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2006年7月24日 (月)

ワークライフバランス社会へ―個人が主役の働き方

■ 書籍情報

ワークライフバランス社会へ―個人が主役の働き方   【ワークライフバランス社会へ―個人が主役の働き方】

  大沢 真知子
  価格: ¥2100 (税込)
  岩波書店(2006/03)

 本書は、「仕事もプライベートもともに充実させる働き方や生き方」を意味する「ワークライフバランス」をキーワードに、「仕事の対価はお金だけではない。時間でもらうこともできる」ということを自分なりに選択できる社会にするためには、「社会のしくみや、会社の人事管理制度や、私たちの価値観を見直していく必要があるのではないだろうか」という問題意識に基づいて書かれているものです。
 著者は、放送大学の講義の教材作成のために、イギリス、デンマーク、オランダの3カ国を取材した経験から、従来であれば、共働き世帯の増加に対応して働く女性を支援する施策(家庭と仕事の調和、ファミリー・フレンドリー施策)を導入する国が多かったのに対して、これらの国では、これに加え、「男性も含めた働き方そのものを変えよう」とした「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)施策」を導入していると述べています。この施策のメリットは、短時間や週の何日かに集中して働くことによって時間効率が上がること、生活にメリハリがつき、個人と会社全体の生産性を高めること、会社は貴重な人材を確保することができることが挙げられています。
 一方で、日本社会の現状に目を向けると、「低い残業割増率と労働時間の上限規制が欠落した状況のなかでは、とくに新規に労働市場に参入した若者に、そのしわよせがゆきやすい構造になっている」ことが指摘されています。また、若いお母さんから聞いた話として、「朝7時に家を出て、帰るのが夜10時という長時間労働。それからパソコンで上司に報告書を書き、寝るのはいつも真夜中をすぎている。子どもの世話などとても頼める状況ではない」ことを紹介し、「『正社員の短時間労働』や夫の育児参加なんていう話は雲の上の話だ」という言葉を紹介しています。
 また、日本の「雇用神話の崩壊」に関しては、国際比較により、「日本は極端に平等社会でも不平等社会でもない。先進国と比べても普通であり、賃金の格差がとくに拡大しているわけでもない」こと、「日本は戦後40年変わらず、出身階層が子どもの将来の職業や社会的地位などに影響を与える国であった」ことなどを指摘しています。
 日本の「正社員」に関しては、外部人材の活用が増加した理由として、「固定的な人件費を削減するために基幹人材である正社員を抑制すること」を挙げ、国際競争の激化などの外的な条件の変化が、コスト削減という圧力となり、正社員の減少や外部労働者の活用を増やしていることを指摘しています。一方で、正社員を減らしすぎてしまうことで、「製品の質の低下」、「仕事の連携やチームワークが困難」といった弊害についても危惧しています。
 著者は、ダイニエル・ピンクの『フリーエージェントの時代の到来』を紹介しながら、「自分の能力を磨いて(雇用の)保証を自ら確保していく時代へ社会が変化し」、このことは、「労働者を正社員/非正社員というふたつのカテゴリーに分けて論ずる時代が終わったことを意味しているのかもしれない」と述べ、「組織に属していれば身分が保証される」という「(正社員)神話」からの解放が求められ、「どのような雇用形態で働いても、それによってペナルティーが課されない保障のしくみが整えられることが必要」であると主張しています。
 また、日本の税・社会保障制度が女性の働き方や生き方に直接影響を与えている問題については、
・個人を単位として設計されている課税単位に問題があるのではなく、年収が103万円を超えていれば夫の所得額にかかわらず本人が稼いだ所得に対して所得税が課せられる控除制度に問題があり、それが時代の変化とともに合理性を失っていること。
・国民年金制度における第三号被保険者制度に、(1)加入要件が女性の働き方に影響を与える、(2)負担と給付の不平等、という2つの問題があること。
の2点を指摘しています。
