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2007年4月19日 (木)

府県制と道州制

■ 書籍情報

府県制と道州制   【府県制と道州制】(#819)

  小森 治夫
  価格: ¥1890 (税込)
  高菅出版(2007/01)

 本書は、「現在大きな問題となっている、府県製と道州制を巡る論点を整理し、府県制の意義と役割を再評価する」ことを目的とし、府県制の役割について、「広域行政の担い手であると同時に、狭域行政の守り手でもあるという、二重の役割」を論じ、
「府県制を論じる際には、広域化と狭域化の二つの視点から論じることが必要である」と主張しています。
 序章「本書の課題と構成」では、「平成の大合併」に引き続いて、「府県制度廃止=道州制構想」が本格的に登場したことについて、その背景として、
(1)「平成の大合併」の進展により、府県の位置づけや役割が変化して、府県の空洞化が進んでいる。
(2)府県域を超える広域行政の課題が増大する中で、地方分権改革の担い手としては道州がふさわしいなどの、広域行政と地方分権の「受け皿論」
の2点を挙げた上で、道州制導入の論理を、
(1)社会・経済が発展し住民の生活圏が拡大した現在の日本では、明治以来の府県の区域では狭すぎるという素朴な論理。
(2)外交・防衛などの期間課題は国が担い、国民生活関連の行政は地方が分担するという、国と地方の役割分担の見直し。
の2点により整理しています。
 第1部「府県の歴史と行財政」第1章「府県の歴史……戦前期」では、明治地方制度制度化の府県の特徴として、「内務大臣を頂点に、府県を中間、市町村を基底としたピラミッド構造をなすものであり、この中で府県及び国の官吏である知事が中軸とされ、内務大臣に掌握された知事は府県会及び市町村を統制する重要な役割を持つもの」とされ、「この府県は地方団体としての性格を持つが、同時に国の行政区画であるという二重の性格」を有していたと述べています。
 第2章「府県の歴史……戦後期」では、戦後改革による知事公選制の実現、府県の完全自治体化が、「府県が国の行政区画であることを前提として構築されてきた戦前の国家行政機構に、根本的な変革を迫ることとなった」が、「その実現に至る過程での内務省の抵抗は大きかった」ことを解説しています。
 また、シャウプ勧告において、「市町村優先の行政事務再配分と国庫補助金制度の前面整理の方針」が出され、地方財政の問題点として、
(1)市町村、都道府県、中央政府間の事務の配分及び責任の分担が不必要に複雑であり、また、重複している。
(2)上記三段階の統治機関の間における財源の配分が、若干の点において不適当であり、また中央政府による地方財源の統制が過大である。
(3)地方自治体の財源は、地方の緊要経費を賄うには不足である。
(4)国庫補助金及び交付金は、独断的に決定されることが多い。
(5)地方自治体の起債制限は、きわめて厳重に制限されている。
の5点が指摘され、
(1)地方税源の拡充強化
(2)国庫からの交付金の一方的独断的決定の排除
(3)国・都道府県・市町村間の徴税と行政責任の明確化、集中化
(4)必要な財政平衡交付金の設置
の4点からなる基本方針が示されたことが解説されています。
 また、第1次地方制度調査会の答申において、「市町村と府県の性格の区別、府県の国家的性格の強調」に着目し、
 「府県は、本来、その自治事務を処理すると同時に、市町村とは異なり、市町村を包括し、市町村と国との中間に位する広域自治体として、国家的性格を有する事務を処理することをもその任務とすること。したがって、国は、国家的性格を有する事務の遂行に必要な限りにおいて、指揮監督権の行使その他の関与を行うことができるものとすること」
 「府県の性格に鑑み、事務の配分及び出先機関の統合等を促進するため、機関委任及び団体委任の制度並びに地方事務官等の制度を活用するものとすること」
と述べられていることを紹介しています。
 さらに、高度成長期においては、「全国的に地域開発行政が展開される中、府県は中央各省、公団等の下請機関化されることとなった」として、内務省の解体によって、「戦後における中央―地方の行財政システムは、中央各章がその地方出先機関と府県の機関委任事務という二系列で行う、縦割りの行財政システム」となり、このことは、「戦前の内務省とうち方から戦後の大蔵省統治方への転換であり、しかも大蔵省は総枠規制を行うのみで、予算配分の実質的な権限は中央各省が握る」というものであったことを解説しています。そして、高度成長期前期においては、中央各省が地域開発行政を進めるにあたり、
(1)幹線道路、重要間についての管理権限を道路法改正(1964年)、新河川法制定(1964年)によって府県から中央各省へ吸い上げた。
