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2006年7月20日 (木)

雇用の未来

■ 書籍情報

雇用の未来   【雇用の未来】

  ピーター キャペリ
  価格: ¥2625 (税込)
  日本経済新聞社(2001/08)

 本書は、「10年以上続いているリストラクチャリングをきっかけに出現した新たな雇用関係を解説し、人事管理のあり方がどのように変化してきているのかを検討すること」を目的としたものです。本書は、これまで手付かずであった「ダウンサイジングによる直接的な影響にとどまらず、雇用関係は根本的に変化してきているのではないか、それはどのような変化なのか、さらにこうした変化は企業経営にどのような影響を与えるのか」という研究に言及しています。
 著者は、伝統的な雇用主と労働者の関係が姿を消したことで、「社員の組織に対する忠誠心は消滅し、それに代わって自己のキャリアに対する執着心が増大したことは、雇用関係の変化におけるほんの一つの現象に」すぎず、企業が確立しようとしている新しい雇用契約の出現によって、「人事管理のやり方を根本的に改めなければならなくなっている」と述べています。著者はこの新しい雇用関係を、「離婚と再婚を生涯繰り返すようなもの」と表現しています。
 著者は、これまで「伝統的」と考えられてきた雇用関係が、「かなり最近になって現れた現象」であることに触れ、「特に管理者層における長期的雇用関係や内部登用制度」が果たしてきた役割として、
(1)社員の業績向上によってはじめて、回収可能な人材育成投資が徐々にだがなされるようになった。
(2)雇用の安定によって、社員の忠誠心やコミットメントを引き出すことが容易になった。
(3)トップに上りつめる社員は限られているため、昇進機会を与えることはコスト負担が少ないうえに強力なインセンティブとなった。
の3点を挙げています。
 しかし、雇用環境の変化によって、
(1)その組織に固有な能力の習得に対する社員の自己投資が回収できない可能性があると考えられることで、企業の思惑どおりには行かなくなった。
(2)企業がコントロールできない社外の状況による影響が増大しているため、社員の職務態度の問題を解決することが困難になった。
(3)組織のフラット化や雇用保障の低下によって昇進機会が格段に減少し、インセンティブとしての効力を失った。
の3つの変化が生じていることが指摘されています。
 著者は、新しい雇用形態を効果的に機能させるために、
・高水準の情報
・教育訓練に関する取り決めを強制するための一連の契約
の両方が必要であると主張しています。
 著者は、雇用のニューディールについて、企業が一方的に社員に提示したニューディールは、「真のニューディール」に行き着く交渉プロセスの最初の切り込みにすぎず、「真のニューディール」は、「雇用関係を単一企業の枠内でとらえたり、教育訓練、給与、昇進などの社内の人材開発制度で説明したりすることができないといった基本的な特徴を有する」ことが述べられています。その上で、経営者が留意すべきポイントを、
(1)市場介入型の雇用関係へ移行したことで、企業側は社員の態度や行動に対するコントロールや影響力を大幅に失ったこと。
(2)社員に提示する雇用契約をどのような内容にするかが決定的に重要になったこと。
の2点挙げるとともに、真のニューディールが突きつける課題として、
(1)コア社員の維持
(2)忠誠心とコミットメント
(3)スキル
の3点を挙げています。
 また、新しい経営手法が引き起こした雇用のリストラクチャリングとして、
・コア・コンピタンス:コンピテンシーが変化すると大掛かりなリストラクチャリングに踏み切る。
・情報技術:社員を容易に「アンバンドリング」し、供給業者に追いやることができる。
・ベンチマーキング:組織内部のあらゆる管理機能やプロセスについていかにたくさんの競争相手が存在するかを社員の自覚させた。
の3つの例を紹介しています。
 さらに、10年以上も続いている企業側の一方的な雇用契約の破棄によって、組織や社員の業績が失速しなかったことについては、
・その原因が組織外部の要因による場合は自体を容認する傾向が強いこと。
・残った仕事に対する満足度は帰って高くなったようであること。
・大半の企業が同時にリストラクチャリングを実施したこと。
の3つの要因を挙げています。
