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2007年4月 3日 (火)

自治体の市場化テスト

■ 書籍情報

自治体の市場化テスト   【自治体の市場化テスト】(#803)

  稲沢 克祐
  価格: ¥2,520 (税込)
  学陽書房(2006/06)

 本書は、「官と民とを対等な立場で競争入札に参加させて、お互いの強みを競争させ、第三者の判断で公共サービスの担い手を決定する手法」である「市場化テスト」を、「行政改革の究極のツール」ととらえる視点に立ち、「市場化テストとは何か、自治体においては、それをどのように進めていけばよいか」を平易に書いたものです。
 第1章「市場化テスト入門」では、市場化テストの核心を、「現在、独占市場である公共サービス領域に対して、競争原理を導入することによって、公共サービスの質の向上とコストの低下を図ろうとするもの」であると述べています。
 そして、その前提として、
(1)自治体業務全体の棚卸作業
(2)棚卸した事務事業についての、適切な事務事業単位への整理
(3)事務事業の必要性を判断するための評価基準の設定と評価
の3つの前提が必要となるとしています。
 また、市場化テストに伴う課題として、官側が落札できない場合の職員の処遇の問題を取り上げ、「20年間に渡り官民競争入札を強制されていたイギリスの自治体では、落札したばかりの部局でさえ、次の入札のときを考えて、解雇されるのではないかという不安から、職員の指揮(モラール)が低下してしまったという報告が数多く寄せられ」、イギリスでは、「営業上と規則(TUPE)」という公務員の「権利」を保護する法整備が進められたことが解説されています。
 第2章「官製市場改革と市場化テスト法」では、「官製市場」を、「政府が独占的に事業を行うか、公的関与が著しく強い分野の総称」とした上で、
(1)国が自ら実施する事業
(2)自治体の類似の事業
(3)形式的には民間部門であるが、官に準じた規制の下に置かれた社会福祉法人などのいわゆる非営利法人が独占し、民間企業の参入が禁止・制約されている市場
などの具体例を挙げています。
 また、自治体にとって市場化テストの対象となる「特定公共サービス」について、「地方公共団体の窓口業務」を挙げ、「戸籍法等の特例によって、これまで民間事業者には行えなかった戸籍法等に基づく戸籍謄本等の交付の請求の受付及びその引渡しなどの業務の実施が、民間事業者にも可能となった」ことが述べられています。
 第3章「イギリスにおける自治体市場化テストの導入と限界」では、著者がイギリスに滞在していた1995~97年当時、数多くの自治体を訪問調査する中で、どの役所でもどの部署でも「CCT」)Compulsory Competitive Tendering:強制競争入札)を書かれた簿冊を目にしたという経験を語り、「この言葉に対する自治体職員の反応は決して好意的なものばかりではなく、むしろ圧倒的に廃止を願う声が多かった」と述べています。
 そして、イギリスにおける強制競争入札導入の重要なポイントとなる、イギリス特有の組織として、「ブルーカラー」的な仕事を担う「直営現業部門(Direct Labour Organisation: DLO)」の存在について解説しています。
 また、イギリスの自治体が、強制競争入札に対してとった手法として、
(1)官民競争入札を経ずにサービスを民間企業に委託してしまう方法・
(2)直営サービス部門を強化し民間企業に対抗できるようにすること。
(3)直営サービス部門を民間企業にしてしまうこと。
の3点を挙げています。
 第4章「イギリスにおける自治体市場化テストの評価とその後」では、イギリスの強制競争入札によって、「自治体側が落札できなかったり、あるいは、落札するために人員削減をしたりしたために、数多くの自治体職員が職を失っていった」ことを指摘し、「こうした急進性ゆえに強制競争入札は不人気であったのだが、労働党政権によって廃止されたから後も、官民競争入札は自発的に」続き、自治体の文化がマネジメント重視へ変容したことなどが述べられています。
 そして、強制競争入札の課題としては、
(1)自治体に調達方法を決定するのは、自治体の裁量によるものであり、当初から入札を強制されることは自治権の侵害に当たること。
(2)強制競争入札は、官民の公正な競争を確保しようとするあまり、制度が複雑化していったために入札や契約などに関する書類作成が大量に発生したことから、「繁文縟礼」へと後退していったこと。
(3)強制競争入札で自治体側が落札をしようと、人員を大幅に削減したり、勤務時間などの条件を厳しく設定したりしたことから、自治体職員の士気が落ちてしまったこと。また、落札できなかった場合には地方公務員の身分を失うことがほとんどのケースであり、士気の低下につながったこと。
の3点を挙げています。
 さらに、労働党政権後、強制競争入札制度の廃止にもかかわらず、「競争によるサービスの有効性・効率性の向上を評価した上で、廃止後も積極的に競争条件の中でサービス提供に当たることが望ましいと自治体に対して宣言」し、廃止後も外部委託化の割合を増やしている自治体も2割程度あり、自治体内業務に戻った自治体は3%程度にとどまっていることが述べられています。
 労働党政権が、強制競争入札制度の代替策として打ち出した「ベストバリュー」については、「公共サービスの質とコスト双方において、たゆまぬ向上を目指すことが新しい自治体の証であってベストバリューの目指すところ」であり、「(向上のために必要なことは)コミュニティ内のサービス・ユーザー等との良好な協働関係を保つこと、業績の向上は指標と達成目標により計測すること、サービス提供主体の選択肢を広くすること、常に透明な自治体であることに務めること」であると述べています。
 また、ベストバリューを、
(1)戦略経営体系の構築
(2)業績マネジメント体系と品質マネジメント体系の構築
(3)外部評価
(4)失策に対する国の介入権行使
の4つのフェーズによって攻勢されていることを解説しています。
 第5章「自治体市場化テストの進め方(1)――全体プロセスと対象業務の特定化――」では、市場化テストの導入プロセスを、
(1)対象を特定化するプロセス
(2)特定化された対象に関する官民競争入札を実施するプロセス
(3)サービス実施中及び実施後のモニタリング
の3段階に分けてそれぞれ解説しています。
 また、(1)に関しては、競争入札に入る前の可能性調査の留意点として、
(1)官民の予想コストの把握
(2)事業規模・事業形態の検討
の2点を挙げています。
 第6章「自治体市場化テストの進め方(2)――入札の準備(組織と会計)・入札実施のプロセス――」では、これまでの、
・仕様発注:何をどのようにするかという詳細な「仕様」を事前に決めておく
では、民間側の創意工夫を狭めてしまうため、
・性能発注:仕事の進め方は落札者に任せる
を前提として競争条件の設定が必要になることが解説されています。そして、そのために、官民比較可能な自治体会計の整備が必要であるとして、イギリスの自治体が、強制競争入札の導入を機に、1980年代に発生主義会計の導入を進めたことが述べられています。
 また、価格のみの競争では、「安かろう悪かろう」に陥りがちであるため、「まずは、非価格要素で入札者を3者程度に絞ってから、当該3者に対して価格競争を課す」という「2段階の封筒(doble envelope)」という提案が生まれたことが紹介されています。
 第7章「自治体市場化テストの進め方(3)――契約、実施中のモニタリング、サービス・レベル・アグリーメント――」では、市場化テストにおける契約の留意点として、
(1)サービスの質とモニタリングの方法を明記する:サービス水準合意書(SLA)
(2)リスク負担を明記する
(3)複数年契約である
の3点を挙げています。
 このうち、SLAについては、「サービスの提供者と委託者との間で、サービスの契約を締結する際に、提供するサービスの範囲・内容及び前提となる諸事項を踏まえた上で、サービスの品質に対する要求水準を規定するとともに、規定した内容が適性に実現されるための運営ルールを両者の合意として明文化したもの」であると定義されています。
 また、要求水準として書き込まれる中で重要な、「重要業績指標(KPI)」について、「提供されたサービスの品質を評価するために、重要な業務結果の状況を判断するための指標」であると定義しています。
 第8章「地方公務員の処遇」では、「市場化テストで自治体側が落札できずに、そのまま職員が自治体内に残った場合、結局、人件費は変化なく落札した民間企業への委託料だけが上乗せされる」という問題について、イギリスでも制度の根幹にかかわる部分であると述べ、イギリスでは、「労働者の雇用と労働条件を保護するための法制度」として、1981年に「営業譲渡規則(TUPE)」を制定したことが解説されています。
 営業譲渡規則の適用による問題点としては、転籍した職員には、従来の賃金水準が維持される一方、新規に民間企業に雇用された職員には別途契約で決定され、「同じ業務に従事しながら、賃金格差が生ずる」という「二層賃金制」が問題になることが解説されています。
 また、日本における地方公務員の処遇の選択肢として、
(1)他の部局に移動させる。
(2)事業を受託した民間企業等に転籍させる。
(3)解雇する。
の3点を示し、それぞれ解説しています。
 本書は、とくに自治体における市場化テストについて、分かりやすく解説した良書といえるでしょう。


