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2006年3月

2006年3月31日 (金)

チャーター・スクール―アメリカ公教育における独立運動

■ 書籍情報

チャーター・スクール―アメリカ公教育における独立運動   【チャーター・スクール―アメリカ公教育における独立運動】

  鵜浦 裕
  価格: ¥3,465 (税込)
  勁草書房(2001/06)

 本書は、「学校選択とまず通学区指定の公立校に行かないこと」を可能にするための手段の一つとして、アメリカの公教育の試みの一つであるチャーター・スクール制度について、サンフランシスコ統合学区の独立校の実例を紹介しているものです。
 アメリカの公教育が機能不全に陥った中で、保守派や財界からは、
(1)州の教育コード、各学区の過剰な規制が現場教員の創意工夫を妨げる。
(2)学区オフィスの官僚主義的管理が教育現場に非効率をもたらす。
(3)教員組合が無能な教員を蔓延らせている。
(4)学区オフィスが公立校を従属させ、公教育を独占している。
という点が槍玉に挙げられてきました。そして、彼らが主張する改善案には、公教育の独占状態を廃止するために学区システムに「競争・選択」の原理を導入し、一種の公教育市場を作り出すという共通点があったことが述べられています。
 本書では、テッド・コルデリーによって体系化されたチャーター・スクールの基本概念が紹介されています。
(1)学校は複数の当事者によって組織、所有、運営される。
(2)組織者はチャーターのために二つ以上の公共機関に申請できる。
(3)学校は法人格をもつ。
(4)学校は公立である。つまり、非宗教的、授業料なし、入学者を選抜しない、厚生・安全にかんする法にしたがう。
(5)学校は生徒の学業成績に責任を負う。その目的を達成できなければ、チャーターを失う。
(6)学校は制度上、運営上の慣習から自由である。
(7)学校は選択される学校である。いかなる生徒も入学を強制されない。
(8)州は学校予算の正当な部分を生徒の学区からチャーター・スクールへ委譲する。
(9)新しい学校の設計に参加する場合、教員は恩給の権利を残したまま本務校から出校許可を受ける。
 本書では、サンフランシスコ統合学区の事例として、
・クリエイティブ。アーツ・チャーター・スクール
・ゲイトウェイ・ハイスクール
・ライフ・ラーニング・アカデミー
・リーダーシップ・ハイスクール
・エジソン・チャーター・アカデミー
の5つのチャーター・スクールと、
・テンダーロイン・コミュニティ・スクール
というNPO(ベイ・エリア・ウィメンズ・アンド・チルドレンズ・センター)が支援する公立校が紹介されています。
 これらの事例の中で、父母が教育を含めて運営するというタイプのチャーター・スクールの特徴が、第一世代の頑張りが父母の世代交代に伴いどこまで続くかという問題を抱えていることが述べられています。
 また、多くのチャーター・スクールが共通して抱える問題として、資金の問題を抱えていることや、報告書の提出など官僚的な作業が多く、NPOや父母にとっての負担となっていることが指摘されています。
 一方で、成績不振の公立小学校を、営利企業が支援するエジソン・プロジェクトに対する教育委員からの反発なども紹介されています。ただし、このプロジェクトに関しては、「公教育の民営化」というよりも「民間支援」という表現の方がふさわしいと述べられています。
 本書は、まだ日本では耳慣れない制度であるチャーター・スクールをしるガイドブックとして手頃なものではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書で印象に残ったのは、「起業家」ならぬ「起校家」という言葉です。閉鎖された独占市場であった公教育の分野に、熱意を持った若い起校家が新しいアイデアを携えて参入してくる、という図式はやはり希望を持たせてくれるものです。


■ どんな人にオススメ?

・新しい公教育に関心がある人。


■ 関連しそうな本

 金子 郁容 (編著), 玉村 雅敏, 久保 裕也, 木幡 敬史(著) 『学校評価―情報共有のデザインとツール』 2005年02月25日
 金子 郁容, 渋谷 恭子, 鈴木 寛 『コミュニティ・スクール構想』
 藤原 和博, 天野 一哉 『民間校長、中学改革に挑む』
 藤原 和博 『公立校の逆襲 いい学校を作る!』 2005年06月17日
 小塩 隆士 『教育を経済学で考える』 2005年02月13日


■ 百夜百マンガ

オバタリアン【オバタリアン 】

 「オバタリアン」とか「オヤジギャル」とかという言葉が流行りましたが、最近はさすがに使う人もいませんね。
 すっかり定着していましたが、「バタリアン」自体はホラー・コメディの名作だということはどれくらい認知されているのでしょうか。

2006年3月30日 (木)

女性たちの平成不況―デフレで働き方・暮らしはどう変わったか

■ 書籍情報

女性たちの平成不況―デフレで働き方・暮らしはどう変わったか   【女性たちの平成不況―デフレで働き方・暮らしはどう変わったか】

  樋口 美雄, 太田 清, 家計経済研究所 (編集)
  価格: ¥1,890 (税込)
  日本経済新聞社(2004/04)

 本書は、結婚や離婚、結婚しても外で働き続ける、子供を生まない等、女性のさまざまな「選択肢」が平成不況によってどのような制約を受け、何が選択され、その結果はどうなったのか、について、「パネル調査」という手法によって分析したものです。この「パネル調査」とは、生活習慣病の調査やマーケティング、世論調査などに使われる「複数の人(調査対象)を長年にわたって追跡調査したもの」です。本書では、財団法人家計経済研究所が実施してきた「消費生活に関するパネル調査」によって得られた統計データを使用しています。
 家計全般に関しては、デフレ不況が家計に与えた影響としては、住宅ローンなどの実質の負債額が増大したことに加え、上の世代のように年齢に応じて実質所得が伸びなくなっていることにより、ローンの重圧感が増していることが指摘されています。
 女性の就業行動への平成不況の影響については、「均等法成立以前に学校を卒業し就職した世代」と「均等法世代」、「バブル崩壊後世代」の3つの世代を比較しています。ここで指摘されているのは、均等法や育児・介護休業法がそれなりの効果をあげている一方で、その成果が必ずしも大多数の女性によって享受されていないことが指摘されています。また、賃金格差の是正や育休法などの法制度適用労働者の範囲拡大など、正社員と非正規労働者の均衡是正の強化の必要性が指摘されています。
 また、世間に浸透している「優雅なパラサイトシングル」の現実についても、結婚選択者と未婚継続者との性格特性の比較において、結婚選択者が社交性の高い傾向(「いろいろな人と付き合うのは好き、話していると楽しい」など)にあるのに対し、未婚継続者は、精神的負担があると回答する割合が相対的に高い(「仕事が多すぎて、睡眠不足に思う」、「精神的ストレスが多い」、「取り越し苦労する方だ」、「朝早く目覚めて、気分が重い」など)ことが指摘されています。
 出産・子育ての世代間の差異に関しては、主観的な年齢可変子育て費用が、最適出産年齢を考えていた年を越えることで増加し、子育ての純便益を上回ることが、「若いうちは子を欲しかった人が、あきらめにかわり、産みたくなくなってしまう」メカニズムとして解説されています。これらの分析を踏まえ、子育て環境の整備に関して以下の4点が挙げられています。
(1)特に若い世代での出生率低下には、人々が「子供の数」を少なく生んでいるからではなくて、「生まない」という選択の結果が反映している。
(2)出生力の低下には、人々の意識だけでなく、所得環境や就業環境、あるいは仕事と子育ての両立支援に関する法律や制度の整備など、社会経済環境の変化が大きく影響している。
(3)バブル崩壊後世代ほど出産前後で仕事を辞める女性の割合が高い。
(4)夫の家事・育児や両親との同居が出産確率を高めて子供の数を増やすが、その効果はとくにバブル崩壊後世代で顕著である。
 結婚、出産、離婚というイベントが所得に与える変化に関しては、結婚前後で所得が(増減ともに)大きく変わる女性が多いこと、出産の前後で所得が減少する人が多くこと、離婚で所得が減少する人が多く、4人に1人は半分以下になる人がいることなどが指摘されています。
 この他、デフレによる家計への影響、特に住宅ローンの負担の増加や、所得階層の固定化、「デプリベーション(標準的生活様式からの脱落)」等に関して分析されています。
 本書は、少子化問題を考える上で、子供を育てやすい社会をつくるにはどのような政策が必要か、というインプリケーションを与えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 少子化対策というと、子供を産み育てることが正しいことであることを前提にしたような議論が目につきます。どのような選択を行うかは個々人の価値観によるものであるので、一方的な価値観の押し付けにならないかは心配です。
 本書で示されているライフコース類型別生活満足度では、「結婚-就業継続」型の生活満足度が最も高い趨勢を示している一方で、「未婚-離職」型の生活満足度が最も低いという結果が出ています。これも情報の一つではありますが、やはり、結婚や出産をしても働き続けられる環境の整備は重要なのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・平成不況が家計に与えた影響を捉えておきたい人。


■ 関連しそうな本

 佐野 陽子, 志野 澄人, 嶋根 政充 (編著) 『ジェンダー・マネジメント―21世紀型男女共創企業に向けて』 2005年12月06日
 ロザベス・モス カンター (著), 高井 葉子 (翻訳) 『企業のなかの男と女―女性が増えれば職場が変わる』 2005年10月11日
 赤岡 功, 長坂 寛, 渡辺 峻, 筒井 清子, 山岡 煕子 『男女共同参画と女性労働―新しい働き方の実現をめざして』 2005年09月08日
 佐藤 博樹, 武石 恵美子 『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』 2005年04月07日
 白波瀬 佐和子 『少子高齢社会のみえない格差―ジェンダー・世代・階層のゆくえ』 2006年03月10日
 山田 昌弘 『希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』 2006年01月11日


■ 百夜百マンガ

燃える!お兄さん【燃える!お兄さん 】

 担任の先生が「用務員」になって主人公にバカにされる話という言葉に自治労大阪府本部が抗議して回収騒ぎとなったことで有名な作品です。
 今なら「萌えるお兄さん」というパロディを書いてる人もきっといることでしょう。

2006年3月29日 (水)

最適都市規模と市町村合併

■ 書籍情報

最適都市規模と市町村合併   【最適都市規模と市町村合併】

  吉村 弘
  価格: ¥3,570 (税込)
  東洋経済新報社(1999/12)

 本書は、「地域経済学、都市経済学、公共経済学の中で、地方財政の観点からみた最適都市規模ないし都市集積の経済性に関する実証研究である」とされています。そのため、本書の内容は、あくまで経済学的な観点からであることに留意して読む必要があるといえます。
 まず、都市規模と自治体の職員数に関しては、一定の都市規模までは人口当たり職員数が低下するものの、ある点からは再び職員数が増加することが示されています。すなわち、ある規模までは規模の経済が働く一方で、ある規模以上からは規模の不経済が働くことが示されています。このある規模とは、市町村全体としては、「都市規模20万人程度の都市で人口当たり職員数は最小となり、人口1000人当たり職員数の最小値は7.5人程度」になることが示されます。
 また、人件費に関しては、市部においては、「人件費の観点から見ると、最適都市規模は人口27万~29万人」であることが示される一方、町村部においては、現実的には規模の経済のみが働くことが示されています。
 都市規模と歳出に関しては、口当たり歳出額が「下に凸型」に働くものとして、歳出総額、民生費など多くの歳出項目が当てはまり、最適な人口規模が存在することが示される一方で、「右下がり型」、すなわち規模の経済が働き続けるものとして、議会費、労働費、農林水産業費、等が示されています。また、「右上がり型」としては、災害救助費が、また傾向性がないものとして、児童福祉費が示されています。これらを踏まえた上で、市部においては、「歳出からみた最適都市規模は人口20万人程度」であることが示されています。
 さらに細かく歳出指標を見ていくと、市については、「歳出総額、人件費、基準財政需要額からみる最適都市規模は、それぞれ21万人、27万1000人、27万8000人」であること、「財政力指数、基準財政不足額、財政総額/地方税比率からみた最適都市規模は、それぞれ31万人程度、30万3000人、29万7000人程度」であることが示されています。
 本書は、あくまで経済学的な観点から、という留保条件付ですが、市町村の規模について議論する上で有用な情報を提供しているものであり、これをありがたがって金科玉条のように用いるものでもなければ、机上の計算だといって無視するようなものでもないと思います。


■ 個人的な視点から

 今月は「平成の大合併」の最後のピークに当たり、258の市町村が85市町に再編されるそうです。

「合併:36道府県の258市町村、計85市町に再編 3月」(毎日新聞)
http://tinyurl.com/j338j

 結局、合併特例債などの財政優遇措置が今年の3月まで延長されたためですが、合併の構想が破綻した市町村も数多くあります。
 そのため、合併特例債を当てにして過大な投資を行ってしまった団体では、職員給与の大幅カットなど苦しい財政運営を余儀なくされているようです。
 一方で、合併特例債に対する交付税による優遇措置を当てにして合併した市町村にとっては、近年の交付税の削減によって、「うまみ」が無くなりこちらも財政運営が苦しくなることが予想されています。まるで、給料が上がり続けることを前提に住宅ローンを組んでいたのに、給与体系が変わって返済が苦しくなったサラリーマンのようです。


■ どんな人にオススメ?

・市町村合併を考えるデータを必要としている人。


■ 関連しそうな本

 佐々木 信夫 『市町村合併』 2006年03月27日
 谷川 健一 『日本の地名』 2005年07月10日
 出口 将人 『組織文化のマネジメント―行為の共有と分化』 2006年01月24日
 神野 直彦 『地域再生の経済学―豊かさを問い直す』
 市町村自治研究会 (編集) 『新旧見開き対照 平成の市町村合併早わかりMAP』


■ 百夜百マンガ

宮本から君へ【宮本から君へ 】

 『みのり伝説』と並んで嫌なマンガの筆頭に上げる人の多い作品です。この作品で味をしめた(?)作者はこの後も賛否両論を呼ぶ作品を発表し続けます。
 ちなみに、主人公の「宮本 浩」はエレカシからですね。

2006年3月28日 (火)

産廃コネクション―産廃Gメンが告発!不法投棄ビジネスの真相

■ 書籍情報

産廃コネクション―産廃Gメンが告発!不法投棄ビジネスの真相   【産廃コネクション―産廃Gメンが告発!不法投棄ビジネスの真相】

  石渡 正佳
  価格: ¥1,680 (税込)
  WAVE出版(2002/11)

 本書は、産業廃棄物の不法投棄に立ち向かう現職の県職員が、不法投棄の背景にある産廃ビジネスの利権構造を根掘り葉掘り明らかにしたものです。著者は、「正規の処分場じゃぜんぜん足りないだろう。俺たちがいなかったら誰がゴミを片すんだ」と開き直る不法投棄業者が悪いことはもちろんだが、不法投棄を生み出しているのは歪んだ産廃処理システムそのものにあると指摘しています。
 公式に発表されている年間40万トンという不法投棄の発生量(産廃総排出量の0.1%)に対し、著者は、処分場不足が必要量の1割としても4000万トンに上る、と概算しています。また、深刻な最終処分場不足からオーバーフローした産廃がアウトロールートに流れていることが述べられています。著者は、「マニフェスト」(産業廃棄物管理票)、「保積(ほづみ)」(積替保管場)、「一発屋」(無許可ダンプ)、「まとめ屋」(一発屋を確保するブローカー)など、産廃処理に関わる複雑な処分ルートとその相場が明らかにしています。
 本書は、「産廃銀座」と呼ばれる不法投棄常習地帯の発生プロセスを次の5段階で表しています。
(1)最終処分場の建設とそれを巡る利権の争奪戦
(2)自社処分場の乱立
(3)偽装自社処分
(4)「穴屋」(プロの不法投棄業者)による組織的な不法投棄
(5)「産廃銀座」のうまみに一発屋や穴屋が集まりゲリラや捨て逃げが横行
 本書には、産廃ビジネスに登場するさまざまな登場人物が紹介されています。
 「穴屋」にはさまざまな手口、やり口があることが紹介されていますが、他の不法投棄業者と異なり、穴屋には現場を持っているという弱点があります。そこで、警察の検挙を逃れるための見張り役の重要性や複数の捨て場を連携させた捜査の撹乱まで、プロの手口が紹介されています。
 また、産廃業者の世界は、多くは、一匹狼で産廃を運ぶ「一発屋」からスタートし、いつかは成り上がって最終処分場を持つという産廃ドリームがあることが紹介されています。しかし、同時に、ほとんどのダンプは産廃の荒海に飲まれ、次の段階である会社の企業までたどり着くことができるダンプがわずかしかないという厳しさも述べられています。
 この他、不法投棄の中継地点ともなりうる「保積」や中間系自社処分場、解体業者など、さまざまな登場人物が紹介されていますが、本書が魅力と説得力を持っているのは、これらの登場人物を、単に違法な行為を繰り返す「悪役」として描くのではなく、それぞれが人生を背負って汚い仕事に手を染めていることを当事者の事情を理解した上でその動機を述べていること、そして、それを徹底した産廃ビジネスの財務分析が支えていることです。
 本書はこの他、産廃処理システムが抱えるさまざまな矛盾と、それを利用した産廃ビジネスの手口を紹介していますが、内部事情に精通していることはもちろん、どの記述も現場の経験と、当事者の立場に立脚した解説であることが、迫力を生み出しています。


■ 個人的な視点から

 それまで、不法投棄やその取り締まり、火災の発生などスポット的な事件や環境問題の一つとして報道されることの多かった産廃の問題を、そこに存在するビジネスの観点からメスを入れた本書は、産廃行政に与えたインパクトが大きかったと思います。
 他の問題でも、表面的な問題と対処療法に光が当たることが多いですが、当事者の立場に立って経済的なインセンティブを捉えるという本書のアプローチはより本質的な問題解決に有効ではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・産廃ビジネスのからくりの概要を把握したい人。


■ 関連しそうな本

 石渡 正佳 『産廃ビジネスの経営学』
 石渡 正佳 『不法投棄はこうしてなくす―実践対策マニュアル』
 石渡 正佳 『リサイクルアンダーワールド―産廃Gメンが告発!黒い循環ビジネス』
 石渡 正佳 『スクラップエコノミー なぜ、いつまでも経済規模に見合った豊かさを手に入れられないのだ!』
 下野新聞「鹿沼事件」取材班 『狙われた自治体 ゴミ行政の闇に消えた命』 2006年2月8日
 リチャード・C. ポーター (著), 石川雅紀, 竹内 憲司 (翻訳) 『入門 廃棄物の経済学』


■ 百夜百マンガ

科学少年01くん【科学少年01くん 】

 「眼鏡っ娘萌え」ならぬ「眼鏡&白衣男子萌え」で有名な作者の初期短編集です。
 「マックス・ヘッドルーム」っぽい表紙や、「アルパネット」なんてのが出てきてしまうところに時代を感じてしまいます。
 電波から怪獣からリリカルまで作者の原点はここにあります。

2006年3月27日 (月)

市町村合併

■ 書籍情報

市町村合併   【市町村合併】

  佐々木 信夫
  価格: ¥735 (税込)
  筑摩書房(2002/07)

 本書は、財政的な優遇措置の締め切り(2005年3月、当時)が迫り、「バスに乗り遅れまい」と合併に駆け込もうとする前に、いったん立ち止まって考えてみることを促しているものです。著者は、市町村合併を、「それぞれの市町村の団体としての自治的側面から、そして住民の自治としての自治的側面から見たサイズをどうしていくかという、地域自治のあり方を決める重要な問題」であると、その重要性を説いています。
 著者は市町村合併の歴史を振り返る中で、日本の地方行政の特徴として、
(1)地方自治体が規模を変えながら行政サービスを充実させてきたこと。
(2)国の指導力に自治体が協力する形で地域振興を図ってきたこと。
(3)高度成長期・バブル経済期の潤沢な財政状況を反映して地方単独事業を拡大させてきたこと。
の3点を指摘しています。
 また、市町村合併の背景として、政府は、(1)各自治体の「自治能力」の向上、(2)少子高齢化への対応、(3)新しいまちづくりのチャンス、(4)行革のチャンス、という4点を挙げているのに対し、著者は、より大きな背景として、
(1)行政上つくられた行政圏と実際上生活している生活圏との乖離。
(2)国、地方に共通した深刻な財政危機下にあって、効率的な財政運営の要求。
(3)中央集権から地方分権へのシステム転換に向けたスケールメリットの要求。
の3つの潮流を指摘しています。
 本書が良く引用される点としては、自治体の適正規模に関する試算を行っている点です。著者は、新しい自治体の規模を捉える視点として、(A)都市経営の単位、(B)行政経営の単位、(C)自治政治の単位、の3つが重なり合う部分を自治体の最適規模と考え、まず都市経営の規模として、サービスごとの損益分岐点を、
・消防行政・・・10万人
・ダイオキシンの発生しない清掃工場の維持・・・10~30万人
・介護サービスの供給・・・20万人
・ベッド数500の病院経営・・・20万人
とし、さらに、一人当たりの歳出額は10~30万人が効率的とされることから、理論値としては、15万人~30万人規模が適正ではないかとしています。また、行政経営の規模に関しては、専門性を高めうる職員の規模として、1万人未満の自治体(職員100人余)ではほぼ不可能、企画的な仕事を専門的に行うには500人以上の職員が、各種専門職をそろえるには1500人以上の体制が必要と試算しています。
 また、合併のパターンを、
(1)制度の活用重視・・・政令市や中核市、「市」制度の適用を目指すパターン
(2)県の指針重視・・・政府の市町村合併研究会のガイドラインや県が示した合併パターンに沿った合併を図るパターン
(3)地域づくり重視・・・地域活性化の視点から合併を構想するパターン
の3つに場合分けして論じています。
 この他、市町村合併の方式(新設合併と編入合併)の違いや、合併に対する財政支援が歪んだ合併を促進していしまうことへの懸念を示し、合併の効果(政治機能の一元化、住民の利便性の向上、サービスの高度化・多様化、広域的なまちづくり・イメージアップ、行財政の効率化)と住民の不安(住民の利便性に欠ける、中心地ばかりが栄える、政治や行政が遠くなる、行財政の効率化が進まない)のそれぞれについて丁寧に解説しています。
 本書は、まだ4年前に出版されたものであるにもかかわらず、今までずいぶん長い間このような議論をしてきたようにも感じます。それほど、ここ数年の合併を巡る動きがあわただしかったと言えるのではないでしょうか。


■ 個人的な視点から

 本書の第5章では、自治体と自治体職員に求められる能力として次の3点を挙げています。
(1)経営能力・・・政策過程全体をうまく組織化し、運営し、良好な結果を生み出せる能力
(2)政策能力・・・政策目的の明示、政策手段の構想、政策資源の調達、実施体制の明示、利害関係者への対応
(3)評価能力・・・決定段階から、実施段階、実施結果段階までの政策評価
 また、府県制度改革に関しては、
(1)連邦制への移行
(2)道州制の選択
(3)地方庁
の3つの選択肢を示しています。
 さて、本書でツボにはまったのは、合併によって政治や行政が遠くなる、という声に関して、「不思議なことに普段それほど頻繁に役所に通う用事もないのに、合併の議論をすると必ずこうした議論が持ち出される。」と言う何気ない一言でした。では、役所が便利ならばそれでいいのでしょうか。もちろん、役所が便利な場所にあって、対応も丁寧で笑顔溢れてるのが悪いとは思いませんが、本来目指すべきは、役所に出向いていかなければならないような手続きはできるだけ少ない方がいいこと、役所の存在を意識しなくてもサービスを受けられることではないかと思います。電力会社もNTTも、直接出向かなければならないような用事なんてめったにありませんよね?


