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2006年9月21日 (木)

成果主義の真実

■ 書籍情報

成果主義の真実   【成果主義の真実】

  中村 圭介
  価格: ¥1785 (税込)
  東洋経済新報社(2006/03)

 本書は、「成果主義に関心を抱く人々に、冷静さを保ち、幅広い視野を持っていてほしい」、「その上で、現在、生じつつあることの意味を自分なりに深く考えてもらいたい」との思いから著されているものです。著者は、企業を成功に導くものは、「自社が得意とし、かつ有望だと思われるマーケットを定め、そこに適切な製品を供給すること」、すなわち経営戦略が基本であるとして、「良き人事管理は、中長期的な成功にとっての必要条件ではあるが、経営の成功の十分条件ではない」と述べ、目を向けるべきは人事管理ではなく「成果を生み出す部門別業績管理」、すなわち「仕事管理」であると述べています。
 著者は、本書の狙いとして、
(1)良き人事管理は、経営の成功を保証しはしない。
(2)昇給や昇進などのインセンティヴは従業員の働きぶりに間接的にしか影響を及ぼさない。
(3)従業員の日常的な働きぶりを直接、コントロールする仕組み=仕事管理は人事管理に含まれるべき。
(4)賃金制度は企業内の従業員相互が取り結ぶ人間関係のありようを表し、その改革のインパクトは広く企業社会全体に広がる。
の4点を最終章に掲げています。
 第2章「いろいろな成果主義」では、成果主義を、
(1)素朴な成果主義
(2)プロセス重視型成果主義
(3)分離型成果主義(意図的分離型)
(4)分離型成果主義(結果的分離型)
の4タイプがあるとして、それぞれについて解説しています。
 「素朴な成果主義」とは、「売上、利益などの数値の実績と報酬を直結させるもの」であり、「昔ながらの出来高旧制度を現代風に言い換えただけ」のものであると解説されています。
 「プロセス重視型成果主義」とは、「成果だけでなく、成果を生むプロセスにも着目する成果主義」であり、本書ではデパートと電機メーカーの2つの事例が解説されています。前者に関しては、
(1)最終成果だけでなく、それを生み出した行動をもあわせて評価する。
(2)毎月の給料については、成果主義の対象が管理職に限られる。
  →権限と責任はセットでなくてはならず、上司の失敗の責任は負わせられない。
  →発展途上の従業員には失敗を恐れずのびのびと仕事させる。
(3)最終成果と成果行動についての評価に応じて、管理職の給料は毎年変動する。
の3つの特徴を挙げています。また、後者に関しては、
(1)粗利や収益を含む受注・売上目標の達成度(50%)
(2)中長期的な重点的取組み課題(30%)
(3)費用を抑制するための取組み(10%)
(4)部下の育成や能力開発(10%)
の4つの面が評価されることが紹介され、その特徴として、
(1)紆余曲折を経て、プロセス重視型の成果主義へと変わった。
(2)成果主義の対象は、事実上、課長以上の管理職に限られる。
(3)管理職に関する限り、成果主義は毎年の昇給額に反映される。
(4)役職(=等級)によって給料の上限と下限が決まり、役職ポストに対して給料が支払われる。
(5)管理職の人件費総額が一定範囲内に納まる。
の5点を挙げ、なかでも(4)と(5)については、前者のデパートの事例に共通していることを指摘しています。
 「分離型成果主義」とは、「与えられた目標をどれだけ達成したかを評価することはない、つまり最終成果が評価の対象とはならないという意味」の成果主義であるとして、トヨタの事例が紹介されています。著者は、この「意図的な成果と評価の分離」を、「成果主義を徹底する。けれども、成果を評価する場合には、成果そのものではなく、成果を生み出すために発揮した能力に着目する」ものであると述べ、トヨタにとって、賃金制度改革のためのスローガンとしての「成果主義」が必要であったのではないかと推測しています。そして、管理職の目標面接シートが、
(1)期待されている役割:組織の使命、分掌業務、方針と一致。