(2)地方農政局の新設(1963年)、地方建設局の強化(1963年)、地方構成局構想(1964年)など、中央各省の出先機関を強化した。
(3)水資源開発公団、愛知用水公団、道路公団、阪神高速道路公団、住宅公団等の各種特殊法人を設立した。
など、「ニューセントラリゼーション(新中央集権的傾向)」と呼ばれ、府県自治の危機が強く叫ばれたことが述べられています。著者は、「結局、府県の役割とは、地域開発をめぐって生じる市町村や住民との間の利害対立や紛争に対処するという、調整機能に過ぎない。このようにして、府県は中央各省、公団等の進める地域開発行政の下請機関にされた」と述べています。
 一方、高度成長後期において、「中央各省が地方出先機関、公団等に仕事を抱え込む傾向から『機関委任事務活用論』に転換」した契機として、1964年の第一臨調「行政事務の配分に関する改革意見」を挙げています。
 第3章「府県の行政」では、1953年に第1次地方制度調査会から出された「地方制度改正に関する答申」(神戸勧告)を紹介し、事務配分における市町村優先の原則を明らかにした上で、府県の事務について、
(1)市町村の区域を越えて処理しなければならない事務
(2)市町村で処理することが著しく非能率または著しく不適当である事務
とし、「府県と市町村とは同等であるとした上で、府県の機能を国と市町村との連絡と市町村間の調整」としていることを解説しています。
 第4章「府県の財政」では、山村勝郎氏の府県財政研究から、府県財政の特徴として、
(1)国の政策により大きく影響される
(2)景気変動に強く影響される
(3)財政投融資化現象が現れている
の3点を紹介しています。
 また、保母武彦氏の研究から府県財政の特徴として、
(1)府県の事務配分は大きいが、財源配分は少ない。
(2)府県の役割は教育費、国土保全及び開発費、産業経済費(農林水産業費+商工費)である。
(3)府県の事務配分は減少し、空洞化が進んでいる。
の3点を紹介しています。
 著者は、これらの研究を踏まえ、府県財政の歳入の特質を、「自主財源である地方税のウェイトは低く、依存財源である地方交付税交付金や補助金のウェイトが高い」理由として、「府県の仕事には機関委任事務が多く、補助事業が中心であったため、補助金や地方交付税などの国からの移転財源に頼らざるを得なかった」ことを挙げています。
 第5章「府県の果たしてきた役割」では、1967年に全国知事会地方行財政調査特別委員会がまとめた『府県政白書』において、戦後の都道府県についての評価を、
(1)行政内容:都道府県の行政内容が都道府県住民の応えるだけ充実しているか。
(2)民主化:行政が都道府県住民の意思と責任によって行われているか。
(3)能率化:行政の執行が能率的に行われているか。
(4)総合化:地域内の行政が総合的に行われているか。
(5)新中央集権化的傾向への対応:都道府県行政が最近の時代の要請である、いわゆる「新中央集権化的傾向」に対応しうるようになっているか。
の5つの視点から、
(1)行政内容:地域的不均衡はあるが、行政内容は充実し水準は向上している。
(2)民主化:団体自治と住民自治の観点から評価して、民主化は推進されている。
(3)能率化:国の地方出先機関や公団等に比べて府県は合理的かつ能率的であり、府県自体の行政能率も向上している。
(4)総合化:都道府県の行政を総合調整して実施するのみではなく、その地域内において中央政府の縦割行政に伴う弊害を是正しながら、中央政府や市町村の事務、公社・公団等の事務等についても総合的に連絡調整するよう努力している。
(5)新中央集権化的傾向への対応:制度上も運営上も積極的に対応するよう努めている。
と評価しています。
 著者は、わが国における府県制度の特質として、
(1)地域総合行政の担い手
(2)広域行政の担い手
(3)産業経済行政の担い手
(4)総合的技術の担い手
(5)市町村自治の守り手
(6)国と地域を結ぶ、集権と分権を統一する日本型の民主的統治形態
の6点にまとめています。
 第2部「道州制構想の変遷」第1章「戦前期の道州制構想」では、1940年代前半に、道州制の根拠として、
(1)中央・地方を通ずる行政事務の全面的再配分、すなわち地方に権限を委譲するための要請。国家総動員体制の進展により、中央官庁の所管事務が激増し、行政事務の中央集権化が進んだ結果、中央官庁は日常的・現業的事務に忙殺されて、重要な国政の企画立案に専念する余裕がなくなった。
(2)行政の現地処理の要請。従来国家統制の対象外に置かれた民間活動などへの統制が強化された結果、国の許可・認可・承認の必要が激増した。
(3)地方行政段階における行政機関の分立による弊害を除去するという要請。
(4)統制経済の要請。食料・燃料などの生活費実需物資の統制が府県を通じて実施され、府県割拠主義、いわゆる「府県ブロック」の弊害が表面化した。
