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2007年1月10日 (水)

若者が働くとき―「使い捨てられ」も「燃えつき」もせず

■ 書籍情報

若者が働くとき―「使い捨てられ」も「燃えつき」もせず   【若者が働くとき―「使い捨てられ」も「燃えつき」もせず】

  熊沢 誠
  価格: ¥2100 (税込)
  ミネルヴァ書房(2006/02)

 本書は、「現時点における労働環境の決定ルールの帰趨を問うような労働研究の視点」から、若者の就業や仕事を論じたものです。著者は、40年にわたって勤務した私立大学の在職最期の年に本書を書き上げ、就職活動に赴く真面目な学生と、キャンパス離れしていくフリーター「志望」の学生の双方に、「就業に関するメッセージをまとめて伝えたい気になった」と、本書執筆の動機を語っています。
 序章「若者の労働をめぐって」では、朝日新聞2004年9月14日の「経済気象台」のコラムを引用し、社会人1年目の若者が出身大学の就職相談室に、「こんな会社に後輩を入れないでくれ」と、「一日12時間労働。1ヶ月にたった2日の休日、その賃金が手取りで13万円、半年働いて10キロやせた」と実情を語り、この若者に、「今時の若者はこらえ性がない、などとはいえない。なんで半年も我慢したのだ、と怒鳴りつけたくなってくる」というコラムに、「若者の労働を語る数多の言説のうち私がもっとも深い共感を覚えた」と述べています。
 第1章「若者労働の状況と背景」では、「若者を用意に離職に誘う要因のひとつ」として「就職できても結局『不本意就職』が多かった」と指摘し、「職場で何かいやなことがあった場合、そこまで執着しなければならない企業か?」と考えてしまうと述べています。
 また、「かんたんに言えば、若手社員の仕事はこのところまことにしんどくなって」いることを挙げ、「総じて正社員は働きすぎ」であり、20代後半から30代の男性サラリーマン約184万人が、週60時間以上の労働、すなわり、「5日働くとすれば日に4時間以上の残業、定時が6時に終わるとすれば退勤は10時以降」という働き方をしていると述べています。さらに、ホワイトカラーが、「ある種の自発的対応を喚起されながらも、結局はあらかじめ設定された過大なノルマの達成を強いられている、そこに長時間労働の根因がある」ことを指摘しています。このノルマの問題に関しては、社会に衝撃を与えた住宅リフォーム会社「サムニンイースト」の詐欺事件を例に、「この営業マンたちも、今の時代「勝ち組」になろうとあがいた若者のひとつの「労働」のかたちであると述べています。
 さらに、離職の原因として、職場の人間関係の緊張を挙げ、就職した卒業生が、「上司がこわい」と言っていることを述べています。
 また、自分のゼミ生からゼミナールの教材としてアルバイト体験をレポートさせ、派遣法改正による派遣「業種」自由化に伴い、「派遣会社が、『職種不問』で登録している学生に臨時性のきわめて高い雑業を斡旋」していることを述べています。また、学生たちの話を聞いた印象として、
・どの仕事も自分を「成長させてくれた」と、総じて体験を肯定的に語る。
・「バイトのわれわれを使う」その職場の正社員には決してなりたくない、卒業後の就職先は別に探したいと話を結ぶ。
の2点を述べています。
 第2章「状況のもたらす社会的影響」では、若年労働問題の現状が、若者が家庭を形成したいと願う時の選択を左右するルートとして、
(1)フリーターなど非正規労働者の雇用不安定や低収入が結婚を難しくする関係
(2)正社員の層でも、仕事にやりがいを感じ始めている女性が確実に増え、それなりに非婚と晩婚の傾向が進んでいる。
の2点を論じています。
 また、労働社会層の分化に関して、
(1)世帯単位で見ても日本の所得格差は拡大しつつある。
(2)世帯の所得格差が、次世代が働くスタートラインの格差を鋭くしている。
(3)今の日正規雇用者は、かつての臨時工(正社員になる前の経過的存在)とは違い、いつまでも企業社会の外なる存在である。
の3点を指摘し、3点目に関しては、「フリーターを給源とする、臨時の雑業を何でも引き受ける『下層』派遣労働者は、企業にとってはどこまでも、必要なら拾い、不必要になれば捨てる『手の力』、イギリスの文献にいうハンズ(hands)」に過ぎないと述べています。
 著者は、「フリーターを中心とする若者非正規労働者のステイタスは、若者がそこにどんな主観的な意味を込めようとも、総じて経過的ではなく継続的であり、時には生涯的でありうるかも」しれないと主張しています。
 第3章「若者労働 状況変革へのチャレンジ」では、「さしあたり検討・検証すべき」テーマとして、
(1)政府による若者の就業支援政策
(2)学校教育についての「教室と職場」の有効な関係形成
(3)若者の雇用拡大と職場への定着を可能にする労使関係の営み
(4)若者の主体性のありかた
の4つを論じています。著者は、政府の若者労働者政策に対して感じる物足りなさは、
(1)日本の公教育においてはなお、職業教育という側面が非常に希薄である。
(2)労働政策においては依然として、雇用と労働条件の決定に関する企業の自由裁量権を規制する施策が極めて弱々しい。
の2点に帰着すると述べています。
 また、フリーターにとって身近な存在である労働組合として、「未組織の小企業労働者やパートタイマーなど非正規労働者の切実なニーズを聴いて、その相談に応じ、会社に交渉し、一定の成果をあげている『誰でも入れる』組合」であるコミュニティユニオンを取り上げ、「このコミュニティユニオンのもつ可能性に着目せざるをえません」と述べています。
