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2007年3月16日 (金)

キャリア教育と就業支援

■ 書籍情報

キャリア教育と就業支援   【キャリア教育と就業支援】(#785)

  小杉 礼子, 堀有 喜衣 (編集)
  価格: ¥2415 (税込)
  勁草書房(2006/2/10)

キャリア教育と就業支援
 本書は、
(1)学校におけるキャリア教育の推進と実践的な職業能力形成の仕組みの導入
(2)ほとんどの都道府県が設置した「ジョブカフェ」での総合的な就業支援
を柱とする「新たな政策展開の最前線にある方々への情報提供を目的に編集」されたものであり、他の先進諸国に遅れてこの問題に取り組む我が国にとって重要な参考事例となるイギリス、アメリカ、ドイツ、sうぇーでんの4カ国での政策展開を紹介しているものです。
 序章「なぜ若者政策を国際比較するのか」では、フリーターやニート・失業者増加の背景にあるものとして、「産業界が正社員として雇用するのは、より高学歴で一定年齢以上の者」であり、「低学歴、10代の若者に対しては正社員としての雇用機会は著しく少なくなっており、そのために、正社員としての職を求め続ければ、失業し続けることになり、非正社員に雇用口を求めればフリーターとなり、さらに、求職活動をあきらめてしまえば、ニート状態に陥ることになる」と述べています。
 著者は、企業の新卒採用がこれだけ厳しくなった要因として、
(1)景気の低迷
(2)雇用慣行の変化
(3)産業構造の変化
の3点を指摘しています。
 第1章「イギリスのキャリア教育と就業支援」では、若年無業者対策として注目されているコネクションズ政策(Connexions)が、どのような背景と経緯で導入されたのか、その政策が学校内及び学校外で具体的にどのように営まれているかについてまとめています。
 また、1998年2月に教育雇用省が発表した緑書のなかで、16歳以降の学習システムの構築に向けた国家ビジョンとして、
(1)個々人の可能性を最大限に伸張するとともに、企業を繁栄させること。
(2)競争的環境を用意し、今後の経済の発展を十分に保障すること。
(3)家族との強い結びつきや、地域において社会への参加意欲を育むことにより、社会的統合を実現すること。
(4)学習における創造性、起業心、意欲を育むこと。
の4点が掲げられたことが述べられています。
 さらに、1998年にブレア政権が導入した「若年者向けニューディール政策」(NDYP)の経験において、
(1)若者が支援を利用するのを待つという姿勢を改め、支援を必要としている若者がどこにいるかを支援側が把握し、働きかけること。
(2)支援機関のネットワーク化を行い、就業だけではないさまざまな面からの包括的・統合的アプローチを行うこと。
(3)若者が無業の状態を経験する以前に無業化を予防すること。
(4)若者に利用される支援とするために若者の意見に基づいて支援を行うこと。
の4つの課題としてまとめられたことが述べられています。
 コネクションズの支援の特徴としては、
(1)地域における統合的・継続的サービスのために、進路追跡データベースを設置したこと。
(2)在学中からの早期の働きかけ。
(3)若者の関与の推進。
の3つの点が、これまでの若者支援政策と大きく異なると述べられています。
 著者は、イギリスの経験から得られるインプリケーションとして、
(1)若者の学校から職業への移行を支援するためのひとつの方策として、教育政策と労働政策との接合が図られた。
(2)義務教育に所属している段階において、学校及び学校外機関双方から働きかけている。
(3)キャリア形成支援のプログラムの目的の広さ。
(4)社会的に不利な立場に置かれた若者への配慮が常に意識されている。
の4点を挙げています。
 第2章「アメリカのキャリア教育と就業支援」では、「Twixters」と呼ばれる、「大学卒業後、年齢的には成人を迎えながら、職を転々と変え、結婚もせず、親と暮らし、享楽的とも思える生活を続ける若者たち」の記事を紹介したうえで、アメリカにおける移行支援制度・実践から得られる日本への示唆として、
(1)学校段階におけるキャリア教育・就業支援における中核的担当者の配置とその専門性
(2)職場における体験的学習の体系性と多様性
(3)ターゲット集団を特定した積極的キャリア教育と就業支援
(4)プログラム効果測定
の4点を指摘しています。
