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2006年8月 7日 (月)

新しい家族のための経済学―変わりゆく企業社会のなかの女性

■ 書籍情報

新しい家族のための経済学―変わりゆく企業社会のなかの女性   【新しい家族のための経済学―変わりゆく企業社会のなかの女性】

  大沢 真知子
  価格: ¥798 (税込)
  中央公論社(1998/09)

 本書は、日本経済を取り巻く環境の変化によって、「雇用保障の見返りに夫たちは会社に尽くし、運命を共にし」、「妻たちは夫を支えるべく、家事労働に専念し」、「夫は外、妻は家という夫婦の分業ができあがった」という暗黙の了解である「社会的な契約(social contract)」が大きく変化していることを解説し、日本社会の規範となってきた古いパラダイムを維持しようとすることが、「逆に雇用を減らし、雇用保障のある仕事を減らすことによって日本の将来の経済発展を妨げていること」を指摘しているものです。著者は、日本の制度が、「男性を企業に、女性を家庭に閉じ込めることによって、稀少な人間資本の半分を形成する女性の能力をフルに活用していない」ことを指摘し、「今後、高齢化社会がさらに進展し、生産人口が減少するにともなって、これは大きな人的資源の浪費となっていく」と述べています。そして、「社会福祉における家族の負担を減らし、育児や介護の仕事を社会化(外部化)することが、逆に雇用を創出し、経済成長を促進する」という社会保障政策や雇用政策の発想の180度の転換が必要であると主張しています。
 第1章「女性労働者はなぜ必要か」では、フォーマル部門で働くことの問題点として、育児と仕事を同時に行うことができないことを挙げ、このために出産が制限され出生率が減り、女性が経済的に自立できるようになることが夫婦関係に変化を生じさせ、この変化に対応できないことが離婚率を押し上げていることを指摘しています。そして、現実経済の長期の変化が、賃金や(世帯)所得の変化を通じて男性や女性の働き方に与える影響を論じています。
 著者は、日米両国の経済発展過程で、女性の社会進出と出生率の低下という避けがたい経済変化が生じていることの背景として、経済が女性労働者を必要とするようになったという経済そのものの変化として、
(1)産業構造の変化:生産の中心が製造業から女性雇用率の高いサービス業に移行した。
(2)経済における労働需要の質的な変化:経済が高度な教育を受けた知的労働者をより多く必要とするようになり、性差よりも個人差が重要になった。
(3)若年労働者不足:出生率の低下による若年労働者不足の減少。
(4)女性の職場参加の増大がもたらす消費や税収へのプラス効果:経済発展のけん引役が重厚長大産業からサービス産業へ移行し、生産者を重視する社会から消費者を重視する社会へ経済政策を変化させることが必要となった。
(5)高齢化社会:確実に増え続ける老人の生活を支えるために、社会保障費を負担する現役の労働者が増えることが重要になる。
(6)パートタイム終業などの労働時間の短縮:職場での労働時間の短縮や、パート就労機会の増大により、女性が結婚したり子どもが生まれても就業を継続するようになった。
の6つの理由を挙げています。
 第2章「変化したアメリカ女性の生き方」では、女性の典型的な仕事が生産職であった時代には独身の時のみ働いていたのに対し、事務職が代表的な仕事になると子育て後に労働市場に戻る女性が増加した要因として、これらの職業の熟練形成の違いを、
・製造業:働きながら仕事を覚え、経験と共に生産性も上がるが、一定の経験を積むとそれ以上は生産性が上がらないため、賃金も頭打ちになる。このため、生産性のピークを過ぎた頃に結婚を期に労働市場から退出した。
・事務職:働き始める前に学校でタイプや速記の能力を身につけることができ、働き始めてからの生産性の上昇度は、急速ではない代わりに長い間上昇し続け、転職や就業の一時中断によって大きく失われることがない。
というアメリカの歴史経済学者であるゴールティンの説を解説しています。
 また、管理職の女性は増えたが、重役や取締役などの組織の重要事項を決定するメンバーはきわめて少ない現象を、女性の昇進の前に立ちふさがる「ガラスの天井(glass ceiling)」として紹介しています。
