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2014年3月25日 (火)

太りゆく人類―肥満遺伝子と過食社会

■ 書籍情報

太りゆく人類―肥満遺伝子と過食社会   【太りゆく人類―肥満遺伝子と過食社会】(#2311)

  エレン・ラペル・シェル (著), 栗木 さつき (翻訳)
  価格: ¥ (税込)
  早川書房(2003/8/8)

 本書は、「21世紀に入ってから世界で最も蔓延し、費用のかかる栄養障害となっており、11億の成人に悪影響を及ぼしているうえ」、児童の数も急増している「過体重」について、「肥満は『怠惰』や『大食』という7つの大罪を思い起こさせるし、同情を買いながらも嘲笑され」、「なにより誤解され、最も食い物にされているヒトの健康状態だ」として、「こういった現状を説明しながら、いったいどのように世界が太りつつあるのか、いったい私たちに何ができるのか」を考えようとするものです。
 第1章「肥満大国アメリカ――外科手術に臨むナンシー」では、「胃バイパス手術は、非常に手荒な肥満治療法だ」としたうえで、「胃バイパス手術を受けると体重が激減し、ときには旧友や身内でさえ本人とわからなくなる。この手術は標準より50キロ以上余計な体重があるものにのみ行われる。平均すると、手術を受けた人間は一年半の間に余分な体重の6割ほどを落とす」と述べ、「2000年には、年間4万人のアメリカ人が胃バイパス手術を受けており、その数はたった5年前に受けた人数に比べてほぼ倍増していた」としています。
 そして、「ナンシーと同じように、現在では900万人以上のアメリカ成人が『重症肥満』に相当し、標準より50キロ以上体重が重い。そして1000万人以上が、重症肥満になる境界線ぎりぎりのところにいる」としています。
 第2章「邪悪な人間は太る――肥満と偏見の歴史」では、「「旧石器時代のヴィーナス像は100体ほど発掘されており、考古学者の見解によれば人類の最も初期の芸術品だが、フランスのものも含めて、どのヴィーナス像もグロテスクなまでに太っている」としたうえで、「精巧に掘られたヴィーナス像には、重症の肥満者によくあるひざの異常が見られるものもある」ことから、ヴィーナス像は芸術家の想像の産物ではなく、現実の生活に則したものだったと思われる」と述べています。
 また、「古代オリンピック発祥の地ギリシアでは、自分を太らせるのは異常な性行為と同等の犯罪とみなされていた」としています。
 そして、「多くの人々にたっぷり食べられる余裕が出てくると、恰幅のよさはもはや繁栄のあかしでも美徳のあかしでもなくなった。肥満は罪深さのあらわれであるという妄想は、肥満が金持ちだけのものでなくなると、いっそう強くなった。そのうえ飲酒、ギャンブル、不貞とは違い、肥満は秘密にしておけない。太り過ぎは食欲のまぎれもないあかしであり、信心ぶった人間は肥満を見逃さなかった」と述べたうえで、1997年の調査では、女性の15%、男性の11%が、「望みの体重になれるのなら、引き換えに寿命が5年短くなってもかまわない」と答えたとしています。
 第7章「やせ薬の命にかかわる副作用――フェン・フェン療法の教訓」では、「フェンフルラミン」と「フェンターミン」という2種類の薬を併用する治療法である「フェン・フェン療法」の盛衰は、「まさに新薬の承認過程における落とし穴と限界を暴く物語として、いまでは痛烈な教訓となっている」と述べ、「フェン・フェン療法のおそろしい副作用が判明してから、抗肥満薬産業は大きく後退すると同時に、広報活動の弊害があきらかになった」と述べています。
 そして、「やせ薬には、どこから見てもあいまいな点が多い。まれに起こる遺伝子の欠損であると解明されているレプチンとは異なり、やせ薬は特定の病変の治療を意図してつくられてはいない。それどころか、基本的に健康でうまくいっているシステムを邪魔するようにつくられている」として、「肥満には数多くの原因があり、簡単な治療法はない。ヒトの心理、脳内の化学物質、代謝率などをへたにいじくりまわすと、予想外の結果が生じ、それ自体にまた改善の手を施さなければならなくなる」と述べています。
