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2006年4月

2006年4月30日 (日)

発明家たちの思考回路 奇抜なアイデアを生み出す技術

■ 書籍情報

発明家たちの思考回路 奇抜なアイデアを生み出す技術   【発明家たちの思考回路 奇抜なアイデアを生み出す技術】

  エヴァン・I・シュワルツ (著), 桃井緑美子 (翻訳)
  価格: ¥1995 (税込)
  ランダムハウス講談社(2006/01/27)

 本書は、古今東西の数々の発明家たちの、発明そのものではなく、発明に至る思考プロセスに着目して解説しているものです。
 著者は、「発明は芸術の創造性と相通じるところがあるのではないか」とした上で、「発明家のように発想する」ために、
・これはどんなしくみなのか
・どうしてうまく動くのか
・どんな発想をすればつくれるのか
・なぜどこかの誰かがもっと早くつくらなかったのか
・欠点はどこか
・どこを改良できるか
・もっと洗練させるにはどうするか
・なぜこうでなければならないのか
を問うことで見方を変えるのだと述べています。
 そして、発明家は「問題の解決がうまい人」と言うよりも、「問題の発見が得意な人」と考えるほうが適切であるとしています。
 現在、産婦人科で使われている超音波診断を発明したウディ・ノリスは、空軍で得ることができた航空機や気象観測のドップラーレーダーの技術を別の分野に応用することを思いつきますが、必ずしも世界は初めて超音波診断の基本概念を考え付いたわけではないことが述べられています。そして、「過去をふり返ると、時代を画するような発明の多くは、よく似た発見が相次ぐなかから生まれている」としています。
 最近、日本でも「セレンディピティ」という言葉が使われるようになりましたが、これに関しては、数学者のジョージ・ポリアの「発見の第一の法則は、頭脳と幸運を手に入れることである。第二の法則は、素晴らしいアイデアが浮かぶまで腰をすえて待つことだ」という言葉や、水中カメラとストロボ装置の発明などで知られるハロルド・"ドク"・エジャートンの「勤勉と忍耐力と注意深さ、そして型にはまらない発想が出合ったときにこそ、科学者はしかるべきときにしかるべき場所でセレンディピティを見出す」という言葉を紹介しています。
 発明家の特徴として、二つの世界をまたぐことが挙げられますが、本書は、二つの世界をまたぐことを的確に表した言葉として、アーサー・ケストラーの造語である「バイソシエーション(双連性)」という言葉を紹介しています。
 この他、発明に限らず仕事全般に言えることとして、失敗を糧にすることを、アップル・コンピュータの創業者の一人であるスティーブ・ウォズニアックの「全部ボツにしてしまうこともよくある――試して、試して、また試す、という繰り返しだ」という言葉を紹介しています。
 本書は、発明家の思考方法を身につけたいという人にとっては、格好のイントロダクションになるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書は、発明の4つのタイプを紹介しています。
(1)すでに利用されているものに欠点を見つけて改良するタイプ(コンピュータのフラットパネル・ディスプレイ、携帯用腎臓人工透析器)
(2)人が気づいていない可能性を見つけて生まれたもの(ウォークマンヤセグウェイ)
(3)大きな需要がありながら、それまでの試みでうまく行かなかった問題に斬新なアプローチで取り組んで実現するタイプ(電球や飛行機)
(4)発明した当人の想像以上に幅広い用途に使われるようになる場合(蒸気機関やレーザー)
 あくまで発明に関する記述ですが、仕事にも応用可能な考え方なのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・発明家の頭脳に憧れる人。


■ 関連しそうな本

 シャーマン スタイン (著), 冨永 星 (翻訳) 『数学ができる人はこう考える―実践=数学的思考法』
 ウィリアム パウンドストーン (著), 松浦 俊輔 (翻訳) 『ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?』 2005年11月11日
 板倉 雄一郎 『社長失格―ぼくの会社がつぶれた理由』 2005年12月23日
 G. ポリア (著), 柿内 賢信 (翻訳) 『いかにして問題をとくか』 2005年12月18日
 テッド・ヴァンクリーヴ 『馬鹿で間抜けな発明品たち』
 トニー ブザン (著), 田中 孝顕 (翻訳) 『人生に奇跡を起こすノート術―マインド・マップ放射思考』


■ 百夜百音

Pills 'n' Thrills and Bellyaches【Pills 'n' Thrills and Bellyaches】 Happy Mondays オリジナル盤発売: 1990

 1990年頃にマンチェスター・ムーブメントというのがありました。ストーン・ローゼスとか有名だったのですが、そのなかでも代表格がこのバンドです。
 最近になって当時のシーンを再現した映画にもなりました。


『24HOUR PARTY PEOPLE』24HOUR PARTY PEOPLE

2006年4月29日 (土)

ニッポンマンガ論―日本マンガにはまったアメリカ人の熱血マンガ論

■ 書籍情報

ニッポンマンガ論―日本マンガにはまったアメリカ人の熱血マンガ論   【ニッポンマンガ論―日本マンガにはまったアメリカ人の熱血マンガ論】

  フレデリック・L. ショット (著), 樋口 あやこ (翻訳)
  価格: ¥1470 (税込)
  マール社(1998/03)

 本書は、サンフランシスコ在住の作家、翻訳家、通訳で、日本マンガのフリークである著者が、永年にわたって観察してきた日本のマンガ、マンガ産業、そしてマンガを通して見える日本社会を記録したエッセイ集です。本書は、元々英語圏の読者向けに1996年に出版されたものを日本語に翻訳したもので、時期的には今から10年以上前の状況が紹介されています。
 著者は、「なぜ、日本人がこんなにもマンガが好きなのか」という疑問に、「日本人は、昔からマンガ好きな民族だったから」と答え、日本のマンガの源流を12世紀の「鳥獣戯画」に求めながらも(本書の冒頭には、「鳥羽僧正覚猷(1053-1140)の例にこの本を捧げます。」と記されています。)、その直接的な源流を、18世紀から19世紀初期にかけて盛んだった「鳥羽絵」と「黄表紙」であるとしています。そして、日本の「マンガ」と米国の「コミックス」の違いを、出版形式や価格などの他、より図解的であることなどとしています。そして、外国人にとってマンガをお奨めしたい理由として、「マンガを読むことは、『たてまえ』のむこうのありのままの日本文化を知ることだ」としながらも、なによりも、「マンガがひたすらおもしろいから。ただそれだけなのだ。」と述べています。
 本書は、日本のマンガの裾野の広さを表すものとして、「コミケット」や「スーパー・コミック・シティ」などのコンベンションを紹介するとともに、そこで販売される同人誌の作者でも読者でもある「オタク」についても言及しています。
 一方で、1990年代に問題になっていたオタクの犯罪としての「宮崎勤事件」や、マンガやアニメの影響を大きく受けた「オウム真理教事件」などについて触れるとともに、外国人からよく指摘される、「なぜ日本のマンガは、こんなに暴力とポルノだらけなんですか?」という疑問に対し、日本が米国に比べて犯罪の件数が少なく、日本におけるファンタジーと現実のギャップが大きいので、日本のマンガファンは、両者の区別をつけるのがうまい、という点を述べています。また、アメリカン・コミックが1950年代の政治的社会的要請を受けた過酷な自主検閲制度によって「無害化」されていったことにも触れています。
 また、1990年代前半に日本で巻き起こった「有害マンガ撲滅運動」が、家庭の主婦やPTA、フェミニストグループ、政治家を巻き込み、全国でわいせつマンガを追放する条例が制定され、多数の出版元や書店の主人が逮捕される事態になったこと、「有害雑誌回収ポスト」なるものが全国に設置されたことなどを紹介し、出版社が「自粛」を行い始めたことなどが述べられています。
 同様に、マンガの特徴である「戯画化」という点にたいして、「黒人差別をなくす会」という大阪の有田利二氏一家(有田夫妻と子息)を中心とするグループが、「日本のマンガには、アフリカ系の人々に対する否定的な表現があふれている」として、数多くの出版社と米国の宗教団体や市民団体に抗議活動を開始したことが述べられています。
 本書はこの他、日本のマンガ雑誌がどれほど細分化されているかを、小学3年生くらいをターゲットとした「コロコロコミック」から、女性向けの男同士の恋愛ストーリーが満載の「June」、麻雀、パチンコマンガ、「ヤンママコミック」、「ガロ」まで幅広く紹介するとともに、「注目すべき作家たち・作品たち」として、「ドラえもん」や「ナニワ金融道」などのメジャー作品から、花輪和一・丸尾末広や湯村輝彦などのマニアックな作家まで紹介しています。
 また、生前親交があり、アメリカでの通訳や案内を引き受けてきた手塚治虫の人物像や作品に関する解説も充実しています。
 本書は、350ページ近くあるうえに、文字は文庫本並に小さく、普通のレイアウトならば600~700ページにわたるのではないかという大著ですが、海外から見た日本のマンガの姿(それも凄くマニアック)をしることができる貴重な1冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書には、幕張で開催されていた「コミケット」が再び晴海に戻らざるを得なくなった事情についても言及されています。それは、全国的な「有害マンガ撲滅運動」の動きが、千葉県に波及し、「青少年健全育成条例」が改正されたことで、「有害な書籍や雑誌を青少年に見せたり売ったりすることまかりならぬ」ということになったからだということです。
 では、「有害」とは何か、と言えば、「県の説明によると、全紙面の20ページ以上にわいせつシーンが描かれている同人誌は、「有害」だそうだ」ということです。


■ どんな人にオススメ?

・外から見た日本のマンガ文化に関心がある人。


■ 関連しそうな本

 夏目 房之介 『マンガの深読み、大人読み』
 夏目 房之介, 宮本 大人, 鈴賀 れに, 瓜生 吉則, ヤマダトモコ 『マンガの居場所』
 中野 晴行 『マンガ産業論』
 手塚 治虫 『ぼくはマンガ家―手塚治虫自伝』 2005年05月28日
 大塚 英志, ササキバラ ゴウ 『教養としての〈まんが・アニメ〉』
 竹熊 健太郎 『マンガ原稿料はなぜ安いのか?―竹熊漫談』


■ 百夜百音

Yellow Fever【Yellow Fever】 Senor Coconut オリジナル盤発売: 2006

 YMOをラテンで演奏してしまうというものです。
 初めてYMOを聴いたときは、その不思議なサウンドに、子供心に未来っぽさを感じたものですが、生楽器で演奏すると曲そのものの魅力の高さがわかります。


『ナイス・エイジ』ナイス・エイジ

2006年4月28日 (金)

ファシリテーション革命

■ 書籍情報

ファシリテーション革命   【ファシリテーション革命】

  中野 民夫
  価格: ¥777 (税込)
  岩波書店(2003/04/05)

 本書は、「促進する」「助長する」「(事を)容易にする」「楽にする」という意味を持つ「ファシリテーション」によって、「支援し、促進する。場をつくり、つなぎ、取り持つ。そそのかし、引き出し、待つ。共に在り、問いかけ、まとめる」という役割を担うファシリテータについて書かれた本です。とくに、本書は、「ワークショップ」(参加・体験・相互作用を重視した学びや創造の場)の進行促進役である「ファシリテータ」に焦点を当てています。
 著者は、ファシリテーションが重要になる背景として、社会構造が、特別な権威者から上から下に知識や情報が伝達される「ピラミッド型社会」から、水平的な対等の関係の中で、同時活動方向に伝達される「ウェブ型社会」にシフトしていることを挙げています。ファシリテーションは、「そんな関係を取り持ち、引き出し、活性化していく」ことが期待されているというのです。
 本書が対象としている「ワークショップ」を、著者は「講義などの一方的な知識伝達のスタイルではなく、参加者が自ら参加・体験し、グループの相互作用の中で何かを学びあったり創り出したりする、双方向的な学びと創造のスタイル」と定義しています。定義としては、同じ言葉の繰り返しが入っていてやや冗長な気もしますが、それだけに著者の思い入れが詰まっていると言うことができるかもしれません。
 ファシリテーションの技術的な部分については、板書よりも便利でスピーディ、パワーポイントよりも手軽で親しみを持てる「紙芝居」という手法を紹介しています。この紙をペタペタと壁に貼りながら話をすることで重要なポイントを目と耳で伝えることができます。また、アイスブレイク(不要な緊張を解き、心身ともに居心地の良い関係を築いて、受け入れる準備を整える)の方法として、「呼ばれたい名前で一言自己紹介」という方法を紹介しています。
 また、ファシリテーションのテクニックとしての
・プッシュ:押せば自然に抵抗力を生み、押し返してくる。
・プル:引けば自然に引き込んで参加を促す。
の使い分けも解説されています。この使い分けが、ファシリテーターの腕の見せ所だと言うわけです。
 著者は、「結び」で、現在「ワークショップ」や「ファシリテーション」と呼ばれているものが、将来特別でもなんでもない当たり前のものになり、これらの言葉が死語になることを将来の目標であると述べています。
 本書は、ファシリテーションに関心を持ち始めた人にとって最適な入門書の一冊ではないでしょうか。


■ 個人的な視点から

 本書には、著者が掲げる「ファシリテーター8か条」が紹介されています。
「フ」:ふらっと現れふらっと去る。オイラは脇役、縁の下の力持ち。
「ァ」:ありようそのものが見られてる。その場そのときにしっかりと在れ!
「シ」:事前の準備は入念に。人事を尽くして、天命を待て!
「テ」:丁寧に耳を傾けよく聞こう、一人ひとりの多様さを!
「ィ」:一番大事な「場」を読む力。常に個と全体に気配りを!
「タ」:タイムキープはしっかりと。無理なく自然に、かつ容赦なく!
「ア」:遊び心、ユーモア、そして無条件の愛と信頼を忘れずに!
  なかなか無理のある語呂合わせではありますが、思い入れは伝わってくるようです。
 こういう、頭文字をつないだ「○か条」ものは、4~5文字くらいであれば何とかうまくつなげることができるのですが、8とか10とかになると結構無理のある言葉が混じるようになります。これから考えよう、と思っている人は、気を付けましょう。


■ どんな人にオススメ?

・「ファシリテーション」という言葉に関心を持った人。


■ 関連しそうな本

 堀 公俊 『ファシリテーション入門』 2006年04月24日
 堀 公俊 『問題解決ファシリテーター―「ファシリテーション能力」養成講座』
 古川 久敬 『チームマネジメント』
 柴田 昌治 『なぜ会社は変われないのか―危機突破の風土改革ドラマ』


■ 百夜百マンガ

THE3名様【THE3名様 】

 最高級のヌルさを持った作品でしたが、実写のDVDとして人気を集めているようです。
 数ページのギャグマンガの実写化も珍しいのではないかと思います。
 ところで、実写といえばまだちびまる子ちゃんの実写は見ていません。

2006年4月27日 (木)

リストラと転職のメカニズム―労働移動の経済学

■ 書籍情報

リストラと転職のメカニズム―労働移動の経済学   【リストラと転職のメカニズム―労働移動の経済学】

  玄田 有史, 中田 喜文 (編集)
  価格: ¥3,150 (税込)
  東洋経済新報社(2002/10)

 本書は、「クビ斬り」というイメージが先行している「リストラ」という言葉や、「流動化」という面だけが強調されている「転職」の実態を、経済学の立場から客観的に捉えることを目的とするものです。
 まず、「リストラ」という言葉とすぐに結びつく「中高年」の離転職に関して、これまで大企業の雇用調整の受け皿となってきた「出向」が飽和状態になったことや、ホワイトカラーがそれまで蓄えてきた能力の急激な陳腐化により、外部労働市場においても価値が低下したこと、中高年の離転職にとって重要な役割を果たしてきた前の会社による再就職の斡旋が抑制されてきたこと、本人の自助努力による能力開発だけでは再就職が極めて困難であること、等が述べられています。また、スムーズな転職に必要なものとして、人的ネットワークの重要性が指摘されています。
 また、中高年の再就職のためには、本人の転身マインドの高さが重要であることを述べた上で、
(1)本人の転身・やり直しの前向きな気持ちを高める事前の努力。
(2)正確情報などの私的情報が本人と受入企業との間で自然・自律的に交換される仕組みを設けることで逆淘汰の発生を防止すること。
が重要であることを指摘しています。
 この他、年功的処遇と雇用に関する分析では、年功的処遇が、怠業の防止、企業特殊熟練投資、技能継承の効率性などのメカニズムを通じて企業業績を高めることが、間接的に雇用を下支えする効果を有している、というロジックが示されています。また、若年失業の問題では、「たまたま不況期に学校を卒業した『世代』では、不満足な仕事に就く人が多くなる。そうなると、彼らは不満を抱えているがために、将来離職する可能性が高まり、離職率を引き上げる。逆に、好況期に学校を卒業した『世代』は、自分の満足のいく仕事に遭遇する確率が高まるので、将来転職のために仕事をやめる必要が少なくなる。」という「世代効果」が紹介されています。
 本書は、「中高年リストラ悲哀!」等のように、とかく極端なケースが紹介されることが多いリストラと転職の問題について、客観的に見ることができる視点とデータを提供してくれる一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 よく報道されていた「リストラされて路頭に迷ったサラリーマン」の話を詳しく見てみると、住宅ローンや子供の学費が払えない、という話が多くあることに気づきます。本人にとっては切実な問題ではあると思うのですが、後から他人の目で見ると、将来の自分の収入を過大(一生給料は安定して上がり続ける)に見積もって、身の丈に合わない高い買い物をして借金をこしらえてしまった、と見えてしまいます。
 最近はリストラ中高年報道は飽きられたのか、同様な話は「成果主義批判」の報道の中に見られるようになりました。最近の例では、賃金が年功制から成果主義に変わった結果、住宅ローンと子供の学費が払えなくなった、という報道がされることが多いです。
 そもそも昔は、親元を離れて私立の大学に子供を通わせるなんてことは、相当の金持ちでないとできないことだったのですが、「大企業や役所に勤めていれば住宅ローンを払いながら子供を私学に通わせることができる」ことがいつから当たり前のことになったのでしょうか。パチンコや浪費で作った借金は「自業自得」とみなされ、身の丈に合わないローンを組んだ住宅や子供の学費のための借金が「悲劇」と見なされるのには釈然としないところがあります。


■ どんな人にオススメ?

