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2006年10月11日 (水)

「育休父さん」の成長日誌―育児休業を取った6人の男たち

■ 書籍情報

「育休父さん」の成長日誌―育児休業を取った6人の男たち   【「育休父さん」の成長日誌―育児休業を取った6人の男たち】

  脇田 能宏, 中村 喜一郎, 太田 睦, 中島 通子, 土田 昇二, 小崎 恭弘, 中坂 達彦 (著), 朝日新聞社 (編集)
  価格: ¥1470 (税込)
  朝日新聞社(2000/04)

 本書は、朝日新聞紙上に連載された6人の男性の育児休業体験をまとめたものです。サラリーマンや国家公務員、市役所の男性保育士、大学講師などさまざまな分野での、男性の育児休業のパイオニアの皆さんが、直面してきた世間の壁と、父親が育児から逃げ出してはいけないことの大切さを語っています。
 男性が育休を取ることへの反応については、著者の皆さんが育児休業を取った前世紀の社会において、いかに珍しいものであったのかを教えてくれます。
 脇田氏は、「超過密スケジュールで開発をバリバリ進めている部署」で前例のない育休をとるためのポイントとして、「何ヵ月も前から休むのがわかる」育休ならではの、
(1)周知徹底:普段から自分の生活状況や考え方を知らせておくと理解が得られやすい。
(2)事前準備:極力早く上司に相談し、休業前までに区切りがつく仕事を与えられた。
(3)堂々と:とると決めたら妙に卑屈にならず「これからも生き生きと働いていくため」と堂々とすること。
の3点を挙げています。
 土田氏は、育休を取った最大の理由を、「一人で育てた」と「妻に偉そうな顔されたくなかったから」だと語っています。また、職員数11人の小さな事務所で係長をしていたので、上司からは「考え直すつもりはないか?」と問い直されたというエピソードを紹介しています。その後、復職後には、単身赴任で転勤になりますが、奥さんの復帰が早まったことが奥さんの係長への昇進につながったのではないかと語っています。そして、週休二日制も、銀行や官公庁が率先して実施して定着したことを挙げ、男性の育児休業も官公庁がリードすることで「男女共同参画社会」が実現できるのではないかと述べています。
 中村氏は、「私の復帰を支えているのは家族だけではない」として、まずは「多様性を重んじる企業理念の中に、『個々の社員を尊重する』というのがある」会社、そして、徒歩圏内に新しくできた保育所を挙げています。
 市役所の保育士である小崎氏は、「自分の子を初めて保育所に入れるとき、当時の僕はまだ保育所で働いていなかったので、何時間も子どもを人さまに預けるのは『かわいそう』という意識」があったが、自分が保育士として働き始め、そんな考えは微塵もなくなったと語っています。
 太田氏は、育児休業法の施行日前に休職予定だったために、いったんは会社に断られ、最後には労働組合まで動き出して特例として休職が認められたことを語っています。また、休職中にも、会社のネットワークに接続し、掲示板に書き込んだり、部下に電話をかけて仕事の進行状況を聞いていた経験から、「依存していたのは『仕事』ではなく『職場』だったのかもしれず、育休中のストレスは職場から離れた禁断症状にも思える」と語っています。さらに、休職後に昇格試験にパスし、育休がキャリアには影響していないと述べています。
 中坂氏は、会社で「おまえか!産休とって会社休んだやつは」と言われたり、人事部からも「あとの20年の会社生活を捨ててもええねんな」と言われたことを述べ、「少し残念であった」と語っています。また、「病気や子供のことなど個人的なことやから自分でなんとかせえ。それが当たり前や」と言われてしまうことのインフラや制度の不足を指摘しています。そして、育休を取ったことにより、「責任感の著しくかけたやつ」という評価を受け、「権利だけ自己主張するバランス感覚のないやつ」と言われ、「仕事のノルマをあげたことなんて関係ない」と正面から言われてしまったと語っています。
 巻末の育休を取得した男性のアンケートでは、
(同僚に受けた差別)
・「子どもは母親のそばがいちばんいいの」と年輩の女性から言われた。
(上司から受けた差別)
・校長から「きみのことを権利意識が強すぎると心配している人がいる」と遠回しに非難された。
(人事に受けた差別)
・残りの会社生活を我慢するように言われた。
・校長同士の申し送り事項で「危険人物」と紹介され、市の社会科部長の内定を外された。
などが紹介されています。
 育児の悩みについては、育休をとって24時間子供に直面することで生じるストレスや、社会から隔絶される不安が多く語られています。
 脇田氏は、「近所に同性の育児仲間がなく、互いの家に上がりこんでだべるという息抜き」ができないため、インターネットで「男も女も育児時間を!連絡会」という集まりに参加し、おしゃべりと情報交換をしていたことを述べています。
 土田氏は、休業生活に慣れた頃に、職場からの疎外感が芽生え、久しぶりに同僚が誘ってくれた飲み会でガス抜きできたことを語っています。
 中村氏は、平日に娘を連れて歩くときの周囲の視線を挙げ、「一時的とは言え、『会社員』という社会的認知を失い、世間から断絶されたように感じていた」ことを語っています。
 小崎氏は、「大学で学び、保育所にも実習に」行ったが、「赤ん坊は、教科書にも載っていない、実習中にもであったことのない不気味な動物でした」と語るとともに、「閉ざされた空間で、子と親という一対一の対人関係では逃げ場がなく、その狭い空間が全世界のように」感じられると語っています。
 まとめとして、著者たちは、一様に父親が子育てをすることの喜びを語っています。
 脇田氏は、保育園のお母さんたちが、「うちの夫は仕事が忙しくて……。こういう喜びを味わえないのはかわいそう」と話しているのを聞いて、「子育ての報酬とは、こういった形に残らない思い出の積み重ねではないだろうか。子供と向き合い、子供と接しなければ決して得られることのない幸せ」と語っています。また、子供が病気になった時にも、「一人で対応すると仕事との両立は本等に厳しい」が、夫婦で育児をしていると融通が利きやすいことを述べています。
 土田氏は、育休を取ったことを、「一社会人、ひとりの人間」として有意義に感じたこととして、
(1)コミュニケーションスキルが身についた
(2)物事について最後まで責任を持てるようになった
(3)社会の不合理や矛盾に気がついた
(4)親として存在していることに自覚を持てた
の4点を挙げています。
 太田氏は、「公園デビュー」という言葉も知らないまま、平日の公園の母親達の三大派閥に入れずに、ベンチにポツンと座っていた経験を語っています。そして、保育園の父母会の役員を引き受け、「年間計画を立て、各行事の担当者を決め、担当者の報告を聞いて問題を話し合い、皆の意見が割れた場合は調整するといった仕事は管理職が会社で普段やっていることばかりで、いかにも『会社のやり方』を持ち込みやすい」と割り切り、効率第一で仕切っていたと述べています。
 中坂氏は、「育休を取ってよかったこと」として、「子供達がとってもなついてくれること」を挙げ、「育休を取ったからこそ、その後、単身赴任でたとえ離れていても『パパ、パパ』と慕ってくれるんだ」と語っています。
 本書は、今でもまだ取得者の少ない父親の育児休業を、前例のない中で模索しながら切り開いてきた先輩たちの言葉を聞くことができる貴重な一冊だと思います。


