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2007年10月 5日 (金)

山が消えた―残土・産廃戦争

■ 書籍情報

山が消えた―残土・産廃戦争   【山が消えた―残土・産廃戦争】(#988)

  佐久間 充
  価格: ¥735 (税込)
  岩波書店(2002/06)

 本書は、「建材の供給を産業廃棄物の処理とを一体的に捉え、まず千葉県からの山砂の供給とその成果を、次に山砂採取による環境影響、ダンプ公害の歴史と運転手の労働と生活の実態」等のほか、残土や産業廃棄物による投棄現場の実態や地元・行政の対応、建材採取跡地対策などについて述べているもので、著者が昭和59(1984)年に出版した『ああダンプ街道』の追跡調査に当たるものです。
 第1章「経済発展の陰で」では、君津地方の山砂の主な用途が、「東京湾の埋め立て、首都圏におけるビルや産業施設の建設、道路や港湾などの土木工事、コンクリート製品の材料」などであると述べています。
 第2章「『開発』が環境にもたらしたもの」では、著者が前著の中で、「(そんなに掘って)よく房総半島が持ち上がらないものだと、冗談の一つも言いたくなる」と述べているが、実際に国土地理院の地震予報官が、「山を削ると地殻が隆起する」という測定結果を発表していることを紹介しています。
 また、廃棄物による環境への影響として、君津市久留里大谷に建設された産業廃棄物処分場を地元主婦らが見学した際に、業者が見学の車の前後を車2台で塞ぎ、撮影したフィルムなどをめぐって3時間ほど押し問答になった事件が昭和59年に起こり、後に、「安定型処分場」でこの処分場が実態は有害物質を前提とした「管理型処分場」であることが判明して営業停止になった事例が取り上げられています。
 さらに、房総半島のゴルフ場事情について、平成12年4月1日現在、営業中が142、許可済みが39であり、全国的3位の数であるが、許可済みの39がオープンすると全国一になること、山砂採取場にするかゴルフ場にするかに悩んだ結果、「先祖からの山と美林と景観を残し、次世代に受け継ぐ」ために、「自然と共生するゴルフ場」の経営を選択した山主のことなどが述べられています。
 第3章「残土・産廃戦争」では、全国的にも「廃棄物行政の立ち遅れは明らかで、それが今日のような『廃棄物列島』を遺産として出現させてしまった」として、「このように列島を廃棄物で荒廃させるまで、危機感を抱かなかった中央官庁や行政の責任は重い」と指摘し、今後は、「足かせ的な行政を改めて、ある程度、地方に条例などによる自由裁量を認めたほうが、即効的で、かつ実質的な廃棄物行政が展開されるものと思われる」と述べています。
 また、富津市田倉の産業廃棄物処分場建設をめぐる、地元住民・市議会・市長の反対や、「現場での県職員の制止を無視して、業者が森林の80パーセントを違法に伐採するという事件」が起きたことによる、県の許可取り消しと、業者からの行政不服審査請求に対する旧厚生省の「取り消し処分」の取り消し等について述べています。
 さらに、銚子市、海上町、東庄町等の東総台地を巡る「産廃戦争」に立ち向かっている住民の姿に、「『親分』とか『組合村』という昔の伝統がいまだに必要とされるような、わが国の社会体制の立ち遅れを感じざるを得ない」と語っています。
 そして、海上町等の処分場の設置の許可をめぐって、平成13年3月1日に「処分場の設置を許可し、計画地内にある県有地も業者に売却し」、「この数日後に沼田武知事が退任し、堂本暁子知事が就任」したことについて、「昭和56(1981)年から5期20年間にわたり、開発を優先させてきた沼田県政の最後の『起きみやげ』となった」と述べています。
 香川県の豊島(てしま)や青森・岩手県境の不適正な廃棄物処理の問題に関しては、「その廃棄物を排出した企業に、撤去や賠償などの責任が問われるようになった」と述べた上で、企業の責任が追求できないときに、「行政がわれわれの『税金』で撤去し、処理しなくてはならないので、そうなったときの手間や費用を考えると、産廃などの不法投棄がもたらす国家的な損失は測り知れないものとなる」と述べています。そして、豊島の事例において、「一貫して業者を弁護し続けた」香川県の姿勢を注目すべきであると述べています。