(2)重点テーマ:本年度の役割を遂行するに当たって設定した中心的な複数の課題。
(3)評価項目ごとの自己評価と上司評価:課題創造力、課題遂行力、組織マネジメント力、人材活用力、人望の5項目。
 ――重点テーマの達成度そのものに関して記述する箇所はない。
の3つの部分から構成されていることが述べられています。著者は、トヨタの成果主義の特徴を、
(1)成果主義をうたいながらも、評価においては目標の達成度などを考慮しないことを宣言している。
(2)評価は、目標や役割を果たすために必要とされる能力の発揮についてなされる。
(3)管理職の重点テーマ、一般職の期待される役割は、会社の年度方針、副社長・専務の重点実施項目から導かれる。
(4)成果主義の対象は、管理職に限られている。
(5)一般職の給料は、毎年上がっていく。
(6)管理職のボーナスは、毎期の評価に応じて大きく変動する。
の6点挙げています。
 もう一つの分離型成果主義の例としては、情報通信企業の例が取り上げられていますが、トヨタと異なり、「意図的ではなく、結果として分離している」ことを指摘しています。著者は、この企業にとっての賃金制度改革の真の狙いを、
(1)一般職の賃金カーブを50歳前後で頭打ちにする。
(2)人事評価結果を毎年の賃金に反映させる(成果加算と成果手当)。
の2点指摘しています。著者は、この企業を、「精緻な制度とは裏腹に、実際には成果と評価は分離している。結果として分離している」と述べています。
 また、成果主義がもたらした変化として、
(1)成果主義は主として管理職を対象にしている。
(2)管理職の給料について、定期昇給がなくなり、評価に応じて変動し、天井がある。
(3)一般職については、能力の向上を促し、その伸長に合わせて給料を支払うという仕組みが維持されている。
(4)ボーナスの算定に、会社業績と個人の貢献度が直接的に結び付けられるようになった。
の4点を指摘しています。
 第3章「成果を生み出す仕事管理」では、ホワイトカラーの生産性に関して、おびただしい数の本や報告書が出版されているが、解決策が発見されていないことについて、「生産性の測定」という難問に固執しないこと、すなわち、「まずは測定、その後に管理」ではなく、「まずは管理があり、それに適合的な何かを測定すれば良い。乱暴な言い方を許してもらえれば、ホワイトカラー個々人の生産性などは測定する必要などない」と述べ、「ホワイトカラーの効率的利用のカギは仕事管理にある」と述べています。具体的には、デパートの事例を通じ、「会議の場で陰に陽に浴びせられる(と感じられる)叱責、嘲笑、認知、賞賛など」が、「良き成果のための重要なインセンティブ」となっている例を挙げるとともに、よい成果の決め手は、「上司の指示の適切さをどのようにしたら確保できるか」、「その支持をいかに部下に伝え、彼らの的確な行動をいかに確保しうるか」という「成果を生み出す行動=プロセスに着目し、良き行動をいかに確保しうるかが重用になる」と述べ、成果主義が「プロセス重視型でなければならない」理由としています。
 著者は、デパート、電機メーカーの営業部とシステム開発部門などの事例から、
(1)仕事管理を進めていく上で着目する指標の一つとして、金銭的=財務的な指標を利用できれば、管理のサイクルを回しやすい。
(2)その場合であったとしても、金銭的=財務的な指標だけで仕事管理が行われているわけではない。
 →金銭的=財務的指標は仕事の成果を客観的に測定することができるが結果に過ぎない。
(3)財務及びそれ以外の指標と仕事のプロセスに着目しつつ仕事管理のサイクルを回していく上で、頻繁に開催される会議が重要な役割を担う。
(4)仕事管理の緩急は事例によって異なる。
(5)金銭的=財務的指標が、ホワイトカラーの結果としての生産性の測定とその向上を図るために利用されるとは限らない。
(6)事務系のスタッフ部門の仕事管理の仕組みは、依然としてあいまいなままに残った。
(7)成果主義と仕事管理の関係をどう考えるか(賃金制度と仕事管理は一対一の対応関係にはない)。
の7点をまとめています。
 第4章「新しい人事管理論」では、