 第3章「日本の女性労働者はこう変わる」では、日本の状況として、「結婚や出産の時機などは遅れており、女性が結婚前に積む就業経験は長くなっているのだが、いずれかの時点で『仕事か結婚(家庭)か』を選択している女性が多い」ことを述べるとともに、より重要な問題として、「若い女子学生たちの多くは、自分たちもいずれはそうせざるを得ないだろうと考え」、「それにそった生き方を選択している」ことを指摘しています。
 また、女性が家庭と仕事を両立させるために専門性を身につけることが重要であるとしながらも、日本の会社では、専門性ゆえに便利に使われてしまい、それ以外の経験をさせてもらえない、という問題を指摘しています。その具体例として、男女雇用機会均等法施行前後に入社した女性のパソコン所有台数が他の年代の6倍近く高いことを挙げ、「パソコンは、就職の機会は与えてくれたものの、企業の頭脳となって活躍する場所を提供してはくれなかった。多くの女性は会社で便利に使われ、新しいシステムが職場に導入されるとともに退職を余儀なくされてしまった」と述べています。著者は、「制度的な制約は存在するものの、自己投資をしたり自分で経験を積んでいけば、さまざまな可能性が開かれる時代が日本にきている」ことを、本書のメッセージのひとつとして述べています。
 第4章「日本的雇用慣行の中の女性労働者」では、日本的雇用慣行の特徴といわれる、「終身雇用、年功型賃金、企業別組合」について、このような「終身雇用的な」企業に勤めているのは労働者全体の2割に過ぎないことを指摘し、これが日本的な雇用慣行としてその変化に人々が大きな関心を寄せる理由を、「この制度が日本の経済成長を支えたということと同時に、この制度によって私たちが大きな暮らしの安心を得てきたからである。また、協調的な労使関係を保つことができたのである」と述べています。そして、「『雇用の保障』が企業から個人へと移りつつあるのであれば、それを可能にする雇用制度や労働市場の環境づくりが不可欠」であることを主張しています。
 第6章「パースピレーションからインスピレーションへ」では、日本が、「長い時間一生懸命はたらいたらそれだけ生産性も上がるというパースピレーションの時代が終わり、同じ時間でより多くの成果を出すためにどうしたらいいのかを考えていかなければならないインスピレーションの時代に入った」ことが述べられています。そして、日本人の働き方が、「製造業のブルーカラーの生産性を向上させるのに大いに貢献したのであるが、サービス業やホワイトカラーの生産性向上には必ずしも結びついていない」ことを指摘し、その理由として、ブルーカラーとホワイトカラーの仕事の間の「効率」概念の差があることを挙げ、日本のホワイトカラーが、個人の能力差を報酬にあまり反映しないようになっていることを指摘しています。
 本書は、仕事と生活の両立を考える上で、その背景となる経済変化を概説した一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書の終章では、不確実性が高まることで、組織の柔軟性を高めるニーズが高くなり、「雇用における柔軟性(flexibility)がますます高まることは避けがたい流れのようにおもわれる」と述べ、後の『ワークライフバランス社会』などにつなげています。
 本書に書かれているのは、いまから約10年ほど前の状況ですが、近年の「仕事と生活の両立」という考え方が、働く人を甘やかすための福利厚生の制度ではなく、大きな社会経済状況の変化と、企業の生き残りをかけた戦略からの要請であることを教えてくれます。


■ どんな人にオススメ?

・仕事と家庭の両立を巡る経済的な変化を概観したい人。


■ 関連しそうな本

 大沢 真知子 『ワークライフバランス社会へ―個人が主役の働き方』 2006年07月24日
 佐藤 博樹, 佐藤 厚 (編集) 『仕事の社会学―変貌する働き方』 2005年12月01日
 佐藤 博樹 『変わる働き方とキャリア・デザイン』 2006年05月22日
 樋口 美雄, 太田 清, 家計経済研究所 (編集) 『女性たちの平成不況―デフレで働き方・暮らしはどう変わったか』 2006年03月30日
 佐野 陽子, 志野 澄人, 嶋根 政充 (編著) 『ジェンダー・マネジメント―21世紀型男女共創企業に向けて』 2005年12月06日
 熊沢 誠 『女性労働と企業社会』 


■ 百夜百マンガ

緑山高校【緑山高校 】

 不必要なまでに強調された肉体の躍動は、『デカスロン』も真っ青なほどです。笑うところなのか真面目なのかがわからないところで好き嫌いが分かれるでしょう。

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