね。


『木更津キャッツアイ』木更津キャッツアイ

2006年2月17日 (金)

仕事とモティベーション

■ 書籍情報

仕事とモティベーション   【仕事とモティベーション】

  ヴルーム, 坂下 昭宣
  価格: ¥3,873 (税込)
  千倉書房(1982/01)

 本書は、個人の仕事行動をモティベーションに焦点を当てて論じた、モティベーション研究の古典です。本書の「原書」が出版されたのは今から約40年前の1964年、日本語訳が出たのは1982年と非常に古いのですが、モティベーションについて論じる上では決して外すことはできない古典の一つです。
 本書では、日常で様々な意味で用いられる「仕事」という言葉の代わりに「仕事役割」というタームを用い、「役割担当者によって遂行される機能の集合、すなわち財やサービスの生産に貢献する遂行」と定義されています。また、「モティベーション」というタームは、「人またはより下等な有機体が自発的活動の代替形態を選択する行動を支配するプロセスを意味するもの」と定義されています。著者は、モチベーションの議論における、「何が活動の形態を決めるのだろうか。どんな条件下で、有機体はある反応を選択したり、ある方向から別の方向へと移行するのだろうか。」という問題に重点を置き、「われわれは、モティベーションの中心問題は異なった自発的反応の中から有機体によってなされる選択を説明することである」と述べています。
 著者は、「人はなぜ働くのか」という問題を、「どんな条件下で彼らは働くのか」という問題として捉え、この条件として、経済学的なものとモティベーション的なもののうちから、後者に着目し、「仕事を通じて得られる諸結果のモティベーション上の意味を見ていくことによって追求していく」としています。
 本書は、下記の主要な2つの命題を、職業選択、職務満足(仕事役割への満足)、職務業績(職務役割における業績)のそれぞれについて検証するという構成になっています。
・命題1:ある人にとってのある結果の優位性は、他のすべての結果の優位性と、こういった他のすべての結果の獲得に対するその結果の手段性についての彼の認識の積の代数和の単調増加関数である。
・命題2:人がある行為を遂行するよう彼に作用する力は、すべての結果の有意性と、その行為がこういったすべての結果の獲得をもたらすとの彼の期待の強度の積の代数和の単調増加関数である。
 まず、職業選択に関しては、「職業選択は、職業間の選好によって決定されるだけでなく、職業獲得の主観確率および期待コストによっても決定されるとみなすことができる」としています。また、「個人は、自分が保有していると信じている技能の使用機会を与えてくれると信じる職業を選好したり、選択したりすると期待でき」るとしています。
 次に、職務満足に関しては、(1)監督、(2)作業集団、(3)職務内容、(4)賃金、(5)昇進機会、(6)作業時間の効果について考察したうえで、「職務満足をもたらす仕事役割は、高賃金、実質的な昇進機会、配慮的及び参加的監督、同僚との相互作用の機会、多様な職務、および作業方法や作業ペースに対する高度のコントロールを与える仕事役割である」としています。そして、職務満足は、状況変数とパーソナリティ変数の両者が作用する結果であると仮定し、これらを同時に研究することによって、それらの交互作用の複雑な性質を明らかにできる、としています。また、職務満足と離職確率の間に一貫した負の関係があること、職務満足と欠勤の間にも負の関係を見ることができることなどを指摘しています。
 さらに、職務業績に関しては、過去の研究のレビューから、「業績に対するモティベーションの効果は作業者の能力レベルに依存し、能力と業績の関係は、モティベーションに依存する」として、
  業績=f(能力×モティベーション)
という公式で表しています。そして、タスク遂行能力と、タスクを効率的に遂行しようとするモティベーションの度合いという2つの変数の間には交互作用が存在することを指摘しています。
 本書は、モティベーションについて論じる上で、欠かすことができない基本文献ですが、とにかく過去の研究の引用が多いために、実務家向きとはいえないので、気合を入れて読む必要があります。


■ 個人的な視点から

 本書は500以上の膨大な研究調査を引用したものとしても知られていますが、本書で紹介されているうち、話のネタになりそうなものとして、フットボールの賭で莫大な金額を得たロンドンの3人の工場作業者についての記述があります。この金額は、「もしも適切に投資されるならその作業者が余生を快適に暮らせるだけの十分な所得を生むほどの金額」であったにも関わらず、1人は「ルーティンな反復的な仕事」に、もう1人は組立工に、わずかな期間の後に復帰したそうです。
 このことは、仕事へのモティベーションが単に経済的な理由だけではないかとを示している例の一つとして挙げられています。
 働く人の多くが、「宝くじで3億円当たったらこんな仕事辞めて一生働かずに過ごしてやる。」ということを夢想したり冗談で口にしたりしますが、実際にはお金があっても仕事をしない生活にも我々は強いストレスを覚えるようです。
 「ニート」が単なる怠け者のように言われることがありますが、就職の機会を閉ざされ、またはチャンスを逸した彼らが感じているストレスは相当大きいのではないかと思います。私自身も、大学卒業後仕事をせずにブラブラしていたときには、大変な焦りや不安を感じました。
 労働経済学的な観点や格差の観点から論じられることが多いニート問題ですが、現在は仕事をしていない彼らの「仕事へのモティベーション」に着目した議論にも関心があります。


■ どんな人にオススメ?

・モティベーションの研究に関心がある人。


■ 関連しそうな本

 ステファン・P. ロビンス (著), 高木 晴夫, 永井 裕久, 福沢 英弘, 横田 絵理, 渡辺 直登 (翻訳) 『組織行動のマネジメント―入門から実践へ』 2005年02月17日
 金井 寿宏, 高橋 潔 (著) 『組織行動の考え方―ひとを活かし組織力を高める9つのキーコンセプト』 2005年04月27日
 金井 壽宏 『組織を動かす最強のマネジメント心理学―組織と働く個人の「心的エナジー」を生かす法』 2005年06月09日
 M. チクセントミハイ (著), 今村 浩明 (翻訳) 『楽しみの社会学』 2005年02月08日
 エドワード L.デシ (著), 安藤 延男, 石田 梅男 (翻訳) 『内発的動機づけ―実験社会心理学的アプローチ』
 沼上 幹 『組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために』 38388


■ 百夜百マンガ

昴【昴】

 根元敬まで含めて大抵の絵柄は大丈夫なのですが、少女漫画が激しく力強くなったようなこの絵はちょっと苦手でした。
 でも意欲作だと思います。

2006年2月16日 (木)

影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか

■ 書籍情報

影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか   【影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか】

  ロバート・B・チャルディーニ (著), 社会行動研究会
  価格: ¥3,465 (税込)
  誠信書房(1991/09)

 本書は、社会心理学の研究成果をベースに、他の人にイエスと答えさせる承諾の心理の原理である「影響力の武器(weapon of influence)」を実際の事例(多くは、セールスの例)をふんだんに用いて解説しているものです。本書は、「様々な承諾誘導の実践家がよく使う効果的なテクニックや方略を内側から観察する」ことを目的に、多くは参与観察という方法が用いられています。このために著者は、百科事典や掃除機などのセールス訓練生を求める広告に応募するなどの方法で、広告やPR、基金集めの組織にもぐりこみ、そのテクニックを調査しています。この調査から、何千もあるテクニックの多くは、6つの基本的カテゴリー(返報性、一貫性、社会的証明、行為、権威、希少性)に分類できるとしています。
 著者は、七面鳥の母親が、ヒナ鳥の「ピーピー」という鳴き声がするというだけで、天敵である毛長イタチの人形にテープレコーダーを仕込んだものを抱きかかえてしまう例を引き合いに、「固定的行動パターン」の説明をしています。これはある「引き金特徴」いによって固定的な行動パターンが自動的に反応してしまうと言うものです。そして人間の場合も、日常の判断を行う時に、ヒューリスティックという簡便法に頼ることで、機械的な反応をしてしまう点を指摘しています。
 第1のカテゴリーである「返報性」とは、「他人がこちらに何らかの恩恵を施したら、似たような形でそのお礼をしなくてはならない」というものです。マーケティングでよく用いられる無料の試供品の配布(スーパー・マーケットの試食や、アムウェイの商品を詰めた「バッグ」(BUG)を3日間の試用)や「ドア・イン・ザ・フェイス」(最初に大きな要求を出し、拒否されたらそれより小さな、元々受け入れて欲しいと思っていた要求を出す)などのテクニックが紹介されています。
 第2の「一貫性」とは、「ひとたび決定を下したり、ある立場を取ると、そのコミットメントと一貫した行動をとるように、個人的にも対人的にも圧力がかかる」というものです。馬券を買った後にその馬が勝つ確率を高く見積もったり、大酒飲みのダメ男を選択した理由を後からこじつけたりする例が紹介されています。この一貫性を使ったテクニックとして、「小さな要求から始めて、関連する大きな要請を最終的に承諾させる」、「フット・イン・ザ・ドア」というテクニックが紹介されています。朝鮮戦争時に、中国共産党政府がアメリカ兵の捕虜に共産主義的なエッセイをわずかな見返りに対して書かせた例などが紹介されています(キャリア論で有名なエドガー・シャインの研究はこの脱洗脳の研究から出発しています。)。また、「一度相手に決定を下させてしまえば、その決定が新しく作り出される支柱の上に立つようになる」ために、「最初に相手を誘った条件を」取り除くことができる、という「ローボール」テクニックが紹介されています。この例としては、最初に格安で自動車を売ることを提示し、お客にその車を買う決心をさせた後に、計算上のミスを上司に指摘させ、結局安くない値段で買わせるというものがあります。
 第3の「社会的証明」とは、「私たちは他人が何を正しいと考えているかに基づいて物事が正しいかどうかを判断する」というもので、テレビ番組の録音された笑い声や、素人の振りをした役者が商品のよさを答えるインタビューなどの例があります。本書で紹介されているセールス・コンサルタントは、「自分で何を買うかを決められる人は全体のわずか5%、残りの95%は他人のやり方を真似する人たちです。ですから、私たちがあらゆる証拠を提供して人々を説得しようとしても、他人の行動にはかなわないのです」と述べています。この社会的証明の極端な例としては、世界の終わりとなる大洪水とその直前に自分たちを救いに来る宇宙人の到来を信じるカルト教団の例が紹介されています。彼らは、終末の日までに、多くのもの(家族、職業、社会的立場など)を犠牲にしているので、予言の日が過ぎても自分たちの選択にすがり付いてしまうことが述べられています。この他、自殺のニュースが大きく報じられた直後に飛行機や自動車の事故が増加する「ウェルテル効果」や、渋滞中に前後する2代の車が偶然同時にウインカーを出して車線変更すると後ろの車は事故や工事があるのかと思って次々に車線変更してしまう例などが紹介されています。
 第4の「好意」のルールを用いた例としては、友情の好意の圧力を利用した「タッパーウェア・パーティ」が紹介されています。また、ハンサムな顔や背の高さなどの身体的魅力のハロー効果が以下に大きいか、ということをセールスだけでなく刑事裁判においても影響がある例を引き合いに解説されています。また、天気予報担当者が大雨の時に脅迫される話を、敗北の知らせを伝えると殺害されたペルシャ皇帝の勅旨を引き合いに紹介しています。
 第5の「権威」の解説では、有名なスタンレイ・ミルグラム教授の電気ショックの実験が紹介されています。これは公募された「教師」役の被験者に、問題に答えられない「生徒」に対して罰として何百ボルトもの電気ショック(実は「生徒」役の演技)を与え続けさせるという実験ですが、約3分の2の被験者は犠牲者からの懇願を聞き入れずどんどん強くなる電気ショックを与え続けたということです。この権威者への盲目的な服従は、医師と看護婦や薬剤師らのスタッフとの間で常識では考えにくいような医療ミスを引き起こす一方、警備員の制服を偽造した「銀行検査官」詐欺を成功させてしまいます。著者は、防衛法として、「この権威者は本当に専門家なのだろうか」、「その専門家は、どの程度誠実なのだろうか」という2つの問いを自らに問いかけることを奨めています。
 第6の「希少性」は、「手に入れることが難しい物は、簡単に手にいれることができる物よりも、たいていは良いものだ」という簡便法と、「手に入れる機会が減少するにつれ、私たちは自由を失う」という2つの源泉を持っています。
 本書は、例に多くあげられているセールスや交渉の世界はもちろん、公共的なキャンペーンの世界にも応用可能な「人の心を動かす」ための素晴らしいテキストではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書で紹介されているテクニックで、これは引っかかりそうだ、というものが幾つもありましたが、中でも新米の父親が引っかかりそうなのが、玩具メーカーのクリスマス戦略です。これは、クリスマス直前に派手な宣伝をした商品を、クリスマスの時期には品薄になるように出荷して、年明けに商品を供給するという方法です。クリスマス前に子供にせがまれてその商品(例えばロードレースセット)を買いに行っても売り切れで、やむなく同じくらい魅力的な別の商品を買うことでその場を間に合わせた父親は、年明けにおもちゃ屋の前を通る時に子供から「ロードレースセットを買ってくれるって言ったじゃないか」とクリスマス前の約束の履行を迫られるのです。父親は自分の言葉を裏切るわけには行かないので、結果的におもちゃを二倍買わなければならなくなります。
 この手にだけは絶対乗らないぞ、と今のうちに自分に宣言しておけば、今年のクリスマスには玩具メーカーの手口に引っかからないでしょうか?


