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2007年4月 6日 (金)

間違いだらけの公務員制度改革―なぜ成果主義が貫けないのか

■ 書籍情報

間違いだらけの公務員制度改革―なぜ成果主義が貫けないのか   【間違いだらけの公務員制度改革―なぜ成果主義が貫けないのか】(#806)

  中野 雅至
  価格: ¥1890 (税込)
  日本経済新聞社(2006/09)

 本書は、厚生労働省大臣官房国際課でILO(国際労働機関)担当の課長補佐として公務員制度改革に携わった経験を持つ著者が、公務員制度とこれまでの「改革」についての問題点をまとめ、「政官分離・権限委譲・成果主義の三位一体公務員制度改革」の必要性を説いたものです。
 序章「小泉内閣の下でさえ手をつけられていない本質的な公務員制度改革」では、政府が公務員制度の抜本的な改革案を示すことができない理由として、
(1)現在の公務員制度が、相応に優れた制度である。
(2)関係者間のコンセンサスを軸に何十年もかけて構築してきた制度であるため、相応に均衡の取れた制度になっている。
(3)日本の公務員、特にキャリア官僚を中心に各府省が大きな権限・威信を持って社会の様々な利害調整を行い、国家の方向性を示してきた。
(4)改革のモデルがなく、アングロサクソン諸国のNPM型公務員制度改革の適用は疑問視されている。
(5)行財政システムの課題は、公務員制度改革だけでは解決を期待できない。
の5点を挙げ、その結果、「現状の公務員制度を維持しながら、人件費・定員数・天下りなどの問題が起きるたびに個別に対処するという方向を選択せざるを得なくなっている」と指摘しています。
 その上で、現在の公務員制度の改革の方向として、
(1)「官の守備範囲」を明確にする。
(2)目指すべき公務員像を明らかにする(公務員の政策決定過程への官淀がメルクマールの1つになる)。
(3)公務員という身分がないとできない仕事を絞り込んでいく必要がある。
(4)中央と地方の役割分担を明確にしなければ、それぞれの仕事の中身や責任も明確にならない。
の4点を明確にした上で、公務員制度改革を実施すべきであると主張し、
(1)政治システムをはじめとした公務員制度以外の分野の改革
(2)公務員制度と他の制度の接点(政-官、中央-地方、官-準官)の改革
(3)狭い意味での公務員制度改革
の3つの分野で制度改革を行うべきであると述べています。
 第1章「誰も知らない素顔の公務員制度」では、「人事院の権限が強すぎるために、各府省が自分達の思い通りに柔軟・機動的で戦略的な人事管理をできない」とした政府の考え方の理由として、
(1)職階制の未実施と人事院規則への著しい依存
(2)級別定数管理で実現できない「信賞必罰人事」
の2点を挙げています。
 そして、公務員自身から見た公務員制度の問題点として、本省勤務者に関して、
(1)改革を妨げるセクショナリズムの横行
(2)頭脳・ビジョンなき政治への従属
(3)知的業務の現象と雑務の増加
の3点を挙げ、出先機関の若手職員から頻繁に聞かれる苦情としては、「過度の年功序列型人事・給与」を挙げています。
 第2章「同床異夢の政労使」では、平成13年に政府が示した「公務員制度改革大綱」について、その主なメニューとして、
(1)政府全体としての適切な人事・組織マネジメントの実現
(2)能力等級制度を中心とした新たな公務員制度
(3)改革案の実現に向けた今後の取り組み
の3点を挙げた上で、対抗に見られる政府の問題意識が、「公務員制度の見直しに当たっては、公務に求められる専門性、中立性、能率性、継続・安定性の確保に留意しつつ、政府のパフォーマンスを飛躍的に高めることを目指し、行政ニーズに即応した人材を確保し、公務員が互いに競い合う中で持てる力を国民のために最大限発揮し得うる環境制を整備するとともに、その時々で最適な組織編成を機動的・弾力的に行うことができるようにすることが必要である」という表現に集約されていると述べています。
