« 「できない」を「できる!」に変える | トップページ | ゲリラの戦争学 »

2010年1月13日 (水)

不思議なダンス―性行動の生物学

■ 書籍情報

不思議なダンス―性行動の生物学   【不思議なダンス―性行動の生物学】(#1819)

  リン マーグリス, ドリオン セーガン (著), 松浦 俊輔 (翻訳)
  価格: ¥2,243 (税込)
  青土社(1993/06)

 本書は、「心理学と霊長類の進化論を結び合わせてもっともらしい話にする」ことを目標に、「現在という時代が巻き戻され、我々の体がホログラフィで解かれて、性の起源というあられもない物語を明らかにするという趣向」の「ストリップショーのファンタジー」です。
 著者は、「我々はまだ、性の暗黒時代にいる」として、その理由の一つに、「その生物学的な『深さ』」を挙げ、「我々自身の性的な部分はとても古く、生殖する動物の体として深く我々の存在に染み付いているため、我々の性行動の多くが自動的で生理学的なものであり、規則正しく自然に鼓動する人間の心臓のように意識に上らないし、我々が生きていくとすれば実際そうでなければならないということ」だと述べています。
 そして、「暖かな哺乳類の毛皮とよく知っていて安心できる哺乳類の魂の下から、『爬虫類の』脳――解剖学的に見たヒトが類人猿だけでなく哺乳類全般や爬虫類と共有している古い部分をはじめとする『爬虫類性』という冷たい層が現れる」として、人間の脳にある爬虫類の名残である「R-複合体」に言及し、「理性的な意識を無視して、この性に特化した管制センターは、嫉妬による怒りから、衝動的な自暴自棄や突然の激情に至る反応を引き起こし、善良な人間を明らかに危うくしている」と述べています。
 第1章「精子コンテスト」では、「ヒトのオスがもつ比較的大きな生殖器」という「比較解剖学上のスキャンダル」が、「ある早い段階でのヒトの祖先の性生活を巡る状況証拠となっている」と述べた上で、「雑婚が広くいきわたっているという条件」を挙げています。
 そして、「ある一匹のオスの精子が競争相手のオスよりも有利になる因子」として、「大量の精子生産(睾丸の重さから見積もられる)、深い挿入、長く伸びたペニスを持つオスが精子競争に参加する上で有利になると考えられる」としたうえで、「子供の数はダーウィンの言う成功の一つの最重要の構成要素である。子供の健康がもう一つの要素である。雌のつつしみとライバルの雄にうちかった雄が最大数の子供を残す。我々のみだらな祖先にあってはそういう雄がスターだったのである」と述べています。
 また、「嫉妬による怒りという一見してこれほど消耗し、破壊的な情緒がどうして進化することになったりした」のかについて、「嫉妬心を持つ恋人は自分の投資先を守り、自分の遺伝子を守っているのである」からだと述べています。
 第2章「オーガズムの平等」では、「生理学的には男女のオーガズムは基本的に平等なのに、文化が異なれば、女性のオーガズムについても異なる価値が与えられる」とした上で、「この文化的な相違と生物としての類似を見てゆき、女性のオーガズムが人間の進化において演じているかもしれない重要な役割についてさぐってゆく」としています。
 そして、「女性の快感は、男性の快感よりも、エロチックな学習と文化的な期待の働きである面がずっと強い」として、ポリネシア中央部のクック諸島南部のマンガイアの女性たちの例を紹介しています。
 著者は、「女性の体の無意識の知恵の一部として、女性のクライマックスは妊娠能力を高める。確かなことだとすれば、この『装置』は女性の生殖の選択肢を広げることになろう」と述べ、「男の乱暴さという土壌においては、女はオーガズムによって、意識してかどうかは別にしても、自分で自分の生殖に対してより大きな支配力を求めるいっぽうで男の野蛮なルールを和らげ、自分の生物学的な運命に対する支配力の一端をもつことができたのだろう」と述べています。
 第3章「ボディ・エレクトリック」では、「ネオテニーは発達を延期し、長引かせ、遅らせる。しかしその遅れが心理学的な早熟をもたらす」とした上で、「感受性のあるネオテニーの赤ん坊が大人になって一人前の男になる。自分に乳を与えてくれた母親の姿を刷り込まれ、この男たちは乳房の膨らんだ相手を探したということなのかもしれない」と述べています。
 第4章「トカゲのツイスト」では、「古生代の頃の祖先が取っていた爬虫類的な性生活は、人間の心の中に意識化のものとして残っているかもしれない」とした上で、「我々の脳の中の爬虫類的な部分に関係する特徴の一つには、間違いなく虚勢を張ったり、威嚇したりというのがある」として、我々が、「前脳の爬虫類的な(レプティリアン)部分、略してR-複合体と呼ばれるところを、爬虫類や哺乳類と共通に持っている」と述べています。
 そして、「嫉妬による荒々しい悪行、強制された交接、幼児殺し、軍隊やギャングの殺人行為といったことは、爬虫類の時代の我々の先祖が生きのびる機会を増大させることがあったとすれば、そうした行動が、一種の遺伝の勢いのおかげで強力に残っているということもありうる」と述べた上で、「我々の脳の内側にたたみこまれたこのR-複合体は、亀やトカゲ、ワニの一般的な前脳によく似ていて、人間の行動の性に関する核は今なお爬虫類的であることを示唆している」と述べています。
 第5章「男根的魂」では、「比較的しっかりした科学という基盤からおそるおそる足を踏み出して、精神分析という思弁の色合いが濃い領域へと入っていく」とした上で、「精神分析にとって、男根つまりシンボルとしてのペニスは、『欠落したもの』――決して本当には手に入れられないというまさにそのことのために、永久に欲望が続く、永遠に満たされない望みである」と述べています。
 第6章「小さな生存者」では、「人間の求愛や情事は、基本的には無目的ではあるが発達上は欠かせない、20億年前からの生き残り『ダンス』を念入りにしたものである」と述べた上で、「原生生物の共食い」は、「生きた、現実の、アリストファネスの言う両性具有、つまり二重の状態の原始の球である」と述べています。
 そして、「進化のダンサーは我々に、我々のシンボルや言語や知識の隠喩の偶然性を警告する」として、「ダンサーはインクのしみであり、印字された記号であり、文字による装置であって、暑い日の海岸で眼を欺く空中の幕のように実体のないものである」として、本書が、「神秘の踊りを生み出し、そのステップをたどり、人間の性の歴史の細部に分け入った」と述べています。
 本書は、性とは何かを考える一冊です。


■ 個人的な視点から

 個人的には本書のポイントは、
・ヒトは雑婚だった。
・衝動は爬虫類由来。
という点でしょうか。
 こういう観点で現実の文化や事件を見ると面白いかも知れません。


■ どんな人にオススメ?

・性とは何かを考える人。

« 「できない」を「できる!」に変える | トップページ | ゲリラの戦争学 »

その他科学」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1244312/33693904

この記事へのトラックバック一覧です: 不思議なダンス―性行動の生物学:

« 「できない」を「できる!」に変える | トップページ | ゲリラの戦争学 »

2016年12月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

最近のトラックバック

無料ブログはココログ