■ 個人的な視点から

 著者に初めてお会いしたのは、まだ、著者が群馬県庁の東京事務所にいらっしゃったときでした。行政経営フォーラムの縁でお会いすることができましたが、英国勤務をきっかけに「一皮むけ」、本書のような業績を重ねられていることは、多くの地方公務員にとって励みになることだと思います。人生、何がきっかけになるか分かりません。


■ どんな人にオススメ?

・自治体にとっての「市場化テスト」の意味を捉えたい人。


■ 関連しそうな本

 市場化テスト研究会 (著), 本間 正明(監修・著) 『概説市場化テスト―官民競争時代の到来』 2005年10月07日
 内閣府公共サービス改革推進室 『よくわかる!公共サービス改革法(市場化テスト法)入門』 2006年10月05日
 内閣府公共サービス改革推進室 『詳解 公共サービス改革法―Q&A「市場化テスト」』 2006年12月04日
 南 学, 小島 卓弥 編著 『地方自治体の2007年問題-大量退職時代のアウトソーシング・市場化テスト-』 2005年08月22日
 八代 尚宏 (編集) 『「官製市場」改革』 2006年01月27日
 大住莊四郎 『ニュ-・パブリック・マネジメント  理念・ビジョン・戦略』 2005年01月23日


■ 百夜百マンガ

陽気なカモメ【陽気なカモメ 】

 スリ→手が早い→ボクサー、というのも安易だとは思いますが、「ダッシュ勝平」からの流れではやむなしか。

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