« ドキュメント平成革新官僚―「公僕」たちの構造改革 | トップページ | 喪失と獲得―進化心理学から見た心と体 »

2006年4月14日 (金)

労働市場設計の経済分析―マッチング機能の強化に向けて

■ 書籍情報

労働市場設計の経済分析―マッチング機能の強化に向けて   【労働市場設計の経済分析―マッチング機能の強化に向けて】

  樋口 美雄, 阿部 正浩, 児玉 俊洋
  価格: ¥4,830 (税込)
  東洋経済新報社(November 2005)

 本書は、「高質な労働市場」を形成するための公的部門と民間部門の役割分担や政府の果たすべき役割、良好な雇用機会の拡大、企業と人材との橋渡しを円滑に行う情報提供・相談機能などの問題を、統計分析やヒアリング調査に基づいた日本の現状把握と諸外国の経験を参考に、雇用創出、職業紹介、能力開発のあり方について論じたものです。
 本書はまず、1990年代から2000年代初頭までの雇用構造の変化として、「企業と労働者との『保証と拘束』の関係が『労働者の自己責任と自己選択』を求める関係に移行してきた」として、非自発的理由を中心とした離職率の上昇に企業の保障機能が弱まっていることと、企業の保障の対象となる正規雇用の比重が低下していることを指摘しています。
 また、企業のITの導入の影響として、「長期雇用の中で社内業務に精通し、また社内に人的ネットワークを構築してきた正規従業員のパート従業員に代表される非正規労働力に対する優位が弱まるかもしれないこと」が示されています。
 転職者の選択肢の拡大と円滑な労働移動を促進すると期待される「民営職業紹介」に関しては、就職に有利な転職者(高学歴層や専門・技術的職業従事)にとっては利用されやすい反面、労働市場で高く評価されない離職者にとっては利用しづらい入職経路であることが示されています。
 日米欧の比較に関しては、公共職業紹介機関の職員のモティベーションの強化策として、イギリスのジョブセンタープラスにおいて、就職斡旋に成功した場合の評価点数に基づく業績評価を、給与に反映させるという方策が紹介されています。また、職業紹介の民間委託の是非に関しては、「公的な財源の下で業績評価基準が的確に設定されれば、公的職業紹介の組織形態が公共機関であるか民間事業者であるかは、あまり重要な問題ではない」ことが述べられています。
 企業による教育訓練に関しては、1997年以降、教育訓練対象者の「選択と集中」が進み、「96年までは短時間労働者であっても企業の実施する教育訓練を受講していたが、97年以降、特に短時間労働者の受講率が下がり、訓練は選別されたコア人材に集中的に行われるようになっている」ことが述べられています。
 また、日本では、能力開発施策の実証分析が不十分であるのに対し、米国ではこの分野の実証分析が蓄積されていることから、米国の訓練効果分析からの日本への示唆として、
(1)訓練効果を挙げるためには何よりも教育訓練の中身が問われること。
(2)教育訓練の効率を改善するには、受講者の自発性を引き出すことが非常に重要であること。
(3)教育訓練受講者と提供者の橋渡しをする有効な仕組み(キャリア・カウンセラーなど)をいかにして作るかということ。
の3点が挙げられています。
 本書は、労働政策に携わる人たちにとって重要であることはもちろん、現在論点となっている社会格差の問題などを論じる上でも参考になる1冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書は、職業紹介や能力開発など多岐にわたる労働政策の分析を行っていますが、やはりキーとなるものは「能力」という、本人自身にとっても認識が難しい、まして市場や企業からは見えにくいものの存在です。この「能力」が一生を左右し、労働政策を含む社会の仕組みが、この「能力」をいかに見極めるか、というシステムになっているか、ということを痛感させられます。
 今、論点になっている社会格差の問題も、能力をいかに伸ばすか、能力をいかに認識するか、そして能力をいかに伝えるか、という問題に行き着くのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・労働政策そのものの効果に関心がある人。


■ 関連しそうな本

 樋口 美雄, 阿部 正浩, 児玉 俊洋 『労働市場設計の経済分析―マッチング機能の強化に向けて』
 玄田 有史, 中田 喜文 (編集) 『リストラと転職のメカニズム―労働移動の経済学』
 猪木 武徳, 大竹 文雄 『雇用政策の経済分析』 2006年03月01日
 八代 尚宏 『日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済』 2005年03月23日
 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』 2005年04月05日
 苅谷 剛彦, 石田 浩, 菅山 真次 (編集) 『学校・職安と労働市場―戦後新規学卒市場の制度化過程』 2006年03月03日


■ 百夜百マンガ

おたんこナース【おたんこナース 】

 動物のお医者さんだけではなく、人間のお医者さんも登場する作品。ドラマ化された他、二匹目、三匹目のどじょうを狙った医療コメディドラマが乱発されるきっかけを作りました。

« ドキュメント平成革新官僚―「公僕」たちの構造改革 | トップページ | 喪失と獲得―進化心理学から見た心と体 »

キャリアデザイン」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1244312/30598734

この記事へのトラックバック一覧です: 労働市場設計の経済分析―マッチング機能の強化に向けて:

« ドキュメント平成革新官僚―「公僕」たちの構造改革 | トップページ | 喪失と獲得―進化心理学から見た心と体 »

2016年12月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

最近のトラックバック

無料ブログはココログ