 また、賃金構造に関しては、社員の生産性が、「職業人生の当初は上昇し続け、中間地点から後半にかけて頂点に達し、その後下降する」という逆U字型の中高パターンをとるという事実において、内部労働市場における賃金体系はこの生産性の増減を平準化し、新人や熟年社員には生産性に見合う以上の賃金を、中間地点周辺の社員には生産性以下の給与を支給していたのに対し、近年の調査ではこの慣例が逆転し、初任給は相対的に減少し、内部労働市場型の賃金構造が崩壊していることが述べられています。このことは、「職業人生における成功の判断材料として、単一企業と終身に及ぶ良縁に恵まれること自体があまり重要でなくなってきていること」と、外部労働市場との係わりの重要性が増していることを示していると述べられています。
 この他本書では、航空会社のパイロットの養成方法として、
(1)市場が提供する訓練プログラムを受けて自力でパイロットになる。
(2)入隊してパイロットになり、20年前後で退役する。
(3)航空会社に就職し、パイロットになるための訓練を施してもらう(アブイニショ・アプローチ)。
の3つの方法を挙げ、世界各国(特に西欧)の航空会社は3番目の方法をとるのに対し、米国の航空会社は、
・外部に多数のプログラム提供者からなる訓練市場が存在し、訓練費用をパイロットに負担させることができる。
・退役軍人がパイロットの安定的な供給源となり、きわめて質が高く膨大なコストがかかる訓練を政府が全面的に引き受けてくれる。
の2つの理由から3番目のアプローチを採用するところは皆無であること、その代わりに労働供給を一切コントロールできないこと、が述べられています。また、市場原理に基づく雇用形態の企業に対するメリットとして、
(1)企業は教育訓練のコストを社員に転嫁し、ゆくゆくはその責任を市場に押し付けることができる。
(2)迅速に、かつ固定費の負担を増やさずに新しいスキルを取り入れたり、組織のコンピテンシーの入れ替えを行うことが可能になる。
の2点が挙げられています。
 著者は、まとめとして、「長期的な見方をすること、そしてニューディールもいずれは過去のものとなるということを認識すること」の2点を雇用のニューディールに関する最後の忠告として述べています。
 本書は、「成果主義」など個別の人事制度の形で日本に紹介されてきた米国企業の雇用をめぐる変化(ニューディール)をリストラクチャリングやダウンサイジングときちんと関連づけて解説している良書ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書の第4章では、日本における変化の大きさとして、外国企業との直接的な競争を余儀なくされた業界では、日本の現地法人の人員を増強したい外資系企業が、「日本企業の年功序列制度の中で埋もれている状態から抜け出し、より好条件の仕事に就きたいと考えていた中堅社員」を引き抜くことができたこと、特に、「日本企業の内部労働市場型かつ男性優位の昇進制度の下では出世が難しかった有能な女性を大量に採用する機会に恵まれた」ことが述べられています。
 昔から外資系企業は女性が能力を発揮しやすい勤め先として知られていましたが、1990年代はとりわけ、グローバルな雇用慣行の見直しの中で、大量に有能な女性が外資系企業に流れたことを教えてくれています。


■ どんな人にオススメ?

・企業と社員との契約の変化の動きを概観したい人。


■ 関連しそうな本

 伊丹 敬之, 岡崎 哲二, 沼上 幹, 藤本 隆宏, 伊藤 秀史 (編集) 『組織能力・知識・人材 リーディングス日本の企業システム第2期』 2006年07月19日
 稲継 裕昭 『自治体の人事システム改革―ひとは「自学」で育つ』 2006年07月05日
 福田 秀人 『成果主義時代の出世術―ほどほど主義が生き残る!』 2006年06月21日
 山中 俊之 『公務員人事の研究―非効率部門脱却の処方箋』 2006年06月08日
 ポール・ミルグロム, ジョン・ロバーツ (著), 奥野 正寛, 伊藤 秀史, 今井 晴雄, 八木 甫(翻訳) 『組織の経済学』 2005年1月24日
 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』 2005年04月05日


■ 百夜百マンガ

こっとん鉄丸【こっとん鉄丸 】

 主人公の鉄丸から直々にファッションのアドバイスを受けられるワンポイントコーナーつきのお得な作品。今の目から見ると内容は微妙(当時から?)ですが・・・。
 ダイソーで100円漫画として売られてました。

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