 その上で、政府案が、
(1)労働基本権の制約や採用試験区分を現状維持としたこと
(2)能力等級制度の中核となる「職務能力遂行基準」が最後まで曖昧だったこと
(3)公務員制度改革関連法案が依然として国会へ未提出であること
(4)労使のコンセンサスを始めとして与党内部のコンセンサスさえ築けなかったこと
の4点で、欠陥があったという評価は避けられないとしながらも、
(1)各大臣を人事管理権ジャとして、現場に権限委譲するNPM型の公務員制度改革を打ち出したこと。
(2)年功序列的で硬直的な人事・組織運営を変えるために能力等級制度という新しい制度を打ち出したこと。
の2点において評価されるべき側面を持っていると述べています。
 また、「労」の問題意識の代表としての、2004年6月に出された「連合」の「公務員制度改革に関する研究会」の「公務員制度改革に関する提言」(中間報告)や、2005年4月に日本経団連が発表した「さらなる行政改革の推進に向けて――国家公務員制度改革を中心に」を取り上げ、後者については、「民間企業の現状を踏まえた上で間のあり方を問い直すという意味で新鮮な内容になっている」と評しています。
 第3章「小泉内閣で議論されなかった公務員制度改革の論点」では、政労使3社で最も食い違いがある、「香味運制度全体を集権的に運営していくのか、分権的に運営していくのか」という問題に関して、分権的管理の問題点として、
(1)ポストのインフレ化や公務員定数の激増による人件費コスト増大の可能性
(2)各省大臣を人事管理権者にすることの是非
の2点を指摘し、他方、集権的管理については、集権的管理として想定されるものが、
(1)現状の人事院・総務省を主体とした集権的管理
(2)労使が提案している内閣を主体とした集権的管理
の2つあることを明確にすべきであるとし、日本の肥大化した行政システムを、中央集権的な管理手法で、「どれだけ強権を発動しても」「どれだけ優秀な政治任用者やキャリア官僚を使っても」国家の全体像を把握しマネジメントすることはできないのではないか、と指摘しています。
 また、政労使の改革案が「能力に基づくトータル人事システム」の構築では共通しているが、能力を中心にした人事システムの構築の難しさとして、
(1)能力を正確に定義できるのか。
(2)各自の能力が曖昧である上、チームで仕事をする公務部門において職員個々人の能力評価が可能なのか。
(3)現在の管理職が、部下の能力を適性に評価できる評価者としての力量を有しているか。
(4)能力評価の基準は労使交渉事項か管理運営事項か。
の4点を指摘しています。
 さらに、日本経団連が主張している官民イコールフッティングの導入に関して、「官民融合」が、
(1)キャリア官僚を中心とした企画立案部門で働く公務員の官民融合→「キャリア官僚のビジネスマン化」
(2)政策の執行部門での官民融合→「ノンキャリア官僚の身分転換」
の2つのレベルでの官民融合を考える必要があると指摘しています。
 幹部公務員に関しては、そのあり方をめぐり、
(1)任用を中心に、(1)幹部公務員は内閣任用か各省大臣任用か、(2)幹部公務員にどこまで政治任用を認めるか。
(2)幹部公務員の範囲
(3)幹部公務員の処遇
(4)幹部公務員の役割およびその自立性
(5)幹部公務員の育成方法
等の論点があることを挙げ、それぞれについて解説しています。その上で、OECD諸国における先進各国の業績旧制度の比較調査結果から、「業績給制度は金銭面のインセンティブとしてはあまり機能していない」と総括し、
(1)個人別業績給制度は機能しないため、グループおよびチーム重視型の業績給制度に移行している。
(2)業績基準についてはアウトプット、コンピテンシー、対人スキル・マネジメントスキル、価値・規律遵守の4つの項目を中心にしている。
(3)成績昇給制度は稀であり多くの国は賞与のみに依拠している。
(4)業績給の金銭的側面でのインセンティブ効果は過大評価されてきた。
等の特徴を挙げた上で、
(1)業績給制度の導入に当たっては職員との協議が必要である。
