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2006年12月11日 (月)

キャリアデザイン入門〈1〉基礎力編

■ 書籍情報

キャリアデザイン入門〈1〉基礎力編   【キャリアデザイン入門〈1〉基礎力編】

  大久保 幸夫
  価格: ¥872 (税込)
  日本経済新聞社(2006/03)

 本書は、「キャリアデザイン」という「重要で、よくわからない、やっかいなテーマと格闘する」ことを目的とし、理論は必要不可欠・最低限にとどめ、「何をするべきか」を伝えることに的を絞っているものです。著者は、キャリアデザインの目標を「キャリアの成功」に置き、その状態を、
「自己イメージ(アイデンティティ)と照らし合わせた基準で、仕事にフィット感・納得感がある状態であり、世の中の一般的基準による『他人より多い収入』とか『同期よりも早い出世』とか『名誉ある地位』とか『あふれるほどの資格』とかではない、仕事を通じて自分が活かされていると実感でき、幸福感を味わえる状態」
と説明し、「そのような職業に最終的に出会えて、その仕事で活躍できたかどうかがキャリアの成功か否かを決める」と述べています。
 第1部「キャリアデザインの考え方」では、「キャリア」という言葉が、
・職務経歴――キャリアの客観的側面
・仕事に対する自己イメージ――キャリアの主観的側面
という2つの側面を持つことを述べた上で、主観的側面については、
(1)能力・才能に関する自己イメージ――自分にできることは何か? 自分の得意なことは何か?
(2)動機・欲求に関する自己イメージ――自分は何がやりたいのか?
(3)意味・価値に関する自己イメージ――自分は何をやることに価値を感じるか?
の3点があると述べ、「この3つの問いについて内省することがキャリアの基盤をつくることになる」というキャリア研究の大家であるシャインの説を紹介しています。そして、キャリアの成功については、「キャリアとは人生そのものである。人生の仕事的側面がキャリアである」、「他人がどうみるかは関係ない」と述べ、「さまざまな職業の経歴を振り返ったときに、自分が費やしてきた時間をきらきらと光るものとして受け入れることができるかどうか。仕事をしている時間を幸福な時間として実感することができていたかどうか。それこそがキャリアの成功である」と力説しています。
 さらに、職業とのマッチングに関しては、「職業について5年から10年を経た段階で使われるもの」として、シャインの「キャリアアンカー(キャリアの錨)」を、前述の3つの問いに対する答えを統合したものとして紹介し、具体的には、
(1)専門・職能別コンピタンス
(2)全般管理コンピタンス
(3)自律・独立
(4)保障・安定
(5)起業家的創造性
(6)奉仕・社会貢献
(7)純粋な挑戦
(8)生活様式
の8つを挙げています。
 また、職務経歴や自己イメージ形成に関して、「当初のキャリアは『筏下り』のように、次には『山登り』のようにやってゆく」という年齢段階に応じた標準モデルを示し、それぞれ、
・筏下り:基礎力の獲得。そのプロセスにおいて、多くの経験を積み、さまざまな人との出会いを重ね、短期的な目標を何度もクリアし、仕事に対する3つの問いに対する答えを出すための「材料」を集めていく段階。
・山登り:専門力の獲得。自分が生涯をかけて取り組んでもいいと思える専門領域を選ぶ。
と解説しています。
 なお、著者は、「キャリアデザインを阻害するもの」として、
(1)仕事に対する諦観
(2)間違ったスペシャリスト志向
(3)仕事のブランク
の3点を列挙しています。
 第2部「年齢段階別 キャリアデザインの方法(30代まで)」では、「少々荒っぽく聞こえるかもしれない」と前置きした上で、「最初につく職業が何であるかはそれほど大事ではない」と述べ、「筏下り」の時期である初期キャリアにおいては、「自分が鍛えられる会社=『激流』を選ぶことの方が大事」であると説き、「激流か否かは30歳前後の社員を見ればわかる。成長していると顔に充実感があふれる。忙しくても顔に覇気がある。そして激流企業は、やめた人もさまざまな転職先で活躍している」と述べています。
 また、入社直後のキャリアの危機である「リアリティ・ショック」が起こる理由として、
(1)入社前の人事部門とのコミュニケーションでは、悪いところは説明されない。
(2)世間知らずで頭の中だけで仕事を考えていた。
の2点を指摘し、ショックを受けること自体は問題ではなく、ショックを引きずることの方に問題があると述べています。
 さらに、20代前半のキャリアルートが多様化していることに関して、
(1)そのキャリアは職業能力を高めることにとって有効か。
