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2014年9月

2014年9月22日 (月)

シャーロック・ホームズの思考術

■ 書籍情報

シャーロック・ホームズの思考術   【シャーロック・ホームズの思考術】(#2343)

  マリア コニコヴァ (著), 日暮 雅通 (翻訳)
  価格: ¥2,592 (税込)
  早川書房(2014/1/24)

 本書は、シャーロック・ホームズの物語に対して、心理学的アプローチを行ったものです。
 著者は、「ホームズの方法論にのっとって、自分自身や自分の世界といつも〈マインドフル〉」、すなわち、「能動的(アクティヴ)な関わりを持つ受動的(パッシヴ)なアプローチ」に「関わることができるような思考習慣を確立するために、必要なステップを探って解説する」とした上で、「シャーロック・ホームズが登場したのは、心理学がまだ初期の段階にある時代だった。つまり私たちには、彼よりもさまざまなものが備わっているのである。その知識を有効に使えるように、学んでいこう」と述べています。
 第1章「科学的思考法」では、「ホームズが差し出しているのは、単なる犯罪解決手法ではないのである。それはものの考え方全体であり、霧が立ち込めるロンドンの悪の世界とは無縁の数えきれない事柄に応用することのできる、〈マインドセット〉(行動の開始から目的の達成までのプロセスに特徴的な認知・思考状態)なのだ」と述べています。
 そして、「私たちの頭は2つのシステムをベースにして動いている」として、
(1)ワトスン・システム:反応が早く、直感的で、反射的――頭が常に、戦うか逃げるかを警戒しているような感じ。意識的な思考や努力はそれほど必要とせず、オートパイロットのような役目を果たしている。
(2)ホームズ・システム:反応が緩く、より慎重で、より徹底して、論理にかなった動きをする。
の2点を挙げた上で、「クールで思慮深い方のシステムが頭に犠牲を強いるため、私たちは思考する時間のほとんどで、ホットで反射的な方のシステムを使う。そして、自然に観察している状態が、そのシステムの色合いを帯びるようにしている。つまり、無意識で、直感的で(必ずしも正しくはない)、反射的で、判断が早いのだ」と述べています。
 さらに、「〈ワトスン・システム〉による考え方から〈ホームズ・システム〉による考え方へと移行すること」で、「つねに"頭脳の影響力(プレゼンス・オブ・マインド)"があり、注意深さ(アテンティヴネス)がある状態のことであり、世界の真実を積極的に観察するのに欠かせない」〈マインドフルネス〉に、「積極的な関与(エンゲイジメント)の欲求や、やる気」を意味するモチベーションが加わると述べています。
 第2章「脳という屋根裏部屋――そこには何があるのか」では、「訓練を積んだ専門家は、頭脳の屋根裏部屋に何を詰め込むかについて、細心の注意を払う」というホームズの言葉について、「記憶の形成(フォーメーション)と保持(リテンション)、検索(リトリーヴァル)に関するその後の研究で、この屋根裏部屋の例えが適用できることがわかっている」とした上で、
(1)構造:脳がどのように情報を取り込むのか、どのように情報を処理するのか、将来のためにどのように蓄えるのか、既に屋根裏部屋に入っている内容と統合するかどうかを、どのように選択するのか。
(2)中身:私たちがこの世界から取り込んだ人生での体験。
に分けることができると述べ、、もしホームズのやり方を真似したいのなら、「〈動機付けられた符号化〉という性質をちゃんと認識する方がいい。私たちは、興味や動機があるときに、よりよく記憶することができるのだ」と述べています。
 そして、「私たちの思考は、その最初から屋根裏部屋の"構造"に支配されている。それは思考と作用の習慣的形態(モード)であり、世界を見て評価する方法として私たちが学んできたものであり、現実の直感的認知をかたちづくる先入観(バイアス)(または"偏り")と発見的手法(ヒューリスティクス)(複雑な問題解決のために何らかの意思決定を行う際、暗黙のうちに用いている簡便な解決法や経験則)だ」と述べた上で、「私たちの脳は素早い判断ができるように配線されており、周りの環境から秒ごとに押し寄せる無数のインプットの取り込みと評価という仕事を単純化する、裏道や近道が装備されている」と述べています。
