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2010年1月27日 (水)

マンガと「戦争」

■ 書籍情報

マンガと「戦争」   【マンガと「戦争」】(#1833)

  夏目 房之介
  価格: ¥735 (税込)
  講談社(1997/12/18)

 本書は、「時代がくだるにしたがって日本人の戦争観がどんどん中性的(ニュートラル)になっていく」ことを前提として、「漫画に描かれた『戦争』イメージの変遷」を描いたものです。
 第1章「手塚漫画と戦争」では、「異者同士の矛盾と和解という、手塚マンガを貫くテーマの説得力は、手塚自身に内在した矛盾感情の振幅から来ていた」として、「だから矛盾を置き忘れたような単純な善悪の堆肥や、その枠内での正義の味方の英雄行動には、手塚漫画は相対的であろうとした」と述べています。
 第2章「戦記物ブームと『紫電改のタカ』」では、主人公滝が、特攻を「犬死に」だと断じるところに「ちば自身の思いを感じる」として、「滝の、少年マンガの類型を逸脱した自己主張は、連載終了当時26歳のちば自信のものだった。一言で言えばそれは、何はともあれ『生きる』ことのほうがいいことだ、ということにつきる。この部分は幼少のちば自信の、家族で命からがら大陸から引き揚げてきた敗戦体験から来ると同時に、彼が手塚漫画の水脈から継承した戦後思想の一つの粋であったように私には見える」と述べています。
 第3章「水木しげると戦記マンガ」では、水木の自伝的戦記物には、「生々しい体験の描写が活きてくる」として、「とりわけ戦場の兵士たちの、死と生ぎりぎりの場面の描写は、手塚の理念的な戦争描写では達し得ない迫真性があった。ことに戦争による兵士の死の描写は、まったく劇的でない」として、「ふいいんつまずいて転んだような偶然として描かれる」事を指摘しています。
 そして、「水木は戦争体験の圧力によって日常的な倫理、規範の場所から遥か遠くまで吹き飛ばされてしまったのではないか」と述べています。
 第9章「神話とシミュレーション」では、『ナウシカ』のマンガ表現としての面白さについて、
(1)優れたアニメ画面の運動感の再現のようなコマ展開
(2)腐海や虫、あるいは奇妙な戦艦の造形であり、そこには独特の生物的な歪みの誇張がある
の2点を挙げたうえで、「宗教的な領分から『人間』へと引き返した宮崎には、手塚の倫理に似たものを感じる。手塚は、戦争体験からきた、ユートピアと人間との矛盾感情を、生涯持ち続けた。宮崎の《ヤバイ》感覚は、手塚以来戦後の漫画が持ち得た、まっとうなバランス感覚ではないか」と述べています。
 第10章「『戦争』と身体」では、「60年代までの漫画における『戦争』は、ヒーローによる忍法・スポーツ的戦闘(戦記物少年マンガ)だったり、未来や過去の仮託された戦争寓話(手塚、白土)だったり、平凡な人間の体験回顧的作品(水木、滝田)だったりした。『戦争』は、じっさいの体験に通じるものであれ、通俗的な戦闘活劇であれ、人間の身体の外側に起きたことがらだった」が、70年代に、「作家の層が戦争世代から戦後世代へと交代していく」中で、「『戦争』イメージは、個人のたたかいというリアリティと、自己否定的な心情によって内向する」として、「70年代以降、体験の蓄積されにくい身体からの救済や再生が、マンガの『戦争』イメージに求められてきたようだ」と指摘しています。
 本書は、マンガに描かれた「戦争」から、読む側の変化を読み解いた一冊です。


■ 個人的な視点から

 戦争もののマンガは好きな人は好きですが、そこに描かれているのは戦争そのものではなく、男の子的な機械に対する愛情だったり政治だったりするような気がします。
 むしろそうでないマンガ、戦争を表面上テーマにしていないマンガの中にこそ戦争が描かれているような気もしないでもないです。


■ どんな人にオススメ?

・戦争漫画好きの人。

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