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2007年8月 8日 (水)

夕張破綻と再生―財政危機から地域を再建するために

■ 書籍情報

夕張破綻と再生―財政危機から地域を再建するために   【夕張破綻と再生―財政危機から地域を再建するために】(#930)

  保母 武彦
  価格: ¥1500 (税込)
  自治体研究社(2007/02)

 本書は、「財政破たんの第一号」となった北海道夕張市を取り上げ、「夕張市の財政は、なぜ破たんしたのか」、「夕張は、これからどうなるのか」について、「同じような事情を抱えた全国の地方自治体」があるなか、「夕張問題は、夕張の問題であるが、夕張だけの問題ではない」として、「夕張を、国の自治体解体モデルにしてしまうか、それとも地方財政破たん地域の民主的再生モデルとするか」の選択が問われていると問いかけているものです。
 第1章「夕張問題とは何か」では、マスコミや一部の学者を使った「夕張たたき(バッシング)」キャンペーンについて、
(1)夕張市の過大な観光開発を材料にした放漫な財政運営、「ヤミ起債」と赤字隠しの財政運営に対する批判が中心であった。
(2)「財政再建計画の基本的枠組み案」に見られる住民負担と行政サービス削減の厳しさが中心的内容となった。
の2段階であると述べています。
 そして、夕張市の財政破たんの要因として、
(1)炭鉱閉山後の処理負担
(2)観光・リゾート開発とその後の費用負担
(3)国の行政改革の地方(夕張市)への転嫁
の3点を挙げています。
 そして、いわゆる「ヤミ起債問題」について、「北海道空知地域の旧産炭地に対する対策の中で北海道庁トップ層もかかわって行われた起債の引き受けであった」として、「政府と北海道庁の責任が決して小さくないことは、この旧産炭地対策の経緯を見れば明らかである」と指摘しています。
 著者は、「政府が推進してきた市場原理主義に基づく『競争的な経済システム』形成の中で、財政破たんに至った最初の犠牲が夕張である」と述べ、夕張問題を、「全国各地の地域社会と地方自治の将来に重要な影響を与える可能性がある」問題であると主張しています。
 第2章「夕張市財政の現状と『破綻』の主な要因」では、平成18年11月14日に示された「財政再建の枠組み案」に関する問題点として、
(1)財政再建計画とは言うものの、歳入・歳出の骨格、収支計画の概要さえ示されていない。
(2)住民に耐え難い痛みを強制することにより、大規模な人口流出を招きかねず、計画の前提そのものが崩壊しかねない。
(3)広域自治体として夕張を支援すべき立場にある道の対応の問題がある。
の3点を挙げています。
 また、北海道が、「道の市町村行政の中で、産炭地とくに夕張財政問題は、歴代の部長、室長、市町村課長にとって重要課題であり、その困窮度ややりくりの苦境ぶりを道庁は十分に知っていたと考える方が自然で」あり、「不適切な財務手法についても、『財務調査』等を通じて道は十分に知りうる立場にあったことを指摘せざるを得ない」と指摘しています。
 さらに、財政破たんの主たる要因として、
(1)膨大な閉山跡処理対策費:住宅・水道など社会基盤整備に583億円
(2)リゾート開発の破綻と跡処理
(3)三位一体改革と交付税削減
の3点を挙げ、「夕張市の財政破たんの原因は、国策による基幹産業の崩壊とその後の跡処理対策およびリゾート開発が自治体財政に過大な負担を強いたこと、さらには政府による『構造改革』政策が夕張市財政を直撃したこと」であるとした上で、
(1)閉山対策と石炭資本の社会的な責任、さらに夕張の土地問題
(2)典型的企業城下町だった夕張市の再生、社会基盤整備と国・道の責任問題
の2点を補足し、「国際水準の価値評価が高い石炭博物館を道立博物館として整備・管理することもなかった」と指摘しています。
 第3章「夕張市の財政運営に問題はなかったか」では、「ヤミ起債」問題について、「副知事も加わる理事会」で運営規程を改訂して運用したものであり、「地方行財政を指導すべき道企画振興部の市町村課は『この5月まで知らなかった』という」が、「市町村行政を指導監督している部課が、自ら一番困難かつ重要課題の産炭地財政にかかわる問題を『知らなかった』ですむ問題ではない」と糾弾しています。
 第4章「夕張市の再生のために(提言)」では、「夕張市再生のために必要な再生の考え方および再生の課題と方法について」として、「日常生活を保障する社会サービスの緊急確保」や「北海道庁による補完、代行」等を提言しています。
 補論「夕張問題と地方財政『改革』・『自治体再生法制』」では、ビジョン懇報告や「新しい地方財政再生制度」研究会、総務省の検討の方向性に関する「重要な問題」として、
(1)「護送船団方式により形成された『国が何とかしてくれる』という神話が、財政規律の緩みにつながってきた面を否定できない」といった地方財政の現状認識そのもの。
(2)「新しい再建法制」が国による自治体財政の新たな統制強化につながる。
(3)民主的正当性をもたない第三者機関を活用することは地方自治と民主主義の観点からも問題が大きい。
(4)自治体が市場からの監視にさらされ、銀行が自治体の生殺与奪権を握ることになりかねない債務調整の導入問題。
(5)「新しい自治体再建法制」の導入が、地方債の完全自由化と交付税措置廃止、交付税の財源保障機能の放棄などの地方行財政制度の抜本改革とセットで進められた場合、地方の自由度を高めるかわりに自己責任を負わせ、能力のある自治体のみが市場で資金調達できるようにする方向性が前提となること。
の5点を指摘しています。
 本書は、自治体の財政破綻が現実となった時代に、より幅広い「国家の責任」を求めた一冊です。


■ 個人的な視点から

 提言の内容が奇妙キテレツというわけでもなく、こういう視点からの検証が必要であることを否定しませんが、言葉の端々に「大きな政府」志向がにじみ出ているのが、読んでいて少しつまずくところです。
 例えば、国策としてのエネルギー革命によって炭鉱が閉山したのだから、その責任は国が負うべきだ、という主張については、エネルギー革命は日本政府が起こしたわけでもなく、その影響、リスクをすべて国が保障すべきであるかのうような書き振りには違和感を覚えました。


■ どんな人にオススメ?

・夕張市の破綻を多面的に見たい人。


■ 関連しそうな本

 松本 武洋 『自治体連続破綻の時代』 2007年01月04日
 吉富 有治 『大阪破産』 2006年10月20日
 白川 一郎 『自治体破産―再生の鍵は何か』 2006年10月30日
 橋本 行史 『自治体破たん・「夕張ショック」の本質―財政論・組織論からみた破たん回避策』
 今尾 恵介 『地図を楽しむなるほど事典』 2007年02月25日
 肥沼 位昌 『図解 よくわかる自治体財政のしくみ』


■ 百夜百マンガ

サンキュウ辰【サンキュウ辰 】

 播磨灘+あぶさん?
 この人の作品の主人公は何を描かせても結局こういうタイプになってしまうというか、大迫力のどアップ顔面に啖呵を切らせて回りがびびって一件落着、というものばかりな気がします。それはそれでいいんですが。

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