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2006年9月14日 (木)

統合される男女の職場

■ 書籍情報

統合される男女の職場   【統合される男女の職場】

  首藤 若菜
  価格: ¥5670 (税込)
  勁草書房(2003/12)

 本書は、それまで男性の職業とされてきた職域に女性が、女性の職業とされてきた職域に男性が参入する「男女混合職化」という変化がなぜおきているのか、という問題について、特にブルーカラー男性職種への女性の参入を事例として分析しているものです。
 第1章「性別職域分離とは何か」では、これまで日本企業・日本経済の成長を支えてきた、「男性は、いったん就職すれば長期にわたって働き続けられることがほぼ保障され、女性は、男性の職業生活を支えるために、家庭内の仕事を一手に引き受け」、職場では、「長期にわたって働き続ける男性と、結婚や出産まで、もしくは育児が一段落した後に限定的に働く短期勤続の女性で労働力編成が組まれる」という「男性が1人で一家を養う家族モデル」が、
(1)経済の落ち込みを受けて、企業と国家の両方が、この体制の保持から手を引こうとしている。
(2)女性の高学歴化による男女平等を希求する動き。
の2つの方向から崩されようとしていると述べられています。
 そして、性による職域の分断構造を融合させるアプローチとして、
(1)男性と女性の職域の違いを受け入れ、そのもとで男性と女性の職域の労働条件をそれぞれ見直し、男女間の格差を縮小させていく。
(2)労働市場のなかにある男女を分かつ垣根を取り払い、分断そのものを克服していく。
の2つの方法があり、本書では後者のアプローチに着目した分析がなされています。
 著者は、男女の職域の分断について、「男女の職域が異なること」を「性別職域分離」と定義し、さらに、「職種分離」(性による職種の違い)と「キャリア分離」(性によるキャリアの違い)に分類しています。このうち職種分離については、日本に存在する約300種類の職業のうち、約半数の143の職業では、雇用者の8割以上が占められている、つまり、職業の2つに1つはどちらかの性別によって構成されていること、また男性が8割以上を占める職業が118あるのに対し、女性は25しかなく、
(1)日本では多くの産業にわたって、男女が異なる職種で働いている。
(2)男性は女性よりも幅広い職種についており、女性は限られた職種に集中的に参入している。
(3)それぞれの職種の技能水準や賃金、雇用保障などの労働条件では、相対的に優位にある職種と劣位にある職種があり、前者には男性が、後者には女性が多い。
ことが挙げられています。
 また、性別職域分離が形成される理由として、
(1)人的資本論:労働供給側が性によって異なる職業を選択する合理性を説明する。
(2)差別的嗜好理論:経営者や男性の同僚、顧客が差別的な嗜好を持っている。
(3)統計的差別理論:経営者が利潤の最大化を求めて経済合理的に行動した結果、個別的な差別嗜好とは異なる差別が残る。
(4)ジェンダー理論:労働市場外にある伝統的なジェンダー間が性別職域分離に影響を及ぼす。
の4つの説明がなされていることを解説しています。
 さらに、女性労働者が男性職域に参入する契機として、
(1)アメリカを中心に始まったアファーマティブ・アクション・プログラム。
(2)産業構造の変化や経済成長による男性労働力の不足。
(3)仕事内容の変化や作業の軽量化をもたらす技術革新。
の3点を挙げています。
 著者は、本書の研究対象について、
(1)男女が混合して働く職場
(2)現業職場(生産工程・労務作業者と運輸職)
(3)なかでも伝統的に男性のみで構成されてきた鉄道業と自動車産業
(4)大企業で正規社員として働く労働者
の4つのポイントを示しています。
 第2章「男女労働者に分断された理由」では、性別職域分離の要因として、
(1)労基法に定められた女性に対する深夜勤務禁止規定
(2)男女の間に存在する筋力や体力面の格差
(3)主に女性と男性との勤続年数の違いに起因する統計的差別
の3つの仮説を提示しています。