■ どんな人にオススメ?

・財政的な理由だけが議論される市町村合併に疑問を感じる人。


■ 関連しそうな本

 吉村 弘 『最適都市規模と市町村合併』
 谷川 健一 『日本の地名』 2005年07月10日
 出口 将人 『組織文化のマネジメント―行為の共有と分化』 2006年01月24日
 神野 直彦 『地域再生の経済学―豊かさを問い直す』
 市町村自治研究会 (編集) 『新旧見開き対照 平成の市町村合併早わかりMAP』


■ 百夜百マンガ

宇宙戦艦ヤマト【宇宙戦艦ヤマト 】

 最近は車検屋さんの看板で目にすることが多くなったヤマトですが、昔は中学校のブラバンの定番曲でもありました。作曲者追悼ということで。

2006年3月26日 (日)

火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者

■ 書籍情報

火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者   【火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者】

  オリヴァー サックス (著), 吉田 利子 (翻訳)
  価格: ¥2,625 (税込)
  早川書房(1997/03)

 本書は、脳神経科医である著者が出会った、不思議な体験を持った患者との交流を描いたエッセイです。
 本書に登場するのは、事故や先天的な障害などで、常人と異なる能力や感覚を身につけた人たちです。
 自動車事故で脳震盪を起こしたグラフィックデザイナーは、見るものが全て白黒テレビのように「色」が失われ、代わりに視力がワシのように鋭敏になってしまいました。「絵が描けないなら、生きていても仕方がないと思っていた」という彼は、自分が全色覚異常であることを受け入れ、白と黒だけで一日15時間以上もアトリエで絵を描き続け、芸術家として生き延びます。
 グレイトフル・デッドの大ファンだった若者は、巨大な脳腫瘍によって、視力と側頭葉の記憶システムを失い、60年代に置き去りにされた「最後のヒッピー」になってしまいます。1964年から68年までの歌を鮮明に記憶しているのに、ロン・"ピッグペン"・マッカーナン、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリンらが故人となってしまったことは知らないのです。著者は、父の子に直面して落ち込んでいる彼を、大ファンだったグレイトフル・デッドのコンサートに連れて行くことに決めました。マディソン・スクエア・ガーデンの熱狂した観客の一人として、古い曲を一緒になって夢中に歌った彼は、帰りに「今日のことは決して忘れないよ。人生で最高の日だった」と語ります。
 幼い頃に見た、故郷の詳細な記憶、寝ても覚めても現れる精密な模型のような故郷の映像に押しつぶされそうになった患者は、そのイメージを筆をとって写し取り始めます。この絵によって、画家として名を成した彼が、現実の廃墟のような故郷に戻る場面には胸が締め付けられます。
 本書のタイトルとなっている「火星の人類学者」とは、自閉症のハンディキャップを自ら冷静に書き綴った自伝である『我、自閉症に生まれて』で知られるテンプル・グランディンの言葉にちなんでいます。著者は初めてこの自伝を読んだ時に、本人ではなくジャーナリストによって書かれたものではないかと疑ったと述べていますが、このことは著者が彼女に会ってから、半分正しかったことがわかります。つまり、彼女の中には、自分自身を含めて人間社会を観察する人類学者が存在していることがわかったからです。彼女はこの感覚を、自分は火星から送られてきた人類学者のようなものだ、と表現しているのです(このことは、本章の中で紹介されている、自閉症の家族が語る「わたしたちは、輸送機関で一緒に地上に下ろされたんです」という言葉にも現れています。)。彼女は、人間社会の細やかな社会的な行動である、ほのめかしや過程、皮肉、比喩、冗談がわからない代わりに、自分の中に「膨大な経験のライブラリー」を作り上げ、見たものに関連付けて参照していくと述べています。彼女は、自分を、「脳をモジュラーとして、多数のそれぞれ独立した演算能力あるいは『知性』の集合として考える」という見方を持っています。そして、彼女を駆り立てるのは、「自閉症一般を説明する理論を見出したい、すべての症例、すべての現象に当てはまる理論を見出したいという思い」と、「自分の障害の多様な面、修正不可能な、複雑で自分でも予測のつかない部分や、他の自閉症のひとたちのさまざまな現象を見つめている彼女の現実的、経験的な部分」の2つであることが語られています。
 本書が持つ、「奇妙な患者」の不思議な体験自体のインパクトも大変大きなものですが、それ以上に、著者が一人ひとりの患者の身になって、感じている不安や喜びを自分のことのように語る筆致に引き込まれる部分が大きいと思います。


■ 個人的な視点から

 よくマンガで、盲目の少女が手術によって初めて外の世界を見ることができるようになったときに、献身的に看病を続けてくれたハンサムな恋人やダンディな先生が、想像とは異なる不細工な顔だった、というギャグがありますが、実際には視覚があることと物が見えることとは異なるということが、本書で紹介されている、数十年ぶりに光を取り戻した患者の体験を通じて知ることができます。かれは、視覚として入ってくる情報と現実の物との関連付けをすることに大きなストレスを覚え、盲目のときには自信を持って歩くことができた階段を、目が見えることでかえって登れなくなってしまいます。
 結局彼は、ストレスから来る症状によって、再度光を失うのですが、著者はこのことを、「救いが与えられ」、「盲目を彼は贈り物のように受取った」と述べています。何だか、寓話のような教訓めいた話に感じます。


■ どんな人にオススメ?

・自分が普段見ている世界が誰にとっても当たり前のものだと思っている人。


■ 関連しそうな本

 オリヴァー サックス (著), 春日井 晶子 (翻訳) 『レナードの朝』
 脳のなかの幽霊 『V.S. ラマチャンドラン, サンドラ ブレイクスリー (著), 山下 篤子 (翻訳)』
 ブライアン バターワース (著), 藤井 留美 (翻訳) 『なぜ数学が「得意な人」と「苦手な人」がいるのか』 2005年11月13日
 ジェフ・ホーキンス, サンドラ・ブレイクスリー (著), 伊藤 文英 (翻訳) 『考える脳 考えるコンピューター』 2005年12月17日
 前野 隆司 『脳はなぜ「心」を作ったのか―「私」の謎を解く受動意識仮説』
 スティーヴ・グランド 『アンドロイドの脳 人工知能ロボット"ルーシー"を誕生させるまでの簡単な20のステップ』 2006年01月28日


■ 百夜百音

BEGIN シングル大全集【BEGIN シングル大全集】 BEGIN オリジナル盤発売: 2005

 今ではすっかり5弦ギターの「一五一会」の人になってしまった丸い顔の人ですが、イカ天に出たときの「恋しくて」はどう聴いても松田聖子の「Sweet Memories」のパクリに聴こえました。
 ちなみに作曲者の大村雅朗氏は1997年に46歳の若さで亡くなられています。(参考 http://www32.ocn.ne.jp/~ebinapage/index.html)


『Sweet Memories '93』Sweet Memories '93

2006年3月25日 (土)

詭弁論理学

■ 書籍情報

詭弁論理学   【詭弁論理学】

  野崎 昭弘
  価格: ¥693 (税込)
  中央公論新社(1976/01)

 本書は、なんとなく言い負かされてしまう「強弁」や「詭弁」のロジックを、会話の事例をふんだんに用いて楽しく読みやすい形で解きほぐしているものです。
 著者は、議論の修行(反省と観察)の中で、「議論に強いからといって、頭がよいとは限らない」という真実に気づきます。「昔から『無学者、論に負けず』というように、相手のいうことなどまるでわからない(わかろうとしない?)石頭のほうが、えてして自分のいいたいことを押しとおしてしまったりする」のだそうです。著者はこの例として、古典落語の「粗忽長屋」やフーテンの寅さんと義弟の博の会話を引用しています。
 著者は、理屈抜きの「押しの一手」を「強弁」とする一方で、「多少とも論理や常識をふまえて『相手を丸め込む(あるいはごまかす)』」ことを「詭弁」として区別しています。「詭弁」が詐欺・窃盗なら「強弁」は強盗、という喩えはわかりやすいものです。
 先の「粗忽長屋」や寅さんのようなパターンは、「小児型強弁」と名づけられています。このタイプの厄介なところは、本人にそのつもりがないという点にあり、その原因として、(A)自信が強すぎる、(B)好き嫌いの感情が強すぎる、(C)他人に対してきわめて無神経である、の3点を挙げています。
 また、権力者たちが使う、やや詭弁術に近い強弁術として、「二分法」を取り上げています。これは、「人々や考え方などを、ある原理的な基準で二つに分けてしまう考え方」を指し、本書では、中世ヨーロッパの魔女狩りにおける強弁術と詭弁術を駆使した魔女裁判のプログラムを紹介しながら、現代においても「××主義者」などのレッテルによって相手の発言を封じる二分法が使われていることを指摘しています。
 この他の強弁術としては、「確かにそうだがお前だって○○だろう」と重箱の隅をつついて相手の言い分を帳消しにする「相殺法」や、「他の人もやってるのになぜ自分だけ捕まえるのか」という「公平の原則」等を紹介した上で、強弁術の要諦を、
(1)相手のいうことを聞くな。
(2)自分の主張に確信を持て。
(3)逆らうものは悪魔である(レッテルを利用せよ)。
(4)自分のいいたいことを繰り返せ。
(5)おどし、泣き、またはしゃべりまくること。
の5点にまとめています。
 本書のタイトルである、詭弁に関しては、強弁と厳密に区別することは難しいとしながらも、二分法に関しては、「有無をいわさず押しつけるのが強弁だとすれば、『何となくその気にさせる』のが詭弁である」としています。また、相殺法に関しては、水俣病の原因物質がはっきりしない時に、日本化学工業協会から「敗戦のときに旧軍隊が水俣湾に捨てた爆薬が原因かもしれない」という珍説が出された話が紹介されています。
 詭弁の具体的なロジックとしては、三段論法の落とし穴としての、「否定二前提の虚偽」、「不当肯定の虚偽」、「特殊二前提の虚偽」、「媒概念曖昧の虚偽」、「四個概念の虚偽」などの具体例が示されています。
 著者は、詭弁術に押されたり、自らが詭弁を操ったりしないための心構えとして、以下の4つの原則を示しています。
・原則1:無理やり説得しようとするな。
・原則2:時間を惜しむな、打ち切るのを惜しむな。
・原則3:結論の吟味を忘れるな。
・原則4:「わからない」ことを恥じるな。
 本書は、「詭弁」という気づかないうちに陥りやすい落とし穴を、気づかせてくれるきっかけとなる一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 自らを「気が弱い」とか「議論が苦手」と思っている人は結構います。ついつい相手に言いくるめられてしまうけれども、後から考えると、どうも腑に落ちない。でも後の祭りで、自分の性格のせいにしてしまうことはないでしょうか。しかし、相手のロジックをよく観察してみると、腑に落ちない理由が納得できるかもしれません。本書は、そんな実例、特に著者自身が言い負かされてしまった実例を後からあれこれ分析しているところに好感を持てます。つまり、論理的に考えられることと、人に言いくるめられないことは必ずしもイコールでないのです。そう思って読んでみると気楽に読めると思います。


■ どんな人にオススメ?

・「自分は議論が苦手だ」と思い込んでいる人。


■ 関連しそうな本

 マックス H・ベイザーマン (著), マーガレット A・ニール (著), 奥村 哲史 『マネジャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋』 2005年07月04日
 印南 一路 『ビジネス交渉と意思決定―脱"あいまいさ"の戦略思考』 2005年6月28日
 ウィリアム・L. ユーリ, ステファン・B. ゴールドバーグ, ジーン・M. ブレット (著), 奥村 哲史 (翻訳) 『「話し合い」の技術―交渉と紛争解決のデザイン』 38610
 鈴木 有香 (著), 八代 京子(監修) 『交渉とミディエーション―協調的問題解決のためのコミュニケーション』 38625
 フランク・W・アバグネイル (著), 高橋 則明 (翻訳) 『華麗なる騙しのテクニック 世界No.1の詐欺師が教える』
 A・K・デュードニー (著), 田中 利幸 『眠れぬ夜のグーゴル』 2005年12月25日


■ 百夜百音

春咲小紅【春咲小紅】 矢野顕子 オリジナル盤発売: 1981

 江口寿史マニアの皆さんは「♪ほ~ら春咲小蟹♪」と思い浮かべるのですが、1981年当時は、「♪ほ~ら春先神戸に♪」の方を思い浮かべる人が多かったのではないかと思います。そうです。春先にポートピアを見に行きましょう。「THE官営空港」を使って。・・・と言っても当時は空港はありませんでしたが。
 本当のテーマソングはゴダイゴが歌ってました。


『ベスト・アルバム ゴダイゴ』ベスト・アルバム ゴダイゴ

2006年3月24日 (金)

現代日本の「見えない」貧困―生活保護受給母子世帯の現実

■ 書籍情報

現代日本の「見えない」貧困―生活保護受給母子世帯の現実   【現代日本の「見えない」貧困―生活保護受給母子世帯の現実】

  青木 紀
  価格: ¥2,940 (税込)
  明石書店(2003/08)

 本書は、主に北海道における生活保護を受給している母子家庭のインタビューやアンケート調査を通じて、親が追っている経済的・社会的な不利が子供の不利としていかなる形で「再生産」されるのかを実証分析したものです。本書のタイトルである「見えない」貧困とは、1つには、メディアで取り上げられやすいホームレスの人々と異なり、生活保護受給家族や児童扶養手当を必要とする家族の貧困が地域社会のメインストリームからは潜在化されて存在していること、もう一つには、彼らが抱えている生活困難・貧困は、家族の頑張りで克服されるべきものという神話が根強く社会問題化されていないことを指しています。
 編者は、貧困の世代的再生産分析の社会的意義として、以下の3点を挙げています。
(1)貧困が世代的に継承されているように見える世帯・階層に焦点を当てることで、「家族幻想」「ガンバリズム神話」から解き放ち、家族問題の解決に貢献する。
(2)具体的な分析の積み重ねによって、今日の公的扶助の性格をはっきりと規定していく。
(3)社会的不平等を補うために、家族を「利用」せざるを得ない現実の政策展開と、それを支える家族イデオロギーや幻想を直視し、階層間・家族間の教育資源の不平等を是正する方策を探る。
 貧困の世代的再生産を扱った第1章では、「逃避的自立」という言葉で、「不利な家庭環境が彼女たちの『早期に家を出る』という行為をほとんど十分な準備なしに促していった」という点を指摘しています。また、調査対象母子世帯の多くが、親もまた頼れる存在ではなく、「もろい家族」「弱い家族」であり、「援助のネットワーク」という点での階層差を浮き彫りにしています。そして、貧困の世代的な再生産とは、「『もろい家族』同志の『同類婚』を通じて」、「また貧困な状態で暮らさざるを得ない『もろい家族』が再び生まれてくるという現象」であるとし、その背景として「家族依存」を中心とした社会保障・教育システムの枠組みを持つ社会システムが存在し、家族の持つ諸資源の不平等が存在するために、はっきりと表れてくることが指摘されています。
 貧困と子供の教育を扱った第2章では、「1DKのアパートに4人で住んでいる世帯」など、プライベートな空間どころか、勉強机や布団も個別に与えられていない事例などが紹介されています。そして、経済的問題や学力・学歴、家族関係などの障壁により、子供たちが持つ将来の選択肢が狭くなり、その結果、現状から逃げるように「とりあえず」の未来を選択することで、より不安定な生活に入っていくことへの危惧が指摘されています。
 10代の性の問題を扱った第3章では、アメリカで10代の妊娠が社会問題化した際に、「10代の親とは、子供を産んだという理由のみによって貧乏になった中産階級の人々ではなく、むしろはじめから貧乏だったために親になった人々だ」という指摘がなされたことなどが紹介されています。また、高校間の学力階層が生徒の社会階層を表していること、大学受験や希望する職業などの具体的な目標を持たない生徒にとって、恋愛やアルバイトが、自己承認や金銭的利益をもたらす手段となっていること、生活困難層の生徒がハイリスクな性行動をとる「ハイリスク・グループ」の大部分を占めていること等を指摘した上で、若者が個人として自立する上で必要となる時間とコストが猶予されないような状況に置かれた若者が、教育達成を通じた職業的自立以外のところに自分の居所を見つけるしかないという困難な状況に置かれていることを述べています。
 この他本書では、生活保護世帯における家計管理の問題、とくに子供の学費の問題や、スクール・ソーシャルワークの必要性、生活保護世帯における「保護依存」の問題(受給期間の長期化、「貧困の罠」)、アメリカの「福祉改革」などの分析が収められています。
 本書は、統計などの量的な研究によって脚光を浴びることとなった社会格差の拡大の問題について、質的な実証分析を行うことで、よりリアリティを与えるものである一方で、本書を読むことで近視眼的な見方に陥りやすい危険があることにも注意する必要があると思います。


■ 個人的な視点から

 生活保護など「貧困」に絡む問題は、とかくイデオロギーのバイアスが入りやすい分野であるために、貧困を問題視する立場からは、ケースワーカーの締め付けによって一家離散や餓死などの悲劇が起きている、という指摘がなされ、一方、福祉にかかる費用の膨張を危惧する立場からは、「生活保護のお金がそのままパチンコにつぎ込まれている」、「公営住宅の駐車場に高級車(というか「ハイソカー」と言われる車)がたくさん停まっている、という点が指摘されます。
 双方ともに、自らの主張に有利な極端な事例を挙げているといえばそれまでですが、これを乗り越えるには、実証研究の蓄積が望まれるところです。


■ どんな人にオススメ?