(5)国土計画の面からする要請。大都市に工場が集中し、農村の後輩が問題になったが、国土計画に基づく地方計画の実施には府県では狭すぎた。
(6)内外地を一体とした行政措置の増大に基づく要請。
の6点が議論されたことが解説されています。
 第2章「戦後期の道州制構想」では、第4次地方制度調査会が1957年に行った「府県制度を中心とする地方制度の根本改革についての答申」について、
(1)現行府県を廃止し、国と市町村の間に中間団体として「地方」を置く。
(2)「地方」は地方団体としての性格と国家的性格とを併せ持ち、その区域は全国を7ないし9ブロックに分割したものとする。
(3)「地方」の組織は公選で選ばれた議会と、議会の同意を得て総理大臣が任命した任期3年の「地方長」とする。
(4)「地方」の事務は、現在、国、国の出先機関、府県が処理している事務で移譲しうるものとする。
(5)「地方」を管轄区域とする国の総合出先機関(「地方府」)を置き、地方長をその長とする。
というものであり、この答申が、「『内政府』設置、すなわち旧内務省の復活に呼応して、国の出先機関を統合して地方行政の総合性を回復した、強力で広域的な戦前型の府県制度を復活しよう」という構想であったことが解説されています。
 第3部「地方分権改革と府県制、道州制」第1章「地方分権改革と府県制度」では、地方分権改革の特質として、
(1)「中央は軍事・外交等の基幹機能を、地方は住民に身近な行政を」という単純な分業論である。
(2)それが国民生活と人権保障を軽視するという前提で展開されているために、しばしば「財源保障ぬきの分権論」に陥ってしまう。
(3)それが住民自治の視点が希薄な分権論である。
(4)分権化のための受け皿づくりとして広域行政が提示されている。
の4点を指摘し、「府県制の廃止や知事公選制の廃止に結びついた道州制構想は言うまでもないが、層でない場合であっても、道州に対する住民の民主主義的統制の後退、道州内部における集権化の強まりなどの問題」等を指摘しています。
 また、地方分権委員会が、「シャウプ勧告や神戸勧告に立ち戻って、国と地方の行政事務の再配分を提起しなかったため、中央政府の事務事業を自治体に移管するという重要な課題が、今回の地方分権改革からはずされた」ことを指摘しています。
 第2章「平成の市町村合併」では、「三位一体改革」が、「国の財政再建と中央省庁の権益を優先するもの」であり、「『分権改革』を旗印として最大限に利用した『構造改革』」であり、「その狙いの中心は、社会保障、公共事業と並んで国の三大歳出分野である地方への支出(地方交付税、国庫補助負担金)を削減することを通じて、国の財政再建を進めることにある」と述べています。
 本書は、府県政と道州制に関するこれまでの議論をコンパクトにまとめた一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書は、過去の府県政と道州制の議論や経緯を一覧する上では便利な一冊ですが、これらの先行研究を追う方法は、あくまで紹介に過ぎず、著者のオリジナルな視点は感じられません。もともとは、過去に行っていた勉強会の成果などをベースとしているらしいですが、単に昔の資料を引っ張り出してきただけのようにも感じられ、ここ15年くらいの分権の議論との断絶を感じます。
 一方で、近年の分権を扱った第3部は、第2部までの過去の府県・道州制の議論の分析とは断絶しており、また、著者の印象を書きつらねた「感想文」のようで、とってつけたような印象をぬぐえません。
 とは言え、戦前戦後の議論をまとめた便利な一冊ではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・戦前・戦後の府県制・道州制の議論を俯瞰したい人。


■ 関連しそうな本

 神野 直彦 『三位一体改革と地方税財政―到達点と今後の課題』 2007年04月16日
 赤井 伸郎, 山下 耕治, 佐藤 主光 『地方交付税の経済学―理論・実証に基づく改革』 2005年01月27日
 土居 丈朗(編著) 『地方分権改革の経済学―「三位一体」の改革から「四位一体」の改革へ』
 赤井 伸郎 『行政組織とガバナンスの経済学―官民分担と統合システムを考える』 2006年11月24日
 上村 敏之, 田中 宏樹 (編著) 『「小泉改革」とは何だったのか―政策イノベーションへの次なる指針』 2006年11月2日
 平嶋 彰英, 植田 浩 『地方債』 2006年12月14日


■ 百夜百マンガ

噂の男前【噂の男前 】

 『湘爆』以来の熱心な固定ファンがいたのか、長らくメジャー少年誌での連載を続けていましたが、個人的にはファンの年齢層と掲載誌が相当乖離した印象を受けました。

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