 さらに、1960~80年代には、「日本の家庭や学校や企業は、時代を背負う若者たちにしかるべき成熟を遂げさせるように一種の『まともさ』を強制してきた」と述べ、「家庭、学校、企業という三つのエスタブリッシュメント(既存の権威)が若者に迫ってくる『まともさ』への、ソフトに言えば誘導に、ハードに言えば強制に、当時の若者は体制としては従い、地味ながら堅実な生活者に成熟して」きたと語っています。
 著者は、「地味な仕事に就く若者たちに元気を送るような『気づき』と『思い定め』に至るルート」として、
(1)社会の人びとの切実なニーズに気づいて、それを満たすことに自分でも役立てるのだと思い至るルート。
(2)主としてすでに働いている若者に元気を送るルートとして、「ともにしんどい思いをしている仲間がいる」という発見。
(3)自分が苦労することで傍らの誰かを楽にしているという実感としての「傍楽」(ハタラク)ということへの気づき。
の3点を挙げています。
 第4章「教室と職場」では、戦後民主主義教育の考え方を、「基本的に、どんな出身階層の生徒についても平等に、できれば普通教育課程を延長し、一般的な学力の向上をはかること」であるとした上で、「各学校レベルで学ぶはずのカリキュラムの内容を、多くの仕事の遂行にあらかじめ必要とされる知識・技能レベルと比べ」、「過剰の学歴」という矛盾が進行していたことを指摘し、「この社会の職業のうち、入職にあたって必要な一般的知識という点で大卒の学歴がまず不可欠と思われるのは、専門・技術職の多くと事務職や販売職のごく一部に過ぎないということが直視されねば」ならないと述べています。そして、この矛盾を調整する方法として、
(1)企業が採用にあたって、学歴差だけでなく、学校差、成績差、個人の属性や性格の違いを従業員選別の基準とする。
(2)総じて80年代末ごろまではなお「健在」であったジェンダー規範。
(3)旧世代の低学歴者の膨大な存在。
の3点を指摘しています。中でも。(2)に関しては、80年代の頃から「学校関係の成功」者は断然女子学生のほうが多く、このジェンダー差別が、「『学校関係』では不成功だった若い男性にも、就職してからがんばれば、今度は男の方のジェンダー規範に従って「妻子を養う」ことのできるほどには、そこそこ『出世』できる余地を広げ」ていたと述べ、「現時点ではそうは行かないのが、ノンエリート男性のつらいところ」だと語っています。
 補章「フリーター漂流」では、2005年2月5日に放送されたNHKスペシャル『フリーター漂流』を取り上げ、工業労働を請負うフリーターの状況が、
(1)正社員と峻別された労働者の一階層を「ハンズ」として職場に組み込む、近年一層際立ってきた新しい労務管理の展開。
(2)経済政策における新自由主義の台頭とともに、「人材」の斡旋・紹介・調達が新たなビジネスチャンスと考えられるようになった。
(3)同じ職場で働いていても所属企業や雇用身分の異なる労働者の処遇にはまったく視野の及ばない企業別労働組合の体質。
の3つの要因のそれぞれが相互に他を強めあう関係によってもたらされていると指摘しています。
 本書は、労働研究者の視点、そして、40年にわたって学生を育ててきた教育者の視点から、若者の労働の問題を取り上げた、読みやすい一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書で取り上げている「過労死110番」の電話相談の事例として、「外食」産業の30代の店長が、「失踪後、『一生寝たい』と書き残して自殺した例」が紹介されています。
 睡眠不足が続くと、24時間寝ていたい、と思うときはありますが、実際に24時間寝つづけるというのは難しいもので、大抵は起きるのが面倒で転寝を繰り返していることが多いのではないかと思います。
 自分の最大記録は、夕方7時に寝て目が覚めたら次の晩の7時だったということがありますが、うろ覚えながら、忌野清志郎は36時間眠り続けたことがあるらしいという話を聞いたことがあります。


■ どんな人にオススメ?

・働く若者の姿を概括したい人。


■ 関連しそうな本

 スチュアート タノック (著), 大石 徹 (翻訳) 『使い捨てられる若者たち―アメリカのフリーターと学生アルバイト』 2006年11月14日
 荒井 千暁 『こんな上司が部下を追いつめる―産業医のファイルから』 2006年11月15日
 玄田 有史 『仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在 中公文庫』 2005年07月20日
 矢幡 洋 『働こうとしない人たち - 拒絶性と自己愛性』 2005年10月23日
 本田 由紀 『若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて』 2006年03月02日
 宮本 みち子 『若者が『社会的弱者』に転落する』 2005年05月04日


■ 百夜百マンガ

かっこいいスキヤキ【かっこいいスキヤキ 】

 男のダンディズム(ダンドリズム?)を語らせたら右に出る人はいないこの人たち。フランスで宮崎駿と並んで絶賛されている谷口ジローと組んだ『孤独のグルメ』もプレミアが付いてますが、やっぱりこの絵がいい、という人も多いはずです。

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