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2007年4月26日 (木)

分権化と地域経済

■ 書籍情報

分権化と地域経済   【分権化と地域経済】

  坂本 忠次, 遠藤 宏一, 重森 暁
  価格: ¥3150 (税込)
  ナカニシヤ出版(1999/11)

 本書は、「21世紀を展望した分権化と地域経済をめぐる諸問題を検討し、その自立と内発的発展のあり方を、諸外国の事例も踏まえて、それぞれの専門の分野から検討」したものです。
 第1章「地域経済と地域政策」では、「地域経済を、生きている人間の生活の場としての地域の経済と言う視角から、地域の自然環境、歴史・文化、地域社会、地域政治と結びついている経済としてとらえ、また、経済発展を導く独自の中間組織として把握」する「地域政治経済学」の立場から、地域経済の内発的発展の戦略を、
(1)単に市場経済で評価できるGDPの成長だけで判断せずに、地域の自然環境の保全・再生、地域文化・地域社会・地域政治の発展も含め、地域生活の総合的な発展を目標とする。
(2)受動的であれ発展の成果が教授できればよいと言う立場をとらず、外部の経済力と協力する場合も含め、地域の人々が協力して地域経済の発展を主導しているかどうか、地域経済の地域に根ざした主体的な発展、主体の地域民主主義を重視する。
(3)地域経済の全国的国際的位置を分析しながら、需要サイドと供給サイドの両面にわたって地域の産業発展を刺激する経済発展の単位あるいは中間組織(仕組み)としての地域経済の特徴に注目し、地域の競争優位の源泉をどこに見出して、どの分野で、どんな産業や事業を、いかにして起こしていくか、地域ごとに多様で独自の内発的発展の道を創造的に模索する。
の3点により定義しています。
 そして、「地域的な調整能力を発揮するには、画一的な中央集権的システムでは対応できず、規制緩和や地方自治制度が不可欠」であると指摘しています。
 また、地域社会・政治構造の背後にある地域経済システムについて、
(1)大企業の企業城下町になっているような単一産業都市や、少数の産地問屋が多数の織物業者を販売・金融・技術にわたって支配し、それぞれの傘下に収めているような繊維産業都市・
(2)企業が得意な専門化分野に特化し、地域に集積している補完的な専門家企業への外注に依存し、たえず相互に情報交換し相互学習の効果を生むような開かれた水平的な企業関係を大事にし、地域の諸組織とのネットワーク関係をも重視する地域的産業システムと呼ばれる地域構造。
の2つのタイプを想定しています。
 第3章「現代都市経済の視点」では、都市が備えるべき要件として、
(1)住みやすい都市
(2)働ける(職場のある)都市
(3)訪れてみたい都市
の「街づくり三原則」を提唱し、従来は現状追認的であった土地利用政策を、「都市をどう育てていくか」という積極的理念を実行することにある、としています。
 第4章「地域開発・地域づくりの開発効果評価論」では、地域開発の社会的・経済的効果の評価の構成要素として、
(1)「地域経済」効果
(2)社会的損失の計測
(3)財政バランス・シートの作成
の3点を挙げています。
 また、秋田県の「D製紙会社誘致反対訴訟」での証言をもとに、「社会的損失が地域経済効果を相殺する可能性も、定量的に計測できるものも包括しながら、主として開発の賛否に関わりなく地元住民が誰でも日常的な生活実感から常識的に認識できるような、定性的な予測を列挙するという形」で示し、
・悪臭・大気汚染、ダイオキシンの流出等による健康被害の可能性
・自然環境・景観の荒廃によるアメニティの喪失
などの他、社会的費用として、
(1)大量のパルプ廃液による海の汚染がもたらす漁業被害
(2)釣り船店、釣具店、民宿などの減収
(3)海水浴場の喪失に伴う一般住民の社会的費用と、海の家の経営等に与える「逸失利益」
(4)産業廃棄物処理費の増大、公害対策費の増大
などが予測できたと述べています。
 著者は、「これまでの地域開発研究の教訓」として、「内発的発展や地域づくり計画を構想する場合にも、各地域でこれまでの地域の歩みを振り返ってその決算書を作り、こうした歴史分析と現状把握によって、自らの地域個性と地域問題を発見することが不可欠の前提」であると述べています。
 第5章「都市における工業集積と地域政策」では、「日本の地域産業政策の特徴」を、「集権性と画一性」であるとし、「地方自治体は国の補助金や補助事業の書くと句を目指し、地域産業の実態と乖離した画一的な計画を立案し、その結果、政策の実効性を欠き、しばしば地域財政構造の悪化を招く結果になった」ことを指摘しています。
 また、地域への工業集積の契機を、
(1)地域固有の自然環境や資源を活用して地域固有の産業が生成発展するケース
(2)当該地域固有の需要に対応して工業が生成発展するケース