・リストラと転職の実態に関心がある人。


■ 関連しそうな本

 猪木 武徳, 大竹 文雄 『雇用政策の経済分析』 2006年03月01日
 樋口 美雄 『雇用と失業の経済学』
 八代 尚宏 『日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済』 2005年03月23日
 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』 2005年04月05日
 樋口 美雄, 阿部 正浩, 児玉 俊洋 『労働市場設計の経済分析―マッチング機能の強化に向けて』 2006年04月14日
 梅森 浩一 『「クビ!」論。』 2005年06月02日


■ 百夜百マンガ

恐怖新聞【恐怖新聞 】

 「読むと100日寿命が縮む」という恐怖新聞。7回読むと2年縮むと換算すると、1年読んだら100年縮む計算になります。つまり、長期連載に向かないのでしょうか。
 問題は、日刊かどうか、というところですが、毎日窓ガラスやら網戸やらを壊されたらそちらの方が大変です。

2006年4月26日 (水)

情報編集力―ネット社会を生き抜くチカラ

■ 書籍情報

情報編集力―ネット社会を生き抜くチカラ   【情報編集力―ネット社会を生き抜くチカラ】

  藤原 和博
  価格: ¥1,575 (税込)
  筑摩書房(2000/03)

 本書は、「何がほんとうに、二十一世紀に生きるわが子の"生きるチカラ"につながるのか?」という著者の疑問を、教育と外の世界とのエッジで活躍する6人との対談の中でぶつけているものです。
 トップバッターの松岡正剛氏との対談では、本書のタイトルともなっている「編集」という言葉を、「ある情報に対して、その情報を意味づけ、別の形で再生しなおす作業」という定義づけを行っています。これは、一般に使われる雑誌などの「編集」に限らず、回転寿司も編集的であると広く解釈されています。すなわち、「回転寿司では、色々ある素材の中からその日のネタを仕入れてくるわけでしょう。しかも、客の入りや好みを判断しながら、ネタの種類を選び、数を調整し、出す順番を考えて、色々のセットを皿ごとに組み合わせて、タイミングよくコンベアに載せていく。これはもう立派な編集です(笑)。」と述べられています。
 また、キリスト教と武士道の共通点も指摘されています。そして、武士道に愛を加えたものが、明治の日本の私学の学校教育のスピリットになって言ったことが述べられています。
 さらに、松岡氏の持ちネタの一つではありますが、『シンデレラ』の物語は世界中に800ものバージョン違いがあって、信濃川流域にも62のバージョンがあることが紹介されています。この人間が持っている物語の「母型」を「物語回路」(ナラティブサーキット)と呼び、人間がバラバラの情報をまとめるためのモデルであるという仮説を述べています。
 松岡氏との共著も多い金子郁容慶應幼稚舎長との対談では、教育する側が意図的に刺激を与え、自発的反応を受け止める場を作るために、フィードバックとしての評価の必要性が述べられています。そして、本書のタイトルである「情報編集力」を、「どうやって情報をオーガナイズ(組織化)していくか、自発的に情報を出すことをどうやってモチベート(動機付け)していくか」であると述べています。また、その具体的な手法として、慶應幼稚舎で導入している「2+1」ゲームを紹介しています。
 佐伯胖氏との対談では、日本の教育が、先生対子供の番傘的なコミュニケーションになっていて、「いい授業というのは、お釈迦様が掌の上で動かすように子供を動かすことだ」と思われているという問題を指摘しています。そのため、日本の教師は、毎晩遅くまで残って教材研究をしていますが、最近の学校では、その方法が通用しなくなっている、熱心な先生のクラスほど学級崩壊が起きやすいことが述べられています。
 この他、ポケモンゲームの育ての親である香山哲氏や、小学校時代は4月中に勝手に教科書を終わらせて、後は池袋のゲーセンに入り浸って賭けゲームをやっていた、という高城剛氏、ストライキに参加して無断欠勤した小学校の担任に、「あなたは僕たちに迷惑をかけたのみならず、他の先生にも迷惑をかけた。日頃、あなたが僕の遅刻を注意しているのに矛盾するじゃないか」と指摘して徹底的に対立した鈴木寛氏といった個性的なメンバーとの対談が収められています。また、それぞれの章末には、コンピュータを使った教育の実験の模様がコラムとして収められています。
 本書のまとめの言葉として、著者は、子供たちに贈るべき「生きるチカラ」を、
「それは、"ゲームするココロと、ネットするチカラ"ではないだろうか。」
とまとめています。
 本書は、教育と情報に関心のある人はもちろん、読み物としても楽しく読める内容になっています。


■ 個人的な視点から

 本書の第6章で登場する鈴木寛氏は、クリエイティブな人間の基準を、「ザリガニとクワガタをとったかどうか」であるとしています。鈴木氏は、「ザリガニとったことがない人は一緒にクリエイティブな仕事をする相手としていかがかくらいに思っている」、「ザリガニとりもクワガタとりもものすごく奥が深いんです。メダカでもいい。ようするにクリエイティビティというのは無限の選択肢の中からの編集だから。」とまで強調しています。
 これで思い出したのが、「ウゴウゴルーガ」のウゴウゴ君役の田島秀任くんは、オーディションでどんな遊びをしているかを聞かれ、「オラ、ザリガニ取りだ」と言って合格したという伝説があります。やはりクリエイティブとザリガニは切り離せないようです。


■ どんな人にオススメ?

・生きるチカラを考えたい人。


■ 関連しそうな本

 藤原 和博, 天野 一哉 『民間校長、中学改革に挑む』 2006年04月07日
 藤原 和博 『公立校の逆襲 いい学校を作る!』 2005年06月17日
 藤原 和博 『サクラ、サク』 2005年12月04日
 藤原 和博 『世界でいちばん受けたい授業―足立十一中『よのなか』科』
 大島 謙 『高校を変えたい!―民間人校長奮戦記』 2006年02月13日
 吉田 新一郎 『校長先生という仕事』 2006年02月15日


■ 百夜百マンガ

聖闘士星矢【聖闘士星矢 】

 『リングにかけろ』や『風魔の小次郎』の世代にはちょっと付いていけない盛り上がりをしていました。

2006年4月25日 (火)

14歳からの仕事道

■ 書籍情報

14歳からの仕事道   【14歳からの仕事道】

  玄田 有史
  価格: ¥1260 (税込)
  理論社(2005/02)

 本書は、労働経済学の研究者である著者が、「14歳、中学2年生くらいの読者をイメージしながら、仕事の道を自分の足で歩いていくために、今のうちにぜひ知っておいてほしい『働くことの本当』」を述べたものです(ルビの多さには読むのが疲れますが、「若者」や「自身」にまでルビが必要でしたっけ?)。
 著者は、仕事に関する情報が増え過ぎたせいで「やりたいこと、選びたいことが見つけにくく」なり、「むしろ、多様化よりも画一化のほうが進んでいるようにさえ」感じると述べています。そして、『13歳のハローワーク』を現した村上龍氏の、「あの本では、好きなことを仕事にしたほうがこれからは有利に生きられるとは書いたけれど、好きなことややりたいことがなければダメなんだとか、書いたつもりはない」という発言を引用しています。
 また、企業が求める人材として、すぐに通用する資格や語学力などを身につけた「即戦力」のある学生が求められている、という発言をする人に対して、「本当に働くということがわかってないんだなあ」という憤りを感じると述べています。そして、「大学の時に即席で身につけた知識なんて、あっという間に時代遅れになって役に立たなく」なる、「大学の使命は、ワケのわからん真実を、本気になって学生の一人ひとりに伝えようとすること」である、としています。
 著者は、日頃禁句にしている言葉として、「頑張る」、「忙しい」、「普通」という3つの言葉を挙げています。1つ目の「頑張る」という言葉に関しては、これでエネルギーが湧いてくるのは、「今やっていることを続けることが、最大唯一の目標としてはっきり定まっているとき」だという村上龍氏の言葉を引用しています。2つ目の「忙しい」は、「忙しさを言い訳にしていると、本当に心の余裕がなくなってくる」からだそうです。3つ目の「普通」という言葉を軽々しく言っていると、「自分を狭い型にはめ込んでしまったり、人を勝手なイメージに決め付けてしまう」ことがあるからだそうです。
 最近のビジネス書コーナーに躍っている、「自分らしく生きていくことが大事」や
「他の誰でもないオンリーワンの存在になることが大切」というメッセージに対しては、「個性的な生き方ができたり、専門的な能力が持てれば、それはいいだろうなあ」と思うとしながらも、個性や専門性などなくても十分に充実した人生を送ることができること、「本当の個性や専門性なんて、そんなに簡単に見つかったり、得られるものでは絶対にないんだよ」という意見を述べています。社会のなかの「個性的であれ」、「専門的な能力が必要」、「即戦力志向」という風潮に惑わされることがないように、という主張は、著者の他の著書でのメッセージに共通している大きなテーマです。
 この他本書では、年功賃金と成果主義賃金の話や、「働くことの誇り」について述べられています。なかでも、ある長距離トラックの運転手が、体調を万全にするため、「毎朝しっかり時間をかけてトイレで用を足してから出ないと車に乗らない」と決めているという話は、「働くことの誇り」を伝える良いエピソードだと思います。また、シンガポールの大型施設建設プロジェクトの責任者を任された人が、トラブルの連続に見舞われた中で、「これから先、どんなことが起こっても、とにかく開き直ることにしよう。でも、あきらめることだけはやめよう。」と決心し、成功に導いた、というエピソードも良い話です。
 本書は14歳に向けられて書かれたものではありますが、ぜひ、社会人や大学生、特に「個性的」「専門的な能力」「即戦力」という言葉に過剰に不安を持ってしまいがちな20代の社会人にこそ読んで欲しい1冊です。


■ 個人的な視点から

 著者は、学生やその両親が、安定を求めて公務員を志向することに対し、「安定を求めて公務員になると不幸になるよ」と語っています。「たくさんある職業の中で、これからいちばん変わっていくもの、変わらなければやっていけないもの」が公務員であるとした上で、「自分の所属する組織がまちがいなく変わっていく、それがどんな変化なのかわからないけど、とにかく不安定でもいいから、働きながら変化すること自体を楽しんでみたい、って心の底から思える人だけが公務員に向いてる」という著者の言葉は、これから就職する学生だけでなく、ぜひとも現職の公務員に聞いてもらいたい言葉だと思います。


■ どんな人にオススメ?

・「働くことの本当」を知りたい人(大人含む)。


■ 関連しそうな本

 玄田 有史 『仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在』 2005年07月20日
 玄田 有史 『ジョブ・クリエイション』 2005年11月09日
 玄田 有史, 中田 喜文 (編集) 『リストラと転職のメカニズム―労働移動の経済学』
 ダニエル ピンク (著), 池村 千秋 (翻訳), 玄田 有史 『フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか』 2005年02月02日
 玄田 有史, 曲沼 美恵 『ニート―フリーターでもなく失業者でもなく』
 本田 由紀 『若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて』 2006年03月02日


■ 百夜百マンガ

喰いタン【喰いタン 】

 「クイタン」と聞くと麻雀の方を思い出してしまうのですが、「大喰い探偵」の略でした。
 『ミスター味っ子』の読者も歳をとったということでしょうか。

2006年4月24日 (月)

ファシリテーション入門

■ 書籍情報

ファシリテーション入門   【ファシリテーション入門】

  堀 公俊
  価格: ¥872 (税込)
  日本経済新聞社(2004/07)

 本書は、問題解決や合意形成を促進する技術としてアメリカで生まれた「ファシリテーション」を、日本の分化や組織風土に馴染みやすい面があり、日本企業の新たな競争優位性になる力を秘めたものとして紹介しているものです。
 本書のタイトルである「ファシリテーション(facilitation)」とは、「集団による知的相互作用を促進する働き」であると定義されています。著者は、ファシリテーションのベースにある考え方として、「個人の集まりとして組織を動かそうという『構造(システム)的なアプローチ』ではなく、人と人の相互作用の集まりとして組織を考える『関係(プロセス)的なアプローチ』がこれからは重要に」なってくることを挙げています。また、今までのリーダーが、コンテンツとプロセスの双方に強い指導力を発揮していたのに対し、ファシリテーターは、「コンテンツはメンバーに任せ、プロセスのみにイニシアティブを発揮」するという点が特徴であるとしています。
 ファシリテーションがもたらす効果としては、
(1)成果に達するまでの時間を短縮する。
(2)メンバーの相乗効果(シナジー)が発揮できる。
(3)メンバーの自律性を生み、個人を活性化する。
という3点が挙げられています。
 ファシリテーションには、(1)問題解決型、(2)合意形成型、(3)教育研修型、(4)体験学習型、(5)自己表現型、(6)自己変革型の6つのタイプに分けることができ、本書は、(1)の問題解決型を中心に解説しています。
 本書は、ファシリテーターに求められる技術として、
(1)場のデザインのスキル――場をつくり、つなげる
(2)対人関係のスキル――受け止め、引き出す
(3)構造化のスキル――かみ合わせ、整理する
(4)合意形成のスキル――まとめて、分かち合う
の4つの技術を挙げ、本書の3~6章は、それぞれのスキルの解説に充てられています。
 「場のデザインのスキル」としては、場をデザインする5つの要素として、(1)目的、(2)目標、(3)規範、(4)プロセス、(5)メンバーの5つが挙げられています。また、ファシリテーションで用いられる「アイスブレイク」の種類として、
(1)メンバー同士が知り合うことに焦点を当てたもの:「他己紹介」など
(2)体をほぐすことで緊張を解くもの:「キャッチ」や「動作の足し算」など
(3)アイスブレイクを通じて何か学びがあるもの:「流れ星」など
の3種類があることが述べられています。
 「対人関係のスキル」としては、話し手に対する効果的なフィードバックである復唱の方法として、
(1)話しの最後の言葉(語尾)を繰り返す。
(2)話のなかで出てきたキーワードを返す。
(3)話を自分の言葉でまとめて返す。
というテクニックがあることが紹介されています。また、メンバーの関係を促進する方法として、翻訳や仲介(発言をわかりやすい形に表現し直したり、他のメンバーの発言を促す)等が紹介されています。
 「構造化のスキル」としては、問題解決の基本を「分ける」こと、すなわち、「大きな問題や複雑な問題は、そのままでは人間の理解の範囲を超えてしまい、どこから手をつけてよいのか分からなくなる」ため、「本質的なものとそうでないものの区分け」をしやすくするために小さな問題に分けることであることが述べられています。具体的なテクニックとしては、「議論を描く技術」である「ファシリテーション・グラフィック」という手法が紹介されています。これには以下にあげる4つのパターンがあり、状況に応じて使い分ける必要があることが述べられています。
(1)モレなくダブリなく整理するツリー型
(2)重なりが新たな発想を生むサークル型
(3)複雑なつながりを整理するフロー型
(4)一刀両断に議論を切るマトリクス型
 本書は、ファシリテーションに関心がある人にとっては、最適な入門書のひとつではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 著者は、「場のデザインのスキル」に関連して、決めておくべき「グランドルール」の例を列記しています。
(ワークショップ10か条)
(1)聖域をつくらない
(2)縄張り意識を持たない
(3)相手を非難しない
(4)肩書きや立場を忘れる
(5)愚痴や文句を言わない
(6)人の話をよく聞く
(7)最後まであきらめない
(8)思い込みを捨てる
(9)強がりを言わない
(10)楽しく議論する
 ファシリテーションのバリエーションのひとつとして、「オフサイトミーティング」という「気楽に真面目な話をする会」というものがありますが、この際にも、ミーティングの最初に、この10か条に近いものを説明しています。


■ どんな人にオススメ?

・解決したい問題を抱えている組織の人。


■ 関連しそうな本

 中野 民夫 『ファシリテーション革命』
 堀 公俊 『問題解決ファシリテーター―「ファシリテーション能力」養成講座』
 古川 久敬 『チームマネジメント』
 柴田 昌治 『なぜ会社は変われないのか―危機突破の風土改革ドラマ』


■ 百夜百マンガ

かりあげクン―ほんにゃらゴッコ【かりあげクン―ほんにゃらゴッコ 】

 新聞マンガを描いているせいか、すっかりほのぼのイメージの人になってしまいましたが、昔ならば、石井ひさいちとこの人が朝日と読売の4コマを書いている姿は想像できなかったでしょう。

2006年4月23日 (日)

表現の自由vs知的財産権―著作権が自由を殺す?

■ 書籍情報

表現の自由vs知的財産権―著作権が自由を殺す?   【表現の自由vs知的財産権―著作権が自由を殺す?】

  ケンブリュー マクロード (著), 田畑 暁生 (翻訳)
  価格: ¥2,940 (税込)
  青土社(2005/07)

 本書は、「知的財産権法を兵器のように振り回す」巨大企業によって、万人に開かれた豊かな文化から、社会が得ることができる利益が失われている事実を、「ヒップホップ音楽とデジタル・サンプリング、植物の種子と人間の遺伝子の特許化、フォークとブルース音楽、教育と本の出版、ラウシェンバーグとウォーホルによるコラージュ、映画制作・電子投票・インターネット」等のさまざまなトピックを通じて解説しているものです。その代表的なものは、著作権保護期間を延長する「ミッキーマウス保護法」と揶揄されたソニー・ボノ法です。
 本書では、有名な「ハッピー・バースデイ・トゥー・ユー」等の著作権を持つASCAPが、ガールスカウトなどの団体に、「我が祖国」「ゴッド・ブレス・アメリカ」「ハッピー・バースデイ・トゥー・ユー」をライセンス契約梨にキャンプで歌ってはならない、という通告を出したことが紹介されています。
 また、マーチン・ルーサー・キング・ジュニアの有名な「私には夢がある」演説の一部を演説コミュニケーションの教科書『演説コミュニケーションの原則の諸類型』に引用しようとしたところ、キング牧師の著作権を厳格に管理しているキング財団から、出版費用全体を上回る利用料を請求されたために、この教科書から削除せざるを得なくなったことが述べられています。
 過剰な知的財産権保護が社会に与えるインパクトは、出版や音楽のみならず、科学分野にも及び、ガンに関するタンパク質の特許を持った企業とその利用料が障壁となり、ガンに関する研究が進まなくなっている事実が指摘されています。ミシガン大学の国立衛生研究所のレベッカ・アイゼンバーグ法学教授は、この種の特許が「アンチコモンズの悲劇」をもたらす、という主張をしています。
 そして、皮肉なことに、知的財産法に厳格な米国の国家である「星条旗よ永遠なれ」こそが、18世紀のイギリス流行歌「天国のアナクレオンへ」の無断借用であることが、「われわれは『海賊の国』なのだ。」という著者の痛烈な言葉とともに指摘されています。
 第2章では、2台のターンテーブルとミキサーを使った初期のディスコDJたちによって、「ブレイクビート」のテクニックが生まれたことが紹介されています。また、過去のクラシックの作曲家たちが、民衆音楽や過去の曲から「盗む」ことによって素晴らしい作品を作り上げてきたことを、ストラヴィンスキーの「良い作曲家は真似をするのではなく、盗む」という言葉とともに紹介し、ブラームスやマーラー、ブルース・スプリングルティーン、ボブ・ディランまでの「盗みの歴史」を紹介しています。
 そして、デジタル・サンプリングの技術が一般的になった1990年前後を境に、サンプリングを用いた音楽の創造は一変します。1991年にギルバート・オサリバンが「アローン・アゲイン(ナチュラリー)」を20秒使われたとして起こした裁判では、判事はサンプリングという新しい現象を知らなかったことが述べられています。また、「本を書く場合、別の本からの引用は全く許される」一方で、「歌詞集から2行も引用すると、それが全体からしたら0.001%にすぎなくても、出版社はトラブルに巻き込まれる可能性がある」ことが紹介されています。そして、既存の曲からサンプルを使用することが非常に高くつくことから、現在ヒップホップのプロデューサーたちが、既存の曲に似せてスタジオミュージシャンに演奏させるという、一見非合理的に見える方法をとっていることが紹介されています。このような事態を招いている、現在のシステムの問題点として、「ローリング・ストーンズのレコードからスネアドラムの一拍をとって、、残りの99%を創作したのなら、ローリング・ストーンズに100%分のロイヤリティを支払うのはおかしいのに、弁護士たちは悪名高くそれが合法的だと主張している。」というコールド・カットのマット・ブラックの言葉が紹介されています。
 本書は、この他、著者の人生を運命付けた「メディアでのおふざけ」と「著作権法」という2つの要素を教えてくれた「ネガティブランド」とU2のレコード会社との争いが紹介されています。中でも、U2のギタリスト「ジ・エッジ」への電話インタビューにネガティブランドのメンバーがもぐりこみ、エッジ本人から、「サンプルが別の作品の一部になることは、問題ありません。」「U2のドラムがダンスレコードに使われたと聞きましたよ。私はそのことをなんとも思っていません。」という発言を引き出すくだりが最高におもしろいです。
 また、カナダの高校生マイク・ローが自分の名前を使って取得した「mikerowsoft.com」のドメインネームを、マイクロソフト社が取り上げようとして硬軟織り交ぜた交渉を進める様や、海賊版のデモテープによってブレイクしたメタリカが、初期のファンへの恩返しとして、ライブを録音するための場所まで用意していることなどのエピソードが紹介されています。
 本書は、民主主義を根底から支える「表現の自由(R)」が、企業によって囲い込まれることに危機感を覚える人にとっては、レッシグ教授の一連の著作を合わせて必読書ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書でも取り上げられている「マッシュアップ」という、複数の曲を1つの曲に組み合わせてしまう手法が、最近は表の世界でも注目されているようです。先日ラジオで、クリームの「Sunshine Of Your Love」がダンスミュージックになっている曲を聴きました。
 昔は、サンプルを別の曲に合わせるのは大変で、曲のテンポを変えるとピッチも変わってしまうために、ビートを合わせた後で、計算してピッチシフトをかける必要があったのですが、最近はテンポ合わせもピッチ合わせもソフト上で自動的にできるようになっています。テンポを変えてもピッチの変わらないDJ用のCDプレイヤー「CD-J」が発売された時は驚いたものですが・・・。


■ どんな人にオススメ?