■ どんな人にオススメ?

・人の心を動かしたい人。


■ 関連しそうな本

 マックス H・ベイザーマン (著), マーガレット A・ニール (著), 奥村 哲史 『マネジャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋』 2005年07月04日
 ウィリアム・L. ユーリ, ステファン・B. ゴールドバーグ, ジーン・M. ブレット (著), 奥村 哲史 (翻訳) 『「話し合い」の技術―交渉と紛争解決のデザイン』 2005年09月15日
 印南 一路 『ビジネス交渉と意思決定―脱"あいまいさ"の戦略思考』 2005年6月28日
 平原 由美, 観音寺 一嵩 『戦略的交渉力―交渉プロフェッショナル養成講座』 2005年09月16日
 鈴木 有香 (著), 八代 京子(監修) 『交渉とミディエーション―協調的問題解決のためのコミュニケーション』 2005年09月30日
 パトリシア ウォレス (著), 川浦 康至, 貝塚 泉 (翻訳) 『インターネットの心理学』 2005年10月15日


■ 百夜百マンガ

百八の恋【百八の恋 】

 人の心を動かす、という点ではこのテクニックを一番使っているのは「ナンパ師」と呼ばれる人ではないかと思うのです。
 単に外見的な魅力や話の面白さではなく、これらの駆け引きのテクニックのほうが重要に思われます。

2006年2月15日 (水)

校長先生という仕事

■ 書籍情報

校長先生という仕事   【校長先生という仕事】

  吉田 新一郎
  価格: ¥819 (税込)
  平凡社(2005/04)

 本書は、学校運営のプロとしての素質が要求される「校長先生」という仕事について、日米4人の校長先生に文字通り朝から晩まで丸一日行動をともにした密着取材を行い、それらを比較することで、身近でありながらあまり知られていない校長先生の立場や、学校改革の担い手としての仕事のあり方などを解説しているものです。
 本書はまず、校長先生の一日を朝から晩まで分刻みで記録することから始まります。校長先生と一日行動をともにし、誰と会い、どんな話をしているのかを、日本と米国で比較し、教師との関係や、保護者や教育委員会など外部との接し方を分析しています。日本の校長先生は取材には了承してくれるものの、教師との具体的な会話には参加させてくれませんが、米国の校長先生は、せっかくなので外部から見た意見を聞かせて欲しいと積極的に議論に参加することを了解してくれます。この辺りに日米の校長先生のマネジメントスタイルの違いが現れているのかもしれません。
 校長先生のキャリアについては、日本では校長先生は教頭先生の中から論文と面接によって選考されるため、一般的には50代前半が校長就任の時期になっています。教頭や校長になるための研修はなく、リーダーシップの有無は人によって大きく差が出ます。いってみれば「教員の成れの果て」が校長先生なのです。一方欧米では、教員自身が20代後半から30代前半くらいのうちに、教育に専念するか学校経営に携わりたいかを選択し、大学院などで学校経営を学び直した者が30代の半ばくらいで管理者になる例が多いそうです。
 また、校長先生の人事については、日本では校長先生自身が都道府県教育委員会の裁量で人事異動があり、同一校に平均2~3年程度しか在職しません。これに対し、欧米の場合は、人事を含めた意志決定の多くは学校単位で行われるため良い校長は20年くらい同じ学校にいる例もあるそうです。逆に仕事の出来や理事会との折り合いの悪い校長は2~4年に一度行われる再雇用の審査によって解雇されるというチェックの仕組みもあります。
 校長先生の権限に関しては、日本の校長には教員の人事に関する権限が無く、教育委員会の人事によって学校というチームが編成されていることが大きな影を落としていることが指摘されています。著者は、教育委員会の人事で「ぞんざいにつくられた」組織は機能しないと指摘しています。日本では教育に対する考え方などの共通理解を前提にしていないので、職員会議でも語られず、学級担任や教科担任にお任せした「教室王国」が存在する原因になっていると述べられています。
 本書は、校長先生と日頃から接している教育関係者はもちろん、子供の教育を任せている親にとっても、校長先生という仕事のあり方を理解する上で大事な視点を与えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 最近は、一部ではありますが、教員からではなく民間企業での管理職経験者などから公募で選んだ「民間人校長」が全国で増えて来つつあります。彼らが校長に就任してから感じるのは、校長先生にはまるで権限がない、ということだそうです。教員の人事権が無く、教育について議論することすら少ない中で、「教室王国」の厚い壁に阻まれることは本書の中で述べられていますが、本の数万円の校舎の修繕や新しい試みをやるにも、いちいち教育委員会にお伺いを立てねばならず、彼らがイメージしていた「管理者」としての校長先生の立場とはかけ離れていることにショックを受ける人も少なくないようです。
 一方で、お金や権限はなくても対話と行動力で学校を変えている校長先生も数多くいます。学校の変革者としての校長先生のあり方、人選などについてはもっと多く語られても良いように思います。


■ どんな人にオススメ?

・子供の教育を誰に託していいかわからない人。


■ 関連しそうな本

 大島 謙 『高校を変えたい!―民間人校長奮戦記』 2006年02月13日
 藤原 和博 『公立校の逆襲 いい学校を作る!』 2005年06月17日
 金子 郁容 (編著), 玉村 雅敏, 久保 裕也, 木幡 敬史(著) 『学校評価―情報共有のデザインとツール』 2005年02月25日
 藤原 和博 『世界でいちばん受けたい授業―足立十一中『よのなか』科』
 藤原 和博, 天野 一哉 『民間校長、中学改革に挑む』


■ 百夜百マンガ

モンキーターン【モンキーターン 】

 競艇という少年誌ではありえないようなジャンルでヒットしてしまったこの作品。
 同じくオヤジ向けギャンブルだった競馬が『風のシルフィード』や『マキバオー』で浸透したことに刺激されたのでしょうか。
 実際には『ギャンブルレーサー』の現実が待っているのですが・・・。
 少年誌のギャンブルマンガとしては、『少年雀士 東』なんてのもありました。
 そういえば日本財団のビルにはこのポスターが貼ってありましたです。

2006年2月14日 (火)

階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ

■ 書籍情報

階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ   【階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ】

  苅谷 剛彦
  価格: ¥3,990 (税込)
  有信堂高文社(2001/07)

 本書は、教育と社会の階層分化の問題をテーマに実証分析と政策提言を行っているものです。「時代や世代をまたがる営みである」という教育の特性は、階層問題の現在の分析と同時に、過去と未来の両方を見通すことができると述べられています。また、教育に焦点を当てることで、階層化社会の担い手である「個人」の形成メカニズムにも目を向けることができるとされています。著者は、教育を「それ自身一つの社会的資源であり、階層を構成する要素の一つ」とする一方で、「階層的な地位を決める重要な要因の一つ」であると述べています。
 本書はまず、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツ、日本、韓国の国際比較を元に、1950年から80年までの30年間(一世代)に、日本と韓国が農業中心社会から雇用者中心の社会へ職業構造が大きく変化したことを指摘しています。この急速な職業構造の変化とそれに伴う急速な教育拡大は、教育を媒介とした社会的な選抜を大衆的な規模まで拡大させてきたと述べられています。そして、現在の変化は、戦後30年間の「階層形成」から階層の「再生産」へ変化として捉えなおされます。そして著者は、1980年代以降の教育改革が、「それまでの、だれをも勉強へ駆り立てるプレッシャーを弱めることで、潜在化していた階層の影響を拡大する背景を用意した」と指摘しています。
 1960年に58%だった高校進学率は、60年代の10年間に25ポイント近く上昇し82%に達します。この急速な高校教育の拡張は、農業出身者の多くが高卒後に雇用者になるルートとなっていきます。同時に、この進学率の拡大は、1950年代には農業出身の中卒者が中心であったマニュアル職就職者の供給源を、高卒者にシフトさせます。このことによって、「出身階層の影響を受けつつも、学歴や学力といったメリトクラティックな選抜の影響をより強く受ける職業配分のメカニズムがより強く働くようになった」と述べられています。
 また、習熟度別学級編成などの学力による序列化を「能力主義的差別」とみなす日本の教育の認識がどのように発展していったのかに関して、著者は、アメリカやイギリスの研究において、「個人の能力差に基づく最適な処遇のことをさして「差別」と同定する議論は、寡聞にして知らない」と述べています。そして、「差別感を生み出す教育が、差別教育なのであり、教育における差別という社会現象を、序列の中で下位に置かれた人々の意識や感情の問題、さらには、そうした感情を生み出す制度や組織、実践の問題として捉える認識枠組みが、差別教育の原型(プロトタイプ)」であると指摘しています。また、「学校は社会の平等化に寄与するよりも、不平等を再生産する装置である」という教育観は、研究の世界では定説となっていることが述べられています。
 さらに、本書では、1979年から97年までの18年間に学習時間の階層差が拡大し、専門・管理職の父親と大卒の両親を持つことが学習時間の減少を抑える一方、マニュアル職や中卒の場合は学習時間が大きく減少していることが指摘されています。また、「だれでもがんばれば……」という努力=平等主義がイデオロギーの一つに過ぎず、出身階層の影響を受けた努力の不平等の存在にもかかわらず、個人の失敗を努力の欠如に帰着することが、能力の階層差や結果の不平等を隠蔽し、教育達成における階層差を作り出してきたことを指摘しています。そして、受験競争に向けた動員力の弛緩によって、学力における階層間の不平等が拡大・顕在化する可能性をも指摘しています。
 また、「内発的動機づけ」や「自己効力感」の理論が教育現場に取り入れられる過程で、<主体的な学習者>という「強い個人の仮定」が前提となってしまったことを指摘しています。この結果、「低い階層の生徒たちは学校の業績主義的な価値から離脱することで、「自分自身にいい感じをもつ」ようになっている」ことが述べられています。つまり、「自分は人よりすぐれているという自己意識を持つほど、他の要因とはかかわりなしに学校の外で勉強しなくなる」のです。
 最後に、本書の副題でもある「インセンティブ・ディバイド」(誘因・意欲の格差拡大)に関して、著者は、「意欲をもつ者ともたざる者、努力を続ける者と避ける者、自ら学ぼうとする者と学びから降りる者との二極分化の進行であり、さらに問題と思われるのは、降りた者たちを自己満足・自己肯定へと誘うメカニズムの作動である」と述べています。その理由として、上位の社会階層で育った子供たちはインセンティブを見抜き意欲を維持するとともに、「学ぶことの喜び」を知るための学習経験と知的な構えを有している可能性があると指摘しています。
 本書は、複雑な要因が絡み合う社会格差の問題に対して、教育に絞り込んで分析を行うことで、非常にわかりやすい格差が生まれるメカニズムの例を提供してくれる一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書で初めて知った言葉の一つに「ブライト・フライト」という言葉があります。これは「優秀者の逃亡」という意味で、公立高校から私立高校に「いい生徒」が逃げ出してしまう現象を指しています。学力格差を作り出さない理想的な教育モデルとみなされ、無試験・小学区制の「高校全入運動」のメッカとなっていた高知県において、公立高校間の格差が是正された結果、私立高校からの高偏差値大学への進学が有利になり、結果として、私立学校への入学機会が社会階層との関係を強めていったことが述べられています。
 いわゆる「進学校」と「底辺校」を作らないための善意の政策が、結果的には親の収入を反映した教育機会の格差を生み、貧しい学生の大学進学のチャンスを閉ざしてしまったという悲劇に、善意と理想に基づいた建前論と現実とのギャップと皮肉さを感じます。


■ どんな人にオススメ?

