« スポーツマンガの身体 | トップページ | 漫画の歴史 »

2010年1月25日 (月)

ぼくのマンガ人生

■ 書籍情報

ぼくのマンガ人生   【ぼくのマンガ人生】(#1831)

  手塚 治虫
  価格: ¥777 (税込)
  岩波書店(1997/05)

  本書は、1986年から88年にかけての手塚先生の講演記録から「少年時代に始まるマンガ家の人生をまとめたもの」です。
 第1章「マンガを描きはじめた頃」では、いじめられっ子だった著者が、「自己防衛手段」として、「特殊技能を身につけること」を考え、「いじめる連中にできなくて、ぼくにだけできることをつくろう」と考えたことから、家にあった200冊のマンガを、いじめっ子も読みに来るようになり、「おかげで学校でも、しだいにぼくに対してはいじめもなくなって、仲良しが増えて」きたのは、「マンガの功徳です。マンガ大明神さまさま」だと語っています。
 また、友人の今中宏君の家のご隠居の顔が、「たいへんマンガ的な顔」をしていたので、はじめてのキャラクター「ヒゲオヤジ」を考え付いたと語っています。
 第2章「すばらしい先生たちとの出会い」では、「綴り方教育」といって、「子供に好きなように作文を書かせる、それもたくさん書かせる」という教育をされた小学校の乾秀雄先生との出会いによって、「物語をつくる喜び」を知り、調子に乗ると何十枚も書き続けることがあったと語っています。
 また、中学時代の美術の先生、岡島吉郎先生からは、「マンガを描くなどとは、戦時下に、何たることか」という世相の中で、「手塚はこれが才能なんだから」と擁護し、「どんなに戦争が激しくなっても、たとえ兵隊にとられるようなことがあっても、マンガを描くことだけ早めるなよ。お前はきっと、いつか、それで身を立てられるチャンスがあるんだから。いまはこういう時勢なんだが、あきらめちゃいかんぞ」と励まされたと語っています。
 第3章「ぼくの戦争体験」では、戦争末期の大阪大空襲について、「大阪の方向や、阪神沿線を見ると、真っ黒な雲の下が赤く光っています。それもふつうの赤ではありません。ちょっと形容のしがたい赤色なのです。赤いイルミネーションのようです。それを見ているうちに、現実の世界ではないのではないか、もしかしたら夢を見ているのではないか、あるいはぼくはもう死んでしまって、地獄なのではないかという気が一瞬した」と語っています。
 そして、8月15日の終戦の日に、「阪急百貨店のシャンデリアがパーッとついている」のを見て、「ああ、生きていてよかった」と思い、「それまでの人生の中で最高の体験」だったと述べ、「それがこの40年間、僕のマンガを描く支えになっています。ぼくのマンガでは、いろいろなものを描いていますが、基本的なテーマはそれなのです」と語っています。
 第4章「『生命の尊厳』がぼくのテーマ」では、病院に勤め始めてからもマンガを描き続け、「一人で宿直室で徹夜して原稿を描いても、とても締切には間に合」わないので、一人の看護婦さんに手伝わせたところ、「手塚が毎晩毎晩、看護婦を部屋に引きずり込んで、中から鍵をかけて何かしている、看護婦は非常に疲れた顔をしている」ということで、「病院に変なうわさ」が経ったと語っています。
 また、入院患者が亡くなる瞬間に、「それまでしかめっ面して、頬がやせこけてほんとうに見るのも哀れな要望だったのが、一瞬非常に神秘的な美しい顔になった」のを見て、「ああ、人間の死というのはこんなものだったのか」、「もしかしたら死というものは、われわれが頭の中で考えている苦しみを超越したものではないだろうか。何か大きな生命力みたいな物があって、人間という肉体に宿っているのは、そのうちのごく一部の、一時の期間に過ぎない」のではないかと思ったとして、「僕は前にも増して生命の神秘というものを直接に感じ」田と語っています。
 第5章「アニメーションをつくる」では、鉄腕アトムの頭に「かならず角が動いて2本に見えるようになっている」のは、「ミッキーマウスの耳から完全に影響を受けている」としたうえで、上半身が裸なこと、ドタ靴を履いていること、指が4本で、手袋に穴が開いていること、などを語っています。
 第6章「子供は真剣なメッセージを待っている」では、永井豪の『ハレンチ学園』が子供に絶大な人気で迎えられたことについて、「もしかしたら、当時、子供のあいだではすでに教師に対する不信感がおこりつつあったのかもしれません。ダメ教師に対する無言の反感が、この作品に拍手を送らせたのかもしれません」と語っています。
 第7章「人間性こそ大切」では、自身の体験から「好きなことで、ぜったいにあきないものを一つ、つづけてほしい」と語り、「何でもいいから、一つのことを高校二年生ぐらいまでつづけていると、それはかならず何らかの形で皆さんの宝物になる」と述べ、「大きくなってからは、すくなくとも二つの希望を持ち、二つのことをつづけることです。いろいろな条件で一つが挫折することになっても、もう一つは残ります」と語っています。
 本書は、「マンガの神様」が何を考え、何を語ってきたのかを伝えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 「マンガが得意ないじめられっ子」っていうモチーフは、おそらく手塚先生を出発点に色々なモチーフが漫画に登場しているのではないかと思います。とはいえ、いじめられなくなるほどの特技というのは現実には少ないとも思うのですが。


■ どんな人にオススメ?

・「神様」の幼少時を知りたい人。


« スポーツマンガの身体 | トップページ | 漫画の歴史 »

文化面」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1244312/33994947

この記事へのトラックバック一覧です: ぼくのマンガ人生:

« スポーツマンガの身体 | トップページ | 漫画の歴史 »

2016年12月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

最近のトラックバック

無料ブログはココログ