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2007年4月13日 (金)

日本型行政委員会制度の形成―組織と制度の行政史

■ 書籍情報

日本型行政委員会制度の形成―組織と制度の行政史   【日本型行政委員会制度の形成―組織と制度の行政史】(#813)

  伊藤 正次
  価格: ¥7140 (税込)
  東京大学出版会(2003/07)

 本書は、「アメリカ型の独立規制委員会を含む行政委員会という制度が、第2次世界大戦敗戦後の占領改革を通じて日本にもたらされ、中央政府レヴェルにおいては戦後50年以上の歳月を経てその過半が消滅したとはいえ、今なお複数の行政委員会が存続し、活動している」という事実に着目し、日本における行政委員会制度の受容・形成過程を分析しているものです。
 著者は、本書の課題として、
(1)さまざまな合議制行政組織の設立事例を分析することを通じて、既存研究の対象範囲を大幅に拡張すること。
(2)アメリカから伝来した行政委員会制度が日本において受容される過程に関し、新たな視座を提示すること。
の2点を挙げています。
 第1章「占領初期における合議制組織の誕生」では、「占領改革の初案段階において、日本の『非民主的』要素を除去し、『民主化』政策の審議・立案を行う主体として、多数の合議制組織が活用」され、その設置形式は多様であり、組織の正確にも幅があったが、「いずれも、その所期の目的を達成すれば活動を修了することを予定」された「臨時的な組織」であった点で共通しているが、一方で、「政策体系の『民主化』を受けて、各種の行政分野を担当する常設的な行政組織として、多くの合議制組織が創設」された(公正取引委員会、証券取引委員会)が、「占領初期の段階では、これらの組織が必ずしも一括して『行政委員会』と認識されていたわけではない」と述べられています。
 著者は、これらの組織体をそれぞれの設立経緯に基づき、
(1)既設の官庁の解体に伴って設置された合議制行政組織:内務省→地方財政委員会・全国選挙管理委員会・国家公安委員会
(2)明らかにアメリカ型の独立規制委員会をモデルとして設置された合議制行政組織:公正取引委員会、証券取引委員会
(3)総司令部の直接の指示を受けることなく、日本側が自発的に設立した合議制組織、あるいは、総司令部の示唆を間接的に受けながらもアメリカ型の独立規制委員会とは異なる性格を持つ合議制行政組織:各種労働委員会、統計委員会、司法試験管理委員会、外国為替管理委員会、外資委員会
の3つの類型に分類しています。
 これらのうち、国家公安委員会については、1947年のマッカーサー書簡によって、突如として、「警察設置自治体・都道府県・中央の三層に『委員会』を設置する構想」が提示されたことに関して、国家公安委員会が、「民間人委員で構成される合議制組織として設置」されることになり、その組織形態は、「図らずもアメリカ型の独立規制委員会に近く、地方財政委員会や全国選挙管理委員会と比べ、組織としての性格」が明瞭であったが、「ここに成立した新たな警察制度は、人口5000人以上の自治体に置かれる自治体警察(自治警)と、それ以外の地域を担当する国家地方警察(国警)が並立し、これに公安委員会制度が接木されるという、きわめて複雑な構造をもつ」ことになり、「国警に対するレイマン・コントロール(素人統制)を実現するべく設立された国家公安委員会に対しては、警察の実情を知らない有識者委員による合議対が警察行政の責任を負うことができるのか、また、合議制組織では捜査に必要となる迅速な意思決定に支障を来たすのではないか、といった疑問が提起」されたことが述べられています。
 第2章「国家行政組織法による組織の同型化」では、国家行政組織法制定の意味を、「行政組織法政における戦前・戦後の連続と断絶という観点から眺めた場合に浮かび上がる論点」を提示した上で、行政委員会制度に関して、
(1)新憲法の制定に伴う統治システムの転換をもってしても、後に「行政委員会」として同型化される合議制行政組織を法律に基づいて設置しなければならないという考え方が、当然に導き出されるわけではない。
(2)アメリカから「移植」された「委員会」という合議制行政組織の方が、ドイツ法学に起源をもつといわれる行政官庁理論の概念構成と親和性が高いという逆説を指摘できる。
(3)国家行政組織法による組織の同型化という観点から見れば、各種の合議制組織を「国の行政機関」としての「委員会」に認定するに際しては、さまざまな困難が存在した。