・教育と格差問題の関係に関心がある人。


■ 関連しそうな本

 橘木 俊詔, 斎藤 貴男, 苅谷 剛彦, 佐藤 俊樹 『橘木 俊詔, 斎藤 貴男, 苅谷 剛彦, 佐藤 俊樹』 2006年02月10日
 斎藤 貴男 『機会不平等』
 佐藤 俊樹 『不平等社会日本―さよなら総中流』 2005年03月22日
 橘木 俊詔 『日本の経済格差―所得と資産から考える』
 樋口 美雄, 財務省財務総合政策研究所 『日本の所得格差と社会階層』 2006年02月01日


■ 百夜百マンガ

レース鳩0777【レース鳩0777 】

 「鳥のオリンピック」ということは鳩レースは外すわけには行きません。
 「777」を「アラシ」と読ませてしまうところは、花札知らないとわからないのですが。

2006年2月13日 (月)

高校を変えたい!―民間人校長奮戦記

■ 書籍情報

高校を変えたい!―民間人校長奮戦記   【高校を変えたい!―民間人校長奮戦記】

  大島 謙
  価格: ¥1,575 (税込)
  草思社(2004/11)

 本書は、アメリカで東芝の子会社の社長をしていたエンジニアが、まったくの「異界」である県立高校に民間人校長として降り立ち、企業人の目から見た「学校」というネバーランドの異質さや、学校を変えるための奮闘を描いたものです。
 アメリカでベンチャー・キャピタルの社長をしていた著者は、日本でもベンチャー企業投資をやりたい、という夢を実現すべく準備をしていましたが、9.11テロに直面し、その構想はお流れになってしまいます。転職を考え始めた著者の前に、友人から以前話をしたことのある民間人校長の公募の話が紹介されます。アメリカから一次試験の論文を応募した著者は、二次面接を経て65人の応募の中から著者ともう一人(三井物産出身)の2人が三重県の民間人校長に就任することになります。
 著者が赴任することになったのは、「周辺校」と呼ばれる県立白子高等学校です。著者は、「ちょっと問題のある学校のほうが、少しでも改善すれば効果が目に見えて出てくるし、やりがいもある。」と前向きに捉えます。この辺りの発想が役人と違うところなのかもしれません。著者は、「学校経営の改革方針」である「新・白子高校創り」の中で、「三つの力」として、「組織力」、「教師力」、「環境力」を提唱しています。
 本書の大きな柱は、企業人である著者の目から見た学校の「異界」ぶりと、学校を変えるための取組みの2つからなります。前者は、前時代的な職員会議の進行、大量のハンコの山、そしてなによりも教師の権利意識の強さに向けられます。著者が取り組んだ学校改革の手始めが、授業公開です。これによって生徒を授業に集中させたいという狙いがあったのですが、教師から「自分たちが評価されるのではないか」という反発を受けます。「生徒を評価することは違和感なく通常やっているのに、いざ自分が評価されると思うと、極端に恐れを抱く」という不思議さがここにあります。他にも、自分の受け持ちのトイレを汚されたくないために個室に鍵をかけてしまう、体育祭の公開を嫌がる、駐車カードの表示を管理強化だと反対する、など、子供のような権利意識の強さを次々に目の当たりにします。
 学校を変えるための取組として、著者は朝10分間の読書、略して「朝読」をスタートします。また、ジュリアーニ市長の「破れ窓理論」を応用したトイレ美化プロジェクトの取組では、民間と学校世界の一番の違いとして、切迫感のなさを指摘しています。企業人は会社がつぶれれば自分も職を失うが、教師は学校が統廃合でつぶれてもどこかの先生ができるから学校を守らなければという意識が薄いのだといいます。「こうした切迫感のなさが、世間の常識との違いの最たるものかもしれない」と著者は、民と官の両方に身を置いたものとして実感しています。
 著者は、民間人校長が教育現場でできることは、古い因習にとらわれた高校の非常識さを壊して時代の要請に応えるものに変えていくという「学校改革」であると述べています。著者は二年目には、「私は、校長になりたくてこの公募に応募したわけではなくて、学校改革をしたいから応募したのです。私は『普通の校長』になるために頑張るのではなくて、学校改革をするために頑張ります。だから、私は学校改革請負人なんです」というようになります。そして、企業人ならば当たり前に訓練される組織のミッションを意識するということを教師は全く訓練されていないこと、それどころか、授業で自分の教科を教える教授法すら教師になってから訓練されたことがないことに愕然としています。
 本書は、外の世界から閉ざされた「異界」(なかには魔界という人も)である学校世界を知ることができる点で一種の「冒険譚」として読むことができるものではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 著者の改革は、権利意識の強い教師たちから「管理強化だ」、「前例がない」と強い反発を受けます。中でも、イデオロギーに絡む話は特に敏感になるようで、国旗・国歌や卒業証書の西暦表記など、外国で暮らしていた著者の目には奇異に映る部分で「(世間の現実からの)逃走」じゃないて「闘争」を仕掛けられます。むしろ外国で生活し、外から日本を見てきたからこそ、日本人のアイデンティティーのなさに目が向くのかもしれません。「幻の日本・ハワイ連邦」の逸話を生徒に話したときに韓国併合にも言及したところ、飛んできてウニャウニャ言い出した世界史の教師が韓国の歴史を勉強したことが一度もないままに自虐史観キーワードを振り回し、逆に校長から勉強不足を指摘されると「もういいです、そんな話は聞きたくありません」と逃げ帰る話が紹介されています。
 著者自身は、『神風特攻隊員になった日系二世』という訳書があるくらいの人なのでこの分野は得意なようですね。


■ どんな人にオススメ?

・学校を変えたいと思っている人。


■ 関連しそうな本

 藤原 和博 『公立校の逆襲 いい学校を作る!』 2005年06月17日
 金子 郁容 (編著), 玉村 雅敏, 久保 裕也, 木幡 敬史(著) 『学校評価―情報共有のデザインとツール』 2005年02月25日
 藤原 和博 『世界でいちばん受けたい授業―足立十一中『よのなか』科』
 藤原 和博, 天野 一哉 『民間校長、中学改革に挑む』
 吉田 新一郎 『校長先生という仕事』


■ 百夜百マンガ

デカスロン【デカスロン 】

 「トリノオリンピック」という言葉を聞くと頭の中で「鳥のオリンピック」という言葉に変換されてしまいます。
 冬季オリンピックでも十種競技みたいな種目はあるのでしょうか。大変そうですが。

2006年2月12日 (日)

疑似科学と科学の哲学

■ 書籍情報

疑似科学と科学の哲学   【疑似科学と科学の哲学】

  伊勢田 哲治
  価格: ¥2,940 (税込)
  名古屋大学出版会(2002/12)

 本書は、「疑似科学」を切り口にした科学哲学の入門書です。著者は執筆の動機のひとつにオウム真理教の幹部に偏差値の高い大学の理系出身者が多くいたことを挙げ、彼らが「疑う」ことを習ってこなかったのではないかという点に言及しています。
 「科学」が、「この世界がどうなっているかについて経験を通して得られる(または確かめうる)知識」を求めていることについて、「哲学」は、経験的知識を超える問題を相手にした論理学、認識論、形而上学、価値理論の4つの問題領域に渡っていると述べられています。本書は、科学と疑似科学の間の区別の問題である「線引き問題(demarcation problem)」の観点から、科学哲学の課題として以下の3点を挙げています。
(1)科学と疑似科学の間には推論の方法を始めとした方法論的側面についてどんな違いが存在するだろうか。
(2)科学が存在するとみなすものと疑似科学が存在するとみなすものの間には差があるのだろうか。
(3)科学に関する政策と疑似科学に関する政策はそれぞれどのようにあるべきだろうか。
 本書はまず、疑似科学の問題では外すことのできない「創造科学論争」を取り上げます。アメリカでは、1920年代に最初の進化論反対運動が起こり、いくつかの州では学校で進化論を教えることを禁じる法律が作られ、有名なスコープス裁判によって進化論の授業をした生物学の教師は有罪とされます。しかし、1960年代から公立学校への宗教的圧力が違憲であるとみなされ、これらの法律は廃止されますが、これに対する反応として、原理主義者から出てきたのが「創造科学」という考え方です。創造科学には、地球が比較的最近(約6000年前)に作られたとする「若い地球」派と、通常の地質学の主張を認める「古い地球」派の2つがあり、若い地球派は、「洪水地質学」という、数億年かけて堆積したと考えられる地層はノアの大洪水によって短い期間に堆積したと主張をしています。
 線引き問題を扱う以上避けて通れないものとして、ポパーの反証主義があります。ポパーは反証可能性の概念を科学理論の良し悪しや線引き問題に持ち込み、「よい科学理論とは、高い反証可能性を持つもの、すなわち大胆な予測を行うもののことである」とし、逆に、「原理的に反証不可能な仮説は科学的仮説とは言えないと考え、これを科学と疑似科学を分ける基本線」としました。本書ではこの反証可能性を使って創造科学を検証しますが、科学とも疑似科学とも明確な切り分けは難しいとしています。
 本書ではこの他、占星術や超能力、代替医療等を取り上げています。これらの中で、トーマス・クーンのパラダイム論についても解説されています。著者はパラダイム論と科学革命について、次のようにまとめています。
   パラダイムの成立
  →通常科学
  →解けないアノマリの蓄積(=危機)
  →異常科学(=新しいパラダイムの提案)
  →科学革命(新しいパラダイムの成立)
  →新しい通常科学
 また、疑似科学の問題では必ず登場するヴェリコフスキーの『衝突する宇宙』も扱われています。
 代替医療に関しては、多様な代替療法に共通する特徴として、
(1)全体的視点の強調
(2)精神的な側面の強調
(3)自然な治癒力の信頼
(4)古代からの知恵の尊重
の4つの項目を挙げています。これらの項目は、正統医学にも通じる主張ではあり、いかがわしい民間療法まで連続的につながっている点に注意すべきであるとしています。
 人がなぜ疑似科学を信じてしまうのか、という問題に関しては、「マーフイーの法則」を例に挙げながら、「代表性バイアス」と「利用性可能性バイアス」という2つのバイアスを解説しています。代表性バイアスとは、「典型的なものの頻度を実際以上に高く評価してしまうバイアス」で、珍しくないことを珍しく感じてしまい、「虫の知らせ」や「シンクロニシティ」等、必要以上に「偶然起きる確率」を低く見積もってしまうことが述べられています。また、利用可能性バイアスとは、「すぐに思いつくもの、目につくものの頻度を実際より高く評価するバイアス」を指し、ユリ・ゲラーの超能力の実演の例が紹介されています。
 本書は、疑似科学の線引き問題を入り口に、科学哲学の入門書的な解説を行っていますが、怪しげな詐欺商法や胡散臭い宗教詐欺に引っかからないためにも、科学的なものの見方を身につける重要性を教えてくれます。


■ 個人的な視点から

 占星術に関して、「バーナム効果」という効果が心理学では確認されています。これは、誰にでも当てはまりそうな文章でも自分のことだと感じてしまう傾向を言うそうです。
 これは占星術に限らず手相や血液型など占いと名がつくものならば何でも当てはまりそうです。
 また、同じように、コーチングやカウンセリングの名目で誰にでも思い当たりそうなことを「言い当て」て、それを切り口にして相手の情報を引き出すという方法も使われているのではないかと思います。
 最近チェーンメール的に「人生のどんな問題も解決する知恵」と銘打った「鏡の法則」というショート・ストーリーがばら撒かれています(本文中に、「このレポートのことを誰かに教えてあげたいと思った方は、ぜひ教えてあげてください。 その人の幸せな笑顔を想像して、ぜひ分かち合ってあげてください。このレポートは、コピーも転送もOKです。」と書かれています。)が、この文章にも疑似科学の匂いを感じてしまう人は少なくないのではないかと思います。
 本書を読んだ後で、「われわれは学校教育で、目に見えるものを対象にした物質科学ばかりを教えられて育ちましたからね。今、私が話していることは、心理学ではずいぶん前に発見された法則なんです。」という文章を目にすると、創造科学の主張との共通点を感じませんか。
 
○読んだ人の9割が涙した話!
 ショートストーリーブック(無料)
[人生のどんな問題も解決する知恵 『鏡の法則』]
http://coaching-m.co.jp/payforward.htm


■ どんな人にオススメ?