・過剰な知的財産権保護に不安を感じている人。


■ 関連しそうな本

 ローレンス レッシグ 『クリエイティブ・コモンズ―デジタル時代の知的財産権』
 ローレンス レッシグ (著), 山形 浩生 (翻訳), 柏木 亮二 (翻訳) 『CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー』 2005年2月1日
 ローレンス・レッシグ (著), 山形 浩生 (翻訳) 『コモンズ』
 リチャード・M・ストールマン (著), 長尾 高弘 (翻訳) 『フリーソフトウェアと自由な社会 ―Richard M. Stallmanエッセイ集』 2006年02月04日
 エリック・スティーブン レイモンド (著), 山形 浩生 (翻訳) 『伽藍とバザール―オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト』 2005年10月22日
 ペッカ ヒマネン, リーナス トーバルズ, マニュエル カステル (著), 安原 和見, 山形 浩生 (翻訳) 『リナックスの革命 ― ハッカー倫理とネット社会の精神』 38654


■ 百夜百音

Clubland, Vol. 8 [Compilation]【Clubland, Vol. 8 [Compilation]】 Various Artists オリジナル盤発売: 0

 高校のときにビースティー・ボーイズが流行って、文化祭で友達のバンドが「Fight for Your Ritgt」なんかもカバーしてました。
 ギターソロは同時期に盛り上がったスレイヤーの人が弾いてます。


『Licensed to Ill』Licensed to Ill

2006年4月22日 (土)

思想としてのパソコン

■ 書籍情報

思想としてのパソコン   【思想としてのパソコン】

  西垣 通, フィリップ ケオー, A.M. チューリング, ダグラス・C. エンゲルバート, テリー ウィノグラード, ヴァネヴァー ブッシュ, J.C.R. リックライダー, テッド ネルソン
  価格: ¥3,465 (税込)
  NTT出版(1997/05)

 本書は、「パソコンをめぐる思想の基調低音」を構成しているキーマンたちの主な著作を集めたものです。
 ヴァネヴァー・ブッシュは、1945年の「As We May Think」において、個人用の未来の装置として「メメックス(memex)」なる装置を考案しています。これは、「個人が自分の本・記録・手紙類を蓄え、また、それらを相当なスピードで柔軟に検索できるように機械化された装置」であるとされています。百科事典も全く新しい形になり、「連想による検索経路の網目が事典中にあらかじめ準備されており、それをただメメックスに入れて拡張していくことができる」ようになるといいます。ブッシュは、「ヒトはあまりに複雑な文明を創り上げてしまったので、自らの記憶の扱いを十分に機械化する必要があるのだ」とこの目的を述べています。
 A・M・チューリングは、1950年の「Computing Machinery And Intelligence」において、後に有名な「チューリング・テスト」と呼ばれることになるコンピュータの知性をテストするための「模倣ゲーム」を考案しています。また、デジタル・コンピュータの構成要素として、記憶装置、演算装置、制御装置の3つの要素を挙げています。この解説の中には、19世紀につくられたバベッジの「解析機関」も登場します。チューリングは、「学習する機械」という概念とそれに対する反論を示すとともに、「いつの日か、機械が純粋に知的な領域で、ヒトと肩を並べることを期待しよう」と述べています。
  J・C・リックライダーは、1960年の「Man-Computer Symbiosis」において、人とコンピュータの共生の目標を、「コンピュータが技術的問題を明確にするという役割を効果的に果たすようにすること」と「従来のやり方では追いつかない速さで進む思考の過程にも、コンピュータを効果的に用いること」の2点であると述べています。
 ダグラス・C・エンゲルバートは、1962年の「A Conceptual Framework For The Augmentation Of Man's Intellect」において、「複雑な問題状況にアプローチし、自分の必要に応じた理解をし、問題の回答を導く」という「ヒトの知力を増強増大させる」ことについて論じています。エンゲルバートは、ヒトの能力の拡張のやり方を「能力補強増大手段」と呼び、「人工物(Artifacts)」、「言語(Language)」、「方法論(Methodology)」、「訓練(Training)」の4つの方法に分類しています。そして、ヒトの能力は「H-LAM/T」というシステムの中で働くと捉えています。
 テッド・ネルソンは、1980年の「Interactive System And The Design Of Virtuality」において、「外見の構造──作り出されたものの概念構造とそこから生み出される感覚」である「バーチャリティ」について論じています。インタラクティブなシステムのデザインの例として、MITの「データランド」システムや「ビジカルク」、アップル向けのゲーム「パークト・カーズ」、ワードプロセッサなどの解説を行っています。また、全地球規模の「スーパー・ドキュケント・ライブラリ券注釈システム」である「ザナドゥ(Xanadu)・ハイパーテクストシステム」構想を紹介しています。
 本書には、この他、テリー・ウィノグラードの「協調活動の設計における言語/行為パースペクティブ」とフィリップ・ケオーの「サイバースペースの陥穽」が納められています。
 本書は、単なるパソコン史ではなく思想を体現する存在としてのパソコンに焦点を当てています。皆さんの目の前にあるパソコンが、単なる便利な機械ではなく、どんな思想を体現しているのか、考えてみることも面白いと思います。


■ 個人的な視点から

 現代の我々にとっては、「パソコン」というものはNECの98シリーズやFMタウンズの時代から商品としてイメージされるものでしたが、コンピュータが軍や大学など限られた人間にしか触ることができなかった時代、さらにはコンピュータそのものが存在していなかった時代から、コンピュータが「パーソナルであること」についての思想が論じられてきたことは驚きでした。
 このような思想を出発点にすることで、パソコンのあり方や使い方を再認識できるのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・パソコンを「便利な機械」以上に使いたいと思っている人。


■ 関連しそうな本

 ハワード ラインゴールド (著), 青木 真美, 栗田 昭平 (翻訳) 『思考のための道具―異端の天才たちはコンピュータに何を求めたか?』 2006年01月07日
 アラン・C. ケイ (著), 鶴岡 雄二 (翻訳) 『アラン・ケイ』
 佐藤 俊樹 『ノイマンの夢・近代の欲望―情報化社会を解体する』 2006年01月09日
 ニール ガーシェンフェルド (著), 中俣 真知子 (翻訳) 『考える「もの」たち―MITメディア・ラボが描く未来』 2006年03月04日
 マイケル ヒルツィック (著), 鴨澤 眞夫, エ・ビスコム・テック・ラボ (翻訳) 『未来をつくった人々―ゼロックス・パロアルト研究所とコンピュータエイジの黎明』 2006年02月19日
 ケイティ ハフナー, マシュー ライアン (著), 加地 永都子, 道田 豪 (翻訳) 『インターネットの起源』


■ 百夜百音

Brotherhood【Brotherhood】 New Order オリジナル盤発売: 1986

 さまざまなアーティストたちにカバーされているポップな名曲「Bizarre Love Triangle」も入ってますが、その他のダークでハードでエレクトロニクスなサウンドも素晴らしいアルバムです。
 リリカルな「Every Little Counts」は聴いてると涙が出てきそうです。


『Prince of Wales』Prince of Wales

2006年4月21日 (金)

交渉力のプロフェッショナル―MBAで教える理論と実践

■ 書籍情報

交渉力のプロフェッショナル―MBAで教える理論と実践   【交渉力のプロフェッショナル―MBAで教える理論と実践】

  ジーン M・ブレット
  価格: ¥2,520 (税込)
  ダイヤモンド社(2003/09/20)

 本書は、原題に『Negotiating Globally』とあるように、国際間での交渉、特にビジネスにおける交渉をテーマとしたものです(日本語のタイトルは、「国際交渉」という言葉から食わず嫌いされてしまうことを考慮したのか、「国際」という言葉は出てきませんが・・・。)。しかし、本書で扱われている交渉のタイプや、交渉における文化の問題などは必ずしも国際交渉に限る話ではなく、国内交渉しか携わらないような人にも十分読み応えのあるものとなっています。
 著者は、分配型合意を創出型合意に変える例として、「マダム・プチとのカボチャ交渉」の経験を紹介しています。これは、ハロウィーン・パーティのカボチャ提灯を作るために30個のカボチャを調達しようとした著者と「全部は売ることはできない」という農家の夫人(マダム・プチ)との分配型交渉が、カボチャの外側が欲しい著者と、来年植え付ける種が欲しい夫人との価値創出型交渉になった、というエピソードです。他の交渉のテキストでは、オレンジジュースを作りたい姉とマーマレードを作りたい妹の話が紹介されていますが、その変型版です。著者は、分配型交渉を創出型交渉に発展させるためには、
・交渉者の選好が異なる項目間でのトレードオフを図ること
・交渉者の選好が対立しない「両立項目」を発見すること
が必要であると述べています。
 本書の特徴は、交渉における文化の要素に焦点を当てていることです。著者は、交渉に影響する文化特性を、
(1)個人主義と集団主義
(2)対等意識と上下意識
(3)高コンテクストと低コンテクストのコミュニケーション規範」
の3つに大別しています。
 文化によって交渉のスタイルが異なってくる例の一つとして、
・交渉者が自己利益に動機付けられている場合(イスラエル人の多く)
 →多項目プロポーザル(複数の項目を組み合わせて1つの提案にまとめた条件提示)が有効
・協調性に動機付けられている場合(ドイツ人)
 →1つのプロポーザルにすべての項目を組み込む必要はなく、一つひとつ合意しながら創出型合意に至ることができる。
等が紹介されています。また、交渉モデルの典型を
・イスラエル人の典型―――「実益志向の個人主義者」
・ドイツ人の典型―――「協調的な実益主義者」
・日本人の典型―――「間接戦略家」
の3つのタイプで表しています。
 この他、紛争の要因となるコンフリクトのタイプを、
・タスク・コンフリクト:任務や職務の規定、資源の配分を巡る対立
・手続きコンフリクト:紛争解決の進め方、手順などの手段を巡る対立
・人間関係コンフリクト:個人的な責任や責務を巡る対立
の3つに大別し、グローバルな紛争解決において、利益、権利、パワーが他の文化ではどのように解釈されるか、どこに焦点を置くべきかなどを解説しています。
 本書はこの他、これらの応用として、チーム内での意思決定の問題や、社会的ジレンマを巡る問題などについて解説しています。
 交渉における文化の問題が、単に人種や国の違いにとどまらないものであることを教えてくれる一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 日本人は、国際交渉に弱い、ということがいろいろな場面で言われ、今では常識の一つの様になってしまっていますが、本書を読むと、日本人が交渉に弱いわけでもなければ、外国人、特に欧米人や中国人が強引な交渉をしているわけではなく、交渉スタイルの違いであることがわかるのではないかと思います。
 同じように、日本人同士の交渉でも、押しの強い人、押しの弱い人というのは必ずありますが、これらが必ずしも交渉に有利に働くわけではないこと、相手の交渉スタイル、要求しているものをきちんと見抜く訓練を積むことが重要であることが、もっと世間の常識になっても良いのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・国際的な交渉ごとに関心がある人。


■ 関連しそうな本

 マックス H・ベイザーマン (著), マーガレット A・ニール (著), 奥村 哲史 『マネジャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋』 2005年07月04日
 ウィリアム・L. ユーリ, ステファン・B. ゴールドバーグ, ジーン・M. ブレット (著), 奥村 哲史 (翻訳) 『「話し合い」の技術―交渉と紛争解決のデザイン』 2005年09月15日
 印南 一路 『ビジネス交渉と意思決定―脱"あいまいさ"の戦略思考』 2005年6月28日
 平原 由美, 観音寺 一嵩 『戦略的交渉力―交渉プロフェッショナル養成講座』 2005年09月16日
 鈴木 有香 (著), 八代 京子(監修) 『交渉とミディエーション―協調的問題解決のためのコミュニケーション』 2005年09月30日
 八代 京子, 樋口 容視子, コミサロフ 喜美, 荒木 晶子, 山本 志都 (著) 『異文化コミュニケーション・ワークブック』


■ 百夜百マンガ

レッツゴー武芸帖【レッツゴー武芸帖 】

 「理由もなくただ強いから強い」という主人公は、同じ作者による麻雀マンガにもいました。
 持っているのは新装版ではない白っぽい表紙のものです。

2006年4月20日 (木)

国家公務員の昇進・キャリア形成

■ 書籍情報

国家公務員の昇進・キャリア形成   【国家公務員の昇進・キャリア形成】

  早川 征一郎
  価格: ¥4,935 (税込)
  日本評論社(1997/03)

 本書は、「国家公務員の昇進・キャリア形成は、どのように行われているか、これを一般公務員と高級公務員(高級官僚)の場合に分けて、主として、その違いを解明しようとする」ことを目的としたものです。
 第1章では、国家公務員の数や種類など、マクロ的な視点からの分析となっています。特徴としては、国家公務員における女性職員の比率は、1965年から1994年までの間に、19.3%から21.8%に増加したとはいえ、3分の1以上を女性が占める地方公務員に比べ、さらに諸外国と比べれば著しく少ないことが述べられています。特に幹部クラスでの女性比率が著しい理由としては、「戦前からの旧態依然たる勤務体制、仕事のやり方を今に至るも変えることができない」点にあるとし、特に「恒常的な長時間勤務体制が、女性の進出を阻むもっとも具体的な事由」であることを指摘しています。
 第2章では、一般公務員の昇進システムに関して、人事院規則が本来予定していた職階制の実施が、1952年に交付されたにもかかわらず、職階制を適用する「指定日」までの経過的な措置が現在まで続いている、半世紀近い「暫定的性格」を現在の任用制度が持っていることを指摘しています。
 また、査定がほとんど機能しない公務員に昇進のばらつきが生じる理由として、
(1)省庁の組織機関構成の違い(地方出先機関の多少)
(2)各省庁の性別構成
(3)各省庁の昇格基準とその活用の違い
(4)級別定数の配分の不均衡
(5)勤務評定、心象、上司の推薦の有無などパーソナルな要素
(6)本人自身の個別事情(配置転換を希望しないなど)
の6点を挙げています。
 さらに、高級公務員の「天下り」とは、一般公務員の早期退職と再就職は本質的な意味が異なるとしています。「天下り」が、あくまで見返り(利益)を担保しているのに対し、一般公務員の再就職は、辞めた後での生活保障的意味合いを持つとしています。このノンキャリア組の再就職斡旋については、省庁別にかなりの違いがあり、ノンキャリア組への依存度が絶大だといわれている大蔵省本省の場合は、「長年の労苦に報いるためにも、再就職の斡旋をかなり面倒よく世話しているケースも多いようである」としています。
 第3章では、キャリア組の昇進システムに関して、
(1)まずスタート(公務員試験種類)=「入口」が、あくまで重視されるべき
(2)キャリア組の全てが「幹部要員」、「高級官僚」に到達するとは限らない
(3)ただし、そこまで到達するのは例外なくキャリア組からである
(4)その意味で、キャリア組と高級公務員はイコールではなく相対的に区別して考えるべき
としています。
 また、高級公務員の昇進に関して、1950年に一度だけ実施された「S-1試験」についても言及されています。それによれば、「試験の対象となった官職は、各省庁の事務次官、長官、局長、局次長、部長、課長等、計2,621官職であった。この試験の合格者は述べ8,489名で、うち民間人が247名であった。」となっています。
 さらに、キャリア組の昇進の早さの理由として、「『必要経験年数または必要在級年数』について、『勤務成績が特に良好である職員』であるとして、それぞれの年数を8割計算で昇格させる」という「8割昇格」が行われていることを述べています。
 第4章では、高級公務員の昇進の実態の分析を行っています。大蔵省、通産省、建設省などの歴代事務次官のリストを見ると、大蔵と通産では最終学歴として東大法学部の圧倒的な強さが目につきます。その中で、昭和22年に大蔵事務次官となった池田勇人の京大法卒が目立ちますが、これに関しては、それまで冷や飯を食わされてきた東大以外の学閥が、上のポストに公職追放で空きができたことで、主税局長という傍系から事務次官に就任できたことなどが述べられています。また、建設省では、初代事務次官に技術系の技官から就任していますが、「戦前の内務省土木局では技術畑出身者は絶対に本省の課長にはなれなかった」のに対し、戦後の官庁民主化によって、「行政には技術官もタッチさせろ」という「水平運動」の成果であったことが紹介されています。
 また、大蔵官僚の閨閥づくりの世話役を担っているのが、「天下り」人事を担当している大臣官房の秘書課長の役目だと言われていることも紹介し、「秘書課には、大蔵エリートに嫁がせたいと思っている財閥の娘の見合い写真が積んである」というエピソードを、かなり昔の話としながらも紹介しています。紹介されている「大蔵官僚閨閥リスト」を見ると、1996年頃までのこのリストの登場人物の中に、10年後の政治の中核となっている人たちがたくさん登場していることがわかります。
 第5章では、「天下り」の問題に関して、『人事小六法』平成9年版の中に、1975年1月の『人事院月報』に掲載された「営利企業への就職の制限について」と題した人事院職員局職員課の論文が【参考】として、異例な扱いで収録されていることが紹介されています。また、「天下り」の法制度的な面としては、
(1)就職に制限の付くのは、営利を目的とした私企業に限られる。
(2)離職後2年以上であれば、たとえ、営利を目的とした私企業であっても、在職した省庁と「密接な関係」にあるかどうかを問わず、なんら就職の上での制約を受けない。
(3)営利を目的とした私企業であっても、在職した省庁と「密接な関係」にない営利企業への就職は、制約の対象とはならない。
(4)「事務次官、局長といった上位の官職」については、「よりきびしいチェックを受ける」。
(5)人事院の審査は、離職前5年間に遡り、さらに将来を考えて行われる。
の5つの点に要約されるとしています。
 さらに、「天下り」の類型を、
・第1類型:2年のインターバルを置いて私企業に天下るケース。
・第2類型:いったん「密接な関係」にない営利企業に就職後、「本命」に就職するケース。
・第3類型:特殊法人や公益法人を「迂回」して民間企業に天下るケース。
・第4類型:特殊法人や外郭団体に天下り、それで終わるケース。
・第5類型:民間企業や特殊法人、外郭団体を「わたり鳥」、「たらい回し」されるケース。
・第6類型:弁護士などの自由業、その他のケース。
の6つを紹介しています。このうち、公益法人は、人事院の「天下り」規制の対象外であることを利用して、特定官庁の「天下り」先と化したり、特定業界の互助団体化していることが指摘されています。
 著者は、「天下り」問題に関して、理念的には否定されてしかるべき、としながらも、「もっとも肝要なことは、公務員は公務員としての「職業上の生涯」を全うできるように保障して、自律的な世界を形成すること、さらに別に、産業界は産業界として、その人材を一部の特権的な公務員に依存し、そこから補充するのではなく、産業界としての自律的世界を形成すること」であるとしています。
 さらに、「天下り」の歴史的経緯として、戦時統制経済期に、国策としての経済統制機関、金融統制機関に、「天下り」というよりも、「国策に沿った官界からの人材派遣」として送り込まれたことがあることを指摘しています。
 本書は、公務員の人事制度の実態についてのまとまった文献の少ない中で、十分な読み応えのある文献なのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書は、何やらプレミアがついているようで、Amazonのマーケットプレイスでは3~4万円以上の値が付いています。おそらく個人ではなく、研究者向けの値付けなのだと思いますが、ちょっと手が出ない値段です。


■ どんな人にオススメ?