 第4章「人々の暮らしはどう変わったか」では、「昭和40(1965)年ごろまでは、この地方の山間部の集落のほとんどが「共有林」を所有し、管理」しており、家屋の屋根の材料である「茅山」が集落単位で維持、管理され、雑木林なども「年間を通して下刈りや枝払い、間伐などの共同作業が行われていた」と述べ、著者自身が高校卒業後、「集落の一員としてこれに加わり、年間の数十日を『山仕事』についやした」ことを語っています。
 また、ダンプ運転手たちの生活については、前著に収められている、小糸・小櫃で、採取場の宿舎や助手席に同乗して行った、昭和52(1977)年の面接調査60名の結果の概要を紹介した上で、四半世紀後の追跡調査として、
・「現在もダンプを続けている」――18名
・「帰省」――15名
・「倒産して夜逃げした」「リストラされて失業保険で生活中」――各1名
等を紹介し、中でも注目すべきは、
・「死亡」――7名
で、「そのうち脳卒中や心臓死が5名と多く、突然死亡したために地元の商店やガソリン・スタンドにかなりの借金を残した者もいる」と述べています。
 そして、平成13(2001)年現在のダンプカー運転手の実態として、ダンプ経営者2名と運転手5名に面接調査を行った結果を紹介しています。ある組合役員の話として、ダンプが当初は山砂業者や運送業者持ちの青ナンバーだったが、維持費や人件費がかさみ、危険が伴なうため、「そのようなリスクをダンプ運転手個人に負担させるような制度を建設業界が考案し」、運転手が銀行口座で手形を分割払いできる制度が生み出され、「このようにして運転手が『ダンプ持ち込み』で、業務上の危険を自ら負担し、『白ナンバー』で独立採算の形で営業するという『代車』制度が誕生した。これは以前、この街道を往復していた馬車引きが、馬と馬車を自分で用意し、事故などの危険負担も自分で背負って荷主に雇われていたのと同じカラクリで、建設業界やゼネコンにとっては安上がりで都合のいい制度だから、永年温存されて今日にいたっているのである」と述べています。
 著者は、「ダンプカーという大型車で、300キロ走っても総売上が3万円というのは、あまりにも安すぎる」と指摘し、「何年経っても『現代の女工哀史』という状況が改善されないことに、歯がゆさを感ずる」と語っています。
 第5章「今後に向けて」では、採取跡地の管理に関して、京都府城陽市では、平成元年に「財団法人・常陽山砂採取地整備公社」を設立して、「京都や大阪などから建設残土を搬入して採掘穴を埋め立てる」事業に取り組んでいることを紹介し、同公社の堀井次長の、「千葉県や君津市のように残土の埋め立てを規制するだけで、残土の埋め立てが適正に行われるだろうか」と、「受入れ策」を具体的に提示しない残土行政に対する疑問を紹介しています。
 最後に、1975年のイギリス環境省骨(建)材問題小委員会が出した報告書の提言として、
(1)建材の輸送には貨車輸送を拡充すべきである
(2)採取跡地は、当初のような生産が可能な農地に戻す研究が必要である
(3)海砂採取の規制緩和を
(4)建設業界は軽量骨材と廃棄物のリサイクルを促進すべきである
(5)採取可能な埋蔵資源のアセスメントを
(6)建材として使える花崗岩を埋蔵しており、かつ海上輸送が可能な巨大な採取地の開発
の6項目を紹介した上で、「わが国の今後の建材供給体制や、廃棄物の処分方法の改善策」を述べています。
 本書は、産業と開発の陰の部分を、20年以上現場に関わった経験を基にくっきりと伝えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書で注目されるのは、前著でインタビューした60人のダンプカー運転手たちの追跡調査です。できれば、健康状態の調査も見てみたいところですが、こうした調査ができるのも、地道な調査と活動を永年続けてきた著者の根気の賜物だと思います。


■ どんな人にオススメ?

・姿が変わる前の房総の山を見たことがない人。


■ 関連しそうな本

 佐久間 充 『ああダンプ街道』 2007年10月03日
 アレックス カー 『犬と鬼―知られざる日本の肖像』 『美しき日本の残像』 
 石渡 正佳 『産廃コネクション―産廃Gメンが告発!不法投棄ビジネスの真相』 2006年03月28日
 石渡 正佳 『産廃ビジネスの経営学』 2006年04月11日
 石渡 正佳 『リサイクルアンダーワールド―産廃Gメンが告発!黒い循環ビジネス』 


■ 百夜百マンガ

花園メリーゴーランド【花園メリーゴーランド 】

 失われた日本の集落?なのかどうかは分かりませんが、作者はバリバリの千葉人です。そうなるとモデルの集落は千葉?

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