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2010年1月14日 (木)

ゲリラの戦争学

■ 書籍情報

ゲリラの戦争学   【ゲリラの戦争学】(#1820)

  松村 劭
  価格: ¥735 (税込)
  文藝春秋(2002/06)

 本書は、9.11同時多発テロ事件から、「組織的テロが新しい戦争の形態といわれるゆえんについて改めて考察し、戦略的論理を明らかにしてみること」を狙いとしたものです。
 第1章「持久戦の戦略的背景」では、「戦争に強いのは、剣(攻撃)と盾(防御)の使い方が優れている点にあるのであって、戦力格差にあるのではない」として、「戦力格差と勝敗の間には、ほとんど相関関係がない」として、「『いかに容易に勝つか(決戦)』を知ろうと思うなら『いかにしぶとく負けないか(持久戦)』を学ばなければならない」と述べています。
 そして、「持久戦(protracted warfare)」の特色として、
(1)不敗が戦闘の目的である。
(2)戦力の温存を図る。
(3)できるだけ戦争を長引かせる。
の3点を挙げています。
 また、軍事史を、「決戦対決戦」「決戦対持久戦」「持久戦対持久戦」の3つに分類し、「戦史としての記録は、ほとんどが決戦対決戦の記録であって、その他の記録が定かでない」ことを指摘しています。
 第2章「ゲリラ戦の原型」では、「ゲリラ」とはスペイン語の「小さな戦争をするグループ」という意味で、それに「不正規に編成されたグループ」という意味が加えられているとした上で、ゲリラ戦の戦闘行動の要領として、
(1)襲撃:その目標は軍事物資か敵軍のVIP
(2)伏撃(待ち伏せ):敵の前衛部隊や後方支援の兵站部隊
(3)破壊工作:軍事施設、軍需物資、道路・橋梁など
(4)テロリズム:要人の拉致・殺害
(5)退却
(6)潜伏
の6点を挙げ、「一つのゲリラ戦闘は、『ヒット・エンド・ラン』で完成する」と述べています。
 っそして、BC166年のユダヤのゲリラ戦を紹介した上で、「その戦法は、のちのゲリラ戦法の原則の一つになっている」として、その特色を、「群雀、鷹をも殺す」の諺どおりだとしています。
 第3章「初期のアメリカ独立戦争」では、『近代戦は17世紀から始まったとされているが、民兵が正規軍に刃向かって戦った革命的な独立戦争の好例は、18世紀末のアメリカ独立戦争である」とした上で、「独立宣言までの初期段階は、民兵のゲリラ戦が主体であったが、そのゲリラ戦側の記録がこのように残っているのは珍しい」と述べています。
 第4章「ナポレオンのスペイン戦役」では、正規軍による持久戦を、「フェビアン戦略」と呼ぶ由来として、カルタゴのハンニバルと戦ったローマのクインタス・ファビウスの戦略を挙げた上で、「ゲリラ戦でフランスに抵抗したスペインは、英軍のフェビアン戦略と決戦によって救われた」と述べています。
 第5章「軍靴の通り道=アフガニスタン」では、19世紀に東インド会社が、アフガニスタンの礼拝堂とバザールを完全に破壊した上で、「ようやくアフガニスタンを理解することになった」として、「アフガニスタンは軍靴で踏みにじって通過する国ではあるが、占領する国ではない」として撤退したと述べています。
 第6章「両大戦の谷間=スペイン内戦」では、「スペイン内戦は、今日のゲリラ戦、対ゲリラ戦の基本的な特色を提供している」と述べた上で、
(1)右派反乱軍という正規軍への左派人民軍というゲリラの戦争である。
(2)内戦を傍観する外国はありえない
(3)介入した外国軍にとって、内戦は新兵器の実験場となるだけではなく、新しい戦闘ドクトリン開発の鉱山となる。
(4)内戦ほど憎悪に満ちた、凄惨な戦闘はない。
(5)三方が海に囲まれ、支援国との境界にピレネー山脈のあるイベリア半島では、左派政権のゲリラ軍に「聖域(harbor)」はなかった。
の5点を挙げています。
 第9章「冷戦時代の覇権地図」では、「軍事力は、『変化するもの』と『変化しないもの』が有機的に結合して造られている」として、
・変化しないもの=戦いの原則であり、戦いの機能であり、戦闘力の要素の役割
・変化するもの=軍事科学技術であり、新しい兵器の出現によって戦術ドクトリンが変化する
の2点を挙げています。
 第10章「インドシナ三十年戦争」では、第二次世界大戦後に、米空軍が、「戦略爆撃調査団を日本とドイツに派遣し、米空軍が行った爆撃の戦略的効果を調べていた」が、「その結果、第二次世界大戦における米軍の戦略爆撃は相手国の産業と国民生活のインフラストラクチャーの破壊に絶大な威力を発揮したが、相手国民の士気を打撃してはいなかった」ことがわかったとした上で、「この調査結果は日の目を見ることはなかった」理由として、
(1)ソ連のベルリン封鎖に対抗するため、米空軍力は世界最強であるとのイメージをソ連軍に示す必要があった。
(2)せっかく独立した米空軍の存在意義を保障する必要があった。
(3)人権を尊ぶ米国軍が戦略爆撃によって多くの非戦闘員を殺傷した事実を公表したくない。
の3点を挙げています。
 また、「戦争の目的が制限され、戦闘に敗北しても国家が生き残ることが可能であり、そのうえ核戦争が抑止されるとなると、逆に戦争の方法は全く無制限に拡大してしまった」として、「大規模な通常兵器による戦争、ゲリラ戦争、テロ・破壊活動など」、戦争の方法はまさに「やりたい放題」になったと述べています。
 第13章「アメリカ同時多発テロ事件」では、ゲリラとテロの基本的な違いとして、
(1)戦場が違う。
(2)原則として国際関係や対抗する勢力との関係が違う。
(3)主たる襲撃目標が違う。
の3点を挙げています。
 その上で、対ゲリラ戦成功の要件として、
(1)まず、何を差し置いても、ゲリラの機動力を奪うこと。
(2)敵のゲリラ実行単位部隊と同じ程度の大きさの独立戦闘能力を持つ部隊をもって戦う。
(3)ゲリラの潜伏地域を遠巻きにして方位陣地を構築し、外部からの武器・弾薬の補給を経つ。
(4)ゲリラが潜伏している可能性が高い地域の一般住民に対しては、「洗脳」を解くために、特定の信条を押し付けることなく、ゲリラが主張する信条と現実政治との乖離を悟らせるような知識を広める。
(5)徹底的にゲリラの武装を解除し、武器・弾薬庫を捜索する。
の5点を挙げています。
 第14章「教訓と展望」では、「国家の戦争戦略は『決戦と持久戦』の組み合わせの芸術である、といっても過言ではない」とした上で、「国家戦略立案の基礎は、外交と軍事が残した歴史の教訓である。そして、軍事においては、決戦と同じように持久戦を研究しなければならない」と述べています。
 本書は、映画などでしか知っている人が少ないゲリラ戦について戦争論として語った一冊です。


■ 個人的な視点から

 個人的な「ゲリラ」の印象は、何だか良く分からないけどとにかく面倒なもの、という印象がありましたが、だいたい多くの人に共通するものではないかと思います。
 太平洋戦争時も、米軍は日本本土での泥沼のゲリラ戦を覚悟していたという話も聴いたことがありますが、確かに戦時中の日本でゲリラ戦の勅命が出たら大変そうな気がします。


■ どんな人にオススメ?

・ゲリラとはよくわからないものだと思っている人。

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