・国家公務員の仕事人生に関心がある人。


■ 関連しそうな本

 川手 摂 『戦後日本の公務員制度史 「キャリア」システムの成立と展開』 2005年12月29日
 稲継 裕昭 『人事・給与と地方自治』 2005年12月09日
 稲継 裕昭 『日本の官僚人事システム』 2005年02月10日
 稲継 裕昭 『公務員給与序説―給与体系の歴史的変遷』
 西村 健 『霞が関残酷物語―さまよえる官僚たち』
 新しい霞ヶ関を創る若手の会 (編集) 『霞ヶ関構造改革・プロジェクトK』 2005年12月22日


■ 百夜百マンガ

mahjongまんが大王【mahjongまんが大王 】

 麻雀マンガの凄いところは、麻雀が出てくるという基本ルールさえ守っていれば、どんな表現やストーリーも認められてしまうところです。
 ロマンポルノやビニ本マンガから新しい才能が発掘されたように、麻雀マンガ出身の漫画家も多いです。

2006年4月19日 (水)

働きたいのに…高校生就職難の社会構造

■ 書籍情報

働きたいのに…高校生就職難の社会構造   【働きたいのに…高校生就職難の社会構造】

  安田 雪
  価格: ¥2,520 (税込)
  勁草書房(2003/09)

 本書は、若さと未熟さゆえに多くの保護や制約が課せられている、就職希望の高校生が埋め込まれた状況を精査することで、「それをとりまく日本社会の混乱と歪み」、教育と職業と市場原理の葛藤を浮き彫りにしようとするものです。
 第1章では、企業から、「人材はいるが、人手はいらない」と言われてしまう、手に技術のない普通高校の生徒の就職の厳しさが紹介されています。高卒女子の働き口は、「水・髪・油」(飲食業・水商売、美容・理容業、石油小売業)と嘆かれている状況にあり、女子生徒の多くが希望する販売・サービスや一般事務の求人が極めて少ないことが述べられています。そして、単純にステレオタイプ化されたイメージである「成績が低く、進学できない者が就職する」という類型化とは異なり、むしろ、「就職できないから進学する」若者が多いことが紹介されています。そして、学力ではなく、家庭の経済力(と家庭の文化資本)が進路を決定する大きな要因になっていることが指摘されています。
 第2章では、「高校生には驚くほど強い正社員志向があり、転職・独立願望も少なく、労働と自立に対する強い肯定観がある」という、高校生の意外なまでに保守的な職業観が述べられています。その上で、高校生の成長を妨げる要因として、
(1)高校の就職指導が、本来家庭教育の範疇である服装・言葉使いなど、マナーや一般常識にとどまっている点。
(2)高校によって、事業所や職業についての知識、求人開拓や就職指導のための努力に大きな差がある点。
(3)高校の社会科学の勉強が、ほとんど歴史と地理の暗記に費やされ、職業や労働実態に関する知識が教えられていない点。
の3点を挙げています。
 第3章では、高校生と採用担当者の意識の乖離として、「採用担当者にとって、高校生は理解不能な、自発的に動けない若者の集団であり、高校生にとって採用担当者は自分を調べる検査官であり、組織による管理と統制の象徴」であることが述べられています。そして、「働きたいのに働けない」理由として、
(1)圧倒的な労働機会の不足と周囲の意識の遅れ
(2)職業や企業についての高校生の理解不足
(3)同世代文化の限界
(4)安易な進学への憧憬と労働力への否定的イメージ
の4点を指摘しています。
 この他、4章では、インターンシッププログラムである「ものづくり技術再考事業」に参加し、仕事の面白さを感じることができた工業高校生の感想文を紹介するとともに、これまで長い間、「高卒就職者を勉強に対して努力をしない者とみなしてきた」幻想こそが、「学歴社会という不可避な欠陥を持ちながら、日本社会は公正な社会だとされる根拠」であったと指摘しています。「進学機会に恵まれた人々は、自分が占めている社会的地位と資源──職業であれ学歴であれ──は自分の正当な努力により、公正な競争条件の下で獲得されたものだと自己を正当化できる」からです。
 本書は、フリーターやニートに関心がある人にとっては、その前段階である教育から職業への移行を考える上で、適度な読みやすさを持った1冊になるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書の後半では、高卒就職希望者に対する職業情報提供の問題点について解説されています。
 高校の就職指導教員が求めているのが、「一に求人、二に時間」と言われるように、就職指導の厳しさも取り上げていますが、新規高卒求人情報をインターネットで提供している「高卒者就職支援システム」が、高校に設置した専用端末からしかアクセスできないことや、ハローワークが進路指導教員に、「生徒にはあまり、インターネットで閲覧・検索をさせないようにしてください」と指導している、という問題点が指摘されています。
 また著者は、「就職志望者に対する指導は、無知な者、弱い者、機会に恵まれない者への教育である」とした上で、「無知」とは学力が低いことではなく、働くこと、生産者になるということを知らないと指摘しています。
 とかく本人のやる気や能力の問題に帰せられてしまいがちな若年雇用の問題に対する的確な指摘ではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・ニートやフリーターの問題の背景にある学校を通じた就職について知りたい人。


■ 関連しそうな本

 安田 雪 『大学生の就職活動―学生と企業の出会い』 
 苅谷 剛彦, 石田 浩, 菅山 真次 (編集) 『学校・職安と労働市場―戦後新規学卒市場の制度化過程』 2006年03月03日
 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』 38762
 宮本 みち子 『若者が『社会的弱者』に転落する』 38476
 本田 由紀 『若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて』 38778
 玄田 有史 『仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在』 38553


■ 百夜百マンガ

ときめきトゥナイト【ときめきトゥナイト 】

 『有閑倶楽部』に「池の鯉誘拐事件」という回がありました。後から単行本で読んだのでその時はピンと来ませんでしたが、そういえばアニメ化されたりと大人気でした。

2006年4月18日 (火)

「複雑ネットワーク」とは何か―複雑な関係を読み解く新しいアプローチ

■ 書籍情報

「複雑ネットワーク」とは何か―複雑な関係を読み解く新しいアプローチ   【「複雑ネットワーク」とは何か―複雑な関係を読み解く新しいアプローチ】

  増田 直紀, 今野 紀雄
  価格: ¥945 (税込)
  講談社(2006/02)

 本書は、『複雑ネットワークの科学』の著書を持つ著者が、一般読者向けのブルーバックス・シリーズに書いた科学読み物です。
 「複雑ネットワーク」とは、complex networksの訳で、複雑系の研究の系譜に関連していることからこの名が付けられています。ネットワークに関する研究は、古くはオイラーの「ケーニヒスベルクの橋の問題」に代表されるグラフ理論などがありましたが、実社会の大規模なネットワークの研究が可能になるには、20世紀末のコンピュータの高速化を待たなければなりませんでした。そのため、ネットワーク科学のパイオニアは、統計物理や応用数学、インターネット関係の通信分野の研究者たちであることが述べられていますが、現在では、数学・社会学・生物学の研究者や、ビジネス関係、政策関係者からも注目を集めています。
 本書では、ネットワークの距離を判りやすく理解するために、この手の本では定番となっている「ベーコン数」や「エルデシュ数」が紹介されています(掲載されているエルデシュの写真の提供者が秋山仁氏であったことに目が行ってしまいました。)。本書では、この他の応用として、「ベースボールの神託」なども紹介されています。著者は、これらのゲームがウケる理由として、それぞれのネットワークの平均距離が小さいことを挙げています。
 また、スモールワールド・ネットワークの解説の中で、飲み会で行うゲームをグラフで表しているのが斬新でした。次に答える人が決まっている1次元格子のネットワーク形態になっているのが「山手線ゲーム」であるのに対し、「どびん・ちゃびん・はげちゃびんゲーム」では、「どびん」と「ちゃびん」は隣の人に、「はげちゃびん」はランダムに指名することから、ネットワーク的には格子にショートカット(はげちゃびん)を加えたスモールワールド・ネットワークに近いものになっていることが述べられています。また、ショートカットだらけのランダム・グラフになっているのが、「せんだみつおゲーム」で、このゲームでは指された人はランダムに次の人を指名します。
 本書では、この他、長い歴史を持つすごろくのバリエーションなどを紹介し、それらを以下のようにまとめています。
(1)1次元格子、正方格子(平均距離が大きい)
  山手線ゲーム
  多くのすごろく
  人生ゲーム
  多くのボードゲーム
  シミュレーション・ゲーム
(2)スモールワールド・ネットワーク(平均距離が小さく、かつクラスター性もある)
  どびん・ちゃびん・はげちゃびんゲーム
  忍者のいる戦国時代?
  本物の人生
(3)ランダム・グラフ(平均距離は小さいが、クラスター性は壊れている)
  せんだみつおゲーム
  鳥盡初音寿語六(とりつくしはつねすごろく)
 また、バラバシとアルバートが、「現実のネットワークでは頂点の次数のばらつきが意外に大きい」ことに注目し、多くのネットワークの次数分布がベキ則(スケールフリー性)に従っていることを発見したことに関して、個人の財産、地震の規模、月のクレーターの直径、戦争の激しさ(犠牲者数)、都市の大きさ、会社の規模、土地の値段などの例を挙げています。そして、彼らの作った「BAモデル」と呼ばれるネットワークのモデルの特徴として、「成長」と「優先的選択」(先に存在している頂点の中で、次数の大きいものが優先的に新しい枝を受取りやすい)の2点を挙げています。この他、2006年現在、コミュニティの自動同定が研究テーマとして流行していることにも触れられています。
 本書の後半は、応用編として、感染症の感染モデルとして、従来からある「SIRモデル」、「ボンド・パーコレーション」、「サイト・パーコレーション」、「SISモデル」などを紹介した上で、現代の感染症の伝播を説明するモデルとして、スモールワールド・ネットワークが用いられていることが述べられています。
 本書は、2006年現在、複雑ネットワーク理論に関する最も敷居の低い入門書です。まず1冊目にいかがでしょうか。


■ 個人的な視点から

 本書は2006年という時代を反映して、mixi(ミクシィ)などのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が紹介されています。このサービスは元々ネットワーク理論を下敷きにしていて、最近mixiに押されぎみのgreeは「6次の隔たり」などで使われる「次数(degree)」から命名されています。
 また、本書の最終章のビジネスへの応用の部分は、一般書向けに関心を引きやすいテーマではありますが、残念ながらインパクトの面では若干弱いがします。ビジネスマン向けのトピックが充実すると、一時流行ったゲーム理論の一般書のように、ビジネス書としても売れるのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・ネットワーク理論の入門書でも読んでみようかと思った人。


■ 関連しそうな本

 増田 直紀, 今野 紀雄 『複雑ネットワークの科学』 2005年11月18日
 ダンカン ワッツ (著), Duncan J. Watts (原著), 栗原 聡, 福田 健介, 佐藤 進也 (翻訳) 『スモールワールド―ネットワークの構造とダイナミクス』 2006年03月22日
 ダンカン ワッツ (著), 辻 竜平, 友知 政樹 (翻訳) 『スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法』 2005年09月28日
 スティーヴン・ストロガッツ (著), 蔵本由紀, 長尾力 (翻訳) 『SYNC』 2006年04月10日
 アルバート・ラズロ・バラバシ (著), 青木 薫 (翻訳) 『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』 2005年10月24日
 マーク・ブキャナン (著), 阪本 芳久 (翻訳) 『複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線』 2005年12月21日


■ 百夜百マンガ

エスパー魔美【エスパー魔美 】

 F先生には珍しい女の子が主人公の作品です。短編集に収められている「アン子 大いに怒る」を発展させたものと考えられています。

2006年4月17日 (月)

生活保護ケースワーカー奮闘記〈2〉高齢化社会と福祉行政

■ 書籍情報

生活保護ケースワーカー奮闘記〈2〉高齢化社会と福祉行政   【生活保護ケースワーカー奮闘記〈2〉高齢化社会と福祉行政】

  三矢 陽子
  価格: ¥2,100 (税込)
  ミネルヴァ書房(2003/05)

 本書は、20年以上の経験を持つベテランケースワーカーである著者による、現場経験を元につづった前著『生活保護ケースワーカー奮闘記』の続編です。本書では、前著の出版後、福祉行政に大きなインパクトを与えた介護保険制度導入をはさみ、著者が現場で感じたことが語られています。
 本書の冒頭には、著者がある山寺の山門で目にした次の言葉が紹介されています。
「子どもしかるな来た道だ
 年寄り笑うな行く道だ」
 本書には、数多くの高齢者が紹介されていますが、決して興味本位で読んで欲しくない、という著者の思いやりや信念が現れている言葉ではないかと思います。
 著者は、「高齢者と対応する際の留意事項」として、
(1)会話面での留意事項:わかりやすく明瞭な言葉で、ゆっくりと、時には大きな声で、できれば対象者と同じ高さの目線で会話。
(2)会話内容での留意事項:簡潔に要件を伝える、対象者の生活史やプライドを尊重。
(3)読み書きでの留意事項:字の読み書きについては、必要に応じてフォロー。
(4)移動するときの留意事項:対象者の動きに合わせて、ゆっくりと移動を。
の4点をまとめています。ベテランにとっては当たり前だと思われることが、最初はなかなかできずトラブルの原因になることが多いのでしょうか。
 本書の構成は、いくつかの似た事例をひとまとめにしていますが、決して人くくりにはできない個人個人の人生の難しさを感じさせるものばかりです。よくテレビでも紹介される「収集癖」に関しても、一見収集癖のように見えながら、加齢に伴う体力の低下によって、タンスや押入などに生活用品を収納するのが面倒になり、部屋の四隅に生活用品が積み上がってしまうパターンや、二階に上がるのが大変なので一階が生活の中心になり、二階はほこりをかぶった倉庫のようになってしまうパターン等があることが紹介されています。また、故人の遺品などを捨てることができないために、足の踏み場もなくなってしまうケースも紹介されています。こうした室内状況にある高齢者世帯に、公的ホームヘルパーの派遣施策を導入するための下準備として、ケースワーカーが大掃除をしなければならない場合もあり、ダニ、ゴキブリ、ネズミ糞、ネコ糞、人糞にまみれて作業しなければならない場合もあることが述べられています。
 また、住居に関しては、アパートの大家が荒れるがままにして維持補修をしないために、天井に直径20センチほどの穴があいてしまったケースや、旧遊郭街の置屋や揚屋・茶屋等の建物がそのまま間貸し住宅になっているケース、1階部分は大穴が空いて朽ち果て、2階も屋根や壁の大半が崩れ落ちている中で、かろうじて屋根が残った2階の片隅で膝上までのヘドロ上のゴミに囲まれて暮らしていたというケース等が紹介されています。
 この他、病院のタオルなどの備品を持って帰ってしまう癖や、一階の押入に泥棒が住み着いているという幻覚に悩まされるお年寄りのケースなども紹介されています。
 本書は、高齢者福祉の仕事に携わる人はもちろん、特に行政関係者には広く一読して欲しい1冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書には、「友人」と称して福祉事務所まで同伴してくる債権者の姿も描かれています。「年金を担保とした高利貸しの違法貸付」のケースも多く、本人の死後に勝手に遺品を処分したり、遺族の住所を聞き出そうとしたりするそうです。
 また、住居の賃貸借契約に関して、ケースワーカーに保証人になって欲しい、と頼まれたり、家主から家賃徴収を依頼されることも多いそうです。どちらも法律上の理由で断ることができるそうですが、ケースワーカーの気苦労は、本人以外の部分でも多いことが伺われます。


■ どんな人にオススメ?

・ケースワーカーの生の声を聴いてみたい人。


■ 関連しそうな本

 三矢 陽子 『生活保護ケースワーカー奮闘記―豊かな日本の見えない貧困』
 久田 恵 『ニッポン貧困最前線―ケースワーカーと呼ばれる人々』
 柴田 純一 『プロケースワーカー100の心得―福祉事務所・生活保護担当員の現場でしたたかに生き抜く法』
 尾藤 広喜, 吉永 純, 松崎 喜良 『これが生活保護だ―福祉最前線からの検証』


■ 百夜百マンガ

1ポンドの福音【1ポンドの福音 】

 間違えて力石徹を大男に描いてしまったことで、『あしたのジョー』では二階級ダウンという壮絶な減量のドラマが生まれました。
 そんなことはお構い無しに、いつも減量に失敗してしまう大喰らいのボクサーというキャラは笑えます。

2006年4月16日 (日)

創造の方法学

■ 書籍情報

創造の方法学   【創造の方法学】

  高根 正昭
  価格: ¥735 (税込)
  講談社(1979/09)

 本書は、まだアメリカの大学院への留学生が珍しかった1963年に、スタンフォード大大学院とカリフォルニア大学で社会学を修めた著者が、その経験を通じて、アメリカの大学教育の根底にある原理を、文明史の流れの中で見出したものです。
 著者は、スタンフォードで経験したアメリカの大学教育の特徴を次の4点にまとめています。
(1)四学期制の厳しい業績主義――四半期のうちに、一つの科目につき週3回の講義を集中的に行い、日本の大学の1年分かそれ以上の内容を消化する。学期ごとに中間試験と期末試験が課せられ、年間の平均が大学でCを、大学院でBを割り込むと放逐される。
(2)読書の組織的な訓練――これはアメリカの大学院に留学した人が揃って口にすることだが、「組織的な読書の訓練が大学教育の重要な柱に」なっている。スタンフォードの大学図書館の指定図書室(Reserve Book Room:講義で課せられる必読文献を、2時間、1日、2日、1週間などの短期間で貸し出す)や書店は、それまで日本の大学の図書館しか見たことのなかった著者に大きなショックを与えている。
(3)物を書く訓練の重視――学部時代から科目ごとに「ターム・ペーパー」と呼ばれる小論文が課せられる。大学院になると、専門誌に掲載できる25ページ程度の論文が要求され、できの良いものは専門誌への発表が期待されている。
(4)方法論の重視――社会科学においても統計学など、科学の方法の学習が重要視される。
 著者は、アメリカの学会において、研究者として一人前になるためには、ひとかけらでも何か新しい知識を既存の知識の体系に付け加えなくてはならず、アメリカでの大学教育がそのような知的生産のための基礎的な訓練であることに気づきます。そして、アメリカの大学と日本の大学はその本質が大きく異なり、日本の学者には、個人個人が固有の意見を創造するという基本的姿勢を持っていないことに驚愕します。日本にはマックス・ウェーバーやエミール・デュルケムなど一人一人の社会学者の「専門家」と称する「研究者」が、彼らの研究対象がどんな文章を書き、いつどこに旅行したということを諳んじられるくらいに精通していても、例えばウェーバー中の理論と方法を駆使して、自分なりの新しい分析を行い既存の知識の体系に新しい要素を付け加えるものでないことに日米の「学者」の本質的な違いを指摘しています。
 そして、これは単に学者や大学の問題ではなく、社会一般の態度であることが、アメリカの幼稚園ではクレヨンや粘土の使い方を教えても、作るものの手本は示さず、他人の模倣ではなく自己自身の創造をさせることを例に述べています。
 本書ではこの他、当時の社会調査ではデータ・カードとカード分類器を使った気の遠くなるような解析作業を行った経験によって、サーヴェイ・リサーチの論理を学ぶことができたことや、著者が行った日本の政治エリートの研究(エリートの循環)などのエピソードが収められています。全体として昔の新書にありがちな散漫な印象を与えるものですが、昔の研究者が受けたカルチャーショックが、今も基本的には状況が変わっていないことは問題ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 著者が日本に帰って大学で教鞭をとるようになって最初に困ったことは、社会科学の基本的な方法論を教えるための適切な教科書がなかったことだそうです。著者が帰国したのは1970年代前半ですから、もう30年以上も昔の話ですが、現在でもその状況はほとんど変わっていないのではないかと思います。
 本書のタイトルである「創造の方法学」はそういった部分を意図しているものではないかと思いますが、このような思い出話半分のエッセイではなく、しっかりとしたテキストをぜひ書いていただいていれば今頃の日本の大学もう少しましなものになっていたのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・1960年代のアメリカの大学院の様子を知りたい人。


■ 関連しそうな本

 杉村 太郎, 細田 健一, 丸田 昭輝 『ハーバード・ケネディスクールでは、何をどう教えているか』 2005年06月22日
 上山 信一, 梅村 雅司 『行政人材革命―"プロ"を育てる研修・大学院の戦略』 2005年04月16日
 梅棹 忠夫 (著) 『知的生産の技術』 2005年05月05日
 中野 不二男 『メモの技術―パソコンで「知的生産」』
 板坂 元 『考える技術・書く技術』
 渡部 昇一 『知的生活の方法』 2005年10月09日


■ 百夜百音

The Camera Loves Me【The Camera Loves Me】 Would-Be-Goods オリジナル盤発売: 1988

 透明感のあるハーモニーを聞かせてくれる姉妹デュオ。もう20年近く前のアルバムになってしまうなんて驚きです。
 イルカのCDの方は既に20年以上経過しています。ネオアコと言えばよしもとよしともと言われていた時代もありました。


『You Can't Hide Your Love Forever』You Can't Hide Your Love Forever

2006年4月15日 (土)

喪失と獲得―進化心理学から見た心と体

■ 書籍情報

喪失と獲得―進化心理学から見た心と体   【喪失と獲得―進化心理学から見た心と体】

  ニコラス ハンフリー (著), 垂水 雄二 (翻訳)
  価格: ¥2,625 (税込)
  紀伊國屋書店(2004/10)

