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2007年9月 4日 (火)

経験からの学習-プロフェッショナルへの成長プロセス-

■ 書籍情報

経験からの学習-プロフェッショナルへの成長プロセス-   【経験からの学習-プロフェッショナルへの成長プロセス-】(#957)

  松尾 睦
  価格: ¥3,360 (税込)
  同文舘出版(2006/6/23)

 本書は、「組織の中で働く人が経験から学ぶ際」に、関係してくる「経験」、「学ぶ力」、「組織」の3要因のうち、「『学ぶ力』が経験学習プロセスを解明する上で鍵を握る」と考え、「人は、健全な組織において、適正な信念を育むときに、経験から多くのことを学ぶことができる」というメッセージを持ったものです。
 序章『本書のアプローチ』では、本書が、「顧客に付加価値の高い製品・サービスを提案する上で重要な役割を担っている営業担当者、コンサルタント、プロジェクト・マネジャーに焦点を当て、彼らが以下に経験から学習しているかを明らかにすることを明らかにすること」を目的としていると述べています。
 著者は、本書の基本的な問いを、「企業における熟達者は、いかに経験から学んでいるのか」であると述べ、分析の視点として、
・経験そのものの特性
・学習する個人の特性
・学習を促進する組織特性
の3点を挙げています。
 第1章「熟達化の理論的研究」では、過去の研究について、
・知識の類型
・メタ知識
・信念の働き
・熟達化のプロセス
・実践による学習
・プロフェッショナリズム
の点からレビューしています。
 そして、過去の熟達研究から、「チェス、テニス、音楽、絵画といった分野において世界レベルの業績を上げるためには最低10年の準備期間が必要であることがわかっている」と述べ、「各領域における熟達者になるには最低でも10年の経験が必要である」、という「10年ルール」を紹介しています。
 また、「あるテーマについての関心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技能を、持続的な相互交流を通じて深めていく人々の集団」である「実践コミュニティ」の概念を紹介しています。
 第2章「経験の実践的研究」では、経験を、「人間と外部環境との相互作用」であると定義した上で、外的経験の分類特性として、
(1)タスク(課題)の性質:不慣れな課題、変化を創出する課題、難易度の高い課題、短期的課題、苦難
(2)他者からの影響:上司、部下、同僚、取引先
(3)時期:キャリア上の初期・中期・後期
(4)場所:社内―社外
(5)直接―間接
の5点を挙げ、中でも、「タスク(課題)性質が最も学習に影響を与えているのに対し研修などの間接的経験の影響は小さい」と指摘しています。
 著者は、本章において、
(1)経験年数と業績の関係
(2)学習を促進する経験特性
(3)経験からの学習能力
の3分野に関する実証研究を整理しています。
 第3章「10年ルールの検証」では、「熟達研究で提唱されている10年ルールは、ビジネス分野においても適用できるのであろうか。また、このルールの背後には、どのようなメカニズムがあるのか」を問いかけています。
 そして、分析結果から引き出される理論的貢献として、
(1)自動車と不動産といった異なる領域における営業の熟達化にも、エリクソンの10年ルールが適用できることが明らかになった。
(2)従来の10年ルールが、高業績を上げる準備期間として10年が必要であることを示しているのに対し、営業担当者が有効なスキルを獲得するまでに約10年かかるということを示したという意味で、10年ルールの裏に隠されたメカニズムを説明している。
(3)領域によって鍵となる営業プロセスが異なっていた。。
(4)熟達した営業担当者は「顧客志向」のスキルと「目標達成志向」のスキルのバランスをとっているという点で共通していた。
の4点を挙げています。
 第4章「学習を促す経験」では、プロジェクト・マネジャーとコンサルタントの間で、「初期において『SEとしての部分的仕事』や『プロジェクトのサブリーダー』を経験することでコンピューターの基礎知識や業務知識といった『職務関連の知識』を獲得し、後期において『大規模プロジェクト』や『厳しい顧客』を経験することで高度な『顧客管理スキル』を獲得していた点」が共通していることを指摘しています。
 一方で、その経験学習のプロセスに関しては、「熟達プロセスにも領域固有性が存在する」として、「プロジェクト・マネジャーが、徐々にタスクの難易度を高める『段階的な学習パターン』をとるのに対し、コンサルタントは、中期において、『修羅場体験』とでもいうべき難易度の高いタスクに従事する『非段階的な学習パターン』をとっていた」ことを指摘しています。
 著者は、この学習パターンの違いを、「各職種における課題の性質と、核となる知識・スキル特性の違い」にあるとし、「プロジェクトマネジャーの育成において段階的な経験学習が適しているのは、彼らに要求される最も重要なスキルが『集団管理スキル』だからである」のに対し、「コンサルタントの育成において非段階的な経験学習が適しているのは、彼らに要求されている最も重要な能力が『概念スキル』だからである」と述べています。
 第5章「学習を方向づける信念」では、「自分の能力に対して自身を持ち、学習機会を追い求め、リスクをかえりみず挑戦し、状況に応じて柔軟に自分の行動や考え方を変えることができる人ほど、経験から学習する傾向にある」と述べたうえで、「仕事の信念は、経験学習の効果にどのような影響を及ぼすであろうか。また、領域が異なると、仕事の信念の内容は、どのように異なるだろうか」と問いかけています。
 そして、分析の結果から、「顧客志向の信念が高い人ほど、キャリアの初期・中期段階における経験が現在の業績と強く結びつく傾向が見られた」のに対し、「目標達成志向の新年は経験学習の効果に影響を与えていたものの、顧客志向の信念ほど明確な形で関係しているわけではなかった」ことを指摘しています。
 そして、自動車と不動産の営業において、「目標達成志向の信念が販売業績を高めていたのに対し、顧客志向の信念は販売業績と関係していなかった」ことについて、「自動車営業の分析では、顧客志向の信念が業績と結びつくまでに約10年の期間が必要であることが明らかになった」と述べています。
 著者は、「目標達成志向と顧客志向が密接に関係している」として、
(1)顧客志向における「信頼の重視」は、目標達成志向における「努力・挑戦」「情熱・熱意」と結びついている。
(2)目標達成志向における「目標設定」は、単に自身の売上・利益目標だけではなく、「経営者の思いの実現」や「顧客満足」であるというケースが見られ、数値的な目標を達成する手段としての顧客満足というよりも、顧客満足それ自体が目標となっていた。
(3)「顧客と一緒に成長する」「顧客から学ぶ」という考え方は、目標達成志向における学習目標と関連し、顧客との関係から学習することを重視するとき、顧客志向と目標達成志向が結びつく。
の3点が明らかになったと述べています。
 第6章「学習を支える組織」では、組織風土の定義として、「組織の方針、目標、慣行、手続についての共有された知覚」を挙げ、「組織風土は、組織において何が重要で、メンバーにどのような行動が期待されているかを伝えるシグナルを送ること」で、
(1)個人が直面する刺激を意味づける。
(2)行動選択の自由を制約する。
(3)特定の行動に報酬や罰を与え、個人の行動に影響を与えている。
であると述べています。
 そして、内部競争の営業所風土が、「経験の浅い営業担当者が持つ目標達成志向の信念を育てるが、彼らの顧客志向の信念を阻害するという意味で、諸刃の剣としての性質を持つ」と述べています。
 また、「顧客志向を基盤に、行動ベース・知識ベースの評価を重視し、財務業績ベースの評価を強調し過ぎない内部競争」を、「顧客主導のプロセス方内部競争」と名づけ、この競争が、
(1)内発的動機づけの高揚
(2)利他的利己主義に基づく利得構造の創出
(3)共通の判断基準の提供
(4)学習目標の促進
の4つの特性を持つために、知識創出を可能にしていると述べています。
 著者は、「諸刃の剣としての性質を持つ内部競争が、顧客思考と組み合わされることで、内部競争のネガティブな面が打ち消され、ポジティブな機能が強化される」点を興味深いと述べ、「『顧客志向と内部競争を連動させることが学習を促進する』という知見が、個人レベルの調査と、集団レベルの調査の双方から示された点」が、分析結果の妥当性が高いことを示していると述べています。
 第7章「理論的・実践的な示唆」では、本書の発見事実として、
(1)人がある領域において優れた知識・スキルを獲得するには約10年かかり、6~10年目の中期の経験が熟達の鍵を握る。
(2)人は主に挑戦的な仕事から学ぶが、領域が異なると挑戦の仕方も異なる。
(3)人は、目標達成志向と顧客志向の信念のバランスを保つとき、経験から多くのことを学習する。
(4)人が学習目標を持つとき、目標達成志向と顧客志向の信念が連動する。
(5)顧客を重視し、メンバーが知識や行動をめぐって競争している組織において、目標達成志向と顧客志向の信念が高まり、組織内の学習が促進される。
の5点を挙げています。
 そして、「組織における経験学習プロセスに関する仮説的モデル」を提示し、そのメッセージは、「経験学習の質は、所属する組織の特性と個人の信念によって決まる」であると述べています。
 本書は、外部からは見えにくい学習と成長のプロセスを明らかにしているという点で、研究者のみならず、経営者や管理職にもぜひ一読してほしい一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書が扱っている、経験や成長、顧客志向、信念などのテーマは、多くのビジネス書が扱っている分野であり、自らの経験をもとにした経営者やコンサルタントが百人百様の「持論」を展開しています。
 もちろん、個々の持論が価値のないものではないのですが、中には相互に主張が噛み合わなかったり、力点の置き方が異なるものもあり混乱を生む原因になっています。
 本書のような形で整理をすることは、多くのビジネス書で展開されている言説や、多くの人の経営論を聞く上で、わかりやすい座標を得ることができます。


