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2014年6月 3日 (火)

雇用再生―持続可能な働き方を考える

■ 書籍情報

雇用再生―持続可能な働き方を考える   【雇用再生―持続可能な働き方を考える】(#2326)

  清家 篤
  価格: ¥1,080 (税込)
  NHK出版(2013/11/21)

 本書は、「自分を定点として周りが動いているとするような、天動説的な考え方」に陥りやすく、「多くの人たちがその経験に基づく体験論を不完全に展開しがち」な雇用に関する議論について、「労働や雇用の問題に関しても、これまでさまざまな科学的な分析」が労働経済学という学問として蓄積されており、「個人の経験だけに縛られず、理論と実証に基づく科学的な視点で働き方や雇用の問題を考えていく必要がある」として、「できるだけ科学的な分析に基づいて現状をしっかりと踏まえ、これからの雇用の将来を考えて」いこうとするものです。
 第1章「いまなぜ、働き方を考えるのか」では、「かつての日本では、働く人の圧倒的多数は自営業主と家族従業者」であり、1940年代末には、「日本で働いている人の約3分の2は自営業主ないし家族従業者だった」と述べています。
 第2章「経済の構造変化と雇用制度」では、「一定の人口のもとでは、人びとの就業選択いかんによって労働力人口は増えもするし、減りもする」として、雇用の源泉となる労働力人口が、
(1)人口そのもの
(2)個人の就業選択
の2つに影響されるとした上で、「人口減少下で労働力人口を維持するためには、人々の就労意欲を高め、日本全体の労働力率を高めることが求められるのだ」として、ポイントは、「まだ労働力率の上昇余地のある人口グループの労働力率を高めること」にあると述べ、
(1)20代後半以降の女性:雇用労働と家事、育児が両立するような環境を作ることが重要
(2)高齢者:高齢者の労働力率を下げている年金といった公的制度や、定年退職制度といった企業の雇用制度は見なおす必要があり、年齢に関係なく働ける仕組みに変えていくことが求められる
の2点を挙げています。
 また、「生産活動の状況によって雇用のあり方も大きく変わってしまう」として、
(1)生産の量
(2)生産の技術
(3)生産に要する雇用を含む生産要素の相対価格
の3点の影響を受けると述べています。
 第3章「終身雇用制度のゆくえ」では、「学校を卒業して直ちに会社に入社する」ことが日本の雇用制度の大きな特徴だとして、「新規学卒一括採用は、日本の若者の失業率を先進国のなかでも際立って低く抑えることに貢献している。この慣行のもとでは、若者は学校を卒業する前に就職先を決めるため、失業の状態を経ずに直ちに雇用者になるのである」と述べています。
 また、新人の教育訓練の重要性について、「将来その企業で使える人材になるかどうかは、実は入社試験の成績などはあまり関係なく、若いときに配属された部署の上司がきちんとした人物で、そこで厳しく仕事能力を叩きこまれたかどうかによる」とする企業の人事担当者の言葉を紹介した上で、1939年に慶応義塾大学理工学部の前身である藤原工業大学の初代工学部長に招聘された帝国海軍の技術部門のトップまで務めた工学博士谷村豊太郎が、「是非すぐに役に立つ人間を育成してほしい」との産業界からの要望に対し、「すぐ役に立つ人間はすぐ役に立たなくなる人間だ」とこれを否定したことを紹介しています。
 さらに、「雇用の流動化は社会全体の生産性の向上という面から言うと、プラスとマイナスの両面を持っている」として、
(1)プラスの面は、すでに高い仕事能力を持っている人が自分の能力を存分に発揮できるところで働くことができるようになる。
(2)マイナス面としては、企業内において仕事能力を高めるための教育や訓練が行われなくなり、人的資本投資は減少していく。
の2点を挙げています。
 第4章「年功賃金をどう見直せばよいのか」では、「日本は重化学工業化する過程で海外から高度な技術を導入したが、担い手となる労働者にその技術を使いこなせるものはいなかった」ため、「それぞれの企業は、必要とされる高度な技術を持った労働者を自前で養成する必要に迫られた。そこで企業は、そうした技術を覚えることのできる優秀な若者を雇い入れ、彼らを企業内で教育訓練して使える労働者に育成する仕組みを作ったのである」と述べた上で、「このように膨大なコストをかけて育てた養成工に、簡単にやめられてしまっては企業として大きな損失である」ため、「労働者の定着率を高めることが必須の条件」となり、「長く勤めれば務める程特になるような制度」として、「最も有効な制度が年功賃金だった」と述べています。
 そして、「新規学卒一括採用、企業内訓練、年功賃金、定年退職金は一つのパッケージであると考えるべき」で、「そのどれか一つを変えると残りの部分も変えなければならない」と述べています。
 第5章「対等な労使関係をどう築くか」では、「個人と企業の間では交渉力に格差があるから、個人は労働組合を組織して集団的労使関係の中で交渉することによってはじめて、対等な取引が成立する。実はこれは、労働組合が市場経済を機能させるために不可欠の役割を果たしているということである。そしてもう一つ、市場経済が前提としている完全情報も労働市場においては成り立っていない。それを補うためには、内部労働市場とも言われる企業組織が必要なのである」と述べています。
 第6章「格差是正は可能か」では、「正規雇用者の賃金が高いことには、フルタイム労働で始業時間から就業時間まで働いてもらうだけでなく、よほどの理由がなければ業務命令による残業も断ることはできないし、休日出勤などもいとわないということの代償という意味もある」と述べています。
 第7章「付加価値生産性を高める」では、最近の風潮として、「付加価値を生み出すのは従来の組織人ではなく、一匹オオカミのプロフェッショナルといったタイプの人たちだと考えられているきらいがある」ことについて、「付加価値生産性を高めることのできる一匹オオカミ的な人材は存在するが、高度産業社会において付加価値生産性を高めるのは、やはり組織に属する人たちなのである。一番望ましいのは、どこに行っても使える能力を身につけた人が、どこへも行かずにそれまで長年勤めた組織の中で働くということなのだ」と指摘しています。
 本書は、雇用を巡る議論に労働経済学の知見を投入した一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書の世者が翻訳に携わった『人事と組織の経済学』はこの分野の理論的理解を深める上では非常にコンパクト(本は厚いですが)でいい本です。本書で関心を持たれた方は是非読んでみてください。


■ どんな人にオススメ?

・雇用の問題をめぐる理論的背景を知りたい人。


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