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2008年2月12日 (火)

ワークライフバランス入門―日本を元気にする処方箋

■ 書籍情報

ワークライフバランス入門―日本を元気にする処方箋   【ワークライフバランス入門―日本を元気にする処方箋】(#1118)

  荒金 雅子
  価格: ¥1575 (税込)
  ミネルヴァ書房(2007/11)

 本書は、ワークライフバランス(WLB)の重要性を「さまざまな立場から理解、共有してもらうこと、そして、WLBの実践に向けて何から始めればよいのか、そのヒントを提供すること」を目的としたものです。
 第1章「今、なぜワークライフバランスなのか」では、「食べていくために、私たちは何をどのくらい犠牲にしなければならないのでしょうか」と考えたときに、「経済が右肩上がりの高成長期は『犠牲』に対する見返りが大きかった」が、今は、「ご褒美がもらえるかどうかわからない不安な状態での『犠牲』」であるを指摘し、「私たちが追及する『豊かさ』が変わったのですから、当然それに合うように経済・社会システムも変わらなければなりません」と述べています。
 そして、慢性的な長時間労働が、「労働者自身の健康、生産性、労働者の家族にマイナスの影響を与える可能性が高い」として、「長時間労働をはじめとする働き方を見直すことは、労働者の健康、企業の業績、そして家族関係、これらすべてを改善する鍵」となり、「それを実現させるために、ワークライフバランス(以下、WLB)という考え方や意義を皆で理解、共有していく必要がある」と述べています。
 また、ワークライフバランスの意義について、
(1)双方が得をするWin-Winの関係が築ける
(2)多様化に柔軟に対応できる
(3)暮らしのなかで高まるリスクに柔軟に対応できる
の3点を挙げています。
 第2章「企業経営とワークライフバランス」では、1990年代までの福利厚生施策が、「終身雇用制度を前提に『家族を支える男性社員とその家族』というくくりで成り立っており、世帯主である男性に手厚い施策」となっていたが、1990年代後半から、「少子高齢化や働く女性の増加、個人の価値観の多様化などを背景に、働くものすべての家庭責任に配慮し仕事と家庭の両立を支援するため、育児や介護に関する施策の充実が求められるように」なったことが解説されています。
 そして、企業がWLBを推進する本汁的な意義として、「社員が仕事と私生活のバランスをとりながら、もてる能力を最大限に発揮するようサポートすること」であると述べ、「実際にWLBを推進している企業は、働きやすい職場環境を提供することで、社員の満足度を高め、経験を積んだ優秀な人材を維持し続けることが可能となり、それによって業績向上につながるということを確信している」と述べています。
 また、「独創性やアイデアによって成長する知識創造型企業がますます重要視されるなか、生産性・競争力を測る指標は『時間や量」から、『仕事の質や成果』に変化」しているとした上で、「これまでの仕事の内容ややり方を見直し新しい働き方を構築するというプロセスが必要」となると述べ、仕事の再設計のポイントとして、
(1)仕事と理想的な社員像についての既存の価値観・規範を見直すこと
(2)習慣的な仕事のやり方を見直すこと
(3)仕事の効率と効果を向上させ、同時に仕事と私生活の共存をサポートすること
の3点を挙げています。
 第3章「企業のワークライフバランス取り組み実践例」では、中小企業で仕事と育児を両立しやすい要因として、
(1)「能力」を評価し、キャリアロスが少ない
(2)役職の階層がフラット
(3)職住接近の職場環境
(4)職場に子どもを連れてこられる雰囲気
(5)女性活用をめぐる多様性
の5点を紹介しています。
 そして、ワークライフバランス成功の秘訣として、
(1)会社の本気度が社員にみえていること
(2)社員の自律性を高める
(3)公平・公正な施策で処遇のアンバランスをなくす
(4)所得ロス・キャリアロスを生じさせない工夫を
の4点を挙げています。
 第5章「世界のワークライフバランス」では、諸外国における取り組みとして、
・アメリカ:企業主導型で、経営戦略として発展
・イギリス:企業主導から政府主導で柔軟な就労形態支援へ
・フランス:女性の両立支援を目的に家族政策として推進中
・ドイツ:国力を高めるという視点から家族に優しい環境作りを推進
・シンガポール:表彰制度で企業のWLB推進をバックアップ
