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2009年3月30日 (月)

ポリティカル・セックスアピール―米大統領とハリウッド

■ 書籍情報

ポリティカル・セックスアピール―米大統領とハリウッド   【ポリティカル・セックスアピール―米大統領とハリウッド】(#1530)

  井上 篤夫
  価格: ¥714 (税込)
  新潮社(2008/07)

 本書は、「政策や主義主張を語る前に、有権者を惹きつける力があるかどうか」という「ポリティカル。セックスアピール」という言葉について、「現代のアメリカ大統領に必要な資質は、その政治家としての力量はもちろんのこと、映画俳優のような魅力なのだ」としたうえで、「ハリウッドとワシントンがどのようにして結びついたのか、そのアメリカの政治史、とくに大統領のあり方について振り返りながら、今日ではいかに両者が記っても切れない存在になっているのか、その濃密な関係を検証して」いるものです。
 第1章「ハリウッドのダビデ王──1990年代」では、「ミスター・ハリウッド」の異名をとる、音楽・映画プロデューサーのデヴィッド・ゲフェンについて、「間違いなく現代のアメリカンドリームを実現した人物のひとり」だと述べ、「原石を見つけ、育てる才能がゲフェンにはある。ひと目見て電流が流れるかどうか、インスピレーションを感じるかどうか、『愛せるかどうか』が、ゲフェンが金の卵を見分ける物差しなのだ」と述べています。
 そして、1992年に、大統領候補クリントンに、「多数の業界のプロたちが、スピーチ演出、舞台設営、テレビ・ラジオ出演の取り付けなど、各方面で協力」したことについて、「クリントンは政治を近代化した」、すなわち、「政治をハリウッド化した」と述べ、「ゲフェンとクリントンとの関係は、ハリウッドにおける政治のあり方を変えると同時に、ハリウッドの影響力の巨大さをホワイトハウスに証明した」と述べています。
 第2章「黎明期、『ハンサムな巨人』の登場──1920~50年代」では、「ハリウッドと大統領の関係」について、「ハリウッドと政治の深い関わりは20世紀初頭に遡る」として、「映画を政治に利用したのは、ウッドロウ・ウィルソンが最初」だと述べた上で、レーガン大統領のスピーチ・コリオグラファー(振り付け師)であった政治評論家デヴィッド・ガーゲンの言葉として、「名を残している大統領はみな、民主主義国家のリーダーたるには演劇的素養が不可欠であることを知っていた」という言葉を紹介しています。
 そして、JFKについて、青年期のケネディが夢中になったのは、「美人のあとを追いかけること」だったとして、政治家になった後も、「多くのハリウッド女優たちとも関係を持った」と述べ、「ケネディの登場により、この時代、ハリウッドと政治の結びつきは強まった」と述べています。
 第3章「ニューフロンティア──1960年代」では、「60年代後半、アメリカ社会における政府への怒りは『沸点』に達していた」として、「ニクソン大統領が『誇り高き平和』公約を撤回し、戦闘が激化するや、さすがに保守層の間からも愛国主義は立ち消えていた。映画界は、一気に戦争反対に傾いていく」と述べています。
 第4章「権力と反戦──1970年代」では、「政界の大物とつながっていたハリウッドの興味深いひとり」としてロバート・エヴァンズという人物を挙げ、彼がキッシンジャーと「馬が合う」ことについて、「ハリウッドと政治は、一枚のコインの表と裏」という見解を共有していたと述べています。
 そして、1972年1月に、ニクソンとその取り巻きの嫉妬を買ったことでホワイトハウスから追い出されそうになったキッシンジャーが、エヴァンズに助けを求め、エヴァンズは、「状況打開に動いてくれそうなマスコミの人物を15人リストアップ」し、翌月5日には、『ライフ』に「キッシンジャーを賛美する特集」が掲載され、その3日後には、『タイム』の表紙をキッシンジャーの顔が飾っていたとして、「エヴァンズはメディアを駆使して、『ニクソンになくてはならない優れた人材』としてキッシンジャーを広く世に認めさせた」と述べています。
 そして、ハリウッド・スターの政治への関わり方として、
(1)スター自身があくまで在野の存在として独自に社会運動を行う場合。
(2)支持する政治家を公然と表明し、応援する場合。
(3)本人が政治家を志す場合。
の3点を挙げています。
 第5章「三人の象徴的な人物像──1980~90年代」では、1981年のレーガン政権誕生について、「ハリウッドのリベラルたちにとって不本意ではあったが、スターが政治に関与できることの証明ともなった」と述べたうえで、「レーガンが、その政治的資質を決定的に認められ、『俳優の政界入り』がメディアをにぎわすようになったのは、60年、SAGが大規模なストライキを敢行したときのこと」だとして、レーガンが「数百人の俳優と映画関係者を前に会長として演説を行い、ストライキを止めた」ときの鮮やかな演説がきっかけとなって州知事候補の白羽の矢が立てられたと述べています。
 そして、レーガンが、知事選出馬表明会見で、「どんな知事になりたいか」と問われ、「その役は一度も演じたことがないから、分からない」とユーモアたっぷりに応えたことを紹介しています。
 また、「映画は民意を反映する。たとえそれが作られた役柄であろうとも、民衆の心を掴むスターには、その時代の大衆の求める理想的人間像が現れる」として、「おそらくもっとも大統領にふさわしい俳優、いや、実際のアメリカ大統領になってもおかしくない人物」としてクリント・イーストウッドを挙げています。
 さらに、アーノルド・シュワルツェネッガーが、第41代大統領ジョージ・ブッシュ(シニア)と交流があり、「コナン・ザ・リパブリカン」(共和党のコナン)と呼ばれていた上に、「ケネディ一家」の妻を迎えたことが、「政治に足を踏み入れる大きな力となった」と述べ、カリフォルニア州知事選挙では、「完璧なスタッフを適材適所に布陣」するとともに、「わかりやすいメッセージを送った」ことが決定的だったと述べています。
 著者は、「FDR、ケネディ、LBJ、カーターなど、これまでもハリウッドに『近い』立場の政治家はたくさんいた」が、「実際に、人々の目に見える形でハリウッドとワシントンの両方を結びつけたのは、この3人が初めてと言っていいだろう」として、「エンターテインメント業界における地位と権力、そしてスターの名声は、スクリーンの上だけではなく、そのまま現実世界をも左右することのできる力となっている」と述べています。
 第6章「セックスアピールは口ほどにものを言う──現在から未来へ」では、デヴィッド・ゲフェンが、「ハリウッドで生きるためにはセクシーさが必要なんだ」と語っていることについて、「ハリウッドの新帝王デヴィッド・ゲフェンは、新人スターだった頃のトム・クルーズに見出した同じ可能性をオバマに見ている」と述べ、「大統領たる人物は、国民に感動と希望を呼び起こすことのできる資質を備えていなければならない。ゲフェンは若きオバマにその資質を見たのだ」と述べています。
 著者は、「現代の政治において最も大切なものは政策や主義主張の以前に、有権者を『惹きつけてやまない力』があるかどうか」だとして、「アメリカ大統領に必須の条件は、カリスマ性はもちろんのこと、映画俳優のようなセックスアピールにあふれた魅力、それにそう見せるための表現力なのである」と述べ、「いまや大統領の選択基準は、いわば『ミスター&ミス・コンテスト』の選択基準に近いと言えるかもしれない」と述べています。
 本書は、今、政治の世界で起きている現象の一面を分かりやすく解説した一冊です。


