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2006年10月13日 (金)

会社人間が会社をつぶす―ワーク・ライフ・バランスの提案

■ 書籍情報

会社人間が会社をつぶす―ワーク・ライフ・バランスの提案   【会社人間が会社をつぶす―ワーク・ライフ・バランスの提案】

  パク ジョアン・スックチャ
  価格: ¥1155 (税込)
  朝日新聞社(2002/07)

 本書は、「ワーク・ライフ・バランス」の観点から、「日本のサラリーマンが充実した仕事を豊かな私生活の両方をエンジョイすることができるようにするにはどうしたらいいか」について、考え方とノウハウを提案しているものです。著者が1999年に参加したサンフランシスコのセミナーで耳にした、この「ワーク・ライフ・バランス」という言葉は、「全従業員のライフ・バランスを企業が真剣に考えて環境整備に取り組むべき」という考え方であり、「この考え方を取り入れて真剣に取り組んだ企業は業績が上がったという統計結果」に裏付けられたものであることが述べられています。
 第1章「日本はアジアでも最低」では、米国系企業のアジア地区人事担当者としてアジア各国に出張する機会の多かった著者が、日本が西洋だけでなくアジアの国と比較しても、「仕事と私生活のバランスの取り方」が一番遅れていると感じたことが述べられています。また、海外のワーキング・マザーが、自分の働く理由を、「仕事のやりがい」や「実力の発揮」ではなく、自分たちが望む生活を得る「お金のため」と答えていることを紹介するとともに、日本人男性がほとんど家事をせず、<ぼく稼ぐ人、あなた稼いで家を守る人>になってしまった日本女性の惨めな現状に言及しています。
 さらに、育児に関して、父親のタイプとして、
(1)愛妻パパ:仕事の悩みなどを妻に話す。
(2)父親パパ:なるべく子供と付き合う。
(3)会社型パパ:家庭のことは妻に任せっきり。
(4)市民派パパ:読書好きで賭け事はしないインテリ肌。
の4つを挙げ、「会社型」「市民派」は、子供から、「頼りにもしていないし、父親のようになりたいとも思わない」「一緒にいても楽しくない」と思われていることを紹介しています。
 また、専業主婦の育児に関して、「一人閉じこもって子育ての全責任を負うため、より高い傾向の育児ノイローゼや育児不安が見られる」こと、「密室で子育てをする状態は、過保護、過干渉、暴力、心理的虐待などの問題を生じやすい」ことを述べるとともに、父親に関しても、「カローシ」がそのまま英語になっていること、「死ぬほど働かなければ仕事が処理できない」ことは尋常ではないとして、問題の本質を、「雇う側の仕事の処理方法のシステムにある」と指摘しています。
 第2章「かつてはアメリカも停滞していた」では、シアトルのマイクロソフト社の退社ラッシュが夕方の4時から始めることを紹介し、その代わりに「アメリカのビジネスマンはエリートほど朝が早いと言われ」、ブレックファスト・ミーティングなど「ビジネス活動は早朝からスタートしている」ことを述べています。エリートビジネスマンが語る「早朝は頭も冴えて何をやっても能率がよく、朝の1時間は少なくとも夜の2時間に匹敵する」という言葉が、<フレックス・タイム>の効果であると述べています。
 一方、働きすぎが引き起こすバーンアウトに関しては、なりやすい人の一般的特徴として、
(1)慢性的疲労
(2)自分に何かを要求する人に対しての怒り
(3)高い要求に耐えている自分に対する自己批判
(4)冷笑的、否定的、いらつく態度
(5)包囲されている感じ
を挙げています。
 また、ワーク・ライフ・バランスの思想と実践が要請される背景としては、
(1)労働人口構成の変化:共働きが一般化(既婚労働者の78%が共働き)
(2)ビジネス環境の変化:IT技術の発展に見合う新しい働き方が急務に。
の2点を挙げ、古典的な労働観の変化を、
(1)女性の社会進出
(2)ファースト・トラッカー(出世頭)の後悔
(3)ミッド・ライフ・クライシス(中年危機)
(4)若者の労働観
(5)男性の意識と行動の変化
の5点挙げています。
 そして、80年代後半の米国企業が「働く母親の仕事と家庭の両立」を目指して行った一連の「ワーク・ファミリー・バランス」施策が、「全従業員の私生活と仕事の共存」を配慮した「ワーク・ライフ・バランス」へと名前を変えていったことが述べられています。