■ どんな人にオススメ?

・「経験から学ぶ」ことを体系的に理解したい人。


■ 関連しそうな本

 中原 淳 (編集), 荒木 淳子, 北村 士朗, 長岡 健, 橋本 諭 (著) 『企業内人材育成入門』 2007年08月24日
 北村 士朗, 中原 淳 (編さん), 荒木 淳子, 松田 岳士, 浦嶋 憲明, 小松 秀圀 『ここからはじまる人材育成―ワークプレイスラーニング・デザイン入門』 2005年11月16日
 キャメルヤマモト 『稼ぐ人、安い人、余る人―仕事で幸せになる』 2005年05月24日
 金井 寿宏, 守島 基博(編著), 原井 新介, 須東 朋広, 出馬 幹也(著) 『CHO―最高人事責任者が会社を変える』 2005年08月23日
 金井 壽宏 『組織を動かす最強のマネジメント心理学―組織と働く個人の「心的エナジー」を生かす法』 2005年06月09日
 エティエンヌ・ウェンガー, リチャード・マクダーモット, ウィリアム・M・スナイダー, 櫻井 祐子 (翻訳), 野中 郁次郎(解説), 野村 恭彦 (監修) 『コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践』 2005年08月25日


■ 百夜百マンガ

セキララ結婚生活【セキララ結婚生活 】

 現在では、お茶の間でおなじみの新聞の連載やテレビアニメで知られていますが、当初は、セキララな作品で知られていました。「あたしンち」もセキララなわけですが。

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