(2)制度設計の基礎は標準職務基準よりもむしろ、少なくともその一部を目標設定に置くことが重要である。
(3)「平均」成績者の評点について詳細な区分を設けず、単純な業績評価の枠組みを開発する。
(4)詳細な制度設計には、どれだけ詳細な評点制度を作ってもすべての要素をカバーできず、十分良好な業績をあげている大半の職員よりは極端な業績(最優秀か不良)の職員の方がはるかに評価しやすいという2つのマイナス面がある。
(5)業績給制度は確固とした目標設定プロセスに重点をおくべきである。
の5点の教訓を引き出しています。
 論点となっている公務員の身分保障については、
(1)身分が保障されているからこそ、安心して働くのであり、公務能率も上がる。
(2)身分が保障されているために既得権意識や安住意識が芽生え、組織の変化を嫌うという体質を生んでおり、結果として公務能率も下がっている。
の2つの考えがあることを挙げたうえで、労働三権が付与されたとしても、労働三件が強くなるどころか、その役割が中に浮く可能性があることを指摘しています。
 第4章「諸外国の公務員制度改革」では、諸外国の公務員制度改革に、「民間企業の行動原理を行政機関にも導入して行政の効率化を図ろう」というNPM(New Public Management)の要素が共通していることを挙げた上で、その要素が露骨に当てはまるイギリスの公務員制度改革を参考事例に取り上げています。
 そして、権限委譲によって希薄になりがちな公務員制度に一体性を持たせる取り組みの一つである「上級公務員(Senior Civil Service)」制度について、各省庁およびエージェンシーが人事管理に責任を持ち、その育成制度として「ファースト・ストリーム(Fast Stream)制度」という「一般公募者や内部から推薦された者に公開競争試験を実施し、その試験に合格した者を各省庁の行政官、欧州関係職員、エコノミスト、統計専門家、科学専門化、工学専門家に任用するという制度」があることを解説しています。
 著者は、イギリスの公務員制度改革の特徴として、
(1)権限移譲を中心としたNPM型の公務員制度改革を実施する一方で上級公務員制度を創設することで、公務員制度の一体性を維持するための仕組みを導入している。
(2)各省庁・エージェンシーに給与決定方法の権限などを委譲する一方で、大蔵省の財政統制を強化しており、実際には各省庁等にそれほど権限が生じていない。
(3)かつてのような模範的効用主として振舞うわけではない一方で、女性や少数民族出身者、ハンディキャップのある人の積極的雇用などによって補おうとしている。
の3点を挙げ、「このような愛矛盾するいくつもの側面を持った公務員制度改革は、公務員のインセンティブを刺激したり、財政赤字の削減に寄与するという利点の持っている」一方で、
(1)労使交渉のコストの増大
(2)分権されても給与財源面での余裕がないため、機関ごとに大きな差がない。
(3)給与改善原資が少ないため大きなインセンティブにならない。
(4)業績評価の方法が分からず、目標達成のプレッシャーを感じる職員がいる。
(5)公務員魅力が低下している。
等の問題点を指摘しています。
 第5章「政官分離・権限委譲・成果主義の三位一体公務員制度改革」では、公務員制度改革のポイントとして、冒頭の4つの視点を踏まえた上で、
(1)公務員制度改革を実施する前に、政治システムをはじめとして公務員制度以外のシステムの改革をさらに進める必要がある。
(2)政官関係や中央―地方関係など周辺制度との接点を改革しないと、公務員制度改革には何の意味もなくなる。
(3)前述した各論を中心とした公務員制度改革を行うこと。
の3分野での改革の実施を提唱しています。
 そして、「目指すべき公務員像」を、「政策決定過程に深く組み込まれた公務員」が求められていないとする理由として、
(1)現役官僚の多くはこれ以上政治の代役を行うことに嫌気が差している。
(2)公務員が政策決定過程に深く組み込まれる限り、中央官庁が利益共同体化することは避けられない。