 第3章「『ワーク・ライフ・バランス』の改革」では、「多くの企業が100年以上も前の産業革命時代に開発されたビジネスモデルや仕事のやり方を、このIT時代にそのまま踏襲している現状」の中で、「ワーク・ライフ・バランス」手法を取り入れるためにはトレーニングが必要であるとして、フォード財団が設計した<仕事の再設計>プログラムの、
(1)仕事と理想的な社員像についての既存の価値観・規範を見直す。
(2)習慣的な仕事のやり方を見直す。
(3)仕事の効率と効果を向上させ、同時に仕事と私生活の共存をサポートするための変革を行う。
の3つの段階を紹介しています。
 また、ワーク・ライフ・バランスの取組みプログラムのうち、普及率や注目度の高いものとして、
(1)フレックス・ワーク
(2)保育サポート
(3)介護サポート
(4)養子縁組サポート
(5)転勤サポート
(6)EAP(社員援護プログラム)
(7)ヘルス&ウェルネス
(8)フレキシブル保険制度
(9)休暇制度
(10)教育サポート
(11)コンビニエンス・サービス
の11点について解説しています。中でも(1)に関しては、フレックス・タイム、裁量労働制、短縮労働週、時短勤務、ジョブ・シェアリング、テレコミュートなどのプログラムを取り上げており、中でも、週40時間の仕事を、4日で1日10時間働いて、余った1日は休むという<週内労働凝縮週>ともいえる短縮労働週は、日本では目新しいものです。
 第4章「『ワーク・ライフ・バランス』の成果」では、企業へのメリットとして、
(1)優秀な人材の確保
(2)生産性の向上
(3)社員の企業へのコミットメントの向上
(4)社員の満足度とモラルの向上
(5)医療費の削減
(6)企業業績の向上
の6点を挙げています。
 最終章「自己把握と自己実現のための演習」では、著者が行っている<ライフ・バランス・セミナー>を再現した紙上セミナーを展開しています。
 本書は、言葉としてはよく聞くようになった「ワーク・ライフ・バランス」を、この言葉を生んだ90年代の米国企業の状況を踏まえて解説したコンパクトな一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書の内容は、主に働く母親の視点を中心にしていますが、<父親不在>の問題に関しては、世界的な現象としての<少年犯罪の増加と低年齢化>を取り上げています。ドイツの雑誌の記事として、「特に難しいのは、死や離婚などによる"父親不在"の家庭の場合である。また、両親がいても父親が子供に無関心な場合は同じ結果を導きやすい」という文章を引用しています。
 少年犯罪の増加に関しては、パオロ・マッツァリーノ氏が『反社会学講座』で、戦後の日本における少年犯罪の傾向を分析し、一番キレやすいのは、「昭和35年当時17歳だった現在の中高年世代」であると述べていますが、世界的な状況はどうなのでしょうか。もしかすると、海外のマスコミで取り上げられている<少年犯罪の増加と低年齢化>の記事や論調そのものが日本のマスコミに輸入され、それに合わせた形で統計データを加工して紹介しているのかもしれません。ドラマやクイズ番組なども、海外の番組をパクったものが多いですし。


■ どんな人にオススメ?

・自分は会社をつぶしそうだという不安のある人。


■ 関連しそうな本

 大沢 真知子 『ワークライフバランス社会へ―個人が主役の働き方』 2006年07月24日
 佐藤 博樹, 佐藤 厚 (編集) 『仕事の社会学―変貌する働き方』 2005年12月01日
 佐藤 博樹 『変わる働き方とキャリア・デザイン』 2006年05月22日
 熊沢 誠 『女性労働と企業社会』 2006年07月25日
 ロザベス・モス カンター (著), 高井 葉子 (翻訳) 『企業のなかの男と女―女性が増えれば職場が変わる』 2005年10月11日
 橘木 俊詔 『家計からみる日本経済』


■ 百夜百マンガ

風します?【風します?】

 亀より遅いのに転ばないってのはそっちのほうが曲乗りではないでしょうか。
 さて、世の中にはバイク乗り専用マンションというのがあるらしいですが、「マンガ読み専用マンション」とかないでしょうか? まあ、家賃に回す分を購入費に充てるのが本当のマンガ読みなのかもしれませんが(だから古アパートの床が抜けたりします)。

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