・見え難い「貧困」がすぐそばに存在していることを知りたい人。


■ 関連しそうな本

 三矢 陽子 『生活保護ケースワーカー奮闘記―豊かな日本の見えない貧困』
 樋口 美雄, 太田 清, 家計経済研究所 (編集) 『女性たちの平成不況―デフレで働き方・暮らしはどう変わったか』
 庄司 洋子, 藤村 正之, 杉村 宏 (編集) 『貧困・不平等と社会福祉 これからの社会福祉』
 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』 2006年02月14日
 佐藤 俊樹 『不平等社会日本―さよなら総中流』 2005年03月22日
 山田 昌弘 『希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』 2006年01月11日


■ 百夜百マンガ

ストップ!!ひばりくん!【ストップ!!ひばりくん! 】

 春になると思い出すのが「♪ほーら春咲小蟹♪」という歌なのですが、空を横歩きする蟹の姿が目に浮かんだら相当のマニアさんかなと思います。

2006年3月23日 (木)

東大vs. (ヴァーサス)

■ 書籍情報

東大vs. (ヴァーサス)   【東大vs. (ヴァーサス)】

  東京大学公共政策大学院, 星 浩 (編集)
  価格: ¥1,470 (税込)
  朝日新聞社(April 15, 2005)

 本書は、2004年度に東京大学公共政策大学院で開催された「公共政策セミナー」での、政治家や官僚、ジャーナリストによる講義と、大学院生たちとの質疑応答の模様を収録したものです。このセミナーのコーディネートを行った編者の念頭にあったイメージは、ジョージタウン大学やジョンズホプキンス大学、ブルッキングズなど、大学や研究機関で交わされていた政治家・ジャーナリストとの意見交換であったと述べられています。
 民主党の岡田克也代表(当時)は、自民党に所属していた当時、「日本で総理大臣になるには、刑務所の塀の上を歩かなければいけない」と冗談半分で言われていたことを紹介し、「そういうやり方でリーダーを選ぶ国とは一体なんだろうか」、「金集めのうまい人が総理大臣になる国というのは、とても耐えがたい」という思いから離党したこと語られています。また、「保守」や「革新」という言葉がほぼ死語になったと指摘した上で、「国民のための政党、そういう意味で日本国民の本流を体現する政党を目指す」という意味で「本流」という言葉を使っていると語っています。
 自由民主党の久間章生総務会長(当時)は、大学時代に政治学を学び、後に政治の世界に身を投じた経験から、「政治学というのは、ほかの社会科学とは違って真実を求めるというよりも、相手が自分をどのように見ているか、あるいは相手に対してどのように見せるかという学問」であるという持論を述べています。また、郵便貯金制度の起源として、日露戦争で東郷元帥がロシア艦隊を対馬沖で破った時に、宗谷海峡にも艦隊を配置できるためにも日本はもう一艦隊持つべきである、ということで郵便貯金制度が始まったこと、この制度が戦後復興の集中投資に使われ成功してきたことが語られています。
 堂本暁子千葉県知事は、分権型社会の一つの軸として大きな役割を果たすNPOとの協働を進める上で、それまでそんなことをやったことがなかった県庁職員が一番戸惑い、NPOの人たちと「NPOパートナーシップマニュアル」を作成したことを語っています。また、高齢者や障害者や子供や地域の農家、定年で退職した人たちがお互いに助け合って地域をつくる「プロジェクト・ブレーメン」立ち上げ秘話も語られています。そして、県内でくまなくタウンミーティングを行う中で、それまで公約にあげていた「県民参加」の県民づくりというのは間違っていた、日本の市民はもう立ち上がっている、「県民参加」とは僭越な物言いだった、と気づき、「県民主体」の県政づくりこそが本当の表現であったと語っています。
 「サンデープロジェクト」でお馴染みの田原総一郎氏は、自分はキャスターではなくディレクターであるという理由を、「私の立場ではイデオロギーは持たない」ということ、法律違反のような明らかに悪いことは悪いと言うけれども、「イデオロギー的に社会主義がいいか、資本主義がいいかという立場には立たない」ということであると述べています。
 この他、田中均外務審議官は、小泉内閣に最終的に物事を決めていく政治的なリーダーシップを有していることを語っています。また、孔魯明元韓国外相は、1994年の南北会議での「火の海」発言の背景などを語っています。さらに、朝日新聞コラムニストの船橋洋一氏は、大宅壮一氏の「ジャーナリズムの反対語は何だ、それはマンネリズムだ」という言葉を引用しながら、ハーバード大学のニューマンフェローというジャーナリスト育成プログラムでの経験などを語っています。
 本書は、「東大vs.」というタイトルにはなっていますが、講師の圧倒的な個性が大学院生を凌駕していて、タイトルほどは「対決」という緊張感は感じられませんでしたが、豪華メンバーの講演がまとめて読めてお得であることは間違いありません。


■ 個人的な視点から

 「まえがき」にあるように、このセミナーは、2004年に東京大学大学院法学政治学研究科で開かれた朝日新聞創刊125周年記念の寄附講座「政治とマスメディア」がきっかけになったということですが、その前年の2003年8月に、同じ東大の社会情報研究所が開催した「無党派は日本の政治を変える」というシンポジウムを聴きにいったことがあります。東大にとって「政治とマスメディア」というテーマは非常に重要なテーマの一つのようです。
 本書と直接の関係はないのですが、先日、講師の一人である田原総一朗氏の講演を竹中塾でお聴きする機会がありました。前の方に座っている人を「君はどう思う?賛成か反対か?」と容赦なく次々指名するスタイルは、さすがサンプロや朝生を仕切っている人だけに切れのあるものでした。指名する人がだんだん自分の方に近づいてくることにドキドキしていましたが無事?指名されることはありませんでした。
 余談ですが、つい昨日まで「田原総一郎」だと思ってました。ゴメンナサイ。


■ どんな人にオススメ?

・豪華メンバーの講演録をまとめて読みたい人。


■ 関連しそうな本

 丸楠 恭一, 坂田 顕一, 山下 利恵子 『若者たちの"政治革命"―組織からネットワークへ』 2005年05月11日
 佐々木 毅 『政治学講義』 2005年03月11日
 高瀬 淳一 『情報と政治』 2005年06月23日
 横江 公美 『判断力はどうすれば身につくのか―アメリカの有権者教育レポート』 2005年07月13日
 菅谷 明子 『メディア・リテラシー―世界の現場から』 2005年09月07日
 読売新聞政治部 『自民党を壊した男小泉政権1500日の真実』 2006年03月14日


■ 百夜百マンガ

銃夢【銃夢 】

 数年前にネット上で色々騒ぎになった作品ではありますが、その世界観づくりには定評もあり、海外でも評価が高いです。
 この作品目当てに掲載誌(たしかBJだったか・・・?)を買い求めた人も多いのではないでしょうか。

2006年3月22日 (水)

スモールワールド―ネットワークの構造とダイナミクス

■ 書籍情報

スモールワールド―ネットワークの構造とダイナミクス   【スモールワールド―ネットワークの構造とダイナミクス】

  ダンカン ワッツ (著), Duncan J. Watts (原著), 栗原 聡, 福田 健介, 佐藤 進也 (翻訳)
  価格: ¥3,570 (税込)
  東京電機大学出版局(2006/01)

 本書は、「スモールワールド現象」について、一般向けに『スモールワールド・ネットワーク』の著書を持つ著者が、理論編的な位置づけで書いたものです。
 スモールワールドの紹介で登場するのは、この分野ではお馴染みの「ケビン・ベーコンゲーム」です。これは、ハリウッドの脇役専門の俳優であるケビン・ベーコンを起点に、彼と共演したことのある俳優・女優はベーコン数「1」に、ベーコン数1を持つ俳優・女優と共演したことのある俳優・女優はベーコン数「2」を持つ、というように、ケビン・ベーコンとの共演関係の距離を数値化するものです。すると、ハリウッドでベーコン数4以上の俳優・女優は存在しないことがわかったのです。しかも、この範囲を世界中の俳優・女優に拡大したとしても世界で一番大きいケビンベーコン数はたかだか「8」でしかありませんでした。このような現象を「スモールワールド現象」の典型的な例として紹介しています。
(ベーコン数は、http://www.cs.virginia.edu/oracle/で検索することができます。)
 スモールワールド現象を扱ったものとしては、「6次の隔たり(six degrees of separation)」があり、1967年にミルグラムが行ったカンザスとネブラスカから手紙のバケツリレーでボストン在住の目的の人物に手紙を送ったところ、およそ6人の仲介者を介して手紙が到達したことから、このことを題材にした「Six Degrees Of Separation」という芝居や映画ができ、世間に知られるようになりました。
 本書は、この現象を理論的に解説する構成となっています。
 第2章では、転職の分析から「弱い紐帯の強さ」の重要性を指摘したグラノヴェッターの主張が紹介され、スモールワールド現象における重要性が指摘されています。
 第3章では、スモールワールド現象のグラフによる表現が解説されています。本書の表紙のデザインにもなっている、ランダムグラフの辺のつなぎ替えについても、秩序のある1次元格子から徐々に無秩序の度合いが高まる様子が述べられています。
 第4章では、「局所的に密度の濃い構造」を持つ完全グラフである「穴居人グラフ」や、完全拡張グラフ(「すべての頂点が等しくk個の他の頂点と連結するものの、そのk個の頂点が互いに隣接関係にはない状態を保った」グラフ)である「ムーアグラフ」などが紹介されています。
 また、第5章では、以下の現実の3つのグラフに理論を当てはめています。
・ケビン・ベーコングラフ:協調グラフのハリウッド版であり、そのつながりは二人の俳優が一緒の映画に出たことがあることを意味している。
・西部州送電グラフ:そのなのと折り、ロッキー山脈以西のすべての州に電源を供給している、発電所と高電圧線の地図である。
・C.エレガンスグラフ:有名で数多くの研究がなされている線虫"Caenorhabditis dlegans"の神経結合を表している。
 この他、ケビン・ベーコン数の元祖に当たる「エルデシュ数」についても触れられています。同様に、科学文献の引用関係や、単語の関連性、組織のネットワーク、WWWリンクなどについてもグラフ化の期待がされています。
 この他本書では、セルオートマトンや、進化ゲーム理論、結合振動子の集団同期などをグラフで読み解く試みがなされています。
 本書は、スモールワールド・ネットワークに関心を持った人に理論的な解説を与えるという意味で、日本語で手に入る文献の中ではトップに位置するものではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 ものすごく面白い世界が、本書の中に広がっている、という「勘」は働くのですが、数式が多くて特に前半の理論編のところは全く手に終えないという感じでした。軽い気持ちで手に取ると相当ハードルが高いと思います。
 ただし、後半は現実のグラフへの応用や、セルオートマトン、ゲーム理論など関連分野への応用になりますので、こちらに戻ってやや息を吹き返したという感じです(それでも数式は辛いですが)。
 数式に疲れた人は、5章から読んでみるといいかもしれませんが、こういう面白い話を一般向けにわかりやすく書いてくれる科学読み物のありがたみを感じます。


■ どんな人にオススメ?

・スモールワールドの理論を学びたい人。


■ 関連しそうな本

 ダンカン ワッツ (著), 辻 竜平, 友知 政樹 (翻訳) 『スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法』 2005年09月28日
 増田 直紀, 今野 紀雄 『複雑ネットワークの科学』 2005年11月18日
 アルバート・ラズロ・バラバシ (著), 青木 薫 (翻訳) 『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』 2005年10月24日
 マーク・ブキャナン (著), 阪本 芳久 (翻訳) 『複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線』 2005年12月21日
 ポール ホフマン (著), 平石 律子 (翻訳) 『放浪の天才数学者エルデシュ』 2005年11月06日
 安田 雪 『実践ネットワーク分析―関係を解く理論と技法』 2005年10月04日


■ 百夜百マンガ

YAIBA【YAIBA 】

 『名探偵コナン』で知られる作者のそれ以前の代表作。アニメ化もされました。
 話が進むにつれて敵がどんどんインフレするパターンになるので後半は苦しかったのではないかと思います。
 その点、いくらでも連載を続けられるパターンを作った「コナン」はさすがです。

2006年3月21日 (火)

お寺の経済学

■ 書籍情報

お寺の経済学   【お寺の経済学】

  中島 隆信
  価格: ¥1,575 (税込)
  東洋経済新報社(2005/02)

 本書は、全国に7万5000あるという「お寺」(コンビニエンス・ストアの約4万軒のほぼ倍!)や住職の行動を経済学的見地から分析することで、現在のお寺が抱える問題点を浮き彫りにしようというものです。全国にお坊さんは30万人、その信者は6000万人に上るにもかからわず、その実態は不明な部分が多く、お寺の収支状況を示す統計資料もない状態です。
 著者は、仏教と経済学の関係を自転車の車輪に喩えています。社会を前進させ豊かにするためには、経済的なインセンティブによって後輪を回転させる、前に進む力が必要であるのに対し、方向をコントロールする前輪の役割を担うのが仏教だということです。
 日本のお寺が中国や対にお寺と異なる点はそこにお墓がある点です。それは、他の仏教国に例を見ない「檀家」の存在があるからです。檀家は、「葬祭や墓地を媒介として寺院が長期的な取引契約を結んだ仏教信者」と定義されていますが、本書は、この制度が生まれた歴史的経緯を解説しています。
 また、気楽な稼業(最近は家業でもある場合が多い)と言われることもある「お坊さん」の立場や仕事を歴史を振り返りながら解説しています。江戸時代には、本末制度の寺院ヒエラルキーの中で、末寺の僧侶は本山から搾取されまくる一方で、その割り当てを檀家に振り向けたことも述べられています。また、僧侶になるためのプロセスとして、まず師匠(師僧)を見つけ、僧籍に登録してもらう得度というプロセスを経た上で、各宗派の定めに従い修行僧として修行を終えれば教師資格を得ることができることが紹介されています。しかし、今までの収入源となっていた葬祭部門の仕事では葬儀社の攻勢が強く、今では葬儀社と組んで格安の料金で読経サービスを行う「マンション僧」までいるそうです。
 日本には5大メジャー宗派として、浄土宗、浄土真宗、曹洞宗、臨済宗、日蓮宗の5宗が仏教信者の7割を占めているといわれますが、本書は、これらの宗派が果たしている役割として、(1)資格付与、(2)格付け、(3)布教活動、(4)社会奉仕活動、(5)シンボル、等があることが述べられています。
 日本の仏教は、「葬式仏教」と揶揄されることが少なくありませんが、元々は、葬式と仏教に関係はなく、江戸時代に仏式葬儀が普及するまでは、独自の民俗信仰に基づいた様々な形態の弔いが行われていたことが紹介されています。
 著者は、今後の日本のお寺が生き残る道として、(1)葬祭全般のサービスに特化する道、(2)現世利益という信仰サービスを提供する道、(3)宗派としての布教活動に注力する道、の3つの道があると主張しています。


■ 個人的な視点から

 お寺との付き合いの少ない都会では、葬式と修学旅行くらいしか関わりを持つ機会がないのかもしれませんが、田舎の生活では何かというとお寺と関わりを持つことになります。そもそも、田舎では今でも葬式を自宅で行うことが多く、昔はそうした時の料理は近所の人が手伝いに来て用意していました。子供の頃は、念仏の時に出る冷たい出し汁を張った饂飩が美味しかったことを思い出します。


■ どんな人にオススメ?

・近所のコンビニは知っていてもその倍の数存在するお寺のことは良く知らない人。


■ 関連しそうな本

 中島 隆信 『大相撲の経済学』
 ひろ さちや 『お葬式をどうするか―日本人の宗教と習俗』
 スティーヴン ランズバーグ (著), 吉田 利子 (翻訳) 『ランチタイムの経済学』
 圭室 文雄 『葬式と檀家』


■ 百夜百音

プリ2~PRINCESS PRINCESS BEST OF BEST~【プリ2~PRINCESS PRINCESS BEST OF BEST~】 PRINCESS PRINCESS オリジナル盤発売: 2006

 20年前のバンドブームの定番だったプリ^2です。今年は、『14プリンセス~PRINCESS PRINCESS CHILDREN~』というトリビュートアルバムも発売されました。
 で、本人はと言うと、ネタフルによれば、ボーカルの奥居香は、現在は本名の岸谷香に改め、「ICE AGE~氷河期の子供たち~」を発売するそうです。

『アイス・エイジ』アイス・エイジ

2006年3月20日 (月)

日本の経済格差―所得と資産から考える

■ 書籍情報

日本の経済格差―所得と資産から考える   【日本の経済格差―所得と資産から考える】

  橘木 俊詔
  価格: ¥735 (税込)
  岩波書店(1998/11)

 本書は、バブル期に叫ばれた資産分配の不平等化が、バブル崩壊と長期不況によって消滅したのかどうかを、統計データを用いて検証することを目的とするものです。そして、タイトルのとおり、貧富の差が小さいという日本の平等神話が崩れつつあり、分野によっては既に崩れてしまったことを、他国の現状との比較及び戦前からの歴史をたどることで明らかにしています。
 一般に、不平等を表す指標としては、「ジニ係数」という指標を用いることが多くあります。ジニ係数とは、「0と1の間の数字をとり、数字が高いほど不平等度が高い」というもので、1980年から1992年までの短期間に、0.1近く急激に上昇していることが指摘されています。また、貧富の差が大きいといわれているアメリカと比較しても当初所得(課税前所得)で見ると日本の方が高いという事実が明らかになります。
 また著者は、日本の福祉制度の特色を、「国がおおいに関与するという意味での福祉国家ではな」く、その分を家族や大企業が肩代わりしていたとし、大企業と比較して中小企業や自営業者の福祉水準や賃金水準が相当低い、「二重構造」であることを主張しています。
 日本の「平等神話」が成立してきた背景として、戦前からの経緯をたどる第2章では、戦後の財閥解体・独占禁止政策、農地改革、労働民主化、税制改革、教育の機会均等政策によって、制度的に平等化してきたことが述べられています(農地解放によって土地を所有することができた大都市近郊の元小作人が、バブル経済によって高資産保有者になってしまったという歴史の皮肉にも言及されています。)。また、戦後、急激に所得分配が平等化した要因として、高度成長期に起きた以下の社会・経済変化を挙げています。
(1)就業構造の変化:農林水産業・小売業から製造業に。雇用労働者が増加。
(2)人口の地域間移動:農村部から都市部へ。都市と地方の所得格差も発生。
(3)核家族化:一家計あたりの人数の減少。
(4)非農業の急激な賃金成長:非農業従事者と農業・商業従事者の所得格差は拡大したが、後者の数が減少したので相対的には平等傾向に。
 この他本書では、近年上昇が指摘されている生活保護を受ける家庭の比率が低い理由として、(1)貧困者・障害者に対して扶養義務者による援助が優先される、(2)資産調査(ミーンズ・テスト)が厳格である、(3)恥という意識がある、ことなどを指摘しています。また、教育の経済学的解釈として、「人的資本理論」と「スクリーニング理論」の2つがあるうち、日本では、後者の妥当性が高いこと等が述べられています。
 現在の社会格差議論に大きな影響を与えた本書ですが、最近の「格差ブーム」に乗ったセンセーショナルなタイトル・内容の本と比較して、実に客観的に抑えた筆致で淡々と事実を述べていく迫力があります。


■ 個人的な視点から

 現在の日本の社会格差を巡る議論の発端の一つとなった本書ですが、同時に著者は、日本における統計データの不備も指摘しています。それは、同一人物を長期にわたって毎年追跡調査した「パネル・データ」の必要性です。著者は、年功序列制を念頭におくと、ライフ・ステージによっても賃金格差が発生しうるとして、日本もパネル・データを収集する必要があることを指摘しています。
 日本の賃金格差が統計上拡大している要因のひとつとして、人口構成の重心が団塊の世代の影響で高い方に傾いていることが指摘されることが多いですが、単に「格差の拡大」という主張を支持するデータだけを並べるのではなく、分析の限界も併せて提示している点に、研究者としての誠実さを見るような気がします。


■ どんな人にオススメ?

・格差ブームの火付け役となった本を読んでみたい人。


■ 関連しそうな本

 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』 2006年02月14日
 佐藤 俊樹 『不平等社会日本―さよなら総中流』 2005年03月22日
 山田 昌弘 『希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』 2006年01月11日
 橘木 俊詔, 斎藤 貴男, 苅谷 剛彦, 佐藤 俊樹 『封印される不平等』 2006年02月10日
 樋口 美雄, 財務省財務総合政策研究所 『日本の所得格差と社会階層』 2006年02月01日
 斎藤 貴男 『機会不平等』


■ 百夜百マンガ

デロリンマン【デロリンマン 】

 「レミオロメン」という読みにくい名前のグループ(つい「デミオロメン」とか言いそうになります。)があるのですが、わたしの年代以上の人間には、どうしても「オロカメン」に聴こえてしまうのではないかと思います。
 顔は醜くとも心は清く、自分の子供に愛を説こうとするデロリンマンの試みが失敗すると、「愚かなり、デロリンマン、人間とはそういうものだ」と忠告する役回りです。

2006年3月19日 (日)

世界をだました男

■ 書籍情報

世界をだました男   【世界をだました男】

  フランク アバネイル, スタン レディング (著), 佐々田 雅子 (翻訳)
  価格: ¥700 (税込)
  新潮社(2001/11)

 本書は、映画『Catch Me If You Can』の原作になった、天才詐欺師フランク・アバネイルの自伝的小説です。最初は、裏づけのない小額の小切手を恐る恐る使っていた著者は、21歳までに250万ドルを「稼ぎ」出します。
 文房具店を営む父親の元で裕福に育った著者は、15の時に父親のカードを使い込み、1年間矯正施設に放り込まれますが、その間、父親の商売は傾き、ほとんどの資産を手放し、大きなピカピカの2台のキャデラックを持つ百万長者は、ボロボロのシボレーに乗った郵便局員に変わっていました。落ちぶれた父親は著者にこう語ります。
「人は何を持ってるかじゃなくて、何であるかが重要なんだ。(略)わたしは自分がどんな人間で何をしているかを心得ておる。それが大事なんだ。人がわたしをどう思うかじゃなくてな。わたしは自分を正直な人間だと思っておる。それは大きな車を持つよりも大切なことだ……人は自分がどんな人間で何をしているかを心得ている限り、間違ったことはせんものだ」
 「親の小言と冷酒は後で効く」と言いますが、15歳の著者にはこの言葉の意味はわからなかったようです。
 著者が詐欺に手を染めるきっかけは、同じ年頃の少年たちと変わらずナンパの軍資金不足でした。ニューヨークに家出した著者は、ハイスクールを中退した16歳の少年に稼げるお金はわずかであることを思い知らされますが、背も高く老け顔だった少年は、年齢を10歳偽り、人々が人物ではなく身なりや肩書きしか見ていないことに気づいてパンナムの制服を手に入れます。この手の詐欺師のお約束どおり、航空業界に関する知識は、落としたスチュワーデス達との会話から吸収し、ついには他の航空会社の乗務員席に「デッドヘッド」で便乗して各地を転々とするまでになります。
 その後、ニセパイロット姿での手形詐欺の手口がばれそうになると、しばらく身を隠すためにマンションを借りますが、そこでたまたま職業を医師と名乗ったために、人手不足の病院で小児科医を担当することになってしまいます。この他にも、州の司法長官の下で法務官として働いたり、大学の社会学の集中講座を担当したりと、さまざまな社会的地位の高い専門職の仕事をこなしてしまいます(ティーンネイジャーなのに!!)。この裏には、手形偽造で身につけた技術を活かしてハーバードの成績証明書や大学の学部長の推薦書やらを使ってはいるのですが、それでも付け焼刃的な知識を集中的に詰め込んで、司法試験に通ってしまったり、大学で講義をしたりと、著者の集中力と立ち回りのうまさが光ります。
 著者は、「もっとも当たりのいい小切手詐欺師は、優位に立つ三つの要素を持ち合わせている」として、以下の3点を挙げています。
(1)人間的魅力:身だしなみが重要。トップクラスの詐欺師は、立派な服装をして、信用と権威を感じさせる雰囲気をにじませている。
(2)観察力:並みの人間なら見落としてしまう枝葉末節まで気づく能力。あとから伸ばすことができる。
(3)調査能力:世界中のどんな銀行のどんな窓口係をもしのぐほど小切手についての小切手についてよく知っている。
 もちろん、映画を見るのも手っ取り早くていい方法ですが、本書は、小説ならではの緊張感を味わうことができると思います。


■ 個人的な視点から

 著者は、至る所で詐欺を働き、出会う人をことごとく騙しますが、それでも憎めないのは、彼が金を巻き上げるのは小切手を現金化してくれる銀行窓口や空港やホテルのカウンターばかりであり、その意味では一般人から金を巻き上げて路頭に迷わせるタイプの詐欺師ではなかったからでしょうか(小説化に当たって隠しているだけだということもあり得ますが。)。
 何しろ好人物である著者は、女性に持てるのはもちろん、その家族にもいつも気に入られます。両親に紹介されることも多かった著者は、パリの印刷屋に偽造小切手を作らせることもありましたが、基本的には好青年の印象を残したまま去っていきます。しかし、それでもなかなか逃げ切れない場面もあり、サンフランシスコのアメリカン航空のスチュワーデスの家族とどんどん結婚式の段取りが進んでしまいます。ついに真相をあかすシーンは次のようなものです。
 「ロザリー、実は、私はパンアメリカンのパイロットじゃないんだ。二十八歳でもないんだ、ロザリー。ほんとは十九歳だ。名前もフランク・ウィリアムズじゃない。フランク・アバネイルだ。わたしは悪党なんだ、ロザリー。ペテン師で、小切手詐欺師だ。警察から全国に手配されている」
 映画を見たわけではないのですが、彼女のポカーンという表情が目に浮かぶようです。
 ルパン3世とかが好きな人、子供の頃江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズにハラハラドキドキした人は今でも楽しめるでしょう。


■ どんな人にオススメ?