■ 個人的な視点から

 本書巻末のアンケートの中で、育児休業を取ろうとしたら上司(校長)から、そういう思想にかぶれた団体かなにかに入っているのか、と訝しがられたという回答が紹介されています。本書の元になった連載以降、さまざまなメディアで父親の育児が取り上げられ、男性の育児休業も言葉としては一般的になった今となっては隔世の感がありますが、当時はそういう思想的背景でもなければとる人はいないだろうと思われていたことが伝わります。


■ どんな人にオススメ?

・前世紀の社会の中で父親が育児をすることがいかに特殊だったかを知りたい人。


■ 関連しそうな本

 山田 正人 『経産省の山田課長補佐、ただいま育休中』 2006年10月10日
 佐藤 博樹, 武石 恵美子 『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』 2005年04月07日
 大沢 真知子 『ワークライフバランス社会へ―個人が主役の働き方』 2006年07月24日
 大沢 真知子 『新しい家族のための経済学―変わりゆく企業社会のなかの女性』 2006年08月07日
 熊沢 誠 『女性労働と企業社会』 2006年07月25日
 橘木 俊詔 『現代女性の労働・結婚・子育て―少子化時代の女性活用政策』 2006年08月18日


■ 百夜百マンガ

ママはぽよぽよザウルスがお好き【ママはぽよぽよザウルスがお好き 】

 テレビアニメにもなった育児マンガの定番。もう10年以上前の本です。母親向けの育児マンガは「あるある」系のネタが中心になりますが、父親向けの場合はカルチャーショック系のネタが多くなるのでしょうか。

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