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2007年6月 5日 (火)

「決定的瞬間」の思考法―キャリアとリーダーシップを磨くために

■ 書籍情報

「決定的瞬間」の思考法―キャリアとリーダーシップを磨くために   【「決定的瞬間」の思考法―キャリアとリーダーシップを磨くために】(#866)

  ジョセフ・L. バダラッコ (著), 金井 寿宏, 福嶋 俊造 (翻訳)
  価格: ¥2100 (税込)
  東洋経済新報社(2004/06)

 本書は、「すべてのマネジャーが直面する可能性のある、ともに正しい選択肢をめぐる葛藤について考察」したもので、「こうした対立について考え、解決策を模索するための、あまり知られていない現実的な方法を提示」したものです。著者は、「限られた時間と情報の中で解決を迫られる」マネジャーが直面する「厄介で、複雑で、苦悩にあふれた政治的なジレンマに満ちた」問題に対して、「マネジャーが困難に直面したまさにそのときに、行動の規範となる指針」こそが価値があると述べ、「最も有益な指針は、回答を与えることではなく、『問い』を投げかけることだ」と述べています。著者は、本書の主眼を、「回答を提示するのではなく、読者自らが回答を引き出せるように、読者を刺激し、読者に挑むこと」であると述べ、「生活と仕事につきもののジレンマを解決するうえで、思慮深く、実用的で、個人的に意義のある判断のよりどころを提供することを目的にしている」と語っています。
 第1章「汚れた手」では、マネジャーが直面する「個人の価値観を深く問われるような問題」について、「選択肢の正誤がはっきりしている」状況の判断ではなく、「観点によってはいずれの選択肢も正しい」状況での決断であると述べ、ジャン-ポール・サルトルの戯曲のタイトルから「汚れた手」の問題と呼ばれていることを解説しています。この言葉は、作中で、第二次大戦中の共産党の地下組織のベテラン指導者が、若く熱心な党員に対し、「君は手を汚さずに統率できると思っているのか」と語ったことに由来しています。
 著者は、「ともに正しい選択肢どうしをめぐる葛藤」が、「経営上の問題を超えて人生の問題に波及する」理由として、「ひとたび下した決断は、永遠に消し去ることができない」ことを挙げ、この問題を、「厄介で、複雑で、深刻な問題である」が、「しかもそうした状況での決断は非常に重要であり、無視することもできない」と述べています。
 そして、この「正しい選択肢どうしの間からの選択」を「決定的な瞬間」と名づけ、その基本的特徴として、
(1)その人の本質が明らかになる。
(2)その生き方が試される。
(3)その人格が形作られる。
の3点を挙げ、「正しい選択肢同士の間からの意思決定を通じて、マネジャーや、場合によっては企業そのものの基本的な価値観が明るみに出る」と同時に、「マネジャーや企業のコミットメントの強さが試される」と述べています。
 第2章「ともに正しい選択肢のはざまで」では、本書でくり返し紹介される、以下の3つのケースを紹介しています。
(1)黒人の出席を望んでいるクライアントの要求に応えるためだけに、何の貢献もしていないプロジェクトのプレゼンテーションに出席するべきかどうかという問題に直面する一流投資銀行に勤めるアフリカ系アメリカ人のアナリスト。
(2)家庭の事情で長時間勤務できない部下の女性を、仕事の遅れや他の社員のモチベーションを下げるという理由で解雇すべきか、「家族に優しい」職場の実現という会社の方針に沿って解雇すべきでないかという問題に直面するミドル・マネジャー。
(3)新製品の経口中絶薬の発売をめぐり、中絶手術に伴う傷害や死亡の危険から女性を守ることと、不買運動を展開する可能性のある中絶反対派の圧力団体と、女性の権利擁護や医療費の削減を期待する政府という、複雑に入り組んだ利害関係に直面する製薬会社の経営者。
 著者は、これらのケースの中でも、とくに(3)に関しては、「最も難しいタイプのもの」であるとして、「経営者が三次元のチェスをしているようなものだ」と述べています。
 第3章「役に立たない倫理の大原則」では、これら3つのケースに用意された道徳的指針として、
(1)企業のミッション・ステートメントと倫理指針
(2)法律上の責任
(3)道徳哲学が教える基本的な原則
の3点を挙げた上で、これらの倫理原則が、
(1)非常にあいまいである。
(2)違法行為や犯罪を主要なテーマにしており、その対策にのみ重点が置かれている。
という2つの問題を指摘しています。
 第4章「『睡眠テスト』による倫理」では、「解決の難しい倫理的問題に直面したときは、個人的な洞察、感情、本能に頼るべきである」という「睡眠テスト」と呼ばれる手法を紹介した上で、そのためには、「健全な倫理的本能が機能するには、思慮深く、成熟した人間性が前提としてなければならない」と述べ、「まやかしの睡眠テストの罠に陥る」危険性を指摘しています。
