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2006年7月25日 (火)

女性労働と企業社会

■ 書籍情報

女性労働と企業社会   【女性労働と企業社会】

  熊沢 誠
  価格: ¥777 (税込)
  岩波書店(2000/10)

 本書は、日本の女性たちの多くが働き継いできた「短い勤続、定型的または補助的な仕事、そして低賃金」という<三位一体>構造と、それと整合的な「それなりの共生」システムに見ることができる変化を解説しているものです。著者は、女性労働者について、「その仕事の方向性や遂行方法に関する基本的な決定権というものがない、やりがいがない、うまくできたからといって会社からさほど高く評価されるわけではない、そして報酬も高くない」という意味で「恵まれない」仕事についていることを指摘しています。
 著者は、ここ30年間に変わったこと、変わらなかったことについて、
(1)女性の会職務への重い偏りや低賃金は、労務費コストを低く維持しながら企業内分業を安定的にルール化しようとする経営管理に始まり、女性たちの何らかの主体的選択が込められた「ジェンダー化された慣行」によって受容された上で定着する。
(2)女性労働者の多様化により、「恵まれている」程度も主体的な意識もかなり異なるいくつかの階層・グループが存在する。
(3)EUを中心とする雇用平等政策と、経済のグローバル化による労働法の規制緩和、能力主義的選別の強化、雇用形態の多様化、労働組合組織率の低下とが、一方では女性労働者を一括する直接的な性差別の存立の余地を狭めながら、他方では女性労働者を少数のエリートと多数のノンエリートに鋭く分化させつつある。
の3点を挙げています。
 本書は、女性労働者を
(1)年齢を通じて割合等質な専門・技術職(全体の15%)
(2)20代事務職(12%)
(3)40代と50代の事務職(13%)
(4)同じ年齢層のブルーカラー(13%)
の4つの代表的グループに分け、これらのグループ間での性別職務分離の存否、その度合いと形態、労働生活の中での主な関心、就業コースなどの異同を、
・共同通信社の記者
・住友金属工業のOL
・大手旅行会社
・住友化学工業のキーパンチャー
・森田電句の工場パート
の5つのライフヒストリーを紹介することで現しています。
 また著者は、今日の企業社会のジェンダー状況を、
・男女雇用機会均等法及び労働基準法の改正
・日本的な能力主義管理の強化
・非正社員「活用」の雇用管理
の三者の出合いによって特徴を与えられているとしています。なかでも、派遣労働者の労働条件の保障の危うさに関しては、
(1)賃金は人材派遣各社と派遣受け入れ企業との交渉による派遣料金の70~75%だが、不況期にはユーザーの決定主導権が強まり、賃金にしわ寄せされる。
(2)派遣先での労働条件の細目は多少とも約束や契約と食い違っているのが普通である。
(3)最大の問題は雇用保障と収入安定の見通しである。
の3点を挙げた他、契約打ち切りにともなう休業手当支払いの不確かさ、交通費込みの収入に対する課税、45%という低い社会保険加入率などの問題点を指摘しています。
 さらに「間接差別」の問題に関しては、
(1)「能力」の有無が「家庭責任」をまぬかれている心身の頑健な男性のみに可能なほどの重いノルマ、長時間の残業、ひんぱんな転勤などをもって判定されるとき。
(2)女性は<下位ステイタス>の仕事に「適している」とみなされ、そこへの強力な誘導が行われるとき。
等の例を挙げています。
 本書は、1997年に都内の民間企業の「30代独身OL]450人に対する第一勧銀のアンケート調査の結果、「仕事上男女差別を感じる時」(複数回答)として、
・男性に比べて昇格が遅い(60%)
・女性の給与が低い(52%)
・お茶汲み当番、掃除当番などの雑用(45%)
・責任のある仕事を任されない(22%)
・業務範囲が狭い(22%)
・電話で男性社員と替わるよう指示される(11%)
・女性だけに制服がある(10%)
等の回答があったことを紹介しています。著者は、これら補助的な業務が、ほとんど排他的に女たちに割り当てられる「女の仕事」とする牢固たる伝統があると指摘しています。
 著者は、性別職務分離を間接差別の基礎に他ならないと述べ、「水平的職務分離」が、経営の論理によって意識的に、または慣行・イメージによって無意識的に「垂直的職務分離」に転嫁し、「女の仕事」が<下位ステイタス>に位置づけられてしまう問題を指摘しています。そして、女性に対する偏見を正当化するものとして、
(1)男と女にはそれぞれに適した仕事があるという適性論。