 第3章「鉄道業」では、鉄道業の現業職場が、戦時期と戦後期の一部の補助部門を除き、男性労働力のみで編成され、特に機関士及び運転士は、男性の職域として固持されていたこと、旧国鉄では、運転士は職業威信の高いエリート職として位置づけられていたことなどを解説しています。また、地方の中小鉄道会社であるA社において、観光客をターゲットとした新型車量の投入に伴い、「斬新なイメージをだすことを目的に」乗客掛として女性を配置したことをきっかけに、運転士にも女性を登用し始めたこと、勤続期間の短い女性向けに男性(10年)よりも短い最短2年半で運転士に昇進できるキャリアを用意したこと、そして、このことが男性との軋轢を生んだこと等が紹介されています。
 また、著者は、国鉄の分割民営化によって誕生した大手鉄道会社のB社の女性車掌の定着率が他の職種の女性よりも明らかに高いことに着目し、その理由として、変則勤務の負担がある一方で、「勤務時間が明確であり予定が立てやすいこと、残業がほとんどないことのメリット」を挙げています。さらに、同じく旧国鉄のC社においても、駅務員の女性が、交替勤務に慣れると「定時に終わるため働きやすい」と感じていることを挙げています。
 第4章「自動車産業」では、大手自動車会社の100%出資会社であるD社において、聴き取り調査に加え、2週間にわたって実際に労働を経験する参与観察を実施しています。ここでは、職場内での女性に対する配慮として、筋力を要求されるメインラインではなく、サブラインを中心に女性が配置されていること、結婚または妊娠を期にすべての女性が退職しているが、4~5年の勤続は自動車産業では特に短くはないことが述べられています。
 また、大手自動車メーカーであるF社が女性採用を決めた要因として、
(1)男性だけでは十分な労働力が確保できなくなっていたこと。
(2)少子高齢社会の到来による若年労働者の減少への対応。
(3)均等法の成立(1985年)と労基法の改正(1998年)。
の3点を挙げ、女性に任せられる工程が限られ、女性専用工程が作られることが多く、サブラインに集中して投入されていることが述べられています。
 第5章「電気産業」では、1960年代の半導体職場で人海戦術的に女性が投入され、1970年代にはME化と24時間操業に伴い男性中心の職場に変わり、さらに1980年代のFA化によって男性が余剰労働力となり人件費を圧迫したために、柔軟な雇用管理が可能な女性中心にさいようされたという、「女性中心→男性中心→女性中心」という変遷が紹介されています。
 第6章「運輸業」では、1990年代にバス業界各社が競い合うようにバス運転手に女性を登用し始めたことが紹介され、技術の進歩によって、ギアチェンジに力を必要としないオートマティック車両が投入されたこと、登用の狙いとして、話題づくりと接客サービスの向上があることが述べられています。また、運輸業界で女性運転手の採用が増えている理由として、女性運転手の顧客からの評判が極めてよいことが挙げられています。さらに、タクシー業界に参入する女性運転手の入社動機として、「40歳を過ぎた女が、年収500~600万円を得ようとしたら、(この仕事の)ほかには選択肢はない」と語られていること、1970年代以降、長期雇用に合わせた賃金体系が作られてきたタクシー業界が、女性の採用をきっかけに、賃金月額を上昇させた歩合制の要素が高い賃金体系に戻りつつあることなどが述べられています。この他、建設オペレーターにおいて、作業場を転々と移動する勤労環境のため、結婚を契機に退職していること、航海士において、20日乗船-10日休日というシフトが家庭との両立を妨げ、離職原因となっていることなどが述べられています。また、船全体を仕切る女性航海士に対する反発から、甲板員のなかには、「女の言うことは聞かない」、「女は足手まといだ、とっとと帰れ」などの罵声を浴びせる者もあり、ノイローゼになる女性航海士もいることが紹介されています。
