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2007年8月24日 (金)

企業内人材育成入門

■ 書籍情報

企業内人材育成入門   【企業内人材育成入門】(#946)

  中原 淳 (編集), 荒木 淳子, 北村 士朗, 長岡 健, 橋本 諭 (著)
  価格: ¥2,940 (税込)
  ダイヤモンド社(2006/10/20)

 本書は、「人を育てるための心理学、教育学の基礎理論」を簡潔に紹介する入門書です。ターゲットユーザとして、「人材育成部門への異動が決まった方、人材育成部門の十数年勤務し、そろそろ知識の整理を行いたい方」の他、「企業・組織で『人育て』に関わるすべての人々」を対象としています。
 序章「『企業は人なり』とは言うけれど」では、「理論的な裏づけなしに、誰もが語れる」という、従来の人材育成に付随するイメージが、「深刻なデメリットも生み出す」として、「『誰もが語れる』ことは、『なんでもあり(anything goes)』とは違うはず」であると指摘しています。
 そして、本書が、「ワークプレイスラーニングという視点から、ミクロレベルでの方法論のベースとなっている、心理学・認知科学・学習科学・教育学・教育工学の諸理論を商会」するものであると述べています。
 第1章「学習のメカニズム――人はどこまで学べるのか」では、学習に関する心理学的研究が、「わずか100年の歴史しかないが、それが人々にもたらしてきた影響は非常に大きい」として、
(1)行動主義:即時に「フィードバック=結果の知識(Knowleadge of Result:結果の知識)」を返すことで、「刺激と反応の組合せ」がアタマの中に構成される、と考える。
(2)認知主義:人間の知的なふるまいを「コンピュータの動作=コンピュータ内部で行われる情報処理のプロセス」になぞらえて考える。
(3)状況主義:人間が知的に振舞うためには、実際の環境の中でどのように振舞い、どういう相互作用を営むか、といったところに焦点を当てる。
の3つの考え方について解説しています。
 また、オトナのための教育論、「成人教育論」に関して、「P-MARGE」、すなわち、
・P: Learners are Practical.(大人の学習者は実利的である)
・M: Learner needs Motivation.(大人の学習者は動機を必要とする)
・A: Learners are Autonomous.(大人の学習者は自律的である)
・R: Learner needs Relevancy.(大人の学習者はレリーヴァンスを必要とする)
・G: Learners are Goal-oriented.(大人の学習者は目的志向性が高い)
・E: Learner has life Experience.(大人の学習者には豊富な人生経験がある)
の6点を示しています。
 さらに、「ある領域の仕事ができるようになっていくこと」である「熟達化」に関して、「ある領域での長期の経験に基づいて、まとまりのある知識・技能を修得し、有能さを獲得していくプロセス」と述べ、
(1)定型化熟達者(routine expert):決まった手続を、早く、正確に、自動的に行う。
(2)適応的熟達者(adaptive expert):変化しうる状況の中で、一定の手続がない課題に対して、柔軟に、確実に対処できる。
の2つのタイプがあることを解説しています。
 第2章「学習モデル――学び方で効果は変るのか」では、「近年、人材開発の分野において、レイヴとウェンガーに代表される状況論アプローチが、注目を集めている」として、その特徴の一つとして、「従来あまり意識されることのなかった『学習カリキュラム』と『教育カリキュラム』の違いを明確している点」を挙げ、学習を「日常の中で複合的・継続的に進行する組織・個人の行動や考え方が変化していくプロセス」であると述べています。
 また、クロス・ファンクショナル・チームに、「組織横断的なプロジェクト・チームである一方、"学習と仕事の境界線"を越えた人材育成の場でもある」という意味があることを指摘しています。
 第3章「動機づけの理論――やる気を出させる方法」では、マズローが、「複数の人間の欲求に段階があると考え」、
・生理的欲求
・安全の欲求
・親和の欲求
・自我の欲求
・自己実現の欲求
の5段階があるとする「欲求段階説」を唱えたことや、「X理論」と「Y理論」を唱えたマグレガーや「動機づけ・衛生理論」を唱えたハーズバーグが動機づけを経営手法と結びつけたことなどが解説されています。
 また、外発的動機づけと内発的動機づけの関係について、内発的動機づけが、「報酬のような外発的動機づけを与えることでかえって下がってしまう場合」があることを、デシが行った実験で観察された「アンダーマイニング現象」を紹介しながら解説しています。
 さらに、犬が「自分がコントロールできない状況に長く置かれると、受動的で無気力になってしまう」ことを発見したセリグマンらが、「学習性無力感(learned helplessness)」と呼んだことや、バンデュラが、人のやる気にとって、
・結果期待:自分の行動がある結果をもたらすという期待
・効力期待:その行動をうまく行うことができるという期待
の2つが重要であると考えたことなどが紹介されています。
 第4章「インストラクショナルデザイン――役に立つ研修をいかにつくるか」では、「教育を効果的、効率的に、設計・実施するための方法論」である「インストラクショナルデザイン(Instructional design: ID)」について、「教育活動の効果・効率・魅力を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野、またはそれらを応用して教育支援環境を実現するプロセスのことを指す」という定義を紹介しています。
 また、「授業や教材を構成する指導過程を、学びを支援するための外側からの働きかけ(外的条件)」と捉えた「ガニエの9教授事象」として、
(1)学習者の注意を獲得する
(2)授業の目標を知らせる
(3)前提条件を思い出させる
(4)新しい事項を提示する
(5)学習の指針を与える
(6)練習の機会を作る
(7)フィードバックを与える
(8)学習の成果を評価する
(9)保持と転移を高める。
の9点を挙げています。
 第5章「学習環境のデザイン――仕事の現場でいかに学ばせるか」では、1990年にセンゲによって提唱された、「学習を個人のものとしてではなく組織のものとして捉える考え方」である「学習する組織(Learning Organization)」について解説しています。
 また、ウェンガーが提唱した「学習が行われる共同体」である「実践共同体(Community of Practice) 」について、
(1)領域(domain):メンバーが共有する問題やテーマ
(2)コミュニティ(community):メンバー同士の相互交流と関係性
(3)実践(practice):メンバーが共有する一連の枠組みやアイディアやツール、情報、様式、専門用語、物語、文書など
の3点により定義されるものであることなどを解説しています。
 さらに、野中らが提唱した「企業の知識創造の仕組み」である「SECIモデル」について、
・共同化(Socialization)
・表出化(Externalization)
・連結化(Combination)
・内面化(Internalization)
の4つの知識変換モードなどを解説しています。
 第6章「教育・研修の評価――何をどう評価するか」では、教育評価の目的と役割を、
(1)管理や運営の改善や方向づけのためのもの
(2)指導や教授の改善や方向づけのためのもの
(3)学習者自身の学習や努力の直接的方向づけのためのもの
(4)調査や研究のためのもの
の4つに分類して解説しています。
 また、ウェンガーが、これまでナレッジ・マネジメントが経験してきた3つの波として、
(1)テクノロジーの導入
(2)行動、文化、暗黙知といった問題への関心
(3)実践共同体への着目
の3点を挙げていることを紹介しています。
 第7章「キャリア開発の考え方――自分の将来をイメージさせる」では、ホールによるキャリアの定義である「一生涯にわたる仕事関係の経験や活動とともに個人がとる態度や行動の連なり」という定義を紹介した上で、この定義を前提とした「キャリア開発」を、「個人が仕事に対する自らの考え方や嗜好性を自覚し、それらに基づいて意欲的に仕事に取り組めるようにすること」と解説しています。
 また、個人のキャリア・デザインのヒントとして、シャインによって提示された、「キャリア・アンカー」と「キャリア・サバイバル」という概念を解説しています。
 さらに、キャリア開発における偶然性の活用を提唱したクランボルツの「計画された偶然(planed happenstance)」について、「偶然に出会いそれをうまく自分のキャリアに活かしていくため」に必要な、
(1)好奇心:新しい学習機会を探索すること
(2)粘り強さ:失敗に挫けず努力すること
(3)柔軟性:態度と環境を変えること
(4)楽観性:新しい機会を可能で到達できるものだとみなすこと
(5)リスク・テイキング:不確実な結果に直面しても行動をとること
の5つの行動について解説しています。
 第8章「企業教育の政治力学――人材教育は本当に必要か」では、学習の評価において、「組織や部門にとって何が"正当性を持つ(legitimate)行為"と見なされるか」が重要であり、「組織や部門にとって"正しい"行為や考え方を個人が身につけたときにのみ、学習と見なされる」と解説しています。
 終章「人材育成の明日」では、「人材育成という企業活動の専門性に対する認識が変ったとき、人材育成の専門家はどのような姿を見せるのだろうか」という問いに対して、「研修・セミナーの専門家」と「知的生産性向上の専門家」のどちらの意味での専門化が主流になるかについては、「人材育成というビジネスの現場に生きる一人ひとりの実務家が、自分なりの回答を見つけ出すべきだろう」と述べています。
 本書は、「人材育成」という活動に携わる専門家にとって、自らを振り返る機会を与えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 「人材育成」とか「マネジメント」、「若者」などの分野は、だれもが経験をもとにした一家言を持ちやすいジャンルなので、大量に出版され、その当たり外れも大きいですが、本書は「当たり」に属するものだと思います。