などの紹介をしています。なかでも、ドイツについては、日本・イタリアと並ぶ「超少子化国」であるとして、この3国の共通点が、「子育ては母親が行うべきもの」という性別役割分担意識が社会の中に根強く残っていることを指摘しています。
 第6章「個人とワークライフバランスのあり方」では、「多様化」が、「多くの人に、人生の質を問うことの契機」となり、「生き方が多様になり、人とは違う自分独自の個性的な生き方を人々が求め始め」たとして、「QOL (Quality Of Life)」の視点が導入されたと述べています。
 (株)ワーク・ライフバランス社の小室淑恵社長のコラムでは、「企業内におけるワークライフバランスへの取組みが、決して国の少子化対策のためではなく、企業の生き残りをかけた戦略の一環として必要になってきた」とした上で、これから政府・企業に期待することとして、「男性の働き方の見直しであり、ここを根本的に改善するための、仕事の効率化を高める手段や政策、管理職の意識改革を行わないかぎり」、合計特殊出生率は「1.3をピークとして再降下をたどることになる」と指摘しています。
 第7章「父親にとってのワークライフバランス」では、WLBの観点から、「最もそのバランスが悪い集団」は、働き盛りといわれている20~40代の男性であるとして、「最もその特徴を現しているのが『長時間労働』」であると指摘したうえで、帰宅時間の日常的な遅延化が、
・精神的・肉体的な負担を強いり健康を根底から脅かす
・家族との時間を奪い、母親の育児を孤立させる
ことを指摘し、「男性のWLBを考えることは、子どもやパートナーあるいは家族や社会を考える大きな契機でもある」と述べています。
 そして、大きな社会変化を受けて「父親の存在や行き方も変化を遂げ」たとして、
(1)核家族の中で家族の役割自体が変化した
(2)経済社会の発展により家族内の機能が外注化され、その家族ごとに家族内機能と役割が複雑かつ多様化した
の2点を挙げ、「現代社会において絶対的な父親像が不在の時代である」と指摘しています。
 また、男性のWLBの意義として、「その社会の変化とともに男性の生き方を豊かにしていくこと」であり、「男性をエンパワーメントし、また男性を救うものとなる」と述べています。
 さらに、父親の育児参加がもたらす社会の変化として、
(1)子どもが豊かな価値観の中で育つ
(2)母親の育児不安や育児ノイローゼなどの解消につながる
の2点を挙げています。
 第8章「ワークライフバランスとキャリアデザイン」では、「WLBを実践するためには、マインド(思考)とともにスキルが必要」であるとして、
(1)ストレスマネジメント
(2)タイムマネジメント(時間管理)
(3)コミュニケーションスキル
の代表的な3つのスキルを挙げています。
 また、自分らしいWLBを実践していくための効果的な方法として、
(1)考え方を変える
(2)話し方を変える
(3)行動を変える
の3点を紹介しています。
 本書は、単なる理念や問題提起だけでなく、より具体的にWLBを考えるきっかけを与えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 内閣府にも「仕事と生活の調和推進室」が設けられ、ワークライフバランスも徐々に一般的な言葉になってきましたが、まだ抵抗や偏見をもつ人も少なくないのではないかと思います。
 そんな先入観を打ち破ってくれるようなスター級のビジネスマンと言うか、モデルになるような人の登場が望まれます。


■ どんな人にオススメ?

・ワークライフバランスは福利厚生だと思っている人。


■ 関連しそうな本

 小室 淑恵 『新しい人事戦略 ワークライフバランス―考え方と導入法―』 2007年08月22日
 大沢 真知子 『ワークライフバランス社会へ―個人が主役の働き方』 2006年07月24日
 佐藤 博樹, 佐藤 厚 (編集) 『仕事の社会学―変貌する働き方』 2005年12月01日
 佐藤 博樹 『変わる働き方とキャリア・デザイン』 2006年05月22日
 パク ジョアン・スックチャ 『会社人間が会社をつぶす―ワーク・ライフ・バランスの提案』 2006年10月13日
 小室 淑恵 『結果を出して定時に帰る時間術』


■ 百夜百マンガ

陽あたり良好【陽あたり良好 】

 わだち先生の初期のヒット作。少女漫画誌に連載されていたため、竹本孝之主演のテレビドラマで見た人が結構多いのではないかと思います。

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