 さらに、「実験で繰り返し示されていること」として、「環境に存在するイメージや人物、言葉などが"プライム(先行刺激)"(先に見聞きされ、後の反応に影響する事柄)としてはたらくとき、人間は関連した概念を利用しやすくなり――つまり、これらの観念が使いやすくなり――実際にそれが正確であってもなくても、その概念を自信のある答えとして使う可能性が高くなるのだ」と述べています。
 著者は、「たいていにおいて自分の判断を信用しない方がいい、と認識することが、あなたの判断を実際に信頼できるまで向上させる秘訣だ。さらに重要なのは、私たちが正確であろうと動機づけられていれば、そもそもの初期符号化が手に負えなくなる可能性は低くなるだろうということだ」とした上で、「正確な直感というものは、習得した発見的方法(ヒューリスティクス)を技術に置き換える訓練なのだ」、「私たちは、ある特定の方法で考えるように脳を強化してきたことを認識していないだろうが、実際にはそうしてきた」と述べています。
 第3章「脳という屋根裏部屋にしまう――観察のもつ力」では、「ある場面において一つのことに集中することでその他の要素が消えるプロセス」である〈注意力欠如(アテンショナル・ブラインドネス)〉について、著者自身は〈注意深い不注意(アテンティヴ・インアテンション)〉と呼ぶと述べています。
 そして、エンパイア・ステート・ビルディングの最上階で飛行機を探すエピソードから、
(1)選択力をもつ:私たちの視覚は非常に選択的だ。
(2)客観性をもつ
(3)包括的である
(4)積極的に関与する:難しい問題に食い下がり、解決する可能性が高まる。
の4つの要素を示しています。
 第4章「脳という屋根裏部屋の探求――創造性と想像力の価値」では、「私たちは創造性(クリエイティビティ)というものを、あるかないか、脳の特性としてもっているかいないかと考えがちだ」が、「創造性は学ぶことができる。それは注意や自制(セルフ・コントロール)と同じく、筋肉のようなもので、練習で成長し、使用や訓練、集中、動機によって強化されるのだ」と述べ、「自分が優秀な人と同じように創造的になれると信じ、創造性における不可欠な要素を学ぶことが、ワトスン(あるいはレストレイド)ではなくホームズのように考え、決断し、行動する全般的な能力を向上させるために重要なのだ」としています。
 そして、「私たちの自然は〈マインドセット〉は私たちを抑えているかもしれないが、実は単純な先行刺激(プライム)だけでまったく異なる方向へ向けることができる」と述べています。
 さらに、「パイプ三腹の問題」として、「現在の環境から切り離して、〈注意拡散ネットワーク〉(脳が休んでいる時に活動する初期設定(デフォルト)ネットワークと同じもの)で取り扱うこと」の重要性を挙げた上で、「脳は次に来るものを知りたがっている。終わらせたがっている。働き続けたいと思っている――止めろと命じても働き続ける。ほかの課題がすべて終わっても、無意識のうちに完了しなかったものを思い出しているのだ。これは以前にも出てきた〈完結欲求〉と同じで、不確実な状態を終わらせ、未完成の仕事に決着をつけたいという脳の願望だ」と述べています。
 第5章「脳という屋根裏部屋を操縦する――事実からの推理」では、「私たちの脳はつねに、異なるさまざまな要素から一貫性のある"ナラティブ"を組み立てる。もし何かの原因がなかったら落ち着かないため、脳は私たちの許可無く何らかの原因を決めてしまうのだ。迷っている時の脳は、推理(インファランス)から帰納(ジェネララゼーション)までの推論プロセスのあらゆる段階でいちばん楽な方法を選ぶ」として、「結論を急いでしまい、ちゃんとしまわれていたすべての証拠が目の前にあったとしても、論理的なストーリーではなく選り好みしたストーリーを語ることは、よくある(すぐにわかると思うが、これは避けがたい)。平凡な細部にうんざりせず、思考過程の終わりにへとへとになったりせず、最後の瞬間まですべてについて推論できることは、実にまれなことだ」と述べています。