■ 個人的な視点から

 日本でも、選挙の応援演説に芸能人が登場するのはすっかりおなじみになりましたし、芸能人が政治家になることもずいぶん増え、ニュースキャスターを務めたりすると「政界進出を狙っているのか」と言われることも多いようです。一方で、国会議員がテレビ番組に登場することも多くなり、政治家とタレントの境界線はずいぶん低くなっているようです。相乗効果で双方が高まってくれれば有権者にとってプラスですが、衆愚政治に陥る危険を孕んでいるという指摘もあるようです。


■ どんな人にオススメ?

・投票基準は「名前を知っているかどうか」な人。


■ 関連しそうな本

 三浦博史 『洗脳選挙』 2009年03月23日
 ウィリアム パウンドストーン (著), 篠儀直子 (翻訳) 『選挙のパラドクス―なぜあの人が選ばれるのか?』 2009年02月26日
 高木 徹 『ドキュメント 戦争広告代理店―情報操作とボスニア紛争』 2006年11月27日
 井上 和子 『選挙裏物語―「当選確率80%」スゴ腕選挙コーディネーターが明かす選挙のすべて』 2007年10月30日
 アンヌ・モレリ (著), 永田 千奈 (翻訳) 『戦争プロパガンダ 10の法則』 2007年11月01日
 堀田 佳男 『大統領はカネで買えるか?―5000億円米大統領選ビジネスの全貌』 2008年11月08日


■ 百夜百マンガ

戦国自衛隊【戦国自衛隊 】

 SFと戦記ものと戦国ものという、それぞれに熱烈なファンがいるオタクジャンルを3つまとめてミックスジュースにしてしまった傑作。それゆえにそれぞれのオタクの細かいチェックが入るのが面倒ながらも楽しそうです。

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コメント

私もこの本を買ったのですが、読む前に戸崎さんに先を越されてしまった。
頑張って読みます。(その後、戸崎さんの書評読みます、がまん、がまん)

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