 第8章「世界に広がる肥満という病――缶詰をあけはじめたコスラエ島民」では、「コカ-コロニゼーション」が、「地域に古くから伝わる習慣と経済を荒廃させ、世界各地に健康状態の悪化を広めた」として、「肥満者と糖尿病患者の割合は世界的に急増したが、特に著しい増大が見られたのは、伝統文化の過渡期にある地域に暮らす人々――ポリネシア人、ネイティブアメリカン、オーストラリア先住民のアボリジニーだった」と述べています。
 また、「どこの社会にも、歴史上『食糧のストレス』にさらされた時期があり、その結果、私たち全員がある種の『倹約遺伝子』のメカニズムを進化させた。なかでも進化の過程で恐ろしい飢饉などに何度も見舞われた人びとが、最も効率的な倹約遺伝子を発達させた」が、「かつては南太平洋の冬眠の命を守り、過酷な先史時代から脈々と土着の文化を守ってきたこの遺伝子が、こんにちでは、島民を若死にさせる原因となっている」と述べ、一方で、「フランスには、南太平洋で吹き荒れる暴風雨のように人口を激減させる決定的な出来事があまり起こらなかったらしく、現在のフランス人は、貧しい時期もあったにせよ、食糧を比較的安定して入手できた人びとの子孫であると推測していいだろう」として、「フランス人やスイス人、そして西ヨーロッパの一部の人間は、太平洋の冬眠に比べて肥満になりにくいのかもしれない」と述べています。
 そして、「肥満、糖尿病、そしてライフスタイルの欧米化による『新世界症候群』は、伝染病ではないが、伝染病と同様に、環境の変化で阻止することができる」として、シンガポールが、「健康的にほっそりしよう」という運動に国を上げて取り組み、給食や体育の授業を管理した結果、児童の肥満が3割ほど減ったことを紹介しています。
 第9章「健康は胎内から――飢餓にさらされた胎児と新生児の将来」では、第二次世界大戦が集結する前年にオランダを襲った飢饉「オランダ飢饉の冬」に生まれた新生児を調査した結果、「妊娠6ヶ月までに飢餓を経験した母親から生まれた子供たちは、成人になると、8割以上が肥満になる傾向があるという、驚くべき事実があきらかになった。同様におどろくべきことに、妊娠7ヶ月以降に支給の中で飢餓を経験した、あるいは生後5ヶ月までに飢餓を経験した人々は、その4割が肥満になりにくい傾向を示した」と述べています。
 そして、「肥満になりやすい素因は『遺伝子に書き込まれている』のかもしれないが、それは消えないわけではない。この傾向は人生の様々な時期において、ある程度まで変えることができる」と述べています。
 第10章「欲望から手の届くところに――食品業界の思惑」では、「先進国では食品が過剰にあふれており、単に栄養価を売り込むだけでは食品のマーケティングにならない」として、「タバコ業界と同様に、食品のマーケティング担当者は食品のイメージを売り、そしてタバコ業界と同様に、消費者が若いうちに顧客に取り込もうとする」と述べています。
 そして、「ファストフードは、多くのレストランの料理と同様に、人が必要としているものに応じているわけではない。『食欲』に応じているのだ」と述べています。
 第11章「正しい選択――肥満の波を押しとどめるには」では、「肥満は『本能が理性に勝利をおさめた』結果が肉体に現れたものである。だからこそ、太るとばつが悪い思いをする」と述べたうえで、「科学は、肥満の蔓延が太りやすさという個人差の問題というよりは社会の圧力の問題であること、その圧力に加担する制度の問題であることを、私たちに教えている。私たちはこの圧力に抵抗できるし、抵抗すべきだ」と述べています。
 本書は、世界中に広がる肥満の背後にある圧力の正体を暴こうとする一冊です。


■ 個人的な視点から

 人類はこれまで幾度と無く飢餓に晒されてきたわけで、その意味では、余剰のカロリーを効率よく体に蓄積できる体質っていうのは飢餓を生き残るためには欠かせないものだったと思うわけです。
 それなら、「いくら食べても太らない」とか言っている体質は早々に淘汰されていてもおかしくないのですが、これまで残っているということは、それはそれでメリットがあるのか、もしかしたら本当に食べなくても生きていける体質なのかもしれません。ダイオウグソクムシとかみたいに。


■ どんな人にオススメ?

・太る体質が何故あるのかを知りたい人。


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