 そして、「私たちがしなければならないのは、ずっと平凡なことで、別々の出来事が実際に起こる可能性を正確に見積もることだ」と述べています。
 さらに、「ホームズはシルヴァー・ブレイズ号が見つかることを予期していたため、手持ちの証拠を異なる角度で見てしまい、特定の可能性を検討しないままだったのだ。ここでも、〈要求特性〉(仮説を予測し、それに基づいて行動すること)が問題を起こしている」と述べています。
 第6章「脳という屋根裏部屋をメンテナンスする――勉強に終わりはない」では、「人間が学習するのは、主として、報酬予測誤差(リワード・プレディクション・エラー)(PRE)というものに駆られてだ。期待していたよりもやりがいがあると、RPEによりドーパミンが脳内に放出されることになる」とした上で、「こつは、即座にリワードが与えられるその時点を通り過ぎるよう、本来価値のあるその先の不確実性を探るよう、脳を訓練することだ。たやすいことではない」と述べています。
 第7章「活動的な屋根裏部屋――すべてをひとつにする」では、「必要なのは、固定観念の活性化や、はじめに設定した不適切な枠組みがその後の推理に与える影響を、取り除くこと。そして、すべての観察結果を考慮することなしに、目立つものや手に入れやすい情報に集中した際にもたらされる失敗を、取り除くこと」だと述べています。
 第8章「私たちはただの人間でしかない」では、コティングリー妖精事件について、「肝心なのは、表面上は科学的に思われる文脈(コンテクスト)によって、実在しないのに実在すると、容易に騙される点である」と述べています。
 「終わりに」では、知能について、
(1)インクリメンタル(変化する)
(2)エンティティ(本質である)
という2つの説について、「世界と自分自身をどう考えるかによって、どう学ぶか、何を知るかを本当に変えられる」と述べ、「脳の振る舞い方は、その持ち主である私たちの考え方にきわめて感化されやすい。それは学習に限ったことではない。自由意志で信じるかどうかといった理論的なものでさえ、私たちの脳がどう反応するかを変えられる(私たちが信じなければ、私たちの脳は実際に準備反応が鈍くなる)。はっきりした理論から特定のメカニズムまで、私たちは頭(マインド)の働き方に、ひいては自分の振る舞い、行動、相互作用(インタラクト)に対し、大きな影響力をもつ。自分は学ぶことができると思えば、学ぶことになる。そして、どうせ失敗するに決まっていると思えば、まさにそのとおりに、行動上ばかりか神経単位(ニューロン)というきわめて根本的なレベルでも、自分の運命を決めてしまう」と述べています。
 そして、「ワトスンが自分は『お手上げだ』と言うとき、彼の見ているのは〈エンティティ〉世界だ」が、「ホームズにしてみれば、あらゆることが〈インクリメンタル〉だ。やってみなければわからない。どんな難題も、新しいことを学ぶ、頭脳を発展させる、自分の能力を向上させる、そして将来の活用に備えて屋根裏部屋にツールを増やす、好機だ」と述べ、「ホームズの洞察はほとんど何位でも応用できる。すべては態度、〈マインドセット〉、思考習慣、自分が発展させる世界への辛抱強いアプローチなのだ。それに比べると、何に応用するかという点ははるかに重要性が低い」として、「もっともパワフルな頭脳は平静な頭脳である」、「思慮深く、注意を怠らず、思考とその状態に〈マインドフル〉な頭脳である。たびたびマルチタスクを処理することはなく、マルチタスクになる時は、意図してそうする」と述べています。
 本書は、思考すること、脳を使うことの本質的な意味を教えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 ホームズを読んでいると、「普通の人とは頭の構造が違うから」とか、「どうせ小説だから都合よく書かれている」とか言って自分に言い訳をしてしまいますが、心理学の観点から辻褄をつけていくというのも、かなり偏った形ですが、一つのシャーロッキアンの姿なのかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・名探偵になりたい人。


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