 本書は、「進化心理学」(心の特性を「進化論の眼」で探る学問分野)という耳慣れない研究分野の研究者である著者による大小さまざまなエッセイを収めたものです。
 第1部には、「私」として持っていると思われている意識の単一性について、「多数の独立した体験者」の集合としての単一の自己を、オーケストラのイメージを用いて解説し、「何が、一人の人間の各部分を一つに帰属させるのか」という疑問を自らに問いかけています。
 また、人工知能の世界などで話題になる、「赤い色という主観的な感覚、チーズの味覚、頭痛の痛み」などの「現象的な意識」を表す「クオリア」をキーにして、心と脳の同一性の問題にアプローチしています。この「感覚」に関しては、(1)そもそも感覚を持つことの生物学的機能は何か、(2)感覚がこのような特別な質的特徴を持つことの機能は何か、という2つの問いを立てた上で、「感覚は、世界の体験に、ここであること、今であること、私であることを添加するが、これらは、感覚を欠いた純粋な知覚にはないものである」と、感覚が持つ「現実に旗印を立てる」という機能に言及しています。
 本書の中核部分をなしている第2部では、現代の我々が持っている心性、知的能力が、ごく最近になって獲得されたものであるという仮説を、3万年前の洞窟壁画と自閉症児が書いた写実的な絵とを比較することで展開しています。3万年前の人類がバイソンなどを書いた写実的な洞窟壁画は、
(1)その製作者が高いレベルの概念的思考を持っていたに違いないことを実証している。
(2)その製作者は、情報を表現し、伝えたいという特別な意図を持っていたに違いない。
(3)彼らの背後には、芸術的技巧の長い伝統があったに違いない。
という主張の根拠となってきましたが、著者は、むしろ全く逆のことを示唆しているのではないかと指摘しています。すなわち、「こうした美術作品の製作者たちが本当は、私たちとははっきり異なる前=現生人類の心をもっていて、象徴的思考はほとんど授けられておらず、コミュニケーションにもさして大きな関心がなく、本質的に独学で、訓練など受けていなかったかもしれない」ということです。
 著者はこの証拠として、重度の自閉症の4歳の少女が書いた、記憶を元にした、気味が悪いほどの写真的正確さと写実的な流麗さを備えた線画を引き合いに出し、高度な洞窟壁画との驚くほどの類似性を指摘しています。そして、その少女が写実的な絵を描くことができたのは、「彼女が未発達な言語やその他の弱みを持っていたからこそである」と仮定し、「彼女の描画能力が本当は、彼女の心がほかの正常な子供では通常はもっとスムーズにすすむ方向に発達することに失敗したというだけの理由で『解き放たれた』のではないか」と推測しています。つまり、「ウマを見るときに、それを『ウマ』というカテゴリーの表徴(トークン)と見る──したがって、その記憶を断念する」という概念化の欠如によって、ものがどのように見えるかを正確に記憶することができたのだと述べています。そして、「洞窟の画家たちの力量は、彼らがほとんど言語を持たず、そのために彼らの絵も『指示的で命名的なもの』によって汚染されていなかったという事実」という可能性に言及しています。
 また、別のエッセイでは、「人類の祖先が遺伝的に与えられた何らかの有益な特性を喪失し、したがって、速やかにその損失を埋め合わせる方法を発明して埋め合わせることを余儀なくされ、その結果として、その競争において思いがけず相手より先に出ることができた」という喪失と置き換えの実例として、記憶能力の喪失と抽象的思考の出現を挙げています。チンパンジーが図形の記憶に関して持っている超人的な「写真的記憶力」を人類が失ってしまったことが、「言語の発達のために必要な条件を思いがけずつくりだしことになった」のではないかと述べています。
 この他本書では、人間が持つ「健康管理システム」という観点からのプラシーボ効果の進化的な意義の考察や、人間がなぜ超常現象を信じてしまうのかという問題や、宗教的教育の意義について、独創的な視点から考察しています。
 本書は、「進化心理学」という分野に関心を持たずにはいられなくさせる、ぐいぐい引っ張る説得力で満ちている一冊です。


■ 個人的な視点から

 科学と疑似科学に関する文献は数多くありますが、なぜ人間が超常現象や宗教を信じてしまうのか、という心理を進化論的な視点から考察した本書は、新しい視点を与えてくれるものではないかと思います。
 もちろん本書は、エッセイ集なので、学術書のようなガチガチさはありませんが、「意識」や「感覚」を扱った第1部「私の中の<私>」は結構ハードルが高いかもしれません。最初は、洞窟絵画を題材にした第7章から読み始めると他の章もついつい読んでしまうのではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・「意識」が人間に元々備わったものだと思っている人。


■ 関連しそうな本

 オリヴァー サックス (著), 吉田 利子 (翻訳) 『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者』 2006年03月26日
 けいはんな社会的知能発生学研究会 (著), 瀬名 秀明, 浅田 稔, 銅谷 賢治, 谷 淳, 茂木 健一郎, 開 一夫, 中島 秀之, 石黒 浩, 國吉 康夫, 柴田 智広 『知能の謎 認知発達ロボティクスの挑戦』 2006年04月09日
 ジョン・H. カートライト (著), 鈴木 光太郎, 河野 和明 (翻訳) 『進化心理学入門』
 ジェフ・ホーキンス, サンドラ・ブレイクスリー (著), 伊藤 文英 (翻訳) 『考える脳 考えるコンピューター』 2005年12月17日
 前野 隆司 『脳はなぜ「心」を作ったのか―「私」の謎を解く受動意識仮説』
 スティーヴ・グランド 『アンドロイドの脳 人工知能ロボット"ルーシー"を誕生させるまでの簡単な20のステップ』 2006年01月28日


■ 百夜百音

NEW CHAPPIE【NEW CHAPPIE】 Chappie オリジナル盤発売: 1999

 年齢性別本名も不詳のチャッピーですが、このアルバムは、チャッピーをテーマに豪華アーティストが参加していて何度聴いてもあきません。
 最近JTBのキャラクターとして復活してましたが、少し色あせた感じが悲しかったです。


『ウェルカミング・モーニング』ウェルカミング・モーニング

2006年4月14日 (金)

労働市場設計の経済分析―マッチング機能の強化に向けて

■ 書籍情報

労働市場設計の経済分析―マッチング機能の強化に向けて   【労働市場設計の経済分析―マッチング機能の強化に向けて】

  樋口 美雄, 阿部 正浩, 児玉 俊洋
  価格: ¥4,830 (税込)
  東洋経済新報社(November 2005)

 本書は、「高質な労働市場」を形成するための公的部門と民間部門の役割分担や政府の果たすべき役割、良好な雇用機会の拡大、企業と人材との橋渡しを円滑に行う情報提供・相談機能などの問題を、統計分析やヒアリング調査に基づいた日本の現状把握と諸外国の経験を参考に、雇用創出、職業紹介、能力開発のあり方について論じたものです。
 本書はまず、1990年代から2000年代初頭までの雇用構造の変化として、「企業と労働者との『保証と拘束』の関係が『労働者の自己責任と自己選択』を求める関係に移行してきた」として、非自発的理由を中心とした離職率の上昇に企業の保障機能が弱まっていることと、企業の保障の対象となる正規雇用の比重が低下していることを指摘しています。
 また、企業のITの導入の影響として、「長期雇用の中で社内業務に精通し、また社内に人的ネットワークを構築してきた正規従業員のパート従業員に代表される非正規労働力に対する優位が弱まるかもしれないこと」が示されています。
 転職者の選択肢の拡大と円滑な労働移動を促進すると期待される「民営職業紹介」に関しては、就職に有利な転職者(高学歴層や専門・技術的職業従事)にとっては利用されやすい反面、労働市場で高く評価されない離職者にとっては利用しづらい入職経路であることが示されています。
 日米欧の比較に関しては、公共職業紹介機関の職員のモティベーションの強化策として、イギリスのジョブセンタープラスにおいて、就職斡旋に成功した場合の評価点数に基づく業績評価を、給与に反映させるという方策が紹介されています。また、職業紹介の民間委託の是非に関しては、「公的な財源の下で業績評価基準が的確に設定されれば、公的職業紹介の組織形態が公共機関であるか民間事業者であるかは、あまり重要な問題ではない」ことが述べられています。
 企業による教育訓練に関しては、1997年以降、教育訓練対象者の「選択と集中」が進み、「96年までは短時間労働者であっても企業の実施する教育訓練を受講していたが、97年以降、特に短時間労働者の受講率が下がり、訓練は選別されたコア人材に集中的に行われるようになっている」ことが述べられています。
 また、日本では、能力開発施策の実証分析が不十分であるのに対し、米国ではこの分野の実証分析が蓄積されていることから、米国の訓練効果分析からの日本への示唆として、
(1)訓練効果を挙げるためには何よりも教育訓練の中身が問われること。
(2)教育訓練の効率を改善するには、受講者の自発性を引き出すことが非常に重要であること。
(3)教育訓練受講者と提供者の橋渡しをする有効な仕組み(キャリア・カウンセラーなど)をいかにして作るかということ。
の3点が挙げられています。
 本書は、労働政策に携わる人たちにとって重要であることはもちろん、現在論点となっている社会格差の問題などを論じる上でも参考になる1冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書は、職業紹介や能力開発など多岐にわたる労働政策の分析を行っていますが、やはりキーとなるものは「能力」という、本人自身にとっても認識が難しい、まして市場や企業からは見えにくいものの存在です。この「能力」が一生を左右し、労働政策を含む社会の仕組みが、この「能力」をいかに見極めるか、というシステムになっているか、ということを痛感させられます。
 今、論点になっている社会格差の問題も、能力をいかに伸ばすか、能力をいかに認識するか、そして能力をいかに伝えるか、という問題に行き着くのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・労働政策そのものの効果に関心がある人。


■ 関連しそうな本

 樋口 美雄, 阿部 正浩, 児玉 俊洋 『労働市場設計の経済分析―マッチング機能の強化に向けて』
 玄田 有史, 中田 喜文 (編集) 『リストラと転職のメカニズム―労働移動の経済学』
 猪木 武徳, 大竹 文雄 『雇用政策の経済分析』 2006年03月01日
 八代 尚宏 『日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済』 2005年03月23日
 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』 2005年04月05日
 苅谷 剛彦, 石田 浩, 菅山 真次 (編集) 『学校・職安と労働市場―戦後新規学卒市場の制度化過程』 2006年03月03日


■ 百夜百マンガ

おたんこナース【おたんこナース 】

 動物のお医者さんだけではなく、人間のお医者さんも登場する作品。ドラマ化された他、二匹目、三匹目のどじょうを狙った医療コメディドラマが乱発されるきっかけを作りました。

2006年4月13日 (木)

ドキュメント平成革新官僚―「公僕」たちの構造改革

■ 書籍情報

ドキュメント平成革新官僚―「公僕」たちの構造改革   【ドキュメント平成革新官僚―「公僕」たちの構造改革】

  宮崎 哲弥, 小野 展克
  価格: ¥798 (税込)
  中央公論新社(2004/02)

 本書は、「1940年体制」を引きずった現代の日本社会の規制者であった霞が関の中で、内部変革を進め、新しい「公」の確立を目指して行動している30代、40代の官僚たちの姿を追ったものです。著者は、本書が中央官庁の官僚に舞台を絞った理由として、(1)彼らの仕事が「公的」な性格を帯びている、(2)日本の組織制度の「文化」の中心的な存在である、(3)単純な官僚叩きに一定の反論を加える、の3点を挙げています。
 本書のタイトルである「革新官僚」とは、もともと、戦時中に「経済新体制確立要綱」を作成し、「日本的」とされる経済、産業体制を形成した、当時の彼ら自身の言葉を使えば、「クリエーティヴ・エンジニア」としての官僚たちを指します。戦後の日本は、彼らの末裔である官僚たちを中心に、行政指導を通じた制限的な競争環境と護送船団方式によって、安定的な発展を果たしてきたのですが、高度成長の終焉、バブル経済の崩壊、市場化の進展の中で、「1940年体制」を支えてきた官僚たち自身にも、構造改革の時代に合わせた変革が迫られていることが述べられています。
 本書の各章は、各省庁が直面した課題に対し、官僚たちがどのような具体的な行動をとったのか、その中に現代の「クリエーティブ・エンジニア」たる平成の革新官僚の姿はないかを探し求めています。
 金融庁のある官僚は、竹中大臣に対して面従腹背の態度をとり続ける事務方の中にあって、「日本を覆う構造的な歪みを是正しなければならないのは明らか」と、エリート官僚としての出世を放棄する覚悟で竹中再生プランの作成に全面的に打ち込みます。
 また、国土交通省の中堅・若手官僚たちは、行革断行評議会が具体化を進める道路公団の民営化案を前にして、「より積極的な改革案を国民に示」さなければ、「私たちは存在理由を失い、国民から見放されてしまう」という強い危機感を抱き、多忙な予算編成作業の間を縫って、独自の改革案の作成に取り組みます。著者はこの姿を、昭和16年に「総力戦研究所」の若きベスト&ブライテストたちが懸命の机上演習によって開戦阻止の「模擬内閣」を演じた姿にだぶらせます。この「総力戦研究所」の綿密なルポルタージュを書き上げた猪瀬直樹氏が道路公団の民営化推進委員会に名を連ね、そして若手官僚たち必死に作成した改革案が日の目を見ることがなかったことは皮肉なものです。
 この他にも、BSE問題やコメ改革の問題に直面した農林水産省や、「ノーパンしゃぶしゃぶ」で国民の不審を一心に買って大蔵省が解体されたことで誕生した財務省、難民先送り問題に代表される弛緩した雰囲気が漂う外務省、「ゆとり教育」の改革に迫られる文部科学省、ロースクールや裁判員制度などの司法制度改革に取り組む法務省が紹介されています。


■ 個人的な視点から

 本書は、元々は『中央公論』に連載された「出でよ平成革新官僚」という連載記事をベースにしたもので、「革新官僚」という言葉のインパクト勝負なところがあり、戦時中の革新官僚とはあまり関係ないところは気にかかりますが、各省庁が直面する危機に対して、中堅・若手官僚たちがポジティブな改革に取り組んでいる姿を追っている点は評価できると思います。
 ある財務省の若手官僚は、「三等国の一流官庁」のエリートにはなりたくない、一等国の日本を縁の下で支える公僕としての自負を持ちたい、という言葉を漏らします。このような気持ちを持った「革新官僚」たちが少しでもいることが、官僚に対する不審渦巻く現代において多少なりとも救いになるのではないでしょうか。
 なお、2002年から2003年にかけて取材された本書ではあくまで「中堅・若手」という匿名の集団として官僚たちが扱われています。「出る杭は打たれる」という霞が関の雰囲気の中で名前が出ることに対する配慮だったのかもしれませんが、近年では、「スーパー公務員塾(竹中塾)」を運営する経済産業省の鈴木英敬氏や、「新しい霞ヶ関を作る若手の会」の朝比奈氏・小紫氏など、匿名性の壁を突き抜けて「出過ぎた杭」を目指す動きが盛んになっています。「悪しき前例主義」や「横並び意識」が蔓延する役所の世界ですが、彼らが匿名性のタブーを一度突破することによって、新たな「革新官僚」たちの姿が発信されることは望ましいことだと考えます。


■ どんな人にオススメ?

・「出すぎた杭」の官僚の姿を知りたい人。


■ 関連しそうな本

 新しい霞ヶ関を創る若手の会 (編集) 『霞ヶ関構造改革・プロジェクトK』 2005年12月22日
 テリー伊藤 『お笑いニッポン公務員―アホ役人「殲滅計画」』 2006年03月16日
 行財政構造改革フォーラム (著), 上山 信一, 樫谷 隆夫, 若松 謙維 『新・行財政構造改革工程表―「霞が関」の三位一体改革』
 西村 健 『霞が関残酷物語―さまよえる官僚たち』
 稲継 裕昭 『日本の官僚人事システム』 2005年02月10日
  『』


■ 百夜百マンガ

ヴァンデミエールの翼【ヴァンデミエールの翼 】

 「自由」をテーマにした作品ですが、機械の身体の痛々しさと年代不明なヨーロッパ的な舞台が妙にマッチしています。

2006年4月12日 (水)

「良い建築を安く」は実現できる!―建築コストを20%も削減するCM方式

■ 書籍情報

「良い建築を安く」は実現できる!―建築コストを20%も削減するCM方式   【「良い建築を安く」は実現できる!―建築コストを20%も削減するCM方式】

  桑原 耕司
  価格: ¥1,575 (税込)
  ダイヤモンド社(2001/10)

 本書は、「建築の知識や情報のない建築主の守り手になるような仕事がしたい」という思いから、「建築主の立場に立ち建築主の利益のためにさまざまな業務を行う、JCM(日本型コンストラクション・マネジメント)」という事業を行っている著者が、「日本の建築がどのような仕組みで行われているのか、それはどうしてそうなっているのか、どこが問題なのか、どうしたらよくなるのか」について解説しているものです。
 「良い」とか「安い」の基準がつかみにくい建築にあって、著者は、同じ建築費でより良いものを、同じ設計のものをより安く造ることができる余地がたくさんあると述べ、本書にはいくつかの実例が紹介されています。
 著者が建築費を大幅に下げることができるやり方としているのは、発注業務の代行です。一般には、設計者が建設会社から見積りを取ることが多いこの業務を、建築主に代わって行うことで、コストダウンが可能になると述べられています。そのために、総合建設会社以外にも地域の専門工事会社や建材メーカーを含めた発注説明会を開催しています。総合建設会社の「協力会」というお抱え専門工事会社以外の会社を含めて見積りを取り、専門工事会社を入れ替えることで、コストダウンをはかっています。ここでポイントになるのは、一番低額の会社を基準にするのではなく、低額三社の平均額を基準にすることで、ダンピングによる不適正な工事の防止を図っていることです。
 また、見積り項目の中に「工事利益」という項目を入れた「見積内訳明細書」の記入を求めていることも特徴です。一般的には、各工事項目の中に利益をちりばめ、その上で「出精値引」と称していくらか値下げする見積が多い中で、各工事原価を明らかにするこの方式は、無理な請負金額の引き下げではなく、建築主が納得する妥当な範囲で儲けてもらうことを意図しています。
 著者は、「本等に良い建築」とは、「建築の『目的』が明確であり、その目的を実現するための機能と品質が満たされており、その目的に照らして無駄や過剰がない」ものであると定義しています。そして、建築主を含めて、「何のために建てるのか」という本質的な議論の不足を指摘しています。そして、検討の方法として、以下の7点を挙げています。
○良い建築のための7つのフィルター
(1)機能性:使い勝手は良いか・快適か
(2)品質性:壊れないか
(3)安全性:けがが起きることはないか
(4)デザイン:美しいか・意外性はあるか
(5)経済性:無駄や過剰はないか・投資に見合う価値があるか
(6)人間性:社員が育ち、人が集まるか
(7)社会性:社会に受け入れられるか・環境に配慮しているか
 著者は、世に蔓延る「建築家」という言葉に問題意識を持っています。そして、「『建築家』や『先生』の意識のうえに成り立っている設計者はまた、大嘘つきでもある。」と指摘しています。そして、建築費を高くする要因となっているとして、以下の3点を挙げています。
(1)エレベーターや空調機などについての「メーカー指定」
(2)メーカーや工事店への「設計協力依頼」
(3)図面だけ渡して工事金額を出させる発注業務のやり方
 この他、専門工事会社、建材メーカー、総合建設会社、官僚への批判も展開していますが、一番の問題は「建築主」にある、と指摘している点が痛快です。具体的には以下の8点を指摘しています。
(1)任せっぱなし
(2)あれこれうるさい
(3)予算を明らかにしない
(4)坪単価だけを論じる
(5)設計料を値切る
(6)すべて設計者のせいにする
(7)工事会社を指名する
(8)契約外のことまで建設会社にさせる
 本書は、自宅だけでなく、公共工事を含めた全ての工事に関わる人にとって、ぜひ一度目を通していただきたい一冊です。


■ 個人的な視点から

 前の佐賀市長の木下氏は、本書を読んで、実際に小学校の建設において、著者の会社にCMの導入を依頼しています。詳細については、同じ著者による『公共事業を、内側から変えてみた』に書かれていますが、約1億円のコストダウンに成功しています。
 ただし、この方式は地場の建設業界による談合組織に手を突っ込む行為となってしまうために、選挙を控えた首長には不利に働くようです。このことだけが原因ではありませんが、次の選挙で木下前市長は落選してしまいます。
 公共事業の「本当の建築主」である市民のためのCMの前には大きく厚い壁が立ちふさがっています。


■ どんな人にオススメ?