 第7章「性別職域分離の縮小要因」では、深夜勤務規制が、「一見女性のみを保護してきたルールと見えるが、それは同時に男性にも関係している」として、男女別の勤務シフトが、男性に昇進競争の緩和などの利益を付与していたことが指摘されています。また、深夜労働に関しては、解禁前には女性の見解は賛成・反対に半数ずつ二分されていたものの、1998年に深夜労働が解禁されてみると、「深夜労働の負担は予想以上に軽いもの」だと感じられたこと、「深夜手当や残業代による所得の増加が想定していた以上に大きく、深夜労働が身体や生活に与えるデメリットよりも所得増加というメリットをより強く感じている」ことが紹介されています。さらに、鉄道業の変則的な交替勤務が長期勤続を支えている理由として、基本的に残業が課されず、固定的な勤務時間であるために、「子どもの保育所の送迎や、その他の家庭内の責務について可能な範囲が明確化され、対応策を事前に練ることができる」ことが挙げられています。
 筋力的性差に関しては、技術革新によって、「職務遂行上、筋力や体力面での男女差の影響を極力削減することができ、男女混合職化が可能になった」ことが挙げられています。また、ラッシュ時のホーム整理、車両点検、酔客や乗客同士の喧嘩の対応、異常事態の対応など、これまで「嫁入り前の女性を傷つけたくない」という親心や、「女性にやらせるのは可哀想」という「心優しい配慮」から、女性には難しいとされてきた危険な作業や汚れ作業を、女性たちが難なくこなし、経営者らが抱いていた「言われなき不安感」の大部分が払拭され、男女を同一に扱っても問題ないことが認識されたことが述べられています。
 著者は、男女混合職場のキャリアに関して、「より短い勤続を前提にしながらも、男性よりも早期に上位職につく女性のキャリア」を、「促成栽培的キャリア」と名づけ、女性の勤続が伸びた要因として、
(1)男女混合職種は、女性よりも賃金水準が高いこと。
(2)変則勤務であるために残業が極めて少ないという勤務形態の違い。
(3)女性労働者が抱く仕事への誇り、やりがいの相違。
の3点を挙げています。
 第8章「新たな職域の形成」では、経営者が女性労働力の投入を進める主たる要因が、変動する労働市場への対応と、人件費の削減にあること、これに応募した女性たちが、「一般事務職には向いていないと思っていた」、「体を動かす仕事がしたかった」、「高所得を得たい」、「男性に混じって働きたい」などの積極的な理由を挙げていることが述べられています。また、男女混合職化を通じて、性別職域分離を縮小していく道程に、
(1)社会レベルと職場レベルで、男女均等なルールを確立すること。
(2)女性がそれに答えるビヘイビアをとれるかどうか。
という2つの局面があることが述べられています。
 本書は、これまでホワイトカラーを中心に語られることが多かった職場における男女の問題について、よりはっきりと分離している現業職場を取り上げることで、問題を明確にしている一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 数年前に総武線に始めて女性車掌が登場したときは、アナウンスを聞いたり見かけたりすると得した気になりましたが、最近は当たり前になりました。
 そういえば京成バスでも女性の運転手さんが増えた気がします。


■ どんな人にオススメ?

・男女混合職化の現状を捉えたい人。


■ 関連しそうな本

 ロザベス・モス カンター (著), 高井 葉子 (翻訳) 『企業のなかの男と女―女性が増えれば職場が変わる』 2005年10月11日
 佐野 陽子, 志野 澄人, 嶋根 政充 (編著) 『ジェンダー・マネジメント―21世紀型男女共創企業に向けて』 2005年12月06日
 樋口 美雄, 太田 清, 家計経済研究所 (編集) 『女性たちの平成不況―デフレで働き方・暮らしはどう変わったか』 2006年03月30日
 熊沢 誠 『女性労働と企業社会』 2006年07月25日
 佐藤 博樹, 佐藤 厚 (編集) 『仕事の社会学―変貌する働き方』 2005年12月01日
 鎌田 慧 『自動車絶望工場―ある季節工の手記』 2006年03月09日


■ 百夜百マンガ

駅員ジョニー【駅員ジョニー 】

 鉄道の現業で働く青春を描いた作品です。「男の世界」で生きてきた上司の寡黙な厳しさと優しさが印象的でした。

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