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2006年8月 8日 (火)

現代政治と女性政策

■ 書籍情報

現代政治と女性政策   【現代政治と女性政策】

  堀江 孝司
  価格: ¥4935 (税込)
  勁草書房(2005/02)

 本書は、主に1980年代の、女性の就労に関わる政策を、
・フレキシビリゼーション
・平等
・再生産
の3つの課題に整理し、政治学の視点から分析したものです。著者は、これらの政策そのものについての研究は、すでに多くの先行研究があるものの、「実際の政策分析やその形成過程の分析は、きわめて限られている」ことに着目し、政治学の視点からの政策分析は女性政策の分析に新たな知見を与えるものであると述べています。
 第1章「フレキシビリゼーションの構想と実態」では、フレキシビリゼーションの方向性として、
(1)パートタイマーや派遣労働者など「雇用柔軟型」の層を創出する。
(2)女性社員をコース別に分類し、「一般職」部分については、結婚・出産後に退職し、育児が一段落した後の再就職を想定する。
の2つがあることを示しています。
 パートタイム労働者の増加に関しては、フルタイム労働者との間に利害の対立がある点として、正社員の労働組合員にとっては、「一般に採用基準が甘く、職場の責任も軽く、転勤はなく、勤続期間も短い者が多いパートターマーに、組合活動上同一の権利を与えること」に心理的な抵抗があることが述べられています。
 第2章「「人口構成の変化とその政策へのインパクト」では、日本社会が抱える人口構成上の問題点が、「こうした人口『危機』から予想されるさまざまな問題に対応するために、何らかの対応を行うことを余儀なくされ、そのために一定ていどの資源を割かざるを得ないなど、とりうる政策に制約が課される」という点で政府や正当などのアクターに「ある種の拘束力」を持つことが述べられています。
 第3章「政治学と女性政策」では、労働政策の領域では、「労働族」とされる議員が少なく、労働関係のポストを経験することが政治家のキャリアにとって有利とはいえないこと、利権や補助金事業など政治家が介在して「うまみ」を味わえる余地が小さいことなどが述べられています。
 第4章「フレキシビリゼーションの政治I――派遣労働に関する政策――」では、事実上放置されてきた人材派遣業が政策議題になったきっかけとして、77年に行政管理庁が行った行政監察に基づいた「業務処理請負事業に対する指導・規制の在り方」という勧告がきっかけになったことが述べられています。これを受け、84年11月には労相の諮問機関である中職審の小委員会から「労働者派遣事業問題についての立法化の構想」が提出されますが、法制化作業の中で時間がかかったのは、人材派遣業の定義と対象範囲の部分で、「立法化の構想」で示された14業種は、反対派の立場からは、「業務の範囲はきわめて広範であり、現在人材派遣が行われているほぼ全部の領域をカバーする。したがって、この法律ができたために人材派遣を行えなくなる業務は、事実上ありえない」と評価されていたことが述べられています。85年3月には労働者派遣法案が衆院に提出されますが、政府原案に、就業規則や労働協約に定めがあれば、本人の同意がなくても正社員を他企業に派遣できる、という規定があったことが批判の対象になったこと、中間搾取(ピンハネ)を巡る法規制が焦点となったこと等が紹介されています。
 著者は、労働者派遣法の法制化の主導権を労働相が握っていた理由として、人材派遣業が職安法違反の「もぐり業界」だった頃から、「派遣業者が氾濫し巨大市場になってしまっている。就職情報誌市場など比較にもならない巨大市場だ。そこで、労働省としては何とか法改正をして直々に認知し、この巨大市場を掌握したかった」ことが述べられています。
 第5章「フレキシビリゼーションの政治II――パートタイム労働政策――」では、82年に行政管理庁が行ったパート労働調査で83.8%の事業場が法令違反を犯していたことがきっかけに、労働省内にパート・プロジェクトが設けられ、翌年、
(1)パートに適用される就業規則を作成する。
(2)使用者は労働条件を明らかにした「雇い入れ通知書」を交付する。
(3)パートには超勤や休日労働を原則としてさせないよう努める。
(4)勤務日数に応じた有給休暇を与える。
等を骨子とした「パートタイム労働対策の方向」という提言がまとめられたこと等が述べられています。しかし、パート保護の法制化の動きは、「当面は行政指導でパートタイム労働の実態を整除し、当事者の合意を形成していく」という労働省の態度によって、立ち消えになってしまいます。その後、労働省自身も「久しぶりの大型立法」に意気込みを見せますが、労働省が考えた「通常の労働者よりも一日、一週間、一ヶ月あたりの所定労働時間が短い労働者」というパート労働者の定義が法律の対象にしにくいという批判を浴び、二度目の法制化のチャンスを失ってしまいます。結局は、連合の要請を受けて4野党が92年2月に提出した共同法案によって立法化の波が急激に高まり、93年2月の婦少審への労働省からの「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法案」の要綱の諮問を受け、93年に法制化されていますが、
(1)「差別禁止」、「均等待遇の確保」が明記されていない。
(2)事業主の行う改善措置は努力義務にとどまる。
(3)公共部門のパートには適用されない。
等の点が不十分だとの指摘を受けます。
 著者は、パートタイマー政策について、派遣労働とは異なり、「労働組合・野党が一貫して推進し、それが労働省の対応を生んだ」という意味で、野党の議員立法がアジェンダ・セッティングしたという点を指摘しています。
 この他本書は、女性差別撤廃条約署名をめぐって、「深い関心を抱いていたのは、女性官僚、女性政治家、女性運動など、要するに女性だけであった」点や、74年に労基研によってまとめられた、「医学的・専門的立場から見た女子の特質」において、生理休暇に「医学的根拠がない」と指摘されている点、生理休暇自体が戦時中の学徒動員の際、軍需工場の厳しい労働条件下での女学生の保護策として始まったものであること、条約が85年というデッドラインを設定したことに決定的意義があること、男女雇用機会均等法や育児休業法の成立過程などが解説されています。
 本書は、制度面だけに目が向きがちな女性政策の成立過程やさまざまなプレイヤーの思惑を知ることができる点で、女性政策に携わる人はもちろん、政治学の読み物としても楽しめる一冊です。


