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2010年11月

2010年11月22日 (月)

法と経済学

■ 書籍情報

法と経済学   【法と経済学】(#1940)

  スティーブン・シャベル (著), 田中 亘, 飯田 高 (翻訳)
  価格: ¥9,765 (税込)
  日本経済新聞出版社(2010/1/26)

 本書は、「法の経済分析[あるいは法と経済学]として今日知られるに至った学問分野の基本的な考え方を伝えること」を目的としたものです。
 著者は、「法の分析に経済学的アプローチを用いる場合」の法的ルールに関する問いとして、
(1)記述的(descriptive):法的ルールの効果についての問い
(2)規範的(normatibe):法的ルールの社会的望ましさについての問い
の2つの基本類型を挙げた上で、経済分析を特徴付ける点として、
(1)経済分析は定型化したモデルを使ったり、理論を統計的・経験的にテストしたりするが、他のアプローチは普通それらのどちらも行わない。
(2)行動を記述する際、経済分析は他のアプローチと比べて「行為主体は合理的で、自らの選択から生ずる可能性のある結果を予見して行動する」という見方に大きな力点を置く。
(3)規範的な評価においては、経済分析はそこで考えられている社会的厚生に測定基準を明示するが、他のアプローチでは社会的望ましさの規準を不明確なままにしたり殆ど明示しなかったりする。
の3点を挙げています。
 第2章「所有権の定義、存在意義およびその成立」では、所有権(property rights)に付随する権利として、
(1)使用収益権(possessory rights):目的物を自ら使用し、また他人による使用を排除するという権利。
(2)使用収益権を譲渡する権利(a right to transger a possessory right):使用収益権を有する者が、その権利を他人に(通常は対価を得て)与えるという権利。
の2つに分けることができるとしています。
 第4章「財産の取得と移転」では、「物を発見した人なら誰でもその物を所有できるというようになっていると、物を探すインセンティブは一般に最適水準から乖離し、社会的には過剰な探索活動が行われることになりがち」だと指摘しています。
 そして、「高い価値をもつ財の場合、登記や登録は社会的望ましくなりやすい」理由として、
(1)物の価値が大きいほど登録による便益も大きくなる。
(2)登記や登録に伴う費用の大きさは登記・登録された物の価値とはほとんど無関係である。
の2つの理由を挙げています。
 第5章「財産の利用における対立と強調:外部性の問題」では、「ある当事者の行為が、何らかの基準となる状態と比較して、他人の厚生に影響を与え、または与える可能性がある」とき、その行為は「外部効果(external effect)」または「外部性(externality)」を生じさせると述べた上で、「外部性の制御に役立ちうる法的ルール」として、
(1)直接的な規制(regulation):国が外部性を最適な形で解決するために、所有権があれば本来は認められるはずの行為を制限すること。
(2)所有権を割り当て権利者の請求に応じてこれを保護すること(assignment of property rights and their protection at the request of parities who hold the rights)
(3)責任ルール(liability rule):被害者は加害者に対して裁判を起こして、被った被害の保障を得ることができる。
(4)矯正税(corrective tax):当事者がもたらすと予想される損害と同額だけ、国に対する支払いをさせる。
(5)補助金(sucsidy) :当事者が、何らかの基準となる水準と比較して期待損害を減少させたときに、その減少額と同額だけ、国がその当事者に補助金を支払う。
等を挙げています。
 第7章「知的財産権」では、「情報の社会的価値」について、情報を具現化した財を購入した人々にとっての社会的厚生の増加分」であるとした上で、「最適な(optimal)情報の社会的価値」とは、「財の生産が最適に行われたとき、すなわち、財をその生産費用よりも高く評価する全ての人のために財が生産されたときに実現する情報の社会的価値をいう」としています。
 また、知的財産権の保護範囲について、
(1)最適な保護範囲と最適な存続期間とは相互依存的に決まる。
(2)所与の保護範囲を実現する手段は、国がどの行為を侵害と認め、どの行為をそうだと認めないかに応じて、さまざまなものがありうる。
の2点を述べています。
