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2014年4月 4日 (金)

放射能汚染 ほんとうの影響を考える:フクシマとチェルノブイリから何を学ぶか

■ 書籍情報

放射能汚染 ほんとうの影響を考える:フクシマとチェルノブイリから何を学ぶか   【放射能汚染 ほんとうの影響を考える:フクシマとチェルノブイリから何を学ぶか】(#2317)

  浦島 充佳
  価格: ¥1,995 (税込)
  化学同人(2011/7/31)

 本書は、「小児科医として白血病を含むがんの子供たちを放射線照射や骨髄移植を駆使しながら数多く診療してきた」著者が、「1986年4月26日に発生したチェルノブイリ原発事故後の人びとの健康や環境に及ぼした影響データを詳細に読み解き、現在進行形の福島第一原発事故と比較し、現状を分析しながら将来を予測、そしていま何をするべきかを示唆すること」を目的としたものです。
 第1章「爆発」では、「チェルノブイリ原発事故は起こるべくして起こったとも取れる」として、「原発の安全性に異を唱えても、声を大にしていえない体質。その背景には国家権力が見え隠れする。東京電力にも共通な背景があるように感じられるのは私だけだろうか?」と述べています。
 そして、「どこの国で発生しようとも原発事故は周辺住人、国民、さらには隣国に『目に見えない恐怖』を与えるだろう。この恐怖を少しでも軽減するには『政府が事態をどう収束させるのか』にかかっていると言っても過言ではない」と述べています。
 また、政府の記者会見に関して、「全体を見ると、政府は人びとがパニックにならないように説明しようとしている。だが政府の説明とは裏腹に事態は徐々に悪化し、『東電と政府は現状をコントロールできていない』という印象を与えてしまった。また会見の随所に矛盾が含まれている。日本人が初めて体験する大規模な原発事故、先が見えない不安、これが人びとのパニックにむしろ拍車をかけた」と述べています。
 第2章「影響」では、「理論上わずかな線量の被曝でも発がんリスクは上がるのだが、実際これを被曝量とがん発生率の関係を調べることによって証明するのは難しい」と述べています。
 そして、チェルノブイリ原発事故の作業にあたった60万人の作業員の健康について、「結果を見ると、放射線被曝量に比例して、明らかにある特別ながんが増えたということはなかった。むしろ注目すべき点は、のちに心身症的な不定愁訴が増えたことだ」と述べています。
 第3章「飛散」では、チェルノブイリ原発事故の爆発時の放射性降下物(フォールアウト)について解説した上で、
(1)仮に福島第一原発で爆発があった場合、噴煙の高さにおける風向・風速の情報がわかれば、どの地点に何時間後に到達するかを計算することできる。
(2)放射能をもつ粉塵は細長くたなびく形で風に運ばれ、同心円状に広がるわけではない。
(3)風だけではなく雨も重要な気象条件である。
の3点を示唆していると述べています。
 そして、「事故後初期の段階で半径20kmの住人に対して避難勧告はやむを得ない判断だったと思う。しかし、今まで述べてきたように、爆発なのより最も多く放射性物質が放出されたタイミングでの風や雨の気象条件で汚染エリアは決まり、必ずしも同心円状にならない。そのため、なるべく早い段階で空中ならびに土壌の放射能を相当数のポイントを設けて測定し、環境汚染地図を作成すべきだ」と述べています。
 第4章「病気」では、疫学手法の一つである「エコロジカル研究」について、
(1)汚染地域では毎年甲状腺がんのスクリーニング検査を行い、非汚染地域ではまったくそのような検査を行わないため、本当は被曝によって甲状腺がんが増えていなくても、あたかも甲状腺がんが汚染地域で増えているように見えてしまうかもしない。
(2)個人のデータではなく亜集団のデータを観ているため、得られる結論は「被曝量が多くなると甲状腺リスクを上昇させるのではないか?」といった仮説設定に留まる。
ことから、「エコロジカル研究のエビデンスレベルは低い」と述べています。
 また、ECRRのバスビー教授について、「どうしても核反對論者の教授がECRRという仮面をかぶって感情的に回答しているようにしか思えない」として、「科学者としてバスビー教授の論文を読む限り、あるいはインタビューへの回答をきく限り論理の飛躍が甚だしいと感じる」と述べています。
 そして、「福島第一原発事故のフォールアウトによる被曝量は日本の多くの件で事故前のせいぜい数倍のレベルである。その胎児への影響を調べるには、日本の現状に近いチェルノブイリ事故後のヨーロッパ各国の状況が参考になるはずだ」として、「心理ストレスによる自然流産は増えたものの、奇形が増えるということはなかった」と述べています。
 さらに、「10年、20年といった長期の評価においてもチェルノブイリ原発事故は、小児の甲状腺がんを増やした以外に、精神面、社会面で長期間に渡りネガティブな影響をもたらした」として、「チェルノブイリ原発事故であれ、福島原発事故であれ、近隣住人は長く暮らしてきた土地を離れざるを得なくなった。とくに年配者にとって長い間かけて耕してきた田畑や手塩にかけて育てて家畜と離れるのはつらい。また友人や知人がいるコミュニティを崩壊させてしまったことも大きい」と述べた上で、「政府や社会にたいする不信感、汚染地域の孤立感、放射能という目に見えない恐怖、将来癌になるかもしれないという漠然とした不安、現状あるいは将来の不確実性に対するイライラ。このような要素が複雑に相互作用を起こして慢性的なストレス状態を引き起こし、頭痛、抑うつ、睡眠障害、集中力低下、感情失禁などにつながってしまう。それでヘビースモーカーやアルコール中毒に陥り、結局がんや他の病気になってしまう」と述べています。
 第6章「処方箋」では、「18歳以下の子供の父親だったら」どうするかの問いに、「一定期間いろいろ情報を集め今後どうするか決意する。その際優先されるべきことは家族で一緒に暮らすことであろう」と述べています。
 「まとめ」では、「現在多くの人、とくに子どもをもつ母親や妊婦が、水や食品への放射能の混入を心配している。政府にたいする不信感、ネット上で氾濫する情報、心配するのは当然の成り行きだと思う。ただ、チェルノブイリでも同じ現象が見られた」として、「チェルノブイリでは、両親の不安・慢性ストレスが、子どもの情緒障害、知能指数の低下を招き、思春期にさしかかることには社会適応性障害も増えた。信じられないような話だが事実である」と述べています。
 本書は、原発事故で一番恐れるべきことは何かを考えた一冊です。


■ 個人的な視点から

 原発事故に関しては、いろいろな風説が出回っている中で、東北や関東には人は住めないと思い込んで西日本に引っ越していった人も少なくないようですが、反核運動の皆さんの思想的傾向から鑑みるに、PM2.5の情報は西に行った皆さんの耳には、あーあー聞こえない状態になってしまっているのではないかと心配が募ります。


■ どんな人にオススメ?

・放射のう汚染が心配される人。


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