・憎めない悪党が好きな人。


■ 関連しそうな本

 フランク・W・アバグネイル (著), 高橋 則明 (翻訳) 『華麗なる騙しのテクニック 世界No.1の詐欺師が教える』
 ゴードン・スタイン/編著 井川ちとせ/〔ほか〕共訳 『だましの文化史 作り話の動機と真実』 2006年03月18日
 デービット・カラハン (著), 小林 由香利 (翻訳) 『「うそつき病」がはびこるアメリカ』
 DVD 『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』
 江戸川 乱歩 『少年探偵団 少年探偵』


■ 百夜百音

特撮狂 TOKUSATZCREW【特撮狂 TOKUSATZCREW】 オムニバス オリジナル盤発売: 1999

 最近戦隊モノも新しいシリーズに変わりましたが、学生時代に「恐竜戦隊ジュウレンジャー」の子供ショーでバイトしてました。残念ながら低予算だったので、ティラノレンジャー(赤)1人&悪ボス1人という構成だったように記憶しています。
 ちなみに、スーパー戦隊シリーズは80年代の「○○○マン」系の名前から、このジュウレンジャー以降はほとんど「○○レンジャー」系の名前に戻ってしまってます。
 アメリカにも輸出されましたが、名前がやばいということで「パワーレンジャー」に変更されています。


『秘密戦隊ゴレンジャー MUSIC COLLECTION』秘密戦隊ゴレンジャー MUSIC COLLECTION

2006年3月18日 (土)

だましの文化史 作り話の動機と真実

■ 書籍情報

だましの文化史 作り話の動機と真実   【だましの文化史 作り話の動機と真実】

  ゴードン・スタイン/編著 井川ちとせ/〔ほか〕共訳
  価格: ¥2,940 (税込)
  日外アソシエーツ(2000/01)

 本書は、歴史に残った「だましの芸術」である作り話の多くをまとめたものです。本書で取り上げる作り話には、金目当ての嘘である詐欺は含まれておらず、金銭的な報酬とは無関係にでっち上げられ、嘘がばれるまで続くという特徴があります。
 本書の構成は、歴史を変えた作り話、科学と発見と作り話、考古学にまつわる話、贋作と芸術にまつわる話、文学にまつわる話、音楽にまつわる話、いんちき写真術、宣伝用作り話、悪意なきいたずら話、実話だった話、の10章からなります。
 歴史を変えた作り話としては、1887年から89年に刊行された『アプルトン・アメリカ伝記事典』のなかに100件を超える架空の人物がでっち上げられています。この悲劇が起きた原因は、編集委員が掲載項目を選定してから執筆者に依頼するという通常の時点であれば踏まれるはずの手続きが行われず、専門家を含む執筆者任せにし、架空の人物をでっち上げるほど報酬が増えるという契約形態であったために起きたと考えられています。
 また、大きく歴史を変えた最大級の嘘として、ローマ教皇庁による1200年に渡るイタリアの支配の根拠となった「コンスタンティヌスの寄進状」が紹介されています。この寄進状は750年頃に書かれたものと考えられますが、コンスタンティヌス1世が337年に死んでいることから、歴史上何度もその信憑性を疑われてます。
 さらに、人前に出ることを徹底的に嫌う有名人であるハワード・ヒューズの伝記をでっち上げた事件や、切り裂きジャックを英国王室を巡るスキャンダルと結びつけた話、ノストラダムスの『諸世紀』の様々な後知恵での解釈、ホロコーストにつながった『シオンの議定書』等が紹介されています。
 科学と発見を巡る作り話としては、UFOやビッグフットの他、月に住んでいる「こうもり人間」や「ジャージーの悪魔」等が紹介されています。中には、インド奇術師が行う、空にロープを投げてそこを登っていく、という手品の種明かしが紹介されています。さらに、この手のお話の定番として、「創造説」論者達の地質学も紹介されています。また、嘘が嘘を呼ぶ例として、UFOで有名なアダムスキーをだますために、「国務省は貴兄の主張を裏付ける多くの証拠を保管している」という国務省の書簡を偽造して送りつけた話まで紹介されています。
 芸術にまつわる話としては、アルフレッド・I・デュポンが、ディーラーから先祖の肖像画として売りつけられそうになった贋作を、額縁の価値くらいにはなる千ドルまで値下げさせ、更に、その肖像画の下から現れた17世紀の聖母子像が15万ドルの値を付けた話が紹介されています。
 この他、イリノイ州リヴァプール出身の偽ビートルズやコナン・ドイルが入手したコティングリーの妖精の写真、ロンドンのビッグベンがデジタル化されるというBBCのエイプリルフール報道が紹介されています。
 本書に収められている「作り話」は、その一つ一つにまつわるエピソードに魅力があるところがポイントではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書の最終章には、「実話だった話」として、偽造だと思われていた始祖鳥の化石や、各地の宗教的行事で使われる「火渡り」等が紹介されていますが、その中にウィリアム・アレンズの『人食いの神話』の件が紹介されています。これは、よく言われる人食いの風習を持った部族はいない、としたものですが、その後の検証によって、アレンズが見逃していた事実や間違いが指摘され、やはり人食いの風習は実話であった、としているものです。
 また、1938年にアメリカでパニックを起こしたH・G・ウェルズの『宇宙戦争』のラジオ放送のエピソードは有名ですが、本書には、その数年後に、チリとエクアドルで放送されたときの更に大きなパニックが納められています。これは、パニックによって心臓発作で倒れる人が続出したほか、怒った群衆が暴徒となってラジオ局を取り囲み、投石の上、焼き討ちしたという事件です。当時のラジオへの信頼性の高さを伺い知るとともに、情報リテラシーの重要性を表すエピソードなのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・作り話の面白さを楽しめる人。


■ 関連しそうな本

 フランク アバネイル, スタン レディング (著), 佐々田 雅子 (翻訳) 『世界をだました男』
 マイケル・W. フリードランダー (著), 田中 嘉津夫 (翻訳), 久保田 裕 (翻訳) 『きわどい科学―ウソとマコトの境域を探る』 2006年01月21日
 マーティン・ガードナー 『インチキ科学の解読法 ついつい信じてしまうトンデモ学説』 2006年02月11日
 マーティン ガードナー (著), 市場 泰男 (翻訳) 『奇妙な論理〈1〉―だまされやすさの研究』
 マーティン ガードナー (著), 市場 泰男 (翻訳) 『奇妙な論理〈2〉なぜニセ科学に惹かれるのか』


■ 百夜百音

HEAVY GAUGE【HEAVY GAUGE】 長渕剛 オリジナル盤発売: 1983
EXTRA LIGHT GAUGE

 タイトル曲を聴いたときには30歳は遥かかなた、半分にも満たない歳でしたが、いつの間にかこの僕も30歳をとうに越してしまいました。
 でも僕のギターにはいつもHeavy GaugeならぬExtra Light Gaugeが張ってあります。何しろ、「USE EXTRA LIGHT STRINGS ONLY」と書いてあるものですから。

『SINGLES(2)1983-』SINGLES(2)1983-

2006年3月17日 (金)

イノベーションの経営学―技術・市場・組織の統合的マネジメント

■ 書籍情報

イノベーションの経営学―技術・市場・組織の統合的マネジメント   【イノベーションの経営学―技術・市場・組織の統合的マネジメント】

  ジョー ティッド, キース パビット, ジョン ベサント (著),後藤 晃, 鈴木 潤 (翻訳)
  価格: ¥5,040 (税込)
  NTT出版(2004/10)

 本書は、イノベーション・マネジメントのテキストとして、世界中で使われている標準的なものです。「はじめに」によれば、本書の目的は、「イノベーションを実際的・戦略的なレベルで理解するための知識とマネージするためのスキルを、読者に与えること」とされています。
 本書のタイトルである「イノベーションをマネージする」ことが可能かという問題について、著者は4つのテーマを設定しています。
・戦略的アプローチを採用し、イノベーションとそのマネジメントの問題に取り組む。
・効果的な実行メカニズムと構造を発展させ、利用する。
・イノベーションを支援するような組織内の環境を発展させ、拡大していく。
・効果的な外部とのリンケージを構築し、維持する。
 イノベーションのための<合理主義者的>戦略と<漸進主義者的>戦略とを巡っては、前者の主導者であるアンゾフと後者の代表であるミンツバーグとの間で激しい論争が交わされましたが、本書では、この議論が、
・企業戦略は、企業が分析と経験を基に複雑性や変化により効果的に対処する方法を学習する過程であること。
・成功したマネジメントを完全に再現することは決してできないこと。
という2つの含意を持つことを述べています。
 第4章では、企業が組み込まれている国のイノベーション・システムの役割について言及されています。それは、「企業が対応を迫られる、国内の市場におけるインセンティブとプレッシャー、企業の研究能力及び製造能力、そしてコーポレート・ガバナンスの制度」であることです。これらのうち、コーポレート・ガバナンスの制度に関しては、<アングロサクソン>型と<日本-ラインラント>型の2つがあることが解説されています。
 第5章では、企業戦略が、「現在のそして将来得られるであろう技術的知識そのものの状態」と「それを利用する企業のコンピタンスの限界」という2つの制約要因のために、経路依存(path-dependent)性を有していることが述べられています。著者は、主要な技術軌道について以下の5つに分類しています。
・サプライヤー支配型:技術変化はサプライヤーからもたらされるため、技術以外の競争優位性を補強するために、他所から技術を調達する必要がある。(農業、サービス業、伝統的工芸品)
・規模集約型:生産工程の改良によって技術が蓄積され、漸進的な技術進歩とベスト・プラクティスの浸透が課題である。(バルク素材、耐久消費財、自動車、土木・建築)
・科学依拠型:社内の研究部門から技術蓄積が得られ、基礎研究から生じる進歩をモニターし続けなければならない。(エレクトロニクス、化学工業)
・情報集約型:ソフトウェアと情報システム部門、サプライヤーを技術の源泉とし、新しいシステムの開発・運用と関連サービスの開発が課題である。(金融、小売、出版、旅行業)
・専門化サプライヤー型:特殊な設計・構築・運用によって技術が蓄積され、新しいユーザーニーズの把握と対応が課題である。(機械、精密機械、ソフトウェア)
 第7章では、技術及び市場からマーケティングのプロセスが学ぶものとして、下記のようなマトリクスに分類されています。
       <技術の新規性>
          高い
 ・技術の象限:  ↑・複雑性の象限:
  既存の問題に対す| 技術及び市場の
  る新しい解決策 | 共進化
低い←―――――――+―――――――→高い<市場の新規性>
 ・差別化の象限: |・アーキテクチャ
  品質と特性に  | の象限:
  基づく競争   ↓ 既存技術の新しい組合せ
          低い
 第8章では、新しい技術、製品及び事業の開発における協力の役割を論じる中で、アライアンスの成功に寄与する要素として下記の7点が挙げられています。
・アライアンスが全てのパートナーによって重要であるとみなされていること。
・協力の<チャンピオン>(推進者)が存在すること。
・パートナー間で高い水準の信頼が存在すること。
・・明確なプロジェクトのプランニングと明確なタスクのマイルストーンが存在すること。
・パートナー間、特にマーケティング・スタッフと技術スタッフの間で頻繁な意思疎通があること。
・協力する関係者が期待どおりに貢献すること。
・利益が平等に分配されていると受け止められていること。
 この他本書では、内部プロセスのマネジメントにおけるスキャニング・ルーティン(市場関連シグナルと技術関連シグナル)や、実効性のある変化のマネジメントに関連するルーティンとして、(1)明確なマネジメント戦略をトップ・レベルで確立する、(2)コミュニケーション、(3)早期からの参画、(4)開かれた雰囲気を作り出す、(5)明確なターゲットを設定する、(6)訓練への投資、等が挙げられています。
 本書は、イノベーション・マネジメントの標準的テキストというだけに、理論とケースのバランスもよく、講義で使いやすいつくりになっているのではないかと思います。もちろん、社会人にとっても、電車の中で読むのには骨が折れますが、手軽な実用本を何冊も読むよりも、お奨めの一冊であることは間違いありません。


■ 個人的な視点から

 本書は、同じNTT出版から出ている『組織の経済学』と非常に良く似た作りになっています。ともにMBAの標準的なテキストとして用いられていることを意識したのか、とにかくレイアウトの組み方がそっくりです。そして分厚くて大きいところまで似ています(大きさはやや小さめですが)。この2冊を同じ鞄に入れて担いだら肩が抜けるんじゃないか心配になるほどです。


■ どんな人にオススメ?

・技術経営とかに関心のある人。


■ 関連しそうな本

 クレイトン・クリステンセン (著), 玉田 俊平太, 伊豆原 弓(翻訳) 『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』 2005年10月17日
 クレイトン・クリステンセン, マイケル・レイナー (著), 玉田 俊平太, 櫻井 祐子 (翻訳) 『イノベーションへの解―利益ある成長に向けて』 2005年09月29日
 クレイトン・M・クリステンセン, スコット・D・アンソニー, エリック・A・ロス (著), 宮本 喜一 (翻訳) 『明日は誰のものか イノベーションの最終解』 38653
 ポール・ミルグロム, ジョン・ロバーツ (著), 奥野 正寛, 伊藤 秀史, 今井 晴雄, 八木 甫(翻訳) 『組織の経済学』 2005年01月24日
 青木 昌彦, 安藤 晴彦 (編著) 『モジュール化―新しい産業アーキテクチャの本質』 2005年04月22日
 安藤 晴彦, 元橋 一之 『日本経済 競争力の構想―スピード時代に挑むモジュール化戦略』 2005年05月17日


■ 百夜百マンガ

ブラック・エンジェルズ【ブラック・エンジェルズ 】

 大人になってから見ると、ぶっちゃけ現代版「必殺仕置き人」なんですが、当時は「地獄に落ちろ」の決め台詞が怖かったです。
 銀行強盗に巻き込まれて、犯人の耳を伸ばした安全ピンで「始末」する回を覚えています。

2006年3月16日 (木)

お笑いニッポン公務員―アホ役人「殲滅計画」

■ 書籍情報

お笑いニッポン公務員―アホ役人「殲滅計画」   【お笑いニッポン公務員―アホ役人「殲滅計画」】

  テリー伊藤
  価格: ¥1,365 (税込)
  双葉社(July 2005)

 本書は、「コンプレックスを抱えた税金パラサイト」であるお役人の真実の姿を分析し、どうしたらいいのかを提案しているものです。元は『週刊 大衆』の連載を単行本化しています。
 著者は、公務員が3つのコンプレックスを抱えていると指摘しています。
(1)最近の不祥事について何かと非難されること。
(2)自分が固い人間、暗い人間と思われること。
(3)税金で食わしてもらっていて自ら稼いでいないこと。
 この歪んだコンプレックスの裏返しで、ワケのわからない手当てや必要のない公共事業や、天下り先の確保に走ってしまう、というのが著者の分析です。
 著者の『お笑い~~』シリーズは、ふざけたギャグのオブラートに包んで結構深いところまで指摘するというのが特徴ですが、本書でもおふざけ部分は飛ばしています。「わが愛するお役人の体内に徹底的に欠けているのが、人を喜ばすサービス精神とお金を稼ぐというDNA」というところまでは真面目に分析しながら、「逆にお役人には、税金を納める側の奥サマやOLたちをお色気サービスで楽しませるぐらいの心意気を持ってほしい」という方向に走ってしまうのがテリー流。「踊るイケメン戸籍係」とか「燃えよ! 消防防災課」(燃えちゃまずいと思いますが)とかのおふざけ企画を立ち上げながら、「日本の役所の悪いところは、『スターを育てることができないこと』である」という真面目とも不真面目とも取れる指摘をしています。
 また、マスコミがバッシングをすればするほど公務員志望者が増え、子供に公務員になって欲しいと思う親が増える理由を、
(1)税金を無駄遣いしても誰も責任を足らないシステム
(2)一等地に安く住むことができる公務員宿舎
(3)各種「手当」などの役得
(4)働かなくてもリストラの心配がない
(5)天下りのクチがある
(6)年金も払った以上に返ってくる
など、マスコミの批判によって、お役人の「おいしい生活」の実態が浮き彫りになるからだと指摘しています。
 本書の特別企画の中では、「アポ無し"お笑い"電話相談室」が一番の大ヒットでした。これは、霞ヶ関の各省庁に、色々な答えにくい質問の電話をかけ、その対応を分析する、というものですが、内容がなかなかナイスです。
・首相官邸←「小泉総理と話がしたいんですが、一納税者には会えないんですか?」
・人事院←「オレは先月、リストラされた。公務員はなぜクビにならないのか?」
・防衛庁←「北朝鮮がテポドンを発射したら、どのくらいの確率で打ち落とせるんですか?」
・財務省←「力道山やジャイアント馬場さんをお札にしてほしいのだが。」
・警察庁←「取調べ中にカツ丼は出るんスか?」
などですが、中でも国土交通省は、「公共事業の費用対効果」について問い合わせしたところ、3分待たされ、転送された挙句、7分後に電話が切られてしまう、という失態が掲載されてしまっています。
 導入部分は、そのふざけた口調に笑いながら読めるかもしれませんが、後半になればなるほど笑えなくなるのは、他の『お笑い北朝鮮』などのシリーズと同じかもしれません。


■ 個人的な視点から

 映画『県庁の星』がヒットしているようですが、あの主人公のようなエリート意識はなかなか都市部の人間には想像しにくいのではないかと思います。歴史をたどれば、元々、都道府県の上級職というのはその都道府県庁のプロパー職員ではなく、内務省で一括採用し、各地に赴任していました。だから当時は、「県庁の上級職」と言えば本物のエリートだったわけですが、戦後、プロパー上級職の採用が徐々に始まるようになると、「東京(内務省)から来たエリート」が「東京の大学を出たエリート」に変わっていくのですが、もしかすると都市部以外では戦前の感覚が多少でも受け継がれているのかもしれません。
 本書の中でも、「山形・沖縄では官が『3割』も高かった!!」という指摘がありますが、東京の大学を卒業して就職を探す際に選択肢となるのは、都内に本社を持つ大手企業や地元の第一地銀などになるので、(実際の働きと比べて高いか安いかを別にすれば)その段階での比較では公務員の給料には「安い」という感覚しかないと思います。同窓会などで、同級生や後輩たちと比べて年収の桁が違うことにショックを受ける人もいます。
 では、実際に地元企業の平均に合わせて給料を3割下げたとしたらどうなるでしょうか。少なくとも、現に働いている職員は今から学生時代に逆戻りできませんので諦める人が大半だと思いますが、これから受験する人の中には、給料の安さに地元に帰ることを躊躇する人が出てくるかもしれません。その結果、「給料は安くても安定していて仕事が楽な方がいい」という志望者だけが残る可能性があります。これを回避するためには、「給料が安くてもやりがいがある、能力を活かせる」という仕事自体の魅力を高めることが必要になるでしょう。


■ どんな人にオススメ?