(3)公務員が深く政策決定過程に関わり歪んだプライドを持ち続ける限り、前例の踏襲ばかりが繰り返され、政策転換などできなくなる。
の3点を挙げています。
 また、「接点改革」に関して、
(1)政官関係の完全分離――「政官分離法」の制定
(2)道州制の導入で中央と地方の権限・責任・役割を明確化
(3)「官―準官」関係を整理し、特殊法人の長は「公募制」を原則に
(4)規律ある官民関係
の4点を挙げています。
 さらに、具体的な公務員制度改革として、
(1)集権的管理か権限委譲による分権的管理か→分権的管理の実現
(2)公務員制度の中心に何を置くのか→個々の権限・役割・責任の明確化
(3)官民関係→「回転扉型」の労働市場の育成
(4)任用の基本原則→能力評価を軸にした任用
(5)幹部公務員の在り方→政治任用の積極的活用など
(6)天下り問題→関連法人での公募制原則
(7)給与制度→バンド制給与制度の導入
(8)人事評価制度→公務員制度改革の切り札
(9)分限及び身分保障→「公務員もクビになる」という危機と自覚を促す
(10)人材育成及び能力開発→優秀な人材を惹きつける「最終兵器」
(11)労使関係の在り方→現実的対応を
(12)中央人事機関の在り方→公務員制度担当長の新設
等の各論点について提言しています。
 本書は、官僚及び研究者として、公務員制度をその内側と外側の両方から見ることができた著者ならではの、本質的かつ現実的な問題提起と具体的な提言が込められた一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書の著者による同テーマの前著『はめられた公務員』が、光文社ペーパーバックという読みづらい体裁(文章の途中に唐突に自動翻訳したような英単語が散りばめられ気持ち悪い)であった上、とにかく派手に刺激的にしたがる編集のせいなのか当たりが強く品のない物言いが目についたのに対し、さすがは「天下の日経」(「天下りの日経」という意味ではない)だけあって本書は上品で読みやすい内容になっています。
 城繁幸著『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』でも同じことがありましたが、光文社ペーパーバックで常識を疑うような感情的な物言いや破綻しているほど攻撃的な書き振りが目についた人も、他の文章を読んでみると相当真っ当なことを言っていることが少なくありません。むしろ、真っ当すぎてつまらないと考える編集者が光文社にいて、文章やロジックを「粉飾」している可能性も疑われます。その意味では本書は、『はめられた公務員』で傷つけられた著者の品格や信用を取り戻すためのリベンジの一冊かもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・現実的な公務員制度改革の方向を模索している人。


■ 関連しそうな本

 中野 雅至 『はめられた公務員』 2005年05月26日
 城 繁幸 『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』
 城 繁幸 『日本型「成果主義」の可能性』 2005年12月08日
 山中 俊之 『公務員人事の研究―非効率部門脱却の処方箋』 2006年06月08日
 テリー伊藤 『お笑いニッポン公務員―アホ役人「殲滅計画」』 2006年03月16日
 中野 雅至 『格差社会の結末 富裕層の傲慢・貧困層の怠慢』


■ 百夜百マンガ

銀牙―流れ星銀【銀牙―流れ星銀 】

 漢気あふれる犬たちのストーリー。もしかしたら、学園ものの定番であった「番長」もの(ある学校の番長にのし上がった後、数多くの他校の番長たちと闘いと出会いを重ね、ついには全国をしめる番長や日本を裏から支配する巨悪と戦う)にはリアリティが持てなくなった子供たち(何しろ「番長」なんかいませんし)に対する「番長」ものの変形なのかもしれません。

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