・詐欺商法や宗教を装った詐欺に引っかかりたくない人。


■ 関連しそうな本

 マイケル・W. フリードランダー (著), 田中 嘉津夫 (翻訳), 久保田 裕 (翻訳) 『きわどい科学―ウソとマコトの境域を探る』 2006年01月21日
 マーティン・ガードナー 『インチキ科学の解読法 ついつい信じてしまうトンデモ学説』 2006年02月11日
 マーティン ガードナー (著), 市場 泰男 (翻訳) 『奇妙な論理〈1〉―だまされやすさの研究』
 マーティン ガードナー (著), 市場 泰男 (翻訳) 『奇妙な論理〈2〉なぜニセ科学に惹かれるのか』
 A・K・デュードニー (著), 田中 利幸 『眠れぬ夜のグーゴル』 2005年12月25日
 ジョエル ベスト (著), 林 大 (翻訳) 『統計はこうしてウソをつく―だまされないための統計学入門』 2006年01月08日


■ 百夜百音

ユリ・ゲラー【ユリ・ゲラー】 ユリ・ゲラー オリジナル盤発売: 0

 このCD昔なぜか買っちゃいました。カタコト日本語の怪しげな語りが素晴らしいです。
 ちなみにWikipediaの「ユリ・ゲラー」に書かれているポケモンの「ユンゲラー」訴訟に登場する任天堂の弁護士は凄すぎる!!! こういう人を頭がいい人というのでしょう。
 最近話題の「きっこのブログ」でも紹介された空手バカボンのアルバムには、「ユリ・徹・ゲラー」なる人物が登場します。


『空手バカボン』空手バカボン

2006年2月11日 (土)

インチキ科学の解読法 ついつい信じてしまうトンデモ学説

■ 書籍情報

インチキ科学の解読法 ついつい信じてしまうトンデモ学説   【インチキ科学の解読法 ついつい信じてしまうトンデモ学説】

  マーティン・ガードナー
  価格: ¥1,785 (税込)
  光文社(2004/08/24)

 本書は、CSICOP(超常現象と称するものを科学的に調査する委員会)の機関誌である『スケプティカル・インクワイアラー(懐疑的探求者)』誌に掲載された「疑似科学観察記」というコラムを編集したもので、ニセ科学のでたらめな主張を徹底的に暴くことを目的としています。中でも、医学分野での誤った考え方は、無用の苦しみと時には死の原因にもなります。
 本書で扱われているのは、UFOに始まり、物理・技術や天文学の怪しげな珍説、宗教に科学の衣をまとった創造論・ID(インテリジェント・デザイン運動)、リフレクソロジーや尿療法などの民間療法、誰も実物を見たことのない「人食い人種」、フロイト心理学、そして宗教と多岐に渡ります。全体として言えるのは、どれも雑誌のコラムがベースになっているので、徹底的に追及しているというよりも、古今東西のニセ科学を紹介しているという感じです。
 著者は、子供向けの偉人伝に語られているエジソンやニュートンが持っていた知られざる別の顔を紹介しています。「発明王」として知られるエジソンが、人格的には奇人・変人の類であったことは子供以外には知られていることですが、彼が生涯オカルトに夢中で、晩年には死者と交信する機械の発明に夢中になっていたことが紹介されています。また、重力を「発見」したことで知られるニュートンが持つ、偉大なる数理物理学者としての顔以外の2つの顔、数十年に渡る努力を続けた錬金術師としての顔と、プロテスタントの原理主義者(ファンダメンタリスト)としての顔を紹介しています。ニュートンの人生の大半は、無意味な錬金術の実験と聖書の預言の解読に費やされていました。経済学者のケインズは、ニュートンについて、「彼のもっとも根底にある資質は、超自然的かつ深遠な、一般社会からかけ離れたものであった。だからこそ、並外れた精神力に支えられた極度の内省によって、だれにも煩わされることなく、献身的にして孤独な学問追求が可能だったのである」と述べ、彼を「最初の合理主義者」ではなく「最後の魔術師」と語っています。
 また、現在でもファンの多いフロイトの夢理論が、現代では「夢物語」でしかないと述べ、夢における「象徴」を解釈する「象徴主義」は融通が利きすぎ、「頭のよい分析家なら、対話や自由連想テストで得たデータから、どんな夢だろうとそれに当てはまる解釈、憶測を自由に引き出すことができる」と語っています。
 本書の原題である『Did Adam and Eve Have Navels?(アダムとイブに、ヘソはあったか?)』とは、ファンダメンタリストにとっては重要問題で、ヘソがなかったとすれば彼らは人間として完全ではないことになり、ヘソがあったとすれば自らが出産によって生まれたことを表すことになるからです。
 民間療法に関しては、尿療法に対する徹底した攻撃が目に付きます。民間療法として昔から人の排出物(唾液、糞便、尿)に治癒効力を求める迷信が古くからあることを紹介した上で、尿療法に関するアヤシゲな書物を次々に紹介し、「重い病気をかかえた読者が、尿を飲めばどんな病も治ると信じ込まされて、本当に命を救ってくれるかもしれない医療に助けを求めないケースを考えると、私はゾッとする。」と語っています。
 本書は、ニセ科学を徹底的に分析するという意味では、単なる紹介が主で物足りなく感じる点もありますが、ニセ科学の入門書として、様々なジャンルを押さえるという目的には適しています。


■ 個人的な視点から

 ニセ科学は何も自然科学に限ったものではありません。本書では自然科学に関するものとして「人食い人種」の問題について語っています。私たちは多くの映画や小説の中で人食い人種の話、大きな釜で茹でられたり、丸焼きにされたりする、というイメージを持っていますが、1979年に出版されたウィリアム・アレンズの『人食い神話──人類学と食人風習』は、「日常的に死体を食べ、あるいは、敵を殺して食うような文化は、現在はもちろん過去にも存在しなかった」と主張して大論争を起こしました。アレンズは、「自分たちの文化を他の文化よりも優位に置きたいという願望によって捏造された、全くの民間伝承にすぎない。」として、親しい原住民が語っていた隣の文化に対する悪口を真に受けた宣教師や人類学者によって広められたものと主張しています。
 食人の習慣が存在していたかどうかは、議論が分かれるところであり、双方から主張を裏付ける証拠が提出されていますが、ここで問題なのは、自分たちの過去から疑いもしていなかった主張を傷つけられた主流の人類学者たちがとった非科学的な態度です。激しい怒りとともに、アレンズに侮辱的な言葉を浴びせた主流の人類学者たちの態度が「科学的」な態度であったかは疑問がもたれるところではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・ニセ科学の入門書を求める人。


■ 関連しそうな本

 マーティン ガードナー (著), 市場 泰男 (翻訳) 『奇妙な論理〈1〉―だまされやすさの研究』
 マーティン ガードナー (著), 市場 泰男 (翻訳) 『奇妙な論理〈2〉なぜニセ科学に惹かれるのか』
 マイケル・W. フリードランダー (著), 田中 嘉津夫 (翻訳), 久保田 裕 (翻訳) 『きわどい科学―ウソとマコトの境域を探る』 2006年01月21日
 A・K・デュードニー (著), 田中 利幸 『眠れぬ夜のグーゴル』 2005年12月25日
 ジョエル ベスト (著), 林 大 (翻訳) 『統計はこうしてウソをつく―だまされないための統計学入門』 2006年01月08日
  『』


■ 百夜百音

Mary Poppins (Original Soundtrack)【Mary Poppins (Original Soundtrack)】 Robert B. Sherman オリジナル盤発売: 2004

 世界で一番長い単語という舌を噛みそうなM-14「Supercalifragilisticexpialidocious」やM-24の「Chim Chim Cher-Ee/March Over the Rooftops」が大変有名ですが、大人が聴くと泣けてしまうのがM-8の「Spoonful of Sugar」です。作品中では、前半の子供たちに歌って聴かせる場面が伏線になっていて、後半で銀行をクビになった失意のお父さんに歌う場面で泣かせます。


『メリーポピンズ スペシャル・エディション』(DVD)メリーポピンズ スペシャル・エディション

2006年2月10日 (金)

封印される不平等

■ 書籍情報

封印される不平等   【封印される不平等】

  橘木 俊詔, 斎藤 貴男, 苅谷 剛彦, 佐藤 俊樹
  価格: ¥1,890 (税込)
  東洋経済新報社(2004/07)

 本書は、拡大中である日本における貧富の格差の背景として、「結果の不平等」(所得分配、貧富の格差)のみならず「機会の不平等」かも進行中であることを論じているものです。本書のタイトルは、「世の中に不平等は存在しているようであるが、それを意図的に黙殺するか、あるいは本格的に見ようとしない雰囲気」が国民の意識の底辺にあることを表しています。
 本書は2部構成となっており、第1部は、1990年代後半から21世紀にかけて日本の不平等化の問題を提起した、経済学者、社会学者、教育社会学者及びジャーナリストの4人による座談会に、第2部は、編者による理論的・実証的な分析と政策提言となっています。
 第1部の座談会では、それぞれの持論がスムーズに噛み合って展開されています。苅谷氏は、現在の「自ら学ぶ」教育政策によって、家庭環境の学力への影響が強く現れるようになり、「やる気」の格差が拡大したことを指摘しています。また、編者の橘氏は、日本において機会の不平等を被っている存在として、女性と若者を挙げています。そして、彼らが機会の不平等を感じながらも声をあげていないことを指摘しています。
 一方、格差が少ない国として北欧の例が挙げられていますが、座談会の中ではその影の部分としてスウェーデンで進められてきた断種政策(特定の人々を遺伝的に劣った性質を持つとして子供を作らせない政策)が行われ、出発点で強制的に均質化されている可能性が指摘されています。
 第2部では、1950~70年代の日本が、「結果の平等」(所得分配の平等)と「機会の平等」(社会移動の高さ)の双方を概ね達成していた事実を指摘し、そのことが有能で意欲のある人の発掘・育成に貢献していたとする一方で、大企業と中小企業の賃金格差に代表される「二重構造」を内包して受験競争や就職戦争を引き起こしていたこと、平等の確保は男性のみに与えられた特権であったように同じグループ内での平等であり、異なるグループ間の不平等が大きかったことを指摘しています。
 この他、セーフティネットの重要性や所得再分配制度、競争社会と公平な社会の両立のための政策提言などを行っていますが、印象としては本書の第2部は寄せ集め的な感が否めません。
 結論として著者は、統計資料に基づく事実として、日本の所得分配の不平等化/貧富の差の拡大はほぼ確実に発生しているとしています。その上で、前半の座談会で一致した意見として、日本が見えにくい不平等化を経験しつつある、ということを指摘しています。このことが、不平等の存在に気づかない、または目を背けさせているということを本書のタイトルに表されています。
 本書は、日本の格差問題の代表的な論者の意見をまとめて読めるという点で前半の座談会は「買い」ではないかと思います。後半はエッセイ集的ですが、座談会の解読編として読めるのではないでしょうか。


■ 個人的な視点から

 本書の第7章において、生活保護制度の支給額と最低賃金額との衝撃的な比較が示されています。これによると、最低賃金から計算される月額の賃金額の方が生活保護支給額よりも4~5万円近く上回っていることになります。このことについて著者は、最低賃金額が生きていくだけの生活費を支給していないことと、勤労へのインセンティブとしてマイナスであることを指摘しています。
 著者はこれを受けて、最低賃金制度を充実させる政策の強化を主張していますが、この問題に関して、ベッカー教授の『ベッカー教授の経済学ではこう考える』では、最低賃金規制の強化が労働需要を減らし、本来の意図とは逆に失業者を増加させる、ということを解説しています。
 学派やイデオロギーの違い、と言い切ってしまえばそれまでですが、目の前の穴をふさぐことで本来の意図とは逆の方向に政策が作用してしまうとしたら皮肉な話です。


■ どんな人にオススメ?