(3)既存企業に従業員として勤務しながら技能や経営管理ノウハウを習得し、それを基礎に独立創業するスピン・アウト型
(4)進出大企業や地場大企業の下請企業として創業し、親会社から技術移転を受けながら治術的蓄積をした技術移転型
(5)戦時期に空襲を避けて、大都市から経営者の出身地に疎開し、戦後そのまま定着した疎開型
の5つの類型に分けています。
 さらに、内発型発展をした工業都市の特徴として、
(1)経済的中枢管理機能が集積していること。
(2)立地企業の多様性。
(3)多様な関連産業が集積して社会的地域的分業体系、すなわち、水平的ネットワークが形成されていること。
(4)独自の販売チャンネルが形成され、販売活動を通じてユーザーや消費者ニーズがダイレクトに集積される仕組みが形成されていること。
(5)地域固有のノウハウの蓄積。
の5点を挙げています。
 著者は、「地域開発政策の転換は、地方自治体の産業政策の再構築を迫っている」として、従来、「産業政策は通産省が主導し、地方自治体はその政策的枠組みの中で地域産業政策を具体化してきた」が、これらは「地域における産業集積の実態に即した独自の地域産業政策」ではなく、今後は、「域外からの誘致政策で花k、既存の地域産業の集積を活用した産業政策の構築が求められる」としています。
 第6章「国土政策の転換と中山間地域経済」では、「中山間」という言葉について、1990年の『農林統計に用いる地域区分』が、「農業地域類型を都市的地域、平地農業地域、中間農業地域および山間農業地域の四つに分け」、「このうち中間農業地域と山間農業地域を合わせて中山間地域と呼称される場合が多い」ことが解説されています。
 第7章「分権化時代の地方公共交通の課題と展望」では、地域交通政策が、基本的な姿勢として、
(1)生活交通の充実
(2)交通容量の拡大から交通需要の管理への政策転換
(3)交通における社会的公正の確保
(4)交通行財政の制度改革
(5)交通政策策定・推進のための住民参加システムの創設
などが重要であり、「国民の交通憲章」を制定し、
(1)交通権の保障
(2)歩行権の保障
(3)人間と環境にやさしい交通
(4)平等で、安全で、文化的な交通
(5)高速自動車道路優先から生活向上と公共福祉の交通への転換
(6)道路特定財源の公共交通整備費への転換
(7)総合的な環境税の導入
(8)その他
の8点が、「明確に規定されるべきである」ことが述べられています。
 第8章「創造都市の経済と財政」では、「ポスト・フォーディズムのフレキシブル・スペシャリゼーション」として定義されるボローニャ市の都市産業システムの発展について、
(1)模倣と補完
(2)生産の分権化
(3)専門特化
の3つのメカニズムを指摘しています。
 そして、「ボローニャ経済の成功物語の要因」として、
(1)革新的創造的文化の集積を土台として大学や各種の技術学校を核とした技術やノウハウの普及、熟練労働者の育成によってフレキシブルな生産システムが形成される。
(2)地域内の多様な消費財生産を支える生産財(エンジニアリング)産業が発展することにより、域内産業連関の形成と顧客ニーズ対応型ノウハウの継承が行われる。
(3)各種協同組合、職人企業連合体などの非営利組織を通じたネットワークの形成が、「競争と協同」の理念を実現し、地域社会の連帯を強固なものとする。
(4)さらに零細企業を支えるERVETシステムなどの効果的な公共部門の支援システム産業政策が展開され産業社会のセーフティネットを形成する。
の4点を挙げています。
 第9章「韓国における都市化と都市構造」では、「韓国の国土構造は日本と類似しているだけでなく、開発政策でも大いに日本を参照し、各種制度も日本と似ているところが多い」とした上で、韓国の国土の都市構造が、「『先進国』的な特徴と発展途上国的特徴の両方を持っている」ことを指摘しています。
 第10章「英国の過疎地域の動向と過疎政策」では、「日本の過疎地、中山間地域に該当する栄光の条件不利地を取り上げ、地域・国土計画でこれがどう位置づけられ、対策がとられてきたか」を論じています。
 そして、
(1)過疎地では第1次、第2次産業の大きな比重低下に第3次産業が取って代わっていること
(2)その中でも観光、レクリエーション、ツーリズムが目立つこと
(3)農林業の従業者比重は小さくなっているが、地域保全の面から従前にもまして重要となっていること
などが指摘されています。
 第11章「地方分権化と地方自治体の財政政策」では、「今日の財政改革のあり方を検討しつつ、今後の分権型社会の実現に向けて望まれる政府間財政関係を中心とした改革方向と、新たな地方行財政ステムのあり方」について論じています。
 著者は、「21世紀に向けた地方財政自主権の確立のためにどのような方策が望まれているか」として、
