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2006年6月 8日 (木)

公務員人事の研究―非効率部門脱却の処方箋

■ 書籍情報

公務員人事の研究―非効率部門脱却の処方箋   【公務員人事の研究―非効率部門脱却の処方箋】

  山中 俊之
  価格: ¥1785 (税込)
  東洋経済新報社(2006/05)

 本書は、元外務官僚で、現在は組織人事マネジメント改革のコンサルタントである著者が、述べ1万人近い公務員への研修や述べ1000人程度の公務員へのインタビューに基づき、現在の公務員が抱える問題点を指摘し、人事制度改革の進め方を実例を交えながら解説しているものです。
 日本は諸外国に比べて公務員の人口比率が小さい「小さな政府」だということがよく言われます。しかし、著者は、国家公務員と地方公務員を合わせた400万人(これだけでも十分大きな県の人口と変わらないレベル)に、「公務員もどき」(公社、公団、事業団、政府系銀行など公的な資金が入っている団体に勤務する職員)を加えると約893万人に上ることを指摘しています。また、その人件費は、国家・地方公務員だけで約31兆円(国内総生産の6%)、「公務員もどき」を加えると60~70兆円ではないかと試算しています。
 著者は、これらの人件費が非効率に使われている理由として、公務員の持つ、
(1)目的と手段と取り違える
(2)前例を踏襲する
(3)市民や国民を公平に一律に取り扱わなければならない
という3つの「思い違い」があることを指摘しています。その上で、効率的な国家に求められる、
(1)顧客志向:真に市民や国民といった顧客の方向を向く。
(2)市場志向:民間にできることは民間に。
(3)透明志向:マネジメントの中に透明性を高める仕組みが求められる。
(4)公立志向:同じ成果を出すのに、できるだけ少ないコストで。
の4つの志向を挙げ、これらを人材マネジメントの仕組みに連動させる重要性を述べています。
 著者は、公務員の人事制度の問題点として、
(1)組織のミッションが不明確であること――顧客の視点が弱い
(2)マネジメントが欠如していること
(3)キャリアの重要性の認識が不足していること
の3点を指摘しています。その上で、公務員の人事評価が適切に行われてこなかったことを指摘し、その理由として、
(1)年功的人事
(2)人事評価結果によって解雇されにくい制度
(3)行き当たりばったりの人事異動
の3点を挙げています。
 そして、公務員の人事評価項目として「コンピテンシー」(成果につながる重要な行動)が有効であることを述べ、
(1)成果との関係が明確で、成果に結びつく蓋然性が高い。
(2)役所では目標を数値化できないことが多いため、その代替物として。
という理由を挙げています。また、著者の1000人近いインタビューの経験をもとに、事務職の管理職職員に求められるコンピテンシーは、
(1)顧客満足志向
(2)変革志向
(3)継続的学習
(4)目標達成志向
(5)戦略的立案
の5つであると述べています。
 この他本書では、人事評価の実務について、公務員が陥りやすい問題点を挙げながら、事例を交えた解説を行っています。公務員に特有な留意点としては、
・幹部を対象者から外してはいけない。
・評価できるのは10~15人まで。
・倫理観は当然の前提
・多様な職種を考慮する。
の4点が挙げられています。また、ハロー効果などの一般的な評価エラーの他に、役所独自のエラーとして、
(1)年次エラー:高年次の職員を高く評価する傾向。
(2)残業エラー:残業していることが仕事をしていると錯覚してしまう。
(3)内部調整エラー:波風を立てない無難な職務遂行を高く評価する傾向。
(4)学歴エラー:出身大学が企業以上に重視される傾向。
(5)人格者エラー:倫理観や行動規範に優れた人格者を高く評価する傾向。
の5点を挙げています。
 また、多くの役所で人事評価のためのツールとして誤解されている目標管理が、あくまでマネジメントのツールであることを強調し、
(1)政策施策との連動:行政評価の目標と必ず連動させる。
(2)顧客の視点を重視:「組織の論理」に偏らない。
(3)面接を重視:「目標管理がうまくいっていない=面接がうまくいっていない」
の3点を、公務員の目標管理の前提条件として挙げています。
 さらに著者は、公務員のキャリア形成を促すため、「役所型のπ型人材」(基本知識(横棒)と2つ程度の専門知識(縦棒)を持つ)のススメや、コンピテンシーを用いた異動、庁内公募制度などについて述べています。中でも庁内公募は、
(1)人材の流動化や適材適所の実現による組織風土の活性化。
(2)受身になりがちな公務員の意欲や能力を高める。
(3)特殊な能力や特殊なテーマへの関心を持った人材の発掘。
というメリットがあることを述べ、そのポイントとして、
(1)公募対象ポストはできる限り多くすること。
(2)人事課への直接応募を原則とすること。
(3)公募の決定基準にはキャリア形成を考慮し、募集部署の管理職と人事課の担当者が面接を行うこと。
(4)公募でもれた職員にはその理由をフィードバックすること。
の4点を挙げています。
 最後に著者は、古巣である霞ヶ関を念頭に置いた公務員制度改革として、
(1)公務員人材マーケットの徹底的な流動化:新卒採用をやめ、原則中途採用に。
(2)霞ヶ関キャリア制度の抜本的改革:中途で採用した職員をコンピテンシーや専門知識を活用して厳格な基準で昇任・昇格させる。
の2点を主張しています。
 本書は、「役所の人事制度はおかしい!」と不満を持っている方はもちろん、人事制度改革に携わる担当者にとっても実務的に役立つ一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書に関心を持たれた方は、まずは立ち読みでもよいので、P.85の「甘ちゃん公務員度チェック」をやってみてください。20問中5つ以上「はい」が付くと要注意とのことですが、
・苦情電話にはなるべく出ないようにしている。
・飲み屋で会った人に職業を聞かれても公務員バッシングが気になって口ごもる。
など、思わず「ニヤリ」としてしまう辛口の項目が並んでいます。


■ どんな人にオススメ?

・公務員の人事制度に問題意識を持っている人。
・人事担当者


■ 関連しそうな本

 川手 摂 『戦後日本の公務員制度史 「キャリア」システムの成立と展開』 2005年12月29日
 早川 征一郎 『国家公務員の昇進・キャリア形成』 2006年04月20日
 稲継 裕昭 『日本の官僚人事システム』 2005年02月10日
 上山 信一, 梅村 雅司 『行政人材革命―"プロ"を育てる研修・大学院の戦略』 2005年04月16日
 村山 昇 『「ピカソ」のキャリア「ゆでガエル」のキャリア』 2005年07月19日
 テリー伊藤 『お笑いニッポン公務員―アホ役人「殲滅計画」』 2006年03月16日


■ 百夜百マンガ

孔雀王【孔雀王 】

 この作品をきっかけに密教に対する関心を持った人も少なくないんじゃないかと思います。方向としてはなんか違いますが。

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