・日本の格差論者の意見をまとめて読みたい人。


■ 関連しそうな本

 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』
 斎藤 貴男 『機会不平等』
 佐藤 俊樹 『不平等社会日本―さよなら総中流』 2005年03月22日
 橘木 俊詔 『日本の経済格差―所得と資産から考える』
 樋口 美雄, 財務省財務総合政策研究所 『日本の所得格差と社会階層』 2006年02月01日
 ゲーリー・S. ベッカー, ギティ・N. ベッカー (著), 鞍谷 雅敏, 岡田 滋行 (翻訳) 『ベッカー教授の経済学ではこう考える―教育・結婚から税金・通貨問題まで』


■ 百夜百マンガ

あした天気になあれ【あした天気になあれ 】

 このマンガの影響で、たとえ口には出さなくてもスイングの時に頭の中で「チャー、シュー、メン」とつぶやいてしまう人が日本に何万人いるでしょうか。
 作者は『あしたのジョー』でそぎ落とされた筋肉のボクサーを書いて「燃え尽きた」反動でデブのキャラクターしか書けなくなったと『マンガの深読み、大人読み』に収められたインタビューの中で語っています。

2006年2月 9日 (木)

ミュージアムが都市を再生する

■ 書籍情報

ミュージアムが都市を再生する   【ミュージアムが都市を再生する】

  上山 信一, 稲葉 郁子
  価格: ¥2,100 (税込)
  日本経済新聞社(2003/12/16)

 本書は、日本各地で存亡の危機に瀕しているミュージアムを、地域再生や社会変革の鍵として役割を見直し、都市の共生と再生の方策としてその経営と評価を論じたものです。
 本書は、ミュージアムの役割を、大企業と国家が主役の「大木経済」から、小さなベンチャーや組合組織的な中小企業群、NPOなどが担い手となり、地域が消費と生産と場となる「雑木林経済」へ移行する上でのダイナミズムを産む鍵となる存在として位置づけています。芸術文化には、世界中から人を寄せ付け雇用を生むという経済効果と、すぐれた才能をひきつけ、新しい産業をもたらす創造都市効果の2つの効果があるのです。
 著者は、ミュージアムを都市の中から浮遊した存在としてではなく、都市が持つソーシャル・キャピタルの形成がミュージアムづくりには不可欠な存在と位置づけています。ミュージアムには地域力と民度(ソーシャル・キャピタルの蓄積)を両方とを高めるブースターとしての役割が期待されているというのです。
 このような社会・都市問題としての位置づけにおいてミュージアムの経営問題を、次の4つのレベルで捉えています。
(1)オペレーション・・・現場の作業・業務手順の効率運用
(2)マネジメント・・・館の持つ潜在価値を最大限に活かすための各種戦略の発動
(3)ガバナンス・・・経営の健全性、安全性を確立するための仕組み。
(4)社会体制・・・ミュージアムの存立基盤としての資金、土地、建物、人材、ボランティアなどの資源供給、そして外部経済効果の還流のメカニズムの構築。
 このように捉えると、ミュージアムの経営問題を、現場の努力不足などのオペレーションの問題と決め付け、努力を強いるだけでは解決できない問題であることが多いことがわかります。特に、バブル期に新たなハコモノとして全国に乱立した官営ミュージアムの多くが、赤字を垂れ流す存在として目の敵にされ、単純なコスト削減を強いる予算カットによって、何年も同じ展示を店晒しにしたような「死に体」のような状態になり、その責任を現場の努力不足に転嫁されていますが、現場のオペレーション・レベル以上に、ガバナンスや社会体制に起因する問題の方が、重大である場合が少なくないことが指摘されています。
 本書は、ミュージアム関係者など関心のある人はもちろん、地域力の向上や都市の再生に関心のある人にも大きなヒントを与えてくれるものではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書で指摘されている官営ミュージアムのガバナンスの欠如の問題については、実際に川崎市民ミュージアムの経営見直しに当たって、ミュージアムを造ったら後は世話をしない「ネグレクト虐待」である、という指摘が著者らによってなされています。
 しかし、この「行政によるネグレクト問題」は何もミュージアムに限った話ではありません。予算のつき方や市民サービスに与える影響は多少違っても、公園や体育施設などの運営を行っている各種財団についても構造的には同じ問題を抱えています。指定管理者制度によってにわかに火がついたかのように報じられていますが、現場の努力不足や高コスト体質の背景にある、同じようなネグレクト虐待に目を向ける必要があります。


■ どんな人にオススメ?

・「雑木林経済」という言葉にピンと来た人。


■ 関連しそうな本

 村井 良子, 上山 信一, 三木 美裕, 佐々木 秀彦, 平田 穣, 川嶋-ベルトラン 敦子 『入門ミュージアムの評価と改善―行政評価や来館者調査を戦略的に活かす』 2005年11月17日
 三木 美裕 『キュレイターからの手紙―アメリカ・ミュージアム事情』
 上山 信一 『「行政評価」の時代―経営と顧客の視点から』 2005年01月21日
 上山 信一, 玉村 雅敏, 伊関 友伸 (編) 『実践・行政評価―事例、解説、そしてQ&A』
 デビッド ディーン (著), 北里 桂一, 山地 有喜子 , 山地 秀俊 (翻訳) 『美術館・博物館の展示―理論から実践まで』
 P・H・マン (著), 中野 正大 『社会調査を学ぶ人のために』


■ 百夜百マンガ

タイガーマスク【タイガーマスク 】

 イタリアでも放送されていた作品です。テーマ曲はさすがに「強ければ~」ではありませんでしたが。
 格差社会を象徴するような作品とも思えますが、この作品が作られた当時は格差はなかったのでしょうか。

2006年2月 8日 (水)

狙われた自治体 ゴミ行政の闇に消えた命

■ 書籍情報

狙われた自治体 ゴミ行政の闇に消えた命   【狙われた自治体 ゴミ行政の闇に消えた命】

  下野新聞「鹿沼事件」取材班
  価格: ¥1,785 (税込)
  岩波書店(2005/05/21)

 本書は、2001年10月に、栃木県鹿沼市の環境クリーンセンター長が、帰宅途中に拉致・殺害されたとされる「鹿沼事件」を、地元新聞社の取材班が1年に渡って丹念に追い続けた記録です。この事件は、全国の公務員を震え上がらせたと同時に、それまで明るみに出なかった「行政対象暴力」が自治体に深く巣くっていることを表面化させ、政治結社を名乗る「機関紙」の購読の強要や脅しの実態の一部を明らかにするきっかけにもなりました。
 本書の構成は、被害に遭ったセンター長の失踪から始まります。自転車での帰宅途中に、財布や免許証を残して姿を消したセンター長の家族の憔悴と、「次は自分の番かもしれない」と怯えるセンターの職員。そして、何の手がかりもなく過ぎた1年3ヵ月後、実行犯と目される4人の暴力団関係者らの逮捕と、殺害を依頼したと見られる廃棄物処理・収集運搬業者の自殺によって、事件は急展開を迎えます。そして、その5日後、殺害されたセンター長の前任者である市役所幹部が市役所で遺書を残して5階から飛び降りた姿で発見されます。
 新聞で事件として扱われるのは、この3人の氏と4人の逮捕ですが、地元紙取材班は丹念な取材で事件の背後にある鹿沼市役所の「闇」に切り込んでいきます。自殺した業者と故人となった元市長との謎の「念書」の存在や、他の自治体からヤミで受け入れたゴミを市内の事業所から出たものと偽ってクリーンセンターで焼却し、その差額による莫大な利権が発生していたこと。市長の交代に伴う異例の人事でセンター長に充てられた被害者が、不正に気づき、事前協議や内容物のチェックなどを厳しくしたことに対し、業者は「会社をつぶされる」と焦りを感じていたこと。そして、殺害を依頼した業者が自分の興した会社を追われ、手がけた温泉開発事業にも行き詰っていたことなど、事件の背景にあるゴミ利権の姿を次々に明らかにしていきます。
 同時に、癒着を生んだ市役所の体質にもメスが入ります。自殺した市役所幹部と業者とのズブズブの関係、市役所内部の派閥争い、そして主流派と反主流派が常に入れ替わる複雑な鹿沼の政治風土などが明らかにされます。この辺りは、地元の人間には言わずもがなのことなのかもしれませんが、土地のことを知らず始めて本書を読んだ人間には若干説明不足の感があります。また、地元過ぎるだけに書きにくいところもあるのかもしれません。
 読者、特に殺害されたセンター長と同じ自治体職員にとっては、暗澹として気持ちに突き落とされる本書の唯一の救いは、この事件をきっかけに、行政対象暴力に対する世間の注目が集まり、全国的に連携の動きが出てきたことです。産業廃棄物処理場の建設計画が進む中で、何者かに襲われ瀕死の重傷を負った岐阜県御嵩町の柳川町長が被害者の自宅を訪れたり、全国で行政と警察の連携が進み始めている事実は、かすかな希望を与えてくれます。


■ 個人的な視点から

 飲み会などで自治体の職員が集まると、過去の「武勇伝」が語られることが多くあります。特に生活保護や徴税に携わる中で、言葉で脅されたり、包丁を持ち出されたりという経験をする職員は少なくありません。
 しかし、本書でセンター長の命を奪った暴力は、もっと深く市役所のシステムに根を下ろしたものです。突発的に起こる暴力と異なり、真綿で首を絞められるようなジワジワとした暴力の怖さは、包丁を突きつけられる怖さとはまた異なるものではないかと思います。
 そして、突発的な暴力の背景には、このシステム的な暴力の存在が影を落としているのではないかと思います。つまり、「闇」と自分との関係をほのめかして恫喝する、ということを許してしまうのです。対処療法的な対策ももちろん重要ですが、情報公開によるシステム的な解決が不可欠ではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・自分と家族を危険にさらしている全国の自治体職員。


■ 関連しそうな本

 ベンジャミン・フルフォード 『ヤクザ・リセッション さらに失われる10年』
 ベンジャミン フルフォード, 早見 恵, 土井 洸介 『ペテン師の国 ヤクザの帝国 バブルの暗黒編―政・官・財・ヤクザが日本を吸い尽くす』
 門倉 貴史 『日本アングラマネーの全貌―地下経済の隠し総資産』


■ 百夜百マンガ

代紋TAKE2【代紋TAKE2 】

 初期の頃は未来を知ってるタイムスリップヤクザという点が一番のポイントでしたが、徐々に丈二の大物ぶりに力点が移ります。敵もどんどんインフレしてきますが。
 木更津編もあることから千葉のご当地マンガに加えてもいいかもしれません。木更津と言えばニャー!!