等の論点を提示し、「戦後の『内閣法・国家行政組織法・設置法体制』は、国家行政組織法を挟み込むことによってそれ自体が法理論上の不整合性を内包しているのみならず、『行政委員会制度』という下位制度の存在によって、さまざまな選択と解釈の予知を野起こした行政組織法政であると捉えることができる」と指摘しています。
 また、各種の合議制組織が、「行政官庁法においては一括して『所要の部局及び機関』と捉えられ、個々の実情に応じて法律設置とするか政令設置とするかの選択が許容されていた」が、「国家行政組織法案の立案過程を通じて、『国の行政機関』としての『委員会』と、諮問的・調査的機能を担う『審議会等』を峻別し、全社の設置は法律事項、後者の設置は政令事項とする方針が固められていった」ことが述べられています。
 さらに、国家行政組織法の包括的な適用を前提に、
・「行政委員会制度」の適用範囲
・「行政委員会」の組織的画一性
の2つの軸に、合議制組織の同型化の戦略を、
(1)限定的画一化:法制局や行政調査部・行政管理庁が選好する戦略であって、「行政委員会制度」の適用範囲をできるだけ狭く設定し、「行政委員会」に該当する組織を限定すると同時に、おのおのの「行政委員会」の組織的画一性を高めようとする戦略。
(2)包括的画一化:「行政委員会制度」の適用範囲を広くとりながら、同時にその内部における組織的な画一性を確保しようとする戦略。
(3)限定的多様化:「行政委員会制度」の適用範囲を限定的に捉えるとともに、その内部の組織的な画一性に関してはそれほどの関心を払わない戦略。
(4)包括的多様化:「行政委員会制度」の適用範囲を広く介しながら、そこに含まれる個別の組織について、過度の統一性・体系性を追及することはしない。
の4つの類型に整理したうえで、
(5)多型化の戦略:そもそも国家行政組織法の包括的な適用に異議を唱え、「内閣所轄合議体制度」や「法定外合議体制度」等の適用範囲を拡大したり、新たな行政組織制度を創設することにより、行政組織制度自体の多元化を促進する戦略。
の5つの戦略を挙げ、各種の合議制組織の側が採用する対応戦略について論じています。
 著者は、「国家行政組織法の制定に伴う『内閣法・国家行政組織法・設置法体制』の確立と『御製委員会制度』の成立は、各種合議制組織の『行政委員会』かを当然に帰結したわけではない」ことを指摘し、「『行政委員会制度』の適用範囲をできるだけ限定化する方針を明らかにしていた行政調査部・行政管理庁に対抗し、『行政委員会』を設立するには、各章との権限関係を調整し、関係アクターの政治的な指示を調達した上で、各種作用法令あるいは各省設置法の改正を行わなければならなかった」と述べています。
 第3章「占領終結に伴う組織の改廃と制度の存続」では、旧内務省地方局財政課の業務を引き継ぐ臨時の合議制組織として設立された地方財政委員会が、地方自治長に再編されいったん廃止された後に、1949年のシャウプ勧告に基づいて、1950年に再び地方財政委員会と称する組織が設置されたことについて、この第2次地方財政委員会の特徴として、
(1)シャウプ勧告に基づいて創設された地方財政平衡交付金制度の運用・執行機関と位置づけられ、単なる審議機関ではなく、執行機関として、中央地方の財政調整をめぐる政治過程の中核に位置付けられた。
(2)第1次地方財政委員会が、国務大臣を委員長に、国会議員を委員に含むという変則性を備えていたのに対し、第2次地方財政委員会は、民間有識者2名及び地方団体推薦3名の計5名の委員で構成され、委員長は委員の互選とされた。
(3)第1次委員会が内閣総理大臣の「管理」に属する合議制組織であったが、第2次委員会は、国家行政組織法第3条第2項に基づく「委員会」として創設された。
の3つの異なる点を挙げ、「『行政委員会』として高度の独立性が与えられた」が、「その実際の活動は、周知のように、激しい対立と混乱に彩られることになった」と述べています。
 著者は、地方財政委員会が、「行政委員会という組織形態をとっていたがゆえに、平衡交付金の決定に際して大蔵省に対する敗北を続けたとみなし、地方財政平衡交付金制度の失敗を、地財委の組織形態に帰する議論」があるのに対し、「むしろ、ドッジ・ラインによる均衡財政の要請と、毎年度の交付金総額の決定に際して膨大な交渉コストが生じるという地方財政平衡交付金制度自体が孕む問題点に起因している」と指摘しています。
 また、占領終結に伴う行政委員会の改廃にもかかわらず、「機能面における『行政委員会制度』の『限定的画一化』は、完全には成し遂げられなかった」ばかりか、存続した「行政委員会」は、「むしろ占領終結後の政治情勢を反映して、組織の『多様化』が進行していった」と述べています。
 さらに、警察制度改革に関して、占領期の警察制度が、
