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2006年6月21日 (水)

成果主義時代の出世術―ほどほど主義が生き残る!

■ 書籍情報

成果主義時代の出世術―ほどほど主義が生き残る!   【成果主義時代の出世術―ほどほど主義が生き残る!】

  福田 秀人
  価格: ¥1365 (税込)
  ベストセラーズ(2006/04)

 本書は、「働けば働くほど、どんどんリスクが大きくなる」という成果主義が持つ「負のスパイラル」を回避するための「ほどほど主義」の秘訣を、著者の経営コンサルタントや起業再建の経験、そして組織の経済理論で、分かりやすく解説したものです。
 著者が掲げる「保身と出世の3原則」として、
○保身の3原則
(1)都合の悪いことはいわない(省略)
(2)都合の良いことは大げさに伝える(誇張)
(3)必要に応じてウソではない程度に内容をアレンジして伝える(変形)
○出世の3原則
(1)部下や下位部門からの提案には「NO」と却下する(拒絶)
(2)同僚・同等部門には同意はしても協力はせず、「頑張れ」と激励に回る(回避)
(3)上司・上位部門からの指示や意見には無条件で賛成し、ゴマをすりつつ従う(盲従)
のそれぞれ3つの原則を掲げています。
 本書の「ほどほど主義」を支える理論的な解説は、ミルグラム=ロバーツの『組織の経済学』で解説されている「ラチェット効果」です。「ラチェット」とは、「爪車」と訳されますが、一方向にしか回らない性質を持っていて、工事現場などで「ガチャ」と呼ばれているボルトを締める道具もラチェットです。「ラチェット効果」とは、「ノルマを達成すれば、さらにノルマが上げられ、以後それが下がらない」と説明されていますが、本書では、この効果を発見したソ連経済の研究からの引用として、「釘1トン」のノルマを達成するために「1トンの釘1本」を作ったというアネクドート(小話)を紹介しています。
 同様に『組織の経済学』をネタ本にしたものとしては、「均等報酬原理」をサラリーマン向けに解釈したものがあります。これは、「最小のリスクと最小の努力で、まあまあの報酬を安定的に得ることを追求する」と解説されていますが、この結果、サラリーマンの望ましい行動は、
(1)評価の対象となる結果だけを手段を選ばず追い求める。
(2)高い評価を得やすい仕事にはできるだけ時間と労力を配分する。
(3)評価を得にくい仕事にはできるだけ時間と労力を配分しない。
(4)評価の対象とならない仕事は、重要な仕事でも一切しない。
という「ジコチュウ」そのものの行動であることをズバリ指摘しています。一方で、運悪く(?)思わぬ業績をあげてしまったときには、期待値が切り上がることを避けるために、「たまたまです」と運の良さを強調することを推奨しています。
 さらに、成果主義がもたらすモラルハザードとして、カッペーリによる、
(1)会社へのロイヤリティの低下と不信感の増大
(2)有能なキーマンの流出
(3)企業独自の技能育成の阻害
の3つの指摘を紹介している他、これをアレンジした「成果主義の副作用」として、
(1)みんながライバル心むきだしに戦う。
(2)職場ぐるみでさぼる。
(3)人材が育たなくなる。
(4)チャレンジ精神が失われる。
(5)目標未達の説明(=言い訳)がうまくなる。
の5点にまとめています。
 本書の魅力は、大学教授だからといって学術的な解説一辺倒ではなく、あくまでサラリーマンがうなづきやすい視点で解説をしていることです。他の社員との関係の中でのラチェット効果として、「優秀な人間にお茶の子さいさいで仕事をこなされたのでは、他の社員はたまったものではない」ので、このような「出る杭」は、徹底的に「イジメ抜き、足を引っ張って、引きずり下ろさなければならない」という解説は、サラリーマンの生態に通じていなければ書けないものではないかと思います。
 また、労働評論家の孫田良平氏からの言葉として、「あいや、しばらく、ごもっとも、そうでござるか、しかと存ぜぬ」の「サムライ応答5原則」を紹介しています。