2006年2月 7日 (火)

資源ベースの経営戦略論

■ 書籍情報

資源ベースの経営戦略論   【資源ベースの経営戦略論】

  デビッド J.コリス, シンシア A.モンゴメリー (著), 根来 龍之, 蛭田 啓, 久保 亮一 (翻訳)
  価格: ¥3990 (税込)
  東洋経済新報社(2004/09)

 本書は、「資源ベース」の戦略論と「組織経済学(取引コスト理論とエージェンシー理論)」を理論的背景とした企業の全社的(事業戦略+企業戦略)な戦略論を展開したものです。
 本書では、「企業戦略」を「企業が複数の市場における活動を組み立て調整することによって、価値を創造する方法である」と定義し、企業戦略の目的としての「価値創造」、企業の複数市場における事業活動範囲である「事業の組み立て」、企業の階層組織における活動の「調整」の3点に重点を置いています。
 本書のタイトルとなっている「資源ベース理論(RBV: Resouece-Based View)」とは、プラハラードとハメルによる「コア・コンピタンス」という概念の提唱をきっかけとし、「企業はそれぞれ資源の独自の束(組合せ)を所有しており、各企業は根本的に異なる」という前提を持っています。ここで「資源」には、3つのカテゴリーがあり、
(1)有形資産:不動産、生産設備、原材料など。
(2)無形資産:会社の評判、ブランドネーム、文化、技術的知識、特許や商標、蓄積された学習や経験。
(3)組織のケイパビリティ:組織がインプットをアウトプットへと変換するために用いる資産、人材、プロセスの複雑な組み合わせ方(組織ルーチン)。
の3つが挙げられています。
 資源ベース理論では、資産の評価は自社内部に目を向けた主観的なものではなく、企業の競争環境との関連においてのみ可能とされ、「顧客デマンド充足性」、「希少性」、「専有可能性」の3つの側面に着目しています。
 資源ベース理論とともに本書の理論的背景となっているのは、取引コスト理論とエージェンシー理論です。取引コスト理論とは、「市場の失敗という視点から企業の存在と活動範囲を説明するもの」で、市場の失敗を導く条件として、機会主義、資産特殊性(少数の当事者)、不確実性、多頻度の取引の4点を挙げています。その上で、「企業内部で行う活動は市場取引コストが非常に高いものに限るべき」としています。また、エージェンシー理論は、「本社幹部は、部門幹部と全く同じ情報を持つことも、部門幹部の行動を逐一監視することもできないので、部門幹部は(企業の利益に反する)自己の利益を追求することができる」というモラル・ハザード問題を主張しています。この企業の所有者(プリンシパル)と、従業員(エージェント)の間で生じるコストは、非対称な利害、情報の個人化、不確実性の3つの理由から生じるとされています。
 本書はこれらの理論を背景に、地理、製品市場、垂直統合の3つの次元からなる事業範囲の問題や、事業多角化において問題となる(1)競争上の優位性、(2)鍵となる成功要因(KSF: Key Success Factor)、(3)競合企業と同等の競争力、(4)保有資源を新事業において複製できること、等を論じています。
 また、「企業の境界」の問題に関しては、市場の優位性として、(1)情報処理の効率性、(2)強いインセンティブ、の2点を挙げるとともに、市場のコストとして、取引コストと市場の失敗を挙げています。一方、階層組織のベネフィットして、(1)権限により機会主義と非生産的な交渉を減らすことができること、(2)一元化された所有権の存在により全社的な目的を決定し、関連情報にアクセスできること、の2点を挙げています。
 なお、本書の各章は、理論編と実践編に分かれており、理論編だけではわかりにくい内容は、いったん実践編を読んでから理論編に戻ると理解しやすいような構成になっています。


■ 個人的な視点から

 本書の特徴は「戦略論+組織の経済学」というところです。従来は別のテキストで扱われてきたこの2つのテーマが1冊になるということは、経済学の視点をベースに、経営学の各分野を整理しなおせるのかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・RBVのエッセンスをつかみたい人。


■ 関連しそうな本

 ポール・ミルグロム, ジョン・ロバーツ (著), 奥野 正寛, 伊藤 秀史, 今井 晴雄, 八木 甫(翻訳) 『組織の経済学』 2005年01月24日
 ゲイリー ハメル, C.K. プラハラード (著), 一條 和生 (翻訳) 『コア・コンピタンス経営』 2005年02月09日
 リチャード ラングロワ , ポール ロバートソン (著),谷口 和弘 (翻訳) 『企業制度の理論―ケイパビリティ・取引費用・組織境界』
 ジェイ・B・バーニー (著), 岡田 正大 (翻訳) 『企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続』
 ヘンリー ミンツバーグ, ジョセフ ランペル, ブルース アルストランド (著), 斎藤 嘉則, 奥沢 朋美, 木村 充, 山口 あけも(翻訳) 『戦略サファリ―戦略マネジメント・ガイドブック』 2005年02月15日
 クレイトン・クリステンセン (著), 玉田 俊平太, 伊豆原 弓(翻訳) 『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』 2005年10月17日


■ 百夜百マンガ

踊る警官【踊る警官 】

 浦沢直樹の初期短編集です。当時は『YAWARA』の路線と『パイナップルARMY』の路線とのギャップの大きさに戸惑っていましたが、個人的にはその溝を埋めるような内容なのかと思います。

2006年2月 6日 (月)

超・成果主義―個力を引き出し強い組織をつくる

■ 書籍情報

超・成果主義―個力を引き出し強い組織をつくる   【超・成果主義―個力を引き出し強い組織をつくる】

  加藤 昌男
  価格: ¥1,890 (税込)
  日本経済新聞社(2005/06)

 本書は、成果の上がらない成果主義の原因が、成果『査定』主義にあることを指摘し、「成果総合主義人事」への展開によって高業績達成を目指す、というものです。
 著者は、成果『査定』主義を、
「社員一人ひとりの『成果』目標を決め、競争のルールを『成果』中心に決めて、労働の『成果』を査定する。そして、誰が一番『成果』をあげたか社員同士を競争させることで、社員の成果達成意欲を高め、業績を向上させようとする施策」
と定義しています。この成果『査定』主義の問題点は、個人が高く査定されうる上辺だけの目標が設定されることで、個人目標と戦略の連携が切れることであると指摘されています。著者は、「今ここで、成果『査定』主義に「NO!」と言わなければならない」とボルテージを上げていきます。
 では、どうすればいいのでしょうか。
 ここから先は、コンサルティングの「カタログ」になって行きます。材料は、一昔前に流行った「ナレッジ・マネジメント」と、成果主義以降の人事コンサルの定番である「コンピテンシー」です。
 第2章では、「成果創造主義人事」と銘打たれたナレッジ・マネジメントの焼き直しの解説がされています。おなじみの「SECIモデル」なんかも出てきますが、具体性はないまま「成果創造主義人事」のメリットが語られています。
 また、第3章では、「コンピテンシーは仕事の『型』」として、「高業績を達成するためのよい行動パターン」を真似することで、皆が楽に高業績を達成できると述べています。
 本書で読み応えがあるのは、第4章中の「茨城キリスト教学園のコンピテンシー・コーチング技法事例」です。「No rule is our rules.」という初代学長のローガン・J・ファックス博士(本書では一部「ファックス」博士になってましたが)の精神をよりどころに、評価制度に反対する教員たちと話し合いを重ねてシステムを作り上げていくところはプロジェクトの実録としての迫力がありました。
 『超・成果主義』というタイトルは正直なところ羊頭狗肉なのではないかと思いますが、人事をきっかけにオーソドックスなコンサルティングをしているという印象を受けました。


■ 個人的な視点から

 コンサルタントの世界では次から次に新しいバズワードが生まれては消えていきますが、コンサルタント自身は家族と生活を背負った生身の人間ですから流行と一緒に消えてしまうわけにはいきません。
 そこで過去に身につけたコンサルティング技法に新しい看板をつけ返す作業が繰り返されることになります。なんだかんだ言っても多くの日本のコンサルタントのコアになっている部分は品質管理ですから、最新のバズワードを看板に掲げた本の多くが中盤以降では著者の得意分野に無理やり引きずり込まれて行くことになります。
 ただし、それが悪いことだとはあまり思いません。最新流行の経営手法を求めるクライアントの要求どおりに流行りものを取り入れるよりも、もっとオーソドックスな品質管理などの手法の方が確実に効き目がある場合が多いのではないかと思うからです。


■ どんな人にオススメ?

・査定型の「成果主義」に疑問を感じている人。


■ 関連しそうな本

 城 繁幸 『日本型「成果主義」の可能性』 2005年12月08日
 城 繁幸 『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』
 高橋 伸夫 『虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ』 2005年3月30日
 高橋 伸夫 『〈育てる経営〉の戦略―ポスト成果主義への道』 2005年06月16日
 溝上 憲文 『隣りの成果主義』 2006年01月20日


■ 百夜百マンガ

犬家の一族【犬家の一族 】

 「冷食捜査官」シリーズもカッコイイですが、「あしたのために」も古本屋巡りをしていた学生時代を思い出させます。元ネタが全部わかったら相当の重症です。
 それでも一番の衝撃は進研ゼミに巨匠とり・みき先生が連載していたことです。

2006年2月 5日 (日)

誤記ブリぞろぞろ―校正の常識・非常識

■ 書籍情報

誤記ブリぞろぞろ―校正の常識・非常識   【誤記ブリぞろぞろ―校正の常識・非常識】

  野村 保惠
  価格: ¥1,470 (税込)
  日本エディタースクール出版部(2005/10)