・納得のいく建築を発注したい人。


■ 関連しそうな本

 桑原 耕司 『公共事業を、内側から変えてみた』 2006年02月22日
 桑原 耕司 『建設業のコンストラクションマネジメント』
 鬼島 紘一 『「談合業務課」 現場から見た官民癒着』 2006年03月15日
 加藤 正夫 『談合しました―談合大国ニッポンの裏側』
 武田 晴人 『談合の経済学―日本的調整システムの歴史と論理』
 ベンジャミン・フルフォード 『ヤクザ・リセッション さらに失われる10年』 2006年02月18日


■ 百夜百マンガ

A・Iが止まらない!【A・Iが止まらない! 】

 『ドクタースランプ』&『ああ女神様』+育成ゲームみたいな感じでしょうか。
 パターン的には『コンパイラ』とかでもいいのですが・・・。

2006年4月11日 (火)

産廃ビジネスの経営学

■ 書籍情報

産廃ビジネスの経営学   【産廃ビジネスの経営学】

  石渡 正佳
  価格: ¥714 (税込)
  筑摩書房(2005/10/04)

 本書は、「産廃Gメン」として千葉県の不法投棄対策に携わってきた著者が、「必要悪」という簡単な言葉で済まされてしまうことの多いアウトロー・ビジネスを経済学・経営学的視点から解読し、新たなビジネスチャンスを提唱しているものです。
 著者は、千葉県の不法投棄を激減させた自身の体験から、「どの分野でも、構造さえ解明されれば対策は劇的に進展する。」としたうえで、「不法投棄の真実」を「悪貨(不法投棄の料金)と良貨(正規処理施設の料金)」の二重価格構造の存在と、この価格差のピンハネこそが本質的な構造であったと指摘しています。そして、現実の問題解決のためには、法律は10本の指の1本でしかなく、「アウトローと戦うには、法律の条文ではなく、経済の現実を見なければならない」と述べています。
 本書では、その具体例として、不法投棄のダンプ一杯で2万5000円という棄て料の相場を知ったときの衝撃や、軽油と重油、灯油の二重価格構造につけこんだ不正軽油製造と硫酸ピッチの不法投棄問題等を紹介した上で、その対策として、経済的インセンティブ(不正軽油使用の免停を6ヶ月にすれば500万円の罰金を課すのと同じ効果がある)を用いることを提唱しています。
 本書のテーマである「アウトロー(outlaw)」とは、法に外れていることではあるが、犯罪者であるということとは区別され、著者は、「アウトローとは、法律の隙間や空白を発見し、法システムを二重構造化する社会現象であり、組織的活動である」と定義しています。アウトローには、社会システムの不完全性(欠陥・矛盾・不公正)を顕在化させる機能が認められ、警察力によってアウトローを排除したとしても社会の矛盾をなくせるわけではなく、観点を逆転すれば、社会の矛盾を解消しない限り、アウトローは排除できないことになることが述べられています。
 そして、アウトローに対する警察の役割を認めながらも、「アウトローの経済活動を封じ込め、資金源を断つには、専門分野の知識を有し、行政法による許認可権を行使できる官庁が最前線に立ったほうがうまく行く。」として、自身の経験を元に、警察官をメンバーとした専門チームの編成を提唱しています。
 本書の後半では、アウトローを切り口に、日本の社会システムの問題、中でも経済システムの問題に言及しています。ここでは、アウトロー経済が持つ、市場の失敗(不公正・不平等・不均衡)を補償する機能を指摘しながらも、アウトローの侵入によって、市場の失敗が拡大する「二重構造経済学」、「二重価格経済学」、「脱構築経済学」の状態となることを述べています。
 そして、社会システム、経済システムの矛盾の解決はアウトロー経済の独壇場ではなく、「アウトローは、必要な悪ではなく、必要を満たしている悪に過ぎない。アウトローによらずに必要を満たす方法を確立すれば、悪は必要なくなるのである」として、ベンチャーによる解決こそ望まれていると主張しています。すなわち、「アウトローが二重価格を既得権化しようとし、アウトローの世界における掟破りを厳しく取り締まるのに対して、ベンチャーは既得権の打破を目指し、あえてアウトローの掟破りに挑戦する」からです。「アウトローは、ビジネスチャンスの宝庫である。ベンチャーを立ち上げ、成功しようとするなら、アウトロービジネスを研究し、いかにアウトローから市場を奪うかを考えるのが成功の近道である。」と断言しています。
 本書は、環境行政、産廃行政に関心のある人はもちろん、大きなビジネスチャンスを探している人にとっても大きな示唆を与える一冊です。


■ 個人的な視点から

 環境行政というと、環境先進国として知られるEUのリサイクルシステムが取り上げられることが多いですが、著者は、EUのリサイクルシステムが持つ、国家独占システムとしての性格に着目し、そこに、社会主義的なシステムとしての特徴を指摘しています。これは、産廃の不法投棄問題の根底にある、経済システムに着目し、その対策としても経済的なインセンティブを重視した著者らしい発想であると感じます。
 レッシグ教授によれば、社会問題の解決のための方法として、(1)法、(2)市場、(3)モラル、(4)アーキテクチャの4つが挙げられていますが、それまでの「法」や「モラル」に重点を置いていた廃棄物対策に、「市場」の方法論を持ち込んだ点でも、評価されるべきではないかと考えます。


■ どんな人にオススメ?

・新しいビジネスのフロンティアを模索している人。


■ 関連しそうな本

 石渡 正佳 『産廃コネクション―産廃Gメンが告発!不法投棄ビジネスの真相』 2006年03月28日
 石渡 正佳 『不法投棄はこうしてなくす―実践対策マニュアル』 
 石渡 正佳 『リサイクルアンダーワールド―産廃Gメンが告発!黒い循環ビジネス』 
 石渡 正佳 『スクラップエコノミー なぜ、いつまでも経済規模に見合った豊かさを手に入れられないのだ!』 
 下野新聞「鹿沼事件」取材班 『狙われた自治体 ゴミ行政の闇に消えた命』 2006年2月8日
 リチャード・C. ポーター (著), 石川雅紀, 竹内 憲司 (翻訳) 『入門 廃棄物の経済学』 


■ 百夜百マンガ

海猿【海猿 】

 海上保安庁という比較的地味な仕事が脚光を浴びるきっかけを作った作品で、TVドラマや映画にもなっています。
 『壁ぎわ税務官』についてもそうですが、この手の公共的な仕事を題材にしたマンガは読み応えがあります。産廃Gメンを主人公にしたマンガなんかも出てくるのでしょうか。

2006年4月10日 (月)

SYNC

■ 書籍情報

SYNC   【SYNC】

  スティーヴン・ストロガッツ (著), 蔵本由紀, 長尾力 (翻訳)
  価格: ¥2,310 (税込)
  早川書房(2005/03/29)

 本書は、発光するタイミングを同期(SYNC)させる無数のホタルや、心臓に組み込まれた無数のペースメーカー細胞、超伝導体における無数の電子の同期や太陽系内での重力の同期など、さまざまな学問領域を超えて進展する同期現象の研究である「結合振動子」の研究の成果を一般読者向けに解説したものです。本書の構成は、「生物振動子」(細胞、動物、ヒト)を扱った第1部と、「非生物振動子」(振り子、レーザー、電子)を扱った第2部、同期現象の最前線を扱った第3部という3部構成になっています。著者は本書を、「学問領域や時代、国境といった垣根を超えて研究を進めてきた科学者が切り開いたテーマについての、膨大な知識を総合する試みである」としています。
 第1部では、バラバラの間隔で明滅していたホタルの集団が、徐々に同期を始め、ついには全てのホタルが完璧に一致して明滅する同期現象に対して、「ホタルの各個体には、小さなメトロノームのような振動子が備え付けられており、そのおかげで他のホタルの放つ光に合わせて、発光のタイミングが自動的に調整される」という振動子のメカニズムが解説されています。
 また、睡眠時間と外界の周期との同期問題に関しては、半年もの間、気温が常に摂氏21度に保たれた地下深くで、時間を知る手がかりが一切無い環境で生活することで、ヒトが生活する際の基本リズムを研究する実験について述べられています。この実験によって、1日に外部環境から2時間ずつ起床時間が遅れる26時間周期で生活リズムができていること、光量の変化に関わらず「早朝の睡眠時には体温は上昇し、夜、就寝前には体温は低下する」という体温周期が存在することなどが明らかになっています。これらの研究によって、「24時間周期への同期(エントレインメント)がなされている場合、体温が最低値をとる午前4時から6時付近で注意力が最低になると予想される」という「ゾンビ・ゾーン」(多くの原子力発電所の事故や原油流出事故などが発生している時間帯)の理由が明らかにされています。逆に、事故がほとんど起こらない「禁制の時間帯」である午前10時と午後9時もゾンビ・ゾーンと同様にヒトのサーカディアン周期に組み込まれていることが予想されています。
 第2部では、非生命的な同期現象を、「振り子時計の『共感』に見られたように、同期を生み出す能力は、知性はもちろん、生命や自然選択とも無縁である。それは、森羅万象の本源とも言うべき、『数学と物理学の法則』に由来するのだ。」と述べ、「ホイヘンスの振り子時計の共感」や並列型高圧送電線網における発電機の同期、量子レベルの同期現象とその応用であるジョセフソン接合等が紹介されています。そして、第1部の内容と第2部の内容を結びつけ、それを「橋」というメタファーで表しています。すなわち、「生物振動子の集団と、大規模な配列構造をなして結合しているジョセフソン接合の力学(ダイナミクス)との結びつき」です。著者は、これが「科学の二大潮流が一つに合流する」意味を担っていると述べています。また、本書の監修者でもある蔵本由紀氏が発表していた「蔵本モデル」や、バタフライ効果で知られるローレンツの論文などにも触れています。
 第3部では、カオスの同期現象に言及しています。ここで「カオス」とは、口語で用いられる「完全な無秩序状態」を意味するのではなく、「一見ランダムにみえるだけで、実際にはランダムではない法則から生み出される状態」を指しています。また、著者がケンブリッジの学生時代に出会った『生物学的時間の幾何学』という本と、その著者であるアーサー・T・ウィンフリーとの共同研究の様子が紹介されています。そして、本書との関連性も深いスモールワールド・ネットワークの第一人者である教え子のダンカン・ワッツとの共同研究の様子も述べられていて、「スケールフリー・ネットワーク」や「ティッピング・ポイント」などの重要なアイデアが数多く紹介されています。
 第10章では、ヒトと同期に関して、1997年に日本で起こった「ポケモン騒動」も紹介されています。
 本書は、同期やスモールワールドネットワークに関心がある人にとっては、次から次に紹介されるトピックに夢中になることができる、読み応えのある一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書で紹介される科学者のうち、著者の師匠であるウィンフリー氏も変わり者で知られていますが、『サイバネティックス』の著者として知られるノーバート・ウィーナーほど変人として知られている人もいないでしょう。本書では、MITの廊下を一輪車で走りぬけたり、引越ししたのを忘れて元の家にうっかり歩いて帰ってしまい、近くにいた少女にウィーナー家の転居先を尋ねたところ、「知ってるわよ、お父さん、さあいらっしゃい」とその少女が答えたことなど、「粗忽長屋」か「究極超人あ~る」かというような変人振りが紹介されています。
 また、ジョセフソン接合を開発し、ノーベル賞を受賞したジョセフソンが、のちに超常現象の研究に没頭し、物理学界から異端視されている件について、「ジョセフソンがヒーローであることには、今も昔も変わりがない。」と、敬意を表しています。


■ どんな人にオススメ?

・生物と非生物に共通する動因を知りたい人。


■ 関連しそうな本

 ダンカン ワッツ (著), Duncan J. Watts (原著), 栗原 聡, 福田 健介, 佐藤 進也 (翻訳) 『スモールワールド―ネットワークの構造とダイナミクス』 2006年03月22日
 ダンカン ワッツ (著), 辻 竜平, 友知 政樹 (翻訳) 『スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法』 2005年09月28日
 増田 直紀, 今野 紀雄 『複雑ネットワークの科学』 2005年11月18日
 アルバート・ラズロ・バラバシ (著), 青木 薫 (翻訳) 『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』 2005年10月24日
 マーク・ブキャナン (著), 阪本 芳久 (翻訳) 『複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線』 2005年12月21日
 安田 雪 『実践ネットワーク分析―関係を解く理論と技法』 2005年10月04日


■ 百夜百マンガ

いじわるばあさん【いじわるばあさん 】

 世代的には青島幸男 は「いじわるばあさんの人」という覚え方をしていました。
 テレビドラマのテーマ曲は「ばーばばばーばばばーばばばーさん」という曲だったです。

2006年4月 9日 (日)

知能の謎 認知発達ロボティクスの挑戦

■ 書籍情報

知能の謎 認知発達ロボティクスの挑戦   【知能の謎 認知発達ロボティクスの挑戦】

  けいはんな社会的知能発生学研究会 (著), 瀬名 秀明, 浅田 稔, 銅谷 賢治, 谷 淳, 茂木 健一郎, 開 一夫, 中島 秀之, 石黒 浩, 國吉 康夫, 柴田 智広
  価格: ¥1,029 (税込)
  講談社(2004/12/17)

 本書は、ロボットという新しい道具を駆使することで、「自分自身とこの世界を取り戻す」という観点から、「知能」に迫ろうとするものです。ここでの「知能」とは、広辞苑に心理学用語として紹介されている「環境に適応し、新しい問題状況に対処する知的機能・能力」という意味で使われていると考えられます。
 もちろん、知能について考える上で外すことができない「チューリング・テスト」や、サールの「中国語の部屋」、バヤジョーンらの玩具の車の実験など、キーとなるトピックが押さえられています。
 しかし、知能、特に人工知能について考えるのであれば、コンピュータがあれば十分に思われます。なぜロボットなのでしょうか。ここで、コンピュータとロボットの差異として強調されているのは、「ロボットの方は環境へ自ら積極的にインタラクトできる身体を持っていること」であることです。人間も身体性を駆使して環境とインタラクトしているので、「人間らしい知能を再現するには動きのある身体性も不可欠」であることが述べられています。ここから、ロボティクスと認知発達神経科学が結びついた「認知発達ロボティクス」という新分野の誕生につながります。すなわち、「環境と作用しながら経時的に発展するシステムの原理を探求する新しいロボティクス」の誕生です。
 本書では、ロボットに必要な4つの機能として、
(1)センサ:人間の視覚や触覚に相当する。
(2)頭脳:人間の大脳に相当する。
(3)機構・制御:頭脳が立案した計画を実際の行動に移すための機構。
(4)コミュニケーション能力:人と円滑に協調作業するために必要な能力。
の4つの機能が、「必要条件」として述べられています。
 また、人工知能の議論では必ず登場する「予測」の問題に関しては、「人間は、もともとすべてを理解することは不可能な、開かれた世界に対して、何らかの予測と解釈を、今という限られた時間の中で与えようと試みる」と述べられています。
 この他、感性の問題に関しては、「赤い色の感じや、喉を冷たい水が通っていくときの感じなど、私たちの感覚をつくり上げている、ユニークで鮮明な質感」である「クオリア」について解説されているように、ロボットと人工知能について論じることで、「人間とは何か」という問題を論じています。


■ 個人的な視点から

 「ロボット研究」ということなので、どんなロボットが出てくるのかと期待していましたが、残念ながらドラえもんもアラレちゃんも出てきませんでした。代わりに出てきたのは、40年前にスタンフォードで開発された「シェーキー」や、虫ロボットやサッカーをするロボットでした。
 しかし、まだ世間に明らかになっていないだけで、高田馬場あたりではすでに鉄腕アトムが開発されているかもしれません。もしくは旧帝國陸軍が開発した「旧帝鈴木壱号」が発見されるかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・人間とはどんな存在かを知りたい人。


■ 関連しそうな本

 ジェフ・ホーキンス, サンドラ・ブレイクスリー (著), 伊藤 文英 (翻訳) 『考える脳 考えるコンピューター』 2005年12月17日
 前野 隆司 『脳はなぜ「心」を作ったのか―「私」の謎を解く受動意識仮説』
 スティーヴ・グランド 『アンドロイドの脳 人工知能ロボット"ルーシー"を誕生させるまでの簡単な20のステップ』 2006年01月28日
 オリヴァー サックス (著), 吉田 利子 (翻訳) 『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者』 2006年03月26日
 フィリップ・K・ディック (著), 浅倉 久志 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』
 新田 克己 『知識と推論 Information Science & Engineering』


■ 百夜百音

MIKADO【MIKADO】 MIKADO
 オリジナル盤発売: 1984

 ノンスタンダード・レーベルの全盛期を支えたフレンチポップグループの唯一のアルバムだったと思います。
 持ってたんですが、人に貸したまま返してもらってません。また聴きたいのですが、再発してくれないものでしょうか。


『テクノ歌謡コレクション*Teichiku編 ラブリー・シンキング・サーキット』テクノ歌謡コレクション*Teichiku編 ラブリー・シンキング・サーキット

2006年4月 8日 (土)

案外、知らずに歌ってた童謡の謎

■ 書籍情報

案外、知らずに歌ってた童謡の謎   【案外、知らずに歌ってた童謡の謎】

  合田 道人
  価格: ¥1575 (税込)
  祥伝社(2002/02)

 本書は、誰もが自然に口ずさめる、よく知られた童謡の歌詞や背景に潜むエピソードを追ったものです。『本当は怖いグリム童話』やそこから派生したマザー・グースや日本の童話などのバリエーションのひとつということができるでしょう。
 本書は、野口雨情の「しゃぼん玉」の「生まれてすぐに こわれて消えた」が、そのころに2歳で亡くなった娘のことを歌っているのではないか、という謎を追うことから始まります。
 子供たちの遊び歌として知られる「いちもんめ」が元々、「一匁」、つまり非常に安い金額を表す言葉で、口減らしのために女郎屋に売られていく娘を巡って、親と女衒が値段交渉を行っている様を歌にしたものであることが述べられています。「勝ってうれしい」が「買ってうれしい」の意味だとするのは多少強引ですが、歌に潜む農村の悲しみが伝わってきます。
 「赤い靴」と言えば、「異人さんに連れられて」が子供にはわからず、「良い爺さんに連れられて」だと思っていましたが、大人になってからは外国に行ってしまったのだとばかり思っていました。ところが、モデルとなった女の子は、宣教師夫妻に里子に出された後に、結核を患い、宣教師の帰国後は孤児院に預けられ9歳でその幼い命を閉じていた、という衝撃の現実が近年明らかになったそうです。彼女の生誕地である静岡市の日本平の山頂には、親子の銅像が立てられたということです。
 外国の歌では、クリスマスソングとして知られる「赤鼻のトナカイ」が、出版社に勤める青年が自分の娘のために、病に伏した妻の姿を託した9頭目のトナカイである「ルドルフ」の歌を作ったものであるという悲しいストーリーが紹介されています。
 この他、「かごめかごめ」の歌詞に潜む呪術的な内容や(この辺りの話は、『帝都物語』にも解説されてました。)、「赤とんぼ」の「追われていた」は「負われていた」、つまり作者が背負われていたことであり、この人こそが、15で嫁に行った子守娘であったことなど、童謡に潜んだ怖い話、悲しい話が紹介されています。
 第4章の「こんなに艶っぽい童謡たち」は、「ずいずいずっころばし」は幾分ましですが、そのほかは妄想炸裂のオヤジのエロ話という感じで興ざめでした。
 本書は続編も数が出ているようですし、読み物としては面白いと思います。


■ 個人的な視点から

 「しゃぼん玉」は、本書を読む前に、子供と唄いながらなんだか悲しげな歌だということは感じていましたが、それを一つ一つきちんと追っている本書に出会ったことで、長年のちょっと引っかかっていたことが解決しました。
 これは童謡だけでなく絵本やマンガでも同じことなんですが、たとえ子供向けの作品でも作っている大人にとってのなんらかの動機やテーマが作品には存在しているということです。むしろ、その人間を作り上げる幼児期だからこそ伝えておきたいテーマがあるようにも思います。子供の頃に読んだ本をもう一度大人になってから読み直すことの大切さを教えられる一冊でした。


■ どんな人にオススメ?