 さらに、直属の上司の権限強化を伴う米国流人事管理をグローバル・スタンダードと捉えるのであれば、同じく世界の常識、グローバル・スタンダードである「ゴマすりと保身」こそが重要になることを、『奥様は魔女』を引き合いに紹介しています。同じことは、外資系企業で人事部門の経験を積んだ『「クビ!」論。』の梅森浩一氏も著書の中で指摘しています。
 この他、本書では、「ヤクザ出世の条件」として、
(1)そこそこのヤマを踏む
(2)妻や愛人が出所まで待っている
の2つが絶対条件であることや、「喧嘩はいつも主流派とやる」という喧嘩の原則等が紹介されています。
 著者は、最後に、理想には程遠いが、現状ではベストの人事制度は、「年功要素を反映させて雇用と年相応の生活をまず保障し、その上で本人の資質と努力の反映である仕事への姿勢と能力を重視する能力主義を制度化した、これまで主流であった職能等級制度」であるとし、「成果の評価も賃金に反映させるべきだが、それが賃金に占める比重はこれまで同様に小さく抑え、組織的怠業やモラルハザードをひどくしないようにすべき」ことを指摘しています。
 本書は、建前論に陥りがちな「あるべき論」の人事制度の議論に、理論に裏付けられた豊富な経験によって、矛盾を突きつけているとともに、サラリーマン個人として生き残るためのサバイバル術を教授してくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書は、大学教授の本ということで、敷居が高いように感じられますが、学術的な内容を直接、サラリーマンの現場に適用することはなく、著者の豊富なコンサルタントとしての経験をうまく接着剤として使っているように感じます。
 その一方で、「ラチェット効果」や「均等報酬原理」など、本書の中核部分のネタ本である、『組織の経済学』の著者名に誤りがある点が悔やまれます。
 具体的には、P.20とP.41で、
「スタンフォード大学の組織経済学者ロバート・ミルグロムら」
と紹介されていますが、『組織の経済学』の著者は、Paul MilgromとJohn Robertsの2名であり、書くのであれば、
「スタンフォード大学の組織経済学者ポール・ミルグロムら」
とするか、
「スタンフォード大学の組織経済学者ポール・ミルグロムとジョン・ロバーツ」
とするべきでしょう。
 1箇所であれば単なる書き間違いかと多いますが、2箇所が同じように違うということは、著者がうろ覚えで1箇所間違えたところを、編集者が表記揺れを合わせるために間違えた方に合わせたのかもしれません。
 いずれにせよ、本書がサラリーマンの共感を呼ぶ部分は、著者の長い企業でのコンサルティングの経験に基づいた(経営者の視点を含む)現場感覚であり、理論はそれを補強するものでしかないので、本書の魅力には余り影響しないと思います。


■ どんな人にオススメ?

・個人として成果主義の風潮を生き延びたい人。


■ 関連しそうな本

 ポール・ミルグロム, ジョン・ロバーツ (著), 奥野 正寛, 伊藤 秀史, 今井 晴雄, 八木 甫(翻訳) 『組織の経済学』 2005年1月24日
 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』 2005年04月05日
 伊藤 秀史 (編) 『日本の企業システム』 2005年04月24日
 伊藤 秀史, 小佐野 広 『インセンティブ設計の経済学―契約理論の応用分析』 2005年02月26日
 八代 尚宏 『日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済』 2005年03月23日
 梅森 浩一 『「クビ!」論。』 2005年06月02日


■ 百夜百マンガ

フリテンくん【フリテンくん 】

 「かりあげクン」とどこが違うのかと聞かれると困ってしまいそうですが、「カタカナ+くん」という表記と「ひらがな+クン」という表記が違うのではないかと思います。
 もちろん顔は違いますが、目の付け所は同じ感じがします。それでこそ良いんですが。

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