 本書は、出版・印刷業界に長く携わり、日本エディタースクールにおいて30年間後進の指導に当たった著者が、「校正」という仕事の解説とともに、校正を通じて見てきた印刷業界の時代の移り変わりを語ったものです。
 本書の校正の約半分は、校正のルールの解説に充てられています。普段本を読んでいてもそれほど意識していない数々の校正のルール、出版・印刷業界のイロハは、門外漢の好奇心をそそるものばかりです。それも、単に教科書的に必要事項が書いてあるだけでなく、著者の経験を背景に実際の出版の現場で役に立つことを想定して書かれているので、非常に実践的(と言っても仕事には関係ないですが)な内容になっています。
 第2章の「文字の字体のいろいろ」では、原稿がコンピュータで作成されるようになったことで、それぞれのコンピュータで扱える自体が問題になることが述べられています。また、「字種」と「字体」とは分けて考えられます。普段コンピュータを使っていると、「字体」というと、「明朝体」とか「ゴシック体」とか「へた字」とかをイメージしますが、印刷の世界では明朝とかゴシックは「字種」という概念として扱われます。「字体」とは、「それぞれの文字が、それによって他の文字と区別される特徴的な形。字形。一つの字についても、字画の違いによって、新字・旧字、正字・俗字などと区別する。」(広辞苑第五版)とされるものです。 電算植字が没落し、DTP全盛の時代となったことで、字種と字体の問題がクローズアップされ、現場が大きく混乱していると指摘しています。
 第3章では、組版ルールの重要性が解説されています。かつては、組版ルールを熟知した活字組版の技術者によって支えられてきた現場が、現在ではコンピュータと組版ソフトさえあれば誰でも組版ができるようになったことで、作業者が格段に増え、正しい組版の教育が行き届かなくなったと嘆いています。若く、コンピュータを使うことは得意だが、「印刷校正記号」も理解できない基本的知識が欠如した作業者が増えているというのです。著者は組版ルールの目的を、「それを読む読者に読みやすく、次に誤読されないように、その上で、見た目に美しく」と述べていますが、現代は見た目の美しさだけが優先され、美しくとも読めない、誤読されるような組版が多くなっていると指摘しています。なお、「ルビ」という言葉の語源は、明治期から本文文字の基本であった5号の半分である7号が、欧文活字の「ルビ」(ruby、大きさ5..5ポイント相当の固有名称)とほぼ同じであったことを本書で初めて知りました。
 第4章では、ページの組版ルールが解説されています。連続している文章を、段落で区切り、見出しでまとめ、図版・写真・表等を適切に配する必要性が述べられています。普段ワープロソフトを使っていると適当に見出しを付け、ノンブルを付けていますが、ページ末に来た見出しの処理や数々の注の付け方など、プロの技(常識)から学べるものも少なくありません。
 さて、本書のタイトルともなっている大きなテーマである「校正」については、第6章の「素読みのできる人 校正の常識・非常識」という長めの章が充てられています。「素読み」とは、「原稿を離れて校正刷りだけを読み、おかしいところ、不具合なところを発見する作業」のことで、「国語力」に加え、一般常識の面から広い知識(雑学)が必要とされ、「素読みのできる人材」を求める声が大きくなっています。特に、原稿がパソコンで書かれるようになったことで、素読みの重要性は高まりました。推敲の跡が残る手描き原稿であれば、それを読む編集者もつっかえながら内容に目が行き届きますが、プリンタで打ち出されたハードコピーは、読み過ごされることが多くなり、原稿の電子データがそのままコンピュータ文字組版に流し込まれるために、引き合わせの校正では誤りが発見できないのです。本来、「素読み」とは、主に印刷所のミスを発見するためのものでしたが、電子データ入稿が増えたことで、ワープロの変換ミスなど、著者の書いた内容に踏み込んだ作業の割合が増してきているのです。昔は、「校正者のさかしら」と叱られることも多かったようですが、今はそういう立派な著者は減り、「誤記ブリ」が列をなして現れるようになったと嘆いています。
 また、最近では過去の印刷物やハードコピーの原稿からOCRで入力することが増え、そのことが思いも寄らなかった誤植を引き起こすことがあります。OCRの場合は最初から一字一字の引き合わせ校正が必要になり、「頂点」を「項点、碩点、頒点」に、「対称」を「対稀、対株、対林」となっていた例が紹介されています。
 本書の巻末には、著者が過去20数年間の間に収集した実際の誤植例が収められています。「パソコン入力の誤植例」では、「読みを誤った例」として、江戸っ子が間違えたのか「資格・視覚→比較」や「迷信傑作→名品傑作」などの例が紹介されています。他には、味噌屋の看板と間違える「味噌有→未曾有」、空から師匠がやってくる「運天に師匠を生じ→運転に支障を生じ」、姑にいじめられたのか「干渉に耐える→鑑賞に耐える」、狙った獲物は逃がさない取立ての厳しそうな「厳選徴収→源泉徴収」、年齢を曖昧にしたい年頃なのか「若干二十七歳→弱冠二十七歳」などが紹介されています。
 また、OCRの入力ミスでは、ピークを過ぎるのが早い商売なのか「音楽衰→音楽家」、狸マニアか「狸狂熱→猩紅熱」、暴れすぎて痛い目にあったのか「腕白→脱臼」など、上手い具合に入力ミスされた例が紹介されています。
 本書は、印刷業界の人にとっては直接仕事に役立つものなのでしょうが、普段ワープロで文章を作る機会の多い人にとっても笑えない一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書の中で、「誤植の恐ろしさ」として、「61万円で16株売り」を「16円で61万株売り」とコンピュータに入力して大騒ぎになった例が紹介されています。今年出版されたものであれば、みずほ証券のジェイコム株事件が取り上げられたことは間違いないと思います。他にも、教科書に載った「雪国はつらいよ条例」の誤植や、週刊誌に載った「皇太子の解任報道に対する抗議」など、問題となった誤植が紹介されています。
 また、我々が普段コンピュータでやりがちなミスとして、一括変換で必要のないところまで変換してしまうミスが紹介されています。例として挙げられているのは、「エアバック」を「エアバッグ」に直すために、「バック→バッグ」と一括変換したところ、「バックウインド→バッグウインド」や「バックドア→バッグドア」等、必要ない部分まで変換されてしまったものです。この場合は手を抜かず「エアバック→エアバッグ」ときちんと入力すべきであったことが指摘されていますが、PCの場合ならばこれに加えて、手を抜かずに、一気に変換せず、「変換して次の候補」を選んで一つずつ変換していくのが無難なのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・出版・印刷業界の人
・ワープロを使って文章を作っている人。


■ 関連しそうな本

 日本エディタースクール (編集) 『日本語表記ルールブック』 
 日本エディタースクール (編集) 『実例校正教室』 
 日本エディタースクール (編集) 『パソコンで書く原稿の基礎知識Word2002対応』 
 日本エディタースクール (編集) 『標準 編集必携』 
 日本エディタースクール (編集) 『文字の組方ルールブック―タテ組編』 
 高橋 輝次 『誤植読本』 


■ 百夜百音

Hi Hi Puffy AmiYumi【Hi Hi Puffy AmiYumi】 Puffy AmiYumi オリジナル盤発売: 2005

 去年の秋からは「おはスタ」内でお茶の間に流れるようになってしまった昔のアイドルです。キリンの「天然育ち」のCMソングとして「アジアの純真」が流れてから早10年、今や世界の子供たちのアイドルになってしまいました。言ってみれば「パワー・パフ・ガールズ」に実在のモデルが居るようなものです。
 プリンセス天功といい、アメリカでは妙なものが受けてしまうのが不思議です。少年ナイフに引き続き中村伊知哉氏がかんでたりするのでしょうか。


『Heroes and Villains(試聴あり)』Heroes and Villains(試聴あり)

2006年2月 4日 (土)

フリーソフトウェアと自由な社会 ―Richard M. Stallmanエッセイ集

■ 書籍情報

フリーソフトウェアと自由な社会 ―Richard M. Stallmanエッセイ集   【フリーソフトウェアと自由な社会 ―Richard M. Stallmanエッセイ集】

  リチャード・M・ストールマン (著), 長尾 高弘 (翻訳)
  価格: ¥3,360 (税込)
  アスキー(2003/05/06)

 本書は、フリーソフトウェア運動の中心人物として知られているRMSことリチャード・ストールマンのエッセイや講演録をまとめたものです。
 収められている講演の中にも名前が出ますが、クリエイティブ・コモンズで知られるレッシグ教授が序文を寄せています。その中で、著者のことを「好きになるのは大変そうな人物だということを知っている程度である。」と述べるとともに、「彼は衝動的で、しばしば短気になる。彼の怒りは、敵と同じように友にも向かう。彼は妥協を知らず、頑固である。この2つのことについては病気のようなものだ。」と著者の性格を評します。しかし、この後、我々が、コードの威力と危険性を理解し、またコードが法律や政府と同様にフリーでなければならないものであることに気づいたときには、著者のビジョンを思い出し、次世代の社会が手にするはずの自由の獲得に最大限の努力を示したことを再認識する、と称えています。
 本書は、あちこちに書いたエッセイや講演の寄せ集めなので同じようなことが何度も繰り返されますが、その中でもっとも頻度が多いのは「フリー」の意味についてです。この場合の「フリー」は、「フリー(無料)ビール」の意味ではなく、「フリースピーチ(言論の自由)」の意味だという言い回しは、著者が講演などで何度も使っているものです。その上でフリーソフトウェアの自由は以下の4種類だとされています。
・自由0:プログラムを任意の目的のために実行する自由。
・自由1:プログラムが動作する仕組みを研究し、自分のニーズに合わせて書き換える自由(そのためには、ソースコードへのアクセスが前提条件となる)。
・自由2:隣人を助けるためにコピーを再頒布する自由。
・自由3:プログラムを改良し、改良点を公開して、コミュニティ全体の利益を図る自由(そのためには、ソースコードへのアクセスが前提条件となる)。
 また、フリーソフトウェアは、有料でも無料でも再頒布する自由を持っていて、一般に使われる「フリーウェア」とは混同して欲しくないと述べられています。
 本書で取り上げられるもう一つの大きいテーマは、「コピーレフト(Copyleft)」です。これは「著作権(Copyright)」をもじったものですが、「Copyleft--all rights reversed.」等のように使われます。本書では、著作権と特許の違いについても解説がされています。
 著者は、ソフトウェアがフリーでなければならない理由の説明に、料理のレシピがソフトウェアと同じように死蔵される不幸を例に出します。医者から塩分を控えるように言われている人がシェフに「この料理のレシピから塩を取り除くにはどうしたらいいか。」を尋ねたときに、「俺の頭脳と舌の申し子である俺のレシピに土足で踏み込んで侮辱するとはどういう了見だ。お前に俺のレシピを訂正しろなどと言われる筋合いはねえ!」と言われる、という例です。しかし、同じことがソフトウェアの世界では起こっていることを著者は指摘したいのです。著者は、「知的な分野では、他人の肩の上に乗ることによってより高い地点に到達できるようになる」のが一般的であるのに対し、ソフトウェアの世界では「自分と同じ会社の他人の肩」に乗れるだけだと指摘しています。


■ 個人的な視点から

 著者が推進しているGNUプロジェクトの名称は、「GNU is Not Unix」という再帰的な言葉となっています。著者は講演の中で、当時ハッカーの間でこのような再帰的頭字語でのネーミングが流行っていたことについて触れています。なんとかして「Is Not Unix」となる言葉を探しているうちに、アフリカの動物である「GNU」にたどり着いたということです。ただし、元々の発音は「new」と同じであるのに対し、このシステムは「guh-NEW」と発音されることを強調しています。
 また、講演の中では、GNUがLinuxと混同されることを笑いを取る持ちネタとして多用しています。本書の後半はいくつかの講演録が収められていますが、会場の雰囲気を想像しながら読むと楽しいかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・「フリーソフトウェア」と「フリーウェア」の違いがわからない人。


■ 関連しそうな本

 クリス ディボナ, マーク ストーン, サム オックマン (著), 倉骨 彰 (翻訳) 『オープンソースソフトウェア―彼らはいかにしてビジネススタンダードになったのか』 2006年01月29日
 ローレンス レッシグ 『クリエイティブ・コモンズ―デジタル時代の知的財産権』
 ローレンス レッシグ (著), 山形 浩生 (翻訳), 柏木 亮二 (翻訳) 『CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー』 38384
 ローレンス・レッシグ (著), 山形 浩生 (翻訳) 『コモンズ』
 エリック・スティーブン レイモンド (著), 山形 浩生 (翻訳) 『伽藍とバザール―オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト』 2005年10月22日
 ペッカ ヒマネン, リーナス トーバルズ, マニュエル カステル (著), 安原 和見, 山形 浩生 (翻訳) 『リナックスの革命 ― ハッカー倫理とネット社会の精神』 2005年10月29日


■ 百夜百音

あのねのねのヤンニャン豪華な大全集【あのねのねのヤンニャン豪華な大全集】 あのねのね オリジナル盤発売: 2005

 「赤とんぼの唄」で有名なあのねのねですが、子供たちには「猫ニャンニャンニャン、犬ワンワンワン、カエルもアヒルもガーガーガー」が大受けしていました。息を吸い込みながら喉を鳴らすのがポイントですが、やりすぎるとむせて苦しくなります。
 同じ頃流行ってたのが小松政夫のデンセンマンです。よいよいよいよい。おっとっとっと。


『電線音頭』電線音頭

2006年2月 3日 (金)

進化的意思決定

■ 書籍情報

進化的意思決定   【進化的意思決定】

  石原 英樹, 金井 雅之
  価格: ¥3,570 (税込)
  朝倉書店(2002/04)

