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2006年8月 4日 (金)

雇用システムと女性のキャリア

■ 書籍情報

雇用システムと女性のキャリア   【雇用システムと女性のキャリア】

  武石 恵美子
  価格: ¥3360 (税込)
  勁草書房(2006/4/18)

 本書は、均等法や育児休業法の支援など女性の働く環境が整備されたにもかかわらず、マクロデータとして、妊娠や出産・育児を理由に退職する女性が多い状況が一向に変化せず、結婚や出産と仕事の両立の難しさからそれらを先送りする女性が多いのはなぜか、なぜ現場にいる女性のキャリアに響いていないのか、という問題意識に基づいて、
(1)働く女性を取り巻く「政策の変化」(男女雇用機会均等施策、仕事と家庭の両立支援策、非正規労働者の能力活用策など)が女性のキャリアにもたらしたインパクトを明らかにする。
(2)「日本的」雇用システムの動揺という社会変動の中で、女性のキャリア展開を支援する重要な視点を見落としていたのではないか。
という2つの課題に取り組んだものです。
 著者は、女性のキャリアを考察する意義を、70年代後半以降、「女性労働を取り巻く需要側、供給側両面での構造変化がすすみ、働く女性の問題がクローズアップされることに」なったいっぽう、「90年代以降の労働市場の構造変化の中で、多くの企業が、従来型の雇用システムを再構築してグローバルな経営環境のなかで競争力を高めることの重要性を強く認識するようになった」という変革の時期に、女性のキャリアの変化を考察することは、同時に、「男性のキャリアの今後を展望することにもなる」として、「男女双方にとって今後の働き方を展望することにもつながるものである」と述べています。
 著者は、男性正規労働者を中心に組み立てられた長期継続雇用に代表される雇用システムが根底からは見直されない理由を、企業と働く側の双方がメリットを見出すことができる合理性があるからとした上で、「長期継続雇用を基礎に置く雇用システムは、女性のキャリア展開の制約要因となってきたこと」を指摘し、この問題が、
・女性の労働力率の上昇は未婚若年層では上昇したが、有配偶者、子どものいる女性にドラスティックな変化が見られない。
・正規労働者に比べて低水準の処遇の正規以外の雇用形態で働く女性が増加している。
・女性の昇進や賃金の現状は男性と大きな格差を残したままである。
という特徴に反映されているとしています。
 雇用機会均等に関する第3章では、1986年の男女雇用機会均等法施行以降の均等処遇の定着を進めた要因として、
(1)関連法制度の整備:89年の「1.57ショック」を契機とした仕事と家庭の両立支援施策の充実や、99年の改正均等法・労働基準法の施行。
(2)日本企業の雇用を特徴付けてきた雇用システムの再編。
の2点を挙げています。また、「男女均等な雇用管理の定着が女性の管理職比率を高めている」ことや、「女性の定着と女性管理職比率のプラスの関係が鮮明になった」ことなどを分析により明らかにしています。さらに、「制度面で機会均等になっても男女労働者の間に事実上生じている差に着目し、このような差の解消を目指して女性の能力発揮を促進し、能力活用を図るための企業の取組み」である「ポジティブ・アクション」について、100メートル競走に喩えると、女性がトレーニングのやり方や機会を与えられない上に、家事責任というハンディを背負わされているため、「同じスタートラインでなく助成を少し前からスタートさせる、あるいは、女性がもっている重荷を下ろすといった形でハンディを取り除きながら、男女の競争条件をそろえようという取組み」と言うことができると述べています。
 仕事と家庭の両立支援に関する第4章では、90年代以降の両立支援策が、女性のキャリア中断の大きな理由である出産・育児の問題、特に仕事と「育児」の両立に最重点を置いていたことを受け、両立支援策の現状と女性のキャリアの変化について分析しています。著者は、企業が両立支援策に取り組む動機として、法律などによる外部からの義務付けの他に、企業経営にとってのプラスの影響が考えられるとして、それを裏付ける実証研究の紹介し、「企業間の競争が激しいアメリカでは、仕事と家庭の両立支援策を重要な人事施策と位置づける企業が多い」と述べています。また、仕事と育児の両立を支援する仕組みが、「従来の企業内や社会におけるスタンダードにとらわれず、多様な属性(性別、年齢、国籍など)や価値・発想をとり入れることで、ビジネス環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業の成長と個人の幸せにつなげようとする戦略」(日本経営者団体連盟『原点回帰――ダイバーシティ・マネジメントの方向性』)である「ダイバーシティ・マネジメント」と密接な関連をもつことが述べられています。著者は、両立支援策の実施を、「女性の勤続に寄与し、女性の勤続年数が短いという勤続面における男女差による統計的差別からの脱却が期待される」ものとしながらも、企業が従業員の子育てコストの一部を担うと言う側面があることから、従業員の雇用コストが男女で異なることになり、男女格差の原因となりうるとも述べています。本性では、実証分析として、「企業が両立支援策を実施することは、女性従業員の勤続長期化に寄与し、均等施策を併せて実施することによって、女性の昇進を促進する効果がある」ことを明らかにする一方で、「両立支援制度導入と新卒採用に占める女性比率にマイナスの関係が存在する可能性」を挙げ、、両立支援策の「男性の利用促進を進めなければ、仕事と家庭の両立支援策の導入が女性の雇用コストを高め、女性の採用にマイナスの影響を及ぼしかねない」と指摘しています。