・ニッポンの公務員の実態を笑いたい人。


■ 関連しそうな本

 桂 望実 『県庁の星』 2005年09月23日
 荻原 浩 『メリーゴーランド』 2005年12月03日
 稲継 裕昭 『人事・給与と地方自治』 2005年12月09日
 鎌田 慧 『自律と協働、はたらきがいをもとめて―大阪市現業労働者の60年』 2006年01月18日
 中野 雅至 『はめられた公務員』 2005年05月26日
 テリー伊藤 『お笑い北朝鮮 私が愛した金正日』


■ 百夜百マンガ

火消し屋小町【火消し屋小町 】

 NHKでドラマ化された女性消防士マンガ。これも公務員マンガですね。
 「池脇千鶴 NHK」でググれば(英語でも「google」は動詞として使われてるそうです)出てくるのが「ほんまもん」ですが、全てを投げ出して料理に打ち込む姿に引いてしまった人もいるのではないかと思います。
 そういえばこのドラマで三行半を突きつけられるダンナも公務員でした。

2006年3月15日 (水)

「談合業務課」 現場から見た官民癒着

■ 書籍情報

「談合業務課」 現場から見た官民癒着   【「談合業務課」 現場から見た官民癒着】

  鬼島 紘一
  価格: ¥1,470 (税込)
  光文社(2005/08/24)

 本書は、「ゼネコンの勝ち組中の勝ち組」と呼ばれている大林組の元社員である著者が、「一度ゼネコン業界に身を置いた者ならば、書いてはならないもの」である談合について、赤裸々に記述したものです。本書以前に著者は、現職社員時代に、国鉄清算事業団を巡る談合の体験を元にしたフィクション『告発』を出版していますが、本書はそのノンフィクション版に当たるものです。建築業界では「談合」のことを「業務」と呼んでいて、これが本書のタイトルの由来となっているようです。
 神田にあった大林組の旧東京本社の8階には、社員から「たこ部屋」と陰口をたたかれる部屋があり、100坪足らずの部屋に100名近い天下りOBや社員がすし詰め状態になっていたことが紹介されています。「そこは建設省、運輸省、道路公団、住宅都市・整備公団、JR東日本、国鉄精算事業団、営団地下鉄、東京都、神奈川県など官庁、自治体、公的企業などから天下ったOBの巣窟で」あり、著者は、この部屋を「OBの墓場だと感じていた」と述べています。そして、企業が官庁OBを採用するのは、「OBに高い給料を払ってもなお十分なおつりが来るから採っているのだ。それは談合で確実に利益を得るためだ」と述べています。
 建築業界は土木業界などと異なり、政界を揺るがしたゼネコン・スキャンダルの後、談合の構造が変わり、「天の声」に象徴される官製談合やOBが仕切る形での談合が影を潜め、業者間でルールを作って落札業者を決める談合本来の姿に戻っている、ということが述べられています。そして、大手ゼネコンには、営業部門の中に「業務」専門部署があり、なかでも他社との連絡調整を行う「業務担当者」が公共工事の発注を取り仕切る裏組織を構成していることが述べられています。
 著者は、国鉄精算事業団の土地を専門に扱う「SJプロジェクトチーム」に配属されます。このチームには、「ミスター事業団」と呼ばれる国鉄OBが迎えられ、そのコネを伝って事業団の担当者に取り入る様子が述べられています。また、予定価格そのものを聞き出すことはできなくても、事業団が不動産鑑定を依頼した不動産鑑定事務所を聞き出すことで予定価格を推測することができることなど、この世界のきわどいやりとりが記述されています。
 平成10年10月13日の朝日新聞の一面に入札情報漏洩のスクープ記事が掲載されたときの対応も興味深いものです。新聞が掲載されるや、朝早くからチーム内の段ボール十数箱に及ぶ内部資料が、こういう事態に備えた重要資料の焼却を専門に行う関連会社の作業員によって、極秘のうちに焼却処分されたことや、手を尽くしてマスコミに圧力をかけ、記事の掲載をストップしたことが述べられています。ファックスで送られてくる没になった各社のゲラを見て、著者は、「日本の言論の自由というものが、これほど容易く蹂躙されるものだということを初めて知った」と語っています。
 しかし、著者は、このスクープの前に、重要資料を自分でコピーして抱え込んでいました。この資料の存在が、後の『告発』や本書の材料になったのです
 この他本書には、旧国鉄本社跡地を巡る外資との攻防や、法務省幹部の子弟を縁故で入社させることでシンパに仕立て上げた搦め手の戦略などが紹介されています。
 著者は、国鉄生産事業団を巡る談合を題材にした『告発』を、もちろん匿名で出版しますが、その内容によって社内では感づかれ、危険人物としてマークされ、「業務担当」を外されます。後に、退職して会社を相手取って訴訟を起こしたことでマスコミの取材を受けることになったと述べられています。
 本書は、内部告発ものの一つではありますが、「会社憎し」という感情は全く全面に現れず、またスキャンダラスに談合の実体を暴くという筆致でもなく、ただ淡々と談合の仕組みやその実際が記述されていることが特徴です。ゼネコンの「業務担当」やゼネコンに天下る官庁OBにとっては、最適な「教科書」になるのではないかと思うほどです(笑)。


■ 個人的な視点から

 本書には、大林組の悪運の強さとして、平成7年の10日間にわたる営業停止処分の様子と、その処分が解かれる様が描かれています。この処分中には営業行為と言えるものが一人でも行われれば建設業の免許が取り消されるという厳しいものであるため、総務部が中心となって、営業停止中の行動についての行動マニュアルが作成され、連日の説明会で、営業停止期間中の電話対応、来客対応、事前の得意先への周知などが徹底されたと述べられています。
 しかし、1月17日に起こった阪神大震災によって、神戸のインフラ工事を多く手がけていた大林組は、建設省の超法規的措置によって営業停止期間を1日残して解除されます。さすがにあからさまに喜ぶことはできなかったものの、社員の顔には思わず笑みが浮かんだ、と様子が述べられています。
 ちなみに、被災地への応援は、関西出身者に限られたそうです。これは、土地勘が重視されたことはもちろん、神戸にはよそ者を好まない土地柄があり、関西に縁もゆかりもないものでは仕事にならない、という理由からだそうです。


■ どんな人にオススメ?

・ゼネコンの「業務担当」の実態を知りたい人。
・ゼネコンに天下る予定の官公庁関係者。


■ 関連しそうな本

 鬼島 紘一 『告発』
 加藤 正夫 『談合しました―談合大国ニッポンの裏側』
 武田 晴人 『談合の経済学―日本的調整システムの歴史と論理』
 桑原 耕司 『公共事業を、内側から変えてみた』 2006年02月22日
 ベンジャミン・フルフォード 『ヤクザ・リセッション さらに失われる10年』 2006年02月18日
 下野新聞「鹿沼事件」取材班 『狙われた自治体 ゴミ行政の闇に消えた命』 2006年02月08日


■ 百夜百マンガ

ど根性ガエル【ど根性ガエル 】

 胃腸薬のCMでは成人したキャラ達が同窓会や結婚式で盛り上がりますが、最近は、「成人したキャラクター設定」云々の注意書きが付くようになりました。
 「あのヒロシが30歳~」とか言ってるんだからわかるでしょうに、と思いながら、こういうことにも文句付けるクレーマーがいることに驚きです。

2006年3月14日 (火)

自民党を壊した男小泉政権1500日の真実

■ 書籍情報

自民党を壊した男小泉政権1500日の真実   【自民党を壊した男小泉政権1500日の真実】

  読売新聞政治部
  価格: ¥1,575 (税込)
  新潮社(2005/06/16)

 本書は、「自民党をぶっ壊す」と宣言して自民党総裁になった小泉首相の政権運営を、2004年1月から2005年間で追った読売新聞の連載「政治の現場」を再構成したものです。
 本書の構成は、公明党との複雑な協力関係、特に2003年の衆院選での選挙協力の複雑さを取り扱っている第1章「自公融合」や、出身母体や世代間の違いが浮き彫りになった第2章「民主党」の与野党の対比の他、「2004年衆院選」、「新政策決定」、「50年目の自民党」という構成になっています。
 第1章では、中選挙区時代、長年、公明党の市川元書記長と熾烈な選挙戦を繰り広げていたため、公明党とは距離を取っていた小泉首相ですが、首相就任後は関係強化を図ったことが述べられています。その心情を語ったのかは明らかではありませんが、自民党神奈川県連学生部のイベントでは、「政治を実際にやってみると、ものごと理論通りに動かないことがよくわかります。政治の世界では、味方はいつも味方かというとそうじゃない。敵はいつも敵かというとそうじゃない。そういうことを飲み込んで、前を向いて、希望と志を持ってがんばっていただきたい。」と挨拶したことが紹介されています。一方で、一時噂になった民主党との「大連立」構想にも言及しています。
 また、第2章では、民主党に関して、現党首である前原氏ら松下政経塾出身者が大きな勢力となっていること、橋本政権下の改革を進めた官僚など若い優秀な人材が自民党ではなく民主党に流れ込んでいること、民主党の「左派」イメージを醸し出している、旧社会党系議員や労働組合への依存体質などに言及した上で、民主党の支持率低迷の要因の一つとして、基本政策における党内の隔たりが大きく、曖昧な印象を拭えないことが指摘されています。また、二大政党化によって、「民主党の看板さえあれば、小選挙区選で破れても比例選で復活できる。民主党は居心地がいい」という議員心理さえ生んでいると指摘しています。
 この他、2004年の参院選に関しては、マニフェストに対する"第三者"からの目として、「政権公約検証大会」における「構想日本」による進捗度評価が、政党自身による評価とは大きく隔たりがあることが指摘されています。それでもマニフェストが普及することによる進歩はあり、曽根泰教慶大教授は、「『政権公約を軽々しく作り替えるな。反古にした印象を有権者に与えたら大変だ』と政治家が思うようになっただけでも、相当な変化だ」とコメントしています。また、自民党幹部による自民党支持団体の以下の3分類、
(1)医師会のように自分の組織だけで候補者を当選させることができる有力団体
(2)農水、国土交通など所管官庁のOBを支援する業界団体
(3)選挙ごとに派閥や候補者からの要請で支援を決める団体
も興味深いものです。
 また、小泉改革における経済財政諮問会議を通じた「内閣主導」の政策決定の仕組みが紹介されています。「四人会」と呼ばれる民間議員の4人(牛尾次朗・ウシオ電機会長、奥田碩・トヨタ自動車会長、本間正明・大阪大大学院教授、吉川洋・東大大学院教授)による「民間議員ペーパー」のスピードの速さや、それに神経をとがらせる各省庁の官僚のスパイさながらの行動、数多くの改革は知事を擁し「闘う知事会」を標榜した知事会との関係などが解説されています。
 最後の第5章は、50年間の自民党の歴史を振り返った解説編の趣です。年を取るほど保守的になり自民党を支持するという「年功効果」が失われていること、自民党がPRを専門とする会社「プラップジャパン」とコンサルタント契約を初めて結んだこと(民主党は、米国系PR会社「フライシュマンヒラードジャパン」を早くから起用)、幹事長のタイプに「エンジン型」(行動力で党を引っ張る)と「調整型」(気配りが持ち味)の二つのタイプがあること、などを解説しています。
 本書は、小泉首相をタイトルに持ってきていますが、本書の中心は、首相によって「ぶっ壊された」自民党がどのように変貌しているのか、を解説しているものではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書で印象に残っているのは、本書出版後、2005年の衆院選前に小泉首相と袂を分かった亀井静香元政調会長が2004年11月に語った「小泉さんは最後の将軍、徳川慶喜だなあ。(略)残念ながら今の議員は(世襲議員ばかりで)金のサジ、銀のサジで乳母に抱かれて育っているから、まさかと思っているんだよ。選挙で落ちるなんて考えていない。自民党は本当に弱ってきているよ」という談話です。この10ヶ月後には、自民党を相手に(実際にはホリエモンを相手に)選挙を闘うことになろうとは、本人すら予想できなかったのではないかと思います。
 ちなみに、「銀のサジ」とは、欧米のことわざで「be born with a silver spoon in one's mouth」、銀のサジをくわえて生まれてくる、すなわち、食うに困らない、恵まれた、という言葉にちなんでいるのですが、「金のサジ」は何でくっついてくるのでしょうか。そんなタイトルの本もあるようですが、どうしても「金の斧、銀の斧」を思い出してしまいます。


■ どんな人にオススメ?

・姿を変える自民党の姿を押さえておきたい人。


■ 関連しそうな本

 ドナルド・R. キンダー (著), 加藤 秀治郎, 加藤 祐子 (翻訳) 『世論の政治心理学―政治領域における意見と行動』
 佐々木 毅 『政治学講義』 2005年03月11日
 丸楠 恭一, 坂田 顕一, 山下 利恵子 『若者たちの"政治革命"―組織からネットワークへ』 2005年05月11日
 高瀬 淳一 『情報と政治』 2005年06月23日
 横江 公美 『判断力はどうすれば身につくのか―アメリカの有権者教育レポート』 2005年07月13日
 菅谷 明子 『メディア・リテラシー―世界の現場から』 2005年09月07日


■ 百夜百マンガ

シュガシュガルーン【シュガシュガルーン 】

 週末朝のテレビアニメのエンドロールで原作者の名前を見てびっくりしました。
 恋愛モノばっかり書いている人というイメージがあったのですが、子供向けの魔法マンガも描ける人だったのですね。

2006年3月13日 (月)

少子化をのりこえたデンマーク

■ 書籍情報

少子化をのりこえたデンマーク   【少子化をのりこえたデンマーク】

  湯沢 雍彦
  価格: ¥1,365 (税込)
  朝日新聞社(December 2001)

 本書は、1983年に出生率が1.37まで落ち込んだ後、出生率が上昇し、94年、95年には1.82まで回復したデンマークの結婚や出産、共働きと子育て、教育、高齢者の暮らしなどを紹介しているものです。
 編者は、デンマークに関心を持ったきっかけを、駐日デンマーク大使館の参事官が取材に答えた以下のやり取りだと述べています。
「仕事の帰りに一杯やって、夜遅く帰るなんてできませんね?」
「そういうケースは少ないですね。デンマークでは、午後4時に仕事が終わるとさっさと帰ります。夏なら、4時頃はまだ明るく、日没は11時頃ですから、日没まで7時間もある。(略)ですから、仕事は能率的にやり、時間内に終わらせる。残業をするよりも、朝早く出勤して仕事を処理する人が多い。日本のように、夜遅くまで残業するケースはありませんね。」
 編者はこの10年後、少子化問題を取材するためにデンマークの現地調査に訪れることになります。
 デンマークは、面積は北海道の半分程度、人口は千葉県よりも少なく、最高でも海抜173メートルしかない平坦な国です。編者たちは、出生率向上の理由を、家族政策、両親が家庭にいる時間が長いからか、教育費はほぼ無料だからか、住宅費が下がったのか等、様々な仮説を立てています。
 デンマークは、他の北欧諸国と同様、「二人だけの愛に基づくプライベートな生活に、どうして法律や教会が必要なのか」という法律的に登録されない事実婚が多い国の一つです。この結果、登録婚以外から生まれる子も増大しましたが、差別感もなく、権利上も登録婚の子との差はないことが紹介されています。
 出産・育児への支援も手厚く、産前産後の出産休業に対しては、失業給付最高額と同額の約17万円が国から支払われることに加え、公務員や一部企業では賃金との差額が補填されます。また、父親休暇は、対象者の58%が取得していると述べられています。一方で、育児休業の問題点としては、(1)代替要員確保、(2)復帰後元のポジションに戻れるとは限らない、(3)代替要員の採用・教育コスト、(4)規模の小さい企業での若い女性採用の敬遠、(5)女性の将来の年金が下がる、(6)上の子が保育園に行かないため昼間遊ぶ仲間がいない、(7)男性が取得しにくい職場の雰囲気、(8)家族当たりの収入低下、等が指摘されています。
 仕事と家庭とのバランスに関しては、デンマークにおける家庭生活と職業生活のバランスに関してリーダーシップをとってきた「国立労働市場事故取り扱い委員会」が採用した以下の3つの取り組みが紹介されています。
(1)フレックスタイム制:10~15時のコアタイム以外は7~19時の間で自由に労働時間を設定できる。
(2)子連れ勤務:一定の条件下で、子供を職場に連れてくることができる。
(3)在宅勤務:時間を静かに有効に使え、家庭生活が豊かになった反面、職場との関係の希薄化、通信コスト増などの短所がある。
 このように、充実して見えるデンマークの子育て環境ですが、
・父親が親休暇を取ると言い出しにくい職場の雰囲気
・女性の平均賃金の低さ(男性の7割)から、女性の9割が育児休業を取るため、将来の年金が減る。
・出産後、多くの女性が労働時間を減らすため、男性の家事育児への参加が減る。
などの問題点も指摘されています。
 この他本書では、国民学校の7年生までは順位や成績をつけるためのテストはしてはならないことになっている教育制度、日本と異なり里親制度が施設以上に充実した児童福祉、青少年の3分の2が参加していると言われる「フォルケオプリュスニング」という活動等が紹介されています。一方で高齢者に関しては、熱心な老人福祉に比較して老人医療が充実していない点、先進国トップ(日本の1.5倍)の老人自殺率の高さ、延命治療には熱心でないことなどから、平均寿命の短さが指摘されています。
 本書は、少子化対策に右往左往する日本社会とは、税金や宗教観が異なるため、そのまま安易にいいとこ取りできるようなものではありませんが、参考になることは間違いないのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 デンマークといえば高福祉の豊かなのんびりした国、という良いイメージで語られることが多いのですが、本書は必ずしもデンマークマンセー!だけの内容ではなく、きちんと問題があることも伝えているところに好感が持てます。
 特に、よく言われるような、「古い因習的な家庭観や性別分業意識に縛られず、男性が家事や育児に参加するため、女性も仕事を辞めずに働き続けることができ、老後は充実した年金と福祉を受けて安心して暮らせる」というイメージと現実にはかなりギャップがありそうです。現実には、女性の賃金は低い上、そのことが女性の育児休業取得を後押しして、将来の女性の年金が低くなってしまうことや、古い家庭観に縛られず登録しない事実婚が多いことは、離婚や同棲解消によって老後の生活の不安定要因となっていること等の問題があり、イメージどおりの生活が将来まで続くわけではないことが伺えます。
 また、福祉水準の高さにもかかわらず、自殺率が高く、特に老人男性の自殺率が飛びぬけていることや、平均寿命の短さ、薬物犯罪など犯罪件数の多さは、「聞いて極楽、見て地獄」ほどではないですが、少なくとも私たちが見聞きするイメージに「隣の芝は青く見える」バイアスがかかっていることを教えてくれます。


■ どんな人にオススメ?

・平らな国デンマークに関心がある人。


■ 関連しそうな本

 白波瀬 佐和子 『少子高齢社会のみえない格差―ジェンダー・世代・階層のゆくえ』 2006年03月10日
 子育て体験出版委員会 『ストップ・ザ・少子化 : 27人の子育て体験』
 山田 昌弘 『希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』 2006年01月11日
 山田 昌弘 『パラサイト・シングルの時代』
 宮本 みち子 『若者が『社会的弱者』に転落する』 2005年05月04日
 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』 2006年02月14日


■ 百夜百マンガ

ファンシイダンス【ファンシイダンス 】

 相撲取りやらお寺やらの「男の世界」を少女マンガの眼から描くとこんなに面白い・・・。
 映画にもなったのでそちらを見た人も多いと思います。

2006年3月12日 (日)

本棚の歴史

■ 書籍情報

本棚の歴史   【本棚の歴史】

  ヘンリー ペトロスキー (著), 池田 栄一 (翻訳)
  価格: ¥3,150 (税込)
  白水社(2004/01)

 本書は、『フォークの歯はなぜ四本になったか』等の著作を持つ著者が、今では当たり前になった図書館や書斎の「本棚」が、今の形になるまでの2000年の歴史をたどった「人工物の発達におけるケース・スタディ」です(本箱の話だから「ブックケース・スタディか」と駄洒落も混じります。)。著者はその重要性を、「本棚の話を掘り下げれば本の話に行き着き、逆に本の話を突き詰めれば本棚に到達する。」と述べています。本棚の歴史に関心を持った著者は過去の著作を調べ始めますが、「本の歴史やその取り扱い方、あるいは本を収納して見せる家具のデザインや発達についても、広く知られていないことが判明した」として、わずかに存在する本棚に関する文献、例えば『鎖につながれた図書館』などは米国有数の研究機関に図書館に収められながら、1930年代には10人ほどしか、1940年代にはほとんど誰にも貸し出されていなかったことを述べています。
 図書館の歴史は、紀元前300年頃設立され、世界中から何十万冊もの「巻物」を収蔵していたアレクサンドリアの図書館までさかのぼって紹介されています。この当時の巻物は、部屋の壁に設置された仕切り棚に横にして並べられていました。
 中世期になると、蔵書は保管箱であるチェストに収められ、移動の際にはそのまま運ぶことが多かったと紹介されています。しかし、利用しやすさに難があったために、縦置きしたチェストのようなアルマリウムが用いられるようになります。このアルマリウムには、宝石や貴金属をふんだんに使った装丁を施した本が収められたわけですが、盗難を防止するためには、倉庫のような図書室に押し込むのではなく、特別な部屋の広い書見台の上で鎖につながれるようになります。この鎖の存在が、「鎖の届く範囲内にある机やテーブルの類に載せないと読めない」という制約が、その後の図書館の構造と発展を左右したと著者は述べています。火事の危険を考えると、光源として火気は使えなかったので、古い図書館の構造は採光と書見台システムに制約されることになったのです。そして、蔵書が増え、部屋が書見台で一杯になると、「別の部屋にも書見台を置き始めるか、上へ築き上げていくように書見台の形を変更する」しか選択肢はなくなり、16世紀に採用されたのは後者の方であったのです。
 そこで採用されたテクノロジーは、「ストール・システム」(屋台店システム)と呼ばれる形式で、「一組の机を数インチといった単位ではなく相当な間隔で、つまり幅広の棚で二つに分け、さらにその上にいくつ棚を作る」という方法がとられました。このときに、本を平置きではなく縦置きするという収納方法が始まりますが、当時は現在と異なり、本の背を棚の内側に、前小口を外側にして収納されました。その理由は、「本がまだ鎖につながれていた」からでした。平置きするときには裏表紙につけられていた鎖は、縦置きするようになるとページを傷つけないために表紙の前小口側につけられるようになったと述べられています。背表紙ではなく、前小口を前にする収納方法は、後に本から鎖が取り外された後も習慣として残り、小口には装飾が施され、本を識別するための標題が入れられることもありました。その後、蔵書数の爆発的な増加とともに、本を識別するために背表紙に標題が入れられるようになりますが、題名を上から書くか下から書くかについては意見が分かれ、「英語圏の国々では、二十世紀半ばまで決着がつかず、イギリスで装丁された本は下から上へ、アメリカで装丁された本は上から下へ題名が書かれていた」ことが述べられています。
 本書には、その後、17世紀に壁を背にした「ウォール・システム」が取り入れられるようになったことを始めとする図書館のレイアウトの変遷の歴史が納められています。19世紀には、「本を一般の図書館利用者の目に触れない書庫に保管する」閉架書庫という考え方が実行に移されます。図書館の電化によって、書庫は自然光源を考慮せずに配置できるようになり、後に可動式書庫に発展して行きます。
 本書は、本好きの人ならば誰もが大変お世話になっている、しかし顧みられることの少ない本棚と図書館の歴史に目を向けさせてくれる一冊です。本書を一読した後は、見慣れた図書館の配置や本棚の造りが新鮮に見えるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 図書室が本で一杯になったときの対策の一つとして、本書では、知恵者の図書館司書が、「本をどんどん貸し出して、返却を滞らせるようにし向ける」という方法を取ることがあることを紹介しています。しかし、目録上は存在しているのに長年貸し出し中のままの本には泣かされているので、できればこの方法はお奨めしたくないものです。
 自宅の本棚が一杯になると、大きな本を奥に、小さな本を手前に並べてしまいますが、イギリス元首相のグラッドストンは、本の収納方法に確固たる持論を持っていて、「本の列の前にさらに本を並べて、問題を解決しようとしたり、ある程度の妥協をはかる連中すべてを、呪わしい者として」切り捨てたと言いますから、ちょっと我家にはお招きできそうにありません。
 また、本書には、書籍蒐集者の共通する悩みである、空間との戦いについて、「台所と食糧貯蔵庫の戸棚が、本棚スペースを獲得する戦いのために重用され、家族の食習慣まで変わることがある。陶磁器の代わりに紙皿を使えば、食器洗い機に本を入れてはいけない理由はもはやない。空の冷蔵庫は非常に貴重な本を入れる、すばらしい保管場所になる。」など、家中のどんなスペースでも本棚にしてしまう例を紹介しています。


■ どんな人にオススメ?