 第3章「ドイツのキャリア教育と就業支援」では、ドイツの教育・雇用システムの特色である、「青少年の7割程度が前期中等教育終了後に、定時性職業学校に通学しながら企業での職業訓練を行う『デュアルシステム』」について解説しています。このシステムでは、「企業が訓練生と一種の労働契約として訓練契約」を結び、「この契約を結ぶために訓練生希望者は企業の選抜を受け、『訓練席』を確保することが、『第一の労働市場』として機能」しており、デュアルシステムによる職業教育・訓練を試験に合格して修了することで、「『専門労働者』や『職人』といった職業資格を持った労働者」となる「第二の労働市場」が機能していることが解説されています。
 著者は、デュアルシステム型の職業訓練の課題として、
(1)国自身が例外としてではなく訓練席を提供するか、
(2)企業に訓練席を強制的に割り当てるか、
という政策を採らない限り、第一の労働市場での需要に対応することが困難であることを指摘しています。
 そして、企業を取り巻く環境が厳しくなり、企業が「職業訓練を外部へアウトソーシングし、労働者自身の負担による職業訓練を求めるようになる」点を日本とドイツに共通する課題として指摘しています。
 第4章「スウェーデンの若者政策」では、1990年代以降の若者政策の特徴として、1999年のユースレポートに掲げられた、
(1)自立:青年期の到達目標
(2)「現在及び将来において若者がメンバーとして社会に参画し影響力(発言する機会と決定への参画)を持つこと」
(3)「若者のコミットメント、創造性、批判的思考力を社会は資源として生かさなければならないこと」
の3つの大目標を紹介しています。
 第5章「日本の若年者就業支援策」では、新規学卒者の労働需給調整において、人材供給が一時的に集中するため、
(1)学校卒業時に失業状態になる者を出さず、
(2)企業が必要な人材を計画的に採用でき、
(3)就職活動ができるだけ学校教育の妨げにならないようにする、
という目標達成のため、効率的・効果的なシステムが必要となることなどが指摘されています。
 そして、20054年4月からスタートした、「企業の即戦力重視の姿勢の中で若者にとってのハンディキャップとなっている実務経験不足という問題に対応するため、座学と企業での実習を組み合わせる『日本版デュアルシステム』」について解説しています。
 終章「キャリア教育と就業支援」では、就業に関わる若者政策の課題として、
(1)多様な職業世界に若者を方向づける
(2)若者のエンプロイアビリティを高める
(3)職業生活への移行が難しい若者への対応
(4)若者を活性化する
(5)政策を評価し、有効性を高める
の5点を挙げています。
 本書は、若者の就業支援に携わる人にとっては基本的な考え方を整理させてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書は、独立行政法人労働政策研究・研修機構(特殊法人の実態を内部告発した『ホージンノススメ』の舞台となった組織。著者とは退職金やセクハラをめぐって裁判になり労働政策を専門とする研究機関でありながら、自ら一部敗訴するという失態を晒している)の研究報告書をベースにしているため、あくまで現状の労働政策を追認するという性格が強く、出版後2年持ったないうちに目新しさはなくなってしまっていますが、読みやすい資料を整理したものとしては便利な一冊ではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・若者向けの就労対策の現状を押さえたい人。


■ 関連しそうな本

 小杉 礼子 『フリーターという生き方』 2006年04月04日
 小杉 礼子 『フリーターという生き方』 2006年04月04日
 宮本 みち子 『若者が『社会的弱者』に転落する』 2005年05月04日
 本田 由紀 『若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて』 2006年03月02日
 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』 2006年02月14日
 熊沢 誠 『若者が働くとき―「使い捨てられ」も「燃えつき」もせず』 2007年01月10日


■ 百夜百マンガ

ジョーダンじゃないよ【ジョーダンじゃないよ 】

 マイケルの方ではなく、口の周りに泥棒ヒゲを生やしたビートたけしの顔を思い浮かべてしまうのは齢のせいでしょうか。

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