 本書は、意志決定理論の核にある「合理性」と、「進化」とを対立的に捉えることで、社会科学の分野における進化の概念の論理的基礎を確認することをテーマとしているものです。
 本書の構成は、1~3章で非協力ゲームを、4~7章で進化ゲームの基礎を解説し、最後の8章では「進化的意志決定」理論の応用に向けての文献紹介など本書以降に進むためのガイダンス的な内容になっています。
 本書は、「合理性」と「進化」を、状況に関する評価関数(=目的関数)を事前的に把握するか事後的に把握するかという点で対立するとして、次のように区別しています。
・合理性:状況に関する評価関数が存在し、その評価関数に照らして最適な選択肢を「あらかじめ」計算によって求め、選択するという主体の行動原理。
・進化:ある選択肢を「実行した後で」、その結果が評価関数に照らして最適でないと判断すれば別の選択肢をとるという主体の織りなす相互作用メカニズム。
 1~3章では、非協力ゲームの解説がされています。本書では、非協力テーマにおけるジレンマを、「(先読み合理性に基づく)ゲームの解のうち、パレート最適でないものが少なくとも一つ存在する状態」と定義しています。有名な1回限りの「囚人のジレンマ」の他、メタゲームやスーパーゲーム等の拡張、集団的に安定な戦略、等が解説されています。特に3章では、保証ゲームでの複数均衡選択問題とチキンゲームの混合戦略ナッシュ均衡に重点が置かれています。
 4章以降は、本題である進化ゲームの解説となっています。ここでは進化生物学より、「進化の三要素」として以下の3点が解説されています。
・変異:個体群の中の個体の間には、問題の性質にバラツキがある。つまり、ある性質について個体群の中のすべての個体が同じであるわけではない。
・選択:問題の性質によって、個体の生存率やこの数が違う。つまりその性質がどうであるかにより生存率が高いとか低い、あるいは子の数が多いとか少ないなどの違いが生じる。
・遺伝:問題の性質のバラツキのうち、少なくともある部分は遺伝的な原因による。
 その上で、本書では進化を、」生物に固有の現象ではなく、きわめて一般性のある一種の"論理"として考えられる」とし、その核心を「複数の要素が有限な資源をめぐって争う力学系」と表現しています。
 この後、6章では、「"利得の高いものほど増える"というアイディアを、微分方程式として最も直接的に表現した」レプリケータ・ダイナミクスを、第7章では、「進化的に安定な戦略(Evolutionarily Stable Strategy; ESS)」を解説しています。
 本書は、社会科学における「進化」という概念を理解する上では良くまとまった1冊ではないかと思いますが、ゲーム理論自体に初めて触れるという人には敷居が多少高いかもしれません。


■ 個人的な視点から

 「進化」という概念は生物学のものという固定観念を持ちがちですが、本書で紹介した社会科学分野はもちろん、工学やデザインの世界でも進化の概念は用いられています。
 身の回りの習慣や言語、経営手法など様々なものを「進化」という視点から見直してみると新しい発見があるかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・「進化」という視点を手に入れたい人。


■ 関連しそうな本

 ロバート・アクセルロッド (著), 寺野 隆雄 (翻訳) 『対立と協調の科学-エージェント・ベース・モデルによる複雑系の解明』 2005年11月15日
 R. アクセルロッド (著), 松田 裕之 (翻訳) 『つきあい方の科学―バクテリアから国際関係まで』 2005年12月20日
 リチャード・ドーキンス (著), 日高 敏隆, 岸 由二, 羽田 節子, 垂水 雄二 (翻訳) 『利己的な遺伝子』
 増田 直紀, 今野 紀雄 『複雑ネットワークの科学』 2005年11月18日
 ヘンリー ペトロスキー (著), 忠平 美幸 (翻訳) 『フォークの歯はなぜ四本になったか―実用品の進化論』 2005年12月31日


■ 百夜百マンガ

鬼平犯科帳【鬼平犯科帳 】

 今日は節分ですね。
 ということで無理やり「鬼」がらみにしました。
 どうしてもゴルゴに見えてしまうのは仕方ないとして・・・。

2006年2月 2日 (木)

アメリカの地方自治

■ 書籍情報

アメリカの地方自治   【アメリカの地方自治】

  小滝 敏之
  価格: ¥3,465 (税込)
  第一法規(2004/12)

 本書は、アメリカの地方自治制度について、その成り立ちから20世紀の数々の改革、そして現在の制度のあらましについて詳細に解説しているものです。
 本書の第1章「アメリカ地方自治の原理と特質」は、ジェームス・ブライスの『近代民主制』の「地方自治の実践こそ民主政治の最良の学校であり、その成功の保証人である」という言葉と、さらにその由来となるアレクシス・ドゥ・トックヴィルの『アメリカの民主制』の「自治体制度は、自由を人民の手に届くところに置き、人々に如何に自由を行使し教授するのかを教える」とともに始まります。本書はアメリカ自治制度そのものの意義の解説からスタートし、連邦制度や州制度との関係、州憲法と地方自治の関係、様々な地方政府の解説と歴史、様々な住民自治制度の制度と歴史の解説を行っています。
 特に日本人に分かりにくいところは、連邦や州との関係、そして地方政府の種類の多さではないかと思います。州の憲法に定められた地方政府条項については、日本国憲法に定められた地方政府のあり方や運用とは異なるため、すぐにはイメージができにくいところです。また、地方政府の種類の多さも日本人にはなじみが薄いところです。本書は、カウンティ、タウンシップ、タウン、自治体(ミューニシパリティ)、特定区(スペシャル・ディストリクト)、学校区(スクール・ディストリクト)などの様々な自治体などを解説しています。
 また、日本と異なり、アメリカの自治体の種類だけでなく、同じ名前でも形態が様々です。特に市長と議会の関係については、議会が強く市長が弱い伝統的なスタイルのほかに、政治腐敗の改革を目指した「強市長・議会型」や「理事会型」、そして日本でも話題になった「議会・支配人型」といった様々なスタイルが生まれました。
 この他、日本でも一部の自治体が取り入れたことで有名になった自治体憲章や、町民総会(タウンミーティング)、住民発議(イニシアティヴ)、住民投票(レファレンダム)、解職請求(リコール)などの直接民主政の諸制度の解説も詳細に行われています。
 日本の自治体改革のお手本として、アメリカの直接民主制度やシティ・マネジャー制度などが取り上げられることが多くなりましたが、アメリカの地方自治制度を体系的にまとめた本書を一度読んでおくと、これらの制度の位置づけが分かりやすくなるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 日本の地方自治を巡る問題、例えば首長と議会との二元代表制の問題などを考える上では、アメリカの地方自治制度の理解は不可欠ではないかと思います。そして理解を深める上で重要なことは、多様な地方自治制度が存在していることです。
 その意味で、全国一律の地方自治制度から必置規制などが緩和されていることはよい方向であると思います。


■ どんな人にオススメ?

・地方自治制度に行き詰まりを感じている人


■ 関連しそうな本

 赤井 伸郎, 山下 耕治, 佐藤 主光 『地方交付税の経済学―理論・実証に基づく改革』 2005年01月27日
 土居 丈朗(編著) 『地方分権改革の経済学―「三位一体」の改革から「四位一体」の改革へ』
 土居 丈朗 『三位一体改革ここが問題だ』
 穂坂 邦夫 『市町村崩壊 破壊と再生のシナリオ』
 埼玉新聞社 (編集) 『生き生きまちづくり 埼玉県志木市の挑戦』 2005年04月17日
 清水 聖義 『前例への挑戦―自治体はサービス創造企業』


■ 百夜百マンガ

BLAME【BLAME 】

 手描きでここまで描ける、という感じのハードSF。海外での評価も高いです。
 そのうち実写映画化とかされないかしら。

2006年2月 1日 (水)

日本の所得格差と社会階層

■ 書籍情報

日本の所得格差と社会階層   【日本の所得格差と社会階層】

  樋口 美雄, 財務省財務総合政策研究所
  価格: ¥3,360 (税込)
  日本評論社(2003/12)

 本書は、日本社会の階層化に対する二つの見方、すなわち、所得格差が拡大しているという見方と、所得格差が小さすぎる悪平等に陥っているために勤労意欲が失われているという見方に関して、できる限り広い視野から検討しようというものです。
 本書の構成は3部からなり、「第1部 社会階層・格差についての現状と動向」では、所得格差や資産格差、社会階層間の移動などについて、データの分析を中心に論じています。第1章で大竹文雄氏は、所得格差拡大の主要要因を人口高齢化とした上で、50歳未満層での消費格差の拡大の実証分析を過大としています。また、第2章で太田清氏は、日本の年齢間の資産格差が大きいことを指摘した上で、これまでの土地資産や世代間移転の問題から、人的資産格差による所得格差の問題にシフトしていくとしています。第3章では、夫と妻の所得の間の正の相関に着目し、低い夫の所得の不足を埋めるために妻が就業する場合にはパートタイマーなどの低い賃金であることが考えられ、一方、正社員として働く妻が増え、夫と妻の学歴が強い相関関係を持っていることから、「高所得の夫と高所得の妻」対「低所得の夫と低所得の妻」という世帯の所得格差が拡大していることを指摘しています。一方、第4章で盛山和夫氏は、階層再生産拡大説に対して疑問を呈し、東大生の親の平均年収が普通のサラリーマンを大きく上回り1000万円を超えている、という話に対して、学生の親の多くが収入のピークである50代である点、昔の状況との比較が行われていない点、平均値を「最低条件の数値」と読み間違っている点、という統計的な錯覚を指摘しています。
 「第2部 各視点から見た格差と階層差」では、教育や若者、ジェンダー、消費等の様々な視点から見た日本の社会各層について論じています。教育に関する第6章で苅谷剛彦氏は、「調べ学習」や「グループ学習」などへの関わり方に、家庭の文化的環境による影響がある点を指摘しています。また第7章で玄田有史氏は、バブル経済の崩壊が、首都圏を中心に雇い人を抱えながら事業を営んでいる40代を中心とした人々の所得に打撃を与えたことを指摘しています。
 「第3部 社会階層・格差と社会のあり方 活力ある社会のために」では、規制改革や国民意識の観点から公平性や所得格差について論じています。第11章で八代尚宏氏は、多くの規制改革の分野で効率性と公平性は両立することを論じています。
 様々な分野から、日本社会の階層化の問題について議論が活発になっている中で、本書は、様々な視点から問題を見るイントロダクションとして有効ではないかと思われます。


■ 個人的な視点から

 本書の財務総研やRIETIなど、官庁系のシンクタンクは何か話題になった社会問題があると、その問題に関係しそうな各界の「第一人者」を集めた研究会をよく立ち上げます。本書もそうした研究会の一つである「社会階層・意識に関する研究会」の成果をまとめたものということになります。
 このようなやり方で本を作ると、どうしても各分野の寄せ集めてきな散漫な印象を与えるものになってしまいますが、見方を変えて、あくまでこれは多くの研究分野のショーケースと割り切ってしまえばこれほど便利なものはありません。
 なまじ新書から読み始めるよりも、参考文献がしっかりしているので結果的には早道ではないかと思われます。


■ どんな人にオススメ?

・日本の社会階層の問題についての概説書が欲しい人。


■ 関連しそうな本

 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』
 佐藤 俊樹 『不平等社会日本―さよなら総中流』 2005年03月22日
 橘木 俊詔 『日本の経済格差―所得と資産から考える』
 橘木 俊詔, 斎藤 貴男, 苅谷 剛彦, 佐藤 俊樹 『封印される不平等』
 佐藤 俊樹 『00年代の格差ゲーム』


■ 百夜百マンガ

アウトランダーズ【アウトランダーズ 】

 日本のSF漫画の名作の一つです。
 宇宙戦争を巻き込んだ『うる星やつら』という感じもしないではありませんが、現代のオタクに通じる要素が全部盛り込まれています。

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