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2007年10月26日 (金)

警察の社会史

■ 書籍情報

警察の社会史   【警察の社会史】(#1009)

  大日方 純夫
  価格: ¥591 (税込)
  岩波書店(1993/03)

 本書は、「『民衆の警察化』が典型的に推し進められた大正デモクラシー時期を中心に、社会生活のすみずみにまで及んだ『行政警察』の全体像を解明する」(表紙裏より)ものです。著者は、近代日本警察史を研究テーマに選んだ理由として、「日本近代警察が巨大な影響力をもっていたにもかかわらず、ほとんどまともには歴史研究の対象にされてこなかった」ことを挙げています。
 序章「警察廃止をめぐる二つの事件」では、ポーツマス条約の調印をめぐる集会規制に端を発した1905年の日比谷焼打事件と、1926年に地方官官制の改正に伴う警察署廃止に抗議する群集が長野県庁になだれ込んだ長野県「警廃」事件を取り上げています。前者では、「民衆は一面で警察を恐怖し、非難しつつ、多面で警察から離反し、警察を忌避していった」と述べ、事件を期に、「種と警察として特別の国家的性格を与えられ、東京府から独立して警察行政全般に絶大な権限を振るっていた」警視庁に対して、「藩閥官僚政府への直結性」と「その政治的性格」に批判が集まり、「警視庁廃止論」が提起されたことが解説されています。また、後者については、「有力者中心の運動であり、地方的な利益の主張と、官僚先生に対する批判とが結びついたものであった」とされているが、この「地方的利益」について、「各地域に配置された警察の拠点組織である警察署は、強力・広大な権限をもつがゆえに、各地域の住民の日常生活と密接にかかわりあっていくこととなった」と述べています。
 著者は、この2つの事件を、「廃止か存続かという点ではベクトルの方向はまったく逆」だが、「警察と民衆のぬきさしならない関係を、極限的な形で表現したものであった」と解説しています。
 第1章「行政警察の論理と領域」では、行政警察が重視された理由として、「『予防』こそが中心的任務」とされ、「究極のところ、民衆の秩序を解体し、国家的秩序へと民衆生活を再編成することが、警察活動の目的であった」と述べています。そして、行政警察の具体例として、「風俗警察」「営業警察」「交通警察」を取り上げ、「芝居にも、寄席にも、見世物にも、遊技にも、さまざまな規制がくわえられ」ている例を示し、「警察全体が民衆の生活にどれほどの規制を加えていたのか、おのずから浮かび上がってこよう」と述べています。
 また、当時の地方警察の活動実態を示す資料がはなはだ乏しいなか、偶然、古書店目録で発見した「警察叢書」という熊谷警察署関連の文書との出会いを語り、「地方警察の実態を示すまとまった資料として珍しいだけでなく、警察活動が新たな展開を始める日露戦争前後の状況を伝えるものとして貴重である」と述べています。
 さらに、衛生行政に関して、「衛生組合は、社会生活維持のため必要な機能を確かに果たしていた」」が、「問題は、これが警察活動のなかにくみこまれ、警察強力組織としても機能していたこと」であると述べています。
 第2章「変動する警察」では、日比谷焼打事件後に内務大臣であった原敬が、警視庁の改革を行い、人事の面では、第三部長(警察医長)以外の3部長全員が更迭され、4人の警察署長が依願免官、2人が休職となるという大ナタを振るい、制度の面では、「多衆運動」取締りを担当する「高等課」が新設されたことなどが解説されています。
 また、米騒動後に本格化した「警察と民衆の新しい関係を作り出す活動」のリーダーの一人である警察官僚松井茂が、
・民衆のなかに警察活動を支持する基盤を作り出すこと。
・一般行政と警察行政の連携を強めること。
の2点を強調したことを紹介しています。
 さらに、米騒動の鎮圧活動に際して、警察が得た重要な教訓として、「青年団・在郷軍人会・消防組を核とする警察協力組織、『自衛団』の有効性であった」ことを指摘しています。
 第3章「『警察の民衆化』と『民衆の警察化』」では、1910年代後半に、内務大臣後藤新平が、若手官僚を積極的にヨーロッパに派遣し、彼らが、欧米の警察から、「民衆と警察とが相互に理解と同情とを以って親和している」ことに感銘を受け、このことが、「警察の民衆化」「民衆の警察化」の動きと呼応していったと述べています。
 そして、「警察活動の基盤を民衆の中に広げ、民衆の同意と協賛を調達することによって秩序の維持をはかろうとして、警察は積極的に民衆に対して宣伝する姿勢をとりはじめる」として、交通安全運動、安全週間・災害防止週間などのキャンペーンが展開されたほか、各地の警察にも新しい動きが現れ、千葉県では、「管下の各町村に数箇所の掲示板を設置して、それぞれの時期に応じた注意事項を掲示し、各警察署では講演や印刷物によって趣旨の徹底につとめた」こと、和歌山県では「社会奉仕日』の活動が取り組まれたことなどが紹介されています。また、千葉県警察部が、全国に先駆けて「国民警察」の鼓舞につとめたことについて、大々的に展開された「国民警察日」と「警察展覧会」の活動を紹介し、「すべてを警察に任せるような時代錯誤の考えは一掃し、『完全なる民衆の警察化』につとめ、『無剣の警察官』だという信念を民衆にもたせなければならない。そのためには教育が一番だ」という開催趣旨を紹介しています。