(1)人員、装備等の決定的な不足
(2)「分権化」の帰着としての国家地方警察と自治体警察の分立体制が、治安対策を強化する上での障害となっていると認識された。
(3)「民主化」を目的に採用された公安委員会制度が、政権担当者にとって、エージェンシー・コストを発生させるしくみとして認識された。
の3点の課題を抱えていたことが述べられています。
 そして、1953年に閣議決定された「警察制度改正要綱」が、
(1)「総理府の外局」として国務大臣を長官とする「警察庁」(仮称)の設置
(2)国家公安委員会を警察庁長官の「監視助言」機関としての「国家考案監理会」に改組すること
(3)国警・自治警をともに廃止し、警察本部・公安委員会を都道府県単位に設置するとともに、警視以上の警察本部職員を国家公務員とすること。
を骨子としていたことなどが解説されています。
 終章「総括と含意」では、「日本の行政委員会制度は、日本国憲法が定める議院内閣制という統治システムを前提としながら、『内閣法・国家行政組織法・設置法体制』という行政組織法政の確立があって始めて、その存立基盤を獲得するとともに、定着を遂げることに成功した」と述べた上で、
(1)日本の「行政委員会」の組織的起源は占領期に創設された各種の合議制組織にまで遡ることができるが、これらの組織は、必ずしもアメリカの独立規制委員会を明示的なモデルとしていたわけではなく、日本の行政組織と政策体系の「民主化」を目的としながら、多様な背景の基に設立された。
(2)神経NPOウの制定に伴い、行政組織法政の体系化に向けた動きが始まり、各種合議制組織の統治システム内部における位置づけが問い直されたことによって、行政組織制度としての「行政委員会制度」が成立した。
(3)23に及ぶ多様な「行政委員会」を包括するにいたった日本の「行政委員会制度」は、占領終結に伴って大きな転機を経験した。
の諸段階に言及しています。
 著者は、日本における「行政委員会制度」が、「国家行政組織法の制定・施行を出発点として形成され、鳩山内閣期に確立した後、『55年体制』下で比較的安定的に推移してきたと特徴づけることができる」と述べ、そこに確立した「日本型行政委員会制度」の構造的な特質を、
(1)事実上、国家行政組織法別表第1によって担保された行政組織制度である。
(2)日本型行政委員会制度が最終的に「限定的多様化」を遂げた要因には、戦後日本における行政組織の決定制度が、国会の関与を大きく許容するという「民主性」を備えていた点を挙げなければならない。
(3)このような行政組織の法定主義は、日本型行政委員会制度の変革を抑制する方向にも作用した。
の3点挙げています。
 本書は、日本における行政委員会制度の成り立ちを理解する上で、大きな示唆を与えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書の分析の対象になっているのは国レベルの行政委員会制度ですが、都道府県にも市町村にも行政委員会制度はいくつもあります。有名どころで予算の規模も大きい「教育委員会」はよく知られていますが、この他にも都道府県レベルでは、「人事委員会」、「選挙管理委員会」、「労働委員会」、「海区調整委員会」、「内水面漁業調整委員会」、「収用委員会」など様々な行政委員会や監査委員などがあります。しかも、この中でも、「合議制」ということで組織のトップとしての「委員長」を設けないものがあったり、任命権者が知事であるものが含まれていたりとその制度は複雑です。ぜひ、続編として、地方における行政委員会制度の研究書も出してほしいと思います。


■ どんな人にオススメ?

・「行政委員会」って何?という人。


■ 関連しそうな本

 川手 摂 『戦後日本の公務員制度史 「キャリア」システムの成立と展開』 2005年12月29日
 早川 征一郎 『国家公務員の昇進・キャリア形成』 2006年04月20日
 稲継 裕昭 『人事・給与と地方自治』 2005年12月09日
 稲継 裕昭 『日本の官僚人事システム』 2005年02月10日
 岡田 彰 『現代日本官僚制の成立―戦後占領期における行政制度の再編成』 2007年02月26日
 天川 晃 『GHQ日本占領史 (12) 公務員制度の改革』 2007年01月18日


■ 百夜百マンガ

BASTARD【BASTARD 】

 そういえばこの作品はいつから連載されてたんでしょうか。ジャンプの中では異質な存在でしたが、異質なままでいるのが「才能」なのか?

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