 さらに、保護の範囲にとっての重要な点として、「公正利用(fair use)の法理」を挙げ、「著作権侵害の請求に対する抗弁の一種であり、著作権者に対して補償をすることなく、著作物を使用できる状況を画す機能をもっている」と述べています。
 第8章「責任と抑止:基礎理論」では、「事故の責任に関する2大ルール」として、
(1)厳格責任(strict liability)ルール:加害者は事故で生じた全ての損害分を支払わねばならない。
(2)過失責任(negligence)ルール:加害者は自らに過失があったときに限り、自己で生じた損害の責任を負う。
の2点を挙げています。
 また、「双方的自己のモデルにおいては、厳格責任ルールは社会にとって最適な結果を導かない」理由として、「注意をはらう動機を被害者に与えることができない」ことを挙げた上で、「厳格責任ルールと過失責任ルールのどちらにおいても、加害者と被害者の両方が最適な活動水準を選択するということはない」と述べています。
 そして、「アメリカ合衆国の大半の州では、製造物の欠陥による事故から生じた損害について、企業は厳格責任を負う」が、「製造物の欠陥の定義にある種の過失が一要素として含まれている」と述べています。
 第10章「抑止の分析の展開」では、過失の認定における不確実性を引き起こす要因の1つとして、「裁判所が当事者の実際の注意水準を誤って認定してしまうかも知れない」ことを挙げ、「当事者が『相当の注意』を上回る注意を払いがちになる」事によって、「社会的には過剰な水準の水準を払うようになる」という帰結を指摘しています。
 また、厳格責任ルールにおける因果関係の要件の根本的な機能として、「当事者の行動に起因する社会的費用の増分についてのみ責任を課すことで、損害発生のリスクを減少させたり適度な水準で活動したりするインセンティブを社会にとって適切なものにする」という点を挙げています。
 第11章「責任、リスクの負担、保険」では、事故の問題を考えるに当たっては、
(1)事故のリスクを適切に低減させる
(2)生じた事故による損害のリスクを配分・分散させ、リスクの全部または一部をリスク回避的な人が負担しないようにする
の2つの目標を考慮しなければならないとした上で、「保険は――被害者の加入する損害保険も、加害者の加入する責任保険も――、損害のリスクを配分・分散させるための手段となる」と述べています。
 そして、賠償責任と保険に関して、
(1)加害者が責任を負う損害の一部または全部を責任保険の保険者が支払うことになるので、責任ルールが加害者の行動を変える経路はいささか複雑になり、責任保険の契約条項に左右されることになる。
(2)責任保険が利用可能であることは社会にとって望ましい。
(3)損害保険や責任保険が利用できる場合は、責任ルールを評価する際の考慮要素としては、リスク配分はさほど重要ではなくなる。
の3点に分析をまとめています。
 第13章「契約概観」では、契約(contract)について、「指定された当事者が様々な時点で取るべき行為(action)と、一般には何らかの事態(condition)と関連づける形で(ある事態が起きたときはこの行動を取る、というように)特定すること」であるとした上で、「当事者がすべき行為がそれに基づいて決まるような事態の全てが明示的に規定しつくされているとき」に、「その契約は、完備に特定されている(completely specified)、または単に完備である(complete)」というと述べるとともに、「起こりうる事態のすべてを明示的に規定していないとき」に、「その契約は不完備である(incomplete)」であると述べています。
 また、「ある契約について、契約の各当事者の厚生――期待効用――をそれ以上増加させるように修正する余地がもはやないとき、その契約は、相互の利益となる(mutually beneficial)、あるいは経済学の用語を用いると、パレート効率的である(Pareto efficient)という」と述べ、「契約は、相互の利益となるものになる傾向を持つと考えられる」としています。
 そして、当事者が、「契約が裁判所によって強制的に実現されることを望む」理由として、
(1)もしも契約が強制的に実現されないとすれば、当事者は、自分が契約を履行する前に相手方から支払われた資産を横領することができ、そのため契約は一般的に機能不全に陥るだろう。
(2)そうでなければ、当事者は供給を約束した財やサービスを提供しないかも知れない。
(3)そうでなければ価格を事前に確定できない、言い換えれば、価格のホールドアップが起こりうる。
の3点を挙げています。
 一方で、「契約を不完備にしておくほうが当事者の利益となる理由」として、