 一方で、現在欧州の各国が目指している雇用政策として、「保障と柔軟性の両方を追及することで、グローバル化のニーズに応え経済パーフォーマンスを高めようとする新しいアプローチ」である「フレキシキュリティー(Flexicurity)」という雇用保障(security)とフレキシビリティ(flexibility)を組み合わせた造語を紹介し、そのメリットとして「柔軟性の導入が経済格差をそれほど拡大しない」という点を挙げています。
 そして、本書のタイトルである「ワークライフバランス」施策がひろまった背後の経済変化には、経済のグローバル化が重要であるとし、
「経済のグローバル化は、企業の都合に合わせて柔軟に活用できる労働者をふやしたが、同時に、ワークライフバランス施策の導入にも寄与し、常用労働者の働き方を変えようとしている。
 それは、同時に進展した経済のサービス化が、片働き世帯が標準の経済から共働きが標準の経済へと社会を変えたからである。
 共働きの増加は、働く側の意識の変化をもたらした。それにあわせて企業が雇用戦略を立て、働きやすい職場環境をつくれないと、良い人材を確保し、競争に生き残れない時代になった」
と解説しています。
 このことは、女性の活躍と企業業績の間にはプラスの関係があることが経済産業省の調査で実証され、「女性が活躍できる企業風土」がある企業で、女性を活用することによって利益を上げていること、しかし、仕事と育児の両立支援策は、直接利益には結びつかないこと、という結果を紹介しています。そして、育児休業制度や男性の育児休暇取得を促進するためには「『育児は女性の仕事』という仮定や、『長時間労働をする社員は良い社員である』とか『個人の生活よりも仕事を優先すべき』といった価値観に気づき、それを変えることが重要になる」ことを指摘しています。
 本書は、イギリスで取り組まれたワークライフバランス・キャンペーンの施策が、
(1)時短型:子どもの学校の休暇中は無給休暇が取れる学期間労働、一定の期間のみ労働時間を短縮する期間限定労働時短制度、フルタイムの仕事を数人で分けるジョブシェアリングなど。
(2)裁量型:始業時間と終業時間が自由に設定できるフレックスタイム、一日あたりの労働時間を増加させて出勤日数を減らす「圧縮労働時間制」、在宅勤務、時差出勤・終業など。
の二種類であることを紹介しています。
 本書は、近年使われるようになった「ワークライフバランス」という言葉に関心を持った人にとって、その背景から具体的施策まで一通り解説してくれる一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 先日、(株)ワーク・ライフバランスの社長である小室淑恵氏の講演をお聴きし、御挨拶する機会に恵まれました。小室氏は、資生堂の社内ベンチャーとして育児休業者の支援プログラム「wiwiw」を立ち上げた女性として有名ですが、独立して会社を立ち上げることと、新生児の育児とを両立している姿は、世のお母さんを何よりも励ますことになるのではないかと思います。
 さて、小室氏は、学生インターンを支援するNPOであるetic.では、インターン先の全社員の成約営業件数の87%を獲得した営業活動によって、「伝説のインターン生」として知られていますが、本書で紹介されている病児保育のNPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹氏もetic.が主催するソーシャルビジネスプランコンテスト「STYLE2003」に出場しています。
 若き起業家たちによって、新しい働き方、新しい社会が模索されていることを頼もしく感じます。


■ どんな人にオススメ?

・仕事と生活のバランスに日々悩んでいる人。


■ 関連しそうな本

 大沢 真知子 『新しい家族のための経済学―変わりゆく企業社会のなかの女性』 
 佐藤 博樹, 佐藤 厚 (編集) 『仕事の社会学―変貌する働き方』 2005年12月01日
 佐藤 博樹 『変わる働き方とキャリア・デザイン』 2006年05月22日
 樋口 美雄, 太田 清, 家計経済研究所 (編集) 『女性たちの平成不況―デフレで働き方・暮らしはどう変わったか』 2006年03月30日
 佐野 陽子, 志野 澄人, 嶋根 政充 (編著) 『ジェンダー・マネジメント―21世紀型男女共創企業に向けて』 2005年12月06日
 熊沢 誠 『女性労働と企業社会』 


■ 百夜百マンガ

100万$キッド【100万$キッド】

MMRの絵を担当していた人です。少年誌向けギャンブルマンガの方がパチスロマンガとかよりおもしろいと思います。

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