(2)そのキャリアは自分の「方向感覚」に合っているか。
の2点が、キャリア選択が有効か否かを決めるポイントであると解説しています。
 最後に、女性特有の問題として、出産のタイミングとキャリアデザインについては、戦略的にこのイベントを乗り越える方法として、
(1)なるべく早く山登り段階に入り、自分の専門分野を固めてから出産を迎える。
(2)早い時期に出産をして、出産後に筏下りからはじめる。
の2つの方法を提示していますが、「現実には多くの女性は出産によってキャリアを中断し、キャリアに対する意識を低下させ、非正規の労働などで軽めの仕事につくか、その後の職業キャリアをあきらめてしまうかになっている」と指摘しています。
 第3部「基礎力を身につける」では、基礎力を、
(1)対人能力:コミュニケーション能力に近いが、より広くリーダーシップ的な概念も含む。
(2)対自己能力:自分自身の感情を制御し、自分を動機付け、よい行動を習慣付ける。
(3)対課題能力:問題解決能力。
の3つの能力と、
(4)処理力
(5)思考力
とからなるものであると述べています。
 このうち、(1)の対人能力については、親和力、協働力、統率力の3つからなり、親和力に関しては、「たまに会って話す、必要なときに連絡をとって会える」という人脈を形成する上で、「まめさ」(たまにメールを送る、知人を紹介するという行動習慣)がポイントとなると述べています。
 (2)の対自己能力については、感情制御力、自信創出力、行動持続力の3つからなり、自信創出力に関しては、バンデューラが提唱した「自己効力(self-efficacy)」という概念について、人がある行動をとる時に働く、
(1)結果予測:自分のとる行動によってある結果が生じるという予測
(2)効力予測:上手く行えるかどうかという自分の遂行行動に対する予測
のうち、効力予測こそが自己効力、すなわち、「自分に対する有能感・信頼感」であると解説しています。また、行動持続力に関しては、最後まで完遂することによって、自己効力感とともに、「方法記憶」を得て、さらには継続学習習慣を得ることができると述べ、著者自信の例として、「一時期に集中的に本を読むこと」(年間ハードカバー150冊)が学習習慣を身につける上で有効であると説いています。
 (3)の対課題能力については、課題発見力、計画立案力、実践力の3つからなり、3つ目の実践力が高いということは、現場における有能さを示すと述べています。
 (4)の処理力については、言語的処理力と数量的処理力とがあり、これを測るものとして、採用試験に取り入れられているSPI試験(Synthetic Personality Inventory)を解説しています。
 (5)の思考力については、論理的思考力と創造的思考力とがあり、前者は、「ビジネス上の判断・意思決定を支えるものなので、ミッションが重くなればなるほど重要性が増してくる」が、身につけるには「思考経験の蓄積」が必要になると解説しています。
 本書は、これから「筏下り」に出発しようという学生や、「山登り」の時期にさしかかった30代の方にぜひ読んでもらいたい一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書は、薄い上に「基礎」と題されているので中身も薄そうな印象がありますが、あくまで「基礎力」について解説しているので、結構読み応えがあります。
 とは言え、きちんと要点だけをまとめている感じなので、読みにくいということはありません。この関係の本を初めて読む人にもお奨めしやすい一冊です。


■ どんな人にオススメ?

・自分のキャリアを考えたい20~30代の人。


■ 関連しそうな本

 大久保 幸夫 『キャリアデザイン入門〈2〉専門力編』
 大久保 幸夫 『新卒無業。―なぜ、彼らは就職しないのか』
 金井 壽宏 『働くひとのためのキャリア・デザイン』 2005年01月30日
 田尾 雅夫 『会社人間はどこへいく―逆風下の日本的経営のなかで』 2005年02月27日
 日本経済新聞社 (編) 『働くということ』 2005年02月24日
 八代 尚宏 『日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済』 2005年03月23日


■ 百夜百マンガ

ノーマーク爆牌党【ノーマーク爆牌党 】

 麻雀ギャグマンガの人として知られていますが、絵はそのままに、珍しく真面目にストーリーモノを描いています。
 反対に『哭きの竜』のタッチでギャグをやる人はたくさんいますが。

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