(1)地方財政危機の克服と分権化時代の地域経済の再生に向けて、日本経済と地域経済の回復・再生、住民参画と地域文化の活性化を含む内発的発展が必要である。
(2)地方財政自主権の確立と住民自治のあり方について、地方分権一括法案の個々の中身については問題点が残されている。
(3)地方財政県の確立と地方税源充実のための方策が望まれる。
(4)地方財政における大型プロジェクトの企画、策定、実施への住民参加の制度化が必要となる。
(5)従来の公共事業偏重型財政から真の福祉型財政への転換が必要である。
の5点を挙げています。
 第12章「大規模プロジェクトと地方行財政」では、日本版PFIの特徴として、「目先の景気対策としての色合いが強いこと」などを指摘しています。
 第13章「災害問題と地方行財政」では、「災害の都市化」として、
(1)開発成長主義の都市形成は、環境やアメニティを破壊し、地域の共同体の崩壊と安全の軽視を生み、都市問題を加速する。
(2)住民の棲み分けが増え、災害の階層性が構造化する。
(3)社会資本の破損や機能マヒによって、住民の生活困難が深刻化する。
(4)被害が複合化し、災害が長期化する傾向が強まる。
(5)都市化の進展は地域のコミュニティの崩壊と弱体化を生み、地域の災害対応力を低下させる。
の5点を指摘しています。
 また、日本の災害対策制度の特徴として、
(1)災害対策における国の責任のあいまいさ。
(2)被災者個人の対策は不十分で、人間の尊厳や生存権などの基本的人権を保障する観点に乏しい。
(3)防災予算の優先順位が低い。
(4)長期化災害に対する防災対策の欠落。
の4点を挙げています。
 さらに、阪神大震災によって鮮明化した災害対策の地方行財政システムの改革課題として、
(1)災害対策における国の責任を明確にする。
(2)増加する災害対策予算を予防対策にシフトさせ、かつ事業の計画と執行は、地方自治の理念に基づき自治体と住民を主体とすることを原則とすべき。
(3)災害発生後の応急対策は、救助内容の拡充、国の財政支援の強化、運用の柔軟性を保障する。
(4)災害復旧にかかる国庫補助金の産業基盤優先的性格を早急に改め、かつ中長期的には、より分権型の財政構造に改革する。
(5)災害復興については、全国レベルの恒久的な災害復旧基金を予め制度化しておく。
の5点を指摘しています。
 第16章「地方分権への税財源構想」では、「税財源の地方以上と自治体財政自主権の強化を図るとともに、公共土木事業にかんする国庫補助負担金制度の廃止を実現して、公共投資依存体質=土建国家体質からの脱却を図る」必要性を述べた上で、著者がかねてから提案してきた改革案として、
(1)所得税と住民税を共通税化し、地方自治体が課税・徴収することとする。
(2)課税ベースや税率の決定については、当初は国と地方による共同決定方式によるが、次第に地方に権限を移す。
(3)共通税の配分は、地方6対国4の割合とし、地方自治体から国に逆配分する。
(4)法人住民税についてはすべて国税化し、その7割を地方交付税の財源として地方に再配分する。ただし、法人事業税については、自治体サービスに対する応益課税として存続させ、何らかの外形標準課税化を図る。
の4点を挙げています。
 本書は、国のあるべき姿という大所高所から論じる分権論が多い中で、地域経済という観点から分権化を論じたボトムアップな一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書の出版元であるナカニシヤ出版には、どうも心理学に強い、というイメージがあって行財政関係の本は珍しい気がするんですが、単にこちらの本のセレクションが偏っているのか、出版社の傾向が偏っているんでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・地域経済の視点から分権のあり方を考えたい人。


■ 関連しそうな本

 西尾 勝 『未完の分権改革―霞が関官僚と格闘した1300日』 2007年04月09日
 石見 豊 『戦後日本の地方分権―その論議を中心に』 2007年02月09日
 竹前 栄治, 中村 隆英, 天川 晃 『GHQ日本占領史 (13)地方自治改革』 2007年01月19日
 松本 英昭 『新地方自治制度詳解』 2007年03月12日
 持田 信樹 『地方分権と財政調整制度―改革の国際的潮流』 2007年03月14日
 赤井 伸郎, 山下 耕治, 佐藤 主光 『地方交付税の経済学―理論・実証に基づく改革』 2005年01月27日


■ 百夜百マンガ

暴力の都【暴力の都 】

 当時、各局が夜のニュース番組に個性派キャスターを登板させて視聴率戦争をしていました。そんな世相を反映した作品でしたが、若干作画の力不足というか平板な演出の感じがしました。

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