■ どんな人にオススメ?

・人材育成の基本を学びたい人。


■ 関連しそうな本

 北村 士朗, 中原 淳 (編さん), 荒木 淳子, 松田 岳士, 浦嶋 憲明, 小松 秀圀 『ここからはじまる人材育成―ワークプレイスラーニング・デザイン入門』 2005年11月16日
 キャメルヤマモト 『稼ぐ人、安い人、余る人―仕事で幸せになる』 2005年05月24日
 金井 寿宏, 守島 基博(編著), 原井 新介, 須東 朋広, 出馬 幹也(著) 『CHO―最高人事責任者が会社を変える』 2005年08月23日
 ウォルター ディック, ジェームス・O. ケアリー, ルー ケアリー (著), 角 行之 (翻訳) 『はじめてのインストラクショナルデザイン』
 金井 壽宏 『組織を動かす最強のマネジメント心理学―組織と働く個人の「心的エナジー」を生かす法』 2005年06月09日
 エティエンヌ・ウェンガー, リチャード・マクダーモット, ウィリアム・M・スナイダー, 櫻井 祐子 (翻訳), 野中 郁次郎(解説), 野村 恭彦 (監修) 『コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践』 2005年08月25日


■ 百夜百マンガ

殺医ドクター蘭丸【殺医ドクター蘭丸 】

 「ブラックエンジェルス」に代表される、いわゆる「仕事人」系の作品です。わかっていてもやっぱり読んでしまうカタルシス感は、冒険せず安定した人気を取れるベテランならではといいますか。

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