 また、警察による「人事相談所」の開設について、「警察が『積極的』に社会との接点を拡大し、矛盾の未然防止機能を担おうとするものであった」と述べ、その使命は、
(1)狭義の予防警察
(2)思想問題の善導と社会教育
(3)参考資料の提供
の3点とされているが、「やんわりと受けて、帰る時にはぐんにゃりとさせてしまうこと」も職務だとされ、「結局はなだめて、泣き寝入りさせてしまった」例を紹介しています。
 著者は、「警察の民衆化と民衆の警察化」を、「国内外におけるデモクラシーの潮流の中で、模索された警察のあたらしいあり方」であり、「その直接のきっかけは、国内の米騒動と、国外のロシア革命であった」と述べ、「警察の民衆化」が、「一面でデモクラシー状況に対する警察の改善、政治警察・官僚警察の改良をはかるという側面をもちながらも、多面では、より深く民衆のなかから秩序の維持をはかり、デモクラシー状況をしたから掘り崩していこうとするものだった」と解説しています。
 第4章「『国民警察』のゆくえ」では、関東大震災後、「かねてから追及してきた民衆自身の『自警』活動への期待」が対策として立てられたことを解説しています。さまざまな流言が飛び交う不安と混乱の中で、「文字通り民衆自身が『警察』と」なり、「この『民衆警察』の組織が、『自警団』と総称されたもの」であると述べ、自警団に加わった人々が、「それぞれ刀・木刀・棍棒・竹槍・銃をはじめ、鳶口・鍬・玄能・熊手・鎌・鋸など、およそあらゆる『凶戎器』をもって町村の要所や出入り口に非常線を張り、通行人を検問」し、「朝鮮人の疑いがあれば検束して連行したり、虐殺したりした」と述べています。そしえt、警察は自警団について、「『自警』の活動そのものは評価しつつ、統制下で大いに活用しようとしていた」が、9月4日以降、「検問・虐殺など、自警団の弊害があまりにも大きくなった」ため、統制が厳しくなったと述べています。
 終章「戦後警察への軌跡」では、1880年代の政府が、「国家のモデルをプロシアに求め、警察についてもプロシアの制度に学ぼうとした」が、「その際、日本の近代警察はプロシア警察にはらまれていた自治的性格さえも否定し去り内務大臣指揮下の知事の下に、極度に中央集権的・国家的な制度をもって確立された」と述べています。
 そして、日本近代警察の機能上の特徴として、「無限定な膨張性と、政治性とりわけ政府(ないし特定勢力)直結の私兵性にあった」ことを指摘しています。
 また、戦後のGHQによる警察法の改正によって、「警察は、国民の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の操作、被疑者の逮捕及び公安の維持にあたることを以って責務とする」と規定され、「警察の活動は厳格にこの範囲にかぎられる」とされ、「産業・衛生などに関する事務は、他の行政機関にゆだねられることとなった」と述べています。
 さらいん、「戦前的な警察への回帰の試み」が、「あたらしい装い」で現れ、「70年代から警察権限の膨張と警察基盤の拡大がはじまった」として、
(1)「国民の要望に即した警察運営」を掲げて、公害規制・交通政策・暴力取締・少年警察などの領域に警察活動を拡大しようとしたこと。
(2)「国民との連けいの強化」を主張し、外勤警察の機能を強め、CR(コミュニティ・リレーションズ)活動を本格化させながら、警察のもとに住民を組織化しようとした。
の2点を挙げています。
 本書は、戦前の警察のあり方を中心としながらも、現代の警察を見る視点を提供してくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 警察に感心するのは、行政以上に住民の動員、特に幼稚園児や小学生の取り込み方が上手な点です。社会見学として、交通管制センターに行ったり、交通安全教室を開いたり、という活動の成果なのだと思うのですが、消防士と並んで子どもたちの憧れの的になっています。
 本書を読む前は、「子供はお巡りさんに憧れるものだ」と素直に思っていましたが、その背景に戦前から続く「民衆の警察化」の活動の系譜があることを知ってしまうと複雑な気持です。


■ どんな人にオススメ?

・子供がお巡りさんに憧れる理由を知りたい人。


■ 関連しそうな本

 大日方 純夫 『近代日本の警察と地域社会』 2007年04月18日
 竹前 栄治, 中村 隆英, 天川 晃 『GHQ日本占領史 (15)警察改革と治安政策』 2007年02月01日
 青木 理 『日本の公安警察』 2007年05月04日
 荻野 富士夫 『戦後治安体制の確立』 2007年05月28日
 勝田 政治 『内務省と明治国家形成』 2007年02月16日
 大日方 純夫 『日本近代国家の成立と警察』


■ 百夜百マンガ

新巨人の星【新巨人の星 】

 「巨人の星」の星飛馬の顔に慣れ親しんでいた子供時代は、5年後のゴツイ顔に違和感を覚え、あまり入り込めませんでしたが、今読んだら面白いのかもしれません。確か、外野からバックホームしなくてはならなくなり、やむなく右手で投げたら剛速球を投げることができ、そのことで右利きであったことに気づく、というような話だったと記憶しています。

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