・童謡に隠されたストーリーに関心がある人。


■ 関連しそうな本

 合田 道人 『本当は戦争の歌だった童謡の謎』
 合田 道人 『こんなに不思議、こんなに哀しい童謡の謎〈2〉』
 上田 信道 『謎とき名作童謡の誕生』
 桐生 操 『本当は恐ろしいグリム童話』
 本田 透 『本当は萌えるグリム童話』


■ 百夜百音

おこさまダンスミックス【おこさまダンスミックス】 中尊寺ゆつこ オリジナル盤発売: 1993

 童謡と言えば、伝説の子供番組「ウゴウゴルーガ」で童謡をハウスミックス&CGで流す「こんしゅうのどうよう」が好きでした。
 ウゴルーと言えば、ルーガちゃんがもう20歳になってしまったそうです。時の流れの早さを感じます。


『小出由華1stDVD -ARRIVAL-』小出由華1stDVD -ARRIVAL-

2006年4月 7日 (金)

民間校長、中学改革に挑む

■ 書籍情報

民間校長、中学改革に挑む   【民間校長、中学改革に挑む】

  藤原 和博, 天野 一哉
  価格: ¥1,470 (税込)
  日本経済新聞社(April 2003)

 本書は、リクルートを退職して杉並区立和田中学校長に就任した藤原和博氏の主張を、もう一人の著者であるジャーナリストの天野一哉氏が取材を元に裏をとっていく、というスタイルで民間人校長が挑んでいる学校改革の全貌を伝えようとしているものです。
 本書が第一に俎上に挙げているのは教科書です。「なぜ教科書はつまらないのか」という質問に対し、教科書会社の編集者は、「手足を縛られているんですよ」、「面白くしたくてもできない仕組みになっている」と教科書がつまらないという事実を認めます。教科書は、よく知られている学習指導要領のみならず、教科書調査官によって大きな制約をかけられています。そしてその制約の観点には、「すべての教科書の内容をそろえる」という横並びのチェックが働くため、結果として横並びにつまらない教科書が出来上がるという仕組みになっていることが述べられています。
 藤原氏は、相反するイメージで捉えられがちな「入試を突破するチカラ」(=情報処理力)と「生きるチカラ」(=情報編集力)とが、地続きでつながったクルマの両輪であることを強調しています。そして、「生きるチカラ」をさらに以下の5つのチカラに分解しています。
・ロジックするチカラ:問題の本質を見抜き、論理的に考える力
・コミュニケーションするチカラ:外国人を含めた他者と交流し知識を吸収できる力
・ロールプレイングするチカラ:政治や経済などさまざまな社会的な役割を擬似的に自分の中にイメージできる力
・シミュレーションするチカラ:あらゆる自然現象を自分のイメージの中で再現できる力
・プレゼンテーションするチカラ:それらの情報を吸収し、自分の価値軸上に再編集した上でしっかり伝える力
 藤原氏は、「はじめに」の中でも「情報処理力」と「情報編集力」との違いについて、前者が「ジグソーパズル」をやるときの力、要素を決めていく力であるのに対し、後者は「レゴ」で遊ぶときの力、要素間の関係性を決めていく力であると解説しています。
 藤原氏は、リクルート時代から、[よのなか]科の授業によって教育界で知られる存在でしたが、本書ではこの[よのなか]科が生まれる土台となったビジネス上の試行錯誤について語られています。著者が、リクルートの関連会社であった「リクルート出版」をマルチメディア・パブリッシャーとして模様替えした「メディアファクトリー」において、「ダ・ヴィンチシリーズ」という「心豊かで自分らしい生活をプロデュースする」書籍シリーズや、マルチメディア教育ソフトで失敗した経験が、後の[よのなか]科や民間人校長としての仕事に役立っていることが語られています。マルチメディア教育ソフトを使って授業として機能させるためには、生徒たちを主人公にしたデザインをしなければならないことに気づき、「子どもたちを授業の主人公にすえる場合、マルチメディアで授業するのではなく、授業を"子供たちの目から見て"マルチメディア化する必要があるのだ」と語っています。
 この他、本書には[よのなか]で生きてくる国土や数学、理科の考え方や、学力低下問題、プロジェクト学習で知られるミネソタ・ニューカントリー・スクール(MNCS)のディー・トーマス校長(私も2004年2月14日に千葉で講演されたのをお聴きしたことがあります。)との対談等が収められています。
 本書は、藤原氏の教育関係の著作やさまざまな場での情報発信を再編集した、という印象で、目新しさはありませんが、藤原氏に興味を持ち始めた人にとってはちょうど良いイントロダクションになるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 藤原氏は、他の著書『父生術』でも語っていることですが、自分が息子に言っていた3つの言葉、「早くしなさい」「ちゃんとしなさい」「いい子ね」が、「日本の戦後教育から自分自身が刷り込まれた呪文」であることに気づき、ロンドンに引っ越してからは言わないように決めた、ということが紹介されています。この3つの言葉を人生論的に語ることも可能ですが、これらの言葉は、本書の冒頭で紹介されている「情報処理力」の方に深い関連があるのではないかと考えられます。
 また、藤原氏は、民間人が校長になることに対するアレルギー反応に対し、必要なことは、「プロのマネジャー(ビジネス出身とは限らない)と、プロ教師と、プロの教育行政マン(自治体の教育委員会)が三つ巴に組んで、地域社会の資源を『子どもたちの未来』のために目いっぱい掘り起こし、新しいノウハウを開発すること」であると主張しています。行政の世界でも、「この仕事(例えば水道事業)は命に関わる仕事だから民間企業には任せられない」ということがよく言われますが、日々食べている食材にしても、命を預けている自動車の製造にしても、旅行に使う飛行機にしても、どれも民間企業の手によるものです。本書はこんなことを考えるきっかけにもなるのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・中学校改革の現場の雰囲気に触れてみたい人。


■ 関連しそうな本

 藤原 和博 『公立校の逆襲 いい学校を作る!』 2005年06月17日
 藤原 和博 『情報編集力―ネット社会を生き抜くチカラ』
 藤原 和博 『サクラ、サク』 2005年12月04日
 藤原 和博 『世界でいちばん受けたい授業―足立十一中『よのなか』科』
 大島 謙 『高校を変えたい!―民間人校長奮戦記』 2006年02月13日
 吉田 新一郎 『校長先生という仕事』 2006年02月15日


■ 百夜百マンガ

うしろの百太郎【うしろの百太郎 】

 何より怖いのは、主人公の一太郎が心霊現象に遭遇した時の顔そのものだったりします。
 そういえば「コータリーまかりとおる」に出てくる応援団副団長の名前は「後百太郎(うしろのももたろう)」だったです。

2006年4月 6日 (木)

コミュニティ・スクール構想

■ 書籍情報

コミュニティ・スクール構想   【コミュニティ・スクール構想】

  金子 郁容, 渋谷 恭子, 鈴木 寛
  価格: ¥1,890 (税込)
  岩波書店(2000/12)

 本書は、「自己改革をする意識も動機も誘因もなく、関係性や自発性が重んじられるインターネット社会に決定的に取り残されている」従来の教育システムの改革を、「私たちひとりひとりが、もっと、教育や学校に関心をもち、できるところから参加するところから始める」ために、「コミュニティ・スクール」という新しいタイプの公立学校を提案しているものです。
 本書の背景としては、著者の一人である経済学者の金子郁容氏が、当時、慶應幼稚舎長を務めるとともに、教育改革国民会議の委員として、その中間報告にコミュニティ・スクール構想を盛り込んでいたことがあります。本書はその報告書での提案を補強する意味合いをもっているとも言うことができます。
 著者は、国立教育研究所の研究会が出した調査報告書「学級経営をめぐる問題の現状とその対応」から、「『学級崩壊』の状況に丁寧にかかわり、必要な支援を得られるなら、その経験を通じて、教師や児童や保護者たちが、学び成長する転機となる可能性」を紹介したうえで、それまでの教育改革の動きを「意思決定と行動が遅すぎる」、「できたものが中途半端な内容だ」という意味で「too little, too late」と酷評しています。そして、制度改革を進める上では、「制度改革自体を試行錯誤する必要はない。ある枠を決めて、その中で、地域なり学校なりが、自発的にいろいろ試行錯誤することができるような制度を作るということも可能である。その制度自体は、慎重に討議し合理性を確認すべきであるが、その制度内で、現場がさまざまなことを試すことで新しい可能性が見つかれば、公教育に大いに貢献することになる」と延べ、日本の教育システム改革を進めていく上での方策の一つとしてのコミュニティ・スクール提案の位置づけを述べています。
 では、従来の教育システムの具体的な課題はどのようなものか。著者は、その一つとして、官僚機構ががっちり人事権と予算編成権を握っていて、公立学校の校長には組織のトップとしては驚くほど職務権限が弱々しく限られていることを指摘しています。具体的には、「校長ができることといったら、学級担任・教科担当の決定、授業始業時刻の決定、時間割の決定、修学旅行・対外試合などの学校行事の実施、出席簿の作成、出席状況の把握、卒業証書の授与、児童生徒の懲戒、伝染病感染防止のための出席停止」などであり、教科書どころか補助教材すら教育委員会にお伺いを立てねばならず、「企業でいえば、校長の職務は、係長か、せいぜい課長程度ではないだろうか」と、私立学校の校長である著者自身が教員を公募して採用している経験と対比しながら述べています。そして、文部省の「こと細かな指示」の例を示しながら、「学校は、児童生徒に『生きる力』を教えることになっている。皮肉に言えば、肝心の学校自体が、生きる力どころか、自分で判断する力も持てなくなってしまっているのである」と嘆いています。
 教育システムが抱えている、この「自律性喪失症」とも言えるような、「学校関係者に蔓延する消極的なマインドが作り出す漠然とした閉塞感」、著者は、「日本社会のさまざまな分野にあまねく感じられるもの」とした上で、コミュニティ・スクールを、「問題解決のための、小さなひとつの突破口」にすることを提案しています。
 この他、本書では、諸外国の教育改革の事例として、イギリスの「LMS(Local Management of Schools)」(教育における国と地域の責任と役割を明確化し、全国的な品質コントロールを制度化した一方で、個々の学校の経営については地域に任せる考え方)や、アメリカの「チャーター・スクール」(「こんな学校を作りたい」という地域の親や有志の既存の公立学校の先生たちが学校設立を申請することで公立の小中学校・高校を作るという、学校制度のイノベーション)等を紹介しています。この中で、チャーター・スクールができた理由を、「多くの地域で、公立学校が『行きたい』と思える状況になかった」ためであると述べています。
 コミュニティ・スクールの制度的特徴としては、
(1)自発性に基づく学校
(2)校長に「人事推薦権」がある
(3)地域学校協議会の設置、情報開示、協議会によるチェック、結果責任
の3つの特徴を持つとともに、その狙いとしては、
(1)意欲のある人が参入してくることで教育界が活性化する
(2)上下関係ではない管理・責任体制をつくる
の2点があることが述べられています。また、「チャーター・スクールの基本精神とイギリスのLMSの制度論を合わせて日本的にアレンジしたもの」であるとも述べています。
 本書は、コミュニティ・スクールそのものの是非にこだわらず、公教育に問題意識を持っている方に是非読んでいただきたい一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書では、先進的な学校づくりの事例として、千葉市立打瀬小学校の校長だった溜昭代氏のインタビューが掲載されています。
 打瀬小学校は外からしか見たことがありませんが、それまで「小学校」として持っていたイメージとはまるで違う外観に驚きました。


■ どんな人にオススメ?

・現在の公教育システムに疑問を感じている人。


■ 関連しそうな本

 金子 郁容 (編著), 玉村 雅敏, 久保 裕也, 木幡 敬史(著) 『学校評価―情報共有のデザインとツール』 2005年02月25日
 小塩 隆士 『教育を経済学で考える』 2005年02月13日
 藤原 和博 『公立校の逆襲 いい学校を作る!』 2005年06月17日
 大島 謙 『高校を変えたい!―民間人校長奮戦記』 2006年02月13日
 吉田 新一郎 『校長先生という仕事』 2006年02月15日
 金子 郁容, 松岡 正剛, 下河辺 淳 『ボランタリー経済の誕生―自発する経済とコミュニティ』 2005年08月29日


■ 百夜百マンガ

行け!稲中卓球部【行け!稲中卓球部 】

 「公教育の腐敗」というよりも中学校のガキ臭さが伝わってくる楽しい作品です。
 あんまり言うと田辺君が傷ついてしまうかもしれませんが・・・。

2006年4月 5日 (水)

フリーターとニート

■ 書籍情報

フリーターとニート   【フリーターとニート】

  小杉 礼子 (編集)
  価格: ¥1,995 (税込)
  勁草書房(2005/04)

 本書は、フリーターとニートの実態を明らかにし、そうした若者への就業支援のあり方を考えることを目的としたものです。主に、労働政策研究・研修機構の研究会が行った若者へのインタビュー調査結果を基にフリーターやニートに至ったプロセスと背景要因を分析している点が特徴で、単なる統計調査ではなく、困難を抱えた若者自身に、家族背景や友達関係などより踏み込んだ領域まで話が及んでいます。
 本書は、ニート問題を考える問題設定として、
(1)学校や企業などとしっかりとした社会との関係を持っていないために将来の可能性が閉ざされがちな状態。
(2)彼らがハローワークなどの政策的支援を十分活用していないこと。
(3)そのまま放置すると、社会的コストになる可能性があること。
という3つの視点から対策を考え、ニート問題を「社会活動に参加していないため、将来の社会的なコストになる可能性があり、現在の就業支援策では十分活性化できていない存在」と捉えることを提案しています。
 本書は、日本型ニートは、「働く意欲のない青年」と解されることが多く、この点が誤解を生みがちであることを指摘し、「ふだんの状況として、求職活動をしている者はやはり少ないが、仕事に就きたいという希望を持っているものはかなりいる。これを意欲がないと決めつけるのは問題だろう」と述べています。
 本書に収められているインタビューは、教育から就業への「スムーズな移行」の経路からいずれかの段階から離脱したもので、その原因となる障害は、
(1)高校の学校斡旋や大卒の新卒採用のプロセスそのものに乗らなかった時点。
(2)斡旋プロセスに乗っても斡旋が成立しなかった時。
(3)就職が決まっても早期に離職した時。
(4)離学後・離職後に、正社員の仕事に(再)就職しない時。
の4つに整理されています。
 支援機関としての学校の役割に関する第2章では、
(1)高校在学中に学校外の支援機関(ハローワーク)を利用させるなどの対応をしている。
(2)教員側から電話をかけるなど積極的に働きかけをしている学校があった。
(3)支援しにくいタイプとして、反発するタイプ・支援外のタイプ・支援忌避タイプがいる。
(4)中退や不登校の場合、別の学校など学業継続の支援は行われているが、就業支援は行われていない。
等の点が指摘されています。
 また、無業の若者のソーシャル・ネットワークが、
・孤立型:家族以外の人間関係がほとんどない
・限定型:地元の同年齢で構成された人間関係に所属する
・拡大型:人間関係を広げていく志向が強い
の3つの累計に分けられ、孤立型、限定型が多くを占めることを紹介しています。
 家庭環境を対象とした第3章では、着眼点として、
(1)学校や仕事への移行の危機に直面している若者の成長過程で、親や家庭環境はどのような役割を果たしてきたか。
(2)親の価値規範、子供に対する親の姿勢や行動が大きい中で、家庭が、職業を持って自立することを社会化する機能が弱くなっているのではないか。
(3)1990年代の不況による親世代の職業と家計に与えた大きな打撃が、子供世代の成人期への移行にどのような影響を及ぼしているか。
(4)移行の困難に直面している若者を、家庭はどのように扱っているのか。
という4点を挙げています。
 この章では、「親の教育志向」と「経済水準」という2つの要因を用いて、移行の困難に直面している家庭を4つの類型に分けています。
・類型I:中・高卒放任家庭──経済水準が低く、かつ子どもの教育への関心が低い。
・類型II:就職難に翻弄される高卒家庭──高卒就職難に直面しているが、経済事情から進学という迂回ができにくい。
・類型III:期待はずれに直面する教育志向家庭──不況の中で、親が期待したような形で自立できない。
・類型IV:複雑な事情をかかえる家庭
 この類型に従い、それぞれの類型ごとに様々な移行困難な家庭のインタビューが掲載されています。
 本書は、ニートの若者本人から、その背景となった家庭環境や学校での経験を聞き出しているという点で貴重な資料であると同時に、表面的な若者風俗を扱った雑誌記事などよりも、深く掘り下げた若者像を描いている資料としても読むことができます。


■ 個人的な視点から

 本書を読んで衝撃を受けたのは、家庭環境について分析して第3章です。経済的に困窮し、崩壊した家庭はもちろん、両親が仕事を終わってからパチンコ屋に直行して、食事も作らず子供を放任・放置している家庭が多いことが印象に残りました。家庭の貧困とは、経済的な貧困だけを指すわけでなく、パチンコ屋に入り浸るギャンブル依存症や、職場に入り浸るワーカホリックなど、様々な依存症に陥った親の不在を意味するのではないかと思います。
 「庶民の娯楽」という言い分に反して、パチンコ依存症と家庭崩壊の関係を調べた資料はないでしょうか。探してみたいと思います。


■ どんな人にオススメ?