 第6章「ほんとうの自分になる」では、哲学者であるニーチェが、重要な個人的決断が、「個人の将来につながるきずなを作る機会でもある」と考えたことについて、その課題の核心部分を、「本当に自分になれ」という忠告の形で表現したことを紹介し、そのための4つの問い、すなわち、
(1)自分の感情と本能に照らしたとき、そのジレンマは土のように定義づけられるか。
(2)葛藤する責任や価値観の中で、自分の人生や自分が大切にする共同体(コミュニティ)に最も深い根を持つものは何か。
(3)将来を見据えたとき、今後の「わが道」はいずくにあるのか。
(4)自分が最も大切にしている目標を実現するためには、想像力と大胆な行動力とともに便宜主義や抜け目なさをどのように駆使すればよいか。
の4つが重要性を持つことを解説しています。
 第7章「真実はプロセスにあり」では、マキアヴェッリの世界観を紹介した上で、
(1)自分の組織の決定的な瞬間として活用したいと希望している状況や問題について、強力で、説得力があり、競合する解釈としてはほかにどのようなものが考えられるか。
(2)有る人たちからの支援を受けたいと思っているとき、その人々にとって、この状況と自分のアイデアの実用的価値がどの程度あるのか。
(3)自分が大切に思う価値観が、組織にとって真理となるようにプロセスを全体としてうまく組み立てたか。
(4)勝つためにプレイしているか。
(5)社内の政治的問題を個人的な問題に結び付けているか。
の5つの問いを投げかけています。
 第8章「力量(ヴィルトゥ)、美徳、および成功」では、マキアヴェッリの造語であり、「公人の倫理規範」を意味する「力量(ヴィルトゥ、virtu)」という言葉を、「活力、自信、創造力、抜け目なさ、大胆さ、実用的なスキル、個人としての力、決意、自己規律などを組み合わせた概念」であると解説し、マキアヴェッリが、「すべての人場高潔で協力的であれば、力量など不要である」と認めているが、「現実世界はそうはなっていない」ことを述べています。
 そして、「経営者が企業の社会的役割や利害関係者との関係性を定義する決定を迫られたとき」に、参考となるであろうマキアヴェッリの教訓として、
(1)成功の意味を取り違えてはいけない。成功とは、磐石で繁栄する組織を作ることである。脆弱で窮乏した組織では、まともな業績は残せない。
(2)反対勢力の動きを見極めること。反対勢力の倫理観を過大評価してはいけないし、その力を過小評価してもいけない。
(3)経営者は、社会における企業の役割を自社にのみ都合のよいように一方的に定義することはできない。企業の役割とは、必ず交渉を通して決まるものである。
の3点を挙げています。
 本書は、企業の経営者はもちろん、数多くの「決定的瞬間」に直面する多くの人々に読んで欲しい一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書の巻末の「監訳者解説」では、神戸大学の金井寿宏教授が、本書の原著の書名にある「決定的瞬間(Defining Moments)」を、「人生を彩り、とりわけ節目を彩り、そこを越える前と越えた後で、世界の見え方を変えていき、自分の生き方を変えていく瞬間だ。翻訳を拒む、味のあるフレーズなので、どうか英語のまま覚えてもらいたい」と絶賛しています。
 日本語の「決定的」という言葉は、元々は字面通りに「決定するような」という意味だったものが、ニュアンスが変化してしまったのかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・正解と正解との間の選択を迫られている人。


■ 関連しそうな本

 ジョセフ・L. バダラッコ (著), 夏里 尚子 (翻訳), 高木 晴夫, 渡辺 有貴 『静かなリーダーシップ』 2006年05月31日
 Harvard Business Review (編集), DIAMONDハーバードビジネスレビュー編集部 (翻訳) 『リーダーシップ』 2005年12月16日
 金井 寿宏 『リーダーシップ入門』 2005年3月31日
 ジョン・P. コッター (著), 梅津 祐良 (翻訳) 『企業変革力』 2005年02月19日
 C.I.バーナード (著), 山本 安次郎 (翻訳) 『新訳 経営者の役割』 2005年03月29日


■ 百夜百マンガ

ヨリが跳ぶ【ヨリが跳ぶ 】

 スポーツマンガのカテゴリーではありますが、ついついひねくれた目で見てしまえるところが楽しみでもあります。

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