(1)他人に依存:経営トップは、他人に依存品蹴れが、戦略を実行することも、利潤を得ることもできない。
(2)限定された合理性:人間のできることには限界があり、すべてを知り、すべてを予測することはできず、自らの考えをすべて言葉にし、誤解を生むことなく相手に伝えることもできない。
(3)機会主義:自分に有利な結果が実現されるように、相手に対して嘘を言ったり、脅したりする。
(4)インセンティヴ:刺激、誘因。自分から懸命に働こうという気にさせるもの、怠けてはダメだと思わせるもの。
(5)コントロール:懸命に仕事をするように外から促すこと。
の5つのキーワードを挙げ、経営者は、「従業員=他人に依存しなければ、戦略も実行できないし、利潤もあげられない。彼らに仕事を任せるほかない。だが、限定された合理性と機会主義のために、任せっぱなしにはできない。任せ方に工夫をこらし、他方でインセンティヴとコントロールの仕組みを用意する必要が」あり、「そうした工夫と仕組みこそが人事管理である」と述べています。
 第5章「人事を変える成果主義」では、「報酬制度の3つの変化」として、成果主義が賃金制度、ボーナスを、
(1)勤続を積み、年齢を重ねれば、賃金が半ば自動的に上がっていくという意味の年功賃金はなくなりつつある。
(2)職務遂行能力の向上を促し、それを評価するという意味の能力主義が消えつつある。
(3)ボーナスにおいて、企業の業績と個人の貢献度が強く結び付けられるようになった。
の3点を指摘し、これらの変化が管理職で鮮明に見られると述べています。そして、人事管理に課せられる課題として、
(1)役職昇進前の中年期以前の能力開発の重要性が今まで以上に高まること。
(2)中年期以降のリターンマッチ、能力開発、モラール維持なども重要な課題となる。
の2点を挙げています。
 本書は、成果主義の導入の是非ばかりに固執しがちな近年の人事管理をめぐる議論に対し、経営の基本である「仕事管理」(部門別業績管理)の重要性を説いた堅実な経営書ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書が損をしている(得をしている?)としたら、本書のタイトルである「成果主義の真実」に釣られて手にする人の多くは、著者の主張するところに反して、成果主義自体の是非や影響にこだわっている人たちである点ではないかと思います。
 著者の狙いが、そういった人たちに、こだわるべきは仕事の中身を管理することであって賃金制度ではないことをわかってもらうことだとすれば、適切なタイトルなのかもしれませんが。


■ どんな人にオススメ?

・「成果主義」論争に決着をつけたい人。


■ 関連しそうな本

 都留 康, 阿部 正浩, 久保 克行 『日本企業の人事改革―人事データによる成果主義の検証』 2005年06月24日
 高橋 伸夫 『虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ』 2005年3月30日
 高橋 伸夫 『〈育てる経営〉の戦略―ポスト成果主義への道』 2005年06月16日
 城 繁幸 『日本型「成果主義」の可能性』 2005年12月08日
 城 繁幸 『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』
 溝上 憲文 『隣りの成果主義』 38737


■ 百夜百マンガ

江戸むらさき特急【江戸むらさき特急 】

 「時代劇+4コマ」のニッチを押さえてしまった人。問題は、時代劇ネタはある世代以上にしかわからないという点ですが、ネタ元はわからないけどおもしろい、という「ゆうえんち くじら」的な面白さもあるのかもしれません。

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毎日拝見してます。この本は特に面白そう。
ところで,毎日投稿時間が,〇時ちょうど(00分)なのはなぜですか?

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