(2)稼得労働の位置づけに関する男女の違いの指摘。
の2点を指摘し、「職場のジェンダー論も結局は避けて通れない慣行・文化のジェンダーがここに立ち現れる」こと等を述べています。
 この他、女性専門職に管理者への昇進志向が見られない要因として、
(1)専門職の相対的高学歴が、彼女らの「初心」を就業継続型とさせていること。
(2)教育・医療を中心に公務員比率が高いこと。
(3)専門職の仕事に対する社会的ニーズの観念が、夫に家事・育児への「協力度」を高めさせていること。
の3点を挙げています。
 また、30代前半の転機として、
(1)職場内条件:勤続も10年になり仕事の質と量が個人間で多様化する。
(2)職場外条件:家事と育児の負担が最も重くなる。
の2つの要因が、女性の就業コースの決定を迫ることが述べられています。
 著者は、これからの「男女共生社会」が追及すべき方向性として、
(1)現在の女性労働者の処遇は、年収300万円未満比率が74%と、男親または夫の収入があってはじめて生活できる水準にとどめられているが、女も、もちろん男も、労働によってシングルでも生きてゆけるようにしなければならない。
(2)女性労働者が職場に定着するためには女性が定型的または補助的な職務に緊迫される状況が克服され、「女には女の仕事が適している」という呪縛からの開放が必要になる。
(3)多くの男女がとりあえず支持している「女は仕事をもつのはよいが家事・育児はきちんとすべきである」という考え方は、時代遅れとみなされるべきである。
の3点については、読者の了解は得られるものであろうとしています。
 そして、具体的に提起したい実践テーマとして、
(1)女性が働き続けやすい職場、男女混合職場の制度と雰囲気を作ること。
(2)性別職務分離の下にあっても女性賃金の著しい低落を防ぎうる、ペイ・エクイティ(同一価値労働同一賃金)という枢要の実践。
(3)非正社員の安易な「活用」の規制と右のペイ・エクイティにもとづく待遇の改善、そしてパートタイムという働き方のノーマル化。
の3点を掲げています。
 本書は、労使関係の研究者の立場から、女性労働者が置かれている状況を分かりやすく解説している一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書で紹介されている露骨な差別の例としては、1987年に住友金属工業に入社したOLのエピソードがあります。
 電話番号が変更されたときに、各製造所の番号を記した新しいシールを社員に配って貼ってもらおうと配布したところ、「これ(シール)を自分たち(男性社員)に貼れ、と言うのか? 君が貼らんか!」と男性課長が激怒したエピソードや、「宴会ではOLはバラバラに男性、とりわけ部長や課長の横に座るよう強制されるといった「セクハラ的常識」、男社会の労働組合が主催する新入社員歓迎会で、組合役員の男性交えて各自が口につまようじをくわえ、「輪ゴムをつまようじからつまようじに渡してリレーする」ゲームも行われたエピソードなど、さすがに15年以上前の鉄鋼会社は今の目から見ると非常識です(同じ頃の白クマ広告社のラテ局のラップやライターにはかないませんが・・・)。
 しかし、宴会で女性を偉いさんの間に座らせるように仕切る幹事が「名幹事」として覚えめでたくなるのは、今の役所でも変わりがないのが恐ろしいことです。


■ どんな人にオススメ?

・女性労働の問題を「自分には関係ない」と思っている男の人。


■ 関連しそうな本

 佐藤 博樹, 武石 恵美子 『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』 2005年04月07日
 大沢 真知子 『新しい家族のための経済学―変わりゆく企業社会のなかの女性』
 佐藤 博樹, 佐藤 厚 (編集) 『仕事の社会学―変貌する働き方』 2005年12月01日
 佐藤 博樹 『変わる働き方とキャリア・デザイン』 2006年05月22日
 樋口 美雄, 太田 清, 家計経済研究所 (編集) 『女性たちの平成不況―デフレで働き方・暮らしはどう変わったか』 2006年03月30日
 佐野 陽子, 志野 澄人, 嶋根 政充 (編著) 『ジェンダー・マネジメント―21世紀型男女共創企業に向けて』 2005年12月06日


■ 百夜百マンガ

ジャストミート【ジャストミート 】

 ラブコメばっかり書いてた人が突如真面目に書き出した野球漫画。個人的にはそれまでの作品のイメージが強すぎて野球漫画として入り込めませんでした。

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