・日々不足する本棚のスペースと格闘している人。


■ 関連しそうな本

 ヘンリー ペトロスキー (著), 忠平 美幸 (翻訳) 『フォークの歯はなぜ四本になったか―実用品の進化論』 2005年12月31日
 ヘンリー・ペトロスキー (著), 忠平 美幸 (翻訳) 『ゼムクリップから技術の世界が見える-アイデアが形になるまで』
 ヘンリー ペトロスキー (著), 渡辺 潤 (翻訳), 岡田 朋之 (翻訳) 『鉛筆と人間』
 アン・ファディマン (著), 相原 真理子 (翻訳) 『本の愉しみ、書棚の悩み』
 ウィリアム ブレイズ (著), William Blades (原著), 高橋 勇 (翻訳), 高宮 利行 『書物の敵』


■ 百夜百音

スペクトラム伝説【スペクトラム伝説】 スペクトラム オリジナル盤発売: 2005

 「日本一のトランペット回し男」といえばやはりこの人。
 沢田研二の「渡り鳥はぐれ鳥」でもトランペット回していた記憶があるのですが、もはや20年以上前のことなので定かではありません。


『NON POLICY』NON POLICY

2006年3月11日 (土)

反社会学講座

■ 書籍情報

反社会学講座   【反社会学講座】

  パオロ・マッツァリーノ
  価格: ¥1,500 (税込)
  イースト・プレス(2004/06/20)

 本書は、いかに社会学者が適当な思いつきをこじつけて社会学的研究として世の中に悪い影響を与えているか、ということを社会学的手法を使って論じる、という社会学のパロディです。
 著者は、イタリア生まれの天然パーマで髭もじゃ(吉田戦車画伯の手による表紙を参照)で、九州男児を父に持つ幕張在住の大学講師とのことですが、やたらと日本語が上手です。
 本書の冒頭で紹介されている「キレやすいのは誰だ」は、web上でも紹介されているので、まずはそちらをお読みください。「凶悪な少年犯罪の増加」というマスコミ報道やワイドショーの論調が、いかに根拠のないものであるかを、戦後の凶悪犯罪のグラフを元に指摘し、戦後もっともキレやすい世代を昭和35年当時17歳だった現在の中高年世代であるとしています。つまり、今の若者はキレやすくなったと嘆く世代が一番凶悪だったということです。
 この他、
・公平な世の中を作るためには、成功した親の財産を食いつぶすバカ息子の存在が手っ取り早いこと
・「はたらけど はたらけど~」の石川啄木が貧しかった原因を芸者遊びが過ぎたためであることを指摘しながら、「日本人は勤勉」というイメージは戦後に作られた幻であること
・研修講師が多用する「メラビアンの法則」(見た目55%、話し方38%、内容7%)が研修講師によってねじ曲げられたでっち上げであること
・「ふれあい」という言葉が、二階堂進と福田赳夫によって役人に都合の良いダークサイドに落とされたこと
・ヨーロッパの若者は大学進学時に家を出て自立するというのは至れる尽くせりの援助によるものであること
・心理学者に逆らう者はすべて心に傷を抱えた精神異常者と見なされること
・すでにマンションに住んでいる住民が新たなマンション建設に反対することは現代版『蜘蛛の糸』のような話であること
・少子化問題と騒がれているのは、財界人達が「俺たち一握りのセレブのために安月給で働く労働者が減少しては困る」という庶民を見下した心配であること
・「仕事と家庭の両立」と言っているのは、程度に仕事ができて、まずいけど食えないことはない料理を作れて、洗濯機と掃除機の使い方は知っているという程度の器用貧乏でしかないこと
・社内でもいつ刺客が襲ってくるかわからないので、ビジネスマナーとしてお客様の心臓を保護するために左斜め前を歩かなければならないこと
等が紹介されています。
 ひとしきり笑った後で、「社会学者によると~」という研究成果とやらを疑ってみる目を持てるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書で一番印象に残ったのは、1972年に起こった「ふれあい求めてハンスト事件」です。これは、定時制高校の女性とが自殺したことにショックを受けた前の生徒会長が、
1.これ以上仲間を殺すな。
2.自分たちの利益を守ろう。
3.定時制の総点検。
の3つの要求を掲げてハンストを行ったという事件です。
 これに対する学校側の対応は、「要求がわからない」と困惑したものでした。そりゃそうですね。


■ どんな人にオススメ?

・社会学者と心理学者の言うことを鵜呑みにしやすい人。


■ 関連しそうな本

 A・K・デュードニー (著), 田中 利幸 『眠れぬ夜のグーゴル』 2005年12月25日
 ジョエル ベスト (著), 林 大 (翻訳) 『統計はこうしてウソをつく―だまされないための統計学入門』 2006年01月08日
 谷岡 一郎 『「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ』 2005年12月13日
 ダレル・ハフ (著), 高木 秀玄 (翻訳) 『統計でウソをつく法―数式を使わない統計学入門』 
 ゲルト ギーゲレンツァー (著), 吉田 利子 (翻訳) 『数字に弱いあなたの驚くほど危険な生活―病院や裁判で統計にだまされないために』 2006年01月14日
 ビョルン・ロンボルグ (著), 山形 浩生 (翻訳) 『環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態』 2005年09月19日


■ 百夜百音

Funky Magic【Funky Magic】 Jungle Brothers オリジナル盤発売: 2005

 ドラマがリメイクされて主題歌もMonky Majikなるバンドが担当していますが、そのバンド名の由来にもなっているのがイギリスで放送された「西遊記」の英語吹き替え版である『MONKEY』というドラマで、現地ではカルト的な人気を誇り、DVDも発売されているそうです。
 そんな人気を背景に、ゴダイゴの主題歌をサンプリングしたのがこのCDです。試聴もできるので元曲との違いを楽しんでみてください。

「Funky Magic」


『Monkey! - The Complete Series』Monkey! - The Complete Series

2006年3月10日 (金)

少子高齢社会のみえない格差―ジェンダー・世代・階層のゆくえ

■ 書籍情報

少子高齢社会のみえない格差―ジェンダー・世代・階層のゆくえ   【少子高齢社会のみえない格差―ジェンダー・世代・階層のゆくえ】

  白波瀬 佐和子
  価格: ¥3,990 (税込)
  東京大学出版会(2005/02)

 本書は、少子高齢化に代表される人口構造の変動が、社会保障制度などの社会システムに与える影響を、
(1)少子高齢化のマクロとミクロの2つのレベルとでの世代間関係の受容がパラレルに進行しているか。
(2)性別役割分業などのジェンダー関係は変化したか。
(3)社会経済的格差は拡大したか。
の3つの観点から分析するものです。
 日本の出生率の低さの原因については、「少子化は女性の高学歴化のせいである」という意見さえ出てくることがありますが、本書では、本書では、女性の学歴達成は就業行動についてのマクロデータの時系列変化が階層にどのような影響を与えるかを見ています。変化の一つとしては、高校進学率の上昇に伴う10代の若年層の労働参加率の低下と、それを補っている中高年女性のパートタイム動労者としてのブルーカラー職への吸収が示されています。
 また、「同類婚(homogamy)」や「内婚(endogamy)」など、階層論の中での結婚については、「同類婚・内婚が優勢な社会は、夫婦の似通った出身階層が結婚を通して再生産されて社会の階層構造をより硬直的に」する「階層の結晶化(social closure)」という概念を紹介した上で、「経済的にハンディがあり低学歴の男性が未婚にとどまり、今ある生活を捨てきれず結婚しようとしない豊かな高学歴女性が一方でいる」という構図を単純すぎるとした上で、男性については、出身階層とも関係していること等を指摘しています。さらに、結婚市場の閉鎖性に関しては、「階層結合に関しては出身階層よりも学歴との関係が強く、学歴間の同類婚傾向は低学歴層と高学歴層との間で相対的に強い。注学歴層については男女間で異なる学歴の結合パターンがあり、女性は高学歴層との学歴上昇婚、男性は低学歴層との結婚が相対的に強い傾向があった」ことを指摘しています。
 世帯の中の性別役割分業に関しては、性別役割分業観は、女性では自らの労働市場との関係が重要であるのに対し、男性では母親の就労や妻の就労が重要な要因であることが示されています。また、夫の家事参加や育児参加には夫の就労時間が重要な決定要因であることなども指摘されています。
 マスコミ的に「パラサイト・シングル」で話題になった成人未婚子に関しては、成人未婚氏が急激に増加したのはバブル期であること、パラサイト・シングルはリッチな層ではないこと、惜しげもなく子どもの世話を焼き続ける親の姿が強調される「子ども優先規範」は有意な効果を呈することがなく、子どもとの距離や性別・年齢などの属性、経済状況が重要であること、などが示されています。
 世代間支援に関しては、「第1子出産後も就労継続率が高い官公庁において、制度的な支援に加えて親族支援を利用する者の割合(68.5%)が最も高いこと」に着目し、制度的な支援だけでは限界があることを指摘しています。子育てをしながらキャリアを積む「エリート女性」の仕事と家庭の両立を支えている出身家庭からの支援が、階層再生産的行為とみなすことができると述べています。
 本書は、階層化の問題を分析する上で、ジェンダーや世代などの視点の重要性を気づかせてくれるものではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書のいくつかの分析の視点のうち、インパクトがあるのは、キャリア形成における母と娘の関係の重要性です。母と娘の密接な関係は、よく「一卵性母娘」と揶揄され、パラサイト・シングルを生み出す温床であるとして指摘されることがありますが、本書が指摘しているのは、高い学歴を持ち、高い収入を得ている「エリート女性」が、仕事と家庭の両立を図る上で、母親の関与が重要な要因であることです。これは、パラサイト・シングル論で指摘されている少子化とは逆の方向への作用です。
 このように、マスコミでセンセーショナルに報道される社会問題の裏に、逆の作用がないかをデータを元に検証するという視点の重要性を本書は教えてくれています。


■ どんな人にオススメ?

・社会格差の根っこにあるジェンダーや世代の問題に目を向けたい人。


■ 関連しそうな本

 白波瀬 佐和子 (編集) 『変化する社会の不平等―少子高齢化にひそむ格差』
 山田 昌弘 『希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』 2006年01月11日
 山田 昌弘 『パラサイト・シングルの時代』
 宮本 みち子 『若者が『社会的弱者』に転落する』 2005年05月04日
 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』 2006年02月14日
 佐藤 俊樹 『不平等社会日本―さよなら総中流』 2005年03月22日


■ 百夜百マンガ

東大一直線【東大一直線 】

 本当に絵が汚かった頃のよしりんの出世作です。少年ジャンプの凄いところはこういうヘタウマ路線を、マガジンやサンデーのようにアクセントとして四コマなんかで置くのではなく、メインディッシュに持ってきてしまうところではないかと思います。

2006年3月 9日 (木)

自動車絶望工場―ある季節工の手記

■ 書籍情報

自動車絶望工場―ある季節工の手記   【自動車絶望工場―ある季節工の手記】

  鎌田 慧
  価格: ¥580 (税込)
  講談社(September 1983)

 本書は、ルポライターである著者が、季節工としてトヨタ自動車の組立工場で実際に半年間勤務した経験を赤裸々につづったものです。
 著者は、出身地である青森県の職安を通じて、出稼ぎ労働者たちと一緒に名古屋からトヨタ行きのバスに乗り込みます。まず最初についた社宅「聖心和風寮」を見た著者のコメントは、「名前にそぐわず、収容所といった単語がぴったり。」というものです。最初に行われた身体検査では、「白衣を着た男が両端を開いてちょっと身体を傾けてぼくたちのひとりひとりを見ていた。まるで馬や牛の品定めのように。労働力として機能するかどうかを調べたのだ。屈辱的だ。」とも述べています。著者がどのような先入観・目論見を持ってこの工場に「潜入」したかを伺い知ることができます。
 トヨタの生産性を支える、というよりも工場では当たり前の「4S」に対しても著者のイチャモンは遠慮がありません。「ケガを防ぐには、せいり、せいとん、せいけつ、せいそう。労災を防ぐのは本人の心掛け次第ということなのか。」と疑問を呈します。どこをどう読んだらそのように受け止めることができるのか不思議です。
 本書が、工場労働の非人間性を伝えている、ということでよく引用されるのは、ベルトコンベアに関する以下の表現です。「さっきまで、ゆっくり回っているように見えたベルトのスピードは実際自分でやってみるとものすごく速い。」というものですが、ラインに着いた初日から問題なく感じられるようなスピードでは遅すぎると思ってしまうのは、企業側の考え方なのでしょうか。
 本書のあちこちには、著者が見つけた他の従業員たちの落書きが紹介されています。
・「ここに勤めて二〇年、いまだ車も買えず」
・「俺は金をもらえれば良いのだ」
・「トヨタマンは人間ではない。機械にすぎない」
 また、トヨタの社員たち(「無期懲役」とも書かれています)がいかに資本家に搾取されるかについても触れられています。トヨタの持ち家制度という住宅資金の借り入れに対して、「こうして結婚してまだ二〇代の労働者たちは、現場においては、資本の一方的命令であるコンベアに繋縛され、家庭では停年まで続く借金に拘束され、その全生活をトヨタ資本によって束縛されることになる。」と批判的です。また、終身雇用に関しても、「単純反復不熟練労働は、それに従事する労働者を企業から離れ難くさせる。一定の年齢に達し、一定の生活内容を作りそれを支える一定の賃金を受け取ると、もうかれはいまの企業から出れなくなる。その労働がどんなに退屈極まりないものであっても、いまの企業にいるからこそ通用するのであって、他の企業ではもう通用しない。」と、経済学の言葉で言う「企業特殊的技能」について解説しています。この解説自体は至極まっとうなものですが、これに続く、「かれは閉鎖社会の中で飼い殺しになる」や「人格さえ企業に都合のよいように再構成する。それはロボトミーの手術にも匹敵する」は大げさではないかと思います。
 著者と同室の「工藤君」は、期間満了を指折り数えながらも、体を壊して田舎に帰ってしまいます。彼が残していったカレンダーには、47日前から期間満了日のカウントダウンが書き込まれ、最終日には「期間満了」と大書きされています。著者は自分も枕元の壁のカレンダーに残った日数を数えていた述べています。
 本書は、世界中の生産業から目標とされている「トヨタ式生産システム」の実態を描いたルポルタージュとして著者の出世作になりました。工場で働いたことのない人にとっては異次元の話のように見えるかもしれませんが、生産現場では当たり前と思われていることをいちいち新鮮に(そして批判的に)書いていて、気づかされるものはあるのかもしれません。


■ 個人的な視点から

 本書を読んでいてまず感じることは、著者が何かと理由を付けては、手が痛い、頭が痛い、とグジグジと仕事の愚痴ばかり書き連ねていることです。しかも、それらに、「これはマルクスが述べている労働の××ではないか」等の蘊蓄が必ず添えられています。
 自動車工場における労働の非人間性を訴えたいという本書の目的や、1970年代という時代と考えると無理のないことかもしれませんが、どうしても想像してしまうのは、あーだこーだと理屈を付けては仕事をさぼりたがる学生運動崩れの左翼社員の姿です。イメージとしては、『美味しんぼ』の主人公である山岡が、料理の蘊蓄の代わりにマルクス様の御託を並べているような姿でしょうか。
 著者は自身がルポライターであることを隠して働いていましたので、同じ職場で働く同僚や上司からは、おそらくそのような人物に見えたのではないかと想像します。これをきっかけに正社員になりたい、と希望を持つ若者の中で、相当ウザイ存在であったことが目に浮かびます。


■ どんな人にオススメ?

・トヨタ式生産システムの裏側?を覗いてみたい人。


■ 関連しそうな本

 ギデオン・クンダ (著), 金井 壽宏 (監修), 樫村 志保 (翻訳) 『洗脳するマネジメント~企業文化を操作せよ』 2005年12月30日
 ロザベス・モス カンター (著), 高井 葉子 (翻訳) 『企業のなかの男と女―女性が増えれば職場が変わる』 2005年10月11日
 ジェフリー・K・ライカー (著), 稲垣 公夫 (翻訳) 『ザ・トヨタウェイ(上)』 2005年09月13日
 大野 耐一 『トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして』 2005年10月18日
 中沢 孝夫, 赤池 学 『トヨタを知るということ』 2005年08月05日
 佐藤 郁哉 『組織と経営について知るための実践フィールドワーク入門』 2005年11月25日


■ 百夜百マンガ

超人ロック【超人ロック 】

 「こち亀」の何巻か忘れましたが、「雪之丞変化」のエピソードで「紙切り頭」と呼ばれていたのが超人ロックに代表される髪型です。
 そういえば、「雪之丞変化」の回には過剰に詳細な注釈がつけられていましたが、当時流行った現長野県知事の人の作品のパロディだったのでしょうか?

