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2006年4月19日 (水)

働きたいのに…高校生就職難の社会構造

■ 書籍情報

働きたいのに…高校生就職難の社会構造   【働きたいのに…高校生就職難の社会構造】

  安田 雪
  価格: ¥2,520 (税込)
  勁草書房(2003/09)

 本書は、若さと未熟さゆえに多くの保護や制約が課せられている、就職希望の高校生が埋め込まれた状況を精査することで、「それをとりまく日本社会の混乱と歪み」、教育と職業と市場原理の葛藤を浮き彫りにしようとするものです。
 第1章では、企業から、「人材はいるが、人手はいらない」と言われてしまう、手に技術のない普通高校の生徒の就職の厳しさが紹介されています。高卒女子の働き口は、「水・髪・油」(飲食業・水商売、美容・理容業、石油小売業)と嘆かれている状況にあり、女子生徒の多くが希望する販売・サービスや一般事務の求人が極めて少ないことが述べられています。そして、単純にステレオタイプ化されたイメージである「成績が低く、進学できない者が就職する」という類型化とは異なり、むしろ、「就職できないから進学する」若者が多いことが紹介されています。そして、学力ではなく、家庭の経済力(と家庭の文化資本)が進路を決定する大きな要因になっていることが指摘されています。
 第2章では、「高校生には驚くほど強い正社員志向があり、転職・独立願望も少なく、労働と自立に対する強い肯定観がある」という、高校生の意外なまでに保守的な職業観が述べられています。その上で、高校生の成長を妨げる要因として、
(1)高校の就職指導が、本来家庭教育の範疇である服装・言葉使いなど、マナーや一般常識にとどまっている点。
(2)高校によって、事業所や職業についての知識、求人開拓や就職指導のための努力に大きな差がある点。
(3)高校の社会科学の勉強が、ほとんど歴史と地理の暗記に費やされ、職業や労働実態に関する知識が教えられていない点。
の3点を挙げています。
 第3章では、高校生と採用担当者の意識の乖離として、「採用担当者にとって、高校生は理解不能な、自発的に動けない若者の集団であり、高校生にとって採用担当者は自分を調べる検査官であり、組織による管理と統制の象徴」であることが述べられています。そして、「働きたいのに働けない」理由として、
(1)圧倒的な労働機会の不足と周囲の意識の遅れ
(2)職業や企業についての高校生の理解不足
(3)同世代文化の限界
(4)安易な進学への憧憬と労働力への否定的イメージ
の4点を指摘しています。
 この他、4章では、インターンシッププログラムである「ものづくり技術再考事業」に参加し、仕事の面白さを感じることができた工業高校生の感想文を紹介するとともに、これまで長い間、「高卒就職者を勉強に対して努力をしない者とみなしてきた」幻想こそが、「学歴社会という不可避な欠陥を持ちながら、日本社会は公正な社会だとされる根拠」であったと指摘しています。「進学機会に恵まれた人々は、自分が占めている社会的地位と資源──職業であれ学歴であれ──は自分の正当な努力により、公正な競争条件の下で獲得されたものだと自己を正当化できる」からです。
 本書は、フリーターやニートに関心がある人にとっては、その前段階である教育から職業への移行を考える上で、適度な読みやすさを持った1冊になるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書の後半では、高卒就職希望者に対する職業情報提供の問題点について解説されています。
 高校の就職指導教員が求めているのが、「一に求人、二に時間」と言われるように、就職指導の厳しさも取り上げていますが、新規高卒求人情報をインターネットで提供している「高卒者就職支援システム」が、高校に設置した専用端末からしかアクセスできないことや、ハローワークが進路指導教員に、「生徒にはあまり、インターネットで閲覧・検索をさせないようにしてください」と指導している、という問題点が指摘されています。
 また著者は、「就職志望者に対する指導は、無知な者、弱い者、機会に恵まれない者への教育である」とした上で、「無知」とは学力が低いことではなく、働くこと、生産者になるということを知らないと指摘しています。
 とかく本人のやる気や能力の問題に帰せられてしまいがちな若年雇用の問題に対する的確な指摘ではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・ニートやフリーターの問題の背景にある学校を通じた就職について知りたい人。


■ 関連しそうな本

 安田 雪 『大学生の就職活動―学生と企業の出会い』 
 苅谷 剛彦, 石田 浩, 菅山 真次 (編集) 『学校・職安と労働市場―戦後新規学卒市場の制度化過程』 2006年03月03日
 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』 38762
 宮本 みち子 『若者が『社会的弱者』に転落する』 38476
 本田 由紀 『若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて』 38778
 玄田 有史 『仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在』 38553


■ 百夜百マンガ

ときめきトゥナイト【ときめきトゥナイト 】

 『有閑倶楽部』に「池の鯉誘拐事件」という回がありました。後から単行本で読んだのでその時はピンと来ませんでしたが、そういえばアニメ化されたりと大人気でした。

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