■ 個人的な視点から

 今でこそ、女性政策に積極的な印象のある労働省ですが、本書の分析対象である1980年頃は、必ずしも女性の地位向上に熱心ではなかったことが述べられています。
「『男女平等』という言葉ひとつでも省内で言ったら、男性から『馬鹿じゃないか』とか『婦人の地位向上はよいが、平等とは何事だ』と言われるような雰囲気がありました」と当時の元婦人少年局夫人課長が語っています。
 また、女性初の事務次官となる松原亘子氏が、20代の頃に、「お茶組と掃除は女性が交代で、当番を決めてやっているようだから、その当番に組み入れられることは覚悟しておいた方がいい」との忠告を受け、その他に、弁当の注文なども東大卒のキャリアである松原氏に回ってきたことに反発し、それらを拒否して孤立無援になったという「武勇伝」が紹介されています。
 この他、職業安定局長が、「女子労働者というのは、男子労働者に比べて役に立たん。結婚して子どもができるとすぐ、つわり休暇という制度をつくってくれと労働組合が言って来る。次は産前産後の休暇、更年期になるとまた更年期休暇を作ってくれと言って来る。一生涯休暇ばかりとっている。だから役に立たない」と発言したことも紹介されています。
 2~30年前の話として紹介されていますが、労働省以外に目を向けると、今でも同じようなことを公言する人がたくさんいるのが現状ではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・女性政策の策定過程のさまざまなアクターの動きに関心がある人。


■ 関連しそうな本

 佐藤 博樹, 佐藤 厚 (編集) 『仕事の社会学―変貌する働き方』 2005年12月01日
 佐藤 博樹 『変わる働き方とキャリア・デザイン』 2006年05月22日
 佐野 陽子, 志野 澄人, 嶋根 政充 (編著) 『ジェンダー・マネジメント―21世紀型男女共創企業に向けて』 2005年12月06日
 熊沢 誠 『女性労働と企業社会』
 佐藤 博樹, 武石 恵美子 『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』 2005年04月07日
 ロザベス・モス カンター (著), 高井 葉子 (翻訳) 『企業のなかの男と女―女性が増えれば職場が変わる』 2005年10月11日


■ 百夜百マンガ

プロゴルファー猿【プロゴルファー猿 】

 「旗つつみ」とかやってみたかったですが、旗が狙えるくらいなら不通に狙った方が確実だということに後で気づきました。
 木の根を掘り出してドライバーとか作っちゃいます。

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