2006年3月 8日 (水)

ハードワーク~低賃金で働くということ

■ 書籍情報

ハードワーク~低賃金で働くということ   【ハードワーク~低賃金で働くということ】

  ポリー・トインビー (著), 椋田 直子 (翻訳)
  価格: ¥1,890 (税込)
  東洋経済新報社(2005/06/17)

 本書は、英国『ガーディアン』紙のコラムニストである著者が、その身分を隠して、公営の福祉住宅に引っ越し、時給820円の最低賃金で40日間生活することで、英国労働者の3割を占める低賃金労働者が、職場訓練のない短期間の派遣労働力として、より高い収入と充実感のある仕事を得ることができるチャンスを閉ざされた生活を送っていることを告発したものです。著者は、恵まれた立場にいる人たちが使う「実力本位」という言い訳が通用しない、低賃金労働者が中流階級へ上るはしごは外されてしまっているという「暗い秘密」を白日の下に晒しています。
 著者が暮らすことになったクラムパークの公営住宅は、誰も借り手がなく外壁のあちこちに大穴が開き、階段には生ゴミの腐臭と小便の匂いがこもり、部屋のカーペットは得体の知れないシミや汚れだらけ、というひどいものでした。
 著者はまず、最寄りの職業紹介センターに出かけ、招待がバレルのではないかと冷や冷やしながら、エージェンシー(人材派遣事務所)を紹介してもらいます。そこで紹介された最初の仕事は、病院の運搬係でした。著者は、30年以上前にも、病院雑役係として働いた経験を持っていましたが、当時のセント・スティーズンス病院は、生活困窮者しか来ない、汚く、不親切で、陰気で、投げやりな病院であったと回想しています。しかし、当時は直接病院が採用し、採用に当たった人間が上司として働きぶりに責任を負っていたのに対し、エージェンシーに採用されて派遣された著者は、患者に触れることを許されません。もし患者が車椅子に移る手助けをしている時に落ちでもしたら、派遣会社が訴えられるので、契約書に書かれていないことはしてはいけないと厳命されます。このように、サッチャー政権が、公共サービスの競争入札制を義務化したために、NHSや地方自治体では臨時雇いが急増し、「余剰労働者を解雇するときの面倒な手続きをせずに、雇ったり首にしたりする『柔軟性』が手に入った」と述べています。しかも、競争入札はうまく働かず、「ほんの数社が数年後とに交替しつつ、パイを分け合う」状態で、「お上品な椅子取りゲーム」だと酷評しています。
 この他に著者は、給食のおばさんや国防省内の託児所、コールセンターのオペレーター、病院の清掃、ケーキ製造所、老人ホームなど、数多くの職業を体験しています。
 給食センターでは、契約書に書かれていれば生徒が食べなくても温野菜を出さなければならないこと、学校が休みの日には給料が出ないこと、大量に残った料理を「役得」として夕食に持って帰ることなどを体験します。
 また、飛び込みセールスの仕事では、「コールセンターや電話セールスの現場は現代の奴隷船だ。労働者が鎖ならぬヘッドホンでデスクに縛られている。」と、労働条件の低さとともに、電話の反復によって、抑鬱症、大音量に耐えられない等の「聴覚性ショック」が職業病となっていることを指摘しています。この仕事でのストレスの大きさは、「ときには小さな嘘も必要よ。いまは正直にしていたら損をする時代なんだから。」という同僚の言葉や、電話で断られる数々の罵詈雑言から窺い知ることができます。
 老人ホームの仕事では、規則に違反して老人を抱き上げなければならない実態に直面します。同時に、腕や腰を痛めても規則違反のため疾病手当てが支給されず、上司もそれを見て見ぬふりをしている、という矛盾に直面します。
 著者が暮らした、クラパムパーク団地の個性的な隣人たちも、本書の魅力の一つです。十代の息子は、四度カツアゲに遭います。近所の人たちもできるだけ係わり合いを持たないような生活をしています。むしろ、それこそが魅力でもあるのです。しかし、水漏れ事故をきっかけに、同じ階や上下の隣人たちの様子を伺うことができました。下の階の黒人女性や、スキンヘッドにピアス・刺青の強面だが気の弱いゲイの男性など、ちょっと訳ありの住人たちが登場人物として魅力的です。
 著者は、「労働者階級は再分化され、政治離れしたまま、大半が中流へと上っていった」一方で、低賃金労働者が、訓練を受けることができないために、「成功者へのはしご」を登ることができないことを訴えるとともに、それまで長年暮らしてきたロンドンの街の、劇場や画廊、レストラン、ブティックだけでなく、スターバックスや本屋、レストラン、カフェなど、他の人たちが生きている消費社会への「立ち入り禁止」の看板がかかっているようなものに豹変したことを、過酷なアパルトヘイトであると述べています。
 本書は、日本の社会格差の問題や、市場化テストなど公共サービスの民間参入の問題に関心のある人に、大きな示唆を与えてくれる一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 著者はいくつもの職に挑戦しようとしますが、中でも、MI6ビルのオフィス清掃の仕事に応募したエピソードが傑作です。身元調査がかかり、正体がばれてしまうのですが、後になって、『ガーディアン』紙の編集長が、MI6に呼び出され、「部下のひとりを機密調査部に潜入させようという露骨かつ粗雑な策略を試みた」と叱責されたというのです。
 また、国防省の託児所で働いたときには、普段のジャーナリストの仕事でよく訪れる場所だけに、顔見知りにあう可能性も高く、ピーター・マンデルソン(現欧州委員)とすれ違ったり、事務次官夫妻が託児所の視察に来たときの冷や冷やした体験を語っています。
 このあたりの、漫画的なおかしさも本書の魅力の一つなのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・「官から民へ」のダークサイドにも目を向けたい人。


■ 関連しそうな本

 市場化テスト研究会 (著), 本間 正明(監修・著) 『概説市場化テスト―官民競争時代の到来』 2005年10月07日
 南 学, 小島 卓弥 編著 『地方自治体の2007年問題-大量退職時代のアウトソーシング・市場化テスト-』 2005年08月22日
 八代 尚宏 (編集) 『「官製市場」改革』 2006年01月27日
 野田 由美子 『民営化の戦略と手法―PFIからPPPへ』 2006年01月30日
 ギデオン・クンダ (著), 金井 壽宏 (監修), 樫村 志保 (翻訳) 『洗脳するマネジメント~企業文化を操作せよ』 2005年12月30日
 鎌田 慧 『自動車絶望工場―ある季節工の手記』


■ 百夜百マンガ

幽☆遊☆白書【幽☆遊☆白書 】

 少年ジャンプのマンガにとって連載開始直後の設定やストーリーは、後のトーナメント戦までの「前菜」または「助走」に過ぎないのではないかと思ってしまいます。
 とは言え、多くの作品が「離陸」できないまま、10週という「滑走路」を使い果たしてそのまま海の藻屑となってしまうことを考えると、助走といえども侮るわけにはいかないのですが、「助走」段階の設定やストーリー展開、ギャグなんかを気に入っていた人にとっては、どれも同じようなトーナメントに陥ってしまうとつまらないものでした。治外法権は「両さん」くらいでしょうか。「こち亀」のトーナメントも見てみたくないこともないですが。

2006年3月 7日 (火)

コーポレート・ガバナンスと人的資本―雇用関係からみた企業戦略

■ 書籍情報

コーポレート・ガバナンスと人的資本―雇用関係からみた企業戦略   【コーポレート・ガバナンスと人的資本―雇用関係からみた企業戦略】

  小佐野 広
  価格: ¥2,100 (税込)
  日本経済新聞社(2005/09)

 本書は、ライブドアによるニッポン放送株の買い付けなど、一般の人々の間でもLBOやポイズン・ピルなどのファイナンス用語が使われるようになった中で、企業の不祥事や敵対的買収など、コーポレート・ガバナンスと労働組織・人的資本形成の関係を正面から取り上げる必要があるという問題意識に基づき、前著『コーポレート・ガバナンスの経済学』の続編的な位置づけで書かれたものです。
 著者は、よく言われる「株主価値(株主重視モデル)vs従業員価値(ステークホルダー・モデル)」という対比が、(1)背後にあるイデオロギー適用その影響を強く受ける、(2)企業価値の分配問題は企業全体の効率的な運営という目標の手段でしかない、(3)長期的な株主価値最大化とステークホルダー重視の議論と違いがないなど曖昧な議論になりやすい、という理由から不毛な議論を誘発しているとしています。その上で、「コーポレート・ガバナンスと人的資本の最適活用」を経済学的に考察する評価基準となりうるのは、「各企業構成員(経営者・中核的従業員・一般従業員)の人的資本水準(技能や熟練度の水準)や勤労意欲の動機付け水準が長期的な企業価値を最大化するようなレベルとして達成されるかどうか」という視点であるとしています。
 本書は、日本企業た直面する大きな問題として、(1)金融システムの変革、(2)生産技術や生産組織の変革、(3)人口構成や労働力の質の変化、(4)グローバルな国際競争の激化、(5)環境問題に対する取り組みの必要性、(6)企業不祥事の多発化とコーポレート・コンプライアンス、を挙げた上で、これらの外部与件の変化が企業のコーポレート・ガバナンスや労働システムに及ぼす影響に対して、雇用関係がどのように対応するかについて、(1)従業員に対する新たなインセンティブ・システム設計の必要性、(2)従業員の資産保護とインセンティブ・システム設計の整合性、(3)労働市場の流動化と内部昇進制、(4)企業不祥事と内部告発制度、の4つの観点から分析を行っています。中でも(3)に関しては、「従業員同士が暗黙のかたちで情報を共有しあう必要性が高く、また、当事者間のフェイス・ツウ・フェイスのファイン・チューニングが必要なために事前の擦り合せ能力に対する必要性の程度が高いタイプの産業の企業では、従業員の定着を促進するような労働システムを維持した方が望ましい」としています。
 第4章では、取締役会に関して、社外取締役に期待される機能はアドバイザーか経営者の監督にあるのかという問題や、株主価値を最大化するためには独立性の弱い取締役会を意図的に作ったほうがかえってガバナンス面では望ましいこと、などが論じられています。
 また、第5章では株式連動型報酬制度に関して、ストック・オプションの付与がもたらすと経験的にみなされている、(1)従業員の人的資本形成や勤労意欲への動機付け、(2)従業員の選別、(3)従業員の確保、(4)経営者の恣意性を抑える、(5)企業の流動性への効果、(6)節税効果、の6点のベネフィットに関してそれぞれ論じています。また、ストック・オプションの経営者への付与が、リスクの高い経営戦略の選択を不必要に促す意味でのモラルハザード行動を引き起こす可能性を述べています。さらに、第6章では、従業員持ち株制度に関して、(1)従業員への人的資本形成や勤労意欲への動機付けをどう与えるか、(2)従業員をコーポレート・ガバナンスの主要な担い手としてよいのかどうか、という2つの問題意識の元で論じています。
 本書はこの他、敵対的企業買収が従業員の企業特殊的人的資本形成に与える影響なども論じられています。
 本書は、『コーポレート・ガバナンスの経済学』と併せて、この問題に関する入門書として非常に要点を押さえたものではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書が出版されたのは、昨年の9月ですが、実にタイミングのよい?形でライブドア事件がおきました。おそらく著者も、予見はできても予測はしていなかったことではないかと思いますが、そんな意味でもライブドアという会社は本書の問題意識に実にピッタリあった会社ではないかと思います。
 特に、ライブドアに買収された企業の社員たちの人的資本形成に関する実証研究なんかが期待されます。以前、元山一證券の社員たちがどのように転職して行ったからを実証分析した研究がありましたが、「その後のライブドア社員」たちの研究もぜひ誰かやってほしいものです。


■ どんな人にオススメ?

・ライブドアの社員たちの動向に関心のある人。


■ 関連しそうな本

 小佐野 広 『コーポレートガバナンスの経済学―金融契約理論からみた企業論』 2005年02月23日
 伊藤 秀史, 小佐野 広 『インセンティブ設計の経済学―契約理論の応用分析』 2005年02月26日
 別冊宝島編集部(編) 『わかりたいあなたのための経営学・入門』 2005年01月26日
 伊藤 秀史 (編) 『日本の企業システム』 2005年04月24日
 ポール・ミルグロム, ジョン・ロバーツ (著), 奥野 正寛, 伊藤 秀史, 今井 晴雄, 八木 甫(翻訳) 『組織の経済学』 2005年01月24日


■ 百夜百マンガ

お父さんは心配症【お父さんは心配症 】

 今の言葉で言えば「ストーカーお父さん物語」なわけですが、当時はさくらももこと共作なんかもしてました。
 お父さんだからまだ微笑ましく笑えますが、「ダンナは心配性」や「彼氏は心配性」だとだんだん危なくなり、「見ず知らずの心配性」だと完全にストーカーです。

2006年3月 6日 (月)

翔べ!女性職員―自治体の明日を拓く元気なメッセージ

■ 書籍情報

翔べ!女性職員―自治体の明日を拓く元気なメッセージ   【翔べ!女性職員―自治体の明日を拓く元気なメッセージ】

  自治研修協会地方自治研究資料センター
  価格: ¥1,260 (税込)
  第一法規出版(June 2000)

 本書は、全国の自治体で活躍する34人の元気な女性職員たちのメッセージが収められたものです。
 「山より大きな猪の出た例しはない」という言葉を唱えながら、大阪府の生活文化部長として阪神大震災の災害対策本部事務局長の任に当たった藤井龍子氏は、女性職員が「ガラスの天井」を破って進むためのアドバイスとして、堀田力氏の著書から、以下の3点を紹介しています。
(1)モデルから盗め:なるべく多くの管理職先輩のやり方を観察し盗む。
(2)専門分野を持つこと:一所懸命に愛情と使命感を持って仕事に当たり、自他共に認めるその道の専門家になる。
(3)人間関係ネットワークを拡げる:公共部門はどうしても人間関係重視、人の和最優先の傾向が強い。
 本書に登場するメッセージには、いくつかの共通点があります。一つは、昇任試験や重要ポストへの抜擢をきっかけに自分のキャリアを意識したというものです。
 北九州市の長谷川氏は、補助的業務や窓口が女性職員の仕事だった時代に、係長昇任試験を受験し、係長の上に課長職がある、ということに始めて気づいたことを語っています。女性職員にはお手本となる先輩がいなかったのです。福井県の若林氏は、女性の吏員が皆無であった時代に、吏員昇任試験を受けた経験を語っています。
 福井県の有賀氏が、採用試験を受けた時には、「事務職A・B」の区分があり、女子は庶務を担当するB職しか受験できなかったことが語られています。これも、今の人には全く想像もつかない話でしょう。有賀氏は、偶然、総合農政課の予算担当を経験することでその後の人生が変わった経験を例に、若いうちに多くの経験をすべきこと、職員を「個人」として捉えることに意識的に慣れる必要があること、の二点を述べています。
 この他、
・異例の女性課長への抜擢:高木氏(豊田市)
・本庁事務職初の女性係長への抜擢:稲本氏(岡山県)
・係長から課長職への三段跳びの抜擢:植田氏(小田原市)
などの体験が語られています。
 もう一つのきっかけは、研修、特に自治大学など、組織を離れて長期間「同じ釜のメシを食う」タイプの研修です。
・自治大学校派遣:櫻庭氏(北海道)、宮本氏(広島県)
・市役所内の「社会人大学」:長田氏(岩国市)
・大学院への派遣:稲葉氏(埼玉県)→埼玉大学大学院政策科学研究科(現在の政策研究大学院大学の前身)、西澤氏(元広島県)→広島大学大学院国際協力研究科
・海外視察研修:原氏(鎌倉市)
 この他、堺市の肥田氏は急遽自治体女性管理監督者研修会の講師を引き受けたことをきっかけに学ぶ楽しさを知ったと語っています。
 女性職員が能力を発揮することは、組織としての能力発揮という意味で重要であることはもちろんですが、一人一人の人生としてミクロに語られた本書を読むと、人が自分の能力を活かすことができるということがいかに素晴らしいことかが伝わってきます。


■ 個人的な視点から

 北海道の櫻庭氏は、若い頃の思い出として、至急扱いの電報である「ウナ電」という言葉を、「うなぎのような長い電報」の略称だと勘違いして恥をかいた経験を語っていますが、FAXやメールが普及し、今の若い人(私も含めて)は「ウナ電」という言葉は聞いたこともないと思います。
 では、この「ウナ電」とはどんな意味なのでしょうか。
 「郵便局を256倍使うためのFAQ」によると、至急電報には英文で至急を意味するUR(Urgent) をつけていたのですが、「英文モールスのURは「・・-・-・」で和文モールスのウナ」ということで、「ウナ電」となったそうです。
http://www17.tok2.com/home/yukiko/postal/3-090.htm
 「/.jp」によると、同じようなものとして、
・「ムナ」(書留電報)
・「チラ」(追尾電報)
・「タラ」(夜間配達指定)
・「ヨナ」(翌朝配達指定)
等があるそうです。
http://slashdot.jp/mobile/05/05/07/2128217.shtml?topic=97


■ どんな人にオススメ?

・自治体の女性職員と
・女性職員と一緒に仕事をやっていきたい人。


■ 関連しそうな本

 佐野 陽子, 志野 澄人, 嶋根 政充 (編著) 『ジェンダー・マネジメント―21世紀型男女共創企業に向けて』 2005年12月06日
 ロザベス・モス カンター (著), 高井 葉子 (翻訳) 『企業のなかの男と女―女性が増えれば職場が変わる』 2005年10月11日
 赤岡 功, 長坂 寛, 渡辺 峻, 筒井 清子, 山岡 煕子 『男女共同参画と女性労働―新しい働き方の実現をめざして』 2005年09月08日
 佐藤 博樹, 武石 恵美子 『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』 2005年04月07日


■ 百夜百マンガ

ジーザス【ジーザス 】

 学園生活に紛れ込んだ血なまぐさい主人公、という設定はよく見かける設定ではあるのですが、この作品は、まさにそのギャップがメインの面白さです。ギャグマンガとかにもそういう過去を背負った先生とか出てきます。
 そういえば、『コブラ』も海賊であった過去と記憶を捨ててサラリーマンとして顔を変えて生きていた主人公として登場します。

2006年3月 5日 (日)

数の民族誌―世界の数・日本の数

■ 書籍情報

数の民族誌―世界の数・日本の数   【数の民族誌―世界の数・日本の数】

  内林 政夫
  価格: ¥2,730 (税込)
  八坂書房(1999/04)

 本書は、日本語と外国語における数の呼び方や語源、指の折り方など、数にまつわる様々なエピソードを紹介しているものです。
 著者は、諸外国で生活した経験から、日本人とアメリカ人の数字の使い方の違いを例に挙げ、「日本人は数字のきらいな国民である。きらいというと差しさわりがあるとすれば、数の使い方がきびしくないといいかえよう」と述べています。
 また、英語のhundredが、元々は十二進法の中で120を意味していたことや、洋数字の書き方におけるインドのすばらしい2つの発明(数字の位置に価値を与えた、ゼロを数字として認識した)等を紹介しているほか、中国の数を表す言葉である「十・百・千・万・億・兆・京・垓・穰・溝・澗・正・載・極・恒河沙・阿僧祇・那由他・不可思議・無量大数」や小数を表す言葉である「分・厘・毫・絲・忽・微・繊・沙・塵・埃・渺・漠・模糊・逡巡・須臾・瞬息・弾指・殺那・六徳・虚空・清浄」、十二進法が生まれた理由を、手を開いて親指で残りの4本の3つの節を数えたことであること等を紹介しています。
 さらに、世界各国の度量衡の起源を、
(1)腕の長さ、腰のまわりなど、人体の諸部分の寸法
(2)穀粒の長さや質量など、自然物のサイズ
(3)たる1杯の堆積など、道具のサイズ
(4)1日に歩くことのできる道のり、半日で耕せる農地の面積など、人や家畜の能力
(5)特定の周波数の音を発する笛の長さなど、物理法則
の5つであることを紹介しています。
 この他、フランスの数の数え方が、20から60までが十進法であるにもかかわらず、60から79までは六十進法、80からは二十進法になるという不思議なものであることの理由を、ケルト人の移住→ガリア地方のローマ化→ケルト語とラテン語の併用→ラテン語によるケルト語の吸収、というプロセスによるものではないかと推理していたり、中国では2000年からを21世紀とする、と考える人が数多くいることなどを紹介しています。
 本書は、普段何気なく使っている数に、それぞれの民族の様々な文化的な背景が反映されていることを教えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書は、元々は著者が文庫本サイズで自費出版したものが、数学の大家の目に留まるなどをして、3年後にこのような形で出版されたものだとのことです。著者は、武田薬品工業の研究者であり、本業の傍らで世界中の文献を収集し、そのうちの数に関するエッセイをまとめたものが本書です。本業とは全く別な方向に強い関心を持ち、玄人はだしの専門性を見につかられていることに驚かされます。


■ どんな人にオススメ?

・日頃使っている数の由来を知りたい人。


■ 関連しそうな本

 グレゴリー・J・チャイティン (著), 黒川 利明 (翻訳) 『セクシーな数学-ゲーデルから芸術・科学まで-』 2005年11月03日
 ポール ホフマン (著), 平石 律子 (翻訳) 『放浪の天才数学者エルデシュ』 2005年11月06日
 チャールズ サイフェ (著), 林 大 (翻訳) 『異端の数ゼロ―数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念』 2005年11月20日
 ブライアン バターワース (著), 藤井 留美 (翻訳) 『なぜ数学が「得意な人」と「苦手な人」がいるのか』 2005年11月13日
 A・K・デュードニー (著), 田中 利幸 『眠れぬ夜のグーゴル』 2005年12月25日
 E.T. ベル (著), 田中 勇 (翻訳), 銀林 浩 (翻訳) 『数学をつくった人びと』 


■ 百夜百音

夢の途中【夢の途中】 来生たかお オリジナル盤発売: 1981

 売れないミュージシャンにやっと訪れた千載一遇のチャンス、角川映画の主題歌、は、主演の小娘に奪われてしまいましたが、これがヒットしたおかげで作曲者にも光が当たりました。人間万事塞翁が馬です。
 当時は、アイドルが歌う映画主題化が幾つもありましたが、中には、安田成美の「風の谷のナウシカ」みたいに全く売れないばかりか、主題歌から格下げされたり、エンドロールでしか目にしなくなったりしてしまうものもありますので。
 もう一曲代表曲といえば、「セカンド・ラブ」でしょうか。これは本当に良いメロディです。最近、中森明菜とデュエットしたCDも出たようです。


『セカンド・ラブ』セカンド・ラブ

2006年3月 4日 (土)

考える「もの」たち―MITメディア・ラボが描く未来

■ 書籍情報

考える「もの」たち―MITメディア・ラボが描く未来   【考える「もの」たち―MITメディア・ラボが描く未来】

  ニール ガーシェンフェルド (著), 中俣 真知子 (翻訳)
  価格: ¥2,310 (税込)
  毎日新聞社(2000/03)

 本書は、「人間が機械のニーズに応じるのではなく、機械が人間のニーズに応じられる」という未来の姿を描くために、ヨーヨー・マのチェロにコンピュータのセンサーをつけたり、ウェアラブル・コンピュータを構想したりしている研究グループ「Things That Think」を率いる著者が、人間と機械との未来の関係について綴ったものです。
 著者は、万年筆やピアノが、その機能と密接に結びついた論理的でメカニカルなデザインを持っているために、ユーザーがそのテクノロジーを意識せずに使うことができるのと同じように、コンピュータもまた、そのテクノロジーを人間の側に近づけて目に触れない存在にするべきであると主張しています。
 その例として、著者はさまざまな「考えるものたち」を提案しています。
・中身を変えられる本:マイクロカプセル化した粒子と電極で覆われた「ラジオペーパー」と制御電極を埋め込んだ背表紙により、読み終わると新しい内容をダウンロード可能。
・パーソナル・エリア・ネットワーク(PAN):靴の中のコンピュータから、体内の電圧の変化を通じて腕時計内のディスプレイにデータを送る。
・パーソナル・ファルビケーター(個人用工作機械):プリンターのように、材料を組み合わせて「もの」を作り出す。
 著者はまた、「『もの』ユーザーの権利の章典」として、
・情報がほしいとき、ほしい場所で、ほしい形態で、入手できる。
・ほしくもない情報を送受信することから守られている。
・テクノロジーのニーズに気を配る必要なく、それを使える。
の3点を提案するとともに、「『もの』の権利の章典」として、
・アイデンティティを有す。
・接続できる。
・自分の環境の性質を探知できる。
の3点を合わせて提案しています。
 本書は、コンピュータに関する本でありながら、コンピュータそのものよりも、私たち人間と「もの」たちの関係に特化しているので、チェロにセンサーをつけたり、コンピュータのディスプレイを通して外の世界を認識したりと、コンピュータそのものに関心がなくてもワクワクできるものではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 「未来のコンピュータ」というと、何やらメカメカしいもの、例えば腕時計型であったり、眼鏡型ディスプレイであったり、脳に直接プラグを挿したり、というものをイメージします。私も昔、秋葉の若松で腕時計型コンピュータの「Ruputer」を2つくらい買って喜んでいましたが、いよいよ今年の3月にサポートが打ち切られるそうです。http://www.sii.co.jp/ruputer/support/support.html
 思えば、SIIのガジェットはトロン搭載のTipoにしてもそうですが、その少し外した感じがオタク心を誘います。


■ どんな人にオススメ?