(1)将来起こりうる事態を予測し、(その予測を前提にして)それらをどう解決するかについて交渉し、かつ、それらを十分明確に契約に規定することには、費用と努力が要るので、穏当な損害賠償の算定基準は、履行が高くつくときには不完備契約の違反を許容し、そうでないときには履行を促すため、暗黙のうちに、より完備な契約に変わる機能を果たす。
(2)それが契約の履行を促進することを通じて、契約当事者が履行に対する信頼を前提にした何らかの行動を取るインセンティブを与える
(3)損害賠償の支払は、契約違反の被害者に生じた損害を何らかの程度で補填するから、もしも被害者がリスク回避的だとすれば、損害賠償は暗黙の保険として相互の利益となる場合がある。
の3点を挙げています。
 第17章「訴訟についての基礎理論」では、「訴訟に費用がかかる場合には、訴訟の当事者の私的なインセンティブは、社会にとって適切なインセンティブとは総統に乖離する可能性がある」点を指摘した上で、「労働人口の1パーセントと国内総生産の1.3パーセントを弁護士業務が占めている」と述べています。
 また、「実際には、訴訟の圧倒的多数は和解で終結する」として、「民事事件の96パーセントは、事実審理に進まずに集結している」事を指摘した上で、「両当事者の和解のインセンティブを歌唱にする要素」として、
(1)当事者は事実審理に要する社会的費用のすべてを考慮しないこと
(2)相手方の状況を見誤る可能性があること
の2点を指摘した上で、「和解が抑止効果に影響するという要素があるが、こちらの要素は、インセンティブをどちらの方向に変える要素かははっきりしない」と述べています。
 第20勝「金銭的サンクションによる抑止」では、「エンフォースメントには費用がかかり、その上サンクションには上限があるため、最適なエンフォースメントが行われている状況では抑止が不十分――おそらく相当不十分になっている」と指摘しています。
 第23章「無力化、更生、応報」では、抑止以外のサンクションの諸機能として、
(1)無力化(incapacitation):個人を自由な社会から隔離し、望ましくない行為をするのを防ぐ方法
(2)更生(rehabilitation):望ましくない行為をしようとする性向を減少させること
(3)応報(retribution):悪いことをした人場処罰されるのを望む感情
の3点について解説しています。
 第25章「法の一般構造とその最適性」では、人の行動を制御する法的手段のあり方を決める要素として、
(1)法的介入の時点:行為の前か、行為の後か、損害発生の後か
(2)法的介入の形式:阻止か、それともサンクションの賦課か
(3)法的介入の発動:私的に発動される介入か公的に発動される介入か
の3点について解説しています。
 第26章「厚生経済学と道徳」では、個人が道徳に従おうとする根本的な理由として、
(1)個人は道徳に従おうとする内からのインセンティブをもっている
(2)個人は道徳に従おうとする外からのインセンティブをもっている
の2点を挙げた上で、厚生経済学と道徳観念の関係について、
(1)道徳観念には構成を増進する機能があるので、教え込んだり促進したりするべきである。
(2)個人は(教えられたものであれ遺伝的に受け継がれたものであれ)道徳観念を満たそうとする選好をもっているため、道徳観念は直接的な意味では社会的厚生の計算において重要になる
(3)社会的厚生の評価においては、効用を増進する機会やその満足を求める選好に由来する分を越えた重要性を道徳観念に与えるべきではない。
の3つのポイントを挙げています。
 第28章「所得分配の衡平と法」では、所得分配が社会厚生にとって重要でありうる理由として、
(1)同じ1ドルの金銭であっても貧者は富者よりもそれを高く評価する。
(2)所得分配は効用の分配に影響し、そして厚生経済学のアプローチにおいては、社会的厚生は、効用が個人間でどれだけ平等に分配されているかに依存する可能性がある。
(3)個人の効用は社会全体の効用の分配状況に影響されて決まる可能性がある。
の3点を挙げています。
 本書は、法律学と経済学の世界で、それぞれ別個に使われてきた言葉を、一冊の本で同時に解説した一冊です。


■ 個人的な視点から

 その厚さ880ページ!
 見た目的にはほぼ辞書と言っていい厚さですが、内容的にも、経済学の本1冊と法律学の本1冊を持ってきて、その間の解釈をするのにもう1冊分書いたような感じでしょうか。法律とはなんなのか、経済学とはなんなのか、ということを多面的に捉えたい人にとっては多くの気づきがある一冊だと思います。


■ どんな人にオススメ?

・法律と経済学を統合して理解したい人。

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