・「移行困難」な家庭の実情に関心がある人。


■ 関連しそうな本

 小杉 礼子 『フリーターという生き方』 2006年04月04日
 宮本 みち子 『若者が『社会的弱者』に転落する』 2005年05月04日
 本田 由紀 『若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて』 2006年03月02日
 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』 2006年02月14日
 苅谷 剛彦, 石田 浩, 菅山 真次 (編集) 『学校・職安と労働市場―戦後新規学卒市場の制度化過程』 2006年03月03日
 大久保 幸夫 『新卒無業。―なぜ、彼らは就職しないのか』


■ 百夜百マンガ

おごってジャンケン隊【おごってジャンケン隊 】

 単なる有名人ゲストの時はあんまり面白くなかったのですが、ガチャピン、ムック、Pちゃんのポンキッキーズキャラクターのシリーズは面白かったです。そういえばPちゃんは、「ピーピピー」しか話せないんだけどどうしたんでしたっけ?
 なお、ポンキッキーズは、平日の朝1時間→平日の夕方1時間→平日の夕方30分→土曜の早朝6時30分から30分→土曜の早朝6時から、とどんどんポジションが下がり、今年度からは日曜早朝になってしまいました。いよいよ次は深夜番組化でしょうか。

2006年4月 4日 (火)

フリーターという生き方

■ 書籍情報

フリーターという生き方   【フリーターという生き方】

  小杉 礼子
  価格: ¥2,100 (税込)
  勁草書房(2003/03)

 本書は、人によって様々な若者像がイメージされる「フリーター」の働き方と意識について、わかる限りの実態を伝えたい、という意図の下で書かれたものです。「フリーター」という言葉は、1980年代後半、リクルートの『フロム・エー』によって広められた言葉で、当初、「フリー・アルバイター」としていたものが略されて定着したものです。このときに念頭に置かれていたのは、「何らかの目標を実現するため、あるいは組織に縛られない生き方を望んで、あえて正社員ではなくアルバイトを選ぶ若者」でした。その後、「フリーター」という言葉の解釈は拡大し、正社員以外の働き方をしている人全体に使われるようになりましたが、本書では、「15~34歳で学生でも主婦でもない人のうち、パートタイマーやアルバイトという名称で雇用されているか、無業でそうした形態で就業したいもの」と定義しています。
 本書ではフリーターを、その動機から大きく3つに類型化しています。
(1)モラトリアム型:職業的選択を先延ばしをするために、フリーターになったタイプ。
(2)夢追い型:「やりたいこと」が見えていて、それが正社員として雇用される仕事ではないために、アルバイトを選んだタイプ。
(3)やむを得ず型:本人の希望とは裏腹に周囲の事情でフリーターになったタイプ。
 本書は、高校生の進路調査を元に、フリーターになる生徒のいくつかの特徴を指摘しています。それは、「ひとつの仕事に限らずいろいろ経験したい」、「自分に合わない仕事ならしたくない」、「有名になりたい」という気持ちが強い一方、「安定した職業生活」、「人より高い収入」は望んでいない点です。ここでは、フリーターになる理由として、「やりたいこと」という言葉が使われますが、その中身は、男子では、音楽系(バンド、ダンス)、芸能系(芸人、タレント)、スポーツ系(ボクサー、レーサー)等の華やかな人気職業を挙げるものが多い一方で、女子では、音楽系の他、習い事、特定の勉強、職人的修行など地道な選択が混じっているのが特徴です。
 フリーターの仕事の実態を見てみると、週労働日数は5日、労働時間は8時間が多く、平均月収は10~15万円、となっており、残業が恒常化している正社員や自営・家業従事の男性よりも幾分短くなっています。
 欧米との比較では、欧米では若年期のパートタイム労働や有期限雇用を問題視していない点が指摘され、その理由として、その内容とともにキャリア形成上の意味が異なることが指摘されています。つまり、ヨーロッパ諸国の大卒者の大半が専門技術職に移行していて、「大学で習得した知識・技能を仕事に発揮している」という意味で、「欧米の場合は大学教育と結びついた専門職に移行する過程での無業やパートタイム・有期限雇用」であるという点です。
 著者は、フリーターを選択した若者の多くが20代後半で正社員になっている点に関して、次の4つの点で問題があることを指摘しています。
(1)低技能度の労働であるため、この時期の職業能力開発が十分に行われていない可能性。
(2)キャリア探索期間としても有効でないこと。
(3)当初から正社員になったものに比べて、就業機会が相対的に条件が悪いこと。
(4)フリーターになる背景として学歴が低く、家計の厳しい家庭状況が考えられること。
 これらへの対策として、著者は、
(1)学校在学中のキャリア探索と職業能力獲得を支援する仕組み
(2)新規学卒就職・採用の慣行の枠内で移行できる者を支援する仕組み
(3)枠外で移行する者のキャリア探索と職業能力獲得、就業機会の獲得を支援する仕組み
の3つの仕組みが必要であると主張しています。
 本書は、とかく、本人のやる気や甘い家庭のせいにされがちなフリーターに対して、より実態を伝えるものになっていると思います。


■ 個人的な視点から

 本書の巻末には、補論として、雑誌記事を収録したようなものが収められていますが、そこにはフリーターだけでなく、モラトリアム的な進学や留学への戒めが述べられています。フリーターになる理由とを考え合わせると、家計に余裕がない「貧しい若者」がフリーターを選択し、家計に余裕のある「富める若者」が安易な文系の大学院や趣味系の専門学校、遊びに行くような留学を選択できるとも言えます。
 ここには、このような若者を採用する企業の側の責任もあります。履歴書上は、フリーターをしていた期間は不利になりがちで、大学院への進学はパッと見では立派に見えますが、昔と違い、こと文系に関しては、大学院は金さえあれば誰でも入れるものになっています。優秀な学生、バイタリティのある学生は、学部を出てすぐに就職しているのに対し、厳しい就職活動に自信を持てない学生やすぐに諦めてしまった学生、もっと遊んでいたいから親のすねをかじり続けたい学生、大学院進学を機に「学歴ロンダリング」を図ろうという学生が、文系修士をぶら下げて面接にやってきているのです。
 最近は企業の方でも、「文系修士は学部卒で就職していった学生の絞りかす」という厳しい態度をとっているようですが、こういう「就職はしたくないけどペーパーテストは得意」な学生は、年齢が不利にならない公務員試験の方に流れてきます。採用を担当している皆さんには、ぜひ、「2年間余計に勉強してきた以上、学部卒にはない(住民にとっての)プラスアルファが当然あるんだろうね?」、「あなたが勉強してきたことに学部卒よりも割り増しの給料を払うだけの価値があるの?」という高いハードルを課すことで、金があること以外はフリーターと変わらない安易なモラトリアム学生の増加に歯止めをかけていただきたいところです。


■ どんな人にオススメ?

・「フリーターでもいいや」と思っている高校生。
・企業や官公庁の採用担当者


■ 関連しそうな本

 小杉 礼子 (編集) 『フリーターとニート』
 本田 由紀 『若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて』 2006年03月02日
 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』 2006年02月14日
 苅谷 剛彦, 石田 浩, 菅山 真次 (編集) 『学校・職安と労働市場―戦後新規学卒市場の制度化過程』 2006年03月03日
 玄田 有史 『仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在』 2005年07月20日
 大久保 幸夫 『新卒無業。―なぜ、彼らは就職しないのか』


■ 百夜百マンガ

エコエコアザラク【エコエコアザラク 】

 作者は怖いストーリーを考えると怖い夢を見てしまうそうです。しかもフルカラーで。
 ちなみに主人公のモデルはあの国民的スカイラーク大歌手だそうです。

2006年4月 3日 (月)

学校って何だろう―教育の社会学入門

■ 書籍情報

学校って何だろう―教育の社会学入門   【学校って何だろう―教育の社会学入門】

  苅谷 剛彦
  価格: ¥735 (税込)
  筑摩書房(2005/12)

 本書は、主に中学生、特に新1年生を対象に、「どんなふうに学校について考えていけばいいのか、どのように問題を立てればいいのか、そういう疑問や発想の仕方を大切にすること、そこから自分なりに学校について考えを深めていくこと」ことで、自分なりの「学校って何だろう」の答えを見つける手助けとなるものです。本書のきっかけとなる「毎日中学生新聞」の連載を執筆するきっかけについて著者は、「苅谷さん、あなたは自分のやっている学問を、中学生にわかるように書けますか」と編集長に言われたことを挙げています。
 学校に対する素朴な疑問の一つとして、学校の勉強が何の役に立つのか、というものがあります。学校で習った一次方程式や細かい校則が大人になってから役に立っているようには思われません。著者は、この「素朴な疑問」を大切にし、一つ一つ丁寧に解きほぐしていきます。
 著者は、当たり前に見えるものを「素朴な疑問」で問い直すことの重要性を、現在の「教室」を、別の場所に目を向ける「比較」と、別の時代を見る「歴史」の2つの方法で問い直すことで示しています。同様に、中学校で「テスト」を受けるときに「当たり前」と思っている、
・他の人の解答を見てはいけない。
・教科書や参考書などを開いてはいけない。
・となりの席の人とおしゃべりをしてはいけない。
・開始の合図があるまで、解答用紙に手をつけてはいけない。
・終了の合図があったら、解答をやめなければならない
・解答用紙には自分の名前を書かなければならない。
・問題と関係のないことを解答用紙に書いてはいけない。
というルールを、著者が留学時に経験した「24時間試験」の体験を交えて解説しています。
 また、校則についても、規則の一つ一つがどれほどの意味を持つかということではなく、「校則を守ることは、学校や先生のいうことを聞いている従順な生徒であることを示」す反抗のリトマス試験紙であることが述べられています。つまり、「ほかの人の迷惑になるかどうかではなく、学校や先生に対する態度を示すサインとして校則を守っているかどうか自体が見られている。『正しい行動』であるかどうかよりも、『正しい態度』を見るためのひとつの物差し」が校則であるのです。
 「学校で何を習うのか」という疑問に関しては、教科書の知識そのものではなく、「隠れたカリキュラム」として、
・時間を守る
・がまんする
・コミュニケーションのしかた
・男子と女子
・自分の位置
・学年と年齢
・「日本」というまとまり
などを学ぶことが学校の役割として存在していることが述べられています。そして、「隠れたカリキュラムを通じて、私たちは、自分たちの周りの世界を、どのように区別するのかを知らず知らずのうちに身につけて」いくのです。
 この他、中学校教師が持っている、(1)授業に関する仕事、(2)生徒との関係に関わる仕事、(3)学校という組織を動かしていく仕事、の3つのタイプの仕事の解説や、著者の研究テーマである教育と格差の問題などが解説されています。『反社会学講座』で取り上げられた「キレやすくなった若者」の問題に関しても、凶悪な犯罪を犯す青少年は人口変化を考慮に入れても昔の方が多かったことも触れられています。
 本書は、中学生向けに書かれたものですが、本書を読まずに大人になってしまった「元・中学生」にとっても、学校とは何かを考える格好のヒントを与えてくれるものではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書には、著者が他の著書でも引用している次の文章が示されています。
 「英語の選択の授業を受けたいといったけど、先生は受けさせてくれない。選択の英語を受けるのは高校に行く人だけだという。廊下でもいいから聞かせてくれと頼んだが、だめだった。くやしくて、くやしくて、生まれ変わって私も高校に行くようになりたいと思った。生まれ変われなかったら、私の子供にだけはこんな思いはさせたくないと思った」(村松喬『教育の森1 進学のあらし』毎日新聞社、1965)
 これは、40年以上前に、高校に行くのが当たり前になる前の熊本県の中学2年の女子生徒が書いた作文ですが、著者がよく引用する文章です。
 当時は、中学を出てすぐに社会に出る人が多かったので、中学生は嫌でも自分と社会のかかわりや中学校の意味を考えさせられていましたが、現在の中学校は、次の段階である高校や、その次の段階までの通過地点であり、本書のターゲットである中学1年生にとっては、大学まで入れると社会にデルのは早くて10年後ということになります。40年前の熊本の中学生と同じように考えることは難しいですが、それでも本書を読んで何か感じるところがあればと思います。


■ どんな人にオススメ?

・4月から中学校に通う人。
・元・中学生の皆さん


■ 関連しそうな本

 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』 2006年02月14日
 苅谷 剛彦, 石田 浩, 菅山 真次 (編集) 『学校・職安と労働市場―戦後新規学卒市場の制度化過程』 2006年03月03日
 本田 由紀 『若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて』 2006年03月02日
 橘木 俊詔, 斎藤 貴男, 苅谷 剛彦, 佐藤 俊樹 『封印される不平等』 2006年02月10日
 玄田 有史 『仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在』 2005年07月20日
 山田 昌弘 『希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』 2006年01月11日


■ 百夜百マンガ

おじゃる丸【おじゃる丸 】

 犬山りんさんは週刊コミックモーニングの読者コーナーを担当されていました。
 いつの間にか大ヒットアニメの原作になっていてびっくりしました。

2006年4月 2日 (日)

封印作品の謎

■ 書籍情報

封印作品の謎   【封印作品の謎】

  安藤 健二
  価格: ¥1,554 (税込)
  太田出版(2004/09)

 本書は、様々な事情、特に何らかのタブーに触れてしまったために、製作元によって自主的に「お蔵入り」になってしまった作品を、元産経新聞記者である著者が、当時の関係者に突撃取材するドキュメンタリーです。著者は本書がデビュー作ということもあり、取材が途中で暗礁に乗り上げたり、実はお蔵入りになっていなかったことが判明したりと、完成度としてはそれほど高くありませんが、その点を含めて楽しめるものになっています。
 本書がメインに取り上げているのは、『ウルトラセブン』第12話と『怪奇大作戦』第24話をお蔵入りにし円谷プロです。これ作品が、どのような団体から抗議を受けてお蔵入りになったか、ということは今やネットでも色々と取り上げられていますが、それ以上に興味を引くのは、この業界、すなわち特撮ライターの世界を円谷プロが牛耳っていることです。決して円谷プロが取材をシャットアウトしたり、都合の悪いことを書こうとしている記事を潰そうとしたりという露骨なものではありませんが、特撮ものの本を出すには不可欠な版権を管理するという方法で、特撮ライター達は円谷プロには逆らえない、という構図が明らかになります。それは、著者が取材に協力してもらったライターから受けた次のような電話からも分かります。
「封印を扱うことの影響はあなたが意図している以上に大きいんだ。円谷プロは日本の映像文化を担っていたわけで、そのタブーの大きさを考えると、円谷プロと歩み寄ったうえで事前にきちんと話してから出版してほしい。だから私も、円谷プロの人から聞かれたら、取材があったことを知らせるかもしれない。私も円谷プロの関係者に個人的なつながりでお世話になったり親しい方も多いので、変な話になると、円谷プロを裏切ったとか思われてしまうんだよ! あなたも早く円谷プロに連絡をしないと、特撮関係で仕事はできなくなるどころか、もっと大きくなるかもしれませんよ」
 封印を巡るタブーそのものよりも、タブーを恐れるその業界の住民達の「掟」の方が面白いという例でしょう。
 『ウルトラセブン』第12話「遊星より愛をこめて」は、放送数年後に学習雑誌の付録に「ひばく星人」という説明が書かれていたことから被爆者団体からの抗議を受けてお蔵入りしたものですが、製作時点でそのような説明がついていたわけではなかったことや、「白い体にケロイド」というデザインが、この回を監督した(一部でカルト的な人気を誇る)実相寺昭雄のリクエストに応えてのものであったことなど、封印にいたるまでのもつれた糸がゆっくりとほぐされています。
 『怪奇大作戦』第24話「狂気人間」は、「脳波変調機」を使う「狂わせ屋」が、復讐をしたい人から一時的に精神障害にすることを請け負う、という設定自体が相当やばい作品ですが、現在では放送禁止になった言葉がたくさん登場することからも、抗議はやむなしと感じます。
 映画『ノストラダムスの大予言』がお蔵入りするエピソードでは、放射能で突然変異した怪獣が暴れる、というストーリーを聞きつけた「釜ヶ崎被爆者の会」が東宝のプロデューサーに抗議に行った様子が当時の関係者の証言で明らかになりますが、「釜の被爆者の人達は理詰めでなく感情を爆発させるという感じでしたから」という言葉から、そのときの「抗議」の様子が想像されます。ちなみにそのプロデューサーはわっと泣き出してしまったそうです。
 マニアの手による「幻の26巻」という海賊版まで出た『ブラック・ジャック』に関しては、あの"神様"が漫画家を辞めることまで考えるくらいに罵倒された抗議の様子が述べられています。この中で浮かび上がってくるのが「東大精医連」というグループです。このグループは日本でロボトミー手術を問題視する活動を引っ張っていたグループですが、その背景には、東大紛争の「残り火」であるこのグループが、権力側である東大の教授を攻撃するために過去のロボトミー手術を持ち出してきた、という抗争が存在していたことが明らかになります。
 最終章の「O157予防ゲーム」は、埼玉県庁が監修するゲームにエロゲのキャラクターが登場することが問題視された、というものですが、ここでは、県の医療整備課の担当者K氏の暴走ぶりが楽しい限りです。2ちゃんでも相当叩かれた人で、それまでにも『あずまんが大王』のキャラをポスターに登場させるなど、趣味を仕事にガンガン活かして突っ走っているのですが、動機としてはそれほど不真面目でもなく、ただ配慮というか常識が多少欠けた「愉快犯」的な印象を持ちました。特に、伝説となった綾波ポスターを手がけた三鷹市水道部のO氏の気の使い方と比べるとそのずさんさが目立ちます。


■ 個人的な視点から

 封印された作品を題材にする以上、その作品を手に入れることが重要になります。国会図書館に行ってコピーしてくる、という正攻法ももちろん使っているのですが、本書で大活躍しているのが情報流出で話題になったWinnyです。『ウルトラセブン』も『怪奇大作戦』もこの方法で封印された映像を入手しています。そういう点では、本書のタイトルも「封印作品」という言葉を使っているので何だか重たげですが、『お宝映像の謎』というタイトルの方が合ってるのかもしれません。
 ちなみに、『ウルトラセブン』の第12話の映像のソースの一つはあの宮崎勤からのものだそうですが、こんなところも、本書のテーマに関連しそうです。


■ どんな人にオススメ?

・特撮業界の「掟」を知りたい人。


■ 関連しそうな本

 安藤 健二 『封印作品の謎 2』
 森 達也 『放送禁止歌』
 メディア総合研究所 (編集) 『放送中止事件50年―テレビは何を伝えることを拒んだか』
 荻野 友大, なかの 陽 , 白石 雅彦 , 西村 祐次, 円谷プロダクション 『怪奇大作戦大全』


■ 百夜百音

Fantasma【Fantasma】 Cornelius オリジナル盤発売: 1998

 ストレンジな音楽としてのディズニーを大フィーチャーしたアルバムです。「サンプラーを抱えた一人ビーチボーイズ」状態のサウンドが確立したのもこのあたりでしょうか。とにかくメジャーセブンスへのこだわりは尋常ではありません。


『ファンタジア』ファンタジア

2006年4月 1日 (土)

読ませる技術

■ 書籍情報

読ませる技術   【読ませる技術】

  山口 文憲
  価格: ¥630 (税込)
  筑摩書房(2004/03/12)

 本書は、朝日カルチャーセンターで10年以上にわたり、作家の関川夏央氏と「コラム・エッセイの視点と発想法」という人気講座を続けてきた著者が、講座での体験を元に、素人が陥りやすい落とし穴や、読みたくなる文章を書くコツをまとめたものです。
 著者は、文章の世界ほど参入障壁が低いものはないといいます。「おそらくこれほど市場メカニズムが健全に作動している世界も、ほかにないのではあるまいか」と言うほどです。
 著者は、「うまい文章を書く秘訣」はないけれども「まずい文章を書かないコツ」はあると述べています。そのコツの一つは、「うまく書けそうもないことは書」かないことです。これを著者は野球の「選球眼」にたとえています。では、うまく書けそうな絶好球とはどのようなものでしょうか。
・ポイント1:すでに誰かが書いていることは書かない。
・ポイント2:世間の常識を謎ってはいけない。
・ポイント3:身近なことを書けばいい。
・ポイント4:オリジナルな切り口で勝負。
 こうやって4つにまとめると簡単ですが、これをクリアするのは実は相当難しいのだそうです。新聞の社説の内容が移ってしまう人も多く、特に「庶民」という言葉が出てくるような文章に対して著者は「一発免停」を宣告しています。
 そして、著者を有名にしたコラム・エッセイの技は「ある、ある、へー」の法則です。これは、読者の共感をつかむための「共感」をまず頭に持ってきて、もう一つくらい「共感」で駄目押ししたあとに、意外な「発見」を持ってくるというものです。著者によれば面白いエッセイの多くが、この「ある、あるへー」の構造を持っているということです。
 また、「文章に必要な6つの要素」として、
・テーマ:主題
・ロジック:「切り口」や「理屈・理論」
・プロット:具体的な文章に仕立てる「筋書き」
・スタイル:文体
・ギミック:冗談やしゃれ
・エピソード:何か意見や思想をなぞらえるもの
 この他にも本書には、面白い文章には、「スーパー・マリオブラザース」と同じように、
・キノコ(話)とキノコの距離があればあるほど面白く、
・キノコとキノコの間に段差があればあるほど面白い。
という法則があると述べ、そのルーツとして日本の連歌を紹介しています(「花を持たせる」の語源も紹介しています。)。
 また、着眼点は小さいほど良い、という「ピンホールカメラの理論」もおすすめです。
 ブログや日記など、素人が文章を発表する機会も増えてきました。特にブロガーにはぜひ読んで欲しい一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書では、永六輔の体験として、外国のホテルのバスタブの排水溝に○○が吸い込まれてハンマーでバスタブを壊した、という話が紹介されていますが、これは筒井康隆が「陰悩録」という作品にした有名なエピソード、というか持ちネタのはずではないかと思うのです。
 実際のところはどちらもネタだとは思うのですが、「外国のホテルで」というあたりはいかにもネタ臭さが漂います。もちろん、本書で解説されているようにエッセイストの語る内容は、「筆者を主人公にしたフィクション」と考えればいいのですが。


■ どんな人にオススメ?

・blogや日記など普段文章を書いている人。


■ 関連しそうな本

 中野 明 『書くためのパソコン』 2005年06月25日
 梅棹 忠夫 (著) 『知的生産の技術』 2005年05月05日
 本多 勝一 『日本語の作文技術』
 本多 勝一 『実戦・日本語の作文技術』
 樋口 聡 『フリーライターズ・マニュアル』
 樋口 裕一 『人の心を動かす文章術』


■ 百夜百音

クリームの素晴らしき世界【クリームの素晴らしき世界】 クリーム オリジナル盤発売: 1968

 エリック・クラプトンにばかり目が行ってしまいますが、個人的には鈴木賢司のライブアルバムをきっかけにジャック・ブルースからクリームにたどり着きました。


『INAZUMA SUPER SESSION』INAZUMA SUPER SESSION

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