・コンピュータの未来の姿を一緒に考えたい人。


■ 関連しそうな本

 マイケル ヒルツィック (著), 鴨澤 眞夫, エ・ビスコム・テック・ラボ (翻訳) 『未来をつくった人々―ゼロックス・パロアルト研究所とコンピュータエイジの黎明』 2006年02月19日
 ハワード ラインゴールド (著), 青木 真美, 栗田 昭平 (翻訳) 『思考のための道具―異端の天才たちはコンピュータに何を求めたか?』 2006年01月07日
 アラン・C. ケイ (著), 鶴岡 雄二 (翻訳) 『アラン・ケイ』
 西垣 通, フィリップ ケオー, A.M. チューリング, ダグラス・C. エンゲルバート, テリー ウィノグラード, ヴァネヴァー ブッシュ, J.C.R. リックライダー, テッド ネルソン 『思想としてのパソコン』
 佐藤 俊樹 『ノイマンの夢・近代の欲望―情報化社会を解体する』 2006年01月09日
 ケイティ ハフナー, マシュー ライアン (著), 加地 永都子, 道田 豪 (翻訳) 『インターネットの起源』


■ 百夜百音

Invisible Touch【Invisible Touch】 Genesis オリジナル盤発売: 1986

 たまたまカーラジオでタイトル曲がかかってましたが、もう20年前の曲なんですね。
 本来プログレバンドだった彼らが作ったポップなアルバム。
 プログレといえばキング・クリムゾンですが、梅沢富美男の「夢芝居」のイントロがパクリだという話もあります。


『ベスト : 夢芝居』ベスト : 夢芝居

2006年3月 3日 (金)

学校・職安と労働市場―戦後新規学卒市場の制度化過程

■ 書籍情報

学校・職安と労働市場―戦後新規学卒市場の制度化過程   【学校・職安と労働市場―戦後新規学卒市場の制度化過程】

  苅谷 剛彦, 石田 浩, 菅山 真次 (編集)
  価格: ¥6,300 (税込)
  東京大学出版会(2000/02)

 本書は、1948年に戦後の教育改革によって誕生した新制中学校の卒業者に、戦後発足した国営の職業安定機関がどのように関わり、新規学卒労働市場の需給調整が行われたのか、綿密なスケジュール管理に基づく職業への移行システムが確立されたのかを、実証的研究によって明らかにしているものです。
 戦後、義務教育の出口が新制中学に一本化され、1950年には159万人が中学校を卒業し、72万人が新制高校に、72万人が就職をしました。終戦後の大就職難の時代を経て、高度経済成長が始まることで、求職者の何倍もの求人が殺到し、「集団就職」という社会現象が発生しました。しかし、1960年代後半には高校進学率が上昇し、中卒就職者の絶対数が減少することで、企業の求人は中学から高校にシフトし、1975年には中卒就職者は7%を割り込みます。本書は、この四半世紀の間に起こった中卒就職を巡る制度の変化を、(1)大量の若年者の地域間移動がスムーズに行われた理由、(2)全国的な進路指導体制の確立や学校から職業への歓談のない移行メカニズムが成立した背景、という視点から検討しています。
 まず、新制中学校の誕生は、義務教育期間の延長(6年→9年)により、(1)卒業時の年齢上昇、(2)新制中学と公共安定所との共同による職業斡旋機能、の2つの点で農家子弟の他産業への流出に大きな意味を持ったことが述べられています。また、地域間移動という点では、1960年頃には、福島県の就職件数の65%、岩手県の54%が県外就職者であったことが指摘されています。産業構造の大変動期において、農家出身の新規学卒者の労働移動・地理的移動が労働力需要の期待に応えるものであったことと同時に、職業安定機関が大きな役割を果たしていたことが示されています。
 この職業安定所を媒介とした中卒者の地域間移動を支えたのが、「紹介あっ旋を全国的な広範な地域に亘り、且つそれを計画的に行う場合職業安定局が主催して開催する」という「全国需給調整会議」です。1921年の公営職業紹介所の設置から始まった公共職業紹介制度は、1938年の改正職業紹介法により国営化され、日本経済の計画化の一環として、全国的な労働力の動員・再配置の手段となっていきます。1947年の職業安定法により、「民主化」された職業安定行政は、同時に、「国民の労働力の需要供給の適正な調整を図ること及び国民の労働力を最も有効に発揮させるために必要な計画を樹立すること」を掲げています。また本書では、新規中卒者を巡る企業間競争の激しさの例として、「家族の慰安会」と称した企業による事前運動や、就職支度金の高騰などが紹介されています。
 こうしたマクロレベルでの労働力移動の分析と併せ、本書はミクロレベルの分析として、「全国需給調整会議」に一堂に会した「需要県」と「供給県」の職安職員が、どのように需給の調整を行い、どのように事業所への応募・受験・選考が実際に行われたかが述べられています。当時の問題の一つとして、「母子家庭」の生徒の就職が大変厳しく、労働省、職安、学校が苦慮している様が示されています。
 この他本書では、男子とは異なる特徴を持つ、女子中卒労働市場が制度化された過程の分析や、進学率の向上に伴う中卒者から高卒者への採用のシフトなどが分析されています。
 本書は、ニーと・フリーターなど、現代の若年者の、教育から職業への移行問題を考える上で、それまで所与のもののようにみなされてきた学校経由の就職がどのような経緯を持って制度化されてきたものなのかを知ることができる点で、雇用政策に関心を持つ人はもちろん、社会的格差の問題や教育の問題などの関心を持つ人にもぜひお奨めできる一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書では、中卒者を巡る企業間競争の例として家族への接待や支度金、従業員による地元への「手紙作戦」など様々な例が紹介されています。本書には紹介されていませんが、企業から職安職員や進路指導の教員への接待攻勢も相当あったものと考えられます。しかし、時が流れて、バブル期の就職を思い起こすと、企業の接待攻勢の対象は家族や職安、教員から個人にシフトしたのではないかと思います。大学生の就職は中学生とは全く異なるものではありますが、「リクルーター」として学校OBが後輩に会社の経費で高い食事を食わせ、「解禁日」には企業丸抱えで温泉や海外旅行など外界から隔絶した場所に「拘束」していました。この辺りの話は、1991年の『就職戦線異状なし』にユーモラスに描かれていますが、今の学生には何のことやら全く想像も着かないと思います(ついでに言えば、15年前に就職活動をしていた織田裕二が今でも「若手」公務員役をやっていることも驚きですが)。
 高度成長期の中卒者の労働市場が分析対象となった本書のように、いずれは、バブル期の大学生を巡る就職活動のバカ騒ぎも学術研究の対象になるのでしょうか(もう一部ではあるのかもしれませんが)。


■ どんな人にオススメ?

・学校経由の就職の起源を知りたい人。


■ 関連しそうな本

 本田 由紀 『若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて』 2006年03月02日
 樋口 美雄, 阿部 正浩, 児玉 俊洋 『労働市場設計の経済分析―マッチング機能の強化に向けて』
 玄田 有史, 中田 喜文 (編集) 『リストラと転職のメカニズム―労働移動の経済学』
 樋口 美雄 『雇用と失業の経済学』
 八代 尚宏 『日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済』 2005年03月23日
 金子修介(監督) 『就職戦線異状なし』


■ 百夜百マンガ

東京エイティーズ【東京エイティーズ 】

 音楽界では80年代ブームがありましたが、マンガの世界ではどうなんでしょうか。オールナイトフジの女子大生ブームなんかがあった80年代、若者文化の中心は大学生でしたが、おニャン子クラブ以降は低年齢化してきたような気もします。

2006年3月 2日 (木)

若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて

■ 書籍情報

若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて   【若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて】

  本田 由紀
  価格: ¥3990 (税込)
  東京大学出版会(2005/04)

 本書は、若者の<教育から仕事への移行(transitionfrom school to work)>をめぐる閉塞の原因を、「学校経由の就職」という独特な<移行>形式に求め、環境変化によって存続が難しくなっているその形式が、過去に「教育の職業的意義(レバレンス)」を損なってきたために<移行>の再編成が滞っていることを指摘するとともに、「教育の職業的意義」を高めるための教育システム改革を主張しているものです。
 著者は、教育―若者―仕事の三者間の結びつき方の枠組みを、日本では崩壊しつつある「学校経由の就職」から、「教育の職業的意義」を基軸に再定義することが、<教育から仕事への移行>の再設計に不可欠であると述べています。
 1960年代には支配的な慣行となっていた狭義・広義の「学校経由の就職」は、(1)経済拡大期の労働力人口の新規動員、(2)農村余剰人口であった農家の子弟が第2次産業の新規労働力プールとして機能しえたこと、(3)戦中・戦後を経た学校・職安が、新規学卒者の組織的・計画的・効率的な供給体制を整えていたこと、(4)進学率の急激な状況によって、高校以上の狭義の「学校経由の就職」(学校と企業の直接的な関係)への転換が生じたこと、によって形成されました。しかし、1990年代には、(1)労働力の年齢構成の変化(第1次・2次ベビーブーマー世代の存在による雇用需要の抑制)、(2)若年女性の就労行動の変化(男女雇用機会均等法の影響)、(3)サービス経済化と非正規労働力需要の増大、等を背景とした新規学卒者採用抑制の影響により、特に新規高卒者の労働需要が減少し、代わって四年制大学進学者が急増しますが、この影響で、新規大卒者中の「無業者」比率を20%以上まで押し上げています。
 また、1960年代にブルーカラーの供給源が新規中卒者から新規高卒者に代わった主な理由は、新規高卒者の知識・能力の高さではなく、進学率上昇による中卒者の激減と労働力確保競争のため、頭数として高卒者を採用せざるを得なかったため、であり、ここで重視されたのは、能力の高さではなく、「実社会でどんな仕事でも着く覚悟」であったことが述べられています。この高卒ブルーカラーの存在は、既存の中卒ブルーカラーとの関係において、企業にとっては「懐中にたえず爆弾を抱えているよう」な存在であったとされています。
 時代が進み、1990年代の高卒就職の変容に関しては、(1)「実績関係」(高校と企業の継続的関係)が1990年代半ば以降顕著に衰退していること、(2)この継続性の強さは、商業高校・工業高校・普通高校の順に強く、就職者比率が高い高校ほど強いこと、(3)校内選抜、企業による受容、成績・生活態度の日常的コントロールの範囲が狭まりつつあること、などが述べられています。
 本書の後半、第4章以降は、現代の若者、特に「フリーター」に焦点を当てています。マスコミなどは、新規高卒時のフリーターに着目していますが、著者は、そのようなフリーターは4分の1に過ぎず、残りの4分の3の層は、「高校以外の教育段階における『学校経由の就職』の限界や問題、あり右派より間接的ではあるが『学校経由の就職』が潜在的にはらんでいるより全体的・総合的な問題性の影響を被った人々である」と述べています。そして、(1)フリーターは進路意識・職業意識が「不明確」な場合だけでなく「きわめて明確」な場合にも生み出されること、(2)一般に認識されている以上に教育領域内部における移行の失敗の結果であることが多いこと、(3)学校の進路指導の難しさ、(4)労働市場要因の重要性(正規労働市場の縮小と非正規・特殊労働市場の拡大・魅力)、(5)安易な移行行動は慎重な移行行動欠如よりも後の悪影響を及ぼすこと、などを指摘しています。
 著者は、「学校経由の就職」が日本の「教育の職業的意義」(教育は人々にいったい何を教えているのか)にもたらした帰結について、「日本の主観的及び客観的な「教育の職業的意義」が、他の諸国と比べて顕著に低いこと」を指摘しています。そして、近年の若年雇用政策(労働市場自由化、インターンシップ、デュアル・システム、生涯学習、キャリア教育、ジョブ・カフェ等)が、若年労働市場の「アメリカ化」を目指すものであるとした上で、日本の教育の最大の課題を、その「職業的意義」をいかに回復するかにあるとし、高校教育の抜本的な改革として、「何らかの基礎専門に特化した高校へと再編すること」(国際、福祉、ビジネス、エンジニア、ライフサイエンス、芸術、情報、サービス等)を提唱しています。
 本書は、本人の意識や労働市場ばかりが問題になりやすい若年雇用問題について、より構造的な、<教育から仕事への移行>に着目している点で、重要な一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書は、普通なら無味乾燥な装丁になりやすい東京大学出版会の本の中にあって、非常に眼を引くものになっているのではないかと思います。それは、表紙に書かれた若者のイラストのインパクトの強さです。
 具体的には、よれよれのスーツを着て、ぼさぼさの髪に無精髭を生やし、くわえタバコの、眼に光のない悲壮感漂う若者のイラストが描かれています。「いくら何でも悲しすぎる!」と叫んでしまいそうなこの姿は、「自由」を謳い文句にフリーターを持てはやし、企業の非正規労働需要に応えてきたアルバイト情報誌に描かれているようなキラキラ輝いている一握りの若者たちの姿の陰に存在する、仕事への移行に失敗した数多くの若者たちの本当の姿を突きつけているように思われます。
 ちょうど、マスコミが「カリスマ美容師」等をもてはやす陰で、多くの若者たちが美容師を目指して挫折していく姿に重なるような気がします。


■ どんな人にオススメ?

・教育と労働政策の狭間にあるフリーター増加の原因を知りたい人。


■ 関連しそうな本

 苅谷 剛彦, 石田 浩, 菅山 真次 (編集) 『学校・職安と労働市場―戦後新規学卒市場の制度化過程』
 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』 2006年02月14日
 橘木 俊詔 『日本の経済格差―所得と資産から考える』 2006年02月10日
 玄田 有史 『仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在』 2005年07月20日
 山田 昌弘 『希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』 2006年01月11日
 宮本 みち子 『若者が『社会的弱者』に転落する』 2005年05月04日


■ 百夜百マンガ

ついでにとんちんかん【ついでにとんちんかん 】

 鴨川つばめの例を引くまでもなく、ギャグ漫画家の消耗ペースというのは非常に早いものだと感じます。
 80年代のジャンプの看板漫画家の一人だったこの人も今は何か書いているのでしょうか。
 通常、ギャグ漫画家としてデビューして徐々にシリアス系に移行していくのは、コメディ俳優が性格俳優に転じていくのに似ているような気がします。『光る風』のシリアス路線から『がきデカ』のギャグ路線に転じて小説家になっちゃった山上たつひこの例もありますが。

2006年3月 1日 (水)

雇用政策の経済分析

■ 書籍情報

雇用政策の経済分析   【雇用政策の経済分析】

  猪木 武徳, 大竹 文雄
  価格: ¥6,090 (税込)
  東京大学出版会(2001/07)

 本書は、労働市場機能や職業訓練、雇用保険、最低賃金などの雇用政策を、経済学、特に計量経済学の観点から実証分析したものです(1999年の第37回計量経済学研究会議での議論をベースにしています。)。それまで労働法学者と労働経済学研究者との相互が用いる概念や専門用語の共通理解が不足していたことの反省から、「この本が、雇用政策に関する経済学・法律学の考え方の相互理解、及び今後の雇用政策を考える上で双方にとって有益であること」が目指されています。
 第1章では、解雇権濫用法理という判例法によって行われてきた規制が、大企業を中心とした労働組合の存在を前提にしているため、組合の組織率が低くなった現在においては限界がある点を指摘し、整理解雇に関して解雇予告期間や解雇手当などを勤続年数別に規制するドイツ型の規制を中心にしていくことを提言しています。
 第2章では、創業支援に関して、就業条件に関する情報開示を徹底化するルールにより労働市場の透明性を高めることが、人材調達の効率化につながると述べるとともに、それまで自営就業に重要な役割を果たしてきた年齢と資産保有額のうち、家計のリスク回避態度の強化や経済サービス化や技術進歩により、年齢の役割が低下し、20~30代に比べて40~50代での自営就業の条件が相対的に不利になったことが指摘されています。
 第3章では、国家公務員の志望者に関する経済的要因を分析した結果、「不況年入省のキャリア官僚は有能」という通説を支持する結果は得られなかったこと、「第I種の入職は、給与格差以外の要因も重要」であるのに対し、「第II種、第III種への入職は、官民の給与格差によって倍率(競争率)が相対的に大きく変化するという点では、『経済的理由』で選択された職種」であること、等が指摘されています。
 第5章では、公共職業訓練に関して、市場における競争原理の欠如がもたらす非効率性を懸念するとともに、これらの訓練が、受講者の労働の質・生産性の向上、将来の就業率や就業中の賃金率などに与える効果の検証が行われていない点を指摘しています。これに関しては、スウェーデンでは、「政府機関で訓練を受けること自体が、能力の低さのシグナルになる」可能性のために、公共職業訓練プログラムへの参加が将来の失業確率を高める要因になるという実証研究があることを紹介しています。
 第6章では、女性社員のみに設けられた「総合職」と「一般職」というコース別採用が、採用時の応募者の仕事への姿勢や定着性向を見抜くための自己選択のメカニズムとして作用している点を指摘するとともに、仕事上の拘束性を緩め、個々人の主体性を尊重し、業績差や能力差を公平に査定していく自己選択、自己責任の働き方に変えていくことが、女性のみならず男性にとっても働きやすい職場環境を提供すると述べています。
 第7章では、仕事と家庭の両立支援制度に関して、「ファミリー・フレンドリー」という概念が米国で登場した背景として、(1)子供を持つ母親で雇用労働者として働く者の増加、(2)核家族・共働きへの家族形態の変化、(3)少子・高齢化、の3点を挙げています。
 第8章では、雇用保険制度に関して、勤労世代に対して向けられたモラルハザード対策の効果が、定年退職者に関しては効果が少ない理由として、(1)給付期間が被保険者期間に比例していること、(2)給付期間の算定要素として年齢が重要であること、(3)給付と賃金所得との「置き換え比率」の水準が高すぎること、の3点を指摘するとともに、失業給付の「退職金」効果によって、高年齢者の失業期間が長引いたり、失業給付の支給期間限度額一杯まで受け取った後に引退することが合理的な選択となってしまうこと等を指摘しています。
 本書はこの他、都道府県別のパート賃金と最低賃金の関係の分析や、労災保険認定の問題点などを分析した論文を収めています。
 元々が計量経済学のコンファレンスをベースにしているので、一部にデータの連続で読みにくいところもありますが、経済学者以外、特に労働法学者との相互理解を目指しているだけに、専門家以外でも読みやすいものになっているのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 労働経済学と労働法のアプローチの違いに関して、雇用調整のための解雇無効の裁判で、労働法の観点からは、労働者と企業の二者の利害得失のみを考慮する傾向が強いのに対し、労働経済学の観点からは、企業の解雇権を制限する判例法の確立が、他の企業における正社員の雇用を抑制してしまうというマクロに着目する、という例が紹介されています。
 どちらにも理のあることではありますが、実態としては、解雇無効を争うことができるのは労働組合がきちんと組織された大企業であることが多く、結果として大企業での正社員採用が抑制され、中小企業での整理解雇の歯止めにはなっていない、ということは皮肉なことではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・経済学の視点を身につけたい人。


■ 関連しそうな本

 八代 尚宏 『日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済』 2005年03月23日
 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』 2005年04月05日
 苅谷 剛彦, 石田 浩, 菅山 真次 (編集) 『学校・職安と労働市場―戦後新規学卒市場の制度化過程』
 樋口 美雄, 阿部 正浩, 児玉 俊洋 『労働市場設計の経済分析―マッチング機能の強化に向けて』
 玄田 有史, 中田 喜文 (編集) 『リストラと転職のメカニズム―労働移動の経済学』
 樋口 美雄 『雇用と失業の経済学』


■ 百夜百マンガ

失踪日記【失踪日記 】

 原稿描けなくなって逃げる漫画家の話は、昔から数多くありますが、自殺未遂からホームレスになり、拾われて身元を隠して配管工になり、アル中になって精神病院に強制入院させられ、還ってきてマンガ描いてる人はまずいないんじゃないかと思います。
 野生のダイコンとキャベツの話も笑いますが、警察署でサインを求める警察官の話は笑えません。自分もサインもらっちゃうかもしれないです。さすがに「夢」までは書かせませんが。
 ホームレスになってかえって太り、配管工になって筋肉パンパンになって帰ってきた作者を見た家族はさぞかし「どこで何してたんだ?」と不思議がったんじゃないかと思います。
 小説家や評論家なら、これだけの体験を暗く重い話にまとめると思うのですが、「全部実話です」の後ろに「(笑)」が付いてしまうところが、作者の飄々とした過激さなのではないかと思うのです。

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