 非正規雇用の拡大に関する第5章では、「基幹的な仕事」を、従来正規労働者が主に担ってきた、
(1)管理業務:部下の管理や職場の管理
(2)指導業務:職場の他の社員の指導・育成
(3)判断をともなう業務:決められたパターンにしたがって業務を遂行するのではなく状況判断が業務遂行に求められる非定型的な業務
のいずれかを差すものとした上で、非正規労働者の「基幹労働力化」を論じています。著者はこの背景として、
(1)職場における非正規労働者の比率とそれを構成する労働者の属性
(2)仕事の特性(仕事の標準化を進め、基幹的な仕事に求められるスキルを定型化できるか)
(3)労働市場の要因(地域の労働市場の特性)
の3つの要因を挙げています。また著者は、非正規労働者の基幹労働力化が、階層化をともないつつ進められていることを指摘し、
・非正規労働者の中から基幹労働力化する人材を選別して育成するためのルール化。
・基幹労働力化した非正規労働者に対してその能力を適性に評価しそれを処遇に反映させるための雇用管理。
が求められると述べています。
 正社員の働き方の多様化に関する第6章では、多くの女性のキャリアの展開に制約が多い原因を、現在の「正社員の働き方」が画一化していることにあるとして、その変化の可能性について論じています。まず、短時間正社員制度について、制度導入企業では人材確保やモチベーション向上への積極的な影響を評価する傾向が強く、未導入企業ではコスト削減効果を予想している点を指摘しています。また、在宅勤務を希望する社員に関して、女性では「未就学児をもつ家族的責任」を理由挙げる人が多いのに対し、男性では「高学歴者、管理職や技術職・専門職層」が希望する傾向がある点を指摘するとともに、男性にとっては短時間性社員以上にニーズが高いことを明らかにしています。
 著者は、まとめとして、「従来と比べて女性の能力発揮の機会は広がり、キャリア展開の可能性が広がってきた」としながらも、実際に女性のキャリアに大きな変化が見られない理由を、「多くの女性にとって、男性のキャリアが目指すべきモデルとはなり得なかったからではないだろうか」と述べています。そして、提言として、
・分断を阻止する政策:内部労働市場における男女のキャリアの同質化を担保する。また、非正規労働者が、本人の希望に応じて正規労働者に転換できる仕組みづくり。
・多様化を促す政策:多様な働き方に対応した、従業員が納得できるルールで公正に処遇する仕組みの構築。
・女性の就業を抑制する政策の見直し:税制や社会保障制度、企業の人事制度など、女性が働かないことを前提とするさまざまな制度の見直し。
の3点を挙げています。
 本書は、女性のキャリアの問題を考える上で、現在の論点を広く網羅したコンパクトな一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書は、女性の働き方の中でも、従来問題にされることが多かった、内部労働市場、すなわち企業内での賃金や昇進の問題を取り上げるだけでなく、近年の社会格差の議論でも焦点になっている非正規労働者の問題を女性のキャリアに絡めて取り上げている点が特色と言えるでしょう。
 映画『スーパーの女』のように副店長に抜擢されたり、ブックオフの社長のようなサクセス・ストーリーが喧伝されますが、現実には大多数が桐野夏生の『OUT』のように、夫が正規労働者として雇用されていることを前提とした低い賃金と不安定な雇用関係の下に置かれているのが現実ではないでしょうか。
 正社員を、「お買い得」な主婦のパートや契約社員に置き換える経営が、彼女らの夫が正社員であるから生活できるという前提のうえに成り立っているとすれば、女性の能力を活用していると言うよりも、蛸が自らの足を喰っているような刹那的な行動、またはフリーライダーと言わざるを得ません。


■ どんな人にオススメ?

・女性のキャリアの問題は自分には関係ないと思っている男性。


■ 関連しそうな本

 佐藤 博樹, 武石 恵美子 『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』 2005年04月07日
 脇坂 明, 冨田 安信 (編集) 『大卒女性の働き方―女性が仕事をつづけるとき、やめるとき』 2006年05月02日
 橘木 俊詔 『現代女性の労働・結婚・子育て―少子化時代の女性活用政策』
 赤岡 功, 長坂 寛, 渡辺 峻, 筒井 清子, 山岡 煕子 『男女共同参画と女性労働―新しい働き方の実現をめざして』 2005年09月08日
 桐野 夏生 『OUT』
 伊丹十三 『スーパーの女』


■ 百夜百マンガ

いただきます【いただきます 】

 『Dr.コトー診療所』で人情モノの人と知られる作者ですが、『マッシュ』や『風のマリオ』などのお涙系の作品とは別の系であるのピカレスクもので脱皮した作品とも言えます。この作品のハチャメチャな乗りは以後の作品でも顔を出